咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

70 / 142
とうとう1週間以上空いてしまったなぁ……だがエタらんぞ。私をエタらせたければ、今の仕事量の倍は持ってこい。という訳で長らくお待たせして申し訳ありません(´ω`)

ゆゆゆいでわすゆピックアップ引いたら花言葉銀ちゃんが来てくれました。園子(小)、弥勒さんの花言葉が来てくれたら全部揃います。

dffooではチケット単発でプロンプトのEX武器が来てくれました。個人的に好きなタイプのキャラなので完全体目指します。

fgoは幕間増えましたね。エルキドゥの宝具火力かなり上がって人類の脅威特攻も付いたので満足。

さて……今回は説明とか回です。スッ(胃薬&愉悦セット(麻婆豆腐とワイン)


咲き誇る花達に幸福を ー 13 ー

 「ただの夢……って訳じゃないのよね?」

 

 「恐らくは。小学生の時にも同じようなことがあって、その夢は現実になり掛けました」

 

 美森が夢を見た同日、部活の時間に部室に集まった勇者部の8人は当人である美森から夢の内容を教えられていた。話を聞いた7人の中で風がそう聞いてくるが、美森は“恐らくは”と言いつつも確信しているようにそう続ける。

 

 夢の話を聞いた時、先代組以外の4人は半信半疑……というよりも、話の内容が唐突かつ夢が現実になる所謂“予知夢”のようなモノだと言われて処理しきれないで居た。勿論、美森が意味もなく嘘を言うような人間ではないとは分かっているが……予知夢を見ましたと告げられて信じられる人間がどれ程居るだろうか。

 

 「その、東郷先輩。小学生の時にも見たって……その時はどんな夢だったんですか?」

 

 「それは……」

 

 「自分が死ぬ夢だよ」

 

 【っ!?】

 

 樹に問われ、美森は言葉に詰まる。あの時に見た夢は、それはそれは凄惨なモノだった。今でもはっきりと思い出せるその夢を思う度に、園子と銀にも伝えていれば、夢の内容を勘違いしていなければと後悔が募る。

 

 そうして彼女と、夢の内容を後から聞かされた2人が言い澱んで居た時、楓がサラッと言ってのけた。あまりにあっさり言うものだから言い澱んでいた3人も、聞かされた4人も絶句する。そんな彼女達を見て楓は思わず苦笑いを浮かべ、ひらひらと見せ付けるように右腕を振る。

 

 「ほら、この右腕が無かった時、3体のバーテックスが攻めてきたことがあっただろう? その3体が出てきた戦いの時、自分は死にかけたって話をしたじゃないか」

 

 「……確かに、してたけど……」

 

 「初めて聞かされた時はびっくりしたよね……」

 

 「それって確か……総力戦の後の病院で話してた奴ですか?」

 

 「神樹様にあって満開とか散華とか聞いたって言ってた時に、そんな話をしてたような……」

 

 

 「そうだったっけ。まあ、その戦いの最後の辺りの状況が美森ちゃんが見た夢の内容とほぼ一致しててねぇ……銀ちゃんが間に合ってくれなかったら夢の通りだっただろうねぇ」

 

 「本当にギリギリだったけどな……今思い出しても、間に合わなかったらって思うとゾッとするぞ……」

 

 そういえばそんな話をされたことがあったと思い返す姉妹と友奈と夏凜、当時の事を思い返す先代組3人の表情が暗くなる。銀に至ってはもし間に合わなかったら……と最も間近でその現場を見た人間として当時の恐怖が甦って体が少し震える。

 

 「……東郷が見た夢がただの夢じゃないってのは分かったわ。でも、それが何を意味してんのかしら」

 

 「真っ白な勇者服……は、流石に楓のことだよな? 実は白いペンキを被った誰かとかじゃないよな?」

 

 「樹海にペンキなんかある訳ないでしょうよ……」

 

 「じゃあ太陽は……そのまま太陽? でも12個って……」

 

 「その太陽を背負った人影っていうのも気になりますね……」

 

