咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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大変長らくお待たせして申し訳ありません。今年&令和で初めてがっつりと体調を崩してしまい、仕事柄休むことも出来ず今も治っていませんが、私は生きてます(´ω`)

fgoではボックスガチャを目標の半分も開けられず、ギル様も降臨せず、ゆゆゆいでは姉さんがやってこなかったです。プリコネもハロキョが170連して来ませんでした。厄日ならぬ厄週です。

それはさておき、アンケートにご協力ありがとうございました。思った以上に接戦でびっくりしました。皆様意外とTS、及び精神的NLやTS百合物が好きなんですかね? 私は大好きだ←

さて、今回は意外なあの人が叫びます。そして、カウントダウンが始まるのです……。

あ、感想返信及び次話にはまたお時間を頂くと思います。どうかご了承下さい。


咲き誇る花達に幸福を ー 16 ー

 友華から四国が滅びると告げられた日の翌日。その日も休日である為に学校は無く、楓と友奈を除く6人は犬吠埼家へと朝から集まっていた。

 

 「さて、集まってもらった理由は他でもないわ……世界征服の為の作戦会議よ!」

 

 「ボケてる場合か! ……天の神について、でしょ」

 

 リビングにあるテーブルの周囲に座る6人。5人の顔を見回しながら風が両手を広げながら宣言すれば、夏凜がツッコミを入れつつ今回集まった目的を答え、風も謝りつつ頷く。

 

 昨日友華から提示された3つの選択肢。滅びを受け入れることも、神婚という形で誰かを生贄とすることもしないのなら、必然的に天の神と戦い、打倒するしかない。だが、6人は天の神の居場所どころか姿形さえ知らない。戦おうにも戦えないのが現状であった。

 

 「タイムリミットは明後日……ううん、明日までと考えた方がいいよね~」

 

 「そうね、只でさえ時間が無いのに、時間を掛ければ掛けるほど天の神との力の差が開く。1分1秒も無駄には出来ないわ……もう、かなり影響が出てるみたいだし」

 

 「だな……大分気温が上がってたし」

 

 園子の呟きに美森が頷く。彼女の言うとおり、滅びまでのタイムリミットは3日~5日……既に1日経ってしまっているから、実際は2日~4日。そして楓の魂が天の神の元にある限り、時間を掛ければ掛けるほど力の差は開く。そして、その影響は既に出ている。

 

 それが、銀が言った気温の上昇。まだ2月にも入っていないというのに、外の気温はまだまだ低いとは言え上着は必要無く、薄手の長袖で充分な程度に上がっていた。結界の外にある火の勢いが強くなり、少しずつその熱が結界を越え始めている証拠だ。

 

 「……天の神を見つけたとして……勝てるんですかね」

 

 「勝たなきゃいけないのよ、樹。勝たないと、アタシ達に未来なんて無いし……楓も取り返せないんだから」

 

 「……イッつんの不安も分かるけどね~」

 

 「まあ、なぁ……」

 

 話を聞いていた樹が思わず、という感じにそう呟く。そんな妹に風は、難しい顔をしながら言い放った。樹の不安は全員が理解している。今回の状況は今までの戦いとはあまりにも違いすぎる。

 

 負けられない戦い、というのは変わらないだろう。だが、今回はそもそも戦いに持ち込めるかどうかさえわからないのだ。そして、仮に戦いに持ち込めたとして……相手はバーテックスのボスであり、その力は計り知れない上に今尚強まっているという。加えて、こちらは万全とは言い難い。楓と友奈という戦力が削がれているのだから。

 

 「大赦の方で天の神の姿についてわからないのかしら?」

 

 「私の連絡相手の大赦の人に聞いてみたけど、わかんないみたいよ」

 

 「わたしも色々な人に聞いてみたけど……ダメだった」

 

 場の空気が更に暗く、重くなる。大赦でさえ天の神の姿を把握出来ていない。それも仕方ないことだろう。300年前から人類を直接攻撃していたのはバーテックスで、天の神が直接出向いたことなど1度として無いのだから。また、友奈も確信が持てないから天の神の姿について話していなかったのだ。

