咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`) 前回よりは早く投稿出来ましたが、それでも最初の頃に比べれば遅くなりましたね……お待ちしている皆様、申し訳ありません。

ゆゆゆいイベントが重なって辛い。たかぐんの背景は絶対取りたい。尊い……ランイベは何とか超級まで星全部取れました。

突然ですが、エガオノキミヘ、1番の歌詞に須美、銀、園子の名前が入っていてとても素晴らしい曲ですよね。どこかに“かえで”か“しんじ”って入れられないかな……楓は無理そう←

今回もほのぼの空間。安心して見てください……ね(不穏

あ、後書きにまたアンケートです。


咲き誇る花達に幸福を ー 3 ー

 今日は身体測定の日。この日の為に私はお姉ちゃんが作る私の好物の料理の誘惑に頑張って耐え……一口だけならと思って食べて我慢出来なくなってやっぱり全部食べちゃったけど……お菓子だって控え……東郷先輩のぼた餅をお兄ちゃんから少し食べさせてもらったりしたけど……そして今、私の手には結果が書かれた紙がある。

 

 大丈夫、大丈夫……と何度も自分に言い聞かせる。近くで友達が一喜一憂してるのを見て、ちょっと怖くなる。だけど、いつまでも逃げている訳にはいかない。いざ……! そう気合いを入れて紙を開き、身長、体重、スリーサイズと目を通す。

 

 

 

 「ぴゃー」

 

 

 

 そして、地獄を見た。ついでに変な声も出た。

 

 

 

 

 

 

 「はぁ……」

 

 「あれ? 樹ちゃんだ。やほー♪」

 

 「あひゃああああっ!?」

 

 身体測定表を手に暗い顔をしながら廊下を歩いているのは樹。どうやら彼女にとって散々な結果に終わったらしい。

 

 そうして歩いていると、友奈と美森とばったり会った。完全に不意を突かれた樹はビクッと両手を上げ、その口から悲鳴が上がる。その様子に、そこまでびっくりしなくても……と2人の顔に苦笑いが浮かぶ。

 

 「あ、ああ……すみませんっ! 私のことは忘れてください!!」

 

 「樹ちゃん!? いきなりどうしたの!?」

 

 「その台詞、何か変だよ!?」

 

 突然妙なことを口走り、2人の横を通り過ぎる樹。彼女の行動に2人はびっくりして通り過ぎた樹の方を向くと……そこにはぽってこぽってこ、と重低音の足音を立てながら逃げ去る彼女の姿。しかし、その速度は遅かった。

 

 様子が変なことを心配した友奈と美森にあっさり捕まり、途中で夏凜、園子、銀と合流し、校舎と旧校舎の間にある人気のない渡り廊下、その外れに移動した6人。そして友奈が樹にどうしたのかと聞いたところ。

 

 「えーっ!? 太った!?」

 

 「しーっ! 声が大きいです!」

 

 「太ったって……見た目は別に変わんないじゃん」

 

 「そうね、気にしすぎじゃないの?」

 

 友奈が思わず大きな声を出してしまい、樹が直ぐに注意する。太った、と言われたのでじっと彼女の体を見てみる5人。しかし銀は首を傾げながらそう言い、夏凜も腕を組みながらそう続ける。言葉にはしないが、他の3人も同意見であった。

 

 しかし、樹は溜め息を吐きながら身体測定が酷い有り様だったと告げる。具体的な数値は出さないが、前回よりも……まあ酷かったと。

 

 「私、顔とかには出ないんですけど……」

 

 そう言った彼女の手が自身の胸に触れ、すっと垂直に落ち、ぽこっと腹の部分で少し手が動く。片手で行ったそれを両手で行い、その度にすっぽこすっぽこと悲しい動作が起きる。しまいにはぽろぽろと樹の両目から小粒の涙まで溢れる始末。

 

 「……なんで(こっち)に来ないんだろう」

 

 【(かける言葉が見つからない……っ! ……あっ)】

 

