咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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もはや1週間投稿がデフォルトに……どうにかしなければ。という訳でお待たせしました(´ω`)

前回も感想20件以上、ありがとうございます。返信が少し大変とは思いますがそれは嬉しい悲鳴。感想は作者の動力源です、どんどん下さい(感想乞食

いつの間にかお気に入りが1500件突破。誠にありがとうございます。これからも本作を宜しくお願いします。

fgoは念願のボックスガチャが来ましたね。王様は来てくれませんでしたが← さて、何箱開けられるかな。せめて30~50は開けたいところ(低い目標

さて、今回もまた説明回。そして私のバトルフェイズはまだ終了しちゃいねぇぜ……!

あ、後書きにアンケートがあります_(:3」∠)_


咲き誇る花達に幸福を ー 15 ー

 四国が滅びる。友華が発した言葉によって、病室の中は痛いほどの静寂に包まれていた。だがそれは、友華の言葉を信じていないからではない。むしろ、信じている。普通なら何をバカなと笑い飛ばすだろうが、それが出来ない程に友華の目は真剣で声も力強い。そして勇者部は、滅びが決して遠い場所にある出来事ではないと知っている。

 

 「四国が滅びるって……友華さん、それってやっぱり、天の神の力が増してるってこと?」

 

 「その通りよ、園子ちゃん……ちょっとそのノートを見せてくれる?」

 

 「あ、はい」

 

 園子の疑問に友華は真剣な表情のまま答え、風が持ってきた楓のノートを要求すると樹が直ぐに手渡す。友華は渡されたノートを手に取り、黙読。少しして樹に返した。

 

 「楓君の魂は今、天の神の元にあり……体は脱け殻の状態。その状態とノートの内容を照らし合わせると、やはり私達大赦が出した結論は正しいのでしょう。四国の滅びは、そう遠くない内に訪れます」

 

 「……友華さん。楓君の魂が天の神の力を強めるというのは、本当なんですか?」

 

 「状況から考えても、事実です。2日前から神樹様の力や寿命が延びなくなり、逆に結界の外の炎の勢い……天の神の力が強くなっている事を確認しています」

 

 「神樹様の力と寿命? どういうことですか?」

 

 「そうね……教えた方が良いでしょう。これは大赦の中でも私と同じような立場……自分で言うのも何ですが、偉い立場の人間等一部の者だけが知っていることです」

 

 神樹。地の神の集合体であるその存在は元号がまだ西暦だった頃から人類に力を貸してくれている。それは神世紀になり、約300年経った今でもそれは変わらない。

 

 そう、神樹は四国に残る人類に力を貸してくれている。それは結界であり、土地や海等に栄養なり鉱物なりを与えてくれる“恵み”であり、その他人間が生きていく為に必要なモノ、ライフラインのような細かなモノまでの全てを指す。勿論勇者に送る力もそうであり、それを300年、休み無く。

 

 「神と言えど、その力は決して無限ではないのでしょう。神樹様の力は私達人類の為に消費され続け、回復することもなく減る一方の力は神樹様の寿命を削り続け、このままでは神世紀300年前後で寿命を迎えるハズでした」

 

 「ハズでした……ということは、今は違うんですか?」

 

 「ええ。今からおよそ15年前……神世紀286年。その年から、神樹様の力が回復……それどころかどんどん増えていったのです。力も、寿命も 」

 

 「286年って……」

 

 「わたし達2年生が産まれた年だね~」

 

 ある日突然、何の前触れもなく上昇していく力。それを知った大赦は勿論その原因の解明に挑んだ。その原因が分かれば神樹の力をより早く上昇させ、いずれは人類の悲願でもある天の神の打倒を、人類の未来を取り戻すことが出来るかもしれないと。

 

 しかし、数年経っても原因は不明のまま。どうしたものかと悩んでいた時、神樹からの神託で当代の勇者が選ばれた。それが美森(すみ)、園子、銀、そして楓。神樹の力が上昇し始めた年に産まれた者達が勇者に選ばれたことから、大赦がその4人の内の誰か、或いは同じ年に産まれた子供達の誰かがその原因ではないかと当りを付けた。

 

 「4人だけじゃなくて、他の子供達もですか?」

 

 「ええ。貴女達と同じ年代の子達が、他の年代の子達の平均よりも高い適性値を誇っていたのも理由ね。中でも4人と、それから結城さんはトップクラスの適性値を誇っているから」

 