 

 どうすればいい……6人は必死に頭を回すが、これと言って良案は出ない。ふと、美森はリビングにある窓から外へと視線を向ける。そこからは庭や隣の家の壁や空くらいしか見えない。が、彼女の頭の中には讃州市……ひいては四国の街並みが思い浮かんでいた。

 

 四国に住む大半の人間は、滅びが直ぐ近くまでやってきていることなど知る由もない。普段通りに日常を過ごし、同じように“明日”がやってくることを疑いもしないだろう。いや、そもそも明日が来ないかもしれない、なんて考え事態無いのかもしれない。

 

 人の気も知らないで……そうは思わないと言えば嘘になる。そうは思いつつも戦う気でいるのは、美森にとって勇者部が、友奈が、楓が大事で、大切だから。皆と共に在る未来を勝ち取りたいから、美森は勇者として、勇者部として天の神に立ち向かおうという気持ちになれるのだ。

 

 「……ダメね、思い付かないわ」

 

 「ああもう、時間が無いってのに……!」

 

 「イライラしても仕方ないよにぼっしー」

 

 「分かってるけど……後、にぼっしーって言うな」

 

 「気持ちを切り替えるついでに腹拵えも済ませちゃいましょうか。そんで、食べたら病院行って友奈を交えてまた考えるわよ」

 

 気が付けば、時計の針が12時を指そうとしていた。全員が集まったのは9時頃の為、3時間近く考えていたことになり……悪く言えば、残り少ないタイムリミットを3時間無駄にしたとも言える。

 

 その後、風が作った昼食のうどんを全員で食べた。相変わらず空気は重かったが、美味しいうどんは何も思い付かないことによるストレスを和らげてくれた。食べ終えた後は美森と銀が手伝って食器を片付け、風が言った通りに全員で病院へと向かうのだった。

 

 外の気温は……また少し上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 「あら?」

 

 私達が病院に辿り着き、風先輩を先頭に楓君と友奈ちゃんの病室にやってきた時、扉を開けた風先輩から不思議そうな声が聞こえた。

 

 「フーミン先輩? どうしたの~?」

 

 「誰も居ないのよ……部屋間違えたのかしらねぇ?」

 

 「いいえ、この部屋であってるハズですけど……」

 

 風先輩が言った後に全員で部屋の中を覗き込むと、彼女が言った通り部屋の中には無人のベッドと畳まれた掛け布団が置いてあるだけで誰も居ない。部屋を間違えたかと思うのも無理はないけれど、そもそもこの部屋は勇者である友奈ちゃんと楓君の為に用意された部屋で、一般の病室がある場所から離れた所にあるから間違えるには少し無理がある。

 

 なら、別の病室へと移された? そう考えるが、それならそうと連絡の1つくらい入るだろう。疑問、そして不信感。それらを解消してくれる声が、私達の後ろから聞こえた。

 

 「楓君は神樹様の所に居ますよ」

 

 「えっ? ……貴女は」

 

 「友華さん? カエっちが神樹様の所に居るって……」

 

 私達が振り返ると、そこには友華さんの姿があった。大赦、それも上の立場の人間ということもあるからかしら、友華さんを見る風先輩の目がつり上がってる。彼女の大赦への怒りは、今尚衰えることは無いみたい。私も、大赦にあまり良い印象はないけれど。

 

 友華さんの言葉に対して疑問を溢したのはそのっち。私としては、この場に友華さんが居ること自体も疑問だった。さっきも思ったように、友華さんは上の立場の人間。昨日も見舞いに来たというのに今日も来ている程暇な時間は無いハズ。過去に僅かな時間であっても楓君のお見舞いに来ていたことがあったけれど、この場に彼が居ないと言うのならわざわざ来る必要はない。なら、どうしてここに居るのか。

 

 「言った通りの意味よ。園子ちゃん達は以前、神樹様の現実における体である御神木がある場所に入ったことはあるわよね?」

 

 「ええ、確かにあります」

 

