咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`) もうこれぐらいの投稿速度から抜け出せないよー……あ、いつも誤字報告ありがとうございます!

fgo、ゆゆゆい、他ゲームと連続して爆死してる私です。魔王ノッブ、限定メブ、うたのん、黒メルザ欲しかったなぁ……。

私が病み書くの苦手との前書きに反応してる方が何人か居て笑いました。お願いします信じてください! なんでも書きますから!(書くとは口で言ってない

そうやって感想を見ていると、本作の初期も初期から書き続けて下さってる方が居てくれることを改めて有り難く思います。中には初期からかなり変貌している人も居ますがね……誰とは言いませんが←

さて今回、物語的にはあんまり進みません。本当に申し訳ない。


咲き誇る花達に幸福を ー 5 ー

 「……なんだろうねぇ、この感覚」

 

 いつものように朝になり、いつもの日課をこなす。いつもと変わらない1日の始まり方、自分が今まで過ごしてきたことと変わらない普通の日常……なのに、何故だろうか。朝起きてから自分は、言葉にならない“違和感”を感じていた。

 

 制服に着替えながら首を傾げ、違和感の正体を探る。何かが変わっているような、何も変わらないような……()()()()()()()()ような。部屋を見渡す……が、昨日と何も変わらない。別に模様替えをした訳でもないのだから当たり前なんだけどねぇ。

 

 勉強机の上にある物を見る。今日の用意をしてあるカバンと、今日は使わない教科書達。散華が戻る前に入院していた時に友奈が持ってきてくれた、当時の勇者部()()の勇者服にある花の押し花の栞を()()入れた、押し花の集合写真。

 

 「……6枚?」

 

 あれから調べて知った花の名前。自分の白い花菖蒲、友奈の桜、姉さんのオキザリス、樹の鳴子百合、そして夏凜ちゃんのヤマツツジ。のこちゃんと銀ちゃんの分は当時の勇者部に居なかったから無いのは仕方ない。なら……このアサガオは、誰のだ?

 

 分からない。何か、大切なことを忘れている気がする。そう理解した上で、何を忘れているのかピンと来ない。この感覚は覚えがある。そう、自分の記憶の散華が発覚して、その上で忘れたことを教えられてもまるでピンと来なかった時と同じ感覚。

 

 「……()()()()()()()()()……? なら、まさか神樹様が何かしたのか?」

 

 とは言うものの、明確な証拠はない。思い過ごしかもしれないが……どうにも気になる。違和感を拭いきれない。仮に神樹様が何かをした……何かを忘れさせたとして、なんでそんなことをする必要があるのか。それも分からない。

 

 幾ら考えても答えは出ない。仕方なく、1度違和感の正体を探ることは諦め、姉さんが居るであろうリビングへと向かう。その前に、枕元に置いてあるスマホを忘れないように手に取り……その裏に貼ってある、先代勇者組で撮ったプリクラが目に入った。

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()右手でピースして元気に笑ってる銀ちゃん。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。そんな銀ちゃんの前で頬をくっつけてアップで映る笑顔ののこちゃんと、朗らかに笑ってる自分。

 

 

 

 ― ………… ―

 

 

 

 「……なんだ? 自分は今、何を……」

 

 何かを、誰かのことを思った気がする。でも、それを無かったことにされたような……いや、そもそもなんで自分はこの写真に疑問を覚えたんだったか。自分達先代組の()()が映っているだけの、()()()()()()()()()()()()()()()に。

 

 違和感。また、何かを変えられたような……そんな感覚を感じたままスマホをポケットに入れ、部屋を後にする。リビングに向かえば姉さんが居て、いつものように樹を起こすよう頼まれ、起こし、3人揃ってから姉さんの作った朝食を食べ始める。

 

 「いつもありがとうねぇ、姉さん。だけど、毎朝これだけ作るのは手間じゃないかい? もっと簡単なモノで良いのに」

 

 「毎回凄いよね、お姉ちゃん。でも量を加減してくれると嬉しいな……あむ、むぐむぐ……」

 

 「良いのよ、作るのは楽しいし、あんた達にはいっぱい食べさせてあげたいし。それに、手間隙かけた方が料理は美味しくなんのよ?」

 

 「そっか……ありがとねぇ、姉さん」

 

 違和感。前にもそんなことを言われたような……でもそれを言ったのは姉さんではなく、別の誰かだったような。その言葉は自分にとって……とても、嬉しい言葉だったような。

 

