咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました。1週間以内に更新する予定でしたが、予定より期間も内容も長くなってしまって申し訳ありません(´ω`)

ゆゆゆいで遂に4コマが登場してテンション爆上がりです。やっぱり所属の得は可愛くていいですね。

アンケートにご協力ありがとうございます! ちょっと友奈強すぎませんかね……他3人合わせてようやく同等とか。これが原作主人公の力か……。

きらファンにてリゼが100になりました。専用武器最大強化が遠すぎて……。

ガンブレ3を買い直してしまいました。なんか唐突に色々と組みたくなったんですよね……ジェガンで色々バリエーション作るの大好きなんです。

さて、今回は長くなってしまったと言った通り、文字数多め内容濃い目です。ところで皆様、うたわれるものは好きですか? 私は好きです。ハクオロさんカッコいいですし、アルルゥエルルゥ可愛いですし、ゲームもアニメも神曲揃いですし。まあだからなんだって話ですがね←


咲き誇る花達に幸福を ー 18 ー

 「あなたは、文化祭の時の……」

 

 夜刀神ちゃんが光ったと思ったら、夜刀神ちゃんが居なくなってて……代わりに、私に似た女の子が居た。この子の事は覚えてる。文化祭の時に、まるで私をどこかに連れていくみたいに手招きして走っていって……追いかけた先の屋上で、私は……私達は楓くんと再会出来たんだから。

 

 そんなあの子が今、私のことを悲しそうな目で見てる。それ以上に不思議なのは、樹海化したこの場所に居ること。それから、夜刀神ちゃんの代わりに現れたこと。

 

 「あなたは……誰なの?」

 

 ― 私は、あなた達が神樹と呼ぶ存在だよ ―

 

 「え……? 神樹、様……!?」

 

 ― やっぱり、私の声が聞こえるんだね。あの人の側に居たからか、“御姿”となった上で天の神の力をその身に宿していたからかな。それとも、神の空間にしばらく居たからか、もしくは“因子”を持って生まれたからか……或いは、それら全てが合わさったからなのかな ―

 

 目の前の私そっくりな女の子が、神樹様。びっくりしている私の頭の中で、前に楓くんが言っていた“私似の神樹様に逢ったことがある”って言葉が甦る。本当に私そっくりだ……その後の言葉は、よく分からない。何か重要なことを言われているような気がするけど。

 

 それに、どうしてそんなにも悲しげな顔で見られているのかわからない。私を呼んだのは、神樹様の方じゃなかったの?

 

 「神樹様……私と、その……」

 

 ― 神婚を行う前に、あなたには聞かなければならないことがある ―

 

 「聞かなければならないこと……? でも、四国にはもう時間が……」

 

 ― 勿論、本当に滅びそうになればソレを行う。だけど……私は、その為にあなたを呼んだ訳じゃない。私は、あなたに質問をする為に呼んだんだ ―

 

 神婚をする為に呼んだ訳じゃない……? でも、友華さんは私が神樹様に呼ばれてるって言ってた。私が、神婚の相手に選ばれたって……それは勘違いだった? でも、神婚はしてくれるんだ。それなら良かった……四国を、皆を救うことが出来るんだ。

 

 だけど、質問って何を聞きたいんだろう。神様である神樹様が私に聞きたいことなんて想像もつかない。だって私は楓くんと東郷さんと園ちゃんみたいに頭が良くないし。そう思っていたら、神樹様が口を開いた。

 

 

 

 ― どうしてあなたは、あの人が命がけで助けてくれた命を捨てられるの? ―

 

 

 

 ヒュッて、喉の奥から変な音がした。体がガチガチに固まって、背筋を冷たい何かが通り過ぎた。一瞬頭の中が真っ白になって……質問の意味を理解して、体が震えた。

 

 覚えてる。楓くんが必死な声で、必死な顔で私を天の神の攻撃から助けてくれたこと。助けてくれたから……楓くんが血塗れになって、その魂が天の神に連れ去られたこと。たった2日前の出来事なんだ、忘れられるハズがない。

 

 「わ……私には、もう、これ以外に出来ることが無い、から……」

 

 悲しげな神樹様の顔に目を合わせられなくて俯く。何とか答えると、その声は自分でも分かるくらいに震えていて……でも、頭の中では神樹様の質問がずっと繰り返されてた。

 