 友奈は涙する樹に貰い泣きしてしまい、4人は何も言葉にすることが出来ない。というか、言葉が見つからない。平均かそれ以上に胸がある彼女達が言ったとしても、それは樹の心を深く傷付けることになりかねないからだ。そんな考えの後、友奈を除く4人が何かに気付いたようにハッとする。

 

 胸の話題から逃れる為か、美森が何か原因に心当たりはないのかと聞いたところ、即座に姉だと返ってくる。曰く、毎日のように自分の好物を沢山作るのだと言う。

 

 「イッつん、もっと強く意思を持って~」

 

 「だから樹にも全部は食べないでいいって言ってるのにねぇ」

 

 「私もそうしたいのは山々だけど、お姉ちゃんが凄く悲しい顔をするし……ん?」

 

 園子がぽやぽやと笑いながら言う隣で苦笑いしながらそう言う楓。樹としても毎回量が多いし楓が風に量を控えてあげてと言ってくれるのでそうしたいのだが、残そうとするか量を減らそうとすれば風がしょんぼりと悲しげにするので何ともやりづらいのだ。

 

 そこまで言ったところで、樹がおや? と首を傾げる。さっきまでこの場に居なかった筈の人間が居たような……そう思って園子の方へと顔を向けると、そこには園子……と、その右隣にひらひらと樹に手を振っている楓の姿。

 

 「……お兄ちゃん……いつからそこに……?」

 

 「樹が泣き出した頃からかな。いきなり泣き出すから何事かと思えば……来ない方がよかったねぇ。ごめんね、樹」

 

 「気付いてなかったのか樹……」

 

 「あれ!? 楓くんいつの間に!?」

 

 「友奈も気付いてなかったんかい!」

 

 「友奈ちゃんと樹ちゃんは渡り廊下から背中を向けていたから……気付かなくても無理はないわね」

 

 「でも同じように背中向けてた須美は驚かないのな?」

 

 「楓君と友奈ちゃんの気配は分かるもの」

 

 「わっしーはぶれないね~」

 

 カタカタと震えながら顔を真っ赤にして聞く樹に、楓は苦笑いのまま溜め息を吐く。彼としては泣く樹を勇者部の仲間達が慰めているように見えていたので何事かと近付いて樹の前へと回り込んでみれば、手には身体測定表、話題は食べ物や何かの原因。そして女性ばかりとくれば……察してしまった楓としては妹のデリケートな問題なので来てしまったことへの罪悪感が凄い。

 

 楓が来ていることに気付いていた銀は気付いていなかった樹に苦笑い。同じように気付いていなかった友奈が楓を見て驚愕の声を上げ、夏凜がツッコむ。そんな2人をフォローするように美森が右手の人差し指を頬に当てながら言い、2人と同じように背を向けていたにも関わらず気付いていた美森に銀が問うと笑顔と共にそんな答えが返ってくる。それに対し、園子はぽやぽやとした笑顔で感想を溢した。

 

 因みに、楓が渡り廊下を歩いていたのは彼だけ体の関係で1人旧校舎で身体測定を受ける為に向かっていたからである。

 

 「風先輩ってあれだよね」

 

 「食べさせるの大好きさん~♪」

 

 「私の誕生日の時にもわざわざ作ってきたくらいだしね」

 

 「食べるのも大好きですけどね……食べるのも作るのも量が……」

 

 「楓はそれ、毎日食べてるんだよな。よく太らないな」

 

 「昔の名残でトレーニングを続けてるからかもねぇ」

 

 「楓君は昔から朝早くからしてたものね……それはそうと、作り手としたら風先輩の気持ちも分からなくはないのだけど。いっぱい食べてもらえると嬉しいもの」

 

 美森がぼた餅をよく作ってくるように、何かとお弁当やら炊き出しやらお祝いやらで勇者部の部員達にも料理を振る舞うことが多い風。新しく入った園子と銀も少し前に依頼の一環で料理を口にしていたので友奈と樹の言うことも理解出来る。

 

 樹と同じ食生活を送っているにも関わらず一見すれば細身の楓を見て銀が不思議そうにするが、楓の言葉を聞いて銀だけでなく先代勇者の3人が納得の表情を浮かべる。夏凜もそれを聞き、流石……と感嘆の息を漏らした。

 

