咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`)

誤字脱字報告、誠にありがとうございます! いつまでたっても無くならない……なぜだ。

ゆゆゆい二周年おめでとう! 記念ガチャでは防人服メブが来てくれました。初メブssrで嬉しかったです。リリフレでは新たに樹ちゃんが来てくれました。この子ホント強いわ。

さて、今回はDEifではありますが、ほぼ花結いの章です。特にDEif要素は無……かったらいいなぁ←


番外編 花結いのきらめき ー DEif5 ー

 それは、新たに歌野、雪花、棗の3人の勇者が加わった初めての戦闘でのこと。この時に加わった雪花、棗の2人は初めての多人数での戦闘と現代の勇者の力に少々戸惑うものの直ぐに順応し、他の勇者達とも連携を取ってバーテックスを殲滅していく。そうしていくことで少しばかり戦闘が落ち着いて猶予が出来た頃。

 

 「ふいー、一旦引いたかな? まだ来るっぽいけど」

 

 「お疲れ、銀ちゃん。このまま引いていって欲しいんだけどねぇ……」

 

 「新士君、銀。ずっと前線に居るけれど、大丈夫?」

 

 「大丈夫だよ須美ちゃん。他の皆も居るし、須美ちゃん達の援護もあるからねぇ」

 

 「そうそう、お前が矢で援護してくれてるから平気さ。愛してるぜぃ」

 

 「あ、あ、あ、愛って……愛って……!!」

 

 他の勇者達と共に前線で走り回り、バーテックスを攻撃していた新士と銀。少しばかり乱れた呼吸を整えてバーテックスが引いていった方を見ながら呟く2人に、須美が近付きながら心配そうに声をかける。新士は須美に安心させるように朗らかに笑いながら言うが、その後の銀の台詞に須美が顔を赤くして慌てる。

 

 「お、おい。軽口だろ? こっちも恥ずかしくなるリアクションするなよ」

 

 「乃木さん家の園子さんも、わっしーをアイラブユーよ?」

 

 「勿論、自分も須美ちゃんのことは好きだよ?」

 

 「すっ!? そ、そのっちはわ、私もって返せるのだけど……銀とし……新士君は……その……奇襲だったわ」

 

 「アマっち~、わたしは~?」

 

 「のこちゃんも好きだよ。銀ちゃんもね」

 

 「えへへ~♪」

 

 「くっ、流石新士……恥ずかしげもなく言いおって……」

 

 須美の反応に言った本人の銀も顔を赤くし、近くまで来ていた園子(小)も須美に愛を囁く。その流れに乗ってか、新士もクスクスと笑いながらさらりと言ってのけ、須美はそれを聞いて更に恥ずかしがる。

 

 そこで、自身のことがどう思われているのか気になった園子(小)がずいっと顔を近付けて聞いてみると、恥ずかしげもなく新士は彼女の頭を撫でつつそう言い、銀にも好意を口にする。無論、それは愛は愛でも友愛や親愛なのだが。聞いた園子(小)は嬉しそうに笑い、銀もまた恥ずかしそうにしつつ少し悔しげにする。

 

 「……」

 

 「東郷さん? 大丈夫?」

 

 「友奈ちゃん……うん、大丈夫よ」

 

 それを少し離れた場所で、東郷は複雑そうな、悲しそうな表情で見ていた。目の前に居る過去の自分達。まだ世界の真実など知らず、未来のことなど知らず、お役目に一生懸命だった頃。

 

 きっと、彼女達の中では4人がずっと友達で居られる未来があるのだろう。お役目を果たして、いつか平和な世界で楽しく過ごせる日々が来ると信じているのだろう。いずれ夢を叶えて、いつか好きな人と一緒になって……そんな、輝かしい未来を望んでいることだろう。

 

 ……そんな未来など、来るはずもないのに。未来(そこ)に、彼の姿はないのに。この不思議空間での問題が片付けば……元の世界に帰れば、自分達には残酷な現実が待っていて、彼女達には残酷な未来が訪れる。それを知るのは、その未来で生きている自分達と……悟ってしまった、彼だけ。

 

 「……大丈夫、よ」

 

 このままこの世界で……東郷はどうしても、そう思ってしまう。彼が居るのはこの世界だけで、また4人揃うのはこの世界だけで。それがいけないと知っていても、それでもとそう望むのは。