 私が今こうして居られるのは楓くんが助けてくれたから。あの時に限った話じゃない。辛い時も、寒い時も、寂しい時も、楓くんはずっと側に居てくれた。総力戦の時だって、その後の病院でだって。東郷さんが壁を壊した時の戦いでだって……いつだって、ずっと。

 

 私が辛くないようにって、寒くないようにって、寂しくないようにって……悲しくないようにって、何度も。楓くんが居なくちゃ、皆が居なくちゃ、きっとどこかで潰れてた。きっとどこかで、死んじゃってた。私が生きていられるのは、そんな皆の……大好きな皆のお陰で。だから私は……。

 

 「私は……皆の為に神婚を……私1人の命で、皆が助かるなら」

 

 

 

 ― それで……あの人の優しさも、あの子達の戦いも無駄にするの? 戦うことも、助けにいくこともせずに ―

 

 

 

 「……出来るなら……それが出来るなら、やってます!」

 

 神樹様の言葉は、私の心を傷付けるには充分だった。分かってる、分かってるんだ。神婚なんて、勇者部の皆は誰も望んでない。私だって、誰かが神婚しようなんてしたら絶対止める。それに、神婚は楓くんが助けてくれたこの命を捨てることだってことも分かってる。分かってるんだよ。

 

 「だけど、もう時間が無いから! 私には、神婚(これ)しか無いから! だから私は! 私は……ここに、来て……っ」

 

 他に出来ることを探す時間なんて私にも世界にも無いから。だから神婚をすることを選んだんだ。何かをしたくて、その何かが神婚しかなかったから。私に出来ることは、私がしてあげられることは、もう神婚しか残ってなかったから。

 

 その為にここに来たんだ。神婚の手順だってちゃんと覚えた。滝は冷たくて痛くて寒くて、でも必要だから我慢して。死ぬって分かってて怖くて恐くて仕方なくても、考えないようにして。なのに。

 

 「お願いします……私と……神婚して、下さい。皆を……助けて下さい……お願い、だから……っ」

 

 お願いだから……私の決心を鈍らせないで下さい。涙を堪えきれなくて、俯いて、痛いくらい強く両手を握り締めてそう思った時。

 

 

 

 「友奈ちゃん!!」

 

 

 

 「っ!? ……東、郷……さん」

 

 (来たね。この子の意思が変わるかどうか……彼女次第、かな)

 

 後ろから東郷さんの声が聞こえた。顔を上げて振り返ると、総力戦の時に乗せてもらった大きな満開の奴から飛び降りてくる東郷さんの姿。東郷さんは着地すると私の近くまで走ってきて、止まった。その顔は焦ってるような……でも、私を見て安心したような、そんな表情で。

 

 「間に合って良かった……友奈ちゃん、神婚なんてしなくていい。犠牲になんてならなくていいの。今、皆が天の神と戦ってる。皆は……私達は絶対に勝つから。だから……」

 

 「東郷さん……ダメ……ダメだよ。だって世界に時間は無いって。皆が天の神と戦って、それで皆が傷ついたり……死んじゃったり、したら……だから、その前に私は神婚を……その為に、ここまで来たんだよ」

 

 それで皆が助かるから。それが確実に皆を救う方法だから。何度もそう説明されて、自分でも何度も何度もそう考えた。だからって、そうしないとって。

 

 「それが友奈ちゃんである必要なんてない。ううん、誰かが犠牲になるなんて、もう嫌。私も、皆もそう思ってる。友奈ちゃんだってそうでしょう?」

 

 ……勿論、嫌だよ。東郷さんが、皆が犠牲になるなら絶対に止める。東郷さんが私達の記憶を消して1人で奉火祭の生贄になった時、本当に悲しかった。忘れてた自分が嫌になって、東郷さんを犠牲にすることになってたのが嫌で、だから皆で取り返しに行ったんだから。

 

 「それでも……それでも、これは私にしか出来ないことだから! 神婚は、今の私にも出来ることだから!!」

 

 「……友奈、ちゃん……?」

 

 「楓くんを助けにいけない私が! 皆と一緒に戦えない私が! やっと見つけた、私にしか出来ないことなんだ! 私1人で皆が救われるんだよ。私1人が頑張れば皆も、世界も、楓くんだって救えるんだよ! そうすれば、私1人の命と引き換えなら、皆が命懸けで戦うこともなくなって、笑って、幸せに過ごせる毎日が来るんだよ!?」

 

 例え、その毎日に私が居なかったとしても。

 

