咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`) 前みたいな更新速度に戻らないなぁ……。

ゆゆゆいブライダルイベント、たかしー全く落ちてくれませんでした……ぐんちゃん直ぐ集まったのに←

fgoの呼符ではアシュヴァッターマンが、リリフレではssr楓(フー)が、デレステでは無料単発で唯が来てくれました。来てる……波が来てるぞ。これなら明日の魔王をお出迎え出来るのでは?←

それはさておき、アンケートにご協力ありがとうございます! 本編ゆゆゆい新士参加決定! どうしよう、既に3人程動きが読めないのが居るんですが(震え声

さて、注意事項です。ゆゆゆいネタバレ、独自解釈、独自設定、キャラ崩壊があります(今更感)。まだ花結いの章を見てない、クリアしてない人は注意を。

後半、スゲー筆が乗りました(キラキラ

今回は後書きに捕捉ありです。


番外編 花結いのきらめき ー ESif ー

 とある日のこと。8人揃って部活に勤しんでいた勇者部の面々は突然謎の発光を受けて目を閉じてしまい、再び目を開くと……何故か、もう来ないはずの樹海へとやってきていた。何故か楓、園子、銀の姿は無く、更にはバーテックスまで現れ、スマホにはもう存在しない筈の勇者アプリ。

 

 混乱する5人だったが、これまた突然聞こえてきた謎の声に従い、変身して戦って問題なく撃退。そうして樹海から元の空間へと戻ってきた5人は部室へと戻ってきており……そこには謎の声の主である上里 ひなたと居なくなっていた園子、銀の姿。

 

 【……あれ?】

 

 そこまで確認して、申し訳なさそうにしているひなた以外の全員がキョロキョロと辺りを見回す仕草をする。そうした後に友奈と園子がお互いに顔を見合わせる。

 

 「「園ちゃん(ゆーゆ)……楓くん(カエっち)はどこ?」」

 

 「……すみません。あなた達が探している人のことなんですが……」

 

 5人と2人はお互いにお互いの場所に楓が居ると思っていたらしい。しかし、どちら側にも彼の姿はない。不思議そうに、しかしその表情が次第に焦りへと変化していく。

 

 そんな7人に、ひなたが申し訳なさそうな表情そのままに割って入る。自己紹介もまだしていないので7人から“誰この人”という視線が向けられるが、彼女はそんなことは気にせずに話し始める。

 

 「後から詳しく説明しますが……あなた達を召還した際にとても強い力の横入りがあって……探している人は“造反神”に奪われた可能性が高いんです」

 

 【……造反神?】

 

 

 

 

 

 

 「……こういう時って、こう言えばいいのかな。神様、空から男の子がーって」

 

 神様が作り出した不思議な空間。それは来るべき天の神との戦いの為に演習を行う為の一種の箱庭。そこに私、赤嶺 友奈は過去、そして未来の勇者の人達に神様からの試練を与え、どっち付かずの中立の神達に人間の可能性を見せつけるというお役目を受けて召還された。私がやるべきお役目は文字通り、神様からの試練を彼女達に与え、成長させ、人間の可能性を見せ付けて中立の神達を納得させること。その為に色々と工作とかしないといけないんだけど……。

 

 今、私の目の前には1人の男の子が横たわっている。一応、この男の子の情報は神様からこう、ビビビーッと頭に直接送られてる。未来の、唯一の男の勇者。本来彼は私が試練を与えなければいけない側の勇者なんだけど……何故か、空から降ってきた。因みに、ここは神様が用意してくれた隠れ家の一軒家。まさか住み始めて1週間もせずに屋根に穴が空くとは。

 

 (屋根が壊れるって相当だよね……落ちたのがベッドの上じゃなかったら死んでたんじゃないかな)

 

 で、神様曰く……この男の子は私の助っ人兼個神的な意思で向こうから奪ってきたんだとか。とある1柱にかなり文句言われたらしいけど。色々と言いたいことはあるけど……取り敢えず、この男の子をどうにかしないと。

 

 「う……んん……?」

 

