最近猛暑続きで死にそうです。外での仕事なので余計に……今書いてる話とは真逆の季節。秋まで死なないといいですが。
ゆゆゆい777日イベントは無事銀ちゃんを15まで集めました。今回のsr銀ちゃん、随分強くないですか? アビリティかなり優秀なんですが。
さて、今回はとうとう……麻婆豆腐と胃薬追加で用意しました。ご自由にお取りください。
(東郷さんを助けたあの時……多分、生贄のお役目は私に引き継がれたんだ)
部室で言おうとして、それでも言えなかった日の翌日の授業中、私はこの左胸の模様のことを考えてた。
魂になって東郷さんをあの鏡から引き抜こうとした時に浮かび上がった模様。後になってから思い出したんだけど、鏡の上で炎に焼かれていた東郷さんの魂にも同じような模様があった。それが今、私にある。
この模様が出来てから、そこを中心にして体がじくじくと痛む。我慢出来ないくらい強い訳じゃない。それでもずっと痛いのは……結構、辛い。
(でも……これを東郷さんが知ったら悲しむよね)
東郷さんだけじゃない。きっと、皆が悲しむ。やっと8人全員が揃って、楽しい日々が送れてるのに。その日々を……私のことで壊したくない。それに、話そうとすればまた皆にもあの模様が見えるかもしれない。だから……あんまり、話す気にはなれなかった。
私は、生かされてる。この模様は多分、世界を火の海に変えてしまうような力を持ってる天の神からの呪いみたいなモノ。きっと、私を殺すことなんて簡単なのに……それをしないのはただの気紛れなのかな。
そんな事を考えてる内に時間は進んでいって、今は放課後の部活。部室では園ちゃんと銀ちゃん以外は皆揃っている。そんな中で、夏凜ちゃんは何だか機嫌が悪そうだった。
「夏凜ちゃん、なんだか機嫌悪い?」
「え? ああ、昨日からエアコンが急に壊れちゃって……ったく、この寒い時期に。まだ1年も経ってないってのに」
「私も昨日、夜に急に電灯が切れちゃって困ったわ」
「2人共大変だったんだねー」
「そうよ、災難よ災難」
今は真冬だから、暖房とかストーブとかないと寒いよね。朝起きたら寒くてベッドから出られないし……東郷さんは、夜に電気が付かなくなっちゃったんだ。真っ暗だと危ないよね。
災難……災難、か。夏凜ちゃんの言ったことが、少し気になる。でも、偶然……だよね?
「そっちも大変だったのねぇ」
「そっちもって……風もなんかあったの?」
「昨日の夜に樹と一緒にコンビニ行ったら、帰り道でこの子が鍵がないーって大慌てで」
「もう、言わないでよお姉ちゃん……」
「それ、大丈夫だったんですか?」
「家には自分が居たからねぇ。それに、鍵も玄関先で見つかったんだ。どうやら家を出て直ぐ落としちゃったみたいでねぇ」
「ホント、ちょっとした不幸だったわ」
そう思ってたら今度は風先輩がそう言って……夏凜ちゃんが聞いたら、そんな話が出て来て。3人共苦笑いしながら言ってたけど、風先輩の最後の“ちょっとした不幸”って言葉が、嫌に耳に残った。
偶然……だよね……? 何だか怖くなった。ドジねーなんて言って笑ってる夏凜ちゃんと、苦笑いしてる東郷さん。樹ちゃんの頭を撫でてる風先輩と、夏凜ちゃんと風先輩からからかわれて涙目になってる樹ちゃん。皆、ちょっとした不運が起きてる……楓くんは、何もなかったのかな。
「園子さん登場なんだぜ~♪」
「同じく三ノ輪 銀、参上!」
「のこちゃん、その手はどうしたんだい? それに銀ちゃんも、その指……」
「これ? 大丈夫大丈夫、こうしてサンチョにすぽっと手を突っ込めば見えないよ~」
「食われてる食われてる」
