咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

49 / 142
お待たせしました(´ω`)

リリフレにて友奈とピース交換完了。後は何人の勇者部を引けるかな。

ゆゆゆいでは一周年記念復刻。ガチャ回すぞー←

前話の感想がほぼほぼ友奈のヒロイン力についてなのは笑いました。誰がヒロイン、ってのは実は意識してないんですがね。皆様、もしカップリングするなら楓と誰推しですかね? 誰でもいいですよ(意味深


結城 友奈は勇者である ー 23 ー

 それは、美森ちゃんと友奈ちゃんがのこちゃんと銀ちゃんに出会った日とは別の日のこと。美森(すみ)ちゃんを除く先代勇者3人で楽しく会話をしていた時のことだ。

 

 「カエっちの女の子の格好、可愛かったんよ~。また見てみたいな」

 

 「流石にもう勘弁して欲しいねぇ……小学生の時とは大分体格も違うんだから」

 

 「ホントにな……2年前はあたしと変わらなかったのに……いや、今の楓も良いと思うゾ、うん」

 

 「そうかい? ありがとねぇ」

 

 そんな風に昔の出来事を話していた。学校ではこんなことがあった。休日にはこんな遊びをした。お互いに楽しかった記憶を話し合って、笑い合って……美森(すみ)ちゃんがここに居れば、もっと楽しいだろうと口に出さずに思っていた。

 

 そんな時だ、のこちゃんが()()()()()()()()をしだしたのは。

 

 「休み時間で夢を話したりもしたよね~」

 

 「あー、あったあった。なんであたしあんなに抱き付かれたのか未だにわかんないんだけど」

 

 「夢……? そんな話、()()()()()()()()()?」

 

 「「……えっ?」」

 

 休み時間に夢を話し合った。そんなことをした覚えは自分にはない。でも、2人は覚えているようだし……自分が忘れているだけだろう。そんな風に考えて……()()()()()ことに疑問を覚えた。

 

 ……実のところ、自分は自身の散華の内容を全て知っている訳ではない。今では合計7回の満開。その前の6回の散華だが、1つだけ何を捧げたのか分からなかった。どうせ内臓みたいな自分には見えない部分だろうと予想していたんだが……。

 

 「……なるほど。どうやらそれが、自分の散華みたいだねぇ」

 

 「カエっち……わっしーみたいに? 自分の夢も……覚えてないの?」

 

 「そうだねぇ……今の自分は、夢を持ってない。妹にもそう言ったしねぇ」

 

 「……須美の時と違って、随分ピンポイントなんだな」

 

 「ホントにねぇ……」

 

 苦笑いを浮かべる自分に、2人は悲しげに顔を歪める。そんな顔をさせたい訳じゃ無いんだけどねぇ……ああ、でも……忘れられるのは悲しいけれど……忘れるのも、悲しいモノだ。きっと、この悲しさと記憶が戻らない恐怖を、彼女も感じているのだろう。それこそ、自分よりも遥かに。

 

 この後、2人はまた夢を教えてくれた。小説家にお嫁さん……どっちも良い夢だと思う。聞いたところでピンと来なかった以上、これが散華だと言うのは多分合ってるんだろうねぇ。

 

 ……でも、お陰で自分にも夢が出来た。過去の自分がどんな夢を抱いていたのかは聞いていない。言わなくて良いと、自分から言ったのだ。夢はまた、見つけるからと。だけどきっと、今の自分と同じ夢を抱いたハズだと……また、2人と話ながら思った。

 

 

 

 今、自分は友奈ちゃんと……友奈と共に再び満開して美森ちゃんとその背後の巨大化している獅子座を見据えている。あれだけ居た小さなバーテックス達は姿が見えない。恐らく、獅子座を再生する為に合体していったんだろう。だが、また直ぐに結界の外からやってくるかもしれない。

 

 ……神樹様は自分の散華は時間は掛かるけど戻せると言っていた。今回の満開で、その時間は更に伸びただろう。そうと分かっていて、自分は満開したのだ。覚悟はある。世界の為、なんて大層なモノじゃない。結局は自分の為なんだからねぇ。

 

 「楓君……友奈ちゃん……なんで……」

 

 「東郷さん……」

 

 「っ、友奈。まずは獅子座だ」

 

 「……うんっ!」

 