 そんなこんなで話は進み、結果として放課後に有明浜にて少しでも運動して痩せようという結論になった。自分は居ない方がいいのでは? と楓が言うものの、園子が一緒に居たがったので同行することに。そう決まったところで、身体測定がまだだった2年生5人は樹と別れて自分達の身体測定へと向かうのだった。

 

 

 

 「樹ちゃん、一緒に頑張ろう!」

 

 「友奈ちゃん、ちょっと増えてたみたいで……」

 

 「あー……」

 

 「まだかい? のこちゃん、銀ちゃん」

 

 「もうちょっと~♪」

 

 「もう少し待ってやってくれ……」

 

 そして放課後、体操着に着替えて有明浜にやってきた7人。樹だけが頑張るのかと思いきや、そこには同じようにやる気満々な友奈の姿。どうやら彼女も少し増えていたらしい。そうした会話をしてる間、楓は何故か園子に両手で目隠しされ、銀に両耳を塞がれていた。友奈のプライバシーを守るための行動なのだろうが、悲しいかなこの状況の時点で楓は色々と悟ってしまっていた。言わないのは彼の優しさだろう。

 

 「私が見るからには半端は許さないわよ! 返事!」

 

 「「はっ、はい!」」

 

 「よろしい! まずは柔軟から! 始めっ!」

 

 「折角だから楓もやってみる?」

 

 「何もしないのも暇だからねぇ……やってみようか」

 

 夏凜がやる気を出して指示役となり、まずは2人に柔軟をさせる。折角なので、と楓も何故か一緒に運動することに。友奈は地べたに座り込んで足を目一杯開き、美森に背中を押してもらうとペタリと胸が地面に着く。

 

 「わあ、友奈ちゃん柔らかい」

 

 「それじゃあ自分も……っと」

 

 「おお……男の人でそんなに柔らかいの初めて見た」

 

 「柔軟は大事だったからねぇ」

 

 「楓くんも柔らかいねー」

 

 「本当にね」

 

 その左隣で、楓が同じように足を目一杯開いて地べたに座り、銀に背中を押されると友奈と同じように胸が地面に着く。勇者の訓練として武術を習ったり組手をしたりとしていた楓は、当然体の柔軟性を保つ為のストレッチや柔軟も念入りに行っている。その結果がこうした体の柔らかさであった。

 

 そうして4人がのほほんと会話をした後、肝心の樹はどうだと友奈の右隣で園子の手を借りて同じように柔軟をしている筈の樹へと視線を向ける。

 

 

 

 「ふぬ~~~~っ」

 

 

 

 そこには、真剣な顔をして体を倒そうと両手を前に突き出している……しかし、ほんの数センチだけしか体が前に倒れていない程かっちかちに体が硬い樹の姿。これには兄である楓も苦笑いしか浮かばない。

 

 「大丈夫だよイッつん。二の腕はぷにぷにして柔らかいから」

 

 「うわああああんっ!!」

 

 「こら園子、樹にトドメを刺すんじゃない」

 

 そんな悲しい出来事の後にランニングを始める樹と友奈。何故か友奈だけタイヤにロープで繋がっている状態で走らされている。これまた楓も折角なので、と2人と一緒に走ることになった為、並んで走っていた。

 

 「そういえば、風先輩っていつからそうなったのかな?」

 

 「ぜーっ……はーっ……ふぇ……?」

 

 (樹……体力も無いのか……)

 

 ふと、走りながら友奈がそんな疑問を口にした。友奈が言うには、出会った頃から風は食べさせるのが好きな人間だった。彼女の料理を初めて口にしたのは勇者部発足して直ぐの花見の時だが、その後も何かと作ってきては食べさせてくれてきた風。そうなったのは、いったいいつからなのかと。

 

 ぜはぜはと1人息も絶え絶えな樹は楓に今日何度目かの苦笑いをされているとも知らず、友奈の言葉からいつからだったかと考え……割と直ぐに思い出すことが出来た。

 