 「……太陽……もしかしたら、天の神のことかも」

 

 美森が見た夢のことは真剣に考えなくてはならない。そう意識を改め、8人は内容の事を考える。とは言うものの、実際に見た美森以外は言葉の羅列から想像するしかない。

 

 風が顎に手を当てながら疑問を口にすると銀が続く。かつて“赤黒く染まった勇者服”という部分を“赤い勇者服”と勘違いしていたと聞かされたこともあり、今度も勘違いしているのではないかと思い至ったからだ。それを口にすると夏凜に呆れられたのだが。

 

 次に疑問を口にしたのは友奈。その頭の中では太陽の周りに更に12個の太陽がぐるぐると回っている図が浮かんでおり、元より考える事が然程得意でもないので考えが纏まらずにうんうん唸る。樹も顎に人差し指を当てて天井を見上げながら考えるが、特に何か思い付けずに居た。そんな時に園子がポツリと呟き、7人の視線が彼女に集中する。

 

 「何か思い当たることでもあるのかい? のこちゃん」

 

 「カエっちが最初に養子になってた家、覚えてる?」

 

 「……ああ、勿論。忘れられる訳がないさ」

 

 園子に聞いた楓が逆に聞かれ、思いっきり顔をしかめる。その理由を知る先代組の3人は痛ましげに彼を見、理由がわからない4人は珍しい楓の表情に少々びっくりしていた。

 

 楓が最初に養子として入っていた雨野家。養父が死亡したことで純粋な血縁が居なくなり、大赦の名家からもその名を消し、歴史も幕を閉じている。楓としても早く記憶から消し去りたいのだが、その凶行のせいで逆に忘れられずにいる。

 

 「あの家に、太陽に向かって頭を下げてる人達が描かれた絵があったんだ。あの人は天の神の信者だったんだよね? だから……」

 

 「その絵に描かれた太陽は天の神を意味している。だから美森ちゃんが見た夢の太陽も……ってことだね?」

 

 「うん……多分ね~」

 

 「じゃあ12個の太陽ってのはなんなのよ? まさか天の神が12体も居る訳じゃないでしょ」

 

 「……バーテックスじゃないの? あいつらは星座の名前だし、星座は12種類だし」

 

 「それってつまり……天の神とバーテックスが同時に……」

 

 「……また、戦いになるってことかねぇ」

 

 園子と楓の会話を聞き、なるほどと納得する6人。実際に養父のこと、彼の凶行を聞いている先代組は納得以上に当時の出来事を思い出して沸々と怒りが込み上げてくる。それは楓も同じであったが意識を切り替え、話し合いを続ける。

 

 美森が見た太陽のことが天の神だとして、ならば周囲にあるという12個の太陽はなんなのかと口にする風に、しばし考えた夏凜がそう呟く。実際にバーテックスの呼称を考えたのは大赦なのだが、夢との関連性はあるように思える。その呟きを聞いた樹が恐る恐る口にすれば、楓が苦い顔をしながらそう漏らした。

 

 部室に沈黙が訪れる。自分達の戦いはまだ終わらないかもしれず、更に今度は天の神と直接戦うことになる可能性が出てきた。夢を見てそれを伝えた美森を恨む気持ち等は一切無いが、また戦わされるのかとそう思うのは仕方ないだろう。

 

 「……対処法、ある? これ」

 

 「無いよねぇ。そもそもどうして天の神が今更攻めてくるのかもわからないし……攻めてきたら夢の通りに自分達が迎え撃つしかない」

 

 「逆にあたし達が結界の外に居る天の神に戦いを挑むっていうのは……」

 

 「バカね、あんな火の海の上でどうやって戦うのよ。楓さん以外は満開くらいしか飛行手段無いのよ? そもそも結界の外のどこに居るかもわからないってのに」

 

 「楓くんも結界から出られないし……」

 

 「それに、天の神ってどんな姿をしてるんですか?」

 

 「それは……太陽みたいな姿なんじゃ?」

 

 「抽象的過ぎるわ」

 