 何かを、忘れている気がする。誰かを、忘れている気がする。なのにその“何か”は自分の手から溢れ落ちて掴むことが出来ず、その“誰か”はぼんやりとすら思い浮かべることが出来ない。だけど……ソレに向かって手を伸ばすことを止めたくはなかった。止めれば……本当に、大切なモノを失くす気がして。

 

 そして、その正体を掴めぬままに……3人で学校へと向かった。

 

 

 

 ― やっぱり、高次元の魂を持つあの人だけは効き目が薄い……何度も消そうとすることで遅らせてるけど、完全に思い出すのも時間の問題かな。ごめんなさい、勇者の子。貴女の願いは叶えきれない……でも、それだけ貴女は想われているんだよ。あの人にも……他の勇者の子達にも ―

 

 

 

 

 

 

 12月に入ったとある日の、寒空の下での家族3人徒歩の通学。途中でのこちゃんが住むマンションの前を通り、いつものようにそこで彼女と合流。最早定位置と言ってもいい、自分の左側に立って歩く彼女はいつも笑顔だ。

 

 4人並んで歩くこと数十分。学校に到着すれば、それぞれのクラスへと向かうことになる。自分も自分のクラスへと向かい、既に来ている何人かのクラスメートと挨拶を交わして自分の席へと座り、机の上にカバンを置き……何となく、右隣を見る。

 

 (……なんだろうねぇ……この違和感)

 

 今日起きた時からずっと感じ続けている違和感。自分の席の()()()()()()()()()を見て、またそれを感じる。本当に、自分の右隣には何も無かったのか。本当に……自分の右隣には、誰も居なかったのか。

 

 「おっはよーう!」

 

 「……おはよう、友奈。今日も元気だねぇ」

 

 「おはよう楓くん!」

 

 違和感に首を傾げていると、視線の先の扉が開いて友奈が元気良く挨拶しながら入ってきた。彼女が浮かべる笑顔に違和感はどこかへと飛んで……行くことはなく、また別の違和感を感じる。

 

 「おや、今日は1人なんだねぇ」

 

 「……? 私はいつも学校に来るときは1人だよ? 皆のお家は遠いから寂しいよー」

 

 「えっ? ……いや、そう……だよねぇ……?」

 

 言われてみれば当然のことだ。自分達姉弟の家からものこちゃん、銀ちゃん、夏凜ちゃんがそれぞれ住んでるマンションからも友奈の家は離れている。だから彼女が1人で登校してくることは何もおかしくはない……んだが。

 

 また、違和感。本当に彼女はいつも1人だっただろうか。その隣に、或いは後ろから続いて教室に入ってくる“誰か”が居なかっただろうか。でも、やっぱりその誰かに、何かに手が届かない。

 

 「どうしたの? 楓くん」

 

 「……いや、何でもないよ。今日の部活のことを考えててねぇ。ほら、劇とかさ。学園祭の時は自分は出られなかったからねぇ」

 

 「そうだった。今度は皆で出来るから楽しみだよー。絶対子供達に楽しんでもらおうね!」

 

 「……うん、そうだねぇ」

 

 しばらくしたら、自分達は幼稚園で劇を披露する。学園祭でやった演劇、それを子供達用に少しアレンジしたもの。当時に参加出来なかった自分とのこちゃん、銀ちゃんを加えた7人全員でやるのを自分を含め皆楽しみにしている。因みに、魔王役は姉さんから自分へと変更されている。

 

 友奈が勇者、樹は音楽や効果音の機材管理、姉さんは脚本と道具作成、夏凜ちゃんと銀ちゃんは姉さんの手伝いと本番の時の背景移動、のこちゃんは木や岩等の脇役(?)……ナレーションは誰だったか……ああ、確か姉さんだったか。

 

 (……本当に、そうだったかねぇ?)

 

 

 

 放課後、友奈と夏凜ちゃんと一緒に部室へと向かう。そこには既に姉さんと樹が居たので挨拶を交わし、自分達もそれぞれのやることをやる。

 

 姉さんは大量のプリントを片手に黒板に貼ってある地図に写真を貼っていき、樹はパソコンを操作している。夏凜ちゃんは劇用の道具作りを始め、自分もいつものようにスマホから勇者部のサイトに行って依頼の確認し、今日出来そうなことをピックアップし、纏める。そして友奈は。

 

 「讃州中学勇者部は、勇んで世の為になることをする倶楽部です。“なるべく諦めない”、“為せば大抵なんとかなる”等の精神で頑張っています。それでは、今日も勇者部、しゅっぱーつ! ……と」

