今回のお話はあくまでもifです。本編ではこんなこと起こりませんし、銀ifのようにリンクしたりしませんので悪しからず。
私事ですが、6月1日でまた1つ年を取りました。夏凜ちゃんと同じ誕生月だぜ、羨ましかろう← 今回のお話はあくまでもifです。
その日に投稿しようと思ったんですがギリギリ間に合いませんでした。悔しい。というかそんな日になんつー話を投稿しようとしてんだと。今回のお話はあくまでもifです。
タイトルのひらがなの部分をカタカナにすると狂気感が増す不思議。でも大丈夫、そんなに暗くはならなかったですよ。今回のお話はあくまでもifです。
最後に注意事項ですが……今回のお話はあくまでもifです。
初恋は実らない、なんて言葉がある。よく聞く、という訳ではないけれど、1度は聞いたことがある言葉だと思う。意味は色々あるけれど、アタシが知る限りでは学校の生徒が教師に対して好意を持ってしまうことがあるからだとか。
つまりは、報われない恋。同級生の異性を子供っぽいとか思って、年上の大人の教師に憧れにも似た好意を持って……結局、歳の差とか立場だとかで実らない。
でもまあ、そういう形ならアタシには当てはまらない。確かに同年代の男子は子供っぽくて付き合おうなんて気持ちにはならない。だからと言って教師とか大人の人に、なんて感情も無い。だから、初恋が実らないというのとは違う。
アタシの場合はそう……初恋は、
小さい頃のアタシは活発な子供だった。可愛いモノよりもカッコいいモノの方が好きで、家の中で遊ぶよりも外で遊ぶ方が好きで。だから人見知りだった樹よりも楓と遊ぶ方が多かった。樹よりも楓の方を優先していた。何だったら、楓に構ってもらってる樹を邪魔にすら思ってたかもしれない。
思えば、この時から楓は子供らしさとは程遠かった気がする。当時のアタシから見ても、楓は同年代の男の子よりも遥かに落ち着いていて、勉強も運動も出来ていた。その癖あまり目立とうとはせず、周りをフォローしていることが多かった。
学年が上がり、異性の違いを認識するようになると、身近な異性の基準として楓が居たアタシには同年代の男子は子供っぽくて仕方なかった。友達が同じクラスの男の子がカッコいいとか話していてもウチの楓の方が……となってあんまり話に入れなかったし。
この時までは……そう、楓が養子に行く前までは、アタシの弟の方が大人っぽくてカッコいいし可愛いわよ、なんて我ながら姉バカだった。樹もそうだけど、妹よりも弟の方を大事にしていたと思う。
切欠は……やっぱり、楓が養子に行った時。楓の言った通り、今まで以上に樹に構って、仲良くして……それでも、毎日があんまり楽しくなくなった。学校から帰ってきた時に楓の名前を呼んで、返事が無いのを不思議に思って……遅れて、もう家には居ないことを思い出して泣いたこともあった。そこで、どれだけ楓がアタシにとって大きな存在だったのかを思い知ったんだ。
大きな存在だった、という意味ではアタシよりも樹の方が大きかったかもしれない。あの時の樹は楓にべったりで、一緒に寝たりしていたから。しばらくはアタシが一緒に寝てたんだけど……寝言で“お兄ちゃん”なんて呟いて泣いてることも多かった。ソファの上で横になって寂しそうにしているのも、よく見掛けたしねぇ。
そんな風に寂しく毎日を過ごして……あの、大橋が崩れる事件が起きて、両親が死んで……勇者なんて存在を知って、楓が養子に行った理由を知って。そして、もうすぐアタシが中学2年になる頃に……楓が、養子に行った時とは変わり果てた姿で帰ってきた。
「……ん……~~……あふ」
アタシが家事をするようになってしばらく。慣れなかった家事全般も慣れてきて、料理のレパートリーだって増えてきた。犬吠埼家の家事を担うアタシの朝は早い。朝食を作ったり洗濯したり、掃除したりと色々やることが多いから。
大変だと思うことはある。でもそれ以上に、家族の為にしてあげられるのが楽しかった。綺麗な家は住んでいて気持ちがいいし、料理を美味しいと言ってくれれば作った側として嬉しいし。そう思いながら部屋を出て顔を洗いに行く時、アタシはいつもその近くの部屋……楓の部屋の扉を少しだけ開けて、中を覗き見る。