 

 (そんなにも……いけないことなのかしら)

 

 そこまで考えたところで、再びバーテックスが襲来してきた為に気持ちを切り替える東郷。戦い始める仲間達の援護に入り、意識してか無意識か新士の姿を贔屓目に視界に入れつつ狙撃していく。

 

 やってくる勇者が全員揃った初戦の戦いは、無事に勝利を飾って地域の解放も出来た。ただ……一部の人間の心に、“帰りたくない”という釘を打ち込んで。

 

 

 

 

 

 

 あれから日常を過ごし、そして敵の襲来にも対応していた勇者達。人数が増えたことで逆に攻め込み、バーテックスを倒すことで占領されていた香川県を完全に開放することが出来た。その際“カガミブネ”と言う機能が追加されたことで球子が愛媛に瞬間移動してしまうという珍事が起きたものの、何とか帰って来て事なきを得る。

 

 香川が開放された後、次の開放目標は愛媛になった。愛媛での戦闘中に新士と園子(小)が誰かから見られていると発言するものの、それはバーテックスとの戦闘で埋もれていく。そうして勇者達は激闘の末に愛媛での初戦を勝利で飾り、その地域を解放する。

 

 「はぁん、全部見ーちゃった。成る程ね、香川を解放したのはまぐれじゃないね」

 

 それを、同じ樹海に居る勇者達から遠く離れた場所で見ている存在が居た。桃色の髪をポニーテールにし、赤と黒の勇者服に身を包んだその存在は……結城、高嶋の両友奈と同じ顔に笑みを浮かべ、納得だと頷く。

 

 「男の勇者も見れたし、収穫はあったなー……次は私が相手しよ。あはは、胸が高鳴るなぁ」

 

 そう呟いた存在は、勇者達と同じように樹海からその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 「愛媛奪還第1戦、勇者部大勝利~! おめでとう~! どんどん、パフパフ~!」

 

 「皆さん、お疲れ様です。私達でご飯を作って待っていましたよ」

 

 「いっぱい作ったから沢山食べてくれよな!」

 

 「うたのんにはお蕎麦あるよ。沖縄そばとラーメンも作ってみたから……本場の味には敵わないけど」

 

 戻ってきた勇者達を出迎えたのは園子(中)、ひなた、銀(中)、水都。そして彼女達が作った沢山の気持ちの籠ったご飯であった。戦いの後なのでお腹が空いていた勇者達は西暦組と神世紀組に別れて各々の席に座り、美味しい料理に舌鼓を打つ。

 

 「では、食べながらで良いので聞いてください」

 

 そんな中、ひなたが話し始める。愛媛での初戦は無事、勇者部の勝利で終わることが出来た。今後はこのまま愛媛に存在する敵陣営へと攻撃を仕掛けていくことになる。が、解放した香川が再び占領されないように守ることも必要となってくると。

 

 「そうね、むしろ難しいのはここからかも。攻撃と防衛を両立させないといけないから」

 

 「なーに、難しいほど燃え上がる! それが、タマ魂ってもんだ! ご飯を食べ終わったら、すぐに次の地域に攻め入るぞ!」

 

 「先陣切るのは、この若い方の銀にお任せを!」

 

 「お前ご飯抜きな」

 

 「ああっ! 銀さんそんな殺生な!」

 

 「おっと、先陣を切る役目は男として譲れないねぇ……でも、まだ仕掛ける訳にはいかないんでしょう? ひなたさん」

 

 「その通りです、新士君。球子さんと銀ちゃんも落ち着いてください。攻撃を仕掛けるのは、神託が下ってからです」

 

 風が今後の動きの難しさに眉間に皺を寄せるが、むしろその方が燃えると球子、そして銀(小)が張り切る。その際にいつものノリで言ってしまった彼女の背後に素早く移動した銀(中)が銀(小)の前から用意したご飯を取り上げていく。無論、直ぐに返したが。

 

 そんな2人のやり取りに苦笑いしつつ、新士も自分も先陣にと立候補する。が、これまでの戦闘からそうはならないだろうとひなたに問いかけるとひなたは頷き、そう告げる。

 