 とは言うものの、大赦は当りをつけるのが精一杯だった。その後も調査こそ続けていたが、結局特定するには至らなかった。可能性が1番高かったのは唯一の男であり、神樹から名指しで勇者に選ばれた楓だったが……確信に至ることはなかった。

 

 そのまま時間は過ぎていく。美森による結界の破壊とその修復や楓の散華を戻す等で再び力を大きく消費さることこそあったが、また力は増えていった。神託によって決められていた戦いやイレギュラーな戦いを終え、このまま行けばどんどん力を取り戻し、いずれは天の神をも越えられる……そう、希望を持つことができた。

 

 「ですが、2日前の夕方にその力の上昇が止まったことが分かりました。更には少しずつ結界の外の炎の勢いも増してきていることも、調査で分かったのです」

 

 「2日前の夕方……私と楓くんが天の神に襲撃されて……楓くんの、魂が……」

 

 「友奈ちゃん……」

 

 「……楓君の魂が天の神に連れ去られた日に神樹様の力の上昇が止まり、逆に天の神の力は増した……つまりは、そういうことなのでしょう」

 

 「原因は分からないけれど、カエっちの魂は神様の力を強める。それは天の神も例外じゃないんだね……」

 

 「……つまりそれって、神樹様と天の神の力の差がどんどん開いてくってことだよな……」

 

 「楓の魂が天の神のところにある限り、そうなるんでしょうね。人の弟をよくも……!」

 

 友華の話を聞き、またその時の状況を思い出して涙する友奈。まして自身が何もできなかった結果として楓の魂は捕らわれ、そのせいで四国が滅びると言われれば……自身よりも周りを優先していしまう彼女の性格からすれば、より重く心に罪悪感や無力感等の感情がのし掛かる。美森は友奈の頭を抱き締め、ゆっくりと撫でる。

 

 そんな2人を痛ましげに見た後、友華は話を続け、園子もベッドに横たわる楓を見ながら呟く。そこまで聞いて銀は苦いを顔をし、風が吐き捨てるように言う。家族思いの風には弟が利用されているようにしか思えず、腸が煮えくり返る気持ちで居た。

 

 「あの……お兄ちゃんの魂が天の神のところにある限り力の差が開いていくのは分かりましたけど……四国が近い内に滅びるって、どれくらい近いんですか?」

 

 「そうね、その滅びまでの間に何とか楓さんの魂を取り返す為の策を練らないと」

 

 「友華さん?」

 

 控え目に手を上げて質問したのは樹。これまでの話を黙って聞いていたが、彼女が気になったのは滅びまでの期間。“近い内に”と友華は言ったが、その正確な期間は分かっているのかと。

 

 樹の質問に同意するのは夏凜。楓の魂は何がなんでも天の神から取り返さなくてはならない。その手段は今のところ思い付かないが、滅びるまでの間に何か思い付く、もしくは見付かるかもしれない。それは10年か、1年か……そして銀が問いかけると、友華は難しい顔をして一言。

 

 

 

 「大赦の計算では……最短で後3日。長くても5日でしょう」

 

 

 

 「みっ……!? 1ヶ月どころか1週間もないの!?」

 

 「そんな、短すぎるでしょ!?」

 

 風、夏凜が驚愕から声を上げる。声を出さなかった5人も信じられないといった表情を浮かべている。友奈に至っては血の気が引いて顔色が土気色になっている。

 

 滅びる日まで今日から3日、長くとも5日。余りにも短い日数だが……この日数は仕方ない部分がある。元々寿命が尽きかけていた神樹は力の総量も少なかった。そこから楓の存在によって少しずつ回復していったのだ。

 

 対して、天の神は元々人類を滅ぼす力があった。それを神樹、そして人間が奉火祭のような儀式を用いることでその滅びを先延ばしにしていたのだ。つまり、神世紀に入る前と力の大きさは変わっておらず、そのまま強まっていっている。

 

 強まった力は火の勢いが増すという形で現れており……この短い期間は、その火が結界を越えて四国を呑み込んでしまうまでの期間。以前のような、天の神が怒りで火の勢いを強めたのとは違う。自然と上がっていく力によって結界の方が耐えきれなくなるのだ。故に、生贄……奉火祭という手段は使えない。そこまで説明した後、友華は7人を見回してからまた口を開く。

 

 「大赦がこの滅びに対して、貴女達勇者に提示できるモノは3つです。1つは、黙って滅びを受け入れることです」

 