 「あ、起きた。体は大丈夫ー? あの屋根の穴は見える? あれ、君がやったんだよ? どかーんって」

 

 「……えーっと……屋根はごめんねぇ。体は……頭が痛いくらいで、動くのは大丈夫そうだねぇ」

 

 「そっかそっか。ところで、君の名前は?」

 

 そんなことを考えてると男の子が片手で頭を押さえながら起き上がった。結構頑丈なんだね……普通に答えが返ってきたし、こんな状況なのに結構落ち着いてるね。それに、何だか喋り方がお爺ちゃんっぽい。

 

 名前を聞いてみるけど、勿論知ってる。犬吠埼 楓くん。小学生の頃は雨野 新士。雨野……そういえば、そんな名前の黒に近いグレーな名家があったっけ……結局シラを切り通されちゃったけど。というかこの子、私の仲間になってくれるのかな。神様はちゃんと説明して奪ってきたんだろうか。そんなことを考えていると、彼が口を開いた。

 

 「名前……? 自分の名前……なんだっけ?」

 

 「え゛っ」

 

 「そもそもここはどこで、貴女は誰ですかねぇ……」

 

 「えーっと……私は赤嶺 友奈。君は犬吠埼 楓くんだけど……まさか、何も覚えてない?」

 

 これは所謂、記憶喪失という奴だろうか。ちょっと君、記憶を失くすの早すぎないかな。そういうのはもっと後の最後の最後くらいに……というかこれ、絶対神様のせいだよね。彼を強引に奪ってきたからだよね。えっ、どうしよう。ちょっと予想外のことが多くて処理しきれないよ……助けてレンち。

 

 「そうだねぇ、何一つ……いや、一般常識と勇者のこと。それから……覚えてる表情と言葉はある、か」

 

 「表情と言葉?」

 

 「うん。誰かが怖がってて、誰かが泣いてて、誰かが笑ってて……“自分が守る”、“自分が頑張る”って言葉、というか誓いだねぇ。その誰を、なのかは……ちょっとわからないけどねぇ」

 

 そう言って苦笑いする犬吠埼くん。そんな彼に、私はどんなカオをすればいいのか分からなかった。ただ、記憶を失っている筈なのに、それでも誰かを守るとか頑張るとかは覚えてる彼も紛れもなく勇者の1人なんだなーと思って。

 

 (……“守る”に“頑張る”、かー)

 

 記憶を失っても彼がそう思っている“誰か”のことを……少し、羨ましく思った。ところで、彼は住む場所はどうするんだろう。まさか一緒に住むなんて……え、神様本気? 記憶喪失の初対面の男の子と同居なんてちょっと私には難易度高いよ。

 

 

 

 

 

 

 「……あなた達は誰、ですか……? なんだかそのっちと銀に良く似た人が居ますけど……」

 

 「ここ、どこですか? あたし達、早く新士のところに行きたいんですけど」

 

 「……」

 

 あれから少し経ち、場所は勇者部部室。ひなたから説明を受けた7人は制圧されている場所の解放と共に楓の捜索も行っていた。そして幾つかの場所を解放した時、少し戻ったという神樹の力を使って過去の勇者達を新たに召還することになり……召還されたのは、小学生の時の先代勇者3人であった。そこには過去の楓……雨野 新士の姿はない。

 

 それ以外にも不審な点があった。それは、3人の表情が暗く、頭や頬にも包帯やガーゼがあって傷だらけだったこと。今の3人とはまるっきり様子が違い、更に傷だらけであることに勇者達も息を呑み、ひなたも狼狽える。

 

 「そんな、呼び出す時間軸がズレてる!?」

 

 「どういうこと? ひなちゃん」

 

 「本来なら、彼女達を呼び出す時間軸は遠足より1日から1週間程前となっていた筈なんです。ですが、これは……」

 

 「わっしー、ミノさん。もしかして、この子達の時間軸って……」

 

 「ええ……恐らく、遠足から1日経ってる時の私達ね」

 

 「じゃあ過去の楓が居ないのは……召還出来る状態じゃないからか」

 

