咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`)

前回のESifもそれなりに評判だったようで何よりです。感想で何で病むん? と聞かれましたが、私にも分からん。病みとか書くの苦手なんですけどねぇ←

ふと勇者部の5人の中の人は他に何やってんだろうなと思い至り調べてみたら、マジで!?×5となりました。風は咲のあらたそ、樹はバンドリのミッシェル、夏凜はプリコネのドM(クウカ)、東郷さんはミルキィホームズのシャーロック、友奈はビルドダイバーズのサラ。声優ってすげぇ。クウカが一番ビックリしました←

DEifが各話PVでもうすぐ15000行きそう。皆さん好きですねぇ。

さて、今回から遂に……読んで下さる皆様には激辛麻婆、赤ワイン、そして胃薬を差し上げます。それでは、どうぞ。


咲き誇る花達に幸福を ー 4 ー

 「おかしいなー、どこで落としたんだろう……」

 

 とある日、友奈は家に帰る途中で財布を落としたことに気付き、帰路を戻りながら探していた。探し始めた時は夕方だったがもうすっかり日は沈み、辺りは暗い。時間帯はともかく夜と言って差し支えない暗さな上に更に月が雲に隠れ、より財布の捜索が困難になったことで友奈の表情も暗くなる。

 

 

 

 「探し物はこれですか?」

 

 

 

 どうしよう、そう考えながらしゃがんで探していた友奈の前に誰かの手が差し出された。その手には友奈が探していた財布があり、彼女は思わず目を見開く。

 

 「あっ、こ、これです! ありがとうござい、ま……す?」

 

 ようやく見つかった財布を手に取り、嬉しくなった友奈は見付けてくれた恩人の顔を見ようと顔を上げ……丁度雲が通り過ぎて月が顔を出し、その下に照らされたその人物の姿を見てお礼の言葉が途中で止まる。

 

 「あの、あなたは……? あっ! せ、せめてお名前だけでも!」

 

 友奈の問いに答えることなく、その人物は背を向けて走り去っていく。その背に向かって友奈は手を伸ばし、恩人の名前だけでも教えてほしいと叫んだ。するとその人物は立ち止まり、振り返り……敬礼する。そして、微笑みと共に口を開いた。

 

 

 

 ― 私の名は国防仮面。憂国の戦士です ―

 

 

 

 「ってことがあってね!」

 

 「へ、へぇ……そうなんだ。優しい人で良かったねぇ」

 

 「うん! また会いたいなー」

 

 翌日の学校の教室にて、美森と共に登校してきた友奈は既に教室に居た楓を見るなりテンション高めにそんなことを話してきた。最初は普通にしていた楓だったが話を聞いていく内に口元をヒクつかせ、朗らかな笑みが苦笑いへと代わっていき……その視線が友奈、明後日の方を向いている美森へと交互に動く。

 

 楓は知っている、美森が以前園子から思い出の服……国防仮面の衣装を譲ってもらっていることを。と言うか、美森がその件の国防仮面本人であることを。しかし友奈はそのことに気付いていない様子であり、美森も隠しているように見受けられる。

 

 「……うん……きっと、また会えるよ」

 

 「うん! ありがとう楓くん!」

 

 「あはは……どういたしまして」

 

 「ホッ……」

 

 「おはよう、3人とも」

 

 「「「おはよう、夏凜ちゃん」」」

 

 それはまるで、特撮のヒーローを信じている純粋な子供のようで……その純粋な気持ちを裏切るような、夢を壊すようなことは楓には出来なかった。無邪気に喜ぶ友奈、その後ろでホッと安堵の息を漏らす美森、疲れたように笑う楓。その後に登校してきて挨拶を交わす夏凜と3人。そんな、朝の平和な風景。

 

 

 

 

 

 

 「え、須美ってばあの格好で外に出たの?」

 

 「みたいだねぇ。話を聞いた時は耳を疑ったよ」

 

 「わっしーは気に入ってたもんね~、国防仮面」

 

 「でもそれって変装だよな? なんで友奈の前に出るのにそんなことしたんだろ」

 

 「本当にねぇ……何か訳があるんだろうけど」

 