 そう言ってまた7人の顔を見回す友華。が、6人の目は“そんなことは認めない”と訴えている。目は口ほどにモノを言うとはまさにこの事。友奈だけは美森に抱き締められている為にその表情は伺えない。ただ、その小さな肩が震えているように見えた。

 

 「2つ目は“神婚”です」

 

 「しん……こん? 何ですか? それ」

 

 「文字通り、神との結婚のことを言います。神との結婚を古来神婚と呼び、神と聖なる乙女の結合によって世界の安寧を確かなものとする儀式……それが神婚。つまり、選ばれた人間が神樹様と結婚するのです」

 

 「神樹様と結婚って……突拍子もないと言うか、無茶苦茶と言うか……」

 

 「その、神婚をするとどうなるんですか?」

 

 友華は真剣な顔をしたまま語る。神婚することで新たな力を得て人は神の一族となり、永久に神樹様と共に生きられる。つまり、滅びから逃れられる。人間ではなく、神の眷属として神の中で生きられるからだ。

 

 だが、それは神婚する者以外の者達の話。神婚が成立すれば選ばれた少女の存在は神界に移行し、俗界との接触は不可能になる。簡潔に言うならば……結婚相手に選ばれた存在は死ぬ。そしてその犠牲と引き換えに他の全ての人間が生き残る。今後、天の神を恐れることもなくなる。

 

 「以上が神婚の説明になります。そして……大赦が唯一見付けることが出来た、確実に人類が生き残る方法です」

 

 「……そんな方法、認められる訳がないでしょう!? 前は東郷を生贄にして、今度は誰を犠牲にするってのよ!? それに、楓はどうするのよ!!」

 

 「待ってお姉ちゃん! まだそれをするって決まった訳じゃないから……!」

 

 「友華さん、最後の1つは……?」

 

 「最後の1つは、他の2つに比べて確実性なんてモノはありません。いえ、むしろ選択肢として提示するのも憚られる程です。大赦の人間も真っ先に選択肢から……意識から外したくらいですから」

 

 「それは、どんな……?」

 

 神婚の説明を聞き、風が怒りを露にする。風だけではなく、他の5人もそうだ。だが、友奈だけは相変わらず表情は分からず……ただ、“神婚”と一言だけ呟く。それが聞こえた美森は、嫌な予感を感じた。

 

 思わず友華に向かおうとした風を樹が抑え、問い掛ける。友華は真剣な表情から苦々しげな表情へと変わり、そう言って首を横に振るう。そんな彼女へと美森が再度問い掛け……。

 

 

 

 「天の神を打ち倒すことです」

 

 

 

 言うは易し、行うは難しとはまさにこの事。生き残る方法の1つとして、300年もの間成し得なかったことをやらねばならない。確かに選択肢の1つではあるが、これを選択肢として提示するのは無理があるだろう。何せ、出来るかどうかと言われれば、誰もが“出来ない”と答えるだろうからだ。

 

 だが……座して滅びを待つのも、神婚による1人の犠牲を受け入れることもしないと言うのなら……それしか方法はない。例え天の神の居場所が分からなくとも。例え倒す方法が分からなくとも。例え、勝機が限りなくゼロに近くとも。人類の未来を勝ち取るためには……そうしなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 私は、ずっと東郷さんに抱き締められながら友華って人の話を聞いていた。後3日……長くても5日で四国が滅ぶ。皆……皆死んじゃう。私が何もできなかったから、私が守られてしまったから。なんで私はあの時……そんな後悔ばっかりしてる。楓くんじゃなくて……私が連れ去られれば良かったのに。私が変わりに、天の神に捕まれば良かったのに。

 

 滅びを受け入れるなんてしたくない。四国を守る為にずっとバーテックスと戦ってきたんだ。悲しいことも、辛いことも沢山あったけど、全部皆で乗り越えてきたんだ。だから……それだけは絶対にしたくない。

 

 次に友華さんが言ったのは“神婚”……話は、正直よくわかんなかった。だけど……その、神婚をすれば……神婚した人が死んじゃう代わりに、皆が助かるんだってことはわかった。だからかな……その神婚って単語が、ずっと耳に残ったんだ。

 

 最後が、天の神を倒すこと。友華さんは選択肢とは言えないみたいなことを言ってたけど、きっと皆はそれしかないって思ってる。私だって、そう思ってる。天の神から楓くんを取り返すんだ。絶対、四国を滅ぼさせたりするもんか。だって私達は勇者だから。勇者は……ううん、私は絶対……諦めたりしないんだから。

 

 (そうだよ……諦めるもんか。私のせいで楓くんが連れ去られたなら、私が絶対に助けるんだ。私を助けてくれた楓くんを、今度は私が助けるんだ!)

