咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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また長らくお待たせしました(´ω`) 暑さでうだってるのもありますが、勇者の章が基本的に難産です←

ゆゆゆいでは777日イベントですね、目出度いことです。一回確定ガチャ引きましたが、雪花と勝負しぐんちゃんが来てくれました。今回も超級レクイエムは強敵でした……なんとか☆3つ取れましたが。

相変わらず進みません。原作は6話で終わりましたが、本作ではどれくらい掛かるやら……友奈の章よりは短いと思いますが。

そういえば本作、私の作品では1番話数が多くなったんですよね。随分長くなったモノです。ゆゆゆいも書くのでまだまだ伸びます。今後とも本格にどうかお付き合いください。


咲き誇る花達に幸福を ー 8 ー

 あの日、友奈を見送った後のこと。彼女のお陰で冷静になれた自分は、どうして神樹様が自分を外に出さないのか……その理由を、改めて考えていた。

 

 過去に数回、自分は神樹様と話したことがある。自分に満開を使わないように言い、散華を戻すか否かでとても悩み、自分の体を治してくれた。人と同じように心を持ち、感情を持った優しい神様。そんな彼女が、理由もなくこんなことをするハズがないと。

 

 恐らく、自分達から美森ちゃんの記憶を無くしたのは彼女自身がそう望んだからだ。それと同じように、理由があるハズ……そう思い、過去にした会話の内容を思い返す。

 

 最初に会ったのは……確かあの3体との戦いの後で、病院のベッドの上に居る時だったか。その時に自分は満開や散華のことを聞いたのだ。その他にも、自分が生まれたことで減っていくばかりだった寿命や力が増えていったのだとか言っていたような……。

 

 次に会ったのは……そう、大橋での決戦前。皆で大赦の奥にある現実世界での神樹様……御神木に触れた時。そこで自分の散華は治すことが出来ないんだと言われたんだったか。その理由が自分が上の世界から転生してきたからだとか……その不可能を天の神の力を利用することで可能にしてくれたんだよねぇ。

 

 最後に会ったのは、美森ちゃんが壁を壊したあの戦いの後。自分の散華を治す為には神樹様に取り込まれる必要があり、しばらく共に過ごしていた。実はその時、鏡のようなモノで皆の様子を見せてもらっていたのだ。その時に友奈の魂がどこかの空間に囚われていることを知り、少し渋っていたものの神樹様が力を貸してくれてほんの少しだけその空間と繋げてもらい、彼女を救い出すことが出来た。

 

 (鍵になるのは……多分、自分が神樹様曰く上の次元の魂であること。それは、この世界では恐らく自分だけが持つ唯一無二のモノ。自分が生まれたから寿命や力が増えたと言っていたから、自分だけなのはほぼ間違いないと思うが……)

 

 自分を外に出さないのは恐らくそれが理由。では、仮に出した場合に何か問題があるのか。死ぬ可能性がある? それなら自分だけでなく皆も出さないハズ。美森ちゃんを助けに行かせない為? これも同様。後思い付くのはバーテックスや天の神くらいなモノだが……。

 

 (……天の、()。もしも……もしもだ。神樹様の寿命や力を伸ばすという自分の魂が……天の神にも影響するのなら?)

 

 そうだった場合、只でさえ外の世界を火の海に変える力を持つ天の神が更に力を増し、神樹様との力の差はより開くことになる。もしかしたら、あの合体した強大なバーテックスを複数体生み出せるようになるかもしれない。火の海に変えた力が、結界すらも破壊してこの四国すらも変えてしまうかもしれない。

 

 そういえば、最初の乙女座は自分を捕らえてきた。合体したバーテックスは自分を取り込んだ。この考えは存外、的外れという訳でもないんじゃないか? とは言え、神樹様に聞かない限りどこまでいっても予想でしかないんだが。

 

 それに……やっぱり皆のことも心配だ。信じて待つことしか出来ないのが、こんなにも辛く悔しいことだなんてねぇ……安芸先生と友華さんも、こんな気持ちだったのかねぇ。

 