 「これしか方法はないんだ! 皆が救われる方法は……これしかないんだよ……東郷さん」

 

 それでも……皆がもう戦わなくて済むなら。楓くんも戻ってきて、また……あんなに楽しい毎日を送れるようになるのなら。

 

 「東郷さんが奉火祭に1人で行った時みたいに……楓くんが、私をずっと助けてくれたみたいに……皆が幸福(しあわせ)な毎日を送れるように……私も、頑張りたいんだ」

 

 勇者だから、じゃない。私にとって皆が大事だから、大切だから。私1人の命で皆を守れるから、その為なら……どんなに怖くたって頑張れるから。

 

 「だから……だから! もう……止めないでよぉ……」

 

 「……友奈ちゃん」

 

 決心が鈍りそうになる。我慢が出来なくなりそうなる。だから、神樹様も、東郷さんも、皆も、私の決断を止めないで。俯きながら泣いて、そうお願いして……名前を呼ばれて、それで顔を上げたら……さっきよりも近くに東郷さんが来てて。

 

 

 

 「……えっ?」

 

 

 

 そして涙で歪む視界に入ったのは……その目に涙を溜めて今にも泣きそうな程辛そうな表情を浮かべて思いっきり右手を後ろに引いてる東郷さんの姿で。

 

 次の瞬間には私は……あの時に私がそうしたように、東郷さんに思いっきり顔を殴り飛ばされていた。

 

 

 

 

 

 

 各空間と人影がいた場所から起きた爆発とその爆風によって吹き飛ばされた5人。直接的な攻撃ではなかったからか精霊バリアが問題なく発動し、それによる被害はなかった。だが、樹海を埋め尽くす樹の近くまで飛ばされた為に折角近付いていた距離が再び大きく開いてしまった。

 

 「皆、無事!?」

 

 「私は大丈夫だよ、お姉ちゃん!」

 

 「痛ぅ……こっちもよ! まだまだ、やれるわ!」

 

 「ミノさん……大丈夫?」

 

 「すんごい痛いけど……あの時の楓に比べたら、こんくらい何ともないって」

 

 風が全員の無事を確認する為に声を出し、幸いにも全員近くに居たので声でも肉眼でも確認出来て安堵の息を吐く。とは言え、無傷なのは風と樹、園子の3人。夏凜と銀は小さくない傷と出血をしている。

 

 2人の姿に心配と共に天の神への怒りを大きくしつつ、全員が空を見上げる。見れば、バーテックスの攻撃を放っていた空間が閉じており、その攻撃は止まっていた。だが、閉じていない空間が1つ……それは、人影があった空間。

 

 「……いよいよお出ましって訳ね」

 

 「あの人影……東郷先輩が夢で見たのとおんなじなのかな?」

 

 「多分ね……」

 

 姉妹がそんな会話をしていると、空間の中からゆっくりと人影が降りてくる。勿論、その背には丸い大きなナニカと、その周囲に12個の丸いナニカを背負ったまま。そうして人影の姿がはっきりと認識出来るようになった時……全員が目を見開いた。

 

 「……天の、神……っ……あんたは、どこまでっ!!」

 

 「そんな……!?」

 

 「どうなってんのよ、これ」

 

 「冗談キツいぞ……」

 

 風が憤り、樹が驚愕の声を漏らす。夏凜は困惑し、銀は口の端をヒクつかせて右腕の痛みとは別に冷や汗をかく。そして、園子が信じられないという思いを込めて口を開いた。

 

 

 

 「……黒い、カエっち?」

 

 

 

 人影の正体……それは、風達がよく知る満開時の姿の楓だった。だが、その衣装は真っ白なモノではなく、真逆を行くように真っ黒であった。衣装だけではない。見れば髪も黒く染まっており、目に至っては結界の外のような赤黒く毒々しい色をして無感情に5人を見下ろしていた。

 

 黒い楓がその背に背負っていたナニカの正体……それは、大きな丸い鏡だった。その鏡を小さくしたようなモノが12枚、大きな鏡の周囲に存在している。内1つ、今まで発光していた場所とは別の場所が淡く光っている。そして、園子は黒い楓を注視する。

 

 (小さい鏡4枚……最低でも半分は壊したかったけど……それに、黒いカエっちは無傷かぁ……)

 

