咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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大変お待たせしました(´ω`)

ちょっと感情込めすぎた← ああ、私は風先輩大好きですよ。家庭的で、家族思いで、ノリが良くて、可愛くて。というか、ゆゆゆキャラに嫌いなキャラなんて居ません。少なくとも勇者達には。

誤字脱字、文修正ありがとうございます。こういった方々が居てくれるのは本当にありがたいですね。

また一時ランキングに載り、お気に入りも増え、感想も400件を超え、BEifのPVがじわじわ伸びてます。誠にありがとうございます! でもランキングに載る時、大体鬱い話を投稿した時な気がする←

ゆゆゆいではバトンイベ始まりましたね。ガチャ引いたら勇者服樹ちゃんが来てくれました。3回目です← しかもこの話投稿前に来るとかタイムリー過ぎる。

引き続き、風先輩爆発回です。


結城 友奈は勇者である ー 19 ー

 ― どうすれば……いいと思う? ―

 

 皆がお見舞いに来てくれた休日から数日が経ったとある日、何度か来たことのある真っ暗な空間で自分は少女の姿をした神樹様と久しぶりに会っていた。自分の姿も、いつもの白い幽体みたいな姿だ。

 

 神樹様は自分と目が会うなり、泣きそうな顔でそう言ってきた。何でも、以前は治せないと言っていた自分の散華だが……1度は治せる可能性が出てきたらしい。が、自分が再び満開してしまい、それ以外にも予想外なことがあってまた治せなくなったとか。

 

 ― あなたを直ぐには治せないけれど、彼女達は治せる……返せる。でも、それをすれば……彼女達は悲しむ。だけど、治さなければ……ずっと彼女達は苦しむ。私は……“私”は……どうすればいいの? どうすれば正解なの? ―

 

 相変わらず、人間じみた神様だと思う。こんなにも自分達のことで悩んでくれていて、ずっと答えを出せなくて……今にも泣き出しそうで。優しい神様だ。だが、どうすれば正解なのか……それは自分にもわからない。どれを選択しても、その先には悲しみと苦しみが待っているんだから。

 

 自分の心情としては、勿論皆の散華を治してほしいところだ。のこちゃんと銀ちゃんは2年も窮屈な思いをしているだろうし、銀ちゃんは生まれたばかりの弟も居たんだし会いたいだろう。姉さんも片目が見えないと色々危ないし、樹も大好きな歌が歌えず、会話も出来ないのは辛いだろう。

 

 友奈ちゃんも、あの子はいつも美森ちゃんのぼた餅を美味しそうに食べていた。その味が感じられないのは……ねぇ。美森ちゃんも歩けなくて、記憶がなくて不安だと言っていた。その不安を、早く解消してあげたいと思う。片耳が聞こえないのも不便だろうしねぇ。

 

 「……きっと、正解なんてないんでしょうねぇ」

 

 ― ……そう、だよね。どれだけ悩んでも……いい方法なんて思い浮かばなかったから。あなたに相談すれば、もしかしたらと思ったんだけど…… ―

 

 「自分以外に相談出来ないんですか? のこちゃんや美森ちゃんなら、何か思い付くかも知れない」

 

 ― それは出来ないの。私がこうして直接話すことが出来るのは、あなたが高次元からやってきた魂で、その肉体が神によって作られたから。他の人間は……巫女としての高い能力がないと。仮にあっても、イメージを送るのが精一杯 ―

 

 小説で例えてみよう。自分は挿し絵つきでその小説を読める。だが、他の人間にはその小説自体が見えていないか、見えていても文章は読めず挿し絵しか見れないということ。自分は文章を読むことで細かく判断出来るのだが、巫女達は台詞も何もない挿し絵だけで判断するしかない。

 

 ……まあ、仕方ないとしか言いようがないか。自分の方が異端なのだから。もし自分が居なかったらどうだったんだろうか……いや、そんなことはどうでもいい。そんな“たられば”な話なんて、もう意味のないことだしねぇ。

 

 「……自分としては、皆だけでも供物を返してあげてほしいですねぇ」

 

 ― でも、それをすれば…… ―

 

 「ええ、皆は悲しむでしょうねぇ。優しい子達だから。でも……そんな優しい子達だからこそ、普通の体に……マトモな生活を送らせてあげたいんですよ」

 