 その日の放課後、校内で運動部の助っ人の依頼を受けていた楓、銀、園子の3人は依頼を終えて部室へと戻りながら話していた。楓は体が戻って以来、こうして運動部の助っ人の依頼を受けられるようになった。元々体力や運動神経が良かった楓は今や運動系の依頼で友奈や風、夏凜と同様の人気を誇る。

 

 銀、園子も勇者の訓練を受けていたこともあり、同じように人気があるのだが……銀は料理や裁縫等の家庭科系、園子は勉強の依頼を受けることが多い。それはさておき、3人の会話の話題は楓から話し出した国防仮面のお話。3人の脳裏にはノリノリで名乗る国防仮面の衣装を着た美森の姿が浮かんでいた。

 

 疑問なのは、何故わざわざその格好で、更には正体を隠してまで友奈を助けたのかである。その意味がまるでわからない3人は首を傾げ、答えが出ないまま部室へと辿り着く。

 

 「乃木 園子、ただいま戻りました~♪」

 

 「同じく三ノ輪 銀、戻りました!」

 

 「ただいま、姉さん、樹……どうしたんだい? 2人してパソコンを覗き込んで」

 

 「あ、お兄ちゃん達……お帰りなさい」

 

 「お帰り楓、園子、銀。3人共、ちょーっとこっち来てこれ見てくれる?」

 

 「「「……?」」」

 

 3人が戻って来た部室には樹と風しか居なかった。パソコンの前の椅子に座る樹とその後ろに立つ風の2人は何故かパソコンの画面を凝視しており、難しそうな、複雑そうな顔をしていた。何事かと楓が聞けば、樹は苦笑いし、風は呆れ顔で3人を手招きする。

 

 手招きされるままにパソコンの前に来た3人は風と同じように樹の後ろへと回り、画面を覗き込む。その画面には、勇者部のサイトととある動画が映し出されており……3人の顔がそれぞれ驚愕、苦笑、微笑へと変わる。

 

 「国防仮面っていう、今(ちまた)で噂になってる謎のヒーローらしくて……」

 

 「再生すると、すんごい聞き覚えのある声がすんのよね……あと、この服の上からでも分かるメガロポリスにも見覚えあるわー」

 

 『国を守れと人が呼ぶ! 愛を守れと叫んでる! 憂国の戦士、国防仮面! 見参!!』

 

 苦笑い気味に樹が言い、ジト目で風が画面を見ながら呟く。樹が動画の再生ボタンをクリックして再生されれば、画面から3人にとって聞き覚えのある声とセリフが流れ出した。

 

 3人の脳裏に同時に甦る2年前の記憶。銀は腕を組んで天井を仰ぎ、園子は頬に手を当ててニコニコとし、楓は左手を額に当てて首を振る。3人の反応を見た姉妹は自分達の予想する国防仮面の正体が正しいことを悟り……5人はどうしたものかと各々考え出すのだった。

 

 

 

 「だ、誰かー! ひったくりよー!!」

 

 とある日の夕方。讃州市のとある場所で女性の甲高い声が響いた。その女性から走り去っていく、バイクのヘルメットを被って顔を隠し、女性からひったくったカバンを抱えて走る、体つきからして男が1人。

 

 「待てぇい!」

 

 「っ、誰だ!?」

 

 街中を走っていく男だったが、突然上からそんな声が聞こえたことで思わず立ち止まる。男が声がした方を見上げれば……そこには、夕日を背にどこかの家の塀の上に佇む、海軍将校の服を着て仮面で素顔を隠した謎の人物が居た。

 

 「国を守れと人が呼ぶ」

 

 いや、呼んでねぇ。思わず男が内心でそう呟くが、勿論そんな声は向こうには聞こえない。

 

 「愛を守れと叫んでる」

 

 いや、叫んでねぇ。思わず男が内心でそう呟くが、勿論そんな声は向こうには聞こえない。

 

 「憂国の戦士、国防仮面! 見参!! とうっ!!」

 

 「ぐほっ!?」

 