 

 「小学生の作文か」

 

 「中学生だよー」

 

 「分かってるわよ」

 

 確か、タウン紙で勇者部の活動を紹介してもらえることになって、そのキャッチコピーや自己紹介文を任されたんだったか。勇者部も随分認知度が上がったよねぇ……最初は手段でしかなかった勇者部が、今ではこんなにも大切なモノになっている。本当に、勇者部を考えてくれた姉さんには感謝しかない。

 

 「ごめんごめん、もう始まってる~? 掃除当番の途中で寝てしまったんよ~」

 

 「それを起こすのに奮闘してて遅れました……」

 

 「お疲れ、銀。園子は……掃除の途中で寝られるのはあんたくらいよね」

 

 「わーい、褒められた~♪」

 

 「「いや、褒めてないから」」

 

 後からやってきたのこちゃんと銀ちゃん、夏凜ちゃんの3人のやり取りを見てつい笑みが溢れる。すっかり馴染んだ夏凜ちゃん、散華によって大赦で管理されていた2人。その2人が勇者部に居るという光景は、自分が見たかったモノだ。

 

 全員が揃ってからも、楽しく部活をしたしねぇ。ペットを探したり、赤ん坊のお世話をしたり、運動部の助っ人に出たり、幼稚園に劇を見せに行ったり。部活じゃなくても7人で遊びに行ったり……本当に、楽しい思い出ばかりだと思い返しながら、ホワイトボードに貼ってある写真を見る。

 

 自分が戻ってきた日に撮ったという、劇での役の格好をした“明日の勇者へ、讃州中学勇者部”と書かれた幕を持った4人の写真。その下に、戻って来た勇者服姿の自分が入った5人での集合写真……自分以外の皆が泣いてるのはご愛敬という奴だろう。その隣には7人で遊びに行ったところで撮った写真。

 

 「……?」

 

 懐かしんでいると、また違和感。友奈達だけの写真にある、友奈と夏凜ちゃんの間にある丁度人1人分空いた空間。そして、勇者服の自分が写ってる写真にも……左側に友奈と夏凜ちゃん、右に樹、姉さんは後ろから自分に抱き着いていて……自分と樹の間にも、人1人分の空間。

 

 なんだ、この違和感。不自然に空いた空間に意識が向く。まるで、そこに誰かが居て……その誰かがだけが消えてしまったかのような。そう、誰か……その誰かを、もう少しで思い出せるような気がして。

 

 

 

 ― ………… ―

 

 

 

 「さて、12月の部会、始めるわよー。今来てる依頼の場所の写真を地図に貼ってあるわ。依頼は楓が纏めてくれてるから、そこから各自確認して……」

 

 姉さんの声が聞こえてそっちに意識を向けたからか……それとも、また何かを変えられたからか。その誰かはまた……自分の手をすり抜けた。

 

 

 

 

 

 

 後少しで手が届くのに、届きそうになる度に何かを変えられたような気がして……あれから2日経った日曜日。自分は銀ちゃんと2人で老人ホームのお手伝いに来ていた。と言ってももう終わっていて、今は銀ちゃんを住んでるマンションまで送る途中なんだけど。

 

 「前にもさ、こうやって家まで送ってもらったことあったよな」

 

 「そうだねぇ……銀ちゃんだけ別の道だったからねぇ」

 

 自分の左側を歩く銀ちゃんが懐かしそうに呟く。前にも……自分達がまだ小学生だった頃にも、こうして自分は銀ちゃんを送っていったっけ。自分がまだあの男の養子だった時、彼女だけ分かれ道で1人だけになるから心配して……。

 

 (……なんで、銀ちゃんだけ送って行ったんだ?)

 

 ふと湧いてきた疑問。自分は銀ちゃんとのこちゃんとは反対方向だった。2人はその分かれ道まで一緒で、そこで別れることになって……それなら、どっちも1人になるはず。なんで自分は銀ちゃんだけを……?