 人影に向けて放った槍は、背後の鏡ごと穿つには充分な大きさと速度、威力を誇っていた。それは確かに当たったのだろう、小さい鏡12枚の内4枚にヒビが入っていてその鏡達から力を感じ取れない。だが人影……黒い楓には傷1つ、汚れ1つ存在しない。単純に黒い衣装のせいで目立たないだけかもしれないが。

 

 ヒビが入った鏡は本当にもう使い物にならないのか。あの鏡達はどのバーテックスの力を使うモノだったのか。仮に壊れていたとして再生することはないのか。頭を回転させつつ、園子は口を開く。

 

 「……フーミン先輩」

 

 「なによ、園子」

 

 「黒髪のカエっち……アリだね」

 

 「今言うこと!? 楓はアタシ達と同じ髪色しか認めないわよ!!」

 

 「あんたも何答えてんのよ」

 

 (あたしも個人的に黒髪はアリかなぁ……)

 

 (お兄ちゃんが髪を染めるのは嫌だなぁ……)

 

 緊張感の無い会話が繰り広げられて居るが、戦闘態勢とその視線を黒い楓から動かすことはない。幾ら楓の姿をしていると言っても、アレは天の神であるとちゃんと認識しているからだ。

 

 5人は合図も無く同時に動きだし、黒い楓へと向かう。満開を発動してからそれなりに経っていることもあり、いつ解けるかわからない。そして解けてしまえば飛行手段を失い、天の神打倒は困難になる。だからこそ、満開が続く内に決着をつけなければならない。

 

 向かってくる5人を見て、黒い楓は右手を前に翳す。すると小さな鏡の内3つが発光。その発光した鏡から大量の光の矢が、水流が、蠍座の尻尾が勢いよく飛び出した。更に別の場所が発光し、中から蟹座の板が6枚飛び出す。

 

 「同じ攻撃を何度もっ!!」

 

 「くっそ、板が邪魔だ!」

 

 水流は問題無い。所詮は一直線に進む攻撃なのだ、他の攻撃に比べて避けやすい。5人は散開することで水流を避ける。同じように光の矢も避けるが、蟹座の板が邪魔だった。水流と違って矢を反射させ、挟み撃ちにする。それを避ける為に上に下にと移動すれば、角度を変えて追尾してくる。

 

 それに加え、板が5人に向かって飛んできて直接攻撃することもあった。板は薄く鋭い為、刃物の様に振るわれた。時には板の全面を使って押し潰されそうにもなった。更には進行方向を塞ぐようにされることもある。蟹座を相手に戦った時と比べ、板の厄介さが上がっている。

 

 「あっ、ぐ!」

 

 「あうっ!」

 

 「園子!? 樹!?」

 

 「大、丈夫!」

 

 「まだ……やれます!」

 

 途切れない攻撃に5人の体力と集中力はどんどん削られていく。それは一瞬の体の硬直や視野の狭窄といった形で現れ、遂には被弾してしまう。園子の船の左側を水流が掠り、槍と船体の左側を削られる。樹は尻尾を止める事に意識を割けすぎ、寸前まで板の存在に気付けず……ギリギリ気付いて体を剃らしたが、僅かに右太ももを切り裂かれた。

 

 「よくも2人を!! っ、嘘!? 前よりも硬……ああっ!!」

 

 「風!? っ、この、邪魔を! ぐ、あ、っ!」

 

 「風さん! 夏凜! これ以上、させるかああああっ!!」

 

 2人が被弾したのを見た風が怒り、迫り来る1枚の板目掛けて大剣を振るう。だが、以前は破壊出来た筈の板は大剣を受けても破壊は愚かヒビ1つ入らなかった。満開をしている状態であるにもかかわらず、だ。その事に驚愕した風はその硬度に絶望にも似た声を漏らし、真横から迫ってきた蠍座の尻尾に気付いて咄嗟に大剣を盾とするが強く弾き飛ばされる。

 

 それを見た夏凜が風の助けに行こうとするが、そんな彼女に向けて山羊座の光弾が迫る。満開の4つの腕の4刀を振るうことで切り裂いて無力化していくが、20と数個を切り裂いた頃に光弾が止まり、代わりにレーザーが迫ってきた。4刀を全て防御に回して防いだ夏凜だったが、かつて銀と楓の2人掛かりで漸く数十秒だったモノを1人で、かつ空中で支えきれる訳もなく……夏凜は僅かに声を漏らし、防いだ姿勢のまま地面まで落とされた。

