咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`)

友奈の章終わり間近だけあってかなり執筆に時間がかかってます……申し訳ありません。もうしばらくこのペースになると思います。ご了承ください。

ゆゆゆいのバトンイベ、うたのんも風先輩も強くないっすかね。必殺技もアビリティも。

今回は、最初からクライマックスだぜぇ!


結城 友奈は勇者である ー 21 ー

 「っ、何よこのアラーム!?」

 

 「特別警報? それに樹海化……? そんな、戦いは終わったハズなのに!?」

 

 風を止めてから少しして、唐突に5人の端末からアラームが鳴り響いた。画面には“特別警報発令”の文字。初めて見た文字に、何か異常事態が起きていることを悟る。更には樹海化まで発生し、ようやく敵がやってきたのだと理解した。

 

 夏凜と友奈が慌てる中、楓と樹は項垂れたまま動かない風を見る。失意、罪悪感、感情を爆発させたことによる疲労……色々なモノが重なって動かない風。樹が肩を揺らしても、何の反応も返さない。そんな姉を心配そうに見た後、状況を把握する為に楓は端末を操作してマップを出す。

 

 「っ!? これは……」

 

 「えっ? どうしたんですか? 楓さん」

 

 「マップを見れば分かるよ……かなり、マズイことになってる」

 

 「え……っ!? なに、これ……真っ赤じゃない!?」

 

 「えっ!? うわ、ホントだ……っ! 東郷さんが壁の、敵の近くに居る!?」

 

 マップに映る敵を表す赤いマーク。それが、画面の結界を表す部分に空いた穴から雪崩れ込み、マップの大半を染め上げていた。1体2体なんて話ではない。100や1000、それ以上の規模。先に倒したバーテックスしか知らない2人はそれが敵であると理解するのが遅れ、楓は何故だか空いている画面の穴……そして、その近くにある東郷の文字に嫌な予感を感じていた。

 

 「……樹、姉さんを頼んだよ。自分は……美森ちゃんに会いに行くから」

 

 「……!」

 

 「わ、私も行くよ! 東郷さんを助けなきゃ!」

 

 「私も行くわ。東郷のこと、気になるしね」

 

 楓の頼みに、樹は力強く頷くことで答える。そんな妹に微笑み、翼を出して飛翔してマップに写っている美森の場所に向かう。友奈と夏凜も跳び上がり、遅れないように着いていく。

 

 その途中、敵の姿が見えた。白い体に大きな口だけがある奇妙な姿をした化物。その姿を初めて見た夏凜はそれをバーテックスだと直ぐに理解し……かつて、レオに取り込まれた時にその姿を見た友奈の心臓が早鐘を打つ。

 

 (あの時の……大きな、口。怖い……怖い、けど……今は、東郷さんに会わなきゃ)

 

 あの時の恐怖が甦る。未だにトラウマを克服出来ていない友奈にとって、かのバーテックスは今まで戦ってきたどのバーテックスよりも怖い。その恐怖を、美森に会わなくてはいけないという使命感で何とか押し込める。

 

 少しして、3人は目的の場所に、壁の上に辿り着いた。そこには狙撃銃を構え、小型の機械のような何かが幾つか飛び回って細いレーザーを放ち、時に狙撃して己に向かってくる小さなバーテックスだけを倒している美森の姿があった。

 

 「東郷さん……何、してるの……?」

 

 「……美森ちゃん。壁を壊したのは……君かい?」

 

 「……そうよ、楓君、友奈ちゃん。これ以上2人を……皆を傷付けさせたくないから」

 

 「壁を? どういう、こと……?」

 

 友奈と楓の問いに美森はバーテックスを倒しながらそう返し、ある程度倒したところで振り返り、続けてそう言った。まさかの肯定、そしてその後の言葉に友奈が唖然としつつ聞き返す。彼女の表情には、信じられない、信じたくないといった感情がありありと見て取れた。

 