 男の心のツッコミは届かず、国防仮面はマントと仮面を結ぶリボン、そして長い黒髪を靡かせ……塀から跳躍。そしてそのまま男に飛び蹴りを浴びせた。男は避けられずに喰らい、地面へと倒れ込む。

 

 国防仮面はどこからか取り出した荒縄を使い、妙に慣れた手つきで男を縛り付ける。あまりの手際の良さに、男も縛られてからようやく自分が身動き出来ないことに気付いた。

 

 「確保!」

 

 「な、なんだと!?」

 

 【おー!】

 

 いつの間にか集まっていた野次馬達がみも……国防仮面の行動に称賛の拍手を送る。少しして、被害にあった女性も走ってやってきた。国防仮面は男が落としたカバンを持ち、女性へと手渡す。

 

 「あ、ありがとうございます! あの、あなたは……?」

 

 「私の名は国防仮面。人々が悪の脅威に晒された時、出来るだけ現れます」

 

 「出来るだけ……」

 

 ヒーローのような登場と行動をしておきながら妙に現実的な答えが返ってきて思わず女性はポカンとする。それでは、と国防仮面は手を振り、女性と野次馬に背を向けてその場から去ろうとする……その時、彼女の後ろから声がかかる。

 

 「ちょっとー、見つけたわよ東郷」

 

 「美森ちゃん……ちょっとこっちに来なさい」

 

 「ぁ……」

 

 声色からして呆れているのが分かる風の声と……普段よりも幾らかトーンの低い楓の声。国防仮面……美森がガクガクと震えながら振り向けば、そこには腕を組んでジト目をしている風と……にっこりと、しかしその背中に般若の面が幻視出来てしまう笑顔の楓の姿があった。

 

 そうして2人の手によって部室へと連行されてきた国防仮面の姿の美森。パイプ椅子に座らされ、周囲には友奈を除く私服姿の部員達6名。多くは呆れ顔やら困惑やらだが、彼女の正面に居る楓だけは珍しく怒った表情をしていた。

 

 「なんでその格好で……とかは、今は聞かないよ。なんで自分が怒ってるのか……分かるかい?」

 

 「……分かりません」

 

 「……自分が怒ってる理由はね、君が危ないことをしたからだ」

 

 勇者に変身出来ない以上、幾ら訓練を受けていたとは言えその身は普通の少女。力で大人に、それも大の男に勝てる訳がない。今回は上手くいったものの、もしも……ということもある。仮に相手が刃物、無いとは思うが拳銃等の武器を所持していたら。蹴りを避けられたら。他にも色々ある。

 

 因みにこの時、2人の見えない位置で夏凜が以前怒られたことを思い出して震え、風によしよしと背中を撫でられていた。

 

 「探し物だとか、誰かの手助けだとか……そういうのは良いよ。だけど、今回のようなことは出来るだけやめて欲しい……見つけた時、本当に心配したんだよ?」

 

 「あ……その……ごめん、なさい」

 

 「わかってくれたなら、いいよ」

 

 パイプ椅子に座る東郷の前で体を屈めて目線を合わせ、悲しげな表情を見せる楓。男に飛び蹴りを浴びせた彼女を見た時、彼は酷く肝が冷えた。先のような可能性が無くはないのだ、心配しない訳がない。まして彼女は楓にとっても大切な仲間であり、ただの友達以上の存在。怒るのも仕方ないと言えるだろう。

 

 その心配は、その思いは正面に居る美森も、周囲に居る部員にも伝わった。怒られ、悲しませてしまった立場ではあるが……美森は、そこまで思ってくれる、こうして怒り、心配してくれることが嬉しいと思う。だから素直に、そして心から謝った。それを楓は……笑って、受け入れた。

 

 「……さて、楓のお叱りも済んだことだし、東郷には色々聞きたいこともあるんだけどねぇ」

 

 「本当ですね……何から聞いていいのかわからんくらいに」

 

 部室内の空気も和らぎ、楓も体勢を直して離れた所で、風と銀が腕を組みながらうんうんと頷きながら難しい顔をする。そんな時、部室の扉が勢いよく開いた。

 

 「国防仮面さんが来てるの!?」

 

 「え、あ、友奈、さん」

 