 

 「……な、なあ楓……楓?」

 

 「うん? ああごめんね、ちょっと考え事をしててねぇ。それで、なんだい?」

 

 「最近ボーッとすること多いな、楓。いやさ、その……買い物にも着いてきてくれないかなって……ダメ?」

 

 「それくらい構わないよ」

 

 「やった!」

 

 そんなことを考えていると銀ちゃんに名前を呼ばれたのでそちらへと顔を向ける。すると彼女は不思議そうにした後に視線をあちこちに動かしながら、自分の顔を伺うように上目遣いにそう聞いてきた。両手を前で組んで人差し指をまごまごと動かしてることもあり、その姿はとても可愛らしい。

 

 微笑ましくてついくすくす笑ってしまった後に了承し、小さくガッツポーズをした後に恥ずかしそうにする彼女と共に道中にあるスーパーへと入る。出入口にあるカートにカゴを乗せ、2人で順番に回っていく。

 

 「こっちのは高いけど質が……こっちの方が安いし量も少ないけど質がいいからこっちにしよ。あ、じゃがいも安い。長ネギも……うどんは当然として……卵も切れてたっけ。後は牛乳と……」

 

 「目線や選び方が主婦だねぇ。自分にはあんまり違いとかわかんないや」

 

 「へへっ、夢はお嫁さんだからな。節約術とか目利きとか勉強しててさ。旦那さんを送り出してる間も家を守れる妻でありたいのですよ。どうせならその……ごにょごにょ」

 

 「……銀ちゃんならなれるよ」

 

 自分はカートを押しながら銀ちゃんが真剣な表情で商品を選ぶ姿を見ているだけ。まあ銀ちゃんが使うモノなんだから口出しするのもねぇ……選ぶ姿は正しく主婦。夢であるお嫁さんに向かって邁進している銀ちゃんは照れ臭そうな笑顔も相まってキラキラとしているように見えた。

 

 夢……そういえば、そんな話もしたねぇ。一時は散華の影響で忘れていたけれど、今では神樹館の時に語った時間まで思い出せる。そう、あの時も彼女達()()は……。

 

 (……3人? 銀ちゃんと、のこちゃん……それから……)

 

 

 

 ― ……そろそろ限界、かな…… ―

 

 

 

 また、何かを変えられたような気がする。また、何か……誰かがすり抜けたような気がする。それを取り戻せないまま、自分は銀ちゃんと買い物をして、荷物を部屋まで運んでから帰路へとついた。

 

 「あ……楓くん」

 

 「おや、友奈。今帰りかい?」

 

 「うん。依頼が終わって、夏凜ちゃんとうどん食べてきたんだー」

 

 「そっか。自分も銀ちゃんと依頼が終わって帰る途中だよ。折角だし、友奈も送っていこうか?」

 

 「いいの? ありがとう!」

 

 「どういたしまして」

 

 その途中、道を歩いていると友奈に後ろから話しかけられた。どうやら彼女も帰る途中だったらしい。今日は日曜日だけど、自分と銀ちゃんのように友奈と夏凜ちゃんもまた依頼をこなしていたんだろう……確か、どこかの運動部の助っ人だったか。因みに、姉さんと樹は家にのこちゃんを呼んで勉強を教えてもらってる。のこちゃん、頭いいからねぇ。

 

 少し帰路から外れるがこの際だと友奈を送ることにした。冬だから日が暮れるのも早いからねぇ、暗い道を女の子1人歩かせるのも危ないし。友奈が嬉しそうに笑いながら自分の左隣に移動し、2人で隣合って他愛ない話をしながら歩く。

 

 「……ねぇ、楓くん」

 

 「なんだい? 友奈」

 

 「あのね……夏凜ちゃんと歩いてる時に車椅子に乗ってる女の子を見て……ちょっと気になったんだ。何でかは、分からないんだけどね」

 

 「……車椅子、ねぇ」

 

 ふと、友奈がそんなことを言い出した。彼女自身、本当に何でかは分かってないんだろう。偶然その車椅子に乗った女の子を見て、どうしてかそれが気になった。ただ、それだけの話。

 

 なのに、自分も何故かその話が気になった。車椅子は以前にも自分が乗っていたことがあるが……その話を聞いて、頭に何かがちらつく。そう、自分以外にも誰か、車椅子に乗っていた子が居たような……。

 

 「……悩んだら相談、だったねぇ」

 

 「えっ?」

 

 「自分もね、こないだからずっと違和感を感じてるんだ」

 

 「違和感……?」

 

 「そう、違和感。何かが、誰かが足りないような……そんな違和感がずっと、ね。不思議だよねぇ……」

 

 「うん……不思議だね。今の話を聞いて、私もなんだかそんな気がするんだ」

 

 気付けば、友奈に違和感のことを話していた。自分1人で抱えていても仕方ないという思いと……何故だか、友奈に話せば解決出来るんじゃないか、なんて根拠もなく思ったからだ。まあ、それは友奈も同じように違和感を覚えたというだけで終わったんだけどねぇ。

 