 泣きながら自分達を見つめる美森ちゃんと彼女を見つめ返す友奈。自分もそうして居たけれど……獅子座が動いた。その背中の太陽のようにも思える部位が縦に開き……それは、さながら空間を縦に裂いたようにも見える。その空間の中は結界の外のように真っ赤で……中から、あの小さなバーテックス達が炎に包まれながら大量に出てきた。しかも、その大きさは獅子座同様に大きくなっている。

 

 友奈が迫りくるバーテックス達を次々と満開の巨大な腕で殴り、倒していく。自分も水晶をフルに動かし、レーザーを放って倒していく。見れば美森ちゃんも己に向かってくるバーテックスを……小型の機械? で倒して行っている。

 

 「っ、壁の外からもか!」

 

 「楓くん! 風先輩達が!」

 

 「な!?」

 

 壁の穴からも大量のバーテックスが再び入ってくる。獅子座からもまだまだ出てくるようだ。それを2人で倒していっているけれど、流石に手が足りない……そう思っていると友奈がそう叫んだ。姉さんと樹が居た方を見れば、そこには倒れている2人と……その2人に向かっていく大量のバーテックス。

 

 10ある水晶の内の半分を2人を守る為に使う。だけど、多すぎる! 友奈は多対1には向いてない。美森ちゃんは今は手を貸して貰えない。なら、自分がやるしかない。

 

 「おおおおっ!!」

 

 2人の前に4つの水晶で正方形を作り、その空白部分に1つの水晶からレーザーを放つ。空白にぶつかったレーザーは一瞬の間を置き、美森ちゃんの散弾銃のようにレーザーを大量に、かつ広範囲に拡散させた。拡散したレーザーは狙い撃つことこそ出来ないが、その攻撃範囲で一気にバーテックスを殲滅していく。

 

 ……が、それが終わってもバーテックスが減った気がしない。もう1度、と思ったところで、水晶が青い光の攻撃を受けた。破壊されるには至らなかったものの、正方形が崩れてしまい、只のレーザーがその射線上のバーテックスを倒すだけに終わる。その攻撃が来た方向を見れば、美森ちゃんの姿。

 

 視界の隅で、友奈がバーテックス達を倒しながら獅子座へと向かっていた。が、友奈も自分と同じように美森ちゃんから攻撃を受け、行動を中断させられる。

 

 「ダメよ2人共……」

 

 「東郷さん!! そいつが神樹様に辿り着いたら、本当に世界が滅んじゃうんだよ!?」

 

 「姉さん達も、神樹様も死なせる訳にはいかない!」

 

 「それで良いの……一緒に消えてしまいましょう。そうすれば誰も苦しまない。誰も辛い思いをしない! こんな世界で生き地獄を味わうこともないの!!」

 

 「良くない!!」

 

 「ああ、良くないねぇ!!」

 

 美森ちゃんの言うことも……分かる。ああ、分かるとも。外は火の海、バーテックスは天の神が居る限り無限に生まれ、攻めてくる。獅子座のように強いバーテックスには満開が不可欠で、それを使えば散華として何かを捧げることになる。そして、勇者である自分達はそれを繰り返すことになる。

 

 それでも、それでもだ。守ると決めた。頑張ると決めた。世界の為なんかじゃない。勇者だからなんかじゃない。自分にとって大切だから……その為なら、自分は。

 

 「っ、くそ、姉さん! 樹!!」

 

 そうは思うが、美森ちゃんからも妨害されては処理が間に合わない。遂には致命的な迄に処理が遅れ、バーテックス達を通してしまう。直ぐに水晶を向かわせるが、それも美森ちゃんの砲撃に撃たれる。思わず叫び、バーテックス達が姉さん達の直ぐ近くまで接近した、その時だった。

 

 

 

 空から大量の槍が降ってきてバーテックス達を串刺しにし、炎纏った何かが回転しながら突き進んでバーテックス達を切り裂いていったのは。

 

 

 

 「今のは、まさか……」

 

 「槍? それから……何?」

 

 「っ、私達以外にも……まさか!?」

 

 3人同時に空を見上げる。その視線の先にある高い場所の根の上に、2人分の人影があった。そしてその人影は……薄紫の勇者服と、赤い勇者服を着ていた。

 

 「遅れてごめんね、カエっち。安芸先生にスマホ持ってきてもらっておいて良かったよ~」

 

 「安心しな! 楓の大事な家族は、バーテックスなんかにやらせない!」

 