 

 泣いてばっかりじゃ居られない。落ち込んでいたってどうにもならない。そうだよ、あの時の戦いだって私は落ち込んで、泣いて……だけど夏凜ちゃんが、楓くんが居たから立ち上がれたんだ。泣いてたってどうにもならない。だって楓くんは、この四国は私にとって大事で、大切だから。

 

 涙が止まる。体の震えも止まる。天の神なんかに負けるもんか。なるべく諦めない。成せば大抵なんとかなる。皆が居れば、きっとどうにかなる。そう思うと心に火がついたみたいに熱くなって、絶対に助けるんだって東郷さんの胸に埋めてた顔を上げて。

 

 

 

 「ただ……結城さんはその戦いには参加出来ないでしょう」

 

 

 

 熱くなった心が、一気に冷めていく。それだけじゃなくて、全身が冷たくなったような気さえした。

 

 「……な……んで、ですか……? なんで、私だけ……」

 

 「……貴女の端末は、2日前のあの時に壊れてしまっているからです」

 

 「あ……」

 

 そうだった。だから変身出来なくて、目の前で楓くんが連れ去られたんじゃないか。だから……何も出来ないまま、見てることしか出来なかったんじゃないか。

 

 「直せないんですか? 端末1つ、データのバックアップとか予備とか……」

 

 「私は専門という訳じゃないから詳しくは言えないのだけど……貴女達が持っているスマホは、その中にある勇者アプリは普通の携帯やデータとは訳が違うの。それに、結城さんの端末は天の神の攻撃を間接的であれ受けてしまっているらしくて……神樹様との霊的な接続が上手くいかないようなのよ」

 

 「そんな……」

 

 「修復には、1週間から2週間以上掛かるらしいわ。だから結城さんは……どうあがいても間に合わないの」

 

 今度こそ、本当に目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 あれからしばらくの時間が過ぎて、今は夜。皆はとっくに帰っていて、この部屋には私と楓くんしかいない。

 

 『あんたの分までアタシ達が戦うわ。絶対に楓を取り戻すから……待ってなさい』

 

 風先輩は、そう言って頭を撫でてくれた。

 

 『わ、私が友奈さんの分まで頑張りますから!』

 

 樹ちゃんは、私の手を握りながらそう言ってくれた。

 

 『この完成型勇者に全部任せなさい。だから……安心して待っててよ』

 

 夏凜ちゃんはいつもみたいに腕を組んで、頼もしい言葉をくれた。

 

 『カエっちはわたし達が絶対助けるんよ。ゆーゆ……辛いかもしれないけれど、待ってて』

 

 園ちゃんは、私の目を見ながらそう言ってくれた。

 

 『あー、その……よし。友奈、辛いと思うけど、さ……あたし達のことを応援しててくれ。大丈夫、この銀様に任せなさい!』

 

 銀ちゃんは、そう言って自信満々に笑ってくれた。

 

 『友奈ちゃん……今度は、私が友奈ちゃんを守るから。友奈ちゃんの分まで……頑張るから。だからお願い。お願いだから……ここで、私達を信じて待っていて』

 

 東郷さんは、私の手をぎゅって握りながら……心配そうな顔でそう言った。

 

 やっぱり皆、戦う気だった。私とおんなじで……天の神から楓くんを取り戻す気だった。おんなじ考えだったことが嬉しい。まるで、心が通じあってるみたいで。

 

 でも……それ以上に悲しい。皆が戦うのに、私はここに居なくちゃいけないから。私は……戦いたくても、戦えないから。

 

 「……」

 

 ベッドから降りて楓くんのところまで歩く。外から入ってくる月の光で部屋の中は意外と明るいから躓いたりすることもなく、楓くんの側まで辿り着いた。

 

 掛け布団の中に手を入れて、楓くんの手に触れる。その手は冷たいけれど……楓くんが眠ったまま動かないこともあって嫌な想像をしてしまうくらい冷たいけれど。その手をぎゅっと握った。

 

 「……なんで、こんなことになっちゃうのかな」

 

