咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました……最近どうにも疲れが取れず、執筆が進みにくい私です。申し訳ありません(´ω`)

ですが、エタることはないのでご安心下さい。確かな実績過去4作(中編込み)。ハーメルンにはないですが、その前にも2作完結させてるんですよ私……あの頃は若かった。そして拙かった←

誤字脱字報告ありがとうございます! 中々自分では見付けられないことも多いので、修正や報告は本当に有難いです。

ゆゆゆいではUR実装来ましたね。友奈可愛すぎ問題。欲しいですが石も金もなく……あ、超高難度は無理でした。何回世界滅ぼされたことか。

アークレゾナ始めました。レム可愛すぎませんかね。

fgoではラムダほしくてガチャ回しましたが無事死亡。当たった方々、おめでとうございます。

天華百剣ではあやこが登場。後は超級だけです。水着鶴丸、欲しいなぁ……当たるかなぁ。

さて、今回も話自体は進みませんが……色々と動きます。ここからがいかゆの勇者の章ですよ……本作に良い略称ないかなぁ。

あ、久々にアンケートあります。


咲き誇る花達に幸福を ー 11 ー

 それは、勇者部の皆で初詣をした日の自宅で起きた。

 

 「……こんなところか」

 

 どういう訳か姉弟揃って初詣に行って甘酒を貰った後の数十分間の記憶が無い。何があったのか皆は教えてくれなかったし、友奈は顔を赤くしてわたわたとして言葉にならなかったし、のこちゃんはニコニコとして何も話さなかったし、美森ちゃんはうっとりして誤魔化すし、銀ちゃんはそっぽ向いて口笛を吹いてはぐらかすし……まあ気になるが、それはいずれ教えてもらうとして。

 

 今、自分は自室でノートを開いて自分が結界の外にて出られない理由、友奈に起きていることの予想を書き記していた。確固たる情報も確信も何もないが、我ながらそれほど的外れでもないと思う。

 

 自分が結界の外に出られないのはともかく、友奈のことに関しては皆に伝えておくべきだろうか。彼女が教えられない、或いは知られてはいけない可能性を考えて言わなかったが……いや、やっぱりその可能性がある以上はまだ伝える訳にはいかないか?

 

 (せめて、1つでもはっきりすればいいんだが……)

 

 どこまでいっても予想でしかない。前みたいに神樹様からの接触はないから問うことも出来ない。友奈は言えない。調べようとしても調べられるモノでもない。ただ、彼女が辛い状況に居るという事実しか分からない。

 

 (あの日起きたことは……美森ちゃんの奪還。それをしたのが友奈。なら、それが原因だと考えるべきか。それが原因で天の神は友奈に何かをした……)

 

 1つ1つをノートに書いていく。頭で考えるよりも、こうして書いていく方が紐解ける場合もあるからだ。

 

 原因がそれだとして、“何か”とはなんだ? 思い付くのは……神ということから天罰や呪い、祟り。そういったモノが彼女の身に降りかかっている。効力は……呪いのことを言おうとすると周囲の人間に不幸を振り撒く? なら友奈の身には何も起きてない? いや、何かは起きているんだろう。それが一見すれば分からないだけで。

 

 (……これ以上のことは分からないか。せめて友奈から話を聞くか、神樹様が接触してくれれば聞けるんだが……まあ、自分がやることは変わらない)

 

 彼女が1人で辛い思いをしないように、彼女が1人で居ないようになるべく側に居る。あれ以上、あの子の泣き顔なんて見たくないからねぇ。友奈だけじゃない。あの子達の泣き顔なんて……見たくはない。勇者部で浮かべる笑顔を、ずっと見ていたいモノだ。

 

 「楓ー! 樹ー! ご飯出来たわよー!」

 

 「はーい!」

 

 部屋の外から姉さんの声と樹の返事が聞こえた。スマホを見てみれば、夜の7時を回っているところ。帰って来たのは5時前だったから、2時間以上考察していたことになるのか……ノートに書いた量の割に随分と長く考えていたモノだ。そう思って苦笑し、自分も樹のように返事をしようとして。

 

 

 

 (……えっ?)

 

 

 

 急に体を鷲掴みにされたような圧迫感を覚え、その後に思いっきり後ろへと引っ張られた。おかしい、この部屋には自分以外に誰も居ないハズなのに。いや、おかしいのはそれだけじゃない。そもそも自分は背もたれがある椅子に座っていたのだ……なのに、これはどういうことだ?