 そんな友奈に、白いバーテックスが襲来する。それが視界に入り、一瞬友奈が怯えの感情を出し……夏凜が間に入り、一刀の下に切り伏せる。別方向から来たバーテックスは、楓が出すワイヤーによって瞬時に切り捨てられる。

 

 その間に、美森は壁へと銃口を向ける。が、それは夏凜が素早く近付いて止める為に斬りかかることで中断させられる。夏凜の二刀を美森は狙撃銃を盾にすることで防ぎ、2人は距離を取る。その間、楓は次々と寄ってくるバーテックスをワイヤーで片付けていた。

 

 「どういうことよ東郷……あんた、自分が何やったのか分かってんの!?」

 

 「分かってる……分かってるから、やらなきゃいけないの!!」

 

 右手の刀を向け、美森に問う夏凜。四国を守る壁の破壊。それは、世界そのものを危険に晒すことであると誰もが理解出来る。事実、今こうして大量の小型のバーテックスが入り込んでいる。夏凜からすれば、とても正気の沙汰とは思えない。

 

 だが、美森は錯乱している訳でも混乱している訳でもない。正気で、自分の意思で破壊したのだ。悲しげに表情を歪め、3人に背を向けて壁の……結界の向こうへと移動する美森。3人は慌ててその背を追い掛け、結界の外へと出た。

 

 

 

 そして、地獄を見た。

 

 

 

 「……何、これ……」

 

 「楓くん……これは……どうなってるの?」

 

 「……これが、結界の外の世界だよ。見ての通り、火の海だけどねぇ」

 

 「そう、火の海。外の世界なんて……とっくに滅んでる。そして、バーテックスは12体で終わりなんかじゃなく……無限に襲ってくるの」

 

 文字通りの火の海。その中に聳え立つ黄金の大樹。そして、数え切れない程の小さなバーテックス達と……再生しつつある、これまでに勇者部が倒してきた星座の名を冠するバーテックス。それを見た友奈と夏凜が唖然とし、美森の方を見る。

 

 「楓君……貴方は知っていたの? この地獄を……この残酷な真実を知って、それでも戦っていたの?」

 

 「……知っていたよ。自分だけじゃなくて、先代勇者は全員知ってる。それでも、戦った。大切な人の為にね」

 

 「どうして? この世界にも、私達にも未来なんてない。私達は精霊のせいで死ねなくて、満開する度に身体の機能を失って……いつか、大切な友達や楽しかった日々の記憶も……全部無くして、それでも戦わされるのに」

 

 「それでもだ。それでも……自分は、自分達は戦ってきた。外の世界が地獄だろうと、未来が無いように見えていても……ね」

 

 外の世界の真実を、先代勇者は“全員”知っていた。その残酷な真実に、1度は打ちのめされて、戦う意義を失いかけた。それでも戦ったのは、散華の恐怖に打ち勝ったのは、大切な人達が、大切な友達が居たからだ。

 

 数回の満開と散華をして、寝たきりになった園子と銀。隻腕となり、車椅子生活を余儀無くされ、それでも戦ってきた楓。そうなるまで戦ったのは、決して世界の為でも、見知らぬ人の為でもないのだから。それは、過去の美森もそうだったハズなのに……今の彼女に、その記憶はない。

 

 「それで戦って、戦って、戦って……何度も満開して、散華して、ボロボロになって何も分からなくなって、それでも……戦わされて……そんな姿になってまで、そんな辛く苦しい思いをしてまで! 私は楓くんに守って欲しくない! 頑張って……欲しく、ない!!」

 

 「っ……それでも、自分は……君達を!」

 

 「そんなことになるくらいなら、そうやって楓君も、友奈ちゃんも、皆も……大切な人達が犠牲になるくらいなら……私が“勇者”を、世界を終わらせる! 私が、全部断ち切る!!」

 

 「東……郷……さん」

 

 「美森ちゃん……」

 

 「させる訳、ないでしょうが!!」

 