 「そこに楓君は居ます。というのも、昨日の内に神樹様の御神体がある部屋に連れてくるようにと神託があったからなのだけど。病院に居た頃よりも状態が安定しているから、近くに居ると精霊の力が強まるみたいね」

 

 「精霊の力が強まるから、精霊がわたし達を生かすための力も強まるってことだね~……じゃあ、ゆーゆは?」

 

 今の楓君は魂が無い脱け殻の状態。この“魂が無い”というのは肉体に大きな影響があるらしく、精霊の勇者を生かす力が無ければそのまま肉体は死んでしまう。肉体が死ねば、例え魂を取り戻した所で目覚めることはない……そう聞かされてゾッとする。

 

 神樹様が己の元へと連れてくるように神託を下したのは、その精霊の力を少しでも強める為だとか。神樹様にはあらゆる伝承が概念的な記録として蓄積されており、その記録にアクセス、抽出することで具現化された存在が精霊。大元である神樹様が近くに居れば、僅かでも精霊の力を強めることが出来るらしい。精霊がどういう存在か、というのは初耳だった。

 

 楓君の所在は分かった。じゃあ、友奈ちゃんはどこに行った? そう問いかけると友華さんは目を伏せ……そんな彼女に、私は嫌な予感を感じていた。同時に、昨日の病室でのやり取り……提示された3つの選択肢の話が思い浮かぶ。

 

 

 

 「……神託はもう1つありました。結城さんを、神樹様の元に連れてくるようにと」

 

 

 

 【っ!?】

 

 「私がここに来たのは、貴女達にそれを伝える為です。私が直接言いに来たのは、私なりのケジメでもあります」

 

 「それじゃ、友奈は!?」

 

 「今頃は大赦へと向かい……神婚の為の準備をしている頃でしょう」

 

 

 

 

 

 

 6人が友華の言葉に絶句していた頃、友奈は大赦にやってきて真っ白で清潔な襦袢に着替え、かつて先代組の4人も打たれた滝に打たれていた。彼女がここにやってきたのは早朝のこと。そこから移動やら準備やらと時間を掛け、今こうしている。その脳裏に浮かぶのは、昨日の夜のことだ。

 

 

 

 『……結城さん』

 

 『友……華……さん? どうして、ここに……』

 

 『貴女に伝えなくちゃいけないことがあってね……神樹様から神託があったの。結城さん……明日、貴女を連れてくるようにと』

 

 『神樹様が……私を……?』

 

 病室にて、楓の側で泣いていた時に再びやってきた友華は、友奈の疑問に対してそう答えた。伝えられた友奈は最初、その意味が分からなかった。神樹様がなぜ、自分を連れてくるように神託を下したのかと。だが、その日の昼にしていた会話を思い出し……もしかして、そう無意識に呟く。

 

 『恐らくは……神樹様は神婚の相手として貴女をお選びになったのでしょう』

 

 神婚。大赦が見つけた、唯一にして確実な人類の救済方法。神婚相手……この場合、友奈の命と引き換えに他の人類全てを神樹の眷属……一部とすることで結界の外にある火の海から、天の神の脅威から逃れることが出来る。

 

 (私が神樹様と結婚する……なんて、想像も出来ない。それに、それをしたら死ぬなんて言われて……怖いって思った)

 

 死ぬ。もう2度と勇者部の皆に会えなくなる。勿論、天の神に捕らわれている楓とも。何故自分なのかと、一瞬足りとも思わなかったと言えば嘘になる。死ぬと聞かされていることに選ばれた事実に恐怖しないと言えば……嘘になる。

 

 だが……それ以上に、友奈にはその事実が救いにさえ感じていた。何も出来ず、何もしてあげられず、第3の選択肢である天の神と戦うことさえ出来ない友奈の前に現れた……今の自分に()()()()()()()。その考えに至った時、友奈は泣き顔で楓の手を握りしめたまま頷いていた。

 