 

 今、自分は後ろへと引っ張られたことで尻餅をついている……なんてことはなく、()()に居る。しかも自分の目の前には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()がある。

 

 (なんで()()()()()()()()()()()()? それにこの姿……)

 

 自分の姿を見える範囲で確認する。それはあの真っ白な空間に居る時のような……真っ白な光で出来ているような、魂みたいな姿だった。そして自分の腹からは同じ色をした紐のようなモノが伸びていて、それが自分の肉体の背中と繋がっている。

 

 (まさか、魂が肉体から飛び出している? っ、また!? さっきよりも勢いが……それに、これは……っ!?)

 

 そう認識した直後、また体を鷲掴みにされたような圧迫感の後に後ろへと引っ張られた。その勢いはさっきの比ではなく、身動きも出来ない。自分のこの体を見てみれば……赤黒くて毒々しい色をしたナニカが、自分の体を何重にも縛っていた。

 

 直感する……()()()()()()()()()と。このナニカはダメだと本能が訴えかける。このまま引っ張られて何処かへと連れていかれれば取り返しのつかないことになる。だがその力は強く、自分ではどうしようも出来そうにない。どうする……どうする、どうする!

 

 「楓ー? 寝てるの? ……入るわよー? ……あら、珍しく本当に寝てるのねぇ」

 

 そうやって焦っていた時だった。自分の部屋の扉が開き、姉さんが入ってくる。姉さんは空中に居る自分に気付かず、机にうつ伏している自分の体へと近づき……ポンポンと、その肩を叩いた。

 

 

 

 「っ!」

 

 

 

 「わっ!? びっくりした……」

 

 「はぁっ……はぁっ……あ、ああ……ごめんよ姉さん」

 

 気付けば、自分は元の体で思いっきり顔を上げていた。びっくりさせてしまった姉さんに謝りつつ、視線を自分の体へと落とす。そこにはさっき見たようなナニカは存在しない。それに、魂みたいな姿でもない。

 

 「ちょっと、大丈夫? 汗凄いけど……悪夢でも見たの?」

 

 「悪夢……そう、だね……そんな感じかねぇ。どうにも夢見が悪くてさ……助かったよ姉さん」

 

 「どういたしまして。ご飯出来てるけど、食べられる?」

 

 「うん、大丈夫だよ。丁度お腹も空いてたしねぇ」

 

 「なら良かった。樹が待ってるから、早く行きましょ」

 

 「了解だよ、姉さん」

 

 悪夢……あれは本当に夢だったんだろうか。夢にしてはイヤにはっきりと感触が残ってる。それに、冷や汗が止まらない……あのままだったら、自分はどうなっていたんだろうか。そう考えつつ姉さんと会話した後、ノートを閉じて椅子から立ち上がり、姉さんと擦れ違うようにして先に部屋から出る。

 

 あれは、何だったんだろうか。まさか天の神? だが、自分は結界の外に出られないから接触する機会なんて無かったハズ……仮に天の神だったとして、どうやって自分に接触してきたのか。やはり只の夢? 友奈の身に起きていることをずっと考えていたから、あんな夢を見たんだろうか……いや、今は忘れよう。せっかくの姉さんの料理を不味く感じそうだ。

 

 リビングに入ると姉さんが言ったように樹が待っていて、少し遅れて姉さんも入ってきた。そうして姉さんの作った美味しい料理に舌鼓を打った後、風呂に入って眠るまでにあの出来事のことを考えていたんだが……答えが出せないまま、その日は眠るのだった。

 

 

 

 ― ……A……ah……ア……ア……t……a……to……あ……ト…… ―

 

 

 

 

 

 

 ― あ、と……ス……コし……後……少し…… ―

 

 

 

 

 

 

 とある日の部活の時間、美森はビデオカメラを回しながら楽しく談笑している風と樹を撮っていた。少し遅れて撮られていることに気付いた風は、右手を後頭部に、左手を腰に当てて腰をくねらせてポーズを取る。

 

 「ん? ふっふーん♪」

 

 「風先輩、自然体でいいんですよ?」

 

 「いやー、ついねぇ。というか、東郷は最近熱心にカメラ回してるわねぇ?」

 

 「もうすぐ先輩が卒業ですから。部員が全員揃っている活動記録は貴重になりますし、今の内に沢山撮っておかないと」

 

 美森に言われてポーズを取ることを止め、腕組みをしながらニッと笑う風。突然ポーズを取った姉を不思議そうに見ていた樹は2人の会話でようやく撮られていることに気付き、姉がポーズを取った理由に気付いて苦笑い。