 (頼むから皆……無事で戻ってきてくれ)

 

 そうして結界の向こうに見える景色を眺めてどれくらい経ったのか。凄く長く感じたが、実際はそう長い時間経った訳ではない気がする。ようやく皆が戻って来て……友奈と美森ちゃんが意識を失っていたのは本当に肝が冷えた。友奈は直ぐに目覚めてくれたが、美森ちゃんは目覚めなかったしねぇ。

 

 病院に連れていき、美森ちゃんが病室に移された後も意識が戻らなくて気が気じゃなかった。そうなるまで外に居て生贄として過ごしていたんだ……自分達の為に。だから目覚めてくれた時には本当に安心したし……自分達のことをそれだけ思ってくれていたことが、本当に嬉しかった。涙を流すことを、我慢出来なかった程に。

 

 結局自分は何も出来なかったが……それでも、また8人で居られるのだから情けなさや悔しさには蓋をして、喜ぶ。そんな少し複雑な気持ちでありつつ、ギリギリまでお見舞いをして友奈を送っていた時のこと。

 

 「じゃあまたねぇ。お休み、友奈」

 

 「うん! お休みなさい、楓くん」

 

 彼女に御礼を言って背を向けて姉さんと樹が待つ家に帰る為に歩く。お腹が空いたな……今日の晩御飯は何だろうか。そんなことを考えながら歩いて、最初の角を曲がろうとした辺り。

 

 

 

 ― …………………… ―

 

 

 

 「っ!?」

 

 唐突に、背筋が凍った。咄嗟に足を止めて振り返り、辺りを見回す。しかし、既に暗いこともあってか自分以外に人の姿はない。だが……ハッキリと感じた。さっき……いや、()()自分は誰かに、ナニカに見られている。

 

 冷や汗が流れる。人の視線に敏感だと言うつもりはないが、それでも今尚見られているというのが解る。それも1つじゃない……複数の存在から。だが、この場には自分しか居ない。少し視線を上げて知らない人の家の窓を見てみるが、そこにも人影は見えない。

 

 そうして見回した直後、視線が消えた。時間にしてほんの数秒……だが、随分と長く見られていた気がする。それにあの視線、背筋が凍る感覚は……以前にも、どこかで。

 

 「……っ!? あ……姉さん、か」

 

 思いだそうとしていた時、急にスマホが鳴り響いてビクッとする。取り出すと、そこには姉さんの名前。その事にホッと安心しつつ、画面を操作して電話に出る。

 

 「もしもし?」

 

 『楓、今どこよ? まだ東郷ん所に居るの?』

 

 「いや、友奈を送ってきたから今から帰るところだよ」

 

 『分かった。気を付けて、なるべく早く帰ってきなさい。もう結構遅いし、樹がお腹空かせてるから』

 

 『お腹鳴らしたのお姉ちゃんのほ』

 

 最後に樹の声が聞こえたかと思えば電話が切れた。これは早く帰らなければいけないねぇ、と思わず苦笑いをして、2階の窓から自分に向かって手を振る友奈に気付いて振り返してから少し速めに歩き出す。

 

 (……さっきの感覚を感じたのは、どこだったっけ)

 

 その間も考えていたんだけど……この時はまだ、思い出せなかった。

 

 

 

 

 

 

 あれからしばらく。無事に美森は退院し、待ってもらっていた幼稚園に8人全員で劇を行い、大成功に終わった日のこと。日が落ちるのが早い為に辺りは暗く、クリスマスも近いということで街は様々なイルミネーションできらびやかに彩られていた。

 

 「わあ! もう飾り付けされてる!」

 

 「外国の祝祭も祝う……我が国の寛容さね」

 

 「東郷さん……言い方がなんか怖いよ」

 

 その街中を、友奈と美森が2人で歩いていた。飾られているイルミネーションに目を輝かせる友奈の隣で、美森がしみじみと呟くと友奈が苦笑いし、そんな彼女の反応を見て美森もクスッと笑みを溢す。