 

 次々と仲間が傷ついていく。それを見かねた銀は無理をしてでも黒い楓に向かうことを選択する。突撃する彼女に向かう、黒い楓の鏡から繰り出される数々の攻撃。水流は大回りすることで回避、光弾は自身が持つ双斧剣を腕の痛みを我慢して振るって切り裂く。

 

 「っ……銀さんは、やらせません!」

 

 「ミノさん、やっちゃって!!」

 

 「サンキュー2人共!! っ、まだ!?」

 

 痛みに顔をしかめつつ、樹はワイヤーを操って尻尾と板に絡み付かせてその動きを止める。園子は銀の前に出て傘状にした勇者の光の盾で光の矢から守る。そのまま突き進み、もう少しというところで銀は上に飛んで黒い楓に迫ろうとする。だが、そこまで来ても尚攻撃は止まらず、黒い楓の別の鏡から獅子座の小さな火の玉が1度に大量に吐き出された。

 

 「完成型勇者を……勇者部の勇者を、舐めるなああああっ!!」

 

 攻撃態勢に入っていた銀はその数もあって対処出来ない。樹と園子は間に合わない。だが、他の勇者なら間に合う。山羊座のレーザーを耐え抜いていた夏凜は頭部や口の端から血を流し、右側の巨腕2本がへし折れて使い物にならなくなっている。が、そんな状態でも可能な限り近付いてから左側の巨腕を振るって大量の小刀を飛ばし、味方に当てることなく火の玉だけを撃ち落としていく。

 

 「流石夏凜! これでええええっ!!」

 

 最早銀の行く手を阻むモノは何もなかった。銀は夏凜を称賛しつつ黒い楓に近付き、6本の巨腕を振りかぶってその手の2つの巨斧剣を振り下ろす。目標は黒い楓ではなく、その自己主張の激しい大きな鏡と小さな鏡達。それが天の神の本体、もしくは力の源であることは明らかだったからだ。

 

 だが、銀は何度目かの驚愕に目を見開く。板を放った鏡から、見覚えのある赤いハサミが銀に向かって伸びてきていたのだ。このままでは上半身と下半身を真っ二つに両断される。背筋に冷たいモノを感じ、銀は強引にでも体を横にずらし……だが、避けきるには少し足りない。

 

 (やべっ……切られる)

 

 その光景を、銀はスローモーションで見ていた。強引に避ける為に体を傾かせたことで巨斧剣の軌道は鏡から逸れてしまっている。なのにハサミは真っ直ぐ伸びてきていて、体を両断されることこそ無くなりそうだが……代わりに、その直線上には銀の振り上げていた右腕がある。このままでは右腕を切り落とされる……銀がそう思った瞬間だった。

 

 「だああああらっしゃああああっ!!」

 

 銀と黒い楓の間を、風の気合いの籠った声と共に異常な程に大きくなった大剣が通り過ぎた。それは延びていたハサミを切り裂き、ハサミはその軌道を大きくずらして銀の右側の巨腕の内1本を切り落としていった。九死に一生を得た銀。だが、引き換えに黒い楓がその間に銀から距離を取っており、攻撃のチャンスを逃してしまったことになる。

 

 再度集合する5人。だが、当初の頃よりも傷付き、疲労している。満開も、いつ解けてしまってもおかしくはない。そんな5人に追い討ちをかけるように、黒い楓は右手を天に向けて伸ばす。すると小さな鏡の1つが強く発光した瞬間、黒い楓の頭上に巨大な火球が生まれ……。

 

 「っ! 皆、避け……いや、受け止めるわよ!!」

 

 容赦なく、5人目掛けて放たれた。直ぐに避けるように指示しようとした風だったが、振り返った先に神樹の姿を見つけてしまう。避けた場合、神樹とそこに居るであろう友奈と美森、楓の体を火球が襲うことは明白。それに気付き、直ぐに受け止めるしかないと結論付け、仲間にもそう指示する。

 

 他の4人も風の意図に気付き、火球の前に出て受け止めようとする。風は大剣を限界まで大きくして盾に、樹はワイヤーを幾重にも張り巡らせて受け止める網を作り出し、夏凜は残った巨腕で風の大剣を押さえた。だが、以前の時よりも人数が少ない上に相手は更に強くなっているからか勢いが弱まらない。

 

 それを瞬時に把握した園子と銀は受け止めることから相殺することに変更。銀は巨斧剣を重ねて炎の剣を作り出して火球に向けて振り下ろし、園子は船に勇者の光を纏わせて不死鳥に変化させて火球に突撃する。

 

 それら全てがぶつかりあった時……再び、大きな爆発を引き起こすのだった。

 

 

 

 

 

 

 美森に殴られ、楓の眠るベッドの近くに倒れ込んだ友奈。涙は止まり、呆然と殴られた左頬に左手を当て、上を向いたまま動けずにいる。

 

 (……東郷さんに……殴られた……?)

