咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました。今回は合宿回です(´ω`)

お試しとして、普段よりも一行ずつ空白を開けております。好評なようでしたら、今後この形で行こうかと思います。←誤解があったようで……行間を元に戻し、改行を増やしました。

ゆゆゆいで自転車に乗ってる銀ちゃん来ました。可愛くて可愛くて仕方ない。ゆゆゆいは優しい世界でホントにもう……もう←

ちょっと詰め込みすぎて9000字越えました……どうしてこうなった……。


鷲尾 須美は勇者である ー 5 ー

 安芸先生から強化合宿をすると言われた日の2日後。自分は着替えやら何やらが入ったリュックを背負い、集合場所ではなく銀ちゃんの家の前に居た。

 

 集合時間までには後一時間ほどの余裕がある。スマホで時間の確認をしつつ、勇者アプリのもう1つの機能であるSNSアプリを起動する。尚、自分は最初コレの使い方が分からなかった。須美ちゃん、教えてくれてありがとねぇ。

 

 『おはよう、皆起きてるかい?』

 

 『おはようございます新士君。もう準備して向かうところよ』

 

 『おはよー。眠いよー』

 

 『二度寝はダメよそのっち。集合時間に遅れてしまうわ』

 

 『すやぁ……』

 

 『遅かった!?』

 

 『いや、返信してるから起きてるだろ。おはよう! あたしももう出るところ!』

 

 『うん、皆おはよう。銀ちゃん、玄関見てみな』

 

 『玄関?』

 

 「あれ!?」

 

 「や、迎えに来たよ。突然過ぎたかねぇ」

 

 家から出てきた制服姿の銀ちゃんが自分を見て目を丸くする。本当なら事前に言っておくべきなのだろうけれど、つい悪戯心が沸き上がってしまったのだから仕方ない。勿論、理由も無く来た訳ではない。

 

 以前に須美ちゃん達から銀ちゃんが遅刻してしまう理由が彼女のトラブル体質と放っておけずに一々解決して回っていることが原因であると聞いている。だったら自分が一緒に解決して行けば遅刻せずに済むのではないか、と考えたのだ。

 

 「いや、それは別にいいんだけどさ……なんで?」

 

 「銀ちゃん1人だと遅刻するかもしれないからねぇ……という訳で、一緒に行かないかい?」

 

 「な、なるほど……あ、待ってて。直ぐに行くから!」

 

 「慌てなくていいからねぇ」

 

 慌てて家の中に戻る銀ちゃん。家の中から“姉ちゃん今の誰ー?”、“友達!”と聞こえてくる……この声は聞き覚えがある。前に送った時にも聞こえた弟君らしき声だ。姉弟仲は悪くなさそうだなぁ、なんて考えていると自分と同じように着替えやら何やらが入っているのだろうパンパンになっているバッグを肩に下げた銀ちゃんが出てきた。

 

 「お待たせ!」

 

 「そんなに経ってないから気にしなくていいよ。それじゃ、行こうか」

 

 「おう! 楽しみだなぁ合宿!」

 

 「銀ちゃんは朝から元気だねぇ」

 

 

 

 その後、直ぐに自分は銀ちゃんのトラブル体質の程度を身をもって知ることになる。散歩中の犬のリードが外れて逃げる、擦れ違ったお爺さんの腰が嫌な音を立てる、目の前で自転車が次々と倒れる。これが早朝の時点で起きるのだから、もっと人が多くなる昼間や夕方ならどうなることか。

 

 因みに、犬は自分が捕まえ、お爺さんは家がご近所とのことで銀ちゃんと2人で運んでご家族に預け、自転車も2人で立てていった。

 

 そんなこんなで何とか集合時間2分前に辿り着き……そして今、自分達は大赦の大橋支部とやらにあるという訓練所へと向かうバスの中に居た。本来神樹館から徒歩でも行ける距離なのだが、その為の道が工事中らしく急遽バスになったのだとか。

 

 自分達4人はバスの一番奥の広い席に座り、自分、のこちゃん、須美ちゃん、銀ちゃんという並びで座っている。尚、のこちゃんはバスに乗って早々自分の膝を枕に眠ってしまった。