 

 「クリスマスツリー、どんな風にしよっか……? どうしたの? 東郷さん」

 

 「うん……良かったって思って」

 

 「何が?」

 

 「また、友奈ちゃんと……皆と去年みたいにクリスマスが過ごせるんだと思って」

 

 勇者部に飾るクリスマスツリーはどんな風にしようか。そう呟く友奈の耳に、また美森の小さな笑い声が聞こえた。どうしたのかと聞けば、彼女からはそんな言葉が返ってくる。

 

 決死の、もう2度と会えないつもりで生贄となった美森。しかし仲間達によって助け出され、こうして親友と共にクリスマスを迎える準備をしている街を歩いている。奇跡にも思えるこの時間が、美森に堪らなくうれしいモノであり……そんな彼女の前に移動し、友奈は満面の笑みを浮かべた。

 

 「当たり前だよ。また東郷さんがどこかに行っちゃったりしない限りね?」

 

 「もう……あんまりいじめないで、友奈ちゃん」

 

 「えへへー♪」

 

 「去年みたいにはいかないかもねぇ……今年は夏凜ちゃんにのこちゃん、銀ちゃんも居るんだから」

 

 「あ、楓くん!」

 

 「わたしも居るんよ~♪」

 

 「あたしもいるぞ!」

 

 「そのっち、銀も」

 

 そうして2人が笑い合っていた時、美森の後ろからそんな言葉が聞こえてきた。その声の主……楓の姿を見た友奈はまた笑みを浮かべ、振り返った美森も彼とその両隣に居る園子と銀の姿を見て驚きを交えつつ笑った。

 

 何故3人が居るのかと言えば、楓は予約していた本を買う為に本屋に行った帰りであり、園子と銀は今晩の晩御飯の材料を買いにきた帰りであり、3人偶然出会ったのだとか。そこから3人で話しながら歩いていると、笑い合う2人を見つけたのだ。その為、3人の手には各々が買ったモノが入った袋がある。

 

 「去年は楓達はどうしたんだ? クリスマス」

 

 「自分達の家でクリスマスイブにパーティーをやったねぇ。今年も多分、そうなると思うよ。8人だから、中々大所帯だねぇ」

 

 「わーい♪ 一緒にクリスマスやるの初めてなんよ~♪」

 

 「えっ、そうなの? 意外だなー、皆仲良しなのに」

 

 「そうね……でも、実はあんまり一緒に居た時間って長くないのよね。そうとは思えないのだけど」

 

 そのまま5人は歩きながら他の通行人に迷惑にならない程度に楽しくお喋りしていた。その途中、園子の言葉に意外そうに呟く友奈に美森が過去を思い返しながら話し始める。

 

 小学5年生の夏休みの終わりにやってきた楓、その初日にやらかした銀と翌日から話すようになった園子の3人はこの頃から接することは多かったが、当時は真面目であんまり融通も効かなかった美森は6年生に上がるまであまり会話もしなかった。そして当時はまだまだ子供で勇者としての特訓をしていたこともあり、クリスマスやお正月等のイベントは皆それぞれの家で行っていたのだ。

 

 そして6年になり、勇者のお役目が本格的になった頃から絆を深め、4人でプールにもお祭りにも行くようになったが……クリスマスを迎える前に離れ離れになってしまった。故に、今年のクリスマスが先代組全員揃って祝う初めてのクリスマスになるのだ。

 

 「楽しみだねぇ。きっと、去年よりももっと楽しくて騒がしくなるねぇ」

 

 「食べ物とか持ってった方がいいよな? 風さんにも負けない銀様特製料理をお楽しみに!」

 

 「わたしも頑張るんよ~。焼きそばを!」

 

 「なんで焼きそば!? でも美味しいんだろうな~、園ちゃんの焼きそば」

 

 「私もぼた餅を持っていくわね。それに、和食も少し作るわ」

 

