咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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またもや長らくお待たせしました(´ω`) もうこの投稿スピードから抜け出せない気がする……許してください。

勇者部所属1~3、ぷにっと2が揃いました。全部ブック○フにあったという奇跡。早速読んでみましたが、楓突っ込んで書きたいエピソードが多すぎる。時系列よくわかんないですが、パラレル的な形でいつか書きたいですね。

fgoで福袋回したらメルトリリス来ました。後はプロテアで桜達が揃います。そしてロリンチちゃんも来てくれて私は感無量です。

前話の感想見ると誰1人として楓を呼び捨てにしてないのに気付いて草。何でなんでしょうね? おじいちゃんぱぅわーかな←

さて、今回も全っっっぅ然話が進みません。いや、ある意味で進みますかね。友奈の章を終えて尚上がり続けると評判の友奈のヒロイン力。今回はどうなるやら。


咲き誇る花達に幸福を ー 10 ー

 あの後、私は泣き止むまでずっと楓くんに抱き締められながら頭を撫でられてて、泣き止んだ後は前みたいに家まで送ってもらった。その時、玄関の扉を開けたらお母さんがニヤニヤしながら待ってて……物凄く恥ずかしくなって、慌てて楓くんにお礼とまた明日って言って扉を閉めた。その時見えた楓くんの顔は、苦笑いだった気がする。

 

 お母さんが服が濡れてることに気付いて、直ぐにお風呂を沸かしてくれたのでお風呂場に行って……服を脱ぐ前に、楓くんが羽織らせてくれた上着を返し忘れたことに気付いた。楓くん、下は制服だったから多分凄く寒いよね……風邪、引いたりしないといいな。

 

 (……楓くんの上着……おっきいなぁ)

 

 私の上着よりも一回りか二回り大きい楓くんの上着。何となく、その袖に腕を通してみる。ぶかぶかで、袖からは指先しか見えない。この上着を着てると……さっき、抱き締められてたことを思い出す。

 

 私よりも大きな体で包み込むみたいに抱き締めてくれた。涙で服が濡れることも気にせずに、力強く。それに、その大きな手で頭を撫でてくれた。私が泣き止むまでずっと……ずーっと側に居て、そうしてくれてた。

 

 寒くて、痛くて、辛くて、苦しくて、寂しくて……そんな私を、優しさで包んでくれた。それを思い出して……今なら、笑顔だって浮かべられる。寒さも、痛さも、辛さも、苦しさも、寂しさも……全部、楓くんが包んでくれた。

 

 「……えへ。っくしゅっ」

 

 幸せな気分に浸っていると、思い出したみたいにくしゃみが出た。当たり前だよね、楓くんの上着は温かくても中の制服は濡れてて冷たいんだから。

 

 上着を脱いで畳んで、制服と自分の上着は脱いだら全部洗濯機の中へ。それからお風呂に入って、湯船に浸かる。体が冷たかったから最初は凄く熱いんだけど、少しすれば温かく感じる。そうして温まったら体を洗う為に浴槽から出て……鏡の前に行く。

 

 鏡に写る自分の体。その左胸の模様が、さっきまでの幸せな気分を消し去る。この模様のせいで、私が言おうとしたせいで風先輩と皆は……そういえば、今日はクリスマスイブだっけ。皆とお祝い、出来なかったなぁ。明日は……出来るかな。そう思いながら左手で模様を撫でる。

 

 「……あれ?」

 

 左手で撫でた模様を鏡越しに見て、首を傾げた後に直接見下ろしてみる。気のせいかな、この模様……。

 

 「何だろう……前よりも()()()()()()ような……?」

 

 赤黒くて、毒々しくて、まるで燃えているようにも思えていた模様。なんでだろう、それが私には色とか……存在感とかが、少し薄まってるような気がした。

 

 

 

 

 

 

 友奈を彼女の家まで送っていってから少しした頃。そろそろ皆がサプライズパーティーの為に姉さんの病室に居る頃だろうかと歩きながら考えていると、不意にスマホに着信があった。ポケットから取り出して画面を見てみれば、そこには“乃木 園子”の文字。直ぐに画面を操作し、電話に出る。

 

 「もしもし、のこちゃん?」

 

 『あ、カエっち? 今どこに居るの~? 皆フーミン先輩の病室でサプライズクリスマスパーティーやってるよ~? ゆーゆは居ないんだけど……』

 