 

 理解し、それでも信じられない気持ちで居た。そんな友奈の側に来た美森はその場に膝を着き、呆然としたまま動かない友奈を起こし、抱き締める。それは以前の時とは逆の姿勢で。

 

 「自分1人の命で、なんて……皆の為に犠牲になる、なんて言わないで」

 

 「東、郷……さん……」

 

 「私がそうした時、友奈ちゃんは……皆は私を助けてくれた。自分が助かったって分かった時……生きてて良かったって思った。こんなにも私のことを心配していくれてた人達が居たんだって……嬉しくなった」

 

 奉火祭の生贄として1人で結界の外に向かい、後に勇者部の仲間に助けられた美森。病院で目を覚ました時に彼女が見たのは……安心した表情で、美森が生きていて良かったと言葉にする仲間達。

 

 壁を壊した事に対するけじめのつもりだった。自分1人の命と引き換えに皆が助かるならそれで良いと思っていた。だが、いざ助けられたと知った時……生きて、また皆と共に居られると理解した時、美森は嬉しさの余りに涙した。こんなにも心配してくれていたのだと。命懸けで助けに来てくれる仲間が居るのだと。自分が生きていたことを……手を強く握って涙ながらに喜んでくれる人が居てくれるのだと。

 

 「友奈ちゃんの時も同じこと。皆、友奈ちゃんを犠牲にしない為に命懸けで戦ってる。友奈ちゃんが生きる為に全力で天の神に立ち向かってる。友奈ちゃんが犠牲になっても、誰も幸せになれない。友奈ちゃんが居ない日々なんて考えられない。もし友奈ちゃんが犠牲になってしまったら、私は躊躇い無く腹を切って後を追うわ」

 

 「で、も……そうしないと……私は、それしか出来ない、から……」

 

 「もう聞きたくない。それしかないとか、そうしないといけないとか……そんなことは聞きたくない。ううん、私も、皆も誰も聞かない。友奈ちゃんが犠牲になろうとしても何度でも邪魔してやる。私は、私達は、友奈ちゃんと一緒に居たいから。貴女に生きていて欲しいから」

 

 「だけど……だけど! そうしないと皆!!」

 

 「聞かない!! 絶対に、聞いてなんかやらない!! 私が友奈ちゃんの口から聞きたいのはそんな言葉なんかじゃない!!」

 

 「っ!?」

 

 美森に怒鳴られ、友奈は肩を跳ねさせる。彼女にこうして大声で怒鳴られることなど、出会ってから今まで数える程しかない。それだけにこれはショックな出来事であり……それで言葉が止まってしまう友奈の気持ちよりも、美森の気持ちの方が強いということでもある。美森は友奈の両肩に両手を置き、少し体を離して顔を見合わせる。

 

 「私を独りにしないって楓君と2人で言ってくれたのは嘘だったの!? それしかないから、それしか出来ないから! 犠牲になれば私達と2度と会えなくなるのに!! それで皆が助かったとしても、その未来さえ見られなくなるのに!! 本当にそれが友奈ちゃんのしたいことなの!? 本当にそれが友奈ちゃんの気持ちなの!?」

 

 「ぁ……わ、私は……わた、し、は……」

 

 「私達は絶対に幸福(しあわせ)になんてなれない!! 楓君だって、絶対にそんなこと望まない!! 絶対に……そんなことさせる為に、楓君は天の神から友奈ちゃんを助けた訳じゃない!!」

 

 「う……あぁ……」

 

 「友奈ちゃんが居ないのは寂しいよ! 辛いよ! 悲しいよ! 友奈ちゃんはそうじゃないの? 私も皆もそうなのに、友奈ちゃんはそうじゃないの!?」

 

 「……私、だって……私だって……っ」

 