 美森の思いの丈、その叫びを聞いて友奈と楓が悲痛な表情を浮かべ、動きを止める。そんな2人とは違い、夏凜は再び美森に向かって突っ込み、二刀を振るった。美森は狙撃銃から2丁の散弾銃に持ち替え、それを盾にして防ぐ。

 

 「夏凜ちゃん、邪魔しないで!」

 

 「するに……決まってんでしょ! 私は、大赦の……私は、勇者で……っ!」

 

 「その大赦は貴女にも真実を伝えず、道具として扱ってるのに!? 貴女だけじゃない! 大赦は勇者を……人として扱ってない! 楓君の部屋の前にあった注連縄も、先代勇者の2人の部屋にあった人形の板や紙もその証拠。そんな大赦の為に、夏凜ちゃんが戦うことなんてないのに!!」

 

 「……東郷……っ」

 

 「お願い分かって! 楓君も友奈ちゃんも、勇者部の皆も……私が忘れてしまった大切な友達の2人も……私の大切な人達が傷付く姿も、犠牲になるのも、これ以上見たくない!! そんなの、私は耐えられない……耐えきれないのよ!!」

 

 再び聞かされる美森の叫び。それを聞いた夏凜の動きが止まり、押し返されてまた距離を取る。元々、勇者部に来てからの夏凜にも大赦に思うところがあったのだ。楓のお見舞いにも来ていたから、注連縄の存在も知っている。故に、美森の言うことも理解出来てしまう。

 

 風に続き、美森もまた泣きながら思いを綴る。その光景は、その思いは、その嘆きは、その悲しみと苦しみは……友奈と夏凜の心を打ちのめす。それは楓とて同じ。知っていたハズなのだ、彼女が友達思いなのは。須美としての記憶がない以上……前と同じような思いを持ってくれるとは限らないということは。

 

 そうやって思い悩む3人のすぐ後ろに、再生した乙女座が姿を表し……下半身の産卵管のような部分から3人に向けて爆弾を飛ばしてきた。

 

 「「「っ!」」」

 

 それに気付いた3人は、咄嗟に結界の中へと飛び込むようにして避ける。動きが鈍かった友奈を夏凜が無理矢理に引き連れ、楓も隣を飛翔する。結果として、結界の外に美森を置いていってしまうことになり、友奈が顔だけ振り反る。

 

 「東郷さんが!」

 

 「ダメ! 一旦引いて……っ!?」

 

 「2人共危な……ぐぅっ!?」

 

 美森から離れる3人を追い掛けて結界内に入ってきた乙女座が再び爆弾を飛ばしてくる。それに直ぐに気付く夏凜と楓だったが、友奈を引き連れているせいで反撃出来ない夏凜に対応する術は無い。2人を守る為に振り返って空中で翼から弓に変えて迎撃しようとした楓を、乙女座の後ろに居た射手座が槍のような矢で撃ち落とす。そして、邪魔されることがなくなった爆弾が、2人に直撃した。

 

 変身が解けて地面に落ちる友奈と夏凜、2人とは別の場所に落ちる楓。そんな光景を動かない姉の側で見ていた樹は焦った表情を浮かべ、風の肩を掴んで揺らす。兄が、先輩達が大変なことになっていると。それを言葉で伝えられない彼女の後ろに、大量の小さなバーテックスが迫ってきていた。

 

 

 

 

 

 

 「……う……? っ、夏凜ちゃん!? か、楓くんは!?」

 

 いつの間にか気を失っていた私が目を覚まして最初に見たのは、同じように気を失っている夏凜ちゃんだった。慌てて起き上がって近付いて抱き上げて名前を呼んでみるけど、反応はない。一緒に居た楓くんはどこに居るのかと辺りを見回して見るけど、私達とは違う場所に落ちたのか姿が見えない。そうして探して視線を動かしていると、さっきまで東郷さんが居た場所が目についた。

 