 その後直ぐに他の大赦の人間が現れ、楓を神樹の元へと運んでいった。それも神託であると言われれば、友奈に拒否することは出来なかった。夜遅くの独りになった病室。自分のベッドに入り込んだ友奈だったが……眠ることが出来ず、ベッドに座り、窓から見える空を眺めていた。

 

 (そういえば、前にもこんな風に1人で病室に居たことがあったっけ)

 

 それは総力戦が終わった後のこと。小さなバーテックスにトラウマを植え付けられ、眠ることが出来なかった友奈。朝まで時間を潰そうと病院内を歩いていると楓に遭遇し、彼に眠る時まで手を握ってもらうことで安眠出来た。

 

 もしもあの時、楓に会っていなかったどうだったか。少なくとも入院している間は安眠は出来なかっただろう。その事に思い至り……楓のことばかり思い返す自分が可笑しくなったのか、友奈は小さく笑って……手に持った白い花菖蒲の押し花を両手で握り締めた。

 

 (きっと……皆、怒るよね。それでも……コレは私が唯一出来ることだから。勇者部は……誰かが出来ない。もしくは、誰かが困ってる。そういう誰かの為になることを“勇んで”、進んでやる者達のクラブだから)

 

 それは違うと、この場に勇者部の誰かが居れば叫んだだろう。友奈の命と引き換えなんて認められないと、誰もが叫ぶだろう。本当は友奈も理解しているのだ。こんなことは、こんな選択は間違っていると。皆を信じて待つべきなのだと。それでも……何かをしたかった。誰かの為にではなく、四国の為にでもなく。

 

 (私は……私のせいで天の神に連れ去られた楓くんの為に……楓くんに……私が出来ることを……)

 

 夜が明け、大赦の人間に連れ出されるその時まで……彼女は自分がしたいことを、してあげられることを……唯一出来ることを考え続けていた。

 

 

 

 滝から離れ、友奈は真剣な表情をしながら視線を岩壁の方へと向ける。その壁の向こう、しばらく行った先に神樹の御神木があると聞かされている。かつては先代勇者の4人も行ったことがあるとも。

 

 (この道を楓くん達も通ったんだよね)

 

 ペタペタと足音を立てて歩きながら、友奈はふとそんなことを考えた。小学生時代の4人も通った道を、今自分が歩いている。何だか不思議な感覚だなぁ、なんて地面を見ながらクスリと笑い……笑みを消して、歩き続ける。

 

 気温が上がっているせいか、濡れた体でもさほど寒いとは感じなかった。それだけ、外の影響が強まっているということだ。一刻の猶予も無い。だから友奈はこの神婚を成立させるべく動いている。

 

 (これが、私が唯一出来ることだから)

 

 そして、大赦の人間もその為に動いている。友奈は歩いた先に待っていた大赦の人間達に体を拭かれ、白無垢のようなモノに着替えさせられ、髪だって結われた。神婚という神聖な儀式に相応しい装いへと着替えた友奈は周囲を大赦の人間に囲われ、神樹の元へと歩く。

 

 (これは……私にしか出来ないことだから)

 

 まるで、友奈自身の無垢さを表すような真っ白な姿。穢れなき少女であり、1度は全身を散華したことで供物を戻された際に神々から好かれる体質……“御姿”へと成った彼女にしか出来ないこと。大赦にとっての人類救済の希望。

 

 (私が……やるべきこと、なんだ。なのに、どうしてこんなに胸の奥が苦しいのかな……)

 

 泣きそうな心と顔を俯かせることで隠し、大赦の人間達と共に神樹へと向かう友奈の姿を……快晴の空の上の()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 「どうして勝手に決めたのよ! あんたも! 友奈も!! アタシ達に黙ってそんな大事なことを……昨日の話は、大赦が提示してきた3つは、何のための選択肢だったの!?」

 

 「確かに、昨日私達はあなた達に3つの選択肢を提示してました。ですが……その後に神樹様から神託を降されたのです。大赦として、神託を優先するのは当然のことです」

 

 「何が当然のことよ! 結局あんた達大赦はアタシ達勇者を犠牲にして、生贄にして! 他に方法を見つけられないんじゃないの! そんなに犠牲や生贄を出したいなら……アタシ達みたいな、勇者みたいな子供じゃなくて、あんた達大人がなればいいのに!!」

