咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました。更新速度上がんない……上がんないよ……それさておき、皆様いつも誤字脱字報告ならびに多くの感想ありがとうございます(´ω`)

fgoのセイバーウォーズお疲れ様でした。災厄さんは来てくれましたが、スペシュタルは来てくれませんでした。次のスカディ狙います。

ゆゆゆいもきらめきの章に新イベにと大忙しですね。バスタオル棗と友奈、アイドル銀ちゃんにハートブレイクされた人、素直に手を上げなさい。私だよ←

きらファンでサバゲーうみこさん来てくれました。進化前も進化後もかっこよすぎかこの人。

リクエストや感想で度々西暦組と楓君の絡みやのわゆの話を求められます。漫画しかないので書かないつもりなんですが……番外編でチラッと書くくらいならいいかなと思い始めてきました。これが洗脳か(多分違う

ところで皆様、神奈様のことをなんて読んでます? カミナ? カンナ? シンナ? 私はカミナ派です(派閥争い


咲き誇る花達に幸福を ー 19 ー

 「そうですか……まだ神婚が行われた様子はないと」

 

 場所は代わり、現実の世界。勇者達が去り、天の神がやってきてからしばらく経った頃。未だ病院の楓達が居た病室に居る友華はスマホを耳に連絡を受けていた。曰く、本来なら既に神婚が成立し、神樹の一部となっていたハズだった。だというのに、未だにその兆候は現れていないと。

 

 その連絡を聞いて通話を切った後、友華は窓の外の風景を見ていた。今、空に天の神の姿はない。姿を現してから数分程で霧のように消えていた。恐らくは神樹が樹海化したことでその空間へと勇者達ごと移動させたのだろうと予測する。だが、今回はいつもとは勝手が違うらしい。

 

 「っ……また地震ですか。これは今、勇者の子達が戦っているということなのでしょうね」

 

 現実世界では断続的に地震が起きていた。空も赤い空間が穴空きのように見えたままで、地震の影響か建物の一部が崩れたり地面にヒビが入ったりしているらしい。幸いにも死者こそ報告に上がっていないが、重軽傷を負った人間が両手の指では足りない程出始めている。

 

 つまり、現実世界は樹海での戦いの影響をリアルタイムで受けている可能性があった。それ即ち、普段と違って樹海での戦いは()()()()()()()()()()ことを意味する。それも力の差が開いたことが理由なのだろうが、現実世界がバトルフィールドとならなかっただけまだマシなのだろう。

 

 (神婚が行われていないということは……勇者の子達が結城さんを止めたのか、それとも私の想像とは違って()()()()()()()()()()()()のかしらね)

 

 思い返せば、大赦の巫女が受け取った神託は楓を端末事連れてくるように、友奈を連れてくるようにとのことで神婚については触れられていなかった。それをタイミング的にそうに違いないと、巫女を含め大赦の上層部は早とちりしたのだろうか。友華はそう予想した。

 

 しかし、それを確認する術はない。神樹の意思を聞くことは出来ないのだから。友華が、大赦が出来ることは樹海に干渉出来ない以上何も無い。強いて言うならば、勇者達の勝利を祈ることくらいだろう。

 

 今頃、神婚成立を前提として動いていた大赦の人間、上層部の者達は一向に始まらない神婚に混乱していることだろう。本来なら友華もその1人なのだが、不思議と今は落ち着いていた。それは少し前に勇者達の決意を聞かされたからか……それとも、元々友華個人としては神婚に然程乗り気ではなかったからか。

 

 (……きっと、これが勇者になれる子供達と勇者になれない大人達の違いなのでしょうね)

 

 世界の為に動いてきた大赦。それには決して言葉に出来ない、後ろ暗いことだってしてきた。世界の為に、人類の為に。滅びを先延ばしにし、小を切り捨て大を取り、勇者という本来なら加護されるべき子供達を死地へと送り続けてきた。

 