 ……東郷さん、泣いてた。苦しいって、辛いって……耐えられないって。私は、東郷さんのことを見てたハズなのに。あの日、風先輩と一緒に話を聞いて、悩んでるって知ってたハズなのに……こんなことになるまで、気付けなかった。

 

 一番側に居たのに。一番の友達なのに。私が……気付いてあげられなきゃ、いけなかったのに。大丈夫だよって、守るって、頑張るって言ったのに……私は、何もしてあげられなかった。

 

 「……今は……バーテックスを何とかしなきゃ……」

 

 夏凜ちゃんを地面に寝かせて立ち上がり、スマホを握り締める。空を見上げれば、星とは違う白い何かが沢山あって……あれが全部、あの日見た大きな口と歯の正体で。

 

 「ひっ……!」

 

 そう思ったら、足から力が抜けて立てなくなった。寒くないのに、体が震えて止まらなくなった。何とかしなくちゃいけないのに。東郷さんを止めないといけないのに。

 

 

 

 ― カリカリ……カリカリ…… ―

 

 

 

 「いやっ!! いや……で、でも、止め、ないと……変身、しないと……!」

 

 また、あの時の音が聞こえた。真っ暗じゃないのに、寝ようとしてる訳じゃないのに。耳を塞いでも聞こえる。音が止まらない、止まらないよ……でも、必死に我慢する。止めるんだ、何とか、するんだ。

 

 ― 傷付く姿も、犠牲になるのも、これ以上見たくない!! そんなの、私は耐えられない……耐えきれないのよ!! ―

 

 私だって……見たくない。でも、だけど、それでも……私は。そう思って、震える指で何とか勇者アプリをタップして変身しようとして。

 

 

 

 “勇者の精神状態が安定しない為、神樹との霊的経路を生成できません”

 

 

 

 「……そんな……変身、出来ない……っ!?」

 

 ピー! ピー! ってアラームと共にスマホの画面に浮かぶ文字。びっくりして動きが一瞬止まって、改めてその文字を読んで、血の気が引いた。何度もタップする。何度も、何度もタップする。なのに、いつもみたいに光が出てこない。勇者に……なれない。

 

 「なんで!? どうして!?」

 

 口からそんな疑問が出てくる。でも文字が変わることはなくて、答えてくれる訳もなくて。指が痛くなるくらい何度タップしても、全然変身出来なくて。

 

 友達が苦しい時に気付いてあげられなくて……今度は、止めることも出来ない。何かをしてあげたいのに、何も……してあげられない。

 

 「うあ……ああ……っ」

 

 それどころか、まともに動くことも出来ない。今まで倒してきたバーテックスよりも遥かに小さなバーテックスが、怖くて恐くて仕方なくて。ずっと頭にカリカリって音が響いて、友達の為に動けない自分が情けなくて。

 

 「こんなんじゃ私……友達失格だ……勇者にも……なれない……っ!」

 

 心の中がぐちゃぐちゃになって、辛くて、悲しくて、苦しくて……涙が流れてきた。東郷さんもずっとこんな気持ちでいたんだ……ううん、もっと辛かったんだ。そう思って、また涙が溢れて……東郷さんが居た場所を見たら、私達に集まってくる小さなバーテックス達が視界に入って。

 

 「あ……あ、ああ……」

 

 そのバーテックス達が大きな口を開けて一斉に迫ってきたのが見えて……頭を抱えて(うずくま)った。

 

 

 

 「いやああああああああっっ!!!!」

 

 

 

 「「はああああっ!!」」

 

 そんな声の後、私の上で何かを切るような音がして、私の前に着地するような音がして……目を開けて顔を上げたら、変身して左手の水晶から光の剣を出してる楓くんと2本の刀を持ってる夏凜ちゃんが私に背中を向けて立っていた。

 

 「遅れてごめんね、友奈ちゃん。バーテックスが邪魔で時間掛かっちゃったよ」

 

 「大丈夫? 友奈」

 