 ― …… ―

 

 「どうあっても悲しみや苦しみが出るのなら、せめて治してあげたい。それに、1度は治る可能性が出たということは、ずっとこのままという訳でもないんでしょう?」

 

 神樹様はさっき、“直ぐには治せない”と言った。“ずっと治せない”ではない。今は無理だと言うだけで。それだけで希望が持てる。何せ神樹様が……この優しい神様がその可能性を見つけてくれたんだから。信じるには充分過ぎる。

 

 ― ……うん。バーテックスに込められた天の神の力と私の力を合わせば……いつか、必ず ―

 

 「なら、自分は幾らでも待てます。皆はきっとお見舞いにも来てくれるし……それに、自分ものこちゃんと同じように、のんびりするのは好きなんですからねぇ」

 

 まさか治る可能性とやらが天の神の力を利用することだとは思わなかった。神樹様の力だけでは叶わず、恐らくは天の神でも自分の体を作ることは出来ないと言っていたが……成る程、力を合わせば出来なくもないのか。

 

 だが、必ずとまで言ってくれたなら、それは可能なんだろう。治るか分からないのが、いつか必ず治るに変わった。なら、その“いつか”が来るまで待とう。何、楽しい時間はあっという間に過ぎていくんだ。病院でお見舞いに来てくれる皆と話していれば直ぐにその時は来るさ。

 

 そうして、会話は終わった。神樹様曰く、全員の散華を治すには数日の時間が必要らしい。のこちゃんと銀ちゃんは満開の数も多いし、今まで自分の体に掛かりきりだったからそれも仕方ないだろう。そう思ったところで意識が遠退き……夢から覚めた。

 

 

 

 大赦の人間から姉さんが暴走していると聞かされ、入院してから取り上げられていた端末を渡されたのは……その日、起きてしばらくしてからのことだった。

 

 

 

 

 

 

 「っ、風!?」

 

 犬吠埼家の近くまで来ていた夏凜の耳に、風の絶望に満ちた叫びが届く。自転車を止め、家の方に目を向けると……勇者へと変身した風が2階の窓から跳び出し、何処かへと向かっているところだった。しかもその手には彼女の得物である大剣が握られている。

 

 ただ事ではないと瞬時に悟り、夏凜は自転車を乗り捨ててスマホ取り出して勇者へと変身。直ぐに風を追い掛ける。少しして人気が無い山中の道路辺りまで来たところで、強引に止めるべく動いた。

 

 「風! 待ちなさい!!」

 

 「っ!」

 

 夏凜は風の上を取り、当てるつもりの無い短刀の投擲で動きを制限し、そのまま落下して蹴り落とす。咄嗟に風は大剣を盾にして防ぐものの、防いだことで地面に降り立ち、夏凜の思惑通りにその動きを止める。が、夏凜のことを睨み付けた後に彼女を無視してまた何処かへと向かって跳ぶ。当然、夏凜も並走して追い掛ける。

 

 「あんた、樹海化もしてないのに変身して何するつもり!?」

 

 「大赦を……潰してやる!!」

 

 「なっ!?」

 

 並走しながら風に問い掛ける夏凜。今まで見たことのない怒りの形相と共に返ってきたのは、そんな言葉だった。山中にある鉄橋に共に降り立ち、夏凜が邪魔になったのか風は大剣を彼女に向かって縦に振るう。言葉、そして行動に二重に驚く夏凜だったが体は直ぐに対応し、二刀を重ねて防ぐ。

 

 「神樹様も……神樹も引きずり出す! 全部、全部奪い返す!!」

 

 「はぁっ!? あんた、何言って……」

 

 「大赦は何も伝えてこない! アタシ達に何一つ教えようとしない! ずっと気に入らなかった! 楓が養子に行くことになったあの日からずっと!!」

 

 今度こそ、夏凜は本気で驚いた。大赦のことは、正直予想していたのだ。何も知らなかった夏凜から見ても、風が大赦を嫌っていたのは良く分かった。だが、神樹のことまで嫌っているのは完全に予想外だった。

 