 思うところはある。決して、嬉々としてやってきた訳ではない。それしか方法が無かった。それ以外に取れる手段など無かった。300年考え続け、模索し続け、それでも見出だせなかった。いつしか現状を維持し続けることがやっとになり、天の神を倒して未来を手にすることがどれだけ無謀であるかを悟り……遂には神婚をするしか、未来を諦めるしかない所まで来てしまった。

 

 だが、それは大人達の考え。いつだって子供達は、勇者達は未来の為に戦い、未来を諦めることもなかった。当代の勇者達は特にその気持ちが強い。世界の真実を知りながら、散華で夢を失いかけながら、死にそうになりながら……そうして幾度と絶望を前にしながら、それでも未来を目指して戦っている。

 

 大人は、大赦は現実的だ。だから不確定な方法を取るよりも確実な神婚という手段に出た。未来など、もう目指せないと諦めた。この先に未来など無いと……諦めてしまった。それでも勇者達は天の神を倒すという不可能に等しい手段を取った。そして……神樹は、神婚よりも勇者達に手を貸すことを選んだのだろう。

 

 (なら……神樹様を崇め奉る大赦の人間として、それを受け入れるべきなのでしょうね。そもそも今の私達に出来ることはないのですし……それに)

 

 そう、何も出来ることはない。大人は戦えない。止まった時間内を動くことが出来ない。樹海化に巻き込まれることもない。肉眼で樹海化を見ることも出来ないし、その身で戦いの空気を感じることも出来ない。戦いが始まった時点で、勇者以外の人間に出来ることはないのだ。

 

 だが、今は祈るくらいは出来る。勇者達の無事を、勇者達の勝利を。滅びるか、未来を得るかは全て勇者達次第。そう考えながら、友華は祈るように両手を組んで目を閉じる。

 

 (私も……未来は欲しいのですから。夢だって出来てしまいましたからね。具体的には死ぬまでに義理の息子のお嫁さんを見て孫を貴景さんと抱きたい……)

 

 

 

 

 

 

 「ぅ……ぁ……っ」

 

 か細い声を漏らしながら、気絶していた風は気が付いた。気絶していた時間はほんの数秒程度。体を起こそうとした風の体中に痛みが走り、火球を受け止めたせいか手足や頬に少しの火傷もしている。それらに耐えつつ両手を着きながら起こし、辺りを見回して絶句した。

 

 周囲の樹海は焼け焦げて勇者服の上からでも熱いと感じる程の熱気を放っており、現実世界に及ぼす影響は想像も出来ない。それ以上に、仲間達の状態が問題だった。

 

 「樹……夏凜……ぎ、い、うぅぅぅぅっ!」

 

 元々打たれ弱い樹と5人の中で1番ダメージを負っていた夏凜の2人は、さっきまでの風と同じように焼け焦げた樹海の上で気絶していた。咄嗟に立ち上がって駆け寄ろうとした風だったが、右足に走った激痛で駆け寄るどころか立ち上がることも出来なかった。

 

 涙目になりつつ自分の右足に視線を動かして見れば脛の辺りから変な方向に曲がっている。誰が見ても折れていることは明白だった。しかも満開が解けており、すぐ近くにあった大剣には大きな亀裂が走っている。火球を真っ向から受けたのだ、折れたり溶けたりしなかっただけマシなのかもしれない。

 

 そう、最大の切り札である満開が解けてしまっていた。樹も、夏凜も。つまり、精霊バリアを張ることは出来なくなり、上空に存在する天の神へ接近する方法が著しく制限されてしまった。

 

 「ぐ……園子と銀は……」

 

 痛みに顔をしかめつつ2人を探すと、3人から少し離れた場所にその姿を見つけた。流石は先代勇者と言うべきだろうか、3人とは違って立っており、その顔は上空の黒い楓へと向けられている。しかし……園子は槍を、銀は斧剣を杖にしてようやくと言ったところ。しかも銀に至っては2本あった斧剣の1つが半ばから折れていた。無論、2人の満開も解けてしまっている。

 