 「だったら、犠牲になるなんて言わないで! 自分の命を犠牲にすれば皆が幸せになれるなんて言わないで! お願いだから本当のことを言ってよ!! 世界なんてどうでもいいから、それしか出来ないからとか、自分にしか出来ないとか、そんなことは……どうでもいいから……だから……」

 

 

 

 

 

 

 「生きたいって……一緒に居たいって言ってよ……友奈……っ!」

 

 

 

 

 

 

 「……居たい……皆と一緒に居たい。楓くんと、東郷さんと、風先輩と、樹ちゃんと、夏凜ちゃんと、園ちゃんと、銀ちゃん……皆と一緒に生きたい! もっと皆と部活したり、遊んだりして、一緒に過ごしたいよ!!」

 

 叫ぶ。

 

 「死ぬのは怖いんだ! でも皆と離れるのはもっともっと怖い! 怖いよ! 皆とずっと一緒に居たいんだ、皆と一緒に生きたいんだ!!」

 

 心の底からの思いをただ、叫ぶ。

 

 「なんで私なの!? 私はただ、皆と普通に過ごせるだけで良かったのに! その為に一生懸命頑張って、恐くても戦って、やっと終わったと思ったら天の神なんて出てきて! 楓くんが私のせいで捕らわれて!!」

 

 結城 友奈は、勇者に憧れているただの女の子なのだ。自分よりも他人を優先しがちで、その為なら恐怖を飲み込める……言ってしまえばそれだけの、普通の16にも満たない中学生の。

 

 「嫌だよ……もう、嫌なんだ……誰かと別れるのは、離れ離れになるのは……会えなく、なるのは……嫌だよぉ……!!」

 

 「……やっと……言ってくれたね……友奈」

 

 「うああああん!! ひっ……ぅぐぅ……うええええん!! うああああっ!!」

 

 「それでいい……それでいいの……私達は友達だから。友達には、仲間には、本音を叫んでいいの」

 

 もう1度、美森は泣き叫ぶ友奈を抱き締める。ようやく伝わった、ようやく伝えてくれた本心と一緒に、優しく。

 

 気持ちは同じだった。生きたいと願ってくれた。本心を覆い隠していた建前を脱ぎ捨てて、心の底から叫んでくれた。それが何よりも嬉しい。

 

 だが、喜んでばかりも居られない。こうして話している間に2度、大きな爆発が起きたことを美森は把握している。戦いはまだ終わっておらず、仲間達の安否も分からない。友奈が犠牲になる心配が無くなった以上、自分も戦線に加わらなくてはならない。

 

 「友奈……私は、皆と一緒に戦ってくる。だから、今度こそ待っていて。私達は絶対に……天の神に打ち勝つ。絶対に、楓君を取り返すから」

 

 「ぐすっ……ごめん、ごめんなさい東郷さん。私も戦えたら……私も皆と、戦いたいよ……1人で待つのは、怖いよ……」

 

 「友奈……」

 

 

 

 ― 戦えるとしたら、どうする? ―

 

 

 

 美森が友奈から離れ、友奈が泣きながら戦えないと、一緒に戦いたいとそう言った時、彼女の耳にそれは届いた。思わず友奈はその声の方向……神樹の方を向き、美森も釣られてそちらへ目を向ける。

 

 「神樹、様……今、なんて……」

 

 「神樹様? 友奈、神樹様がどうしたの?」

 

 「どうしたのって……そこに、私そっくりの神樹様が……」

 

 「……ごめんなさい。私には楓君が眠ってるベッドと神樹様の本体の大木しか見えないわ」

 

 「嘘……で、でも確かにそこに」

 

 ― 私の姿はあの人と貴女にしか見えてないよ。それよりも……戦えたら、どうする? ―

 

 美森には友奈によく似た着物を着た少女が見えていないことを知ると、友奈は何度も美森と少女……神樹を見る。そんな彼女に神樹は苦笑し、再び真剣な表情になって同じことを聞く。勿論、友奈の答えは決まっていた。

 

 「……戦えるなら、戦う。皆と一緒に、天の神と」

 

 ― それは、何の為? ―

 

 「楓君の魂を取り返す為に……また、皆と一緒に生きる為に。当たり前の日常を、また過ごす為に!」

 

 ― 世界が終わるかもしれないよ? ―

 

 「終わらせない!! 皆が一緒なら、どんな相手だって勝てるんだ!! どんなに大きくても、どんなに強くても!! 勇者だからじゃない。大事なモノの為なら、大切なモノの為なら限界まで頑張れるんだ。限界だって越えられるんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 「私達は、人間は、天の神になんて負けないんだ!! 天の神に勝って、皆で幸福(しあわせ)な日々を生きていくんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 ― ……うん、信じるよ ―