 大赦には、夏凜も思うところがある。所属している自分にすら散華を伝えず、勇者部の全員が体に不調があること知っているはずなのに何の対処もしない。体のことに関しては医者から言われた程度で他には連絡1つ寄越さない。勇者を、勇者部の皆を何だと思っているのかと内心憤っていたりした。

 

 だが、神樹は別だ。それは夏凜が……という訳ではなく、四国に住む人間ならば当然の心理。確かに散華、供物は酷なモノだろう。しかし、その供物は戻ってくるのではなかったか。風もその話は信用していたハズだ。他ならぬ弟が言っていたのだから。

 

 「大赦は2度もアタシ達から家族を奪っていった! 神樹もアタシ達から体の機能を、樹の夢を、人間としての当たり前を奪っていったんだ!!」

 

 「ちょ……待ちなさいよ! 供物は戻るんでしょ!? 楓さんがそう言って……」

 

 「アタシ達が供物を捧げてからもう3ヶ月以上が経った! 楓と他の先代勇者達は2年!! 楓は……アタシ達は騙されたんだ!! 大赦にも、神樹にも!!」

 

 「騙されたって……何を根拠に!」

 

 怒鳴るように言葉を交わし、大赦へと向かっているのであろう風に並走し、時に斬りかかられそれを防ぐ夏凜。2人の攻防は続き、どこかの広場へと降り立った。

 

 「大赦は散華を把握してた。でも、それを伝えなかった……散華は一生戻らないって大赦は知ってたんだ! もし本当に治るなら、どうして直ぐに神樹は返してくれないの!? どうして治してくれないの!?」

 

 「っ……それでも、それはあんたの予想でしょ!? 騙されたかなんて、まだわかんないじゃないの!」

 

 「じゃあいつになれば治るの!! 楓は言ってくれた! “神樹様が治してくれる”って! それは何時になるの? 後何日? 何ヵ月? それとも何年? 何十年? その間楓は、樹は! 皆は!! ずっと散華に苦しめられなきゃいけないっての!?」

 

 「それは……」

 

 夏凜は答えられない。答えられるハズがない。楓のように神樹に直接会ったことも無ければ、巫女のように神託を受け取ることも無いのだから。神樹が人の姿をしていただの、会話をしただのの話も、荒唐無稽過ぎて相手が楓で無ければ鼻で笑っていただろう。

 

 そして、彼女は散華の苦しみが本当の意味で理解出来ない。満開も、散華も経験していないからだ。故に、風の怒りも悲しみも、完全には受け止めきれない。夏凜だけでは……風を止めきれない。

 

 「世界を救う大切なお役目? 神樹様に選ばれた勇者!? どの口が言うのよ!! 体の機能を奪われて! 大好きなことが出来なくなって!! 折角出来た夢も諦めないといけなくなって!! 戦いが終わったと思ったら家族とまた引き離されて!! あんな……あんな気持ち悪い部屋に押し込められて!!」

 

 「ぐ、の……っ」

 

 風の口から次々に出てくる叫び。その度に大剣が夏凜に向かって振るわれ、夏凜は二刀で何とか防ぐ。だが、風の大剣に比べればそれは遥かに細く、夏凜の心情も相まって酷く頼りなく見えた。元より風は勇者の中でも随一の腕力があり、感情が爆発している今では更にそれが強まっている。それは防ぐ度に、夏凜の腕を、体を軋ませた。

 

 「世界の為だから!? 人類の為だから!? だから犠牲になれっての!? だから生贄になれっての!? それが……それが大赦の!! 神樹のやり方だって言うの!? 赦せるか……そんなこと! こんなこと!!」

 

 「あぐっ!」

 

 縦に振るわれていた大剣の軌道が横に変わり、それ自体は防いでも踏ん張りが聞かずに吹き飛ばされる夏凜。広場にあったベンチの1つにぶつかり、そのままの勢いで破壊して地面に背中を打ち付ける。その際、二刀も手から離れてしまった。風はその夏凜を追い掛け……正面に立ち、止めを刺すかのように大剣を振り上げる。怒りの形相はそのままに、右目だけから流れているという、歪な涙を流しながら。

 

 

 

 「世界を救った代償が!! 神樹を信じた結果が!! これかああああああああっ!!」

 

 

 