 「楓、く……夏凜、ちゃん……ああああ~っ!」

 

 安心して、また涙が止まらなくなって……楓くんが風先輩にしたみたいに抱き締めてくれて、夏凜ちゃんも頭を撫でてくれて……泣いてばかり居る自分が、嫌になった。

 

 「怖……こわか……っ! 私、勇者なのに! 友達、なのに! 何も……してあげられなくって……変身も、出来なくて!」

 

 「うん……大丈夫、大丈夫だよ。一気に色んなことが起きて、受け止めきれなかったんだねぇ……怖くて動けない自分が、嫌なんだねぇ……」

 

 「あの大きな口が怖い! ずっと頭の中でカリカリって音がして、止まらなくて! 体も震えて、動けなくて! でも……でもっ、東郷さんが……東郷さん……ううぅぅ……っ!」

 

 「……友奈。あんた、東郷のことはどうしたいの?」

 

 夏凜ちゃんに頭を撫でられる度に、思ってたことが口から出る。抱き締めてくれてる楓くんの背中に手を回して、勇者服を強く握り締める。怖くて、不安で、この温かさを手放したくなくて、離れたくなくて。そんな自分が……情けなくて。

 

 そうやって吐き出していると、夏凜ちゃんが優しい目でそう聞いてきた。どうしたいか……なんて、そんなのは決まってる。決まって……いるんだ。

 

 「止めたい……止めたいよ。だって、世界が終われば、皆に会えなくなる。私はもっと皆と一緒に居たいよ。もっと皆と一緒に部活がしたいよ。でも……止めたくても、私は変身出来なくて……っ!」

 

 「……そう。楓さん、友奈をお願い」

 

 「……任せて」

 

 「夏凜、ちゃん……?」

 

 私を撫でていた手を止めて、夏凜ちゃんが立ち上がって離れて、背中を向ける。その背中が……なんでか、凄く大きくて、頼もしくて。

 

 「友奈、楓さん。私、大赦の勇者辞めるわ。前からちょくちょく思うところがあったし、風の件でほとほと愛想も尽きたし。これからは勇者部として戦う。戦って……勇者部を守る。だから安心しなさい友奈」

 

 「夏凜ちゃん……」

 

 「私達の勇者部は壊させない。友奈の泣き顔なんて……見たくないしね。あんたはバカみたいに笑ってる方が、ずっとらしいわよ」

 

 そう言って夏凜ちゃんは……空に見えるバーテックス達に向かって走っていった。それを私は……楓くんに抱き締められながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

 最初は、只の援軍として、完成型勇者としての役割を全うしようとするだけだった。その気持ちが先走り過ぎて余計なことを口走って楓さんに怒られたのは、今でもよく覚えてる。そして謝った後に友奈と楓さんに強引に勇者部に入れられて……今では、それでよかったって、思ってる。

 

 勇者になる為の訓練しかしてこなかった私。それ以外は不要だって切り捨ててきた私。その切り捨ててきたモノを、勇者部は押し付けてきた。無理矢理押し付けてきて……こんなにも楽しかったんだぞって、教えてくれた。

 

 児童館での誕生日、泣きたくなる程嬉しかったのを勇者部は知らないでしょ。あの子の不恰好な鶴の折り紙のプレゼントが本当に嬉しかったなんて……知らないでしょ。

 

 そうやって過ごして、そうやって楽しいことを教えてきて、いつの間にか大切になって。友奈が、楓さんが、風が、樹が、東郷が……勇者部が大好きになって、大赦じゃなくて、ここが私の居場所なんだって思えて。

 

 ……崖の上から海の向こう、壁の穴を、空を見据える。目に入る数多の小さいバーテックスと、再生した5体の大きなバーテックス。データで見た限り、乙女座、射手座、蠍座、魚座、蟹座、ね。そんだけ居るんだから、流石に犠牲無しって訳には……いかないでしょ。

 

 「諸行無常」

 