「……相変わらず、早いわねぇ」
アタシよりも更に早起きしている楓。そんな楓は勇者のお役目の為なのか、右腕が無く右足も動かない体でも出来るトレーニングを毎日していた。真剣に、1日足りともサボること無く。その姿は家族の贔屓目を抜きにしても……カッコいい。
樹に似て、背だってアタシより低い楓。ともすれば女の子にすら見える時もある容姿なのに……この時は、カッコいい男の子になる。そのギャップもあってか、アタシは飽きもせずにトレーニングが終わるまでずっと見ていた。
終わる頃に部屋から離れて何食わぬ顔で朝食を作って、今日初めて顔を合わせたみたいに……まあ間違ってはいないんだけど……挨拶をする。作ってる間に樹を起こしに行って貰って、皆で集まってから一緒に朝食を食べて今日も美味しいって言ってもらえて、嬉しく思いながらアタシも食べる。
……この時のアタシは、楓が温感を失っていたなんて知らなかった。暑い日は冷たいモノを出したし、寒い日には温かいモノを出していた。どんな気持ちで楓は食べていたのかと思うけど……怖くて、聞けない。
そんな風に過ごしていても、まだ家族愛の範疇だったと思う。勇者候補を集めないといけなかったし、楓が帰ってきたことが、また姉弟3人で居られることが嬉しかったから。
2つ目の切欠……それは、勇者部が出来て、友奈と東郷も入部して、勇者部の活動が学校の内外で認知されるようになって依頼も増えた頃。アタシが、依頼の一環でチアリーダーをやった後だと思う。
もう何度も皆に話してはうんざりとされているけど、アタシのチアリーダー姿に見惚れた人が居て、デートに誘ってきたり告白してきたりしたんだけど……楓と比べると子供っぽくて、そんな気にもならなくて断ったのよねぇ。まあ勇者のお役目もあったし、元々受け入れるつもりもなかったんだけど。
「まあ、そういうことがあってさー」
「やれやれ……仕方ないとは思うけどねぇ。というか、子供っぽいも何も姉さんもその人も子供だろうに」
学校からの帰り道に楓にその報告をしてた時。この時はまだ樹は小学生だったから、帰り道は必然的にアタシと楓の2人きりになっていた。楓の車椅子を押しながら歩いて帰るこの時間が、アタシは大好きだった。
楓の顔は見えないけど、苦笑いしてるんだろうなぁと思う。子供だろうに、か。まあアタシ達は確かにまだまだ子供だけどねぇ……楓もその子供のハズなんだけど、全然そんな気がしないし。だからかしら、余計に周りの男子が子供っぽく見えて……もっと楓みたいに大人っぽいのなら、考えたかもしれないのに。
「けどま、その人の気持ちも分からんでもないけどねぇ」
「え?」
「普段の姉さんもそうだけど、チアリーダー姿の姉さんも凄く可愛かったからさ。デートに誘われたり、告白されたりするのも納得だよ」
「……ま、まあね!」
不意打ちだった。頭だけ振り返って、いつもの朗らかな笑顔で恥ずかしげもなくそんなことを言うもんだから……つい、どもっちゃって。相手は弟なのに恥ずかしくて、でも嬉しくて……照れながら、そう返して。
……可愛い、か。楓から見て、アタシは可愛いんだ。その告白してきた男の子も“凄く可愛かったです”なんて言ってくれたけれど……悪いけど、その言葉よりも断然嬉しかった。
どうしよう、口元が弛んで元に戻らない。ニヤニヤしてるのが自分でも分かっちゃうくらい。それくらい……楓に可愛いって言ってもらえたのが嬉しかった。この話を何度も繰り返してしまうくらいに……繰り返して、その度に可愛いって言われたことを、思い出してしまうくらいに。
切欠がそれだったなら……自覚してしまったのは、お役目が始まってからだった。最初の戦いで、楓は友奈と東郷を真っ先に心配してた。友奈は何も知らなかったし、東郷は記憶が無いとは言え以前の仲間だったんだから、心配するのも分かる。それでも、真っ先にアタシ達の所に来てくれなかったのは……少し、不満だった。