 

 「すやぁ……すぴー……」

 

 「いつも気持ち良さそうに寝てるわね、そのっち」

 

 「そうだねぇ。自分の膝の何がそんなにいいのかねぇ」

 

 「むにゃ……おじいちゃん……それはサンチョがうどんになっただけ……」

 

 「どんな夢を見てるんだ園子……」

 

 意味不明なのこちゃんの寝言に苦笑いを浮かべつつ、自分は窓から見える外の景色を眺めながら、昨日やった合宿前の勉強会を思い返す。それは自分達の勇者としてのお役目、神樹様のこと、バーテックスのこと等の復習も兼ねていた。尤も、復習なのだから真新しい情報等ないのだけれど。

 

 四国をぐるりと囲う高い壁。それは四国を守る神樹様が人類を護る為に作り出した結界。その外には死のウイルスが蔓延し、バーテックスはそのウイルスから発生する。バーテックスは結界を越えてやってきて神樹様を目指し、神樹様を殺そうとする。神樹様が殺されると結界は消え、世界は滅ぶ。

 

 バーテックスには普通の兵器は一切効かないらしく、昔の人は神樹様にお話して対抗する為の力を分けてもらった。その力が、自分達が持つ勇者システム……なのだが、自分はこの情報が全て真実とは考えていない。

 

 (バーテックスはウイルスから発生する。そして、そのウイルスは外の世界に蔓延している。なら……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 どこを見ても、ウイルスがどうやって発生したとか、外の世界がどうなっているのかという情報はない。そもそも、死のウイルスとはどういうモノだ? バーテックスがウイルスから生まれるのなら、外の世界のウイルスをどうにかするべきじゃないのか? そうしなければ、延々とバーテックスが生まれ続けるのでは? もしそうなら、彼女達はずっと……。

 

 「うにゅ……アマっち……ミノさん……わっしーが……わっしーが~……」

 

「……くふっ」

 

 嫌な考えが浮かんでは消えを繰り返していると、のこちゃんからそんな寝言が聞こえてきた。自分の考えとの差に、思わず笑いが溢れる。そして、自分の思考のループを止めてくれたお礼を込めて彼女の頭を撫でる。

 

 きっと、大赦が出していない情報の中に自分の欲しい情報はあるのだろう。それが自分が望むものであれ望まないものであれ、自分がすることは変わらない。彼女達を生き残らせ、自分も生き残る。今はそれだけでいい。知ったところでどうにもならないのだから。だが、もし彼女達に悪影響があるのなら……。

 

 (まぁ……どうにかしないとねぇ)

 

 「ねぇそのっち。私に何が? 私に何があったの!?」

 

 「気持ちよく寝てるんだから揺らすな揺らすな」

 

 「自分も揺れるから止めてくれるとありがたいんだけどねぇ」

 

 

 

 

 

 

 安芸にとって、雨野 新士は他の3人と同じく大切な生徒であり、4人の勇者の中で最も不思議な存在であった。何せ前代未聞の男の勇者というだけでなく、彼は神託により名指しで選ばれた存在だからだ。

 

 本来、勇者とは適性値が高い無垢な少女から選ばれる。適性値が高ければ高いほど、神樹様から勇者として選ばれる可能性が高いからだ。そういう意味では他の3人も他の名家の人間と比べても高い数値を出しているのだが、新士はそれを遥かに凌駕する。それこそ、神樹様が勇者とすることを望んでいるのではないかと思う程に。

 

 そんな彼は、年寄り臭い雰囲気と性格のせいか同年代の男女問わずによく甘えられる。それは園子のようにスキンシップを図ることこそしないが、何かと話を聞いてもらったり一緒に遊ばないかと持ち掛けられたり。それを彼は嫌な顔1つせず、朗らかな笑みを浮かべながら相手をしているのだ。それは安芸から見ても正しく孫と祖父。特に園子と居るときはそれが顕著になる。

 

 何が言いたいかと言えば。本来ならどんどん傷だらけになっていったであろう彼女達の心を優しく包み、癒してくれるのではないか……安芸はそういう期待をしていたのだ。そして、それは今のところ的中している。

 