 「わー、本当に居る! こないだはどうもありがとうございましたー♪」

 

 「あ、いえ、その」

 

 入ってきたのは友奈。東郷を見つけ、連行している途中で風から部員全員に国防仮面を部室に連れていく旨を連絡しているので彼女がここに来ることに不思議はない。

 

 国防仮面姿の美森を見つけると嬉しそうに笑い、近付いて両手を握りながらお礼を言う友奈。正体がバレない為になのか、美森も声を低くして対応する。

 

 「……? なんで友奈はこんなに喜んでんの?」

 

 「そう言えば……なんでかな?」

 

 「ああ、姉さんと樹には話してなかったか。友奈、前に財布を落として探してた時に国防仮面が現れて財布を見付けてくれたらしくてねぇ……」

 

 「「あー……なるほどねぇ……あ、ハモった」」

 

 「さっすが姉弟……おんなじ顔してるゾ」

 

 友奈のテンションの上がり方に疑問を覚えた風が呟き、樹が続く。部活やら用事やらで友奈が国防仮面に会っていたことを姉妹は知らなかったのだ。小声で会話する2人に、楓が苦笑いしながら説明すると2人も同じように苦笑いし、自分達の呟きが一言一句被ってくすくすと笑い、それを聞いていた楓も同じようにくすくす笑う。そんな3人を見ていた銀はほへーと感心していた。

 

 「なんだか国防仮面さんって話しやすいなー。なんでだろう?」

 

 「そりゃそうでしょうよ……」

 

 「ところで、なんで勇者部に?」

 

 「そ、それはだって……」

 

 友奈が笑いつつも不思議そうに首を傾げ、夏凜はその後ろで当たり前だろうと呟く。話しやすいも何もほぼ毎日会っている仲間なのだから。そんな彼女の呟きは聞こえていないのか、友奈が問い掛ける。すると美森は被っている帽子と着けている仮面に手を掛け……勢いよく取り去り、その素顔を晒した。

 

 「国防仮面は私なのよ! 友奈ちゃん!」

 

 「知ってるわよー……」

 

 「そ、そんな……国防仮面さんが東郷さんだったなんて……っ!」

 

 「マジかー……マジなのか友奈ー……」

 

 「ゆーゆは純粋なんだね~」

 

 叫ぶように言った美森の後に風の疲れたような声が響く。他のメンバーも同意していたが、唯一友奈だけは本気でビックリしていた。そんな彼女の姿に銀が右手で顔を覆いながら首を振り、園子がぽやぽやと笑った。

 

 「……で、東郷はなんでこんなことしてたのよ。というかどこから持ってきたその衣装」

 

 「それは、皆に申し訳なく思って……この衣装は、2年前にそのっちが用意してくれていたモノです」

 

 「皆で着たりもしたんだよ~。勿論カエっちも。その時の写真はスマホにあるよ? フーミン先輩」

 

 「後で見せなさい園子」

 

 (いつの間にスマホに移してたんだのこちゃん……)

 

 皆に申し訳ない。そうして始まったのは、美森の懺悔。散華によって失われていた両足と記憶。それらが戻って己の体が元気になり、楓と友奈も戻ってきたことで、美森は再び己の仕出かしたこと……壁の破壊や皆を攻撃したことについて罪悪感を抱いていた。

 

 記憶を失っていて真実を忘れ、その時の感情によって壁を破壊してしまった美森。そのせいで世界を危機に陥れ、皆も死なせようとしてしまった。それは決して許されないことであり、自分自身も許せないことであり……そして、どうにか償うことが出来ないかと必死に考えていた。

 

 そうして悩んでいた時に起きた友奈のファッションショー。そこで昔の思い出を振り返り、思い付いたのが国防仮面。園子から譲り受けた衣装で正体を隠し、出来るだけ危機に陥れた世界の為、なんの関係もない人々の為に少しでも何かをしようと思い至ったのだ。

 

 「美森ちゃんは昔から真面目で、責任感も強かったからねぇ……」

 

 「気持ちは分かるけど……それでも突っ走り過ぎよ。悩んだら相談、でしょ」

 