 「その友奈を家まで送っていったところでねぇ、今は外なんだ。友奈、雪の上で転んだらしくてずぶ濡れでさ。パーティーには行けそうにないかな」

 

 『そっか、残念だな~……でも明日はクリスマスだから、その時はゆーゆも一緒にお祝いできるよね?』

 

 「そうだねぇ……きっと、明日は皆でお祝い出来るさ」

 

 『だよね~♪ カエっちは? 戻ってくるの?』

 

 「……いや、悪いけれど自分はこのまま家に帰るよ。病院は遠いし、友奈に上着を貸したままで寒くて仕方なくてねぇ」

 

 『……分かった。残念だな~』

 

 「ごめんね、のこちゃん。じゃあそろそろ切るよ」

 

 『うん。またね、カエっち』

 

 「またね」

 

 そこで電話を切り、ポケットに入れる。サプライズのクリスマスパーティー、か。そこに自分と友奈は居ないが、楽しんでくれていると嬉しい。本当なら、そこに自分達も居て皆で楽しんでいたんだろうが……友奈が行けないのに自分だけ戻るのも気が引けたし、実際寒いので早く家に帰って温まりたい。

 

 

 

 ― …………………… ―

 

 

 

 「……まだ、消えないか」

 

 それに……友奈を送る途中から今までずっと感じている複数の視線。それが、まだ消えない。思えば、自分がこの視線を感じる時にはいつも近くに友奈が居たか、友奈から離れて少しした頃。今もまだ、後ろを向けば友奈の家がある。

 

 しばらく歩くと、ようやく視線が消えた。ずっとプレッシャーを感じていたので息苦しさを感じていたが、ようやく一息つけた。深呼吸を1つし、また家に向かって歩き出す。その道中で友奈に起きていることを考えていた。

 

 (友奈の身に何かが起きているのは間違いない。それも、あの子が皆から離れて1人で泣いてしまう程に辛く苦しいことが)

 

 原因はほぼ間違いなく天の神。友奈は姉さんが事故にあった日、美森ちゃんを助けに行った日のことを話題に出した。多分、その日に何かがあった。美森ちゃんを助けに行った以外の、友奈にだけ起きた何かが。

 

 外の世界の出来事はのこちゃんから聞いている。美森ちゃんがブラックホールになっていて、そこに友奈が1人で突入し、しばらく経ってからそのブラックホールが消滅、中から気絶した2人が出てきた。

 

 まあ、ブラックホールってどういうことだ? という疑問はあるが……実際に中で何があったのか、友奈本人以外分からないだろう。タイミングが悪くて今まで聞けなかったが、この調子だと答えてくれなさそうだ。

 

 (そして、その時のことを……多分、友奈は言えない。“言わない”じゃなくて、“言えない”。それは姉さんと自分に言おうとして誤魔化したこと、さっき聞いても泣いて首を横に振ったことからも明らかだ)

 

 問題なのは、どうして言えないのかだ。口に出すことそのものが出来ないのか……それとも、口に出すのに何か不都合があるのか。

 

 (……そういえば、どうして友奈は病室で前から居なくなったんだ?)

 

 ふと、そんな疑問が浮かんだ。押し花の栞が落ちていて、その栞に着いていた匂いを天狐に追ってもらった先に友奈が居たんだから彼女が病室前に居たのは確実。なら、どうして入らずに去った? どうして去った後に泣いていた?

 

 あの時、中に居たのは自分達3姉弟だけ。家族だけの輪に入ることを躊躇ったという可能性もあるが、それなら去る必要はない。なら、何が彼女を泣くほどに追い詰めた? 可能性としては自分達の会話くらいだろうが、別段おかしい話はしていないハズだが。

 

 (何が引き金になったんだ? 思い出せ、自分達の会話を。そこにきっと、友奈に起きていることのヒントがある)

 

 樹がイベントに行かなかった……違う。退院したら皆で楽しいことを……多分、違う。来年はもっと……これも違う。足音が聞こえたのはもう少し後だ。だからもう少し後の会話を……思い出せ……思い出すんだ。

 

 

 

 ― うん。皆、幸せにならないとだね ―

 

 

 

 (……これか?)

 

 可能性として高いのは樹が言ったこの部分くらいなモノだが。その後に自分が皆幸せにならないとと言って、姉さんが勇者部部長は幸せだと言って……だが、それの何が友奈に突き刺さったんだ? まさか自分が居たら幸せになれないなんて思ったのか?