 話し合いは続くが、解決策や対処法が思い付くことはなかった。そもそも夢の内容は太陽を背負った人影に美森達が向かっていく、というモノだ。人の生死や戦闘内容のようなモノは無く、原因も不明。何をどうすれば解決するのか、どう対処したらいいのか等分かるハズがない。

 

 じゃあ攻めてくる前に向かうのはどうかと銀が言ってみるが、夏凜からは呆れ混じりに返され、友奈は以前に結界から出られない為に美森を助けに行けずに嘆いていた楓を思い出しながら呟き、樹は天の神を見たことがないので首を傾げる。そう言われてみれば銀もその姿を見たことがないので夢のまんま口にし、風にざっくりと切り捨てられる。

 

 銀や樹だけでなく、勇者部の面々は天の神の姿を見たことがなかった。美森とて生贄になったとは言え結界の外に出てその身を火の海にへと投げ出してから助け出されるまでの記憶は無い。そんな中で、もしかしたら……そう思う者が2人。無論、楓と友奈の2人である。

 

 楓はかつて結界の外で、バーテックスとは別に大きな鏡のようなモノを見ており、その鏡に見られていると感じたことがある。その視線と同様のモノをここしばらく感じていることもあり、その鏡こそが天の神ではないかと半ば確信していた。

 

 友奈もそこまで確信している訳ではないが、美森を助け出す為にかつて自身も捕らわれていた空間で美森を火炙りにしていた鏡のようなモノを目撃している。その鏡が天の神に関するモノかもしれない……胸に刻まれた模様のこともあり、そう予測するのは当然のことだろう。尤も、その模様は殆ど見えない位に薄くなっているのだが。

 

 (さて、これは言っても大丈夫なのか……?)

 

 それを2人が言わない……言えないのは、やはり天の神が刻んだ模様のせいだ。友奈の目には部員達に模様が見えていないし、模様の存在は知らないが友奈の様子を見ている楓はそこから言っていいか悪いかのラインを把握している。ここまでの会話は大丈夫だったが、天の神の姿を知らせるのはどうか。

 

 何よりも、今も楓は感じているのだ……その天の神のモノと思わしき視線を。故に口を開くことを躊躇ってしまう。

 

 結局、友奈も楓もそれを口にすることは無かった。夢についての話し合いもそれ以上進むことはなく、依頼もあったので一旦話を終えてそれぞれ依頼へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 (天の神が……来るかもしれない)

 

 東郷さんが見た夢。その夢の内容を部室で皆で話し合っていた時、私は少しだけ安心した。だって、天の神のことかもしれない話をしてても、皆に模様は見えなかったから。でも、安心したのは少しだけで……天の神が攻めてくるのは私のせいかもって思って怖くなった。

 

 この模様のせいで、もしくは私が東郷さんから生贄のお役目を代わったせいで……また皆が戦うのは私のせいでって、そう思ったから。

 

 (人影も……ひょっとしたら、私かも知れない)

 

 話に出た太陽を背負った人影。それはもしかしたら、私かも知れない。薄くなっていると言ってもまだ模様はあるから、あの場所で見た東郷さんみたいに鏡に引き込まれているみたいな形で。もしそうなら、私はどこかで天の神と会ってしまうのかな。また、皆と離れ離れになっちゃうのかな。

 

 (それは……イヤだなぁ)

 

 あの空間に居た時、誰も居なくて寂しかった。どこまでも広がる空間はどこまで行っても出口なんて見付からなくて、出られなくて。どれくらい時間が経っているかも分からなくて、眠くなったりお腹が空いたりもしなくて。だからずーっと蹲って、耐えるしかなかった。

 

 だから意識が朦朧としていた時に東郷さんの声が聞こえて、楓くんが助け出してくれた時……本当に嬉しかったんた。大切で大事な友達と……大切で大事な人が私を助けてくれたから。心も体も救ってくれたから。

 

 もし、私のせいで皆がまた戦うことになったら……また、危険な目に遭ったら。そう思ったら怖くて仕方なくなって……まだうっすらと模様がある左胸の部分の服を掴んで泣きそうになる。