 正しく満身創痍。満開の仕様が変わってしまっている今、攻撃をしたり防いだりすることで満開ゲージを溜めることも出来ない。精霊バリアによる防御も無い。自由に動くこともままならず、空を飛ぶ相手への攻撃手段も少ない。

 

 対して、黒い楓は無傷だった。園子の攻撃によって割れた4枚の鏡はそのままだが、本人には汚れ1つ存在しない。満開時の宮司服に似た衣装をはためかせ、無感情に5人を見下ろす黒い楓。圧倒的、絶対的とすら言えるその力の差は、はっきりと示されていた。

 

 「……それ、でも……まだやれるわよ」

 

 「フーミン、先輩……うん、そうだよね~」

 

 「ああ……あたしらは、まだやれる。勇者は、気合いと根性だ。まだ動ける……まだ、戦える!」

 

 「……う、あ……お姉……ちゃん?」

 

 「っ……寝てたみたいね……」

 

 大剣を杖代わりに、風は立ち上がる。左足1本かつ右足に負担がいかないように大剣に体重をかけている状態だが、それでも立った。立って、黒い楓を……その向こうに浮かぶ天の神らしき物体を睨み付け、はっきりと口にする。

 

 まだやれる。まだ立てる。まだ、戦える。園子と銀も同意しながら前を、上を向く。少し遅れて気が付いた樹と夏凜もよろよろと立ち上がり、3人と同じように天の神を睨み付けた。

 

 ……勝ち目など、無いだろう。満開しても勝てなかった相手に、傷付いた体で満開も無く勝てる訳がない。誰もがそう思う。誰もが理解出来る。だが、5人の目に諦めの感情は浮かんでいない。未来を諦めたりしていない。その戦意は、少しも薄れていない。

 

 そんな5人を見下ろしていた黒い楓だったが……やがて、興味を失ったように視線を外した。その視線の先にあるのは……神樹。数秒の間を置いて1枚の鏡が強く発光。黒い楓の前に光が収束していく。それは獅子座が放つレーザーの準備でもあり、かつてそれを見たことがある園子と銀が慌てる。

 

 「ヤバい! 獅子座のレーザーが来る!!」

 

 「っ、体が……」

 

 「少し、でも……雲外鏡……お願い!」

 

 それが来ると分かっていても、肝心の体が動かない。至近距離の火球の爆発のダメージはあまりにも大きい。そんな中で動いた……動けたのは樹だった。雲外鏡の力を使い、黒い楓と神樹の間に緑色の光の壁を作り出して盾としたのだ。それをレーザーが発射されるまでに幾度と繰り返し、二重、三重、四重と続けて作り出していく。

 

 だが、無慈悲にも放たれたレーザーは光の壁などなかったように砕き、その勢いと威力を衰えさせることなく一直線に神樹へと向かっていった。5人の視線が神樹の方に向かい、最悪の想像をしてしまう。そんな時だった。

 

 

 

 神樹の前に巨大な白い花菖蒲と桜が咲き誇り、レーザーを受け止めてそれが消えるまで神樹を守りきった。

 

 

 

 「……間に合ったのね、東郷」

 

 「あ……皆さん! あれ! あれ!」

 

 「大声出さなくても分かってるわよ樹……」

 

 「園子……さっきのって!」

 

 「うん……ゆーゆとカエっちの……!」

 

 風の安堵の声。樹の涙目になりながらの興奮気味の声。夏凜の呆れと喜色が混じった声。銀の少しの困惑と大きな希望が内包された声。そして、園子の全てを言葉にし切れない思いの詰まった声。

 

 

 

 「うぅぅぅおぉぉぉぉおおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 それらの声に答えるように、雄々しい声と共に2輪の巨大な花の中心からやってくる黒い小さな影。徐々にそれは大きくなり、5人の目にはっきりとその姿を映し出す。本来の桜色の満開服のカラーリングが白に変更され、2本の巨腕にそれぞれ5つずつ、まるでブレスレットのように大きな水晶が付いている。そして、前髪の飾りが桜色の花菖蒲という姿に変わった……満開した姿の友奈を。