 「クリスマスなのに和食か……流石須美、ぶれないな」

 

 (自分も何か作った方がいいのかねぇ……)

 

 共に過ごしたかった……それでも過ごすことが出来なかった時間がもうすぐやってくる。その時を楽しみに、今からわくわくとしながら笑い合う5人。

 

 その中で唯一友奈だけが自身の左胸に手を当て、一瞬だけ顔をしかめたのを……この時は誰も気付いていなかった。

 

 

 

 翌週のこと。勇者部はクリスマスや年末が近いので少し依頼の頻度を少なくし、自分達も楽しむべく部室にクリスマスツリーを置いて友奈、夏凜、銀がその飾り付けをし、樹にチェックをお願いする。

 

 美森はパソコンに向かい合い、勇者部で行うクリスマス会の予定表を作っていた。風は何故だか瓶底メガネを掛け、参考書を手に園子から勉強を教わっている。ここに居ない楓は途中で担任から頼み事をされ、少し遅れていた。

 

 「なに? あのヘンテコなメガネ」

 

 「視力が落ちてきたんだそうです」

 

 「大変ね、受験生ってのも。部室でまで勉強するなんて」

 

 「先週は色々あって勉強してる暇なんてなかったからねぇ。取り返さないと」

 

 「陳謝!!」

 

 「ああもう、そういうつもりで言ったんじゃないから! 土下座やめなさい!」

 

 風のメガネと勉強していることに疑問を抱いた夏凜が樹に聞くと、苦笑いと共にそんな言葉が返ってくる。受験生である風は家でも勉強に明け暮れている為か、少し視力が落ちてきているらしい。夏凜が腕を組みながらそう呟くと、風は一旦手を止めて夏凜にそう説明した。

 

 そんな風の言葉に反応したのは美森。先週と言えば美森の件で色々と動き、心配を掛けていた時だ。今尚罪悪感に苛まれる美森は風に向かって土下座し、風は止めろと呆れと怒り半々で告げる。

 

 「受験より仲間がブラックホールになってる方が急務だもんね……」

 

 「ですねぇ」

 

 「あははー……樹ちゃん、ちょっと楓くんっぽかったよ」

 

 「陳謝!!」

 

 【わーっ!?】

 

 「止めろっつーの!!」

 

 土下座する美森に呆れつつ、また腕を組みながら呟く夏凜。それに樹が同意し、友奈も何も言えず誤魔化すように笑う。そんな仲間達の反応を見て、美森は今度は正座をしてどこからか取り出したカッターナイフを手に切っ先を己の腹部へと向ける。その傍らには青坊主が同じようにカッターナイフを手に浮かんでおり、園子以外が慌て、銀が直ぐ様後ろから羽交い締めにして阻止する。

 

 「丸、丸、丸、丸……最後も丸っと。スゴいよフーミン先輩、全問正解! これなら受験も安心だね~」

 

 「おっ、流石アタシ! 園子もあんがとねぇ」

 

 「ここでアタックチャーンス」

 

 「お、おう。どした急に」

 

 「正解すると女子力が2倍に、不正解だとカエっちがわたしの所に来ます」

 

 「……やらない! 大事な弟には変えられないわ!」

 

 「今の間はなんすか風さん」

 

 そんな騒動を無視して風が先程書いていたの過去問のテストの採点をしていた園子が採点を終え、結果を伝える。風は元々成績は良かったので頭の出来は良い。園子の教え方が良かったこともあり、お役目のせいで疎かになっていた勉強の遅れも殆ど取り戻せていた。

 

 銀と共に美森を押さえていた風は純粋に喜び、今まで教えてくれていた園子にも御礼を言う。そんな彼女に園子が唐突にそう言うと風はやる! と叫びそうになるがその後の言葉を聞いて数秒の間を置き、首を振る。僅かでも間を置いた風に、銀はジト目を向けていた。

 

 「にしても、部室でまでやるもんなの?」

 

 「来週は樹のショーがあるからねぇ。なるべく片しておきたかったのよ」

 