 8人を不審者でも見るように警戒している須美と早くこの場から去りたいと顔に出ている銀(小)、2人の背に隠れて俯いて一言も喋らない園子(小)。その姿から、彼女達は楓が右腕を失うことになった遠足の日の戦い、その後の3人であることを理解する。本来なら遠足の前日の元気な、新士を含めた4人が召還される筈だったのだ。しかし、これも造反神に楓が奪われた影響か、最悪の時間軸から3人だけが召還されてしまったらしい。

 

 最悪の初対面となってしまった3人と8人。この後直ぐにひなたから世界ややるべきことの説明が入り、中学生の3人からの説明や思い出、中学生の楓の話等を振って何とか小学生組の心と表情を明るくしようと奮闘する。その甲斐あってか、小学生も何とか協力してくれることになった。3人の為にも、そして自分達の為にも楓を見つけ出す。そう再び決意する勇者部であった。

 

 

 

 

 

 

 「ただいまー」

 

 「お帰り、友奈ちゃん」

 

 あれからしばらく。結局一緒に住むことになった私達は思いの外上手くやれていた。神様の力を借りてあちこち飛び回って色々やってる私を、楓くんはいつも笑顔で送り出して、また笑顔で出迎えてくれる。最初はちょっと戸惑うこともあったけれど……今は、このやり取りが好きになってる。

 

 私の時代の勇者は、バーテックスじゃなくて専ら人間相手が殆ど。カルト集団のテロの鎮圧とかもやったし……色々と、人に言えないこともやった。勇者の力を持ってすれば、ただの人間なんてちょっと小突けば……何も()()()()なるしね。

 

 「ご飯出来てるよ」

 

 「お腹ペコペコだよー。今日はなにかな?」

 

 「友奈ちゃんが食べたがってた沖縄そばを作ってみたよ。本場の味とか知らないから、料理本を見ながらの自己流になっちゃったけどねぇ」

 

 「やった! ありがとう楓くん!」

 

 「おっと」

 

 楓くんの言葉が嬉しくて思わず抱き付く。すると彼は受け止めてくれて……あ、結構鍛えてるね。で、耳元で“お疲れ様”なんて言ってくれて、優しく抱き返してくれた。

 

 最初の頃、記憶喪失の彼をあまり手伝わせるのもどうかと思って、彼には留守番を頼んでた。でも彼は何もしていないことが嫌だったみたいで……何故か、家事をしてくれるようになった。始めて……記憶喪失だから当たり前か……だから最初は失敗してたんだけど、今ではすっかり主夫だよね。

 

 そんな生活が続いて、少しずつお互いのことも知って、今では名前で呼び合うようになった。朝に顔を合わせると“おはよう”って言って、私が家を出る時には“行ってらっしゃい”って言ってくれて、帰ってきたら“お帰り”と“お疲れ様”って労ってくれて、寝るときには“おやすみなさい”って手を振ってくれて……いつも、朗らかな、暖かい笑顔を見せてくれて。

 

 それは……私が“体験してきたこと”よりもずっと暖かくて、心地好くて。この暮らしがずっと続けばいいな、なんて思ってしまって。

 

 (……そんなこと、出来る筈ないのにね)

 

 この暮らしは、彼との関係は必ず終わる。終わらせなきゃいけない。それが彼の記憶が戻った時になるのか、それとも勇者の子達が試練に打ち勝った時になるのかは……わからないけれど。

 

 試練のこと、私の目的のことは既に話してある。説明は苦手だからちょっと苦労したけど。それに、向こうの勇者達が楓くんのことを探しているかも……とも、伝えてある。嘘をつくのは苦手だけど、必要とあれば嘘だってつく。でも勇者の子達ならともかく、仲間である彼には……つきたくなかった。だから本当のことを言ったんだけど。

 

 『今は友奈ちゃんに自分以外の仲間は居ないんだろう? だったら、自分くらいは君の仲間でもいいんじゃないかねぇ。自分のことを探してくれている人達には悪いけど、ね』

 