 ぽつりと、そんな言葉が出た。でも……それは、私が心のそこから思ってた言葉なんだ。

 

 皆で勇者部が出来るだけで良かったんだ。勇者に変身出来るとか、世界を救える力があるとか……そんなことはどうでもよかった。何も特別なことなんていらない。皆で笑って、楽しい学校生活が送れたら……それだけでよかったのに。

 

 なのに、こんなことになっちゃった。楓くんの魂は連れ去られた。四国はこのままならもうすぐ滅んじゃう。まるで現実味がないのに、それは確かに現実で。

 

 「私は……わ、たしは……」

 

 何かしなくちゃって思うのに。何かしてあげたいって思うのに。でも、何も出来なかった。何もしてあげられなかった。今度は戦うことさえ出来なくなった。本当の意味で私は……もう、何も。

 

 また涙が溢れる。こんなに泣いたら干からびちゃうかもしれないなんて冗談みたいに思って……全然笑えなくて。悔しい。悔しいよ。どうして私だけなの。どうして今回に限って何も出来ないの。どうして私は……楓くんに何もしてあげられないの。私はただ……皆と。

 

 「私は皆と……ふ……うぅ……っ……かえで、くん、と……ひっ……毎日楽しく……過ごしたい、だけ……なのにっ……!」

 

 楓くんの手を握ったまま膝から崩れ落ちる。楓くんは何も言ってくれない。楓くんの声が聞きたい。また、この手を握り返してほしい。あのクリスマスイブの日みたいに抱き締めてほしい。また、頭を撫でてほしい。そう思ってしまったからこんなことになったのに、私はまたそれがほしいと思ってしまう。

 

 「……結城さん」

 

 どうすればいいんだろう。どうしたらよかったんだろう。そう思ってたら、病室の扉が開いて……そっちを見ると、友華さんが立ってた。こんな時間に、なんでここに……そう思って聞いてみると、友華さんは私にあることを言って。

 

 私は……その言葉に頷いた。それが皆の為に……今の私が唯一出来ることなんだって……そう、思ったから。

 

 

 

 

 

 

 「天の……神」

 

 ― その通り。よく分かったね、楓くん ―

 

 「状況的に、ねぇ……」

 

 友奈の顔をしたその存在……天の神は、そう言ってくすくすと笑った。決して嘲笑うような感じじゃない。記憶にある通りの、あの子の笑顔そのままだ。

 

 長い黒髪は、どこか美森ちゃんを思わせる。まるで、友奈と美森ちゃんを足して割ったような……2人の各パーツを合わせたような、そんな姿。

 

 ― どうかな? この姿。本来の姿じゃ話せないから、君達人間に合わせてみたんだけど……体を創る時に良さげなのがあの東郷って子と、友奈って子しか記憶に無くって ―

 

 「……随分とフレンドリーなんだねぇ。天の神は人間嫌いだと聞いていたんだけど」

 

 ― 嫌いだよ。300年と数年前に愚かにも神の力を欲して、あまつさえ神さえ制御しようとした。だから“私達”の怒りを買った。人間なんて大っ嫌いだよ ―

 

 軽く腕を曲げてくるりと着ている黒い着物を見せ付けるように軽やかにその場で回る天の神。楽しげな友奈の顔とふわりと舞う美森ちゃんの黒髪の組み合わせは、こんな状況にいながらも自分の心を掴む。相手が天の神だと分かっているのに、自分の見知った姿が警戒心を薄れさせる。

 

 この警戒心を薄れさせては駄目だと、疑問に思ったことを聞いてみる。すると天の神は友奈の顔を苦々しげにしかめて吐き捨てるように言った。大まかな理由はあの男から聞いていたが、本人から聞くとやはり違う。隠しきれない怒りが、魂の体に直接伝わってくる。

 

 「なら、自分に対してフレンドリーなのはどういうことだ……? 自分とて、お前の嫌いな人間の1人だろうに」

 

 ― 確かに、君は人間だよ。だけど……その魂は、この世界において私達神に限り無く近い。肉体から切り離して“私達”の近くに居れば、()()()()()()()()()()()()()()に ―

 

 「……な、に?」

 

 ぞわりと、背筋を冷たい何かが這いずりまわった。この神は、今なんと言った? 自分の魂が神に近い? 同じ存在に変わりかねない?