 これまでの戦闘において、攻め込むタイミング等は全て神託が下ってから行動している。神託は下るのはその時こそが好機であり、それ以外では危険が大きい為だ。次に神託が下るまでは攻め入ることはない。なので、勇者達はしっかりと休養を取るようにとひなたは締め括った。

 

 「ところで新士君。その焼きそばは……?」

 

 「ああ、これはのこちゃんさんが作ってくれた奴だねぇ。前にも作ってもらったんだけど、あの時よりもっと美味しくなってるねぇ」

 

 「園子先輩の作った焼きそば……美味しそ~。ねぇねぇアマっち、一口ちょ~だい?」

 

 「いいよ。ほら、あーん」

 

 「あ~…ん~♪ 濃い目で美味しい~♪」

 

 ふと、須美が新士の前に()()置かれている焼きそばに疑問を持った。他の皆の前にはうどんやら蕎麦やらと皆の好物が置かれているのに対して、新士だけは焼きそばが置かれている。須美の記憶には別に彼は焼きそばが好物だ、という話はしたことがないし、食べていたのを見たこともない。故に、少し疑問に思ったのだ。

 

 別に隠すことでもないので新士はそう説明しつつ焼きそばを啜る。以前よりも己の好みの味付けになっており、更に美味しくなっていて自然と笑みが浮かぶ。その笑みと焼きそばを見て欲しくなった園子(小)がおねだりすると、新士はやはり恥ずかしげもなくその小さな口に焼きそばを入れ、園子(小)も幸せそうにしていた。

 

 「ふふ……あ、しまった……」

 

 「新士君? どうし……ああ……」

 

 「未来の彼女が過去の彼氏へ作った料理……それを過去の彼女へと……小学生カップルによるあーん、それも間接キス付きで……はぁ♪」

 

 「土居さん……何とかしてあげて」

 

 「無茶言うなよ千景……もうタマはこの状態のあんずをどうすればいいのかわからんぞ」

 

 そうした後になって、新士は己の失敗を悟る。その事に真っ先に気付いた東郷がどうしたのかと疑問を投げ掛け……る前に彼の視線の先に居る杏の姿を見て疲れたような声を上げた。

 

 新士と園子(小)のやり取りを見ていた杏は何やらぶつぶつと呟きながらうっとりとしていた。それを横目で見た千景が気の毒そうに新士を見た後、球子にそう言うものの何度もこの状態になった杏を見てその度に対応していた球子ですら、最早どうするべきかわからないという。

 

 そうした微妙な空気が混じりつつ、皆で楽しく過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして数日後、2戦目の戦いに身を投じる勇者達。1戦目の時よりも更に多くの現れるバーテックスを倒していく中で、数人が妙に東郷が狙われていることに気付く。結城を筆頭に東郷を守りながら戦っている最中、杏が狙われる理由が彼女が“巫女”の資質を持つからではないかと予測を立てる。

 

 新たな移動手段であるカガミブネは今回のように拠点がある香川から敵地である愛媛へと勇者達を運ぶことが出来る。しかし、その移動の為にはひなた、水都、そして東郷のような巫女の存在が不可欠となる。戦場へと赴ける巫女は東郷のみの為、彼女が居なくなれば造反神側が戦略的に有利になるからだと。

 

 しかし、そうなると疑問に思うのはなぜ、急にそんな人間が考えるような戦略的な行動をバーテックスがしてきたのかだ。思わず杏にそう問い掛ける須美だったが、その答えは別の場所から来た。

 

 「それはね、私が命令しているからだよ」

 

 それは結城、高嶋と瓜二つの声をしていた。その声がした方向を皆が見てみれば、そこには赤と黒の勇者服を着た、2人の友奈と同じ顔をした少女の姿があった。

 

 「ばぁーん。皆、はじめましてだね」

 

 「「3人目!?」」

 

 「どうだろうね?」

 

 何人かが驚愕の声を上げる中で、友奈達に似た少女が手を振りながら挨拶をする。思わずそう叫んでしまう友奈ズに対し、少女ははぐらかすように言い、大量のバーテックスを勇者達にぶつけてどこかへと去っていく。

 

 突然現れた友奈達に似た彼女の正体が気になる勇者部はバーテックスを倒し、彼女の後を追う。意外にも彼女はそれほど離れてはおらず、追い付くことが出来た。

 

 「スゴいね。やっぱり簡単には無理か」

 