 

 今にも掴み掛かりそうな……否、殴り掛かりそうな剣幕で風が怒り、叫ぶ。大赦が嫌いだから、だけではない。自分達の話し合いも、自分達の気持ちも何もかもを無駄にされたかのように思えたからだ。

 

 誰も犠牲を出したくない。誰にも神婚なぞさせたくはない。だからこそ考えていたのに。その為に動いていたのに。今だって友奈と一緒に考える為にこの場に来たのに。なのに自分達に一言もなく勝手に話が決まっていた。これで怒りを覚えない訳がない。

 

 「……そうです。私達大赦は勇者様方に頼る以外に、犠牲や生贄の様にする以外に生き延びる道を見つけられなかった。それはこの300年の歴史が証明していますし、否定もしません」

 

 「友華さん……」

 

 「……私達大人が……いいえ、私が犠牲に、生贄に、人柱に……あなた達の代わりに勇者として戦えたら、楓君の代わりになれたらどれだけよかったか。勇者であれ、巫女であれ、子供達の代わりに大人がその身を捧げることが出来たなら……出来るのなら! 私は今ここで命を捧げるくらい喜んでやります!! 私だけじゃない。そう思う大赦の人間がどれだけ居るか!! これまでの歴史の中で、そう思う大人がどれだけ居たか!!」

 

 「っ……」

 

 そんな風の怒りを、何か言いたげな6人の視線を一身に受け止め、友華は肯定する。人類を生き延びさせる為に、大赦という組織はそれこそなんでもやってきた。それでも見つけられなかったのだ。勇者を頼る以外の方法を、子供達を矢面に立たせる以外の方法を。

 

 出来ることと言えば、民衆が混乱しないようにする為の情報操作。後は金銭や贈り物のような勇者達、及びその家族への充分以上の報酬。形になった勇者システムの改良。それ以外にも出来ることをやって……それでも、今以上の方法はどこにも無くて。そう語る友華を、園子が痛ましげに見詰める。

 

 代われるモノなら代わりたい。だが、勇者や巫女に選ばれるのはいつだって無垢な少女達。神樹は大人には何一つ力を与えてはくれなかった。故に大人は見送ることしか出来ず……中には、目の前で話していたかと思えば、次の瞬間には帰らぬ人となった勇者が居たかもしれない。樹海での戦いをリアルタイムで見られる大人は居ないのだから。

 

 だからそれは、大赦の人間としての、そして友華個人の魂からの血を吐くような叫びだった。誰が好き好んで未来ある子供を犠牲にしたいなどと思うモノか。もし代われるのなら直ぐにでも代わりたい。それが許されないから、それ以外に方法が無いから、心を、感情を殺してでも必要な犠牲だと、やむを得ない生贄だと無理矢理にでも納得させてきたから、今この瞬間が存在している。

 

 「だからこそ……私達はどれだけあなた達から怒りを向けられ、果てに殺されることになろうとも神婚を確実にやり遂げねばなりません。ここで人類が滅びれば、本当にこれまでの犠牲が無駄になるからです。それでもあなた達は……神婚を、結城さんの選択を止めますか?」

 

 

 

 【当然!!】

 

 

 

 友華は、その躊躇のない答えに目を見開いた。目の前の子供達に諦めの意思はない。むしろ、絶対に止めてやるという意思がある。彼女達は本気で天の神を倒し、未来を勝ち取る気でいる。それ以外の結末など認めないと譲れない、譲らない気持ちでいる。今の話を聞いて尚……これまでの犠牲を無駄にしないつもりで居る。彼女にとって1番か弱そうな、内気そうな樹でさえ、強い意思を込めた目で答えた。

 

 そんな彼女達を……友華は、眩しいモノを見るように見詰めていた。子供故の無謀だと言うのは簡単だ。だが……覚悟がないとは、友華は思わなかった。彼女達の眼にはそれほど迄の意志が、力が、覚悟が宿っていたから。先のような叫びを上げた友華でさえ、その姿に希望を見出だしたから。