 「すみません……」

 

 話を聞いて、楓は苦笑いの後に優しく美森を見詰める。彼女が鷲尾 須美だった頃から、彼女は真面目で、責任感が強かった。それは記憶を失っても変わらず、記憶を取り戻した今もまた、変わらない。それを思い返す楓と、話を聞いた園子と銀は美森を見ながら微笑んでいた。

 

 しかし、風は苦言を溢す。彼女もまた、一時の感情の爆発によって仲間達に大剣を振るった。故に、美森の気持ちも分かる。だからこそ、美森には1人で突っ走ることなく相談して欲しかった。1人で悩んで暴走した風だから、余計にそう思う。美森は、謝ることしか出来なかった。

 

 「カッコいいね、国防仮面! 私もなりたい!」

 

 「え!?」

 

 「ふっふっふ~、ゆーゆ。何を隠そうこの乃木さん家の園子さんは……国防仮面2号なのだ~!」

 

 「えー!? じゃ、じゃあ私は……」

 

 「因みにカエっちが国防仮面V3で、ミノさんが国防仮面X! はいこれ、その時の写真」

 

 「楓くんと銀ちゃんも!? ……わー、皆可愛い! カッコいい!」

 

 また少し暗くなる空気。それを吹き飛ばすのは、友奈であって。世の為誰かの為に動いていたという国防仮面が、彼女の琴線に触れたのだろう。そう言った友奈に、園子がそう言いながら右手で敬礼しつつ立ち上がる。ならば自分はと友奈が言おうとしたが、それを遮る園子。因みに楓の名前が出た瞬間、風と樹、夏凜が同時に彼の方を見て“マジで!?”と言いたげな顔をしており……楓は、頬を掻きながら恥ずかしそうに頷いた。

 

 証拠を見せるように、園子はスマホを操作してから画面を友奈へと見せる。そこに写っているのは、国防仮面の格好をして並んで敬礼している小学生時代の4人。その写真を、友奈は目を輝かせながら見ていた。

 

 「ちょっと園子、アタシにも見せなさいな」

 

 「わ、私も見せてください」

 

 「私もちょっと気になるから見せなさい」

 

 「いいよいいよー。あ、他にもあるよ。ほら、遠足の時の写真とかね~」

 

 「あ、焼きそばだ! 美味しそ~♪」

 

 さっきまでの空気はどこへやら、いつの間にか園子のスマホの中にある過去の先代組の写真を見る時間へと変わっていた。当時離れていた風と樹にとっては貴重な家族の写真、夏凜にとっては敬意を持つ先代勇者達の写真、そして友奈にとっては大好きな仲間達の写真。皆興味津々で園子の後ろに回り、写真を眺めていた。

 

 「……皆……」

 

 「美森ちゃん。皆の為に頑張りたいのは……自分も、勇者部の皆も同じ気持ちなんだよ。君1人で頑張る必要は、ないんだ」

 

 「そうだぜ須美。あたし達は4人の頃から一緒に頑張って来たじゃないか。もっとあたし達を頼っていいんだゾ?」

 

 「楓君……銀……ありがとう」

 

 5人を眺めながら、楓と銀は美森の隣に来て2人で彼女の肩に手を置く。そして、2人は言うのだ……美森だけで頑張ることはないと。皆、同じ気持ちなのだからと。もっと自分達を頼れと。

 

 天の神の存在を知り、それでも同じ気持ちで立ち上がった。知る前から、4人で一緒に頑張ってきた。それは成長し、こうして勇者部に入り、仲間が増えた今でも変わらない。4人が5人になり、5人が6人になり、6人が8人になり……皆で、一緒に力を合わせて頑張ってきたのだ。

 

 だから、1人でやる必要はない。やるなら皆で、美森には自分達が居るんだから。そう言ってくれる友達の、親友の、それ以上の存在に……美森は、目を潤ませながら感謝した。

 

 「……ところで2人共。あれ、いいの?」

 

 「あれって、写真? 別にいいんじゃない? まあ、昔の写真を見られるのは少し恥ずかしいけどさ」

 

 「そうだねぇ……? 何か忘れてるような……」

 