 

 「友奈」

 

 「……えっ? あ、な、なに? 楓くん」

 

 「なんだか泣きそうになってたからねぇ。大丈夫かい?」

 

 「あ……だ、大丈夫だよ! 私は、大丈夫だから」

 

 不意に名前を呼ばれて、遅れて顔を上げると楓くんが心配そうな顔をして私の顔を覗き込んでた。その顔のまま私に大丈夫かと聞いてきたから、私は無理やり笑って両手を曲げて元気だよってアピールする。すると楓くんは仕方ないなぁって苦笑いして……私の隣を歩いてくれる。

 

 今は私と楓くんの2人で外の依頼を終えて部室に戻る最中で、学校に続く登り道を歩いてた。2人きりの依頼は久しぶりだなぁ……と思いながら、隣を歩く楓くんの横顔を見る。私より背が高いから、少し見上げる形になるけど。

 

 あのクリスマスイブの日からよく一緒に居てくれる楓くん。私がまた辛くなってきた時、見てるだけで幸せになれる……私の大好きな、朗らかな笑顔を見せてくれる。その笑顔が、ちゃんと私を見てくれてるって思えて……頑張ろうって、模様なんかに負けないって思わせてくれた。

 

 「ありがとう、楓くん」

 

 「ん? 急にどうしたんだい?」

 

 「えへへ……急に言いたくなったんだー」

 

 「そっか……どういたしまして、友奈」

 

 そう思ってたらお礼を言いたくなって、だからありがとうって言ったら、楓くんはそう聞き返してきて……ちょっぴり照れ臭くて頬を掻きながら笑って言うと、また楓くんは笑ってくれた。

 

 そんなやり取りが凄く嬉しくて、とっても幸福(しあわせ)で。ずっと、ずーっとこうして居たいなって思った。ずっと楓くんの隣で、楓くんと一緒にこうやって笑いあって。勿論皆も一緒に居て。

 

 「ねえ、楓くん。手、繋いでもいいかな?」

 

 「うん? それくらい構わないよ」

 

 「やった♪」

 

 そんな幸せな未来を想像して浮かれた気持ちになって、その気持ちのまま聞いたら楓くんは手を差し出してくれたから……私は、その手を握った。

 

 

 

 

 

 

 それが……間違いだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 ― ツ カ マ エ タ ―

 

 

 

 

 

 

 「……えっ?」

 

 「友奈? どうしたんだい?」

 

 「あ……あ、ああ……っ!?」

 

 手を繋いだ、まさにその瞬間だった。友奈の表情と声が一瞬の驚愕、そして恐怖と変わっていく。彼女の目には見えてしまっていた……今まで楓にだけは見えなかったハズの、あの赤黒く毒々しい模様が。それも以前他の皆に見えた小さなモノではない。

 

 楓に見えた模様……それは()()に余すことなく広がってしまっていた。あまりに唐突に見えたその光景は友奈を恐怖のどん底へと落とすには充分に過ぎた。

 

 「……友奈? 君には何が見えている?」

 

 「楓、くん……嘘だ……だって、今まで……」

 

 「友奈! 落ち着いて、自分の話を」

 

 手を離し、ガクガクと震えながら頭を抱えて1歩2歩と楓から離れる友奈。余りにおかしい彼女の様子から何か起きている、何か友奈にしか見えないモノが見えているのだと察する楓。何とか友奈を落ち着かせようとした時、楓もまた友奈の後ろに見てしまった。

 

 彼女の後ろの空間が縦に裂け、その中の空間は結界の外のように真っ赤に染まっている。それは以前の戦いの時にレオが起こした行動によく似ており……その向こうに、周囲に12個の小さな鏡を備えた大きな鏡が見えた。そして、その小さな鏡の1つが一瞬発光し……。

 

 

 

 「友奈ああああああああっ!!」

 

 

 

 「え……?」

 