 「それで詰め込んでたって訳ですか」

 

 「お姉ちゃん、私のショーじゃなくて街のクリスマスイベント! 学生コーラス!」

 

 「スゴいよねー、樹ちゃん。学校代表だもん」

 

 「お兄ちゃんと友奈さんが練習に付き合ってくれましたから」

 

 「実力よ、樹の実力。あんたの歌の力よ」

 

 「それでこそアタシと楓の自慢の妹よ! 他の学校の代表なんてぶっ倒しちゃいなさい!」

 

 「趣旨が違うよ!?」

 

 そんな風に騒がしくも楽しくて会話をする7人。友奈が時計を確認すると、放課後になってからそれなりに時間が経っていた。今は居ない楓も、もうすぐ来ることだろう。

 

 友奈がそう思っている間に、美森と園子、そして銀が樹を左右と後ろから囲んで両手を回しながら“健康健康”と呟き、樹が万全の体調で挑めるように念のような何かを送る。3人としては善意100パーセントでやっているのだが、樹にとってはプレッシャーになるようで余計に緊張してしまっていた。

 

 じゃあサプリでもキメるかと夏凜がどこからかサプリの入った容器を取り出し、樹もよく効く奴を……とお願いすると園子が間に入って樹のグッズを作っていいかと言い、樹が拒否する前に銀に止めろと頭を叩かれる。そんな5人を、友奈は風と共に少し離れた場所で楽しげに見ていた。

 

 「珍しいわね、友奈が入っていかないなんて。何か考え事?」

 

 「え? 何も考えてないですよ?」

 

 「それはそれでどうなのよ……ホントはどっか具合悪かったりするんじゃないの?」

 

 「えっ!? 友奈ちゃん体調悪いの!?」

 

 そうして笑う友奈が気になったのか、風が首を傾げながら聞くと彼女はきょとんとしながら即答し、あまりにあんまりな答えに風の顔に苦笑いが浮かぶ。それでもどこか友奈らしくないと感じたのか風が再度聞いてみれば、それに反応した美森がこの世の終わりのような表情を浮かべ、それを見た銀と樹がビクゥッ! と肩を跳ねさせる。

 

 「そのっち! 銀!」

 

 「おー!」

 

 「え!? あ、なるほど……それじゃあ友奈にも」

 

 「「「健康健康健康健康……」」」

 

 「え? え!?」

 

 「いや、そんなの効かないでしょうよ……」

 

 友奈の隣に素早く移動し、園子と銀を呼ぶ美森。直ぐに反応した園子と驚きから行動が遅れたものの直ぐに何をしたいのか理解した銀も友奈の隣、背後に移動し、両手を回して念を送る。3人の行動に驚く友奈と両手を回し続ける3人に、夏凜が呆れからツッコミを入れる。

 

 「あ~……なんかポカポカする~」

 

 「嘘ぉ!? そんな訳……」

 

 「いやー、本当に効果あるんだな……あたしもびっくりだ」

 

 「「ふふん……健康健康健康健康……」」

 

 「え、ちょ、こっちくんな! や、やめろー!」

 

 両手を回してぶつぶつ言ってるようにしか見えない3人の行動が何やら効果を発揮しているらしいことに夏凜が驚愕の声を上げ、銀も銀で両手を回しながらほえーと驚く。そうして驚く夏凜に美森と園子はドヤ顔を浮かべ、夏凜にゆっくりと近付いて壁際に追い詰めて両手を回して念を送る。銀も面白がって笑いながら参加していた。

 

 「あ、なんかポカポカしてきた……って私の体に何が起きてるの!?」

 

 「「「健康健康健康健康……」」」

 

 「ああ! ポカポカを通り越して暑くなってきた!?」

 

 (あれ、本当に効果あんのかしらね)

 

 (それ、2人に聞こえてたら矛先向けられるよ)

 