 「……久しぶりに喋ったと思ったらそれ? まあ、今回は同意するけど」

 

 側に浮く義輝に同意しながら端末を操作して、あの日児童館で取った集合写真を見る。勇者部と子供達が写った、私の……宝物。世界が終われば、この子達も、この思い出も全部無くなる。そんなことはさせない。させて、たまるか。

 

 「さあさあここからが大見せ場!!」

 

 勇者部も、バーテックスも、神樹様も……世界も聞け。大赦の勇者じゃない、勇者部としての三好 夏凜が叫びを。

 

 

 

 「遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ!! これが讃州中学2年、勇者部部員! 三好 夏凜の……実力だああああああああっ!!」

 

 

 

 バーテックス達に向かって跳び、その軌道上の小さなバーテックスを切り裂いて進む。脆い、遅い。正しく一刀両断出来る。けれど、流石にあのバーテックス達はそうもいかないでしょ……()()()()ならね。

 

 満開ゲージはとっくに満タン。散華の恐怖は、当然ある。でも、友奈が泣いているのは嫌だから。楓さんが悲痛な顔をしているのは嫌だから。勇者部は……全員揃っている方がいいから。そして、あの子を死なせたくないから。

 

 「だから!! 持っていけええええっ!!」

 

 意思を示す。あの日に出来なかった満開。樹海から光の根が私に集まり、大輪の花を咲かせ、私の姿を変える。分かる、この力の使い方が、その強さが。なるほど、散華という代償があるのも頷ける。

 

 「勇者部5ヶ条ひとおおおおつ!!」

 

 満開することで現れた4本の巨大な刀とそれを持つ巨大な4本の腕。私のと合わせた6本の腕を思いっきり左から右へと振り抜く。私の意思を汲み取ったその行動は切っ先から楓さんのような光を生み出し、小さなバーテックスを薙ぎ払う。

 

 更に、満開前から良く使っていた短刀を全ての腕を振るうようにして飛ばす。満開によって大きさも、数も圧倒的な迄に強化されたそれは小さなバーテックスに負けず劣らずの数が飛び、一気に殲滅する。見てる? 友奈、楓さん。これが完成型勇者の……いいえ、勇者部部員、三好 夏凜の実力よ!

 

 「挨拶はああああっ! きちんとおおおおおおおおっ!!」

 

 そのままの勢いで乙女座へと突撃。友奈と私を爆弾で落とされた怒りもあり、6刀を以て切り捨てる。それだけで、乙女座が光となって消え去った……御霊が無い? 短期間で再生したから? いいえ、今はどうだっていい。こいつらは、1体残らず殲滅する!

 

 「勇者部5ヶ条ひとおおおおつ!! なるべく……諦めなああああいっ!!」

 

 次は蟹座。同じように切りかかると、4枚の板で防がれた。けれど、その内の2枚を破壊出来た。残り2枚を両足を合わせて突き出し、蹴り破る。その後、6刀で縦一閃に両断し、蟹座は光と消える。

 

 「っ、こいつ!?」

 

 その直後、蠍座の針が満開の腕の1つに突き刺さった。しかも刺さった部分から毒々しい赤い何かが広がって……それを認識したと同時に満開が花びらになって消え去った。

 

 樹海に降り立ち、左肩のゲージを確認。満開時の大量殲滅の影響か、それとも緊急故の神樹様の配慮かわからないけれど満タンになっていた。それを確認し終えた時、右手に違和感を感じる。見れば妙なパーツが右腕を覆っていて……右腕が動かせない。散華……でも、今は気にしていられない。

 

 「勇者部5ヶ条ひとおおおおつ!! 良く寝てええええっ!」

 

 蠍座に向かって跳ぶ。私に向かって伸ばされた尻尾を左手の刀で弾いて剃らし、尻尾に刀を突き刺す。そしてその尻尾を蹴り飛ばしてまた跳び上がり……満開。再び現れた4本の巨大な腕を曲げて刀を構え……。

 

 「良く食べええええるっ!!」

 

 上から下へと落下するように動き、そのまま全ての腕を振ってまた縦に両断する。これで3体……後は、2体。そう考えた瞬間、視界に入れた射手座の下の顔のような部分から大量の光の矢が飛んできた。

 

 咄嗟に全ての腕を盾にする。結果として私自身は無事だったものの、4本の腕が矢に貫かれて無惨な姿になってしまった……しかも、腕の一部が花びらになり始めている。さっきよりも解除の兆候が早い!?