 そこから何となく無言になり、友奈の家までの道を歩く。その間も違和感はずっと続いていて……違和感は、寂しさに変わる。友奈と2人。そこにもう1人……自分の右側に誰かが居たような。それを友奈も感じているのか、時折視線が自分の右側へと行っている。そうしている内に友奈の家に近付き……。

 

 「あ……」

 

 「……」

 

 2人同時に、友奈の家の隣にある和風の大きな家の前で立ち止まった。同時に沸き上がる違和感。只の家のはずだ。なのにどうしてこうも……胸がざわつくのか。

 

 知らない誰かの家……本当にそうか? そう思っていると、不意に友奈が自分の左手を握ってきた。どうしたのかとそちらへ顔を向けてみれば……そこには、涙を流す友奈の姿。

 

 「友奈……? どうしたんだい?」

 

 「……わかんない。でも、なんでかな……このお家を見てると……凄く、悲しく……なって……」

 

 「友奈……」

 

 段々声が震えて、両手で涙を拭う友奈。けれども涙は止まらず……そんな彼女を、自分は無意識の内に抱き締めていた。それからしばらく、自分が友奈が泣き止む時まであやす様に彼女の頭を撫でながら抱き締め続けた。

 

 ……その様子を友奈のお母さんに2階の窓から見られていたらしく、落ち着いた友奈を家に送るとニヤニヤとした彼女が出迎え、友奈は顔を真っ赤にして俯き、自分は苦笑いしていた。

 

 

 

 

 

 

 「じゃじゃーん♪」

 

 「「「「わーっ!」」」」

 

 「ケーキ! どうやって密輸したの?」

 

 「密輸て……他に言い方は無かったのか園子」

 

 「家庭科の授業があったんで、そこで作ってきたんです」

 

 「樹が作ってきたの?」

 

 「はい!」

 

 翌日の放課後、部室に樹がケーキを入れた箱を持ってきた。自分で言った通り、家庭科の授業で作ったらしい。甘いものが好きなのは女の子の共通点なのかねぇ、自分達姉弟3人以外の4人が嬉しそうな声を上げ……樹が箱を開けると、その声も止まった。

 

 出てきたのは、辛うじて猫だと分かるデコレーションが施された、少々……うん、少々歪なチョコレートケーキ。

 

 「作りすぎたから持ってきちゃった」

 

 「偉いぞー、我等が妹」

 

 「ど……独特のセンスね」

 

 「表現力豊かだと言いなさい夏凜」

 

 そんなこんなで姉さんが8等分に切り分け、1つを残して紙皿に移して全員の手に渡る。夏凜ちゃんと銀ちゃんが恐る恐る、友奈とのこちゃんは嬉しそうに口に運び、全員が笑顔を浮かべた。

 

 「どうです!?」

 

 「うん、見た目はともかく……」

 

 「美味しいよ樹ちゃん!」

 

 「お姉さんプロだねぇ」

 

 「園子の感想は良くわからんけど美味い!」

 

 「見て、楓……樹のケーキを皆が美味しいって……樹が遂に食べられる料理を……うぅっ」

 

 「成長したねぇ樹……1年前に作ったうどんはどういう訳か紫色で味もとんでもなかったのにねぇ」

 

 「お兄ちゃん、お姉ちゃん……かえって傷付くよ……」

 

 樹が聞けば夏凜ちゃんは食べながら頷き、友奈、のこちゃんと続き、銀ちゃんがのこちゃんの言葉にツッコミつつ一口二口とケーキを口へと運ぶ。その姿に以前の樹の料理の腕と味を知る姉さんが感激からかダバーッと涙を流しながらケーキを食べるので、ハンカチで涙を拭きつつ自分も一口……うん、美味しいねぇ。最初にうどん食べた時は痛みを感じないハズなのに胃痛を感じた気がする程だったのにねぇ。

 

 そうして食べ進めていけば、ケーキは当然無くなる。そして全員がほぼ同時に残った1つのケーキに手を伸ばし……そこからは譲り合い。夏凜ちゃんどうぞ、樹が食べるべき、お姉ちゃんが食べれば、園子に譲る、じゃあミノさんに、いやいやここは兄である楓に、自分よりも友奈に……なんて1週してしまった。

 

 「そもそもなんで8つに分けたのよ。7つでいいじゃないの」

 

 「知らないわよ。いつもの癖よ」

 

 「……癖、ですか?」

 

 「えっ? あ、いや……何となく……?」

 