 

 風の疑問に、美森はカメラを回しながら答える。風が讃州中学に在学している期間はもう3ヶ月もなく、卒業すれば当然中学の部活である勇者部には居られなくなる。こうして8人が揃って部活をしていられるのも後少しなのだ、美森が記録に残そうとするのも頷けるだろう。因みに美森の隣には友奈とサンチョの枕を抱き抱える園子の姿があり、友奈の隣には楓が、園子の隣には銀が居る。

 

 「卒業するっつっても、アタシはここに入り浸ると思うわよ?」

 

 「入り浸るんだ……」

 

 「高校生になっても入ってこれるんですか?」

 

 「そこは顔パスよ、顔パス。という冗談はさておき、先生にも聞いたけど大丈夫みたいよ。まあ受付の人か先生の誰かに伝えておく必要があるけど」

 

 「そんな予想はしてたけどね。あんたが楓さんと樹から長いこと離れてるのとか想像つかないし」

 

 美森の言葉に、風はそう言って勇者部の床を指差す。そんな姉に樹はまた苦笑いし、銀がそんな疑問を溢す。卒業すれば風は当然高校生となり、通う学校も違う。そんな彼女が言うように入り浸れるのかというのは当然の疑問だろう。

 

 そんな疑問に、風は笑いながら冗談混じりで答える。風も本当に来れるのか疑問だったので予め先生に聞いていたらしい。その答えを聞いた夏凜は美森のカメラの前に出て屈みながらレンズを覗き込み、さらりと呟く。その呟きには皆内心で頷いていた。

 

 「2人だけじゃないけどねぇ。あんた達ともあんまり、ね。どう? 夏凜。嬉しい?」

 

 「え!? ぅ……」

 

 「……ちょっと、そんな反応されるとこっちも反応に困るじゃないの」

 

 「2人を見てると創作意欲が湧いてくるんよ~♪ 帰ってから2人のも書こうっと」

 

 「「ちょ、アタシ(私)達の何を書く気よ!?」」

 

 「というか園子。今、2人の“も”って言った? 他に何か書いてんの?」

 

 「……内緒~。それじゃあ、カエっちも皆もまた明日ね~♪」

 

 「またね、のこちゃん」

 

 「またねー園ちゃん!」

 

 「またね、そのっち」

 

 「今日も早いなー園子。またなー」

 

 「「待ちなさーい!!」」

 

 夏凜の呟きを聞いた風がニヤニヤとしながら夏凜の顔を覗き込みながらそう聞くと、夏凜はびっくりした後に顔を赤らめてふいっとそっぽ向く。予想外の反応に風も何だかむず痒くなり、同じように顔を赤らめる。そうして真っ赤になった2人を園子はとてもいい笑顔で見ており、頬に手を当てながらボソッと呟いた。

 

 彼女は呟きに言い知れぬ何かを感じたのか2人が同時に園子へと手を伸ばしながら聞き返すが園子は答えず、彼女の言い回しに違和感を感じた銀が聞いても楓をちらっと見た後に内緒とだけ言って手を振りながら部室から出ていった。彼女の背中に楓と友奈、美森と銀、樹は手を振りながら見送り、風と夏凜は届くハズのない手を伸ばしたまま制止の声を上げる。勿論、園子は止まらなかった。

 

 「……」

 

 「……あー……卒業旅行とかどうしようかしら」

 

 「年末はどこにも行けませんでしたしね」

 

 「のこちゃんと銀ちゃんも新しく入ってくれたからねぇ。8人最初の泊まり掛けの旅行になるだろうから、皆の意見も聞かないと」

 

 「あたし達の時は合宿とかしかしなかったからなー。しかも割と近かったし」

 

 「そうなの? じゃあ、そうねぇ……大赦のお金で温泉でも行く?」

 

 「っ! ……温泉は前にも行きましたし、別の場所なんていいんじゃないですかね?」

 

 「……今度は山とかいいかもしれませんね」

 

 1度互いに顔を見合せ、気恥ずかしさから直ぐに反らす風と夏凜。その気恥ずかしさを誤魔化すように風が口を開くと、美森がその話題に乗る。同じように楓も乗り、銀は過去の自分達がどうしていたかを思い返しながら腕を組んで呟く。当時の4人で行った遠出なぞ遠足や合宿を除けば殆ど無い。精々プールに行ったくらいだろうか……そう思うと、銀は8人全員で行く旅行と言うものが楽しみになった。