2回目の戦いの前なんか、東郷にアタシよりも楓の方が信用出来るみたいなこと言われてショックを受けて……そんなアタシを放って出て行った東郷を追い掛けていった楓。もう少し慰めてくれも良かったんじゃないかって、ちょっと怒ってたりもした。
3回目、夏凜が来た頃。楓は最初こそ怒ったもののその後は直ぐに信用して友奈と一緒に近付いて構っていって……アタシから離れていくみたいで、嫌だった。そんなことを遠回しにクラスの友達に愚痴っていた時。
「楓ももっとアタシに構ってもいいと思うのよ」
「風ってさ、本っ当にその楓って子のこと好きだよね」
「そりゃあ当然よ。大事な弟なんだし」
大事な弟。大事な、家族。だから好きなのは当たり前のことで。
「そんな調子だと、その子に彼女とか出来たら大変そうだよね」
友達のその言葉に、冷や水を浴びせられた気持ちになった。
考えてみれば、当然のことだ。姉のアタシが言うのも何だが、楓は頭も顔も悪くない。勇者として戦っていたから力だってあるし……中身だって悪くない。それどころか良い。
友奈達からも、クラスではその朗らかな笑顔とともすれば年寄り染みたとも言える大人の雰囲気からそこそこ人気もあるんだとか。クラスで1番運動が出来るとか、頭が良いからとかそういうのではなく、一緒に居て安心出来るから。
彼女……いずれは、楓にもそんな存在が出来る日が来る。いつかその人がアタシ達よりも大切になって、アタシ以外の家族が出来る。そうなればアタシ達から……アタシから離れて行く。前みたいに、アタシの手の届かないところに、行ってしまう。
(また、離れ離れになる……?)
それは……嫌だ。やっと一緒に暮らせるようになったのに。一緒に色んな事が出来るようになったのに。一緒に、色んな所に行けるようになったのに。
もっと、ずっと一緒に居たい。アタシの知らない誰かの所になんて行ってほしくない。アタシが知ってる人でも、嫌だ。もう離れ離れになるのは嫌。楓が居なくなるのは嫌。
「ちょ、風? 大丈夫?」
「え……?」
「いや、いきなり泣き出すから……」
友達に言われて目元に指を当てると指先が濡れていた。友達が言うように、嫌な想像をしている内にいつの間に泣いてたらしい。
「……大丈夫。ちょっと想像して、嫌だっただけだし」
「それ大丈夫なの? にしても……想像だけで泣いちゃうとか、ホント大好きなのね、弟君」
「……うん」
自分でも泣く程とは思わなかった。アタシは、アタシが思っている以上に楓の事が好きみたい。
(……好き、か)
何故か、さっきも思ったハズのそれが……さっきとは違う意味になった気がした。
― 普段の姉さんもそうだけど、チアリーダー姿の姉さんも凄く可愛かったからさ ―
他の男子に言われても、別になんとも思わなかった。でも、楓に言われると顔が熱くなって、少し恥ずかしくなって、それ以上に嬉しくなって。今みたいに離れ離れになるって思うと、想像するだけでも泣けてくる……そんなことを思うのは、こんな風になるのは……楓だけで。
(ああ、そういうことか)
自覚する。アタシは、本当に楓が……でも、それは抱いてはいけない
胸の奥が苦しくなった。また泣きそうなくらい辛くなった。それでも……それは気のせいだって、思うことにした。
切欠があって、自覚して、気付かないフリをして、蓋をして。そうして時間は経っていって……樹の歌のテストの数日前。この時のアタシは楓のこと、樹のこと、勇者部のこと、友奈に東郷、夏凜のこと、バーテックスに大赦……それに、自分の気持ちと色々なことが重なって不安定になっていた。楓に、弱音を吐いてしまうくらいに。
そんなアタシを楓と樹は甘えさせてくれて、何年ぶりかに3人一緒に、アタシを真ん中にして楓の部屋で眠ることになった。前と違って楓が直ぐ近くに居ることに緊張していたけど、2人の温かさからか、それとも両手を2人と握っているからか、思ったよりも早く眠れた。
そして、夢を見た。楓が、誰かの手を引いて……アタシから離れていく夢。アタシが何度名前を呼んでも振り向いてくれなくて、その誰かと一緒に遠い場所へと行ってしまう夢。
(楓……っ!)