 やられる! 夏凜がそう思って思わず目を強く瞑った時、その人物は現れた。両手を×字に重ねて夏凜の前に立ち、振り下ろされた大剣を間に精霊が……牛鬼が入り、バリアによって防いだ。

 

 2人の間に入った人物……変身した姿の友奈は、この場から一歩も引かないと決意して風を見る。

 

 「ゆ、友奈……?」

 

 「退きなさい!」

 

 「嫌です! これ以上風先輩が誰かを傷付けるところなんて見たくありません!」

 

 「退きなさいって……言ってるのよ!!」

 

 「嫌です!!」

 

 「そこを……退けええええっ!!」

 

 容赦なく、風は大剣を振るった。今の彼女は溜まりに溜まった怒りが爆発した状態、例え相手が勇者部の部員であっても容赦はしない。事実として、既に大赦と同じだとは考えていなかった夏凜を相手に攻撃していた。そしてそれは、相手が友奈になっても変わらない。

 

 その攻撃を、友奈は精霊バリアに任せて防ぐ。バリアが発生しているということは、風の攻撃はそのまま受ければ致命傷になるということだ。人を殺しうる斬撃。それでも、友奈は風の前から動かない。彼女がその力を敵ではない誰かに振るうのを見たくないから。

 

 「あんただって東郷の話を聞いたでしょ!? 東郷と一緒に先代勇者の姿を見たんでしょ!? だったら分かる筈よ!! 大赦に従って! 神樹に従って!! みんな……みんなが苦しむことになった!!」

 

 「そんなの……そんなの違います!!」

 

 「何が違うって言うのよ!? 神樹に選ばれて勇者になんてならなかったら!! 大赦に言われてあんた達を勇者部に誘わなかったら!! ……勇者部なんて……作らなきゃ……っ!! 誰も苦しまずに済んだのに!!」

 

 「違う……絶対に、違う!!」

 

 再び振るわれる大剣。友奈はその動きに合わせて拳を突き出し、大剣を殴り付けて弾く。が、風は叫びながら何度でも大剣を振るい、その度に友奈も拳を振るう。

 

 ぶつかり合う度に、お互いの手に痛みが走る。大剣が弾かれる度に柄を持つ風の手が擦りむけそうになり、友奈の拳が弾く度に衝撃がそのまま伝わり、痛みを訴える。まるで、お互いの心の痛みを伝えるかのように。

 

 「誰かがやらないといけなかったんです! そうしないと世界が救われないから、そうしないと大切な誰かが死んでしまうから! 怖くて辛い戦いだって、何かを失うと知っていた満開だって! 私達は大切な誰かの為にしてきた筈です!」

 

 「その戦いの結果が!! 満開して失った結果が!! 今もアタシ達を苦しめるんでしょうが!! 楓は体と心臓、温度を感じられなくさせられて!! 樹は大好きな歌が歌えなくなって、夢を諦めなくちゃいけなくて!! あんたは美味しいモノを食べても美味しいと感じられなくて!! 東郷も片耳が聞こえなくなった!!」

 

 「それでも!! 私達には戦うしかなかったんです! 誰かを守る方法がそれしか無かったから、世界を救う方法がそれしかなかったから……だから……っ! 誰も悪くなんて無い! 初めから選択肢なんてなかったんです!!」

 

 「アタシ達を犠牲にするやり方でしか救えない世界なんて……そんな言葉なんかで……っ! 納得なんか出来るかああああっ!!」

 

 友奈は必死に説得しようと言葉をぶつける。他に方法なんてなかった。神樹に選ばれたのは自分達だから世界を救えるのも自分達だけで。自分達が戦わなければそのまま世界は終わりを迎えていたのだから。そうなれば自分達にとって大切な人が、それ以外にも多くの人々が死んでしまうから。

 

 満開の危険性は予め楓から聞かされていた。それでも使ったのは、それを使わなければ大切な人を救えなかったから。世界を守れなかったから。それ以外に、選択肢なんてなかったから。世界にも……自分達にも。

 

 それは風も理解している。だが、それでも納得できないのだ。そして、赦せないのだ。怖くても、辛くても、死ぬ思いをしてでも戦って、守って、救った。自分達が犠牲になるという、まるで生贄にされたかのような形で。

 