 夏凜に念を送り続ける3人、そんな4人に巻き込まれないように遠巻きに見ている風と樹。風は4人を観察しながらむむむ、と唸りながら小声で呟き、その呟きが聞こえていた樹が注意する。そして友奈はそんな6人を少し眺め……ふと、視線が壁に貼り付けられた勇者部5ヶ条が書かれている紙へと向かった。

 

 “挨拶はきちんと”、“なるべく諦めない”、“よく寝て、よく食べる”、“なせば大抵なんとかなる”。そして、“悩んだら相談”の一文に視線が吸い寄せられ……意を決したように、友奈は口を開いた。

 

 「み、皆! あのね……っ」

 

 「ん? どしたの友奈」

 

 「あ……えっと……こ、ここで問題です! ここに楓くんがやってくるまで、後どれくらい掛かるでしょうか?」

 

 勉強終わったなら飾り付けを手伝え、もう殆ど終わってるじゃない、流石完成型勇者、バカにしてんのか。そんな会話をしていた風と夏凜、未だに夏凜に念を送り続ける3人、苦笑いしている樹の6人の視線が声を上げた友奈へと向けられる。

 

 しかし、友奈は6人を見てハッとした後に口を閉ざし……誤魔化すようにそう問い掛けた。

 

 「……いや、わかる訳ないでしょ。友奈は分かるの?」

 

 「分かりません……」

 

 「何で聞いたのよ……」

 

 「楓君なら、気配からして後1分もせずに来ますよ」

 

 「今は部室に向かって最後の階段を登ってる頃だね~」

 

 「「わかるの!?」」

 

 「銀さんは驚かないんですね……」

 

 「いやー、もうこの2人なら何をやってもおかしくないかなって」

 

 分からんと答えたのは風。逆に聞き返せば友奈も分からないと項垂れ、風の呆れ声に友奈は小さくなる。その直後に答えたのはやはりと言うべきか美森と園子。それぞれ時間と場所を大まかに、淀みなく答えたことに風と夏凜が驚きの声を上げる。樹も驚いていたが、何の反応も無かった銀の方が気になったらしくそう聞き、銀は遠い目をしながら答えた。

 

 「でもなんで急にそんなこと聞くのよ?」

 

 「えっ? えーっと……楓くん遅いなーって思ってたらなぜか」

 

 「なぜか、でどうしてクイズ形式になるのよ……」

 

 「あ、あはは……じゃ、じゃあ……あのね! 私あの日……っ!?」

 

 誤魔化すように笑い、再び何かを言おうとする友奈。しかし、また6人を見てハッとして口を閉ざした。6人は不思議そうにするだけで、彼女がそうした理由に気付かない……気付けない。何故なら()()は……友奈の目にしか映っていないのだから。

 

 

 

 (……気のせいじゃ……無かった……っ)

 

 

 

 友奈の目には、6人の左胸の辺りに小さな炎のような模様が怪しい光と共に浮かんで見えていた。それは丁度、友奈の左胸にある模様と同じ場所で……その模様を、そのまま小さくしたようで。

 

 「遅れてごめんね、皆。飾り付けは……結構終わっちゃってるねぇ」

 

 「「「「本当に来た!?」」」」

 

 「その言い方は傷付くねぇ……来ない方が良かった?」

 

 「ああ、そういう意味じゃないのよ楓! ただ、東郷と園子がもうすぐ楓が来るって言い当てたからびっくりしちゃって」

 

 「「ふふーん♪」」

 

 「あ……か、楓くん。こんちわー!」

 

 「なるほどねぇ……ああ、こんにちは、友奈」

 

 友奈が見えたモノに愕然とし、6人が不思議そうにしていた時に部室の扉が開き、楓が入ってきた。美森と園子の予言通り、あれから1分程経った頃のことであった。

 

 驚きの声を上げた風、樹、夏凜、銀の4人の反応に若干傷付く楓。そんな弟の悲しげな表情を見た風が慌てて説明し、名前が上がった2人はドヤ顔を浮かべる。愕然としていた友奈も彼の顔を見ると自然と笑みが浮かび、楓も友奈に笑顔と共に挨拶を返す。そこからは友奈の話が再び話題に上がることはなく、8人で部室を飾り付けて終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 (また、あの視線……)