 

 そんな彼女の言葉と表情を見た風は優しげに笑い、1つ提案をする。勇者として戦っていたからだろうか、大赦は勇者部のお願いはある程度難しいモノでも聞いてくれる。温泉がある旅館1つ簡単に部屋を取ってくれるし、費用も出すだろう。しかし、それを聞いた友奈が直ぐに別の場所はどうかと口にする。

 

 友奈が薄くなったのではないかと疑問を抱いた模様。あれからしばらく経ち、その疑問は確信へと変わっていた。模様は以前に比べれば遥かに薄くなっていたのだ。だが、薄くなったとは言えまだまだはっきりと確認出来る程度には残っている。温泉に入る……つまりは裸になれば、その時一緒に入るであろう同性の仲間達に模様が見られてしまう。それは避けたかった。

 

 その一瞬の焦りを、楓と……そして美森が気付いていた。だがそれを追及することはなく、美森は山はどうかと提案。これには体力に自信のある夏凜と銀が乗り、逆に自信の無い樹が難色を示す。楓は別に皆が楽しめればどこでもいいと特に意見を言うこともなく……ただ、友奈の側に居た。その事を、彼女は嬉しく思い……笑いかける彼に、同じように笑いかけるのだった。

 

 

 

 それからも平和な日々は続いた。久方ぶりに8人全員で迷い猫探しの依頼を受けた。その途中で樹が風と園子に(そそのか)されてにゃーにゃーと鳴いて猫を呼び寄せようとしたり、猫を発見した友奈と楓がその猫に怯えられて威嚇されたりされたものの無事に保護。依頼達成記念として集合写真を取り、飼い主の元へと届けた。

 

 依頼以外にも8人で遊びに行ったりもした。前にも行った事があるカラオケボックスに行って犬吠埼3姉弟でトリオで歌ったり、先代組4人で歌ったり、また友奈と夏凜がデュエットしたり。この時には友奈も模様による熱さや痛みも殆ど無くなってきており、以前と変わらぬ笑顔を浮かべて楽しんでいた。

 

 普通に学校生活も楽しんでいた。楓達のクラスでは授業中に手紙を回してこっそりと会話をしたり、夏凜が不意打ちで描いた絵を見た友奈が吹き出して先生にバレて怒られたり、昼食時にお互いのおかずを分けあったり。勇者部で集まった昼休みに全力で鬼ごっこをして盛り上がったりもした。

 

 「友奈」

 

 「うん? あ、夏凜ちゃん」

 

 「ちょっと話さない?」

 

 「あむ……なぁに?」

 

 「少し歩ける?」

 

 とある日の夕方。部活も終わって沈み行く夕陽を見ていた友奈の元に煮干を咥えた夏凜がやってきた。煮干を指に挟んで差し出しながら聞くと友奈はそれを咥えて聞き返し、2人は学校から出て少し歩いた場所にある港へとやってきた。

 

 しばらく、2人は黙って夕陽によって赤く染まった海を眺めていた。依頼でも無ければこの港に来ることは殆ど無い為、ここに来るのは美森を奪還するべく結界に向かっていた時に数秒降り立った時以来となる。

 

 「友奈、あのね」

 

 「その前にいいかな?」

 

 「なに?」

 

 「夏凜ちゃんは寒くないの?」

 

 「あ……ごめん、全然気が回らなかった」

 

 話をしようと夏凜が口を開いた時、友奈が夏凜の方を見ながら呟く。夏凜が聞き返してみれば、彼女は寒そうに震えながら自分の両肩を抱くようにして肩を竦める。春が近付いてきているとは言えまだまだ冬と言える寒さ、それも近くに海があるのだから潮風も混じって余計に気温は低くなる。

 

 一言謝り、場所を変えようかと提案するが友奈は首を横に振り、“こうすれば大丈夫”と言って夏凜の足下に座り込んで体をくっ付けた。

 

 「はあ……温かい……♪」

 

 「っ……話、だけどさ。私、風が部室に入り浸るって言った時、ちょっと嬉しかったのよ」

 

 「ちょっと?」

 

 「……うん。結構……かな」

 

 「嬉しいよね。私も嬉しかったなぁ……」

 

 友奈にくっつかれ、夕陽のせいではなく顔を赤くする夏凜。赤くしたまま少し顔を背けつつ話し始める。

 