そんな心配をしてると、園ちゃんと銀ちゃんがやってきた。声のした方を向いてみると……園ちゃんは右手に包帯が巻かれてて、銀ちゃんは右手の人差し指に絆創膏が貼ってあった。楓くんが聞くと、園ちゃんは笑いながらカバンにくっついてたサンチョのぬいぐるみ……枕だったっけ? の口に右手を突っ込んで大丈夫だって言ってた。銀ちゃんがツッコミしながらすぽっと引き抜いたけど。
「で、実際何があったのよ」
「今朝、ポットで火傷しちゃったんだ~。カエっち、舐めて冷やして~」
「それは切り傷の時にすることでしょうが。つーかさせないからね」
「あはは……銀ちゃんは大丈夫なのかい?」
「あたしも今朝、包丁でちょっとね。やらかしたの久々だなー」
「ま、大怪我じゃなくて良かったわ」
「にしても、勇者部が揃いも揃って……師走にろくなこと起きないわね」
園ちゃんと銀ちゃんにも、不運なことが起きてる。それが起きてるのは……昨日、私が模様を見た全員。ここまで来たら偶然とは思えない。
夏凜ちゃんが全員で厄祓いにでも行こうかって言って、風先輩が縁起でもないけど行った方がいいか? なんて言ってる。そしたら夏凜ちゃんは冗談だって両手を振った。厄祓い……この模様も、厄祓いしたら消えるのかな。
「友奈ちゃんと楓君は大丈夫だった?」
「え? あ、うん。大丈夫だったよ、東郷さん」
「自分も……特に不幸なことはなかったねぇ」
「良かった。これで友奈ちゃんと楓君にも何かあったらいよいよ怪しいものね」
「また大赦が何か隠してるんじゃないかって?」
楓くんがそう言った時、明らかに皆の顔が強張った。でも、直ぐに流石にそれはないでしょって夏凜ちゃんが否定して、疑い深くなってるわね、なんて風先輩が苦笑いした。そうしたら、皆もだよねーなんて笑って、私も笑った。
……実際、大赦は関係ない。だって皆の不幸はきっと……この模様の、天の神のせいだから。その模様が浮かんでる……私のせいかもしれないから。
どうしよう、どうしたらいいんだろう。悩んだら相談……相談したいけど、また不幸なことが起こったらって思うと怖い。だけど、私だけじゃ解決策なんて思い付かないし……唯一不幸なことが起きなかった楓くんになら、相談しても大丈夫かな。
「……楓くん」
「うん? なんだい? 友奈」
「ちょっと、いいかな」
「で、どうしたんだい? 何か悩み事かな?」
「えっと、えーっと……」
あれからしばらく経った夕暮れ時、私は楓くんと一緒に階段の所まで来ていた。近くには誰もいなくて、楓くんと向かい合う。すると楓くんは目を合わせて、いつもみたいな朗らかな笑顔を浮かべてそう聞いてくれて……何から言おうか、どう説明しようか悩んだ。
「えっとね……実はこないだ……」
「……ちょっとごめんね、友奈」
「えっ?」
いざ話し始めようとしたら、楓くんはそう言って私の隣を通って後ろにある階段まで歩いていって……そこまで行くと、階段の方を向きながら腕を組んだ。
「姉さん……何やってるんだい?」
「……あ、あはは……さ、流石我が弟。この姉の気配に気付くとは……」
「友奈からは見えてなかっただろうけど、自分からは丸見えだったよ……その頭。頭隠して尻隠さずならぬ、尻隠して頭隠さずだねぇ」
「えっ、風先輩!?」
「あははー……」
楓くんの言葉に驚くと、階段のとこから風先輩が苦笑いしながら出てきた。風先輩が居たの全然気付かなかったよ……そう思ってると、2人共こっちに戻ってきた。
「で、なんでここに?」
「いやー、友奈が東郷も連れずに1人で楓を連れ出したでしょ? もしかしたら告白イベントなんじゃないかと思って……つい」
「こっ!? そ、そそそ、そんなことしにゃいですよ!?」
「うーん、その反応に対して自分はどう反応すればいいのかねぇ」
「うん、アタシもこの反応はちと予想外だわ。まあ、もし本当にそうだったら東郷レーダーか園子レーダーが反応したんだろうけど」