 楓が必死な形相と声で叫びながら、友奈に飛び付くようにして押し倒す。そうして倒された友奈が見たのは……以前にも見たことがある、縦に裂けた赤い空間とそこから飛び出している大量の光の針。自分達の前に現れた牛鬼と夜刀神。そしてその光の針が砕いた、今まで歩いていた道の破片が自分達に向かってくる所。

 

 そして……ガラスが割れたような音を聞いた気がして。白と桃色の花びらが宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 「あ……う……?」

 

 友奈が気付いた時、まだ辺りには道が壊された時に発生した土埃が舞っていた。そして体に重みを感じ、仰向けに倒れている自身の体を見下ろすと……そこには、友奈に覆い被さるように倒れている楓の姿。

 

 そして、その体から出ている白い糸のようなモノ。その糸の先を目で追っていくと……空中に、真っ白な魂の状態の楓。その魂の状態の楓が、彼の()()()()()()()赤黒く毒々しい紐のようなナニカに、気を失っているかのように脱力した状態で縛られていて……真っ赤な空間の中から、友奈も見たことがある赤いハサミのようなモノが出ていた。

 

 「……や……めて」

 

 強烈に嫌な予感を感じる友奈。もう楓に2度と会えなくなるような、取り返しのつかないことになるような、そんな予感。だが、楓の重みと背中や後頭部が酷く痛み、上手く体が動かせない。

 

 そうしている間にも事態は動き続ける。楓の魂は真っ赤な空間に引き寄せられ……空間から出ていたハサミが、魂と体を繋ぐ糸のようなモノへと伸びていく。

 

 「やめ、て……っ!」

 

 あの空間に連れていかれたら駄目だ。あのハサミに糸を切られてもいけない。そんな焦燥感を感じながら、友奈は必死になって体を動かし、ポケットの中にあるスマホを何とか取り出し、勇者へと変身しようとして。

 

 

 

 破片にでもぶつかったのかスマホが酷く損傷しており、画面には何も映っていないことに遅れて気付いた。

 

 

 

 「あ……」

 

 友奈の口から、絶望に染まった声が漏れた。

 

 「ああ……!」

 

 そんな彼女の前で、余りにもあっさりと赤いハサミが体と魂を繋ぐ糸を断ち切った。

 

 「やだ……ダメっ……やめて!! 連れていかないで!!」

 

 泣きながら懇願し、楓の魂へと手を伸ばす友奈の目の前で……彼は真っ赤な空間の中へと姿を消した。同時に、その空間も消える。後に残されたのは砕かれた道と楓の体、虚空へと手を伸ばしたまま涙を流す友奈。

 

 余りにも唐突に、いろんな事が起こった。その全てを友奈は受け止めきれずにいて、ただ絶望だけを感じていた。やがて伸ばしていた手は力無く下がり、俯いた先に彼の体が見えた。

 

 「楓、くん……楓……くん……かえで……く……」

 

 何も出来なかった。楓の体に見えた模様に狼狽えて背後に現れた真っ赤な空間に気付けず、そこから放たれた攻撃から彼に守られた。楓の名前を呟きながら、友奈は起きた出来事を1つ1つ再認識していった。

 

 そうする度にまた絶望して、涙して、段々と声も途切れ途切れになって。どうしたらいいかも分からず、その場に座って俯せのまま身動き1つしない楓の頭へと手を伸ばして……その手に、ぬるりとした感触があった。

 

 疑問に思い、友奈はその手を自分の目の前まで持ってくる。その手は、楓の血で赤く染まっていて……そして、友奈の許容量を越えた。

 

 

 

 「うぁ……あ……あ゛……! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」

 

 

 

 その手の血で己の顔を染め上げながら……頭を抱える友奈の悲痛な叫びが、空しく響いた。

 

 

 

 

 

 

 ― ……やられた……あれは祟りでも呪いでもなかった……ただの、()()だったんだ ―

 

 真っ白な空間の中で、友奈と同じように座り込みながら神樹はポツリと呟いた。ようやく気付いた友奈に刻まれた模様の正体……それは、余りにも遅かったのだが。

 