 夏凜にとって、勇者部はようやく見付けられた居場所である。8人で居られるその場所から風が卒業という形で居なくなることを、彼女だけでなく誰もが寂しく思っていた。が、風は卒業しても来ると言った。彼女が卒業した後も8人で居られる……勇者部を居場所と定めた夏凜にとって、それはとても嬉しいことであった。

 

 そんな彼女の心境の吐露に、友奈はこれからも風が居ること、夏凜がそう思ってくれていることと二重に嬉しく思う。そうして彼女が同意した後、夏凜は友奈を見下ろし……その嬉しそうな表情を見てふっと笑みを浮かべた。

 

 「……大丈夫そうね」

 

 「えっ?」

 

 「本当はね……友奈が何を悩んでるのかって聞こうと思ってたのよ。私がこうして自分の気持ちを言えるようになったから……気持ちを言ったから、あんたも話しなさいよってね」

 

 「あ……」

 

 「年末辺りからあんたの様子がおかしいって思ってた。私達にもなんにも言わないで、1人で何か悩んでるんだろうって……私が力になれたらって、思ってた」

 

 「夏凜ちゃん……」

 

 「私は、あんたの友達だから。友達の為ならなんだってしてあげたいって……そう思えるようになったのは、友奈と……皆のお陰だから」

 

 夏凜はその場でしゃがみ、視線を友奈に合わせる。そうして語るのは、話そうと思っていたことと自身の気持ち。彼女は言った通り、年末辺りから友奈の様子がおかしいと感じていたし何か悩んでるのだと思っていた。それを自分達に打ち明けることもなく、1人で悩んでいるのだと思っていた。

 

 友奈が自分達を頼ってくれないと、自分では力になれないのかと悔しく思ったりもした。それでも何かしてあげられることはないかと考えていたのだ。勇者部に来る前では想像も出来なかった、友達の為に何かをしてあげたいという気持ちがあったから。そう思えるようになったのは、友奈を始めとした勇者部の面々のお陰だったから。

 

 「でも、私達が力になる前に友奈はだんだん元気になってきてた。それは嬉しいわ。でも……力になりたかった。なってあげたかった」

 

 「……うん」

 

 「……元気になったのは、楓さんのお陰かしら? 去年よりも側に居る時間が長くなってる気がするしね」

 

 「えっ!? えーっと、その……」

 

 「あー、その反応で丸分かりよ」

 

 「あうー……」

 

 友奈が以前のように笑うようになったことは、悩んでるように見えることが少なくなってきたのは素直に嬉しい。だが、出来れば悩んでいたであろう彼女の力になりたかった。夏凜にとって初めてそう思える相手だったから……その辺りは少し、複雑な心境だろう。こうして力になりたいと言う前に、その相手は解決へと向かっていたのだから。

 

 そうして吐き出した後に冗談混じりに笑いながら言えば、友奈は顔を赤くしてしどろもどろになって視線をあちらこちらへと泳がせる。あまりに分かり易すぎる友奈の反応に、夏凜は苦笑いを浮かべた。

 

 楓が神樹から戻ってきた日から当初より側に居るようになった友奈だったが、年末辺りからは更にその時間が長くなってるのは目に見えてわかった。どちらかと言えば、夏凜の目には楓の方が友奈の側に居るようにしているように見えていたが。

 

 「……楓さんは、友奈の悩みを知ってるの? 友奈は……楓さんにだけ相談したの?」

 

 「……ううん、知らないと思う。聞かれたけど言わなかったし……」

 

 「やっぱり何か悩んでたのね」

 

 「えっ? あっ!? ゆ、ゆーどー尋問だ!」

 

 「完成型勇者だからこれくらい出来て当然よ」

 

 「むー……」

 

 「……ふふ」

 

 「……えへへ」

 

 自然と、お互いに笑みが溢れた。友奈の笑顔を見た夏凜の心から複雑な思いや憂いが薄くなり、自然と笑うことが出来るようになった友奈の心からあの雪の日に感じた絶望や寂しさが薄れていた。それに、こうして口を滑らせても夏凜の胸に模様は見えない。それがより、友奈の心を明るくしていた。

 

 きっと、もうすぐ悩みも心配も無くなってこうして普通に笑いあえるようになる。また、幸せな日々が続く。そこにはちゃんと友奈自身も居て、隣には楓や美森も居て、勿論夏凜と他の仲間達も居る。そんな未来が待ち遠しかった。

 