風先輩がいきなりそんなことを言うから思いっきり慌てる。楓くんに告白なんてそんな……楓くんには園ちゃんとか銀ちゃんとか、東郷さんとか……でも楓くんが誰かとこ、恋人になってるのってあんまり想像がつかないなー。東郷さんと夫婦みたいなことしてるのはしっくり来るんだけど……なんでだろう、ちょっと悔しい。
「さて、姉さんのせいで脱線したけど」
「ストレートに言うわね……まあ悪かったわよ」
「で、友奈。さっきは何を言おうとしたんだい? 姉さんも聞いて大丈夫?」
「あ、う、うん。えっと、実はこないだのことなんだけど……」
「こないだって……どの間よ」
「その、スマホを返してもらった時……」
「美森ちゃんを助けにいった時だね。何かあったのかい?」
「うん……その、実は東郷さん……っ!?」
楓くんと風先輩に説明して、東郷さんを助けた時に……そう言おうとした時。うっすらと視界が暗くなって……風先輩の左胸の所に、また私と同じような模様が浮かんだ。気のせいか、昨日見た時よりも大きくなってる気がする。
でも、楓くんには浮かんでない。良かったと思うけど、どうして? と不思議にも思う。皆と楓くん、何が違うんだろう。性別? それとも他に何か……。
「友奈?」
「あ、いえ、その……」
話そうとするのを止めると模様が消えた……昨日と同じように。やっぱりこの模様は、私が模様のことを話そうとするとその人に浮かび上がるんだ。でも、それならどうして楓くんには……気になるけど、今は誤魔化さないと。
「ま、前に皆で撮った写真とか全部消えちゃってて……」
「……成る程ねえ。確かに自分もごっそり消えてたっけ」
「あー、それは仕方ないわねぇ。大赦の検閲とかで消されちゃったのかも」
「だから皆に悪くて……楓くんに相談しようかと思いまして」
「なんでそれで楓に相談すんのよ?」
「えーっと、それは……」
「それは多分、自分と友奈、それから美森ちゃんで撮った秘密の写真があるからだねぇ。それを自分が持ってたら、移して欲しかったとかじゃないかい?」
「そ、そうなんです!」
本当は消えたりとかしてないんだけど、咄嗟に出てきた言い訳がこれだった。えっ、楓くんは写真が消えちゃってたんだ……あの時の旅館の写真も消えちゃってるのかな。だとしたらちょっと寂しい。
言い訳した後にまた風先輩から突っ込まれちゃったけど、楓くんからそう言ってくれたのでそれに乗っかる。すると風先輩はなるほどと頷いて、何かニヤニヤとしだした。
「3人での秘密の写真、ねぇ。楓、お姉ちゃん気になるなー。見せなさいよー」
「だから消えちゃったんだってば……それに、3人だけの秘密だからねぇ。教えてあげないよ」
「それは残念、と。それじゃあアタシは先に部室に戻るから、あんた達も直ぐに戻ってきなさいよ」
「了解だよ、姉さん」
「わかりましたー」
風先輩はそう言って楓くんの首に左手を回して頬っぺた同士をくっつける。楓くんは苦笑いしてポケットから取り出したスマホをひらひらと振って、風先輩の腕を外しながら左手の人差し指を立てて口元に持っていき、“しーっ”てするみたいにした。
すると風先輩は残念と言って肩を竦めて、私達に背を向けて歩きながら手を振って部室の方へと向かって行った。その姿が見えなくなった頃に楓くんがじゃあ自分達も戻ろうかって言って、私も頷いて2人並んで歩き出して少しした頃。
「友奈。君がなんでさっき嘘をついてまで最初に話そうとしたことを話さなかったのかは……今は聞くのはやめておくよ」
「っ!? 楓、くん……気付いて……」
「姉さんは気付かなかったみたいだけどねぇ」
ボソッと、楓くんがそう言ってきたからびっくりした。私が最初に話そうとしたことを話さなかったの、気付いてたんだ……ということはさっきのスマホの写真が消えたとかも、ただ私に合わせてくれてただけだったのかな?