 

 「……あいたっ」

 

 いつの間にか俯きながら考えていたから前方不注意になっていたんだろう、それなりに強く電柱に頭をぶつけてしまった。お陰で尻餅を着いてしまい、ポケットからはスマホが落ちる。不幸中の幸いと言うべきか、雪の上だったのでそれほど尻の方に痛みは少なかった。まあズボンは濡れて余計に寒くなったけど。

 

 (ん? ()()中の幸い?)

 

 雪を払いながら立ち上がり、ふと自分のその考えが引っ掛かった。不幸……そうだ、自分が居たら不幸になると、友奈がそう思っていたなら? いや、友奈が言えないことを考えると……()()()()()()()()()()()()()()()()のなら?

 

 思えば、姉さんが事故にあったのは友奈が美森ちゃんを助けに行った日のことを言おうとした後だ。それが自分が言おうとしたから起こったのだと、友奈がそう思ってしまったなら? もしくは、それが自分のせいなのだと友奈が確信しうる何かがあるとすれば?

 

 (そしてそれが、天の神が原因で引き起こされているとするなら……)

 

 彼女は、かなり辛い立場に居る。何せ対処法がない。相談も出来ない。それをしようとすれば不幸なことが起きる。友奈自身に何か起きた訳ではないから、多分相談しようとした相手に。だから言えない……言えば、相手が不幸になるから。

 

 勿論、これは自分の予想でしかない。だが……正しいとすれば、自分が彼女にしてあげられることは殆ど無い。それに、仮にこれが正しいとして……自分に何も起きないのは何故だ? それが、この予想が本当に正しいのかを疑問視させる。

 

 (決定打が無い。自分が外に出られない理由も、友奈に起きていることも……全部自分の予想だから。だが……この考えが正しいとして動いてみよう)

 

 少しでも、彼女の心が救われるように。少しでも……友奈が、笑えるように。

 

 

 

 

 

 

 風が退院出来たのは、年を越えてからだった。すっかり元気になった風を含めた勇者部は8人全員で初詣の為、神樹を祀る神社へとやってきていた。尚、この中で晴れ着を着ているのは美森と園子の2人であり、他は皆私服である。

 

 「はーっ、やっと退院できたわ。シャバの空気は美味しいわねぇ」

 

 「刑務所から出てきたみたいなこと言ってますよ風さん」

 

 「病院なんて似たようなモンよ。好きなの食べられないし、楓と樹にご飯作ってあげられないし、身動き殆ど出来ないし」

 

 「姉さんが居ない間はのこちゃん達がお裾分けに来てくれるか自分達で作ってたけどねぇ」

 

 「持っていって皆で食べると1人で食べるより美味しかったんよ~。ああいうの憧れてたんだ~♪」

 

 「ああいうのって……友達の家で一緒に食べるとかですか?」

 

 「んーん、通い妻」

 

 「いや、別に通い妻じゃないですよ!?」

 

 鳥居の下、他の参拝客の邪魔にならないよう端に寄って集まった8人。風が屈伸をしながら深呼吸をすると、その言葉に銀がツッコミを入れ、それに対して風は腰に両手を当てながらブー垂れる。家族の為に家事が出来なかったのは、彼女にとってかなり精神的に苦痛だったらしい。

 

 その間の食事事情を、楓は改めて思い返す。以前よりも樹は料理が出来るようになっていたし、楓自身も元々簡単な炒め物等の料理は出来る。それに加え、友奈を除く4人がお裾分けだと言ってそれぞれ料理を持ってきてくれたし、何なら材料だけを持ってきてその場で作ったこともある。

 

 美森は和食とぼた餅、銀は主に洋食や母親直伝だと言う煮物等、夏凜は部活中に仲良くなったという子供の母親から教わったオリーブオイルや煮干しを使ったちょっとした料理、園子は焼きそばに釜玉うどん等麺類中心。家族と共に暮らしている美森以外の3人は持ってきては2人と一緒に食べて行ったという。勿論、その後は楓が送っていった。

 

 皆がその時の事を思い返して笑う中、園子がそんなことを口にする。樹が納得したように頷きながら呟けば、園子はぽやぽやと笑いながらさらりと言ってのけ、樹がびっくりしてツッコむ。因みに、この時友奈は自分だけ料理を作ることもお裾分けしに行くこともなかったので心にダメージを負って胸を押さえて背中を曲げており、そんな彼女に楓は苦笑いを浮かべていた。

 

 「園子の戯れ言はさておき」

 

 「フーミン先輩酷い~」

 

 「さておき! 年越して新年迎えちゃったわねぇ……」

 