 「……2年前の写真が入ってるのよね? なら、そのっちのことだからきっと……」

 

 「わー、これ楓くん!? 可愛い!」

 

 その後に、美森は2人に写真を見ている5人を指差しながら問い掛ける。質問の意図が分からず2人は首を傾げ銀は別に構わないと言い、楓も頷く……が、何か忘れてはいけないことを忘れているような気になる楓。2人に美森が自分の懸念を伝えようとした丁度その時、友奈からそんな声が聞こえてきた。

 

 「そうそう、この頃の楓はまだ小さくて、顔も樹に似ててねぇ……我が弟ながら似合うわー」

 

 「銀さんも可愛いです!」

 

 「でしょでしょ~? どう? にぼっしー。2年前の私達は」

 

 「いや、まあ、うん……いいんじゃないの? でも、この格好の楓さん……見たくなかったような、見て良かったような……あと、にぼっしー言うな」

 

 「……須美。さっき、何を言いかけた?」

 

 「……あの中には多分、銀を色々着付けてた時の写真とか、その時の楓君の女装の写真とかも入ってるかもって……」

 

 美森がそう言った直後、2人は同時に5人から園子のスマホを取り上げるべく動いた。

 

 

 

 

 

 

 楓君に叱られた。皆に心配された。そのことは……とても嬉しい。頼っていいと言ってくれて、私は1人じゃないと言ってくれて……本当に、嬉しい。私のことを思ってくれて、私に手を差し伸べてくれて……泣きそうな程、嬉しい。私も皆が大好きで、皆が大切で、皆の為なら頑張れる。皆を守る為なら……どんなことだって出来る。

 

 

 

 ――だから、私は征きます。

 

 

 

 それは自分の罪を償う為でもあり、自分の罪を誰かに償わせない為でもあり、私にしか出来ないことであり、大好きな皆の為に出来る……きっと、最期の。

 

 私が壁を破壊してしまったせいで天の神の怒りを買い、結果として外の火の勢いが強まっているらしい。それを鎮める為には2年前、彼と安芸先生から聞かされた奉火祭を行う為に神の声を聞ける数人の巫女を生贄とする必要がある。そして……勇者であると同時に巫女の適性を持つ私なら、1人でその数人の代わりになれる。そう、私の家に来た大赦の人達は言った。

 

 私が仕出かしたせいで誰かを犠牲にする訳にはいかない。そして、私なら代わりになれる……頷くことに、躊躇いはなかった。皆が無事なら……私1人だけなら、それでいい。

 

 だけど……私が居なくなれば、きっと楓君達は私を探す。ううん、聡い彼やそのっちなら、きっと私が何のために居なくなったのか気付く。

 

 「だから神樹様……お願いします」

 

 どうか私を……どうか。

 

 

 

 ― 叶えたくないよ……そんなこと。でも……叶えてあげないと、ね。“私達”には、天の神の力を覆す力がまだ無いから……ごめんなさい。そして……ありがとう ―

 

 

 

 勇者に変身し、大赦の人達に見守られながら結界の外へと出ようとする私の髪を……どこからか飛んで来た、季節外れの桜の花弁と共に風が撫でた。




原作との相違点

・ひったくり犯を捕まえた美森の元に楓も推参

・美森、叱られる

・友奈と園子の台詞を楓と銀が言う

・その他色々



という訳で、勇者の章です。原作と違い、皆が東郷さんの記憶を失う前からスタートです。この時点でだいぶ変わってますね。神樹様とか部室での話とか。

以前の夏凜の時のように、東郷さんには叱られてもらいました。ただのひったくり犯だから良かったものの、それ以前に中学生の女の子が大の男を相手取るというのが、ね。ここはちょっと賛否両論あるかもしれませんが、楓君だからこそ叱らないと。

前回の赤嶺ちゃんはそれなりに評判なようで何よりです。最初は段々と依存していく過程を書くつもりだったのに、後半どうしてああなったのやら。

しばらく本編です。次に番外編を書くときは、リクエストではなくDEifの予定です。こちらも進めないと……尚、番外編なのでかなりがっつり省きます。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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