そんな私の疑問に答えるみたいに、楓くんは自分のスマホを取り出して軽く操作して私に画面を見せてきた。そこにあったのは、勇者アプリと他の2つ3つ程度のアプリ。その背景には旅館で撮った……楓くんと東郷さんが隣り合って、私が真ん中に立ってる朝焼けを背景にした写真。他の皆は知らない、私達だけが知っている秘密の写真。勿論、私のスマホにも消えずに残ってた。
「話したくなったら、いつでも話してくれていいんだ。メールでも電話でもいい。遠慮はいらないからねぇ」
「……うん。ありがとう、楓くん」
そう言って朗らかに笑う楓くんを見てると、それだけでなんだか幸せな気分になって……不思議と、体の痛みとか熱さとかも和らいだ気がして。私も、笑ってお礼を言った。
『今、お兄ちゃんと一緒に病院に居ます。お姉ちゃんが車に轢かれました』
そんな気分も……その日の夜、押し花を作ってる時に来た樹ちゃんからのNARUKOのメッセージを見るまでだった。
メッセージを見た部員達は病院へと直ぐにやってきた。最初に夏凜、少し遅れて園子と銀、更に少し遅れて友奈と美森。病院で合流した5人はナースステーションで場所を聞いて風の治療が行われている場所へと向かった。辿り着いたそこで見たのは、椅子に座りながら両手を組んで祈るように額に当てて俯いている楓と、不安げな表情を浮かべてその隣の椅子に座っている樹の姿だった。
「楓くん、樹ちゃん!」
「風は……?」
「皆さん……お姉ちゃんは今、手術中です。いつ終わるのかは……」
「風さん、車に轢かれたって……」
「……本当だよ。自分達の目の前で、ね」
友奈が走って近付き、夏凜も同じように近付いて問いかける。樹は手術室へと続く通路の方を見ながらそう言い、時間は分からないと首を振った。2人に少し遅れて近付いてきた3人の内、銀が信じられないという思いを込めながら呟くと、楓は組んでいた手を離して自分の右手を震わせながら見つめつつそう答えた。
「カエっち……?」
「楓君……っ。その車、許せないわ……」
「須美……」
「どういう状況だったの……?」
夏凜の問い掛けには、楓が答えた。夕方、3人で学校から家までの帰路をお喋りしながら歩いていて、風が2人よりも少し前に出た状態で横断歩道を渡ろうした時だった。その車は赤信号であるにも関わらず速度を落とさぬままに進み、風の体をはねたのだ。そしてその車はそのまま通り過ぎていったと言う。
「自分は直前で車に気付いて、姉さんの手を引こうとしたんだけどねぇ……その時に限って、前みたいに立ち眩みが起きた。それさえ起きなければ、姉さんを助けられたかもしれないのに……」
「カエっち……それで、ずっと自分の手を見て震えてたんだね……」
楓は突っ込んでくる車の存在に姉妹よりも先に気付いた。だから風に向かって右手を伸ばし、その手を引こうとした……だが、その瞬間に立ち眩みが起きてしまった。結果、彼は助け出すどころかその場で崩れ落ちてしまい、風はそのまま轢かれ、樹はただ唖然として立っていることしか出来なかった。救急車は立ち眩みから復帰した楓が呼び、それに一緒に乗ってそのままこの病院に……それが今に至るまでの流れであった。
話を聞き、園子が楓の前にしゃがんでその震える右手を両手で包み込む。そうしても、しばらくその手の震えが止まることはなかった。そこからは誰も口を開くことはなく、ただただ風の無事を祈って時が過ぎるのを待った。1時間、2時間……そした風が治療を始めてから3時間と少しした頃、奥の部屋からガラガラとキャスターが転がる音が聞こえてくる。