 風が料理を作るようになったのは、両親が死去し、まだ楓も戻ってきていない頃。勇者候補として風が大赦に行くようになり、どちらも料理なんて出来ない為に食事は専ら冷凍食品や出来合い物ばかり。例え電子レンジで温めたとしても、それは樹にとって冷たくて味気ないモノばかりで、それを独りで食べることもあって寂しい思いもした。

 

 だが、風はそんな樹の為にとなるべく大赦から早く帰ってきては料理を作るようになった。慣れない内は生焼けだったり焦げたりしていたが、それでも樹にとってはとても温かくて、美味しくて……お腹だけでなく、心まで満たしてくれるモノであった。そんな家族の笑顔を見るために、風は料理を作り続け……今の料理の腕がある。彼女が食べさせるのが好きなのは、樹の、家族の、誰かの笑顔を見たいが為なのだ。

 

 「だから……お姉ちゃんは、あのままでいいんです……ぜひっ……私の為に作ってくれたから……ぜひゅっ……だから、体重は、私が、頑張……うぶっ」

 

 「わー! ごめんね樹ちゃん! 走るのが終わってからでいいから、無理して今言わなくていいから!」

 

 「そんな状態でなければ、いい話だったのにねぇ……」

 

 そうした綺麗な思い出を走りながら喋り続けた樹。友奈だけでなく他の5人も黙って聞いていた為に止めることを忘れていたので、走るのと喋るので二重に体力を使っていた樹は今にも死にそうな表情で息も絶え絶えで走っていた。

 

 そんな風に必死になって痩せる為に運動をした後、帰宅した樹と楓を迎えたのは風が作った2人の沢山の好物達。一口だけなら、また明日からも頑張れば……そう言って食べながら嬉しいとも悲しいとも取れる表情を浮かべる樹を、楓はまた苦笑いして見ていた。

 

 

 

 

 

 

 そうして体重を減らそうと頑張ると決めた日から更に数日。友奈、樹、風の3人は部室にて大量のコンビニスイーツをテーブルの上に並べ、3人でもっちもっちもっちもっちと幸せそうに食べていた。こうして大量のお菓子があるのには、勿論理由がある。

 

 それは、新聞部の“新作コンビニスイーツ食べ比べ”記事作成の依頼であった。後に記事を作らなければならないとは言え、美味しいスイーツが新聞部の代金持ち、事実上食べ放題ということで幸せそうにしている。2人は体重云々は頭から抜け出ているだろう。

 

 「でもこんなに散らかしたらお兄ちゃんと東郷先輩に怒られますよ」

 

 「大丈夫よー、終わったらすぐ片付けるし、平気平気♪」

 

 どれだけ食べたのか、部室の隅に食べ終えたゴミが山と積まれている光景を見て樹が冷や汗をかく。基本的にニコニコとしている楓と美森だが、その分怒ると怖い。今は3人しかおらず他の5人は別の依頼に出ているが、この惨状を見られれば確実に怒られるだろう。それを危惧するが、風はお気楽そのもの。

 

 「そうそう、まずはお仕事を……」

 

 そこまで友奈が言った時、ゴミの山から“カサ……”と小さな、しかしはっきりと物音が聞こえた。なんだなんだと3人が顔を向けると……そこには、黒い“奴”の姿があった。

 

 「出たわね……」

 

 「うん……」

 

 「勢いのまま部室から逃げちゃいましたけど、どうしましょう風先輩……」

 

 “奴”の姿を見るなり全力で部室から逃げ出した3人。短い距離にも関わらずぜーはーぜーはーと息を切らしている辺り、精神的な余裕の無さが窺える。

 

 「この中で“アレ”が大丈夫な人ー? ……それでも勇者かい」

 

 と風が2人に聞くが、樹は最早懐かしいスケッチブックを取り出して“ぜーったい無理!”と書き、友奈は全力でいやイヤ嫌々と首を振る。呆れながらそう言った風だったが、友奈にじゃあ風はどうなのかと聞かれれば“女子だから無理”と死守したロールケーキを食べながら即答。そんな説得力の無い姉の姿に、すかさず樹も“説得力皆無”だとツッコんだ。

 

 「誰か援軍を呼びましょう!」

 

 「グッドあいでぃーあっ! で、誰呼ぶ?」

 