 どうやら姉さんもよくわかっていないようで不思議そうにしている。だが、自分はまた違和感を感じていた。というのも、自分も8等分にされたケーキを見て、その数で正しいと思っていたからだ。

 

 そんなことを思っている内に、のこちゃんが1つのケーキを綺麗に7等分していた。流石に小さくなってしまっているが、随分と器用な真似をするねぇ。

 

 

 

 「……ぼた餅」

 

 

 

 不意に、友奈がそう呟いた。

 

 「えっ? 何? 友奈」

 

 「なんか、前に部室でぼた餅食べなかったかなーって……」

 

 ぼた餅……そうだ、友奈が言うように自分達は部室でぼた餅を食べた事がある。それも何度も……? 昔、喉に詰まらせて以来餅が苦手な自分が何度も……? いや、確かに自分も食べていた。そうだ、確か……誰かが作ってくれた……。

 

 「ああ、前に友奈さんも家庭科の授業で作ってきたんですよね」

 

 

 

 『あれ? カエっち、ぼた餅嫌い? あんまり食べてないけど……』

 

 『いやぁ……自分、お餅は苦手なんだよねぇ』

 

 『日本男児が国民食のお餅を嫌うなんて……どうして?』

 

 『ああ、別に味や食感が嫌いという訳ではないよ。このぼた餅も美味しいし。ただ……昔、喉に詰まらせちゃってねぇ。それ以来どうも……』

 

 『お爺ちゃんか』

 

 『それじゃあ、楓君の分は一口位の大きさにするわね』

 

 『手間じゃないかい?』

 

 『料理はね、手間暇掛けた方が美味しくなるのよ』

 

 

 

 「……違う」

 

 「えっ? お兄ちゃん、違うって……何が?」

 

 脳裏に浮かぶ過去の記憶。2年前、自分が退院した後に()()が自分の退院をパーティーで祝ってくれた。その時に初めて、自分は()()()のぼた餅を食べて……でも、苦手だからあんまり手が進まなくて。

 

 そしてその理由を言えば、皆が苦笑いして……それならと、彼女はそう言ってくれたのだ。手間が掛かるとしても、自分の為にと……美味しい、一口サイズのぼた餅を。

 

 

 

 『あら? 一口サイズのもあるのね』

 

 『はい。風先輩と犬吠埼君にも食べてもらおうと思って作っていたら、何故か一口分の大きさまで作ってしまってて……せっかくなので入れてきたんです』

 

 『……普通の奴の他にも一口サイズの奴まで……手間じゃ、ないかい?』

 

 『ふふ、確かにそうかもしれないけれど……お料理はね、手間暇掛けた方が美味しくなるのよ?』

 

 

 

 記憶を失っても……それでも覚えてくれていた。それが本当に嬉しくて嬉しくて仕方なかった。それからも彼女は作り続けてくれたんだ……自分の為に、その一口サイズのぼた餅を……ずっと。

 

 

 

 やっと……思い出した。

 

 

 

 「美森ちゃん……美森ちゃんはどこだ?」

 

 「え? ちょっと楓、急に何を……」

 

 「……あ……!」

 

 「……っ!? そうだ、なんで私忘れてたんだろう……っ!」

 

 「……あれ? そういえば須美は?」

 

 「ちょ、園子に友奈に銀まで? 急にどうしたのよ」

 

 「あの子が居ないんだよ姉さん。この勇者部にはもう1人居るんだ、居たはずなんだ!」

 

 「だから、誰が」

 

 

 

 ― 思った以上に……思い出すのが早かったなぁ…… ―

 

 

 

 「東郷 美森! 自分達と一緒に戦った、自分達と一緒に勇者部で部活をしていた、大切な仲間が!」

 

 真面目で、歴史や国が大好きで、皆のことが大好きで、残酷な真実を知りながら……それでも自分達と一緒に戦うと言ってくれた……怖がりで、寂しがりやなあの子に。

 

 ようやく……違和感の正体に、忘れさせられていたモノに手が届いた。




原作との相違点

・友奈がお隣さんの家を見て涙

・魔王役が風から楓に変更

・思い出すタイミングが劇当日ではなく樹がケーキを作ってきた日

・その他色々



という訳で、東郷 美森の消失から彼女を思い出すまでの話でした。楓は高次元の魂云々の為、神奈様が何度も記憶操作してました。

部分的に銀ちゃんと友奈をピックアップ。原作でもこうしている銀ちゃんを見たかった……。

さて、次回も本編。次回は原作2話目になりますかね……つまり、原作の鬱の始まり。本作ではどうなることやら。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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