 「何よ、全員揃って新年迎えてめでたいじゃないの」

 

 「あの夏凜からそんな言葉が聞けるなんてねぇ」

 

 「う、うっさい! 抱き付くな! 頭撫でんな!」

 

 「照れんな照れんな。まあ確かにめでたいんだけど……良い女が1つ歳を取るのよ? それに3月の卒業も近いし……」

 

 「もう1年居てくれてもいいんですよ?」

 

 「いや、それはちょっと……」

 

 風が悲しげに呟くと夏凜からそんな言葉が聞こえ、感動した風が素早く彼女に抱き付いて頭を撫でる。すると夏凜は恥ずかしさか照れからか顔を赤くするものの抵抗らしい抵抗はしない。

 

 少しして夏凜から離れる風だったが、溜め息を吐きながらしみじみと呟く。彼女が卒業するまで後3ヶ月程、いよいよ近付いてきたそれに寂しさが沸き上がる。そんな彼女に美森が冗談なのか本気なのか分からないトーンで笑顔でサラッと言い、風は苦笑いと共にそう返した。

 

 これまでのやり取りに皆も笑う中、友奈の笑顔だけが直ぐに消え……隣に居た楓がそれに気付き、彼女に笑いかけると友奈も直ぐに気付き、また笑顔を浮かべた。

 

 泣く友奈を送っていった日から楓は何かと友奈を気遣い、側に居るようになった。それが友奈の孤独感を和らげ、彼女もその行動を嬉しく思って自然と笑顔が増えた。

 

 (楓くんが側に居てくれるから……まだ、耐えられる)

 

 模様のせいで体が痛くても、熱くても、また皆に不幸なことが起きるかもしれないという恐怖があっても……辛い状況の中に居ても、1人じゃないと思えるだけで笑えるのだと、友奈は知ったのだ。

 

 「ねぇねぇ。あっま酒、飲みたいな~」

 

 「おっ、良いわね。それじゃあ1杯引っかけていきますか!」

 

 「言い方とか手つきとか完全におっさんのソレですね」

 

 「銀……口は災いの元って知ってる?」

 

 「あ゛~! こめかみが! グリグリが~!!」

 

 園子が境内の中にある“甘酒振舞所”と書かれた看板がある屋型テントを指差しながら甘えるような声で言えば、風が右手でお猪口を口に運ぶような仕草をしながら乗る。そんな風に銀が悪気無く笑いながら言えば、ニコォ……と黒い笑みを浮かべた風にこめかみを握り拳でグリグリとされ、涙目になりながら両手をバタバタとさせた。

 

 そんなこんなで甘酒を貰いに来た8人。順番に巫女さんから甘酒の入った紙コップを受け取り、味わう。園子、美森が先に飲んで美味しいと呟き、銀がこめかみの痛みに耐えながら美味しそうに飲み、友奈と夏凜が美味しい、悪くないと感想を告げる。

 

 「「んっ……んっ……ぷはーっ」」

 

 「おお、フーミン先輩もイッつんも良い飲みっぷりだね~」

 

 「……なんか、顔赤くないか?」

 

 「ノンアルコールなのに場酔いしてるんじゃない?」

 

 「あはははは! 酔ってないですよ私は!」

 

 「うわああああっ! アタシの中学生活が終わっちゃうぅぅぅぅっ!」

 

 「なんだこいつら……」

 

 「貴重な記録ね」

 

 そして風と樹は甘酒を勢いよく一気飲み。飲み干した頃にはノンアルコールであるにもかかわらず酔ったように顔を真っ赤にさせており、その顔を見て疑問符を浮かべる銀。夏凜は澄まし顔で投げるように言った。

 

 次の瞬間、急にハイテンションになって笑い出す樹と思いっきり泣き出す風。突然の変貌に夏凜が飽きれ顔になり、美森はビデオカメラを2人に向ける。園子と友奈も2人を見て笑い……5人の頭に同時に1つの疑問が浮かんだ。

 

 

 

 姉妹がこうなのなら、その兄弟である楓はどうなのか?