 「お兄ちゃんと東郷先輩と園子さんは依頼で遠出中だし……」

 

 「夏凜ちゃんと銀ちゃんは有明浜でマテ貝採りのお手伝い中です!」

 

 「よし! なら夏凜と銀に連絡……」

 

 そこまで言ったところで、3人が同時に“あっ……”と溢す。思い出してしまったのだ……連絡手段であるスマホは部室の中に置き去りにしてしまった自分達のカバンの中であると。

 

 「じゃあ私、夏凜ちゃん達を呼んできます!」

 

 「逃がすかぁ!!」

 

 「ズルいですー!」

 

 2人を呼びに行くのを口実にその場から逃げ出そうとする友奈を姉妹が2人がかりで引き留める。流石の友奈も勇者に変身する前は普通の女の子としての力しかない為、2人を振り払うことは出来なかった。

 

 友奈を引き留めた後、風は何故か作戦会議をすると発言。何を会議するのかと友奈が聞けば、“奴”の呼び方(コードネーム)を決めるのだと言う。

 

 「それ必要?」

 

 「じゃあ普通に言う? ゴキ……って」

 

 思わず樹がツッコむが、風がそう聞けば2人は耳を塞いでまたいやイヤ嫌々と首を振る。“奴”の姿を見ることはおろか、名前すら聞くのも嫌なのだ。大半の人間はそうであろうが。

 

 「……で、これからどうするの?」

 

 「まっ、まずは偵察よ! 友奈、行くわよ!」

 

 「うぃすっ!」

 

 「「いざ、勇者合体!」」

 

 あれこれ話し合った結果、“奴”のコードネームは“ダークサイド”……縮めて“ダーさん”と呼ぶことになった。呼び方1つ決めたことでやり遂げた感を出す風だが、樹に聞かれたことでなんとか言葉を捻り出し……妙な台詞と謎のポーズをした後、風の肩に友奈が足を乗せて上の窓から部室の中を覗こうとする。

 

 「風先輩、もうちょっと右です右!」

 

 「うおおおお女子力パワー!」

 

 「それ、意味が被ってるよお姉ちゃん……」

 

 「……いや、何やってんのよあんたら」

 

 「マジで何やってんすか風さん達は……」

 

 そうして試行錯誤している途中、待望の2人が戻ってきた。それに気付いた友奈と風は直ぐに合体を解除し、樹と共に2人に近付いてかくかくしかじかと部室内の説明をする。

 

 ダークサイドだダーさんだと言われてもなんのこっちゃ分からんと疑問符を浮かべていた夏凜と銀だったが、説明を聞いていく内に銀はなるほどと首を縦に振り、夏凜の顔が青ざめていく。

 

 「まっ、まままままままままかせなさい! こ、こここんなのちょろ、ちょろろろろ!」

 

 「いやいやいやいや、無理してるの丸分かりだゾ夏凜さんや」

 

 「かかかか、完成型勇者に不可能はああああっ!!」

 

 明らかに怯えていた夏凜だったが、銀に心配そうに言われてプライドが刺激されたのか部室の中へと入っていく。その後ろ姿を4人が敬礼して送る……が、数秒後に中から夏凜の悲鳴が聞こえ、かと思えば中から扉が勢いよく開き、中から夏凜が扉を閉めつつ何故か両腕で顔をガードしながら飛び出してきた。

 

 夏凜はそのまま着地と同時に床を1度転がり、ズサーっと床を滑った後にビシッと決めポーズ。そのスタイリッシュな一連の動きに、友奈の心はがっちりと掴まれた。

 

 「やっぱ無理だったかー」

 

 「銀は平気なの?」

 

 「夢はお嫁さん、いつか素敵な主婦になる為日々修行中の三ノ輪 銀です! 黒いのの1匹や2匹、どうってことないですよ」

 

 「くっ、これが先代勇者……」

 

 「いや、先代勇者とかは関係ないかと……」

 

 よしよしとそう言って苦笑しながら夏凜の頭を撫でる銀。自分達と違って平気そうな銀を見て風が聞くと、銀は力瘤を作るように右手を曲げてニッと笑い、4人に手を振りながら部室へと入っていった。自分とは違うその姿に、夏凜が悔しげに呟き、近くで聞いた樹がツッコンだ。