 そう言ってくれたことは、嬉しかった。でも、記憶が戻ったら……そう思うと、怖い。この生活を、この暖かさを知った今では……また、前みたい1人に戻るのが……怖い。

 

 でもその時が来たら……私は、神様には悪いけど彼を返すつもり。試練を与える私がこの世界をずっと望む訳にはいかないから。そう思ってしまうくらいに……私は、楓くんという存在に依存し始めていることに気付いていた。

 

 (早く試練に打ち勝ってね。あなた達の為にも)

 

 そして、本当に抜け出せなくなりそうな……私の為にも。

 

 

 

 

 

 

 香川県が勇者の子達に奪還され、その子達が愛媛へとやってきた時に私は始めて肉眼でその姿を見た。思ったよりも奪還の速度が早い。それは私にとって都合がいいのか……それとも、悪いのか。ただ、今後は私が直接彼女達とぶつかることになるだろうから……楓くんの力も、そろそろ本格的に借りることになる。

 

 「ばぁーん。みんな、はじめましてだね」

 

 「「3人目!?」」

 

 「どうだろうね?」

 

 そして、愛媛での戦いの時に私は彼女達と樹海で直接会った。この戦いでは私は疑似バーテックス達に命令するだけ。後は、少し話をするだけ。私自身の自己紹介、そして私が造反神側の勇者であること。私は皆の……敵であること。そこまで説明して距離を離してまたバーテックスをぶつける。

 

 バーテックスはあっという間に全部倒された。凄いね、西暦の勇者も神世紀の勇者も皆強い。特に神世紀……コーハイの結城ちゃんとその仲間達の勢いが凄い。鬼気迫る、って感じかな。小学生の子達も侮れない。理由は……まあ、分かってるんだけどね。

 

 「赤嶺ちゃんが造反神側の勇者なら教えて! 楓くんは……そっちに居るの!?」

 

 追い付いてきた皆とまた色々と問答を交わした後、結城ちゃんが必死な声と必死な顔でそう聞いてきた。それもそうだよね、彼女達はずっと探し続けていたんだから。教えてあげるべきだよね……元々、そのつもりだったし。

 

 「さあ……どうだろうね?」

 

 「あっ、ま、待って!」

 

 なのに、私の口から出てきたのはそんな言葉だった。これには私自身がびっくりしてる。“居るよ”と、その一言を言うだけなのに……何故か、その一言を言うことを、彼の居場所を明かすことを拒否した。拒否して……逃げるように、そこから去った。 

 

 私と楓くんは造反神の力であちこちに直接ワープ出来る。だから、距離の問題はない。いつでもどこでも望んだ場所に直接行ける。例え彼女達が捕まえようとしてきても、絶対に捕まることはない。それが分かっているから、直接彼女達の本拠地にも行ける。この後はそうするつもりだった……けど今私は、隠れ家に帰ってきている。

 

 「おや、お帰り友奈ちゃん」

 

 「……楓くん。さっき、君を探している人達と会ってきたよ」

 

 「……そっか」

 

 「今から、彼女達の本拠地に直接向かうつもりなんだ……他にも見ておきたい人も居るしね。だから……楓くんも、一緒に行かない?」

 

 いつもみたいに出迎えてくれた楓くん。彼の顔を見て、結城ちゃん達の顔を思い出して、胸が苦しくなる。彼女達に会ってきたと言えば、彼は目を閉じて一言そう呟く。今、楓くんは何を思っているのか……私にはわからないけど。

 

 一緒に行かないか聞いたのは、私がまた誤魔化すかもしれなかったから。楓くんの居場所を、この暮らしを、あの子達に秘密にしておきたいと思ってしまうから。そんなこと、思っちゃいけない。私がそれを望んじゃいけない。何度もそう自分に言い聞かせた。

 

 楓くんは……少しして、頷いた。

 

 

 

 「みんなー。もしかして私の噂をしていたのかな? どうも、赤嶺 友奈です。それから……探してる人も連れてきたよー」

 

 「はじめまして、造反神側の勇者の犬吠埼 楓です。記憶喪失中だけど、友奈ちゃん共々よろしくねぇ」

 