 弟と後輩1人を含めた先代勇者達4人は小学生の頃から戦ってきたではないか。妹は中学生になったばかりで、もう1人の後輩は辛い状況でも明るく振る舞って、援軍は勇者となる為に子供らしいこともせずに訓練に費やしてきて。

 

 だから風は止まらない。夏凜の行動でも、友奈の言葉でも止められない。勇者部の皆はいい子達ばかりで、決してこんな犠牲や生贄のようにされていいような存在じゃないのだと。どうして苦しまなければならない。どうしてそんな扱いを受けなければならない。そんな思いが、際限なく怒りを生むのだ。

 

 「友奈はどうしてそんな風に言えるの! どうしてそんな風に思えるのよ! 大赦も! 神樹も!! 楓を、アタシ達を騙してるのに、裏切ってるのに!!」

 

 「……私は、信じてますから」

 

 「何を!! 誰を!!」

 

 「神樹様を! 楓くんを!!」

 

 「なっ……東郷の話を聞いたでしょ!? それなのにあんたは、まだ信じるっていうの!?」

 

 「信じます! だって神樹様は、ずっと私達を守ってきてくれました。確かに……供物はまだ戻ってません。治るかどうかも、戦いがまだ続くかもって不安になります」

 

 「だったら!」

 

 「それでも!!」

 

 風がこうも疑心暗鬼になり、怒りが爆発したのは美森に呼び出された日が切欠だ。その場には友奈も居たし、同じ話を聞いたハズだ。なのに、何故こうも違うのかと風は不思議でならない。

 

 疑問に思ったハズだ。不安になったハズだ。自分と同じように大赦に、神樹に怒りをぶつけても良いハズだ。なのに友奈は信じると言う。真っ直ぐな目をして、感じている不安を口にして、それでもと友奈は叫ぶ。

 

 「それでも……私は信じます。ずっと守ってきてくれた神樹様を、私達に力を貸してくれた神樹様を……楓くんが信じてる神樹様を」

 

 「……その楓が……神樹を信じてる楓が! 騙されてるかもしれないって言ってるのよ!!」

 

 「騙されてないかもしれない!! 嘘をついてないかもしれない!! その可能性があるなら、私はそっちを信じます!! 神樹様を信じる楓くんを信じます!! だって……」

 

 騙されてる……“かもしれない”。供物が戻るという根拠が何処にもないように、神樹が騙しているという根拠も無い。どこまでいってもそれは憶測であり……だが、現状が、現実がそれを肯定しているように見えている。だから風はここまで怒り狂っているのだ。

 

 それでも……何度でも友奈は叫ぶ。思いをぶつける。同じ話を聞いたのに、全くの正反対な2人。話に入っていけない夏凜ですら、友奈が何故そこまで信じられるのか理解出来ない。そんな2人の耳に、友奈の真摯な言葉が届く。

 

 「だって……信じる方が……良い方に考える方が、ずっと良いから。信じてるって楓くんが笑ってるから、そんな笑顔を見てると、私も幸せな気持ちになれるから。だから信じます。信じて、私も“きっと治るよね”って笑います。根拠が無くても、不安しかなくても……信じて、笑います」

 

 「……友奈……」

 

 「だって、私は勇者だから。勇者は……仲間のことを信じてるから。仲間のことが、大好きで。大好きな人の笑顔が……大好きで。だから!!」

 

 「その笑顔が、無くなるかもしれないってのよ!!」

 

 「私は風先輩を止めます!! 今の風先輩を見れば……楓くんも! 樹ちゃんも悲しむと思うから!! 誰かの悲しむ顔も辛い顔も、見たくないから!!」

 

 「悲しいのも、辛いのも、全部大赦の! 神樹の……っ!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 

 全力で言葉を尽くした。全力で想いをぶつけた。それでも……風は止まらなかった。最早言葉にならない風の怒りを、友奈は受け止める。何度も振るわれる大剣を、拳の上から発動する精霊バリアで。その度に、少しずつ体が後ろへと下がっていく。

 

 だが、友奈の体力や精神力も無限ではない。仲間とぶつかり合うストレス、先の拳と大剣での打ち合い、信じてると言ってもどうしても心にある不安、そして風の涙ながらに怒り狂う姿。どれもが友奈の体力を、精神を削っていく。

 

 泣きそうになるのを堪える。誰かを守る為に、大切な人を守る為に勇者となったのに。勇者の力は、こうして仲間に向かって振るわれるものではないのに。

 

 (でも……止めるんだ!! 風先輩が誰かを傷付ける前に!! 風先輩がもっと傷付く前に!! それが出来るのは今、私だけだから!!)