「っ、姉さん!」
「お姉ちゃん!」
「楓、樹……いやー、まいったまいっ……いてて」
「風、先輩……」
「大丈夫? フーミン先輩」
「友奈に園子……皆も、来てくれてありがとねぇ」
「全く……人騒がせなのよバカ風」
「夏凜はこんな時くらい労りなさいよ……」
ストレッチャーに乗せられた状態で看護師に運ばれてきた風に楓と樹が真っ先に駆け寄り、風は包帯とガーゼだらけの状態で2人を安心させるように笑顔を見せる。少し遅れて暗い顔をした友奈と心配そうな園子が近付き、夏凜が言葉とは裏腹に安心したようにホッと息を吐きながら腕を組み、風は2人には笑顔を、夏凜には苦笑いを浮かべた。
「風さんが轢かれたって聞いた時はホント焦りましたよ……」
「あの、命に別状は……?」
「アタシも轢かれた時は驚いたわ。東郷は大袈裟ねぇ……大丈夫よ」
銀は汗を拭うような仕草をして焦ったと言い、美森も心配そうに聞くが風は大丈夫だと告げる。それを聞いて他の5人も再び安心するが、その後に美森が受験生なのに……と呟いたことで風は少し慌てるものの試験は絶対に受けると言った。入院はするがそれも1~2週間程の予定で、試験には間に合うらしい。
そうして話していると看護師から病院では静かにするようにと注意され、楓と樹は家族として入院の手続きの為に共に来るようにと促され、他の5人はひとまず帰ることになった。
信号無視をした車は許せない。精霊はいったい何をしていたのか。皆の身に何かあれば正気では居られない。帰り道にそう呟く美森を4人で宥めながら家に帰ってきた友奈は、自室でノートに起きたことを書き記していた。
(私が皆に話そうとしたら……皆に少しずつ嫌なことがあった。楓くんと一緒に相談しようとした風先輩は……車に轢かれた)
模様のことを話そうとすれば皆の左胸の部分に模様が浮かび、何かしらの不幸が起きた。そして今回の風の事故で、友奈は模様を刻み付けた天の神の力が神樹の結界内に居る自分達にすら影響を及ぼす程強いのだと理解した。
ノートに言った場合、言わない場合と分けて書く。言わない場合、心の中で思うだけだったりそもそも言わなければ何の影響もない。だが、言った場合……或いは言おうとした場合には、何かしらの不幸が降りかかる。それも友奈自身ではなく、その相手に。
(私に起きてることは言っちゃダメなんだ……でも、楓くんに何も起きないのはなんで……?)
疑問なのはそこ。話そうとしたせいで風が事故にあったのなら、楓にも何かしら不幸なことが起こっているハズ。だが、実際は立ち眩みが起きた程度で楓自身に不幸が起きた訳ではない。身内が事故に合ったのが不幸だと言うのなら、そうなのだが。
(……誰にも言っちゃいけない。そのルールさえ守れば……誰も苦しまなくて済むんだ)
そうやって友奈が悩んでいる間にも時間は過ぎていく。1日を終え、朝を迎え、学校で部員達や友達と挨拶を交わし、授業を受け、クリスマスの飾り付けの続きをして、皆で笑いあって……そうした日常が、ありふれた幸福な日々が続く。それを実感する度に、友奈は思う。
(私達の戦いは終わったんだ。もう、皆が苦しむ必要なんてない。私が黙っていれば……勇者部の楽しい毎日が続くんだ)
美森と共に笑い合いながら学校へと向かう。教室に着けば、楓が朗らかな笑顔と共に挨拶をしてくれる。後から来る夏凜に3人で挨拶をして、部室でタロットを広げる樹と会って、後から来る園子と銀と合流して、7人で部活をやって、風の見舞いにも行って。