 

 が、数秒後に同じように部室の中から銀の悲鳴が聞こえ、次の瞬間には勢いよく扉が開いて銀が大慌てで出て来て直ぐに強く扉を閉めた。ふぅ……と安堵の息を漏らす銀に、風と夏凜の微妙そうな視線が突き刺さる。

 

 「どした銀。あんなに自信満々だったのに」

 

 「いや、ダーさんが想定よりかなり大きかったんで……あの大きさは流石にNGです」

 

 「そうよ風、あんなに大きいなんて聞いてないわよ!」

 

 「え、そんな大きいの? ごめん、あたしら見つけた瞬間に出たからそこまで見てないのよ。でも2人でもダメか……くっ、このまま部室を乗っ取られたままでは……」

 

 「東郷さんに怒られちゃいますね……」

 

 どうやら銀が予想していたダーさんよりも遥かに大きかったらしく、大きさが彼女の許容を越えていたらしい。待望の2人が即座にギブアップという予定外の結果に、3人の顔も曇る。

 

 「なに? 東郷に怒られるって」

 

 「須美を怒らせるって何やったんすか風さん」

 

 「えーっと、お2人がまだ勇者部に居ない頃なんですけど」

 

 風と友奈の言葉に疑問を覚えた夏凜が不思議そうに、幾度となく怒られた記憶がある銀が恐ろしいモノを見るかのような視線を向けると樹がそう前置きをする。

 

 聞けば、樹が入部してから少しした頃、色々と依頼を請け負い過ぎて忙しかった際に部室を散らかしたまま放置していたことがあったらしい。楓と共に外の依頼から帰ってきてそれを見た美森は激怒し、原因となった風達を正座させたと言う。

 

 「1時間もね……次やったら括って吊るすと言われたわ」

 

 「おかんか」

 

 「楓はどうしてたんです?」

 

 「苦笑いしながらなんとか東郷をなだめてくれたわ……楓が居なかったら4時間コースだったわね」

 

 「厳しいおかんか」

 

 ちょっと涙目になりながらそう語る風。友奈と樹はその時のことを思い出しているのだろうか、頭を抱えて震えている。話を聞いた夏凜は冷や汗をかきつつツッコミ、銀は内心で“須美ならやりかねん……”と頬をひきつらせていた。

 

 しかし、いつまでもこのままでは埒があかない。友奈が自分達は勇者であると気合いを入れて4人も賛同して気合いを入れる。そして各々殺虫剤やらモップやらハリセンやらハエ叩きやらスリッパやらを手に部室の前に立つ。この突入で絶対に部室を取り戻す、そう強く誓った。主な理由は美森が怖いからなのだが。

 

 「友奈、お先にどうぞ!」

 

 「こ、ここは若い方から!」

 

 「せせ、先陣はやっぱり夏凜さんで!」

 

 「先代勇者の力を見せてもらうわよ、銀!」

 

 「いやいや、部長である風さんから先に!」

 

 

 

 

 

 

 「蔵のお片付け楽しかったね~」

 

 「ちょっと遊んじゃったけどねぇ……おはじきにあや取りにけん玉、懐かしいのが多かったねぇ」

 

 「楓君がけん玉が異常に上手かったのが驚いたわ……後、楽しかったけれど埃まみれで大変だったし……虫も出たし……」

 

 「美森ちゃんは虫が苦手だからねぇ。まさか押し倒されるとは」

 

 「わっしーだいた~ん♪」

 

 「あ、あれは、つい、その……というか、私が虫が苦手なの半分はそのっちのせいだからね?」

 

 「のこちゃんも後から乗ってきたりねぇ……2人が軽くてよかったよ」

 

 5人がバタバタとしている頃、楓、美森、園子の3人はとある好事家の家の蔵の片付けの依頼から学校に帰ってきていた。その依頼は美森が行きたがったモノであり、西暦の頃から存在する日本の昔ながらの玩具や書物、衣服等が沢山あり、片付けの最中に少し遊んだりして楽しみながら依頼をしていた。