 だが、それは諸刃の剣でもある。彼がそういう存在になるということは、それ即ち彼女達の精神的主柱であるということ。もしも彼が……最悪お役目の最中に死にでもすれば、彼女達の精神がどうなるか想像がつかない。

 

 だから詰め込んだ。そう長くない強化合宿の実りをより多くする為に、4人の生存率が少しでも上がるように。到着して注意点やスケジュール等を話し終われば直ぐに体操着へと着替えさせてからの準備運動、体力を付ける為のランニング、ダンベル等を利用した筋トレ、それぞれが持つ武器の達人達によるマンツーマンの指導、そしてバランスの取れた食事。

 

 勿論、無茶ギリギリのラインを見極めた上でのこと。そしてその日最後の訓練。勇者服を纏い息も絶え絶えな4人と動きやすい服に着替えた安芸は運動場へと来ていた。

 

 「やることは単純。この機械からボールが発射されるから、三ノ輪さんと雨野君はそのボールを避けつつ、目標地点のバスに辿り着くこと。乃木さんと鷲尾さんはそのボールを防御、迎撃して2人をバスまでアシスト。一発でも当たれば最初からやり直し。また、この訓練はあなた達の連携を高める為のモノです。なので、ジャンプしてバスまでひとっ飛び、なんてことをするのは禁止します」

 

 【はい!】

 

 「いいですか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……それを常に意識しなさい。1人で突っ走れば、防御が間に合わなければ、迎撃を失敗すれば……そういう危機感を常に持ちなさい」

 

 ズラリと並ぶボールの発射台を背景に真剣な表情で脅すように言う安芸に、3人がゴクリと息を飲み、新士だけがスッと真剣な表情になる。脅すように、ではない。安芸は実際に脅しているのだ……“仲間が死ぬぞ”と。

 

 小学生相手に酷かもしれないが、お役目は決して遊びではないことは4人も理解している。死ぬ可能性だって、これまでの2戦で理解している。安芸が厳しく言うのも、偏に4人に死んで欲しくはないからだ。故に安芸は、疲れきっている4人相手にも一切の手加減をしない。

 

 スタートの合図と共に走る4人。大量に配置された機械から放たれるボールは新士と銀に集中する。最初は走りながら顔を反らし体を反らしで避けられたが、バスとの距離が近付くほどボールの数が増え、体を反らすだけでは限界が来たので銀は斧で、新士は裏拳やフックを駆使して防御、弾くようになり……そして、そのせいで走る速度が落ちると自分達では防御が間に合わなくなる。

 

 「ミノさん!」

 

 「新士君!」

 

 銀の前に園子が穂先を傘状に展開した槍を前にして出ることでカバーし、新士が防ぎきれないボールを須美が後ろから矢で射抜く。

 

 今、4人は必死になっている。体は休息を求め、息は上がり、正常な思考が出来ているかも怪しい。ただ必死に、己の役割を全うする。ただのボールだ、なんて考えはない。当たれば死ぬ。守れなければ死ぬ。外せば死ぬ。そうならない為に、そうさせない為に、必死に頭と体を動かす。

 

 「わっしー、アマっちの右側を撃って!」

 

 「了、解!」

 

 「須美ちゃん、ありがとう! よいっしょぉ!」

 

 「ナイス新士! これでゴール……っ、お!?」

 

 「間に合った! いっけーミノさん!」

 

 「任せろ!」

 

 新士の右から迫るボールを須美が射抜き、余裕が出来た新士が銀の死角から迫るボールを蹴り飛ばす。そしてもう少しでゴールであるバスへと届く……というところで、銀へとボールの集中砲火。その数10。万全の銀なら、その双斧を瞬時に振り回して迎撃出来る数。

 

 だが、疲れきっている今の銀では4つがやっとだった。そして、迎撃を選んだことで斧を盾にするのは間に合わない……が、ここで園子が傘状にした槍を前にカバーに入り、ボールを防ぐ。窮地を乗りきった銀は園子に言われるままにゴールであるバスに突っ込み……。

 

 何故か、思いっきり双斧でバスを切りつけた。

 

 

 

 「いやー疲れたなぁ……アイタタタ……」

 