 「……えっ……?」

 

 本拠地で丁度私の話をしてる皆の所に、楓くんと一緒に直接飛んできた私。改めて見ると、西暦の勇者も神世紀の勇者も勢揃いで壮観だね。そんな私の隣で、私服姿の楓くんが朗らかな笑みとそんな言葉と共に皆に向かって手を振る。そんな彼を見て……神世紀組の10人が絶句してた。

 

 いや、正直私もここまで大っぴらに言うとは思ってなかったんだよ? しかも笑いながら。どうしよう、また予想外のことが起きて困るんだけど。もしかしたら楓くんはこのまま皆の所に……という私の心配を返して欲しいなぁ。

 

 「楓、くん……はじめましてって……記憶喪失って……え?」

 

 「赤嶺……あんた、楓に何したの!?」

 

 「私じゃないよ? 造反神が楓くんをそっちから奪ってきたのは知ってるよね?」

 

 「ひなタンからは……そう聞いてるよ」

 

 「そのせいかな? 楓くん、空から降ってきたんだよ。家の屋根をどかーんって突き破って。そのショックで記憶がぽろっといっちゃったみたいで」

 

 「そんな……」

 

 結城ちゃんが信じられないって顔して、楓くんに良く似た女の子……確か、風さんが私に怒鳴ってくるけど、記憶に関しては私のせいじゃないんだよね。中学生の園子ちゃんは私を睨み付けながら頷いたから、私もちゃんと説明する。本当に衝撃的な出会いだったなー、なんて思い出してつい笑っちゃう。

 

 そう説明すると、結城ちゃんの隣に居る……確か、東郷さん? が絶望したような顔で崩れ落ちて、同じように結城ちゃんも崩れ落ちた。確かに記憶喪失は辛いだろうけれど、そこまでかな……? この時の私と西暦組の皆は、彼女達にとって“忘れられる”ということがどれだけ怖いことか知らなかったんだけどね。

 

 「……大きい、アマっち」

 

 「この人が、中学生の新士君……」

 

 「こんなに背が伸びるんだな……あれ? 右腕がある!?」

 

 「「えっ? あっ!?」」

 

 「おっとっと」

 

 「ナーイス小学生の皆! そのまま押さえてて! 皆も結城っち達もほら、今はこの子達を捕まえるよ!」

 

 「およよ、私も?」

 

 皆が結城ちゃん達に目が行ってる中、小学生組の子達はボーッと楓くんを見てた。で、急にそんなことを言い出したかと思えば……楓にしがみついていた。彼もそれを受け止めて……なんだろう、胸がムカムカする。そんなことを思ってたら、私も他の勇者の子達に捕まえられた。楓くんも結城ちゃん達以外の子達にしがみつかれてる。

 

 「やっと、やっと見つけたんだ! 絶対離さないゾ!」

 

 「カエっちが忘れても、また思い出させるから! もう離れるのは、嫌だから!」

 

 「……うん、こんなに自分を思ってくれてる人達がいたんだねぇ……嬉しいねぇ」

 

 「私は今は戦う気はないんだけどなぁ……楓くん、君は……その、このままここに居ても……」

 

 「でも、ごめんねぇ」

 

 「……お兄ちゃん……? っきゃあ!?」

 

 中学生の銀って子と園子ちゃんが必死に楓くんにしがみつく。楓くんは、今自分にしがみついている子達に優しい顔で笑いかけてた……嬉しそうに。もしかしたら、彼はこのまま……それでも、いい。寂しいけど、それでも。それが、君が選んだことなら。

 

 だけど、彼はそう呟いて……瞬間、彼の周りに突風が吹き荒れる。これは私達が移動する時、そして移動してきた時に発生する造反神の力の片鱗。つまり……楓くんは、ここから移動しようとしてる。

 

 「っ、また吹き荒ぶ風!?」

 

 「友奈ちゃん」

 

 「えっ? あ……」

 

 「じゃあね、皆。またどこかで、ねぇ」

 