 

 これが当代の勇者達。これが最後の勇者達。これが……残された希望。決して未来を諦めないその姿が、友華にはとても眩しい。それは大赦の、高嶋家当主である彼女には……決して取れない選択肢だから。

 

 それ以上言葉を交わすことなく、6人は友華の隣をすり抜けて走り去っていく。止めることはしないし、友華1人では出来ない。友華は振り返り、去っていく6人の背中を見詰め……着物の裾からスマホを取り出し、どこかへと連絡を取るのだった。

 

 

 

 「神樹様の場所は分かる!?」

 

 「友華さんも言ってたけど、わたし達が行ったことあるから分かるよ!」

 

 「でも、ここから大赦まで距離が……」

 

 「変身していくか!?」

 

 「誰かに見られたらどうすんのよ! でも、それ以外に方法が……」

 

 「っ、皆、前を見て!」

 

 病院内を出入口に向かって走りながら風が誰にでもなく聞き、園子が答える。だがこの病院から大赦までは樹が言うとおりに距離があり、走っていくには時間が掛かる。そもそも樹の体力が保たないだろう。

 

 ならば変身して上がった身体能力を用いて向かうかと銀が聞けば、夏凜が注意する。とは言え、友奈が大赦に向かってから今までの時間を考えれば猶予は余り無い。民衆に秘匿されている勇者の存在を知られる覚悟で行くか……と夏凜含め全員が考えていた頃、丁度出入口に辿り着いた美森達の目の前に大型のワゴン車が止まり、後部座席へと通じる扉を開けていた。そしてその助手席には、全員が見知った人物の姿があった。

 

 「皆、乗って! 大赦に向かうわ!」

 

 「「「安芸先生!? ありがとうございます!」」」

 

 「ちょ、3人共!? もうっ!」

 

 「乗ったわね? 三好君、出して!」

 

 「了解です!」

 

 (あれ、今三好って言った? それに今の声、妙に聞き覚えが……)

 

 何故この場に安芸が居るのかという疑問はあったが、6人の内先代組3人が率先して乗り込んだことで風達も流れのまま乗り込む。全員が乗ったのを確認してから安芸は運転席に座る大赦の人間に車を出すように伝え、大赦の人間……声からして男……は勢い良くアクセルを踏んで発進させる。その際夏凜が首を傾げるが、特に追及することはなかった。

 

 「安芸先生、どうしてここに?」

 

 「友華様を病院にお連れしたのは私達だから。それに、友華様から話を聞けばあなた達は必ず大赦に向かうと思ったし……友華様から送ってあげてと連絡を頂いたから」

 

 「なんであの人がそんなことを……友奈に神婚を伝えたのはあの人なのに」

 

 美森の質問に、安芸は前を向いたまま答える。友華を連れてきたのは彼女達だ。昨日の内に友奈に神託を伝えたのも聞いているし、友奈が神樹の元に向かったのも聞いている。安芸は友華が美森達に話を伝えに行くと聞かされた時から6人が神婚を認めないと思っていたし、大赦に乗り込むとも確信していた。

 

 安芸に6人を乗せて大赦へと向かうのは友華から連絡があったからだと言われた時、真っ先に不信感を出したのは風。ついさっきまでその神婚のことで言い合っていたのだから、それは仕方ないだろう。そんな彼女の様子をバックミラー越しに見た安芸は、苦笑いを浮かべた。

 

 「友華様は大赦の上層部の人間として……何よりも高嶋家の当主として、多くの命を背負っているの。だからこそより確実性のある神婚という選択以外取れない……最小の犠牲で大人数の幸福を。今までそうやってきた大赦の人間だから……ね」

 

 「……そんな幸福、間違ってる。その犠牲になる人達にだって幸福になる権利があるのに……皆で幸福になれないなら、それは幸福だって言えない。そんな幸福を……アタシは、アタシ達は認められないわ」

 