 

 友奈の気持ちを、彼女の言葉を聞いた美森の決意に満ちた表情を見て、神樹は満足そうに頷く。そして友奈達の足下から満開の時にも見たことがある光の根が伸び、楓の枕の横に置いてあったスマホに絡みつき、友奈の前に持ってくる。何故ここにスマホがあるのかと言えば、何ということはない。神託で楓の体と共に持ってくるように伝えておいただけのことだ。

 

 「これは、楓くんの……?」

 

 ― あの人の持っていたそれを使えば、貴女は変身出来る。私が直接勇者の力を繋ぐことで、変身出来るようにする。これで貴女は戦えるようになるよ ―

 

 「ありがとう神樹様! あ、でもロック掛かってる……ど、どうしよう東郷さん! 私、解除方法なんて知らないよ!?」

 

 「貸して、友奈。これはここをこうこうで……」

 

 「あ、開いた。ありがとう東郷さん!」

 

 「どういたしまして」

 

 (別に私の力でも解除出来たんだけど……というかなんで解除出来るんだろうこの子)

 

 勇者達が使うスマホには神樹との霊的なパスを繋げる為の特殊な加工がされている。その為、神樹の方からある程度操作可能だったりする。樹海化警報もその応用だし、以前楓が病院にて養父を撃退する為に変身する際にスマホが起動していたのもその為だ。

 

 楓のスマホを受け取り、美森にパターンロックを解除してもらった友奈。2人はスマホのホーム画面を見て一瞬驚き、嬉しさを滲ませる。そこに写っていたのは、旅館に泊まった時に撮った3人だけの秘密の写真だったからだ。

 

 お互いに顔を見合せて笑いながら頷き、友奈は眠る楓の右手に左手を伸ばして乗せ、美森はその上から手を乗せて軽く握る。今度は、その手は弾かれることはなかった。今度は、その手を握ることが出来た。

 

 「楓くん……力を貸してね」

 

 そう呟いた友奈が右手に持ったスマホの勇者アプリを右手の親指でタップする。スマホから光が溢れ、それは3人の姿を覆い隠した。そしてその光が収まった時……普段の勇者服とは違う友奈の姿があった。

 

 勇者服自体は本来の友奈のまま。だが、スパッツやインナーを除いて全てが真っ白に染まっていた。髪も頭頂部は桜色だが、毛先に行くほど白くグラデーションが掛かっている。ポニーテールを留める髪飾りは白い花菖蒲の形で、両手の手甲の上に楓の特徴でもあったひし形の水晶。右手の手甲に桜の満開ゲージが。そして左手の水晶の上の部分に白い花菖蒲の満開ゲージ。その両手の満開ゲージが輝き、友奈に樹海から光の根が集まり……。

 

 

 

 「楓くんと私の2人分の……“満開”!!」

 

 

 

 これまでのどの花よりも大きな……先に咲いた白い花菖蒲と重なるように、桜が咲き誇る。それは桜を、花菖蒲が後ろから抱き締めているようでもあった。




原作との相違点

・私達は原作を忘れてはいけない。それこそが原作が生きていたことの証になるのだから……。



という訳で、人影の正体発覚、東郷パンチ、勇者部奮闘、友奈説得完了、友奈覚醒というお話でした。色々詰め込みすぎた気がしなくもないですが、原作もこれくらいかこれ以上にスピーディーだったからへーきへーき。

楓のスマホを使って友奈が変身。これは予想していた人が多そうですね。実のところ、わすゆ編の時点で決めていたことでもあります。尚、友奈の満開ゲージが右手、楓の満開ゲージが左手(の水晶の上の部分)だったのは意図して居ませんでした。偶然ってスゴいね。

……ネタバレになるんですが、最初のうたわれるものでは最終的にその作品での神となった主人公が仲間達と戦うことになるんですよ。プレイヤーが操作するのは仲間達。クリアするには主人公を倒さねばならない、所謂主人公がラスボス。それ以外にクリアする方法はありません。で、皆様。

う た わ れ る も の は 好 き で す か ? ←

あ、この質問には特に意味は無いです。残り数話となった本編、もうすぐ書くDEif最終話を宜しくお願いいたします。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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