 

 

 

 さりげなく視線を楓へと向ける5人。そこには甘酒を受け取り、自分達の所に向かって歩きながら甘酒を口へと運ぶ楓の姿があった。

 

 (フーミン先輩は泣き上戸で~)

 

 (樹の奴は笑い上戸だった)

 

 (なら……楓君はどうなるのかしら)

 

 (風みたいに泣く? それとも樹みたいに笑うの? どっちも想像できないけど……)

 

 (なんだかわくわくドキドキしてきた……)

 

 「……ぷはっ。結構美味しいねぇ……」

 

 7人の所に着く頃、楓は甘酒を飲み干した。その顔は姉妹同様に赤く、酔っているように見える。どうやら犬吠埼姉弟は全員甘酒で酔ってしまうらしい。

 

 酔っていることは確認出来た。なら、次はどんな酔い方になるのか。姉は泣いて、妹は笑った。なら楓はどうなるのか。同じように泣くのか、笑うのか、それとも他の何かか。せめて不機嫌になったり怒ったりするようなことはやめてくれと夏凜が1人心の中で祈っていた時。

 

 「……」

 

 「……か、楓くん?」

 

 「カエっち……?」

 

 「ん~……」

 

 「わひゃ!?」

 

 【なあっ!?】

 

 ピタッと、急にジト目になって動きを止めた楓。姉妹のように何かしら感情を爆発させるのだと思っていた5人は肩透かしを食らった気分になり、心配になったのか友奈が近付き、遅れて園子が近付く。

 

 その瞬間、楓は友奈に抱き着いた。友奈は驚いて声をあげ、見ていた4人もまた同じように驚いて声をあげる。まさか楓がいきなり抱き付くなど予想もしていなかったのだから。

 

 「あはははは! お兄ちゃんが友奈さんにぎゅーってしてる!」

 

 「うわーん! 楓が友奈に取られたー!」

 

 「あわわ、あわわわわ……」

 

 「はっ! ゆーゆより先に動いていれば今頃そこにいたのは私だった!?」

 

 「園子は何バカなこと言ってんのよ」

 

 「楓君は絡み酒だったのね……これは使えるかもしれないわ」

 

 「何を何に使うつもりなんだね須美さんや」

 

 ばか騒ぎ……そんな言葉が相応しいか。何が面白いのか樹はただただ大声で笑い、風はぐすぐすと泣きわめき、抱き付かれた友奈は大慌てし、園子はもしかしたら自分が友奈の位置に居たかもしれないと真剣な顔で驚く。

 

 夏凜もびっくりしていたがツッコミ気質のお陰か園子にツッコミを入れることで落ち着き、美森は驚きながらも無駄の無い動きで楓と友奈の2人を最初から今までをしっかりとビデオカメラに納めながらうっとりとした顔でボソッと呟き、それが聞こえてしまった銀がジト目で美森を見ながらそう言った。美森は答えなかった。

 

 (あう……びっくりしたけど、楓くん……あったかいなぁ……あったかい)

 

 大慌てしていた友奈だが、一向に離れる気配が無い楓に抱き締められている内に段々と落ち着き……体の熱さとは違う温かさを感じて、その肩に顔を埋める。

 

 その脳裏に浮かぶのは、クリスマスイブの日に抱き締めてもらった時のこと。自分のせいで仲間達に不幸な事が起き、3姉弟の話を聞いてその幸せを自分が壊してしまうと思った。そうして色々なモノが重なり、心が折れて泣いてしまって……そんな時に唯一側に居てくれた楓。

 

 「……えへへ」

 

 友奈の顔が弛む。あの時、友奈は確かに救われた気持ちで居た。根本的な解決は何1つしていない。だが……少なくとも、心は確かに救われたのだ。こうして模様のことで悩みながらも皆と同じように笑えるのも、今この瞬間が楽しいと思えるのも、救われた心に余裕を持っているから。

 

 勿論、どうにかしなければ自分がどうなるか分からない。だが……こうして抱き合い、幸せな気持ちで居ると痛みも熱さも全て忘れて、何とかなるかもしれないという気持ちになれた。

 

 「……ゆーゆ、変わって~?」

 

 「……もうちょっと」

 

 「……どう?」

 

 「あったかいよ~……あれ、何だか重くなってきたような……?」

 

 「ん~……」

 

 「にしても楓、全然友奈から離れないな……あたしも近付いたら……いや、何でもない」

 

 「ふふ、銀ったら……? なんだか友奈ちゃんの方に傾いてきてるわね」

 

 「呑気に言ってる場合か! 支えるか引き離すかしないと」

 

 「きゃー!?」

 

 「ほら潰れたぁ!」

 

 そんなハプニングもあったものの、8人はこの後酔ったままの姉妹と起き上がって今度は園子に抱き着いた楓を何とか神社前まで動かし、美森のカメラを使って記念写真を撮った。

 