嫌だ。また離れ離れになるのは、楓がアタシの側から居なくなるのは……楓が、誰かの側に行くのは、嫌だ。だから走ったのに、だから手を伸ばしたのに。追い付けない。届かない。残った左手は誰かに握られているから。その誰かがアタシよりも早く楓と共に居たから。
……認めない。そんなの、認めない。楓と誰よりも早く一緒に居たのはアタシなんだ。楓と誰よりも長く一緒に居たのはアタシなんだ。楓はアタシにとって大切な家族で、大切な弟で……そして、きっと。そう思いながら、叫んだ。
「楓っ!」
目が覚める。カーテンを締め切っているからかまだ少し薄暗い、見知った天井が目に入る。夢か……と一安心して、大きな声を出しちゃったし2人に悪いことしたなと思って……楓が居ないことに気付いて、自分でも分かるくらいに青ざめた。
夢のことを思い出して飛び起きる。樹のことを気にしてる余裕も無くて、部屋から飛び出して……リビングに入ると、いつものトレーニングをしてる楓を見つけた。
「うん? おや、姉さん。おはよう……どうしたんだい? そんな血相変えて」
「楓……!」
「おわっ」
腕立て伏せを中断して座る楓に、思わず抱き付いた。流石に受け止めることが出来なかったみたいで楓を押し倒す形になってしまったけど……それを恥ずかしいと思うよりも、今ここに楓が居ることに安心して、嬉しいと思ってるアタシが居た。
「楓……かえでぇ……」
「……姉さん? どうしたんだい……?」
楓はここに居る。今、アタシの腕の中に、確かに。夢のように誰かの所になんて行ってほしくない。いつか来る未来なんて来てほしくない。ずっと……ずっと、アタシの側に居てほしい。
蓋は、案外早く外れた。気持ちは、直ぐに抑えきれなくなった。それどころか抑えていた分膨れ上がって、もう止められなくて。
この想いが家族に向けて良いモノではないなんて分かってる。それでも、想ってしまったんだもの。止められない程に、我慢出来ない程に……大きくなってしまったんだもの。
「楓……ごめん……ごめんね……」
「姉……さん?」
「でも、止められないの……アタシから離れていくのが、耐えられないの。アタシ以外の誰かが楓の側に居るのが……嫌なの」
「何を……んんっ!?」
体を少し浮かせて楓の顔を見る。アタシよりも小さかった背は、もう殆ど変わらなくて。女の子みたいだった顔も、すっかり男の子らしくなって。戦いではアタシのことを気遣ってくれて……いつも、朗らかな笑顔で安心させてくれる。
残った左手に右手を合わせて指を絡める。この手は誰にも渡さない。この温もりは……渡さない。離してたまるか、渡してたまるか。大切な家族なんだ。傷だらけになってもアタシ達の所に帰ってきてくれたんだ。絶対に……渡さない。知らない誰かにも……他の部員にも、先代勇者にも。
馬乗りになって左手で楓の右の頬に触れる。そして、困惑している楓にゆっくりと顔を近付けて……何かを言われる前に、その口を自分の口で塞いだ。その時、楓がどんな表情をしていたのか……目を閉じていたアタシにはわからない。
「……姉、さん……」
顔を離すと、唖然とした後に辛そうな楓の顔があった。そんな顔をさせたい訳じゃないんだけど、ね。楓は真面目で、アタシ達のことをよく見てたから……それこそ、子供を見る大人みたいに。
アタシが不安定なことも気付いてくれてた。だから家族3人で寝ようなんて言い出したんだから。辛そうなのは……アタシの不安を取り除けなかったことを悔しく思っているのか。それとも、他に理由があるのか……それでもいい。楓の頭の中にアタシが居るなら、それで。でも……突き放されたくない。否定されたくない。嫌いになられたく……ない。
そう思うと泣けてきて、その涙が楓の顔の上にポタポタと落ちた。ごめんなさい楓。だけど、この気持ちが溢れるのが止められないんだ。家族じゃ……姉弟じゃ、我慢出来ないんだ。