 美森ちゃんのように勇者服の一部が変化し、体を支えているという立ち姿。その姿は紛れもなく……自分と同じ先代勇者ののこちゃんと、銀ちゃんだった。

 

 「そんな……2人も、なんで!?」

 

 「戦う理由なんて、決まってるんだよ? わっしー」

 

 「そうだな。あたし達の戦う理由は、2年前から変わらない。須美。お前が忘れても……あたし達は覚えてる!!」

 

 「そんな姿になっても戦うのは何故!! こんな地獄を、真実を知っているのに、なんで戦えるの!!」

 

 「園ちゃんと銀ちゃんが戦える理由……私にも分かる」

 

 「そうだねぇ……自分達も、同じ理由だからねぇ」

 

 「分からない……分からない! 分からない!! 私には分からない……皆が戦う理由なんて、私が戦っていた理由なんて! 覚えてないの!! 忘れさせられたの!!」

 

 泣きながら叫ぶ美森ちゃん。その姿に、胸が苦しくなる。だが、それでも彼女に世界を滅ぼさせる訳にはいかない。だから自分達は、今もバーテックスを倒していっている。

 

 のこちゃんは勇者服の一部から伸びるリボンのようなモノを槍に巻き付け、振るう。その槍は凄まじい速度で伸びて、一気にバーテックスを薙ぎ払う。銀ちゃんは左手の斧剣に炎を纏わせて思いっきり投げつけ、バーテックス達を殲滅していく。更には新たに取り出した斧剣を左手に持って足代わりのリボンのようなモノを使って己を回転させ、近付くバーテックスを切り裂いた。

 

 自分は美森ちゃんの小型の機械を光の刃を出した5つの水晶に突撃させて破壊し、残りの5つはバーテックスの殲滅に回す。友奈は獅子座に突撃し、その体に巨碗を叩き付け、その体を破壊していた。バーテックスを生み出す空間を作る背中の部位を残して獅子座の体は光と消え、御霊が現れる。

 

 「これを壊せば!」

 

 「ダメ!!」

 

 「東郷さん!? くううううっ!」

 

 「っ、わっしー!」

 

 「須美……っ!」

 

 「美森ちゃん……」

 

 友奈が御霊に攻撃する前に、美森ちゃんの砲撃が彼女に襲いかかり、それを咄嗟に巨碗で防ぐのを見た。その砲撃は自分達にも襲いかかり、のこちゃんと銀ちゃん、自分の前に水晶を3つずつ使って三角形を作り出し、盾にして防ぐ。

 

 「どれだけ考えたって分からない!! 私達を犠牲にして、そんなことを知らずに生きてる人達の為!? それを許容している世界の為!?」

 

 「……東郷、さん……」

 

 「知らない人達のことなんてどうでもいい!! 大切な人達を守れないから、大切な人達が救われないから! だから私は終わらせるの!! 終わらない戦いを! この生き地獄を!! 友奈ちゃんが、楓君が! 皆が大切だから、救いたいから!!」

 

 「わっしー……」

 

 「須美……そこまで……」

 

 美森ちゃんの叫びが樹海に響く。それを、自分達は聞いていた。彼女の思いが、伝わってくる。どれだけ彼女にとって自分達が大切か、それ故にどれだけ彼女が思い悩み、傷付いているのか。

 

 ……バーテックス達が獅子座の御霊に集まっていっているのが見える。また再生する気か、それとも他に何かやる気なのか……気になるが、今は。

 

 「……生き地獄なんかじゃ、ない。だって、楓くんに会えた。東郷さんに会えた。勇者部の皆に、先代勇者の2人にも会えた! だから、生き地獄なんかじゃない!!」

 

 「そうだねぇ……ああ、その通りだよ。自分も君達と出会えたことは、本当に嬉しいんだ。だからこそ……自分は何度でも言うんだ。美森ちゃん。自分は、君達を守る。その為ならいくらでも頑張れる!! 君達が大切だから!」

 

 「行って、2人共!」

 

 「バーテックス達はあたし達に任せろ!」

 

 のこちゃんと銀ちゃんのそう言われ、友奈と2人で美森ちゃんに向かう。小型の機械は自分の水晶で対応し、砲撃は友奈が巨碗で殴って迎撃する。離れてて伝わらないのなら……近付いて直接伝えるまでだ!