 左から風、樹、夏凜、楓、園子、友奈、美森、銀と並んで……タイマーをセットしたカメラがシャッターを切る瞬間、樹が笑いながら風と夏凜の首に手を回して飛び付き、風が泣きながら転びそうになり、夏凜も驚いた表情で同じように転びそうになる。

 

 銀は飛び付くように美森の首に右手を回して左手でピースをし、美森は銀を抱き止めて友奈と背中合わせになり、友奈は園子に後ろから抱き付く形になり、園子は楽しそうに笑いながら楓に飛び付き、楓は酔っているにも関わらず4人の重さを受け止めていた。そして、その後ろではそれぞれの精霊達の姿もある。

 

 新年初の勇者部全員での集合写真は……そんな、慌ただしくも楽しげな、勇者部らしさが伺える物となった。

 

 

 

 

 

 

 ― ……おかしい ―

 

 真っ暗な空間の中で、少女の姿をした神樹は鏡に映る友奈を見ながら呟く。その目に写っているのは友奈の胸部……そこにある、天の神によって刻まれた模様。

 

 友奈の模様については、神樹も把握していた。美森が生贄になること、そしてその奪還を見逃す形になった神樹だったが……無事で済むとは思っていなかった。何せ相手は人間を滅ぼそうとしている程に人間嫌いな天の神だ、生贄を奪い返されてタダで済ませる訳がないのは予想出来た。

 

 案の定、美森を直接取り返した友奈に天の神の力が感じられる何らかの模様が刻まれていた。当初、神樹はそれが天の神の祟りや呪いの類だと思っていたのだが……。

 

 ― 天の神にしては……()()()。あの程度じゃあの子は()()()()

 

 手緩い、それが神樹が感じたことだった。友奈に刻まれた模様は確かに天の神によるモノだ。だが……その力は、友奈を殺すには至らない程度のモノでしかなかった。確かに友奈は苦しんでいる。そして勇者達にも不幸な事が起きている。それでも、大怪我こそしているが死ぬ程ではなかった。

 

 そして、神樹の目から見てその模様の力は日に日に弱まっているように見える。このままだとそう遠くない内に模様に込められた天の神の力も、模様そのものも消え失せるだろう。故に手緩いと感じたのだ。

 

 ― あの天の神が、その程度で済ませるかな? それに、あの人を呼び出せないのも、()()()()()()()()また目眩が起きたのも気になる…… ―

 

 もう1つの疑問は、以前のように楓の魂をこの真っ暗の空間へと呼び出すことが出来ないことだった。勇者達が美森を助けに行った日、神樹は数日の間を置いて事の説明をしようと楓を呼び出すつもりだった。しかし、どういう訳か呼び出すことは叶わなかったのだ。

 

 そして、ここ数日の間に何度か起きた楓の目眩。作り直した右腕は既に定着し切っている筈なのだ。故に、目眩が起きるのはおかしい。

 

 その理由は神樹にも分からない。何か良くない事が起きようとしている事は理解出来る。だが、それが何なのか分からない。

 

 そうして考えて、考えて、考えて……友奈が心折れた時も、楓が友奈の側に居た時も、勇者部が初詣に行っている時にも考えて、それでも思い付かなくて。そして、しばらく経って神樹がようやく天の神の意図に気付いた時には……。

 

 

 

 再び、崩壊(おわり)が始まっていた。




原作との相違点

・園子と美森が友奈の甘酒をふーふーしない

・犬吠埼姉弟は甘酒で酔う(楓も例外ではない

・楓は絡み酒(文字通り

・銀ちゃん関連(ざっくり

・その他色々あり過ぎてどうにかなりそうです



という訳で、楓の考察と初詣の話でほぼ全部という全くもって進まない話でした。皆様お気づきかもしれませんが、私は風夏の絡みが好きです。友奈には笑顔で居て欲しいです。皆様に愛される主人公を書きたいです。色々不穏をばら蒔くスタイル。話としては、ちょっとくどかったかもしれませんね。

楓を甘酒で酔わせることは確定でした。犬吠埼ですし← 抱き付き魔かキス魔か立ったまま寝るかで悩みましたが、抱き付き魔にしました。勿論、これにも理由はありますが……まあ何度もやってきたからなんですけどね(えー

さて、咲き誇る花達に幸福を(勇者の章)も10話に到達しましたので、次回は番外編を挟みます。その次は本編か、もしくはまた番外編(ほのぼの系)を予定しています。ちょっと悩み中。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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