 

 園子が見事なお手玉を披露したり楓がけん玉で様々な技をノーミスで繰り出したりと意外な一面を見た美森。途中で蜘蛛を見つけてしまい、反射的に逃げた方向に楓が居てそのまま押し倒してしまうというハプニングもあったが。自分だけ仲間外れのようで嫌だったのか、美森の上から園子まで乗ってきたりしたが。

 

 「まあ、部室なら虫は出ないと思うけれど……」

 

 「美森ちゃんが怒った日からいつも綺麗にしてるしねぇ……? なんだか中が騒がしいような……」

 

 「後でその話詳しく~。たっだいま~♪」

 

 そんな会話をしている内に部室の前まで辿り着いた3人。楓が部室の中からどったんばったんと騒々しいおとが聞こえることに疑問を覚えるが、気にせずに園子が扉を開けた。

 

 

 

 【あっ】

 

 

 

 瞬間、3人の目に入ってきたのは酷く散らかった部室。そして色々と道具を手に何やら暴れている5人。扉が開いたことに気付いた5人はそちらへと視線を向け、3人の姿を見て同時に声を漏らす。次の瞬間、美森の表情が怒りに染まった。

 

 「何をしているんですかああああっ!!」

 

 「えっ、あっ、3人共お帰りなさい!」

 

 「お帰りなさい、じゃありません! 友奈ちゃんや銀までこんなに散らかして! 全員その場に正座なさい!」

 

 「ご、ごめんなさいー……」

 

 「いや、まて須美! これには深い訳がだな!」

 

 「あっ! そっちにダーさん行った!」

 

 「東郷! 横よこ!」

 

 「言い訳は聞きませんし誤魔化されません! 大体横に何が……」

 

 怒り爆発。部室が揺れたのではないかという程の怒声に楓と園子以外の全員がビクーッと体を跳ねさせ、反射的に友奈と銀は正座する。しかし他の3人はダーさんとの格闘中であり、美森の言葉に従う訳にはいかない。

 

 そんな中、夏凜と風が美森の足下を見ながら指差す。それを演技か何かと思ったのか、美森は怒り収まらぬと一蹴。しかし念のためにと足下を見てみれば、そこには美森が大っ嫌いな虫、その中でも更に嫌いなダーさんの姿。

 

 「……」

 

 「おっとっと……」

 

 「ああっ、須美が気絶した!」

 

 「東郷さーんっ!?」

 

 美森、ダーさんを一目見て気絶。倒れる彼女を楓はすばやく抱き抱える。まさか気絶するとは思わなかった5人は直ぐに美森に近付いて介抱するのだった。因みにダーさんは園子の手によって部室から外へと出されている。

 

 気絶したショックからか、後程復活した美森は部室の散らかりようを見た記憶が曖昧になっており、気絶している間に7人がかりで何とか片付けたことで5人は正座とお叱りを免れることが出来たそうな。

 

 そんな、平和な日々の中のちょっとした騒動のお話。




原作との相違点

・樹が風が食べさせるの好きな理由を直ぐに思い出す

・走りながら過去語り

・ダーさんバスターズに銀参加



という訳で、またまたぷにっと時空でした。今回は擬音も多めに使っております。8人も居ると流石にセリフが増えますね。私はセリフよりも地の文を多めに書くタイプなのでちょっと違和感。でも書かないと仲間外れが出るし……悩ましい。

樹の“ぽってこ”で重低音とか書いてますが、これ原作で実際に書いてるんですよね← ぽってこやすっぽこを書けたので私は満足です(賽の目にされる

さて、これにてぷにっと時空……前日譚は終わりとなります。次回から本編はついに勇者の章へ……小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備は……OK?(ズドン

でもその前に、前日譚終了記念番外編です。書くのは本編ゆゆゆい……のIF話。そう、あのルートのお話です。書くの今からすげー楽しみです←

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

本編ゆゆゆい。新士君は……

  • 当然出る。両手に楓!
  • なんか色々理由をつけて不参加。楓は1人
  • 私はうどん派だ!(新士参加
  • うどん以外もいいぞ(新士不参加
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