 「……さっきのバーテックスの群れ、アンタの指示に従ったように見えた。アンタ……いったい何なのよ」

 

 「あ、そうだった……自己紹介だね。私の名前は……」

 

 “赤嶺 友奈”。それが彼女の……そして、勇者達とこの不思議空間で短いような、長いような敵対関係となる()()()()の勇者の名前であった。

 

 “赤嶺”と言えば、大赦では名家の1つに名を列ねている。そのことに夏凜が反応して声を上げると赤嶺はそれを肯定し、その赤嶺家の“友奈”であると言った。

 

 「……こ、こんにちは。結城 友奈です」

 

 「うん。ある意味私の後輩だね~。よろしく、結城ちゃん」

 

 「コーハイ?」

 

 赤嶺の後輩という言葉に首を傾げる結城。本人曰く、彼女は神世紀、その序盤の時代から召還されたと言う。つまり彼女は勇者部に存在する勇者達とは、誰1人として同じ時代の人間ではないということになる。

 

 「こんにちは……高嶋 友奈です」

 

 「高嶋さん……貴女は先輩。貴女が居なければ私は……“私達”は居なかった。会えて嬉しいな」

 

 「え? それってどういう……子孫、とか?」

 

 「子孫じゃないよ。でも、同じ“友奈”。逆手を打って生まれたからね、そういう名前になるんだ」

 

 その後も会話、問答が交わされるが赤嶺は情報を喋ることはなかった。本人曰く説明は得意ではなく、しようとすると“どーんときて、ばーん”などの雑音が入りそうになるのだと言う。名前は同じでも別人であるのに共通点が多く、思わず夏凜が頭を抱える。

 

 その問答の中で雪花が問う。“赤嶺 友奈は敵か味方か”と。ストレートな聞き方に何か言いたげにする風だったが、それを楓が視線で止めた。彼も……彼だけでなく他の者達もそれはハッキリとさせておきたかったからだ。

 

 「敵だね。私は造反神の勇者だから」

 

 「っ!? 造反神も……勇者を召還出来るの?」

 

 「出来るんだろうねぇ。現に赤嶺さんが目の前に居る訳だし」

 

 そこまで言って赤嶺は自己紹介は終わりだと話を切り上げ、また大量にバーテックスを勇者達へとぶつけてどこかへと去っていく。勇者達は赤嶺を追い掛ける為、そのバーテックス達を即座に殲滅する為に動く。

 

 殲滅は直ぐに終わった。この場に居る勇者は園子(中)と銀(中)を除いても16人も居る上にこれまでの戦闘で連携も取れている。早々苦戦することはない。再び追い付いた勇者達に、赤嶺も再び称賛の声を上げる。

 

 彼女の称賛の声を無視し、若葉が問う。愛媛に来てから彼女も新士と園子(小)のように視線を感じていたのだと言う。その正体は赤嶺なのかと。答えは是。香川が奪還されたことにより、自分が直接動くことにしたんだとか。

 

 「本当に敵なのね。なんなのいったい……ゲームで言うネガ、もしくはダークサイドキャラということ?」

 

 「まあ、そういう感じかな? 私は造反神側の勇者。だから造反神が造ったバーテックスを操れる」

 

 「造反神が暴れ回れば、神樹様がバラバラになって……四国が滅びるかもしれないんですよ!?」

 

 千景の疑問に、赤嶺はそう返す。言われてみれば不思議でもないだろう。バーテックスが兵隊ならば赤嶺はその隊長、操れない道理などない。

 

 そして杏の叫びに近い疑問。赤嶺が神世紀序盤の勇者である以上、彼女もまた四国に住む者。それも勇者なのだから、神の恩恵を受けている筈。その彼女が四国が滅びるかもしれない危機でその敵側に居るのは何故なのかと。

 

 赤嶺の返答は“知っていて味方している”。曰く、彼女の時代ならではの事情があり、それは彼女の時代の人間ならば造反神に協力する理由が分かるらしい……逆に言えば、彼女の時代の人間が居ない勇者部の者達ではわからないという。

 

 「要するに、殆ど問答無用って訳? 困ったわね、バーテックスとなら戦えるけど……」

 

 「人間相手は不馴れかな? 逆に私は対人戦の方が慣れてるんだよね~。時代柄……まあ、あれだよ。姿を出したのは宣戦布告と名乗りが目的だから、戦力が整うまで今は引くよ」