 「本当にね……」

 

 「ミノさん大丈夫~?」

 

 「じゃない。超痛い」

 

 夜、3人娘は訓練所にある露天風呂に居た。先の訓練を初回でクリアするという安芸にとって驚きの結果をもたらした4人だったが、壊す必要のないバスを銀が壊してしまった為に称賛の言葉もそこそこに連帯責任として安芸からそれはもう鬼のように怒られ、直接的な原因である銀に至っては拳骨を喰らい大きなタンコブを作られていた。因みに、切りつけた理由は必死になりすぎたからだそうだ。

 

 『ばばんばばんばんばん……♪』

 

 「およ? これは新士の声?」

 

 「っ! これは西暦時代から存在する由緒正しきお風呂の歌……新士君、素晴らしい選曲よ!」

 

 「お~、わっしーのテンションがスゴいことに……アマっちもお歌上手いね~。ばばんばばんばんばん……♪」

 

 仕切りの向こうから聞こえる新士の歌声に隣の露天風呂に彼が居ることを覚る銀と妙にハイテンションになる須美、聞こえたフレーズを口ずさむ園子。疲れきった体に露天風呂は沁みるのだろう、訓練中の必死さはどこへやらすっかりリラックス状態の3人は再びほぅ……と心地よさから出る溜め息を吐く。

 

 「にしても……初日から訓練キツくない?」

 

 「お役目を皆で無事に終える為だもの。そう思えば辛くないわ」

 

 「分かってるけどサ。成長中の女の子にゃ色々辛いですよって……なぁ須美さんや」

 

 「なに?」

 

 「何を食べたらこんな大きな桃になるのかね!? とても同じ小学生とは思えんそれに!」

 

 「きゃああああっ!?」

 

 すすす……と須美に近付いたかと思えばキラーンと目を光らせてわっし、と背後から小学生とは思えない豊満な胸を鷲掴む銀。やってることや言ってることは完全にエロオヤジのそれであるが、女の子同士なのでセーフ。そんなじゃれ合いを見て、ニヤニヤとして表情を浮かべながら園子はふと思う。

 

 (2人共、隣にアマっちが居るって忘れてるのかな~……まあアマっちは気にしなさそうだけどね~)

 

 この後、安芸がやってきて騒ぎすぎだとまた怒られることになる。尚、彼女は着痩せするタイプであり、須美を越えるモノを持っていたという。

 

 

 

 

 

 

 「うーん……自分が一緒に居るのは問題があるんじゃないかねぇ」

 

 風呂に入り、夕食を終えて後は寝るだけとなった時間に、新士は部屋の窓際に設置されている椅子に座りながら苦笑して部屋の中を見る。そこには布団が()()()敷いてある……つまり、4人一部屋。小学生とは言えもう6年生、性の違いを意識している頃だ。新士がそう言うのも無理はないだろう。

 

 「え~? アマっちも一緒がいいよ~」

 

 「新士なら別に大丈夫っしょ」

 

 「そうね。男女七歳にして同衾せずとは言うけれど……新士君の普段の行いなら、変なことはしないと信じられるもの」

 

 「そうかい? まあ、今更部屋を変えるのもねぇ……君達が良いなら、まあいいかな」

 

 信用されているのだろうと嬉しくなり、椅子から立ち上がった新士は1つの布団の上に胡座をかいて座る。布団は頭同士を向かい合わせにしたものを2セット。新士が座ると素早くその隣を確保する園子が居た。新士の向かいには須美が、斜め向かいには銀が座り込む。ふと、新士は彼女達の格好を改めて確認してみた。

 

 「のこちゃんのパジャマは……」

 

 「えへへ、可愛いでしょ~」

 

 「うん、可愛いねぇ。ニワトリさんだねぇ」

 

 「そう、鳥さん! 私焼き鳥大好きなんよ~♪」

 

 「それだとのこちゃんが食べられる側になっちゃうねぇ」

 

 園子のパジャマは、ニワトリの見た目の所謂着ぐるみパジャマと呼ばれるモノだった。その着ぐるみパジャマを選んだ理由に思わず須美と銀が口元をヒクつかせるが、新士はほけほけと笑いながら流していた。尚、須美は浴衣で銀はTシャツにショートパンツとそれぞれの個性が出ている服装であった。そんな中、銀が意外そうに新士の服装を見る。