 

 「私だって……私だって楓君に、友奈ちゃんに会えて嬉しい!! でも、そんな思いだって……どんな想いだって、いつか忘れさせられる! 2人だって、いつか私のことを……そんなの、そんなのはイヤ! 想像するだけでも耐えられないの!!」

 

 「忘れない!! 私は絶対に東郷さんのことも、楓くんのことも!!」

 

 「私だってそう思いたいよ……でも、現実として私は自分が先代勇者だったことを忘れて、楓君達のことも忘れさせられた!! 楓君だって、自分の夢と私達の夢のことを忘れさせられてる!!」

 

 「……ああ、そうだねぇ。確かに自分も、一部の記憶を散華しているよ。それでも……例え、忘れさせられたとしても! 体が、魂が覚えていることだってある!! 他ならぬ君がそうだったから!! それに……夢なら出来た。きっと前の自分も抱いた夢がねぇ!」

 

 そう、夢なら出来た。自分は……君達の生きる未来を、君達が生きる未来を見たいんだ。だから、その為なら……自分は。

 

 「知らない……そんなこと、知らない!! 怖いの! 忘れるのも、忘れられるのも!! いつか自分が流す涙の意味も分からなくなる! 知らない人を見る目で見られる! そんなの……そんなのは絶対に……イヤああああああああっ!!」

 

 美森ちゃんが泣き叫ぶ。砲撃が無茶苦茶に放たれて、避けにくいし防ぎにくい。それでも、1発足りとも逃さずに水晶で、巨碗で防ぎつつ2人で向かう。友達思いで、怖がりなあの子の元に。

 

 「だから……だから……っ! だから、私は……っ!?」

 

 「東郷さん!!」

 

 「やっと、近くまで来たよ!!」

 

 「っ、あ……」

 

 友奈の巨碗が美森ちゃんの砲身を全て巨碗で掴んで地上に撃てなくする。そして、彼女はその巨碗と自分を切り離し、美森ちゃんの満開に乗って走り、彼女に近付く。その際美森ちゃんは小型の機械を出してくるが、それは全て自分の水晶で撃ち抜き、自分も彼女の満開の上に降り立つ。

 

 そして……友奈が彼女の左頬を右拳で殴り飛ばした。その顔に、今にも泣きそうな程辛そうな表情を浮かべながら。それを確認して……自分は、2人に近付いていった。

 

 

 

 

 

 

 友奈に殴られ、倒れる美森。彼女に2人は近付き、友奈が優しく抱き起こし、楓が座り込んで美森の右手を握り締める。

 

 「忘れない」

 

 「嘘……」

 

 「嘘じゃない」

 

 友奈が、強く言った。

 

 「嘘よ……」

 

 「嘘じゃないさ」

 

 楓が、優しく言った。

 

 「……本当……?」

 

 「うん。私達はずっと、東郷さんと居る。そうすれば……忘れない」

 

 「それに……忘れても、忘れないモノだってある。美森ちゃんがそうだったからねぇ」

 

 「忘れない……モノ……?」

 

 「誰のモノか分からなくても、大切なモノだと言っていたリボン。それに、真っ白な男の子に白い花。後は……一口サイズのぼた餅」

 

 「っ……」

 

 「記憶を失った君が、それでも覚えていてくれたモノだ。本当に……本当に嬉しかったんだよ」

 

 2人の言葉が、美森の心に染み渡る。友奈の抱き締める力が強くなり、楓の言葉を聞いて美森がハッとする。忘れることが、忘れられることが怖かった。全部忘れるのだと、忘れられて、それで全てが終わるのだと、そう思っていた。

 

 けれど、残るモノもあるのだ。他ならぬ美森自身がそうだった。病院で目を覚ました日から大切にしていた誰のモノとも知らないリボン。後から楓のことだと知った、脳裏に過る真っ白な男の子と泣きたくなる程に綺麗な白い花。そして、初めて勇者部で花見をした日に気が付けば作っていた……一口サイズのぼた餅。

 

 全てを失ったと思っていた。何もかも消えたのだと思っていた。それでも、確かに残っているモノも、覚えているモノもあったと教えられて……2人が、ずっと一緒に居ると言ってくれた。

 

 「友奈、ちゃん……楓、君……う……うぅ……ああああああああっ……!」

 

 

 

 やっと……2人の想いが届いた。

 

 

 

 「忘れたくないよ! 忘れられたくないよ! 私を……私を1人にしないで!!」

 

 「うん……うん!」

 

 「ああ……1人にしないよ」

 