 

 そう言って赤嶺は、また大量にバーテックスを置いて去っていった。そのバーテックス達の対処を余儀無くされた勇者達は、赤嶺を追い掛けることが出来ず……バーテックスを倒して拠点へと戻ることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 「そうですか……赤嶺 友奈、さん。謎の存在ですね」

 

 戻ってきた勇者達を出迎えたひなた達にも赤嶺のことを伝えると、そんな返答が帰って来た。ひなたとしても、造反側が勇者を召還しているというのは予想していなかったらしい。

 

 水都も赤嶺……造反神側の勇者と戦うことに、勇者対勇者という構図に困惑と忌避感を抱いていた。また、勇者はバーテックスを倒す存在だと認識している小学生組も対人戦に対して乗り気ではない。

 

 「っ、なんだ、急に風が……?」

 

 「部室の中で吹き荒ぶ風!? これは、まさか!?」

 

 「みんなー。もしかして私の噂をしていたのかな? どうも、赤嶺 友奈です」

 

 少し暗い空気になる部室に、突然風が巻き起こった。訝しげにする楓と千景が驚くも、もしやと部室の扉の前に目をやると……そこには、先程相対していた赤嶺が勇者服姿で存在していた。曰く、ひなたのことも見ておきたくて着いてきたのだという。狭い部室ではあまり身動き出来ない為、勇者達にも緊張が走る。

 

 「うん、若葉さんと並ぶとお似合いだよ」

 

 「お似合いって……そんな事、言われなくても自覚しています!」

 

 「いや、ひなたさん。そんな胸張って言わなくても……」

 

 「……流石、強力な伝説を残した人だね……」

 

 「いい度胸してるわねーチミぃ。この勇者でみーっちりの勇者ルームに乗り込んでくるなんて」

 

 「およ、もしかして私を捕まえようと? 無理だよ、捕まえることは出来ない。私も攻撃意思はないけど」

 

 赤嶺が若葉の隣に居るひなたを見ながら言うと、ひなたはキリッとした表情で胸を張りながら強めに言ってのける。それを聞いた何人かが軽く脱力し、代表するように新士が力無く苦笑いしながらツッコんだ。

 

 突然やってきた赤嶺に対し、雪花がスマホを片手に赤嶺に言う。何せこの場には先程は居なかった園子(中)、銀(中)も居るのだ、敵の拠点に攻め込むつもりならば悪手だろう。が、彼女は捕まえることは出来ないと言い、東郷も敵だと言う割には今の赤嶺からは緊張感が伝わって来ない言う。

 

 「今は戦う気ないから。私はね、試合開始ってなったら勝つために一生懸命になるけれど……ゴングが鳴る前から襲いかかったりはしないよ。今来ているのは挨拶の続き」

 

 「樹海化していない今は、戦闘意志が無いということか……」

 

 「はい!」

 

 「何故突然良い返事になったんだ」

 

 何故か棗の言葉に良い返事を返す赤嶺。その事を球子がツッコんだもののそれはスルーされ、赤嶺は彼女曰く“挨拶”を続ける。彼女は勇者達に知っておいてほしいことがあると言う。それは、赤嶺自身は勇者達を倒す気はあるが戦闘で殺めようとは思っていないこと。

 

 そうは思われていても神樹が分裂してしまえば、それは勇者達にとって死活問題。そう須美は言うが、そんな事を言いたいのではなく、対人だからと重く考えずに全力でぶつかってこいとのこと。そして、赤嶺が敗北を認めれば“友奈”に関する謎も造反神の正体も全て明かすと言う。

 

 「だから存分に競い合おうよ。こちらの数の不利は疑似バーテックス達で埋めるからさ」

 

 「……何だか不思議な人だね。まるで対人に関しての不安を取り除くように……」

 

 「じゃあそういうことでグッバイ。次の神託の日……樹海化がゴングだよ。そしたら、全力で行くから」

 

 「おっと、逃がす訳にはいかないねぇ」

 

 「そういうこと。って訳で召し捕ったりぃ! ほら、皆も新士君みたいに押さえて押さえて!」

 