 急に吹いた風のせいで彼にしがみついていた子達が離れる。そうして身動き出来るようになった彼は私の手を握って……私達は、自分達の隠れ家へと移動した。

 

 

 

 「……良かったの? あんなに求められてたのに」

 

 少しして着替えた私は、隠れ家のリビングで楓くんにそう聞いてみた。彼は優しい人だ、だからあんなに必死に求められたら……残ると思った。結城ちゃんだってあんなにショックを受けてて、楓くんはそれを見てて……だから、残るって、そう思ってたのに。それでもいいって、思ってたのに。

 

 「残ろうとは思わなかった……とは言わないよ。あんなに必死で、泣きそうなあの子達を見て……なにも思わない筈がないじゃないか」

 

 「なら、どうして」

 

 「言っただろう? “自分くらいは君の仲間でもいいんじゃないか”ってね」

 

 「……うん。言ってくれたね」

 

 「自分が向こうに残れば、友奈ちゃんは1人になっちゃうからねぇ。それに、奪われた……まあ誘拐されたみたいなもんだけど、自分は一応造反神側の勇者だからねぇ。後は……自分は結構気に入ってるんだよ。君との暮らし」

 

 「……そっか。私も気に入ってるよ、楓くんとの暮らし」

 

 「だから、これからもよろしくねぇ」

 

 「……うん!」

 

 彼の笑顔が、胸を打つ。彼の言葉が、胸に染み渡る。嬉しいって、その気持ちでいっぱいになる。私とおんなじ気持ちなんだって分かって……もう、言葉にならなくなる。嬉しい以外に言葉が見つからないよ。

 

 そうしてお互いに笑いあって、楓くんの以前よりも更に美味しくなったご飯を食べて、またこれからもよろしくって笑いあって……お休みって言い合った後に自分の部屋に戻った私は、ベッドの上に飛び込んだ。

 

 

 

 「……あはっ♪」

 

 

 

 選んでくれた。あの子達よりも私を選んでくれた。あの子達との過去よりも私との今を選んでくれた。あの子達の元へ帰るよりも私との生活を選んでくれた! 結城 友奈(コーハイ)よりも赤嶺 友奈(わたし)を選んでくれた!!

 

 私は君達の元に戻そうとしたんだよ? 我慢して、寂しいって思って、それでもって。でも仕方ないよね、彼は私を選んでくれたんだから。例えそれが優しさからでもいい。1人になる私を哀れんだからでも構わない。こちら側の目的を知ってて造反神側の勇者として動くからでも問題はない。大事なことは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことなんだから。

 

 この幸せがまだ続く。そうだよ、私にとってこの暮らしは“幸せ”なんだ。もう“戻そう”と思わない。もう“我慢しよう”と思わない。だって戻さなくていいんだから。我慢しなくていいんだから。

 

 この先、私は彼女達と何度もぶつかる。きっとその度に“楓くんを返して”って言ってくる。その度に私は言い返せる。“彼がこっちに居ることを選んだんだ”って、笑いながら言える。それが真実で、それが現実。彼女達がどれだけ否定しても覆らない。きっと彼が覆さない。

 

 タガが外れたってこんな状態のことを言うんだよね。幸せ過ぎて浮かれて降りてこられない。だってこの幸せがまだ続くんだから。またおはようって言えるんだ。また行ってきますって言ったら行ってらっしゃいって帰ってくるんだ。ただいまって言ったらあの笑顔とお帰りって言葉が出迎えてくれるんだ。そしてあの子達と戦う時には……彼が隣に居てくれるんだ。

 

 「ごめんね、結城ちゃん」

 

 でも楓くんが選んだんだから……私は悪くないもんね。

 

 

 

 

 

 

 その後、私の予想通りに何度も私達はぶつかりあって、その度に楓くんを返してって言われて……その度に、楓くんは自分で選んだんだからって言い返して、嘘だって否定されて、それを笑って流した。

 

 ぶつかる度に、彼女達は強くなっていた。何度か私自身危ない時もあったけど、その時には変身した楓くんが助けてくれた。過去に白い勇者(おねえさま)に救われた赤嶺の一族の私が、未来の白い勇者(かえでくん)に救われるなんて……あはっ、運命感じちゃうなぁ♪

 

 愛媛が奪還され、そして徳島を巡っていた頃、何度目かの戦いで遂に彼の記憶が戻った。あの子達は喜んだし、私は恐怖した。彼が戻ってくると、彼が離れていくと。でも、彼は残ってくれた。“自分は造反神側の勇者だから”って、また彼は私を選んでくれた!