 大声で泣き出す美森を、友奈は優しく抱き締め、楓は強く握られる手を握り返す。その顔に、優しい笑みを浮かべて。

 

 そこで終われたなら、それで良かった。だが、敵はまだ存在する。そのことを思い出させるように、急に辺りが赤く染まる。その事に気付いた3人が獅子座が居た場所を見ると、そこには獅子座の姿も御霊の姿もなく……代わりに、太陽と見間違う程に巨大な……神樹をも飲み込める程の大きさの火の玉が出来上がっていた。そしてそれは、神樹に向かって動き始める。

 

 「っ、こんなモノが神樹様に当たったら……!」

 

 「あ……わ、私、とんでもないことを……」

 

 「東郷さんのせいじゃないよ!」

 

 「ああ、コレを作ったのはバーテックスだからねぇ。ともかく、止めるよ2人共!」

 

 「「うん!」」

 

 先に撃たれた獅子座の火の玉よりも更に大きな火の玉。そんなモノが神樹に到達すればどうなるか等、誰にでも理解できる。そうはさせないと3人がそれぞれ飛び、火の玉の前に出る……まさにその瞬間だった。

 

 「あ……っ!」

 

 「く、肝心な時に……っ……友奈!!」

 

 「そんな、楓君! 友奈ちゃん!!」

 

 楓と友奈の満開が解けた。結果として2人は勇者服の状態で火の玉の前に無防備を晒すことになり……()()()()()()()ことに気付きつつも楓は水晶から鞭を出して操作し、友奈の腰に巻き付けて引き寄せた後に球体の盾に代え、火の玉に当たって樹海へと落下する。それを見て悲痛な叫びをあげる美森だったが、火の玉を止める為に精霊バリアを盾にぶつかる。

 

 「っ、熱気が……それに止まらないっ、私だけじゃ……!」

 

 強化されているせいだろうか、精霊バリアを突き抜けて熱気を感じ、翳す手が火傷するんじゃないかと言う程熱く感じる美森。更に彼女1人では火の玉の勢いが弱まっているのかすら分からない。このままでは……そう弱音を吐く美森の耳に、それは届いた。

 

 

 

 「「「満開っ!!」」」

 

 

 

 美森の右側に、満開状態の風と樹が火の玉を止める為に飛んできた。そして彼女の左側には……大きな方舟と6本の巨大な腕という満開をした園子と銀が、同じように飛んできて、全員で火の玉にぶつかる。

 

 「風先輩、樹ちゃん!?」

 

 「遅れてごめんなさいね!」

 

 「……!」

 

 「乃木さん、三ノ輪さんも!?」

 

 「わっしー達だけに……やらせたりしないよ!」

 

 「あたし達も居ること、忘れるなよ!」

 

 驚いて名前を呼ぶ美森に、それぞれが笑いながら声をかける。さっきまで敵対し、姉妹に至っては結果的に砲撃で撃ち落としてしまっている。なのにこうして笑いかけてくれることが、美森は嬉しく、有り難かった。

 

 「お帰りを言うのも、お説教も、全部後! 全員、女子力全開で押し返せええええええええっ!!」

 

 「っ!!」

 

 「ううううっ!」

 

 「やああああっ!!」

 

 「っ、勇者5人がかりなのに、止まらないのかよ!?」

 

 風の叫びと共に全員が更に力を込める。結果として火の玉の勢いは最初に比べれば落ちている……が、速度が多少落ちたところで、止まる様子は見えない。その事実に気付き、銀が思わず舌打ちをする。

 

 「そこかああああああああっ!!」

 

 「っ、夏凜!?」

 

 そこに、満開状態の夏凜が加わる。己の勘と気配を頼りに4刀を前に火の玉に突っ込んだ夏凜の力がプラスされ、また少し火の玉の速度が遅くなる。

 

 「勇者部を、舐めるなああああああああ!!」

 

 「良く言ったわ夏凜! 勇者部、そんで先代勇者の2人も声出して行くわよ! 勇者部、ファイトおおおおおおおおっ!!」

 

 「「「「おおおおおおおおっ!!」」」」

 

 好機と見た風がそう言い、全員で力強く叫ぶ。声が出せない樹も、全力以上に力を出す。6人の力が増し、溢れた勇者としての力が大きな6つの花弁を持つ光の花を作り出して空に咲き誇り……その花と6人の力が、遂に火の玉を完全に止めた。

 

 

 

 