 

 ― 最初は、“私達”の……“私”だけの巫覡になってほしいと思った。まさか高次元の魂とは言え、人間相手にそんなことを思うなんて……まだこの“私”という自我が確立する前は思ってもみなかった ―

 

 「何を……言って……」

 

 ― だけど、時間が経つ度にその思いは強くなっていった。そして2年前、直接君の姿を見たとき……それだけじゃ足りないって思った。人間嫌いの私がこんなにも君に執着するなんて、自分でもびっくりだったなぁ ―

 

 「何を言っているんだ……っ!」

 

 ― 東郷って子が“私達”の怒りを鎮める為に生贄になった時、彼女の記憶を覗いたんだ。その記憶の通りなら、君達は絶対に助けに来ると思った。最初は祟ってやろうかと思ったんだけど……それよりも、友奈って子に目印を付けて君の姿を見ようとした。君を、知りたかったんだ ―

 

 まあちょっと目印に込めた力が強すぎて友奈って子とか周りの子に不幸なことが起きちゃったけどね。そう、天の神は笑いながら言った。確かに、クリスマスイブの日の前から小さな不幸が続いたことがある。なるほど、目印……友奈が怖がっていたのはその目印のせいか。そしてその目印は友奈にしか見えないか、服に隠れて見えない場所にあったんだろう。

 

 自分を見る為。自分を知る為。そんなことの為に、友奈はずっと苦しめられていたのか。姉さんの事故も、きっとその目印のせいだろう。そんなことを聞かされて、怒りを覚えない訳がなかった。

 

 ― あの子を通してずっと、ずーっと君のことを見てた。不思議なことにあの子の気持ちとかも全部流れてきててね……だからかな。巫覡にするだけじゃ満足出来なくなった。見ているだけじゃ満足出来なくなった。あの子を通しているだけじゃ……満足出来なくなった。元々満足する気はなかったんだけどね ―

 

 目印に込められていたもう1つの機能がそれを証明する。自分が目印を付けられた対象……この場合は友奈と触れあう度に、目印の力が自分へと流れ込む。そうして徐々に目印そのものを自分へと移し変えていき、こうして自分を連れてくる為の文字通りの目印として機能する……美森ちゃんを助けに行ったあの日から、ここまで全部天の神の手の平の上だったという訳だ。

 

 「何を……自分をどうしたいんだ」

 

 ― ずっと一緒に居たいんだ。存在を感じるだけじゃ満足出来なくなった。見ているだけじゃ満足出来なくなった。あの子を通して見ているだけじゃ満足出来なくなった。神と人間じゃいずれ死に別れる。君と一緒に居たいのに、それじゃここまでした意味がない。だけど、ここまで来たらあと少し ―

 

 「……まさか、さっきの言葉は!」

 

 やっと気付いた……天の神が、自分をどうしようとしているのかを。そんなこと出来るわけがないと思うのに、それが出来てしまうかもしれないとも思う。さっきの天の神の言葉が事実なら……本当に、自分の魂が()()()()()()()()と言うのなら。

 

 

 

 ― “私達”と……“私”と同じになろうよ楓くん。人間の世界なんて捨てて、あの子達のことなんて忘れて……私と同じ……“神”になろうよ。大丈夫……後3日もあれば、そう成れるから ―

 

 

 

 天の神はあの子と同じ笑顔を浮かべながらそう言って……その笑顔を見ながら自分は、指先から少しずつ、今の自分とは違うナニカへと変わっていくのを感じていた。




原作との相違点

・相違点どこ……ここ……?



という訳で、かなり滅亡が近いというお話でした。友奈虐めが前回で終わったと思っていたならとんだ甘ちゃんですな(煽り

3日~5日という日数に無理があると思われるかもしれませんが、正直これくらいの差はあったと思うんですよね。そしてその差はまだ開く訳です。なら短期決戦しかねぇ。

神婚の話は無いと言ったな。あれは嘘だ▂▅▇█▓▒ (’ω’) ▒▓█▇▅▂うわああああああ←読者の皆様

さて、そろそろシリアスと愉悦と胃痛に胃もたれを起こす頃じゃないでしょうか。という訳で次回かその次に胃に優しい番外編を書く予定です。ああ、笑いたかった某ハゲの方にどうぞ。アレは私には書けないッス。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

番外編、その内容は……

  • 誰かと親密√第3弾
  • 園子歓喜、楓ちゃん登場(TS
  • DEif、楓誕生日イベント
  • メッタメタ、わすゆラジオ
  • その他(リク、メッセ、感想にどうぞ)

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