 

 そう思い、友奈は動く。再び拳を突き出し、風の大剣へとぶつける。そうして風の手から弾き飛ばすつもりだった。

 

 「づっ、あっ!」

 

 「友奈ぁっ!!」

 

 「もう……邪魔をするなああああ!!」

 

 なのに、弾き飛ばされたのは友奈の方だった。腕に痛みが走り、風の力任せの縦一閃に押し負けた友奈が夏凜の前に倒れ込み、夏凜が悲鳴にも似た声を上げる。

 

 止まらない……止まれない風は大剣を再び掲げ、2人目掛けて振り下ろそうとする。咄嗟に夏凜は風に背を向け、友奈の上に覆い被さる。このまま振り下ろされていれば、精霊バリアが発動すると言えど2人は動けなくなっただろう。肉体的にも、精神的にも。仲間を止めきれなかったという失意と共に。

 

 

 

 だが、その大剣が2人に当たる前に白い光の槍が風の大剣の側面に当たって弾き飛ばし、風の体を両手ごと緑の光のワイヤーが巻き付いて動きを封じた。

 

 

 

 「っ!? これは……樹の……それにさっきのは、楓の……」

 

 「……!」

 

 「全く……やり過ぎだよ、姉さん」

 

 「……楓くん……樹ちゃん……?」

 

 「楓さん……樹……」

 

 驚愕し、思わず動きが止まる風の近くに、光の翼を出した楓が空から降りてきて、樹が風に後ろから抱き付く。足だけは自由だった風はその衝撃で座り込み、妹に抱き着かれていることもあって動けなくなる。

 

 意外な、しかし内心待ち望んでいた2人の登場に、友奈と夏凜も体を起こしつつ呆けたように名前を呟く。そんな2人に向かって、楓は安心させるように朗らかな笑みを浮かべて小さく手を振った。

 

 「樹……楓……」

 

 「落ち着いて。もういい……姉さんがそこまでしなくてもいいんだ」

 

 「あ……う……」

 

 後ろを見れば、悲しそうな樹が首を横に振る。もういい、もうそんなことしなくていいと伝えるように。楓は倒れないように光で右足を包んで操作しつつ、立て膝の状態で風を抱き締め、その頭を撫でる。ゆっくりと、ゆっくりと撫でながら囁く。

 

 途中からではあるが、2人も風と友奈の会話は聞こえていた。樹は家の近くで風と夏凜が跳んでいったのを見て慌てて追い掛けて来た。追い付くのが少し遅れたものの、彼女の叫びは殆ど聞こえていた。楓は大赦の人間に言われて大急ぎで飛んで来たが、実際に聞こえたのは友奈が“信じる”と言った後からの叫びくらいだが。

 

 愛する弟と妹の前後からの包容と悲しげな表情を見た風の、あれほど荒れ狂っていた怒りが落ち着いていく。樹の抱き付く腕が強くなる度に、楓の撫でる手が上下に動く度に、ゆっくりと。

 

 落ち着けば、今度は夏凜と友奈に殺しかねない力を振るっていたことへの罪悪感が沸き上がる。まだ残っている怒り、家族に悲しげな表情をさせてしまったことへの申し訳なさ、仲間に大剣を振るった罪悪感……家族の温もりの、安心感。

 

 「ああ……うぅ……ごめん……ごめん、皆……」

 

 《私達の戦いは終わったの。もうこれ以上、失うことは無いから》

 

 「樹……でも……」

 

 「姉さん。元はと言えば、自分が供物について安心させてあげることが出来なかったのが悪いんだ。姉さんがこんなに思い悩むなんて……考えれば分かるのにねぇ」

 

 「違っ……アタシが……」

 

 怒りがほぼ落ち着き、泣き崩れる風。そんな姉に巻き付けているワイヤーを消し、樹はスマホのメモ機能に入力した文章を見せる。その文章を見て何かを言おうとする風に被せるように、楓は体を少し離して目を合わせながらそう伝える。