 

 

 「っ……あ、足が……」

 

 満開、そして変身が解除された友奈は樹海の地面の上で気が付き、両足の感覚が無いことに気付いた。散華によって美森のように両足を捧げたことに思うところはあるが、今はそんな場合ではないと手で足を動かし、うつ伏せになり……そして、同じく変身が解けて病人服姿でうつ伏せに倒れている楓の姿を見た。

 

 「楓くん!? あ……ひ、酷い……っ」

 

 匍匐前進の要領で近付く友奈の目に、酷く焼け爛れた楓の背中が見えた。強化された火の玉の熱気は精霊バリアも、楓の勇者の光も貫通していた。その結果として、楓の背中は見るも無惨な酷い火傷を負ってしまっている。友奈が無事なのは、間に楓が入ったからだろう。

 

 「っ……友奈、無事かい?」

 

 「う、うん。でも、楓くんが……背中、火傷が……!」

 

 「……ああ、火傷をしているのか。それよりも、火の玉を何とかしないとねぇ」

 

 「それよりもって、大丈夫なの!?」

 

 「大丈夫じゃないだろうけど、問題ないよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()からねぇ」

 

 「え……」

 

 何事も無いかのようにしている楓に大丈夫なのかと聞く友奈だったが、返ってきた言葉に、その意味を悟って思わず絶句する。

 

 楓の最後の散華……それは“痛覚”。大橋での決戦の日から、楓は苦しいと感じることはあっても痛いと感じたことはなかった。そのお陰で酷い火傷を負っている今も普通に動けるのは皮肉なことだが。

 

 「……友奈。空を見てごらん」

 

 「え? ……あ」

 

 2人で顔を上げる。そこには、大きな光の花が咲いて火の玉を受け止めていた。更には6人分の人影も見える。自分達以外の全員が今、あの火の玉を止めているのだと2人は理解する。

 

 なら、自分が……自分達がこうして寝ている訳にはいかない。お互いにお互いの散華は気になる。でも、今は後回しにすることにした。仲間達の元へ、大切な人達を守る為に……今は、頑張るのだと。

 

 「行けるね? 友奈」

 

 「うん。楓くんも、大丈夫だよね?」

 

 「当然だよ。先代勇者は」

 

 「伊達じゃない、んだよね?」

 

 「その通り……行くよ、友奈」

 

 「うん! 一緒に……2人で!」

 

 「「う……おおおおおおおおっ!!」」

 

 お互いに頷き合い、友奈が右手で動かない楓の左手を握り締める。その手が握り返されることはない。代わりに、いつもの朗らかな笑みが返ってきた。

 

 お互いに笑い合う。2人で一緒に。何度もそうしてきた。その度にバーテックスに打ち勝ってきた。2人でなら……勝てない敵も越えられない困難も無いのだと、そう信じられた。

 

 勇者アプリにタップする必要はない。ただ、神樹に意思を示す。限界を越え、精霊の力を借り、勇者の力を引き出す。この瞬間に、自分達の全てを賭ける。楓の後ろに夜刀神が、友奈の後ろには牛鬼が現れ、そこを中心として満開の10個の水晶と2本の巨碗が現れる。楓の背中に翼を作るように左右に2つずつ水晶が着いて巨大な光の翼を作り出し、友奈の巨碗が地面を強く叩き、同時に飛翔する。

 

 「自分は!」

 

 「私は!!」

 

 「「讃州中学勇者部所属!!」」

 

 その途中で、2人の体が光に包まれて服装が変わる。それぞれの勇者服に、そして満開時の服装に。その手は、しっかりと繋がったままで。

 

 「犬吠埼 楓!!」

 

 「結城 友奈!!」

 

 2人の前に3つの水晶で作られた三角形が2つ並び、同時にその三角形を潜り抜けていく。そうすることで楓と友奈の全身を白と桜色が混ざった眩い程に輝く光が包み込む。2人の繋いだ手が離れないように、光がリボンのようにその手を固く結ぶ。

 

 

 

 「楓! 友奈!」

 

 

 

 2人の姿を見た風が、その名を叫ぶ。

 

 

 

 (お兄ちゃん! 友奈さん!)