 敵対しているにも関わらず勇者達の対人の不安を取り除こうとしているようにも見える赤嶺の行動に園子(中)が疑問に思うも、それに答える事はなく赤嶺は去ろうとする。が、そうは問屋が下ろさないと新士がその左手首を掴み、同時に雪花が後ろから羽交い締めにする。

 

 「だから無理なんだってば。戦いの決着はしっかりと樹海でつけようよ。じゃあね……男の子の勇者も、ね」

 

 しかし赤嶺は他の勇者達にもその体を押さえられても余裕の表情を崩さず……そう言って、また部室内に突風が巻き起こったかと思えば、赤嶺の姿は影も形も無くなっていた。

 

 その事、赤嶺をどう対応するかで話し合ったが……結論として、本人が言うように樹海で相対した際に取っ捕まえて色々と聞き出すということになった。その際に雪花が対人に関して少々容赦ない発言をして即座に撤回するということもあったが、それはスルーされた。

 

 「因みに、新士君はどうなの? 対人戦」

 

 「そうだねぇ、自分も人間相手は慣れてる訳でもないけど……」

 

 「けど?」

 

 「自分は、あの赤嶺って人よりも須美ちゃん達の方が大事だからねぇ……躊躇うつもりはないよ」

 

 「……そっか」

 

 そうして皆が話し合っている時、小声でそんな会話をしている東郷と楓の姿があったそうな。

 

 

 

 

 

 

 その後、赤嶺との戦いが起きた。樹海に大量のバーテックスを配置し、それを勇者達に対処させている間に赤嶺本人は拠点である勇者部の部室に居る巫女達を急襲する。しかし、そこには切り札として温存されていた園子(中)と銀(中)が居た。今の今まで変身機能がロックされていた2人だがこの時になってそのロックが解除され、変身した後は圧倒的な力で赤嶺の連れてきたバーテックスを一掃する。

 

 陽動に気付いて戻ってきた勇者達と合流し、そして赤嶺との戦いに勝利した。が、また少し情報を喋った程度で赤嶺に突風と共に逃げられてしまう。それからしばらく戦いがあったものの、そこに赤嶺が出てくることはなく、勇者達の快進撃が続いていった。

 

 その快進撃がしばらく続いた後に、再び赤嶺は現れる。それも今回は秘密兵器として“精霊”を用意してきたのでそれを使うという。

 

 「私が持ってきた精霊は……造反神が造ったオリジナルでね。人の姿に変身するんだ……言うなれば、自分自身との戦い、かな」

 

 そう言った赤嶺の隣に、私服姿の須美に変身した精霊が現れる。赤嶺がその精霊に攻撃を仕掛けるが、精霊にダメージは見受けられない。

 

 曰く、この精霊にはその姿の元の人間で無ければ倒せないのだと言う。つまり、今の須美の姿をしている精霊は須美本人でしか倒すことが出来ないということになる。

 

 勿論、それだけ強力な能力を持つからには何かしら制約がある。この精霊は変身すれば肉体的な攻撃は一切出来ず、物理的には無害である。しかし、例え本人であっても物理的な攻撃では倒せない。ならば、どうするか。

 

 「この精霊はね、変身した人に対して質問を投げ掛けたり論戦を仕掛けたりするんだ。その質問に対して答えられなかったり……論戦の末に論破されたりすると、悲しい事が起こる」

 

 それは精神世界で行われる自分との戦い。もしも負ければその精霊に取り憑かれ、この世界で戦うことが出来なくなってしまうと言う。質問の内容は本人にとってエグいモノが飛んで来るんだとか。

 

 どんな話が飛んで来るのか、本人達にも予想出来なかった。だが、誰もが負けないという意思を持っていた。どんな質問が飛んできたとしても、どんどん論戦を仕掛けられたとしても、それに打ち勝ち、またこの世界に戻ってくるのだと。

 

 ― まだ、この世界で一緒に居たいんだから ―

 

 東郷……そして園子(中)、銀(中)は新士に視線を送りながら、そう心の中で思うのだった。




という訳で、赤奈登場回でした。精霊との問答ですが、ざっくり終わらせるつもりです。一応番外編なんで、そこまでがっつりやるつもりはないので。

次回からは本編勇者の章を予定。事前に何度か言っていますが、原作との相違点が多いので原作通りになるということはないと思います。話の流れ上、友奈の心にがっつり傷が付くとは思いますがね(不穏

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