 神樹が言った通り、友奈に刻まれたのは祟りでも呪いでもなく、目印であった。それは文字通りに“目”であり、“印”である。天の神はその目印を友奈に刻むことで、彼女を通して結界の中を見ていた。そして、結界の中に居る友奈の位置を正確に把握していたのだ。

 

 祟りでも呪いでもないとは言え、その力は紛れもなく神の力。その力は人間が宿すには余りにも強い。友奈の体の不調や仲間達に起きた不幸は、謂わばその力の余波。友奈が模様のことを口にすると目印の力が言葉に乗って相手に向かって飛び、それが不幸という形で悪影響を及ぼしたのだ。

 

 楓が感じていた視線は、予想通り天の神のモノ。天の神はずっと、友奈を通して楓を見ていた。そして彼が友奈と接触する度に、目印のもう1つの機能が作動する。

 

 それが、楓へと目印の天の神の力が流れるという機能。友奈の模様が徐々に薄くなっていったのは彼に力が流れ込んで行ったからであり……神樹が気付けなかったのはその流れ込む力が微量であり、皮肉にも楓の高次元の魂の存在感によって力の移動が隠されてしまっていたからであった。

 

 そうして彼の中に溜まっていった力は、両方の神の力によって再構成された彼の体にある神の力のバランスを崩した。起きるハズの無い目眩が再び起きるようになったのはこのせいだ。楓の魂が捕らわれた時に神樹が気付くのが遅れたのも無理はない。何しろその力の発生源は彼の中にあったのだから。

 

 友奈に刻まれた目印が楓へと移っていったことで、天の神は直接接触することなく彼の所在を把握し、友奈を通して彼の姿を見続け……そして今回、友奈が手を繋いだその瞬間に全ての力が彼へと移った。故に行動を起こしたのだ。

 

 結界の外から目印を媒体にして力を送り込み、外に居る己の前に空間を繋ぐ。そうすることで神樹の結界に阻まれなかった。そして、まずは用無しになった友奈を排除しに掛かる。それは楓に邪魔されてしまったが、結果的に彼の体は瀕死の重症を負い、魂が飛び出てしまった。天の神はそのまま目標を元々の目的である彼の魂へと変更し、以前のように内側から縛り上げて繋いだ空間から己の元へと引っ張った。

 

 勿論、かなり遅れたものの神樹は今回のことに気付いた。以前と同じように力をぶつけ、対処しようとした。だが、今回は以前と違って天の神が直接出向いていた為……まだまだ開いていた力の差を覆すことが出来なかったのだ。

 

 天の神が赤いハサミで魂と体を繋ぐ糸を断ち切ったのは、そうしなければ糸が邪魔で空間を閉じられないからだ。だが、その糸は……。

 

 

 

 ― それに、体と魂を繋ぐ糸が切られた……これじゃあ、あの人の魂を取り戻したとしても……体に()()()()……っ ―

 

 

 

 絶望に絶望を重ねたような状況に……神樹は泣き崩れた。




原作との相違点

・全部だ(ざっくり



という訳で、勇者の章(オリジナル)という名の友奈いじめのお話でした。前にいじめるって言ったじゃないですか←

オリジナル展開過多なので、ここからも人を選ぶかもしれませんね。まあ事前に独自解釈とかストーリー改変とか書いてますので、皆様は覚悟していると思いますけれども。

友奈に刻まれていたのは原作のような祟りはなく、単なる目印でした。私、1度も模様のことを祟りだと言ってませんよ? 模様とは言い続けましたがね←

皆様、かなり前に私が“ハガレン的精神散華ルート”と挙げたことを覚えてますかね? もしこのルートだった場合、今回のように楓の糸が消失して魂の状態でゆゆゆを過ごすことになりました。その際は友奈の元に現れ、ヒカ碁の佐為とヒカルのような間柄になってる予定でした。

さて、勇者の章(オリジナル)もクライマックスが近くなってきました。それはつまり、本作本編も終わりに近付いてきたということです。本編終了前にはDEifも終わらせる予定です。本編終了後には……リクエストの中にある、あのえげつないのも書くかも?

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。