 まだ、抱えていることを打ち明けることは出来ない。それを言えば夏凜は悲しげな顔をしたが、それでも頷いてそれ以上何も言わなかった。その優しさが、友奈は嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 「……様子がおかしいのは、友奈ちゃんだけかと思っていたけれど……」

 

 壁の至るところに友奈の、楓の、或いは2人が写っている写真を貼ってある美森の自室。その自室の電気を消して暗くし、カメラに保存してあるデータをプロジェクターから比較的写真が少ない壁へと映し出している美森。側に浮く青坊主と共に壁に映る写真を変えながら、彼女はそう呟いた。

 

 初詣に行った時に撮った動画。そこには、おみくじを引いて大吉を引き当てて喜ぶ友奈が映っている。普段の彼女なら、飛び上がって喜んでいたかもしれない。しかし、映っている友奈は心なしか声に力も無いし普段に比べて大人しい。そんな彼女が、美森には切なそうな表情をしているように見えた。

 

 しかし、その表情も次の瞬間には普段通りの……普段以上の笑顔に変わる。友奈の隣に、酔いから覚めた楓が同じようにおみくじを引いて大吉を引き当て、“お揃いだねぇ”と言って友奈に見せながら笑いかけたからだ。そうして笑い合う2人の姿にうっとりとする美森だったが、そんな場合ではないとパソコンを操作して次の動画、写真へと目を通していく。

 

 (友奈ちゃんは、時間が経つほどに元の元気や明るさが戻って来てる。だけど……)

 

 年を越し、写真や動画の中の時間が進むほどに友奈は以前の元気を取り戻していく。まだ記憶を失っていた頃、己を救ってくれたあの明るさが。それは嬉しいと美森は思う。だが……と視線が友奈から楓へと移ると、その表情が暗くなる。

 

 (それに反比例するように……楓君の顔に疲れが出てる)

 

 美森の目に映る一枚の写真。そこに映っているのは、つい先日撮った鬼ごっこの際に息を切らしている樹に苦笑いしながら近付いて手を差し出して鬼を変わろうとしている楓の姿。汗1つかいていない姿を見れば、恐らくは10人が10人とも彼は元気だと答えるだろう。

 

 だが、美森の目にははっきりと見えている。その表情に浮かんでいる疲労感が、よーく見なければわからない程にうっすらと浮かんでいる目の回りの隈が。老人張りに早寝早起きをしている彼の生活リズムから考えれば、寝不足というのは考えづらい。それに楓は勇者部の中でも体力はある方だし、疲労を溜め込むような依頼もして無い。そんなモノがあれば、それこそ体力の無い樹の方がダウンしているだろう。

 

 (友奈ちゃんも……そして楓君も、私達に言ってない……言えない何かを抱えているのかもしれない)

 

 確かめなければいけない。そう呟いた後、美森は青坊主にハンドサインを送る。それを見た青坊主は天井から吊るされている、部屋の壁と同じ色をしてカモフラージュされている糸を引っ張る。すると写真が貼ってある壁が音も無くくるりと回転し、次の瞬間には何もない普通の壁へと変わっていた。

 

 部屋から写真が消えたことを確認した後に美森はスマホを取り出して勇者アプリをタップ。勇者へと変身し、窓から外へと飛び出すのだった。目的地は友奈の家。そして……犬吠埼家。

 

 

 

 

 

 

 「全く……こんな時間に異性の部屋に忍び込もうとするなんてどういうつもりなんだい? しかも勇者に変身してまで」

 

 「……ごめんなさい」

 

 そして、楓にあっさり見つかって彼の部屋の中で変身したまま正座させられるのであった。




原作との相違点

・友奈の模様が薄くなっている

・友奈と夏凜の会話。夏凜が泣かない、友奈も泣かない

・美森の部屋はからくり部屋(自作)。写真も貼ってある

・その他色々



という訳で、まさかの原作4話がまだ終わらないという……そして展開変更のオンパレードなお話でした。東郷さんの部屋については、ラジオか何かで本当は写真貼ってある予定だったとか聞いた記憶があったのでそこから。本作の彼女ならやりかねない←

神樹様、そして東郷さんの行動や状況の詳細は次回です。そしてそろそろ……花火が打ち上げるかもしれませんね。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

本編ゆゆゆい。その時、“私”は……

  • 勇者か巫女かまさかの「「4人目!?」」
  • 本編同様。楓を呼び出したり心情語ったり
  • DEif同様。ゆゆゆいには出ない
  • その他に良い考えがあるんだが

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