(誰も巻き込んじゃいけない。私が黙っていれば……それでいいんだ。私が……黙っていれば……)
そう心に決めた友奈は雪雲が空を覆うとある日、1人で風の見舞いにやってきた。病院の中を歩き、目的地である風の病室へと辿り着いた友奈が扉を少し開けた所で、その手が止まる。少しの隙間から見えた中には先客として楓と樹が居て、家族の団欒を邪魔するのも悪いと思ったからだ。
「樹、今日イベントでしょ? 行かなくていいの?」
「自分もそう言ったんだけどねぇ……」
「お姉ちゃんが怪我してるのに、私だけ楽しいことなんて出来ないよ」
「って、聞かなくてさ」
「あんたねぇ……こっちが気を使うでしょうが。お姉ちゃんのことなんて気にしなくていいのに」
「家族3人が楽しくないと、私も楽しくないから……だからいいんだ。それに、ちゃんと代わってもらったから」
そう言って笑う樹に、兄と姉は苦笑いしか浮かべられなかった。そこでこの話は終わりだと樹が話題を変える。怪我人は安静にしているようにと言えば、風の口から次々と心配事が出てくる。ちゃんと食べているか、朝は起きられているか、洗濯物は干したり取り込んだりしているか、掃除は小まめにしているか。内容が家事ばかりなのは、彼女がそれらを一手に担っていたからだろう。
それに対して、弟と妹は問題ないと笑った。洗濯物は下着等の関係で樹がやり、料理は2人でやるか部員達がお裾分けと称して色々と持ってきてくれるらしい。料理が出来ない友奈は、それを聞いてぐさりと胸に何かが突き刺さったような感覚を覚えた。掃除やごみ捨ては楓がやっていると言う。
そうして答えて、楓と樹の方が兄や姉のようだと風が言えば樹が嬉しそうに、楓は何も言わずにクスクスと笑って……心配しなくても大丈夫だと言う家族に、風は小さくお礼を言った。
「退院したら、絶対楽しいことしようね」
「ええ。お正月とか楽しみねぇ」
「そうだねぇ……今年は色々と大変だったけど、仲間も増えたしねぇ」
「来年はもっと凄くなるといいね、楽しい方に」
「そうねぇ。皆、あーんなに頑張ったんだもんねぇ」
幸せそうな、暖かな家族の風景。それをずっと隠れて見ている形になった友奈は、自然と自分の左胸……模様がある部分に手を置いた。この幸せそうな家族が、もしかしたら壊れていたかもしれなかったのだ。自分が、話そうとしてしまったせいで。
原因が何かと言えば、勿論それは天の神だ。だが……友奈は自分のせいでと、そう思ってしまう。勇者部が大好きで、その仲間が大好きで、大切で、大事であるが故に……自分があの時、相談しようとしなければと、体を震わせながら。
「うん。皆、幸せにならないとだね」
その樹の一言を聞いて、更に後悔が大きくなった。それは今にも泣いてしまいそうな程に友奈の心を打ちのめす。彼女自身、同じように思っていたから。皆、幸せであって欲しいと思っていたから。
「そうだねぇ……2人も、美森ちゃんも、夏凜ちゃんも、のこちゃんも、銀ちゃんも……友奈も、皆良い子だから、幸せにならないとねぇ」
「ホント、良い子過ぎて勇者部部長は幸せ者だわ」
もう、聞いていられない。友奈は、その場から逃げるように走り去っていく。その際、カバンからお見舞い品にと持ってきていた押し花の栞が落ちたことに気付かずに。
「……?」
「楓? どうしたの?」
「いや、今……」
その僅かな足音が聞こえたのか、楓が病室から出て外を確認する。そこに人の姿はなく、気のせいかと思って部屋に戻ろうとして……ふと視線を落とすと、そこには薄紫色の押し花の栞が落ちていた。
(これは……まさか、友奈が?)