 

 「須美の浴衣は予想通りだけど……新士も浴衣なんだな」

 

 「家が和風で統一されていてねぇ。前は銀ちゃんみたいに、私服の一部をパジャマ代わりにしていたんだけどね?」

 

 「前? そう言えば、新士君も養子に出されたんだったわね」

 

 「そうだねぇ……もう1年近くになるねぇ」

 

 1度遠くを見た後に目を閉じてしみじみと呟く新士の姿に、銀と須美は何も言えなくなる。園子も同じように何も言えず、だが何を思ったのかコテンと横になって頭を新士の足に乗せる。彼はそれに何も言うことはなく、いつものように優しく笑いながら彼女の頭を撫でた。そんな妙な雰囲気をどうにかしたかったのだろう、銀が再び口を開く。

 

 「あー……その、新士って男にしては髪長いよな」

 

 「うん? まぁ、そうだねぇ。髪を切ってはいけないって家から言われててねぇ……髪には神様が宿ると聞くから、まあ願掛けみたいなものだと思うんだけど」

 

 「へー……」

 

 転校当時、首ほどの長さだった新士の髪は肩甲骨の辺りまで伸びている。まだ声変わりもしておらず、新士の顔は妹である樹と似ていることもあり、ともすれば女子に見えなくもない。黙っていれば、との注釈が付くが。

 

 「さて、自分のことはいいからそろそろ寝ようか。明日は5時起きだからねぇ、起きられなくても知らないよ?」

 

 「そうよ銀。ほら、早く目を閉じて寝なさい。電気消すわよ」

 

 「いやいや新士さんに須美さんや、合宿初日に直ぐに寝られると思っているのかね? ここは1つ、定番の恋バナでもしようじゃないか」

 

 「それは女子しかいない時にやるもんじゃないかねぇ……」

 

 「お~恋バナ! ミノさんは誰か好きな人いるの?」

 

 園子の頭をやんわりと退かしていそいそと布団に入る新士。須美もそれに続き、電気を消して同じように布団に入る……が、銀は布団に入るものの眠る気配はなく、園子も同じく布団に入り、銀の話に乗る。そんな2人に新士は苦笑いし、須美は呆れたように溜め息を吐く。

 

 園子に聞かれた銀は少しの間うーんと唸りつつ考える。好きな人、というか好きな男子。改めて考えると勇者としてのお役目のこともあり、そういう意識をすることはなかった。そもそも、よく付き合う男なぞ家族を除けば新士くらい。では新士のことは好きか? と聞かれれば、まあ好きと答えるだろう。勿論、友達としてだが。

 

 「居ない!」

 

 銀はキメ顔でそう言った。知ってたと須美はまた呆れ、新士もまあこの位の年の子ならそうだろう……と納得する。それに彼にとって銀は花より団子というイメージが強かった。それはそれで失礼な話かもしれないが。

 

 「須美はどうよ?」

 

 「私も居ない……うん、居ないわ」

 

 一瞬自分を守る新士の姿が浮かんだものの、須美は首を振ってそう答える。そもそも、須美には恋というのがよく分からないし、今は大事なお役目の最中なのだ、そんな浮わついたことは二の次三の次にするべきだろう。

 

 真面目な須美はそう考えつつも、どうにもあの背中が……自身の恐怖心を理解してくれて、時に背中を推し、手を引くような言葉をくれる朗らかな笑顔が頭から離れない。顔が熱くなってきていることを自覚しつつ、電気を消していて良かったと銀から背を向ける。

 

 「むぅ……新士は?」

 

 「すー……」

 

 「早っ。お爺ちゃんか」

 

 須美の答えにつまらなそうにしつつ銀が新士に問い掛けると、いつのまにやら気持ち良さそうに眠る新士の姿があった。彼が最後に言葉を発してから1分経ったか否か位の早さである。そんな彼に銀が驚いていると、園子がニコニコとしながら口を開いた。

 

 「私はね~、ちゃんと居るよ~」

 