 

 あれから家に帰って来た自分は、リビングにあるソファに座りながらこの頃何度も感じる視線について考えていた。因みに、姉さんと樹はコンビニに行っている。

 

 家に居る時には感じないソレは、外に居ると時折感じるようになった。あれから視線の主について考えていたんだが……そういえば、と思い出したことがある。以前、どこで視線を感じたのかだ。

 

 2年前の大橋での最後の戦い、そこでのこちゃんと銀ちゃんと一緒に獅子座を結界の外へと押し出し、自分達も外へと出た後に“鏡”を見た。そして、その鏡に見られているのだと感じたことがあった。

 

 (今はもう感じないし、感じたとしてもそう長い時間という訳でもないんだが……)

 

 プレッシャー、と言うのだろうか。視線を感じると同時に、いつも体が重くなるような気がする。それに冷や汗もかく。視線の主については……確証はないが、可能性のある存在は思い浮かぶ。外の世界に出た時に感じた視線なのだから、まあ限られているんだが。

 

 (恐らくは……天の神。だが、仮に天の神だとして、結界の中に居る自分をどうして、どうやって見ている……?)

 

 ここは神樹様の結界の中。そこに居る自分をどうやって見ているのか……そして、どうして見ているのか。今のところ特に実害はないんだが、不気味なことには変わらない。

 

 「……うん?」

 

 不意に、スマホに着信が来た。画面を見てみれば、そこには姉さんの名前が。

 

 「もしもし? 姉さん?」

 

 『楓? 悪いんだけど、家の鍵を開けてくれない? 樹が持ってたハズなんだけど、落としちゃったみたいで』

 

 『ごめんなさい……』

 

 「了解だよ、姉さん。ちょっと待ってて」

 

 電話を切って直ぐに玄関へと向かい、鍵を開けて扉を開く。するとその時に足下でチャリッ……という音がしたので扉の向こうに居た2人と一緒に下を見てみれば、家の鍵が落ちている。

 

 「……どうやら、家を出て直ぐに落としちゃったみたいだねぇ」

 

 「コンビニ周辺と帰り道を必死に探したのは無駄な時間だった……っ!!」

 

 「ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 「まあ気付かなかったのは仕方ないねぇ……見つかったから良しとしようじゃないか。とりあえず、お帰り2人共。寒かっただろう? 早く入って暖まりな」

 

 「それもそうね……ちょっとした不幸だったと忘れましょうか。ただいま、楓」

 

 「今後は気を付けます……ただいま、お兄ちゃん」

 

 苦笑いしつつ2人を先に上げてから扉と鍵を締める。まあ、たまにはこんなこともあるだろう……そう思いながら自分も家に上がり、またリビングへと向かおうとした時……急に目眩がして体を壁に預ける。

 

 「っと……最近は無かったから油断してたよ……」

 

 まだ完全に新しい体が定着しきってないんだろうか、この目眩も随分久しぶりだ。これがあるから未だに自転車じゃなく徒歩で通学しているんだよねぇ。

 

 目眩が落ち着いたところでまた歩き、リビングへと向かう。この時の自分は、それほど深く考えることはなかった。

 

 姉さんと樹に起きた小さな不幸も……久々に起きた、自分の目眩にも。




原作との相違点

・台詞周り

・友奈の誤魔化しクイズの内容

・その他多すぎるんでむしろ教えて欲しいくらいです←



という訳で、原作でいえば3話の半分くらいですかね。少しずつチャージしていきます。とは言えこのままでは暗い話が続きそうなので、10話目を書いてから番外編2つ挟む予定です。1つはDEif、もう1つはリクエストからか、もしくは咲き誇る花と幸福に、で書こうかと思います。その際にはまたアンケする予定です。

……早く本編ゆゆゆいでドタバタしたいですねぇ←

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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