 

 

 

 樹が、心の中でその名を叫ぶ。

 

 

 

 「友奈! 楓さん!」

 

 

 

 2人の気配を感じ取った夏凜が、その名を叫ぶ。

 

 

 

 「カエっち! ゆーゆ!」

 

 

 

 園子が、その名を呼ぶ。

 

 

 

 「楓! 友奈!」

 

 

 

 銀が、その名を呼ぶ。

 

 

 

 「友奈ちゃん! 楓君!」

 

 

 

 美森が、その名を呼んだ。

 

 

 

 「「おおおおおおおおっ!!」」

 

 楓の光の翼が友奈のような巨碗を形作り、楓は左を、友奈は右の巨碗を同時に火の玉に向けて突き出し、叩き込んだ。硬い敵にも、大きい敵にも、いつだってそうしてきた。そうして、打ち倒してきた。

 

 「届け……」

 

 火の玉の中を突き進み、少しずつ2人の巨碗が崩れていく。やがてそれは完全に崩れ去り、満開の服装を保てなくなる。

 

 「届け……っ!」

 

 それでも、繋いだ手を伸ばす。火の玉の奥に、獅子座の御霊が見えた。まだ白と桜色の光は2人を包み込んでいる。熱は、感じなかった。

 

 勇者服が、変身が解ける。その頃には火の玉の中を更に進み、2人は自分達と御霊しか存在しない白い空間へと来ていた。後少し、もう少し。自分達を包んでいた光はすっかり解けてしまって……それでも、繋いだ手を離さないように、その部分の光だけは残っていて。

 

 

 

 「「届けええええええええええええええええっっ!!!!」」

 

 

 

 そして、繋いだその手が……御霊に触れて。勇者達も、樹海も、神樹も……何もかもを真っ白な光が飲み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 ― 本当は、自分の供物だけは戻らないって言われていたんだ ―

 

 真っ白な空間の中で、弟の声を聞いた。

 

 ― そんな状態で皆の供物が戻れば、優しい皆は悲しむことになる ―

 

 真っ白な空間の中で、兄の声を聞いた。

 

 ― だから、神樹様は悩んでいたんだ。供物を戻すべきか、自分に戻せる目処が立つまで待たせるべきか ―

 

 真っ白な空間で、聞こえないハズの声を聞いた。

 

 ― 今回の戦いは想定外だったらしいけれど……そのお陰で、自分に戻せる目処が立ったんだってさ ―

 

 真っ白な空間の中で、大好きな人の声を聞いた。

 

 ― でも、それは神樹様の中じゃないとダメらしい。だから……少しの間、皆とはお別れになっちゃうねぇ ―

 

 真っ白な空間の中で、大好きな奴の声を聞いた。

 

 ― 前は、お別れの言葉だった。でも……また、会える。だから、お別れじゃなくて……再開の言葉で。約束しよう。だから…… ―

 

 真っ白な空間の中で、大切な人の声を聞いた。

 

 

 

 ― またね ―

 

 

 

 真っ白な空間の中で……大切な人の声を聞いたんだ。

 

 

 

 

 

 

 気付けば、()()は樹海の地面の上で円を描くように寝転んでいた。最初に気が付いた美森は全員の姿を確認し……1人、足りないことに気付く。そんな美森が何かを言う前に、寝転ぶ7人の上にそれぞれの精霊が浮かび上がり……花弁となって消え、その花弁が7人の体の上に……具体的に言うなら、散華によって失われた部位の上に降り積もる。

 

 「楓……君……? 友奈……ちゃん?」

 

 美森が呟く。だが、そこに大切な人の姿は無く……大切な人の、返事は無く。

 

 戦いが終わったことで崩壊していく樹海の中で……美森の悲痛な、何度も大切な2人の名前を呼ぶ声だけが響いていた。




原作との相違点

・園子、銀参戦

・美森の叫び

・美森を止めるのが友奈と楓

・満開解けるのが少し早い

・友奈が火の玉に突撃する際、“讃州中学勇者部、勇者”とは言わない

・園子……あ、間違えた。その他←



という訳で、決着のお話でした。先代勇者全員参戦のオールスター戦です。もう総力戦並みにやりたい放題しました。

友奈が“讃州中学勇者部”の後に勇者! と言わないのは選ばれた勇者としてではなく、友奈として大切な人の為に戦っていたからです。そこが原作との1番の違いかもしれませんね。

犬吠埼 楓の消失。イメージとしては神樹に取り込まれる高奈のような感じ。神婚ではないのでご注意を。

次回、友奈の章完結予定。その次は番外編として禁断ルート予定です。落差で風邪引かないでネ←

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。