 「えっ? マジ?」

 

 「そのっち本当? 誰? どこの人?」

 

 「アマっちと~、わっしーと~、ミノさん♪」

 

 「「……そうだと思ったわ」」

 

 

 

 

 

 

 恋バナから数十分後、全員が寝静まった辺りでパチリと園子は目を開いた。すっかり暗闇に慣れた目は窓から入る月明かりもあり、部屋の内装を確認出来るようにはなっている。彼女はごろりと寝返りを打ち、体を新士の方へと向けた。相変わらずすやすやと気持ち良さそうに眠る新士に、園子は少し体を近付け、その横顔を見つめる。

 

 先の言葉、3人が好きだと言うのに嘘はない。幼少の頃より普通の子供とは違う行動や言動から不思議な子と扱われ、親からも友人が出来にくいのではないかと心配され、実際そうなっていた園子からすればようやく出来た友達なのだ、嫌いな訳がない。むしろ大好きだと胸を張って言えるだろう。だが……正確という訳でもない。

 

 (3人共大好きなんだよ~。だけど……)

 

 いつの間にか、園子は新士の布団へと入り込んでいた。須美が見ればはしたないとでも言って元の布団へと戻すのだろうが、鬼の居ぬ間になんとやら。彼女の邪魔をする者はいなかった。

 

 園子は、今自分が新士に対して抱いている感情が“そう”なのかは分からない。“そう”だと言うには、彼女はまだまだ経験が足りず心身共に幼い。だが、少なくとも新士以外にそんな気持ちにはならないのも確かだった。それを明確に自覚したのは、訓練所に着いて直ぐ、安芸に4人の中で隊長を決めると言われた時のこと。

 

 『一応、4人の中から便宜的に隊長となる人間を決めておく必要があるのだけれど……乃木さん、頼めるかしら?』

 

 園子は、隊長をするなら須美、もしくは新士になると思っていた。銀は自分以外なら問題ないという顔をしていたし、須美も意外そうな顔をしていた。ただ新士だけが、納得したような表情をしていたのを園子はよく覚えている。

 

 『えっと……私はいいんですけど~……』

 

 『のこちゃんなら納得ですねぇ』

 

 『えっ?』

 

 『新士君?』

 

 『自分は銀ちゃんと同じ前衛だから指示とか出してる暇はないし、須美ちゃんは……失礼な話だけど、真面目過ぎてちょっと難しく考えるきらいがあるからねぇ』

 

 自覚はあるのか、胸を抑えてぐふっと息を吐く須美。園子は須美が新士の言葉に串刺しにされ血を吐いた姿を幻視した。なんだったら魂が口から出ていたかもしれない。この時、須美は憎からず思っている相手から遠回しに頭が硬いと言われて多大な精神的ダメージを負っていたが、それを知るのは本人のみである。

 

 『のこちゃんは柔軟な発想力を持ってるし、周りをよく見てる。状況を判断して打開策を見つける能力は自分達の中でもトップだろうねぇ……という訳で、自分は賛成するよ。のこちゃんの判断なら、自分は全面的に信じられるからねぇ』

 

 「……にへへ~」

 

 心からの信頼を向けられることの嬉しさを思い出し、つい頬が緩む。この後ダメージから復帰した須美、成り行きを見守っていた銀からも“まあ確かに”と納得と共に受け入れられた。その信頼が重い、応えられなかった時が怖いという思いはある。だがそれ以上に、応えてみせるという気概が生まれた。もう1人にならない為に、ずっと一緒に居る為に、全力でその信頼に報いるのだと。

 

 「アマっち……大好きなんよ……」

 

 

 

 翌日、そのまま眠ってしまっていた園子の姿を見た須美が彼女に朝からお説教をする姿が見られるのだった。




原作との相違点

・銀が遅刻しない

・ボール避けでノーミスクリア

・他色々



ちょっと詰め込みすぎてしまいました(2回目)。実のところ、書きたかったのは主人公が銀のトラブル体質を体験、ボール避け訓練、園子様の心情でした。こういう百合風味の作品では原作キャラ×オリ主は賛否両論別れるところですが、私は好きだったりします。雑食なので←

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