 

 きっと、凄く悩んだんだよね。私とあの子達を天秤にかけて、それでも答えを出してくれた。私が本当の意味で彼女達と敵対していないのと、大人数でいる向こうより1人で居る私を優先してくれたんだと思うけど……それでも良かった。なのに今度はあっちは“洗脳してるんじゃ”なんて言ってくるんだから、失礼しちゃうよね。彼がどれだけ悩んだのかも知らないで。

 

 

 

 だから……ちょっと本気出すよ、結城ちゃん。

 

 

 

 「行くよ、赤嶺ちゃん!」

 

 徳島の土地を賭けた一騎討ち。その提案に乗ってくれた結城ちゃん達。彼女にはその後ろに居る仲間達から沢山応援が来てる……本来なら、私には無いもの。だけど。

 

 「頑張れ、友奈ちゃん」

 

 私にも1人だけ、応援してくれる人が居るんだよ。あなた達のことを思ってて、それでも私の所に居てくれる……たった1人の、百人力の応援をしてくれる人が。

 

 結城ちゃん、あなた達には可能性を見せて貰わないといけない。私に、試練に打ち勝って貰わないといけない。でもね……ちょっと、本気出すよ。洗脳とか言われたの……私、結構怒ってるんだ。

 

 「……行くよ、結城ちゃん」

 

 赤と黒と白で彩られた、造反神が作った私の勇者服。白は好きだよ、お姉様と楓くんの色だから。黒も好きだよ、あの子の綺麗な長い髪の色だから。でも……赤は嫌いだよ。それは私の手を、私の周りを染め上げる色だから。

 

 でも……ちょっと、その“赤”を見たくなった。何度も何度も彼の意思を聞いて、それでも“返して”なんて言ってくる結城ちゃんの“赤”を。現実に戻れば彼と共に居られる彼女の“赤色”を。この世界でしか得られない私の幸せを奪おうとする……あの子達の“アカイロ”を。

 

 だから私は……この一騎討ちでは言うつもりのなかった、私が()()()()()()()()お役目を行う時にいつも言う言葉(ルーティーン)を口にした。

 

 

 

 「――火色、舞うよ」

 

 

 

 さあ、試練(わたし)に打ち勝ってね……結城ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 それは、勇者部と過去の勇者達が一同に集い、造反神の行動を阻止する為の戦い。そして、その中で起きた奇跡の邂逅を成した者達……その無償の優しさと深い愛情を受け、この世界でだけ得られる幸せに溺れてしまった少女と……溺れさせてしまった彼のもしもの話。




今回の捕捉

・小学生組の時間軸は遠足後。本編わすゆ10の病院に見舞いに行く前。その為、新士が入院中という扱いなので召還不可

・土地の奪還速度が原作よりも早い。これは楓が造反神に奪われた=奪われた土地のどこかに居る可能性が高い、という思考の為

・楓は赤嶺 友奈を目的を正しく理解しているし、最終的に記憶が消えることも赤嶺達に会えなくなることも理解している。

・後はイメージしろ。イメージするのは常に都合がいい展開だ



という訳で、リクエストの赤嶺ちゃんが楓に依存しているゆゆゆいのお話、楓記憶喪失敵対添えです。お納めください。あんまり修羅場にはならなかったですが、ご満足頂けたら幸いです。

この後どうなるのかは皆様でご想像ください。まあ、姉妹ifとかBEifよりは救いがあると思います。因みに、エネミーサイドイフと読みます。

さて、次回からは遂に、ようやく、やっと、勇者の章に入ります。虐めます。誰をとは言いませんがね←

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