 

 (くっ……連続して満開したから? それともダメージを受けすぎた? ……気にしてても、仕方ない! 解除されるなら……またやるまでよ!!)

 

 射手座の上の口から槍のような矢が放たれる一瞬前に、私は上へと飛ぶ。結果としてそれを避けることに成功し……同時に、満開が解除されて右足の感覚が無くなった。楓さんとお揃いって訳? なんて冗談みたいに思って……また、意思を示す。

 

 「勇者部5ヶ条ひとおおおおつ!! 悩んだら……相談んんんっ!!」

 

 満開、そして直ぐに射手座に向かう。また下の顔から大量の矢が飛んでくるけれど、今度は避けつつ接近してその体を横一閃に両断。そのまま反転し、残っている体を縦に両断して光と消し去る。

 

 これで4……っ! 魚座が居ない!? どこに、と周囲に目をやる。けれど、どこにも姿がない。逃げた? まさか、そんな訳ないし……そう思っていた時だった。

 

 「っ!? あぐっ!」

 

 下の地面から出てきた魚座に反応し切れず、近付かれて体の紐のような部分を鞭みたいに振るわれ、モロにその攻撃を受けた。しかもその一撃で満開まで解けてしまう。

 

 あまりに解けるのが早い……多分、連続で使っているから満開の定着が浅いんだ。本当ならもっと時間を掛けて貯めて一気に解放する満開。それを短時間でしているから、少ししか保たないんだ……そう理解すると同時に、魚座が地面に潜り……私の顔の周りにパーツが生まれる。今度は何を失ったのか、まだわからない。

 

 「勇者部5ヶ条ひとおおおおつ!! 成せば大抵……何とかなああああるっ!!」

 

 わからない散華よりも分かる敵を優先する。そしてまた満開する。どうせこの満開も直ぐに消えるのだから、もう1度出てくるのを待つつもりはない。魚座が潜った地面に4刀を突き出しながら突っ込む。

 

 少しばかり進んだところで切っ先に手応えがあった。その手応えの正体……魚座に4刀を突き刺したまま地上へと出て……一気に引き裂いた。

 

 

 

 「見たか!! これが……勇者部の力だ!!」

 

 

 

 光と消えた魚座を確認した後、切っ先を神樹様の方へと向けてそう叫ぶ。バーテックスなんかに負けない。残酷な真実なんかに負けない。散華になんか……負けない。そこで満開が解けて……私の目の前が真っ暗になって、不気味な程に無音になって……何も分からなくなって。

 

 それでも……落下する私を誰かが受け止めてくれたのだけは、分かった。




原作との相違点

・東郷さんの理由ちょい増し

・友奈ちゃんトラウマ持ち

・夏凜ちゃんの戦う理由ちょい増し

・その他多すぎんよ



という訳で、壁ぶち壊しからの夏凜ちゃん無双までです。忘れていたかもしれませんが、本作の友奈ちゃんは幼生バーテックスにトラウマがあります。それがわんさか出てくるんだから怖いですよねぇ。

またあんまり動かなかった楓君。今回は夏凜ちゃんと友奈ちゃんメインだからね、仕方ないね。彼には活躍の場があります。彼と友奈ちゃんが居て、倒すのが困難な敵が出る……おっと、見覚えのあるシチュエーションですな←

友奈の章は残り2~4話ほどの予定です。執筆に時間が掛かるとは思いますが、どうか気長にお待ちください。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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