なんで家族で、姉弟なんだろうね……アタシ達。血が繋がっていなければ、こんなに悩まなくていいのに。普通に、この想いを抱いていてもいいのに……家族で大切なのに、今はその間柄が憎い。それでも……。
「好きだよ、楓」
そんなにも……こんなにも……アタシは、あんたの事が。
「お姉ちゃん……お兄ちゃん……」
ベッドが強く揺れたことで起きた私は隣に2人が居ないことに気付いて、探そうと思ってお兄ちゃんの部屋から出てリビングに入ろうとした時……辛そうなお姉ちゃんの、そんな言葉が聞こえた。入り口から顔を少しだけ出して中を覗くと、泣いてるお姉ちゃんがお兄ちゃんに馬乗りになってて……下に居るお兄ちゃんが、凄く辛そうな顔をしてて。
……お姉ちゃんが、お兄ちゃんに告白したっていうのは……分かった。でも、それが許されない事だっていうのは私にも分かる。それでも、お姉ちゃんは……家族で一緒に寝るだけじゃ、ダメだったのかな。“家族”じゃ……ダメなのかな。
(ダメ……だったんだよね)
だから、泣きながら告白したんだ。常識と自分の気持ちがぶつかって、悩んで……でも、好きで仕方なくて。お兄ちゃんもきっと、そんな苦しくて仕方ないお姉ちゃんの心が分かってる。だから……どうしようもないから、黙ってるんだよね。
今、2人は2人しか見えてない。その頭の中では色んな事を考えているんだろうけど……それは、お互いの事に繋がって、お互いの事しか頭に無くて……勇者部の皆の事とか……私の事とか、横に置いてる。
また、置いていかれる気がした。2人が私を置いて、2人だけの世界に行くような気がした。お兄ちゃんが受け入れるにしろ、受け入れないにしろ……そこに、私はきっと居ない。
嫌……それは、嫌だ。一緒がいい。やっとまた3人で居られるのに、3人で居られたのに。2人が付き合えば、そこに私は居ない。付き合わないなら……きっと、壊れる。どっちも嫌だ。私は3人一緒が良い。独りは嫌だ。
どうしよう。どうすればいい? どうすればこのまま“家族”一緒に、3人一緒に居られる? お姉ちゃんを壊さずに、“家族”を壊さずに。
「……違う」
見れば分かる。もう今までの“家族”じゃ居られないんだ。私が
だったら、どうするか。問題なのはお兄ちゃんの方。お兄ちゃんが
「お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「っ!? い、つき……いつから、そこに……」
「樹……これ、は……その……」
「大丈夫だよお姉ちゃん。お姉ちゃんがお兄ちゃんのこと、男の人として好きなの……分かってるから」
考えを纏めて2人の前に出る。最初に気付いたお兄ちゃんが絶句して、お姉ちゃんが申し訳なさそうに言い淀む。でも、知ってるよお姉ちゃん……知ってる。分かってる。だから、そんなに怖がらなくてもいいんだよ。
「樹……分かってるって……」
「ねぇ、お兄ちゃん……お姉ちゃんだけじゃないって言ったら……どうする?」
「……樹? 何を……言うつもりだい?」
お兄ちゃんの顔が焦りの表情を浮かべる。やっぱり聡いよね、お兄ちゃん。もう私が何を言おうとしてるのか分かっちゃうんだから。
悩んでたのは、お姉ちゃんだけじゃないんだよ。それでも、“ソレ”はダメだって分かってたから……ずっと家族で居ようって、ずっと自分を騙していたのに……お姉ちゃんが壊しちゃったから。私が我慢してたのに、お姉ちゃんが我慢するのを止めちゃったから。
「もう“家族”じゃ居られないね。だって……“家族”だって思ってるの……もう、お兄ちゃんだけだもんね」
「樹……まさか、あんた……」
「私も
「待つんだ樹! 自分達は」
「家族じゃ、我慢出来なくなったから……兄妹じゃ、満足できないから。私はお兄ちゃんとお姉ちゃんの他に、何もいらないから」