それだけで、友奈がこの部屋の前に居たことを覚る。そして押し花だけを残してその姿が無いことに妙な胸騒ぎを感じた楓は……。
「はっ……はっ……はぁっ……!」
夜、雪が降り積もる道の上を友奈は走っていた。それは何かから逃げているようにも見えたし、離れようとしているようにも見えた。
今、彼女の心にあるのは後悔だけだ。私が話そうとしなければ、私が1人で我慢していれば、私が、私だけが、私だけで。何度も何度も自分が、自分だけがと繰り返す。
「あっ!? く、うっ!」
そうして走っていると雪に足を取られ、滑って転んでしまう。雪にまみれた服は冷たく重くなり、頬は雪の上とは言え擦ったことでヒリヒリと痛む。それ以上に模様のせいで体が痛くて熱くて、なのに心がもっと痛くて、苦しくて。
「……う……あ……っ」
思い浮かぶのは仲間達の笑顔。ありふれた幸福の日々。それが、自分のせいで無くなってしまうことへの恐怖。ただ1人孤独に耐えなければいけないことの辛さ。
誰にも言ってはいけない。誰にも知られてはいけない。皆が
「ひっ……ぐ……うええ……っ……うああああん!!」
周りには誰も居ない。遠くからは樹が参加するハズだったイベントのモノだろう、綺麗な歌声と音楽が聴こえてきて……己の現状とは真逆のその美しい音色が、余計に友奈の孤独感を強くして。
「そんな所で寝てたら風邪引くよ、友奈」
なのにその声は……はっきりと友奈の耳に届いて。倒れている友奈の目の前に、誰かの足が見えて。信じられないという思いで見上げれば……そこには、4本の尾を生やした白い毛色の狐を肩に乗せた楓の姿があった。
「大丈夫かい? 友奈」
「あ……楓、く……」
「雪のせいでずぶ濡れじゃないか……本当に風邪、引いちゃいそうだねぇ。とりあえず、これでも着てなよ」
楓はそう言ってズボンが濡れることも気にせずに片膝を着き、友奈の体を起こす。そして彼女の体に付いた雪を軽く叩いて落とし、雪のせいで濡れた服の上から自分が来ていた学校指定の上着を脱ぎ、友奈に羽織らせる。
「なん、で……」
「病室の前で押し花の栞を見付けてねぇ。天狐……この子に匂いを辿ってもらったんだ。押し花を残して居なくなるなんて、ちょっと違和感があるからねぇ」
なんでここに、そう言いたげな友奈に、楓はいつものように朗らかな笑みを浮かべながら説明する。説明が終わると同時に肩の狐……天狐は煙と共に姿を消す。
「……なんで病室に入らずに居なくなったんだとか、どうしてこんな場所で泣いているのかとか、聞いてもいいかい?」
「あ、う……っ」
「……どうしても、言えない?」
「……」
「……そっか」
優しく聞いてくる楓。だが、友奈は泣きながら首を横に振った。例え楓に何か起きていなかったのだとしても、今度もそうだとは限らない。今の追い詰められた状態の友奈には何がトリガーとなるのかの判断も難しく、上手く言葉にも出来ず……ただ、それは言えない、出来ないと首を振ることしか出来なかった。
それを見て、楓も友奈にそれ以上聞こうとはしなかった。ただ……独りで泣いていた彼女を思いっきり抱き締め、優しく頭を撫でる。少なくとも……独りではないのだと教えるように。
「なら、聞かない。ただ……自分は、友奈の側に居るよ。君が落ち着くまでは……こうしていてあげる」
「……うんっ……ふ……うぐぅ……っ……ああああん! うああああんっ!!」
言った通り、楓は何も聞かずに大声で泣き叫ぶ友奈の側に居た。離れたくないと、離したくないと背中に手を回す友奈の小さな体を強く抱き締め、落ち着かせるように頭を撫で続ける。それでも、彼女はしばらくの間泣き続けた。自分のせいでという辛さと、誰かが側に居てくれるという嬉しさが混ざりあって、自分では中々止められなくて。
(友奈……君がどうしてそんなになっているのかは、まだ自分には分からない。けれど……自分には君の声が聞こえた気がする)
何も答えない……答えられない友奈。それでも泣く彼女を見て、こうして抱き締めている楓には、確かに聞こえた気がした。
言葉にならない……言葉に出来ない、彼女の“助けて”という声が。
原作との相違点
・栞を拾うのが園子ではなく楓
・泣く友奈の側に誰かが居る
・その他色々
という訳で、やっと原作3話が終わりました。この話を見た時、絶対本作では友奈を1人で泣かせたくないと思っていたんでこのような形に。ここは賛否両論ありそうですが。
さて、皆様色々と天の神や楓について考察しているようで感想を見て楽しんでいます。正確者は居るのかな?
次回も本編です。その後、また番外編を挟む予定です。DEifは本作よりも先に終わらせておきたいですしね。それに、ほのぼのも入れておきたいですし。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)