 

 神樹と直接話せるのは楓だけ。そうである以上、他の人間には根拠になるものなんて何も無い。だから不安にさせてしまい、ここまで姉を追い詰めてしまった。仲間にすらその力を振るってしまう程に。楓は、そう語った。

 

 「アタシが勇者部なんて……そうしたら皆が……樹の夢も……楓とまた離れ離れにも……」

 

 「それは違う。勇者部を作ったのが悪いなら、自分だって同罪だよ。でも……そうじゃないよねぇ」

 

 「え……?」

 

 勇者部なんて作らなければ……そう嘆く風に楓ははっきりと告げる。その言葉にきょとんとした風の前に、樹が一枚の紙を見せる。その紙には、風も見覚えがあった。それは樹の歌のテストの際、他のメンバーの5人で書いた寄せ書き。風の脳裏に、その時の楽しかった記憶が甦る。

 

 皆が妹の、樹の為に書いた応援の言葉。それを見た時、樹がどれだけ嬉しかったか。書いてある言葉に、どれだけ勇気を貰ったか。樹はその紙を2度半分に折り、取り出したペンでさらさら何かを書き……その内容を風に見せる。

 

 《勇者部のみんなと出会わなかったら、きっと歌いたいって夢も持てなかった。勇者部に入って本当によかったよ》

 

 「いつ……き……」

 

 「風先輩……私も同じです。勇者部に誘ってくれて、先輩達と一緒に部活して……一緒に過ごせて、本当に楽しかったんです。勇者部が、楽しくて仕方ないんです」

 

 「……私も、ね。騒がしいけど……勇者部は嫌いじゃないわ。風……あんたもね」

 

 「友奈……夏凜……」

 

 「ほらね、姉さん。皆の気持ちは……嘘だと思うかい?」

 

 「楓……う……あぁ……」

 

 勇者部なんて作らなければ……そう後悔してきた風。だが、周りは言うのだ。勇者部は楽しいと。嫌いじゃないと。誰1人として、風を恨んでなど居ないのだ。勇者部を恨んでなど……居ないのだ。

 

 友奈も夏凜も、風に攻撃されていたことを最早気にもしていない。その顔に笑顔を、苦笑いを浮かべて。そこに負の感情等無くて。その言葉に、気持ちに、嘘なんて感じられなくて。

 

 

 

 「勇者部は……作って良かった。勇者部を考えてくれて、勇者部を作ってくれて……ありがとう、姉さん」

 

 

 

 「っ……う、あ……あ……ああああああああ~……っ!!」

 

 涙が止まらなかった。悲しくて、嬉しくて、辛くて、愛しくて、色んな感情が混ざりあって、風はただただ泣き続ける。そんな彼女を、樹は自分は泣くまいと堪えて、強く抱き締めた。姉に1人ではないと伝えるように、姉の心を守るように。

 

 そんな2人を、楓は顔を隠すようにしながらまとめて抱き締めた。今ほど両手があればと思ったことはない。両手で力一杯抱き締められたら、どれ程良かったか。それが叶わないから、左手だけで2人を抱き締めるのだ。誰にも、今の彼の表情は見えなかった。いつものように朗らかに笑っているのか、それとも……。

 

 友奈も、夏凜も、抱き合う姉弟の姿を見て何も言えず……しばらくの間、広場に風の泣き声だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 最悪の事態を知らせるアラームが5人の端末から鳴り響いたのは……それから少し経った頃だった。




原作との相違点

・ぶつかり合う夏凜と風

・大赦を潰してやる! 神樹を引きずり出してやる!

・原作以上に言葉を交わす友奈

・止まらないどころか友奈を圧倒する風

・皆の言葉でようやく止まる風

・その他色々。



という訳で、風先輩爆発、そして沈静化のお話でした。書いてて大分感情が籠ってしまいました。心が痛い……。

爆発というかもう大爆発でした。本作ではこうなります。これを中の人が演じたら、絶対喉枯れる。二次で良かった。

さて、次回はあの人が中心予定。ただ、回想の一部は事前に書いてるのでカット予定。勿論、ここからも原作とは変わっていきます。今更過ぎる話ですがね。

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