私の願いは、私の望みは……あの日からずっと、それだけ。3人一緒に。“家族”じゃなくても良いんだ。大好きで大好きで仕方ないんだ。
だって側に居てくれたのはお兄ちゃんだけだったから。優しくしてくれて、元気をくれて、励ましてくれて、抱き締めてくれて……私の心の中に居るヒトはずっと……貴方だったから。
「大好きだよ……
だから、ずっと一緒に居ようよ。他の誰かなんていらない。お姉ちゃんと楓さんと私の3人で。大丈夫……今まで通りだよ。何にも変わらない。ずっと続いてた日々が、また今まで通りに続くだけだから。
2人が繋いでる手の上に私の手を乗せる。お姉ちゃんの手を間に挟んで、楓さんの指先と自分の指先を合わせる。彼は拒まない。ただ、辛そうな顔をしているだけで。
いつか、そんな表情もしなくていいようにしてあげないとね。友奈さんのことも、東郷先輩のことも、夏凜さんのことも、先代勇者のことも……全部、その心から追い出してあげよう。
「ねっ、お姉ちゃん」
「……そう、ね。アタシも……3人じゃないと、ダメ。楓が好きで、樹も大事だから。そうよ……3人でずっと」
「うん。3人で、ずっと、ずーっと」
「姉さん……樹……自分は……じぶ、んぐ……」
「……えへ。何も言わなくていいよ」
「ええ……何も言わなくていい。ただ、もう一度……聞いてね、楓」
もう、何も言わせない。私が、私達が望んだ言葉以外聞きたくないから。だから私は、自分の口で楓さんの口を塞いだ。
ねぇ、神樹様。私ね、やりたいことが……叶えたい夢が出来たんだ。このままずーっと3人で居続けることと……私達3人が、誰にも祝福されないとしても……恋人になること。神樹様は私達を勇者に選んだ神様だから……きっと、叶えてくれるよね。
「「大好きよ(だよ)……楓(さん)」」
楓さんの涙で濡れた右目に……私達の壊れたような泣き笑いの顔が映った。
いつから、姉妹は壊れていたのか。どうすれば、良かったのか。どれだけ悩んでも、楓には思い付かなかった。
あの日から、表面上は仲の良い家族として過ごしている。周囲の人間から見ても、少しスキンシップが激しくなったようにしか思えないだろう。兄妹間の仲の良さは周知の事実だったから。勇者部の部員達でさえ、そう思っていた。
だが……家に帰れば、姉妹はそれこそ恋人のように甘えてくるのだ。心からの好意を口にしながら、今にも壊れそうな笑顔を浮かべながら。ずっと一緒に居ようと、この3人以外いらないと、楓の心に、精神に刻み付けようとする。
いっそ、突き放せばよかったのか。それとも、姉妹の元に帰ってきたことが間違いだったのか。やはり大赦に管理されるのは、あの2人ではなく自分であるべきだったのか。
楓は苦悩し続ける。姉妹の甘い毒に少しずつおかされながら、姉妹以外にも居る自分にとって大切な人達のことを思って。その毒におかされきって堕ちるのが先か……それとも、部員達にこの状況が発覚するのが先か。どちらにしても言えるのは……。
その先にはきっと……明るい未来なんてモノはないのだ。
という訳で、抑え切れずに壊れてしまった風と実は割と前からぶっ壊れててそれをかくしてきた樹ちゃんの話でした。あんまり暗くはならなかったでしょ? あれ、感覚麻痺ってる?←
リクエストのご期待に応えられていたでしょうか? 中学生なので肉体的なアレコレは控えました。切なさとか辛さとか狂おしさとか、そういうの重視です。ヨスガるような話とは遠くなりましたが……まあ恋愛童貞なんで拙さは大目に見てください。
次回の番外編は絶対ほのぼの書く。絶対書く。他のリクエストもそろそろ消化していかないと……DEifも他の親密ルートもありますが。後はラジオか……質問募集して集まれば何とか……。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)