 「そうね……きっと、友華様も本心ではそう思ってる。犠牲なんて無ければ、誰もが欠けること無く幸福を享受できればと。だけど、それは叶わない……叶わなかった。都合の良い幻想、希望的観測……そんなものにすがり付くことさえ出来ないのが、大赦の人間……大人なのよ」

 

 車内が沈黙に包まれる。風を筆頭に、6人は友華の、大赦の神婚という選択肢は受け入れられないし、最小の犠牲で多くを救うという考えも肯定出来ない。ただ……子供なりに、その考え自体は理解が出来る。友華の叫びは風にも負けない程で、本心から今の状況を、これまでの犠牲を望んでいる訳ではない。

 

 だが、それでも勇者達は戦うことを選んだ。神婚という確実性のある選択を捨て、止めることを選んだ。楓を絶対に取り返す。友奈を絶対に犠牲にはしない。そして、絶対に天の神に勝利する。また、皆で笑い合える日々を過ごす為に。ありふれた幸福を得る為に。

 

 「……安芸先生は、どうしてわたし達に協力してくれてるの?」

 

 「そうだよ、なんで? 安芸先生。それに、そこの大赦の人も」

 

 「確かに、私達も大赦の人間だから大赦の選択に従うべきよね。でも、私は大赦の人間である前にあなた達の先生で、サポート役で……つまりは私の個人的な意思であなた達に協力しているの。運転してくれている彼も、私に協力してくれているわ。それに……」

 

 「それに?」

 

 園子の疑問は当然のことだろう。安芸は歴とした大赦の人間なのだから。しかし、彼女は大赦に従うどころか神婚を邪魔しようとする勇者達に協力している。不思議そうにする銀に、安芸はそう口にした。

 

 自身の考えを伝えながら安芸は思う。約2年前、楓に助けられたことによって変わることが出来た。もしもその日が訪れることがなかったら、安芸は協力するどころか勇者達を邪魔するくらいはしただろう。仮面を被り、素顔と本心を隠し、大赦の考えに賛同していたことだろう。

 

 だが、彼女は今ここでこうしている。大赦の大人という立場に居ながら、大赦に反旗を翻す行動だと理解していながら、勇者達を友奈の元へと送り届けようとしている。その理由は……2年前に誓ったから。

 

 「私はね、あなた達と一緒にこの絶望的な状況に向き合うって決めてるの。そして……信じてる。あなた達なら、どんな絶望的な状況だとしてもそれを乗り越えられることを」

 

 大赦の人間、大人としてではなく……本来あるべき大人として。

 

 

 

 そして、その“絶望的な状況”が明確な形をもって現れる。青い空は虫食いのように赤黒く毒々しい空間に塗り替えられていき、四国全体を地震が襲う。赤黒く染まった空から四国全体を覆うかのような巨大な円形のナニカが現れ、人々はそれをはっきりと見ていた。

 

 唐突な現れたナニカ……それは四国の滅びを告げる死神であり、300年前からの人類の仇敵。友奈を利用し、楓の魂を捕らえた元凶。そして……勇者達の、最後の敵。

 

 “天の神”。それが、ついに現実世界にその姿を現した。




原作との相違点

・原作……原作ううううっ!!



という訳で、大人と子供の意見の激突と天の神襲来というお話でした。いよいよラストバトルですが、原作だと割とあっさり終わってるんですよね。本作ではどうなるやら。

原作での安芸先生の立ち位置には友華が入りました。彼女には安芸先生以上に感情的に、大人側の心情を叫んでもらいました。私は別に大赦を悪者にしたい訳ではないんですよ? 納得や理解と肯定は別だと言いたいだけです。

さて、アンケート結果は楓TSに決まりましたが……誕生日も親密√も接戦を繰り広げてくれましたので、後日書きます。ただしわすゆラジオ、てめーは(今は)ダメだ(無慈悲

親密√はどうしましょうかね。積極性No.1の園子、夫婦漫才-漫才の東郷さん、ヒロイン度爆上がりした友奈、奇跡が起きて神奈様、まさかのハーレム、その他のキャラ。誰か書いてみますか?←

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