 

 「満開! 勇者ああああ! パアアアアンチッ!!」

 

 友奈は速度を落とすことなく右の巨腕と右手を引き絞り、突き出しながら黒い楓目掛けて進む。黒い楓は山羊座の光弾、水瓶座の水流、射手座の大量の光の矢で迎撃する。巨腕に光弾が、水流が、光の矢が次々とぶつかり……それらをまるで意に介さず、勢いを衰えさせることもなく、友奈の一撃は黒い楓へと迫った。

 

 迎撃が無駄に終わったことに対して特に表情を変えることもなく、黒い楓は蟹座の板を6枚全てを六角形を描くように重ねて防御する。ぶつかり合う拳と板の勝敗は、拳が板を全て破壊したところで決着。だがその間に黒い楓は後退しており、勇者パンチが当たることはなかった。

 

 「外した!? くぅぅぅぅっ!!」

 

 攻撃が失敗したことに驚いた後、友奈は直ぐに2つの巨腕を前に出して×字に重ねる。すると巨腕の水晶が2つずつ動きだし、友奈の前に正方形の壁を作り出した。その直後、獅子座の小さな火球と射手座の槍のような矢が同時に迫ってきた。矢が壁に直撃し、大きく下の方に後退した友奈に更に火球が迫り、それらも壁に直撃。結果、地面すれすれまで強制的に下がらされた友奈だったが、白い光の壁は健在。

 

 「全砲門、一斉射!!」

 

 友奈への攻撃が止まった後、友奈が飛んできた方向から8つの青い光の砲撃が黒い楓へと向かってきた。それは正面8方向から迫り、黒い楓はそちらへと視線を向けて光弾と小さな火球を飛ばし、相殺していく。

 

 相殺されたことで生まれた爆煙。その爆煙の中から、小型の自律行動する機械が4つ飛んできた。それは黒い楓に近付くとジグザグとそれぞれが動きながら細くも威力のあるレーザーを放つ。しかしそれは黒い楓が蠍座の尻尾をさながら鞭のように動かすことで防ぎ、更にはそのまま打たれて破壊される。

 

 「東郷さん! 前に楓くんとやってたみたいに!」

 

 「ええ! 友奈!」

 

 その間に近付いていた満開状態の美森。その上に友奈が陣取り、そんな会話の後をする。思い出すのは総力戦の時、楓と美森の2人が行った攻撃。

 

 美森の満開の全ての砲門が黒い楓へと向く。友奈は楓のように水晶全てを同時に動く様を想像して操作することなど出来ない。だが、()()()()()()()()()姿()()()()()()ことは出来る。友奈の巨腕に付いていた水晶10個全てが離れ、彼女が想像した通りに美森の周囲に配置され、尖った部分が黒い楓へと向く。

 

 「「せーのっ!!」」

 

 そして同時に放たれる、10の白い光のレーザーと8つの砲撃。放った後も連続して放ち、黒い楓を攻撃する。無論、撃たれっぱなしの黒い楓ではない。火球で、光弾で相殺し、水流と大量の光の矢で直接2人を狙おうとする。

 

 「おおおおりゃああああっ!!」

 

 「届いて! やああああっ!!」

 

 その直前、炎を纏って回転しながら飛んできた斧剣が水流を放っていた鏡に迫り、紫色の光を纏った槍が光の矢を放っていた鏡に迫る。それは力を振り絞った銀と園子が投げたモノであった。友奈と美森の攻撃に集中していた為か黒い楓はその2つが迫ることに気付かず、気付いた頃には既に遅い。斧剣と槍は狙った鏡に直撃し、カシャンッと高い音の後に落下。鏡に突き刺さるようなことは無かったが、直撃した鏡にはヒビが入り、力が感じられなくなる。

 

 だが、武器を手放して無防備になった2人を黒い楓は見逃さない。無事な鏡から蠍座の尻尾を出し、2人目掛けて伸ばした。満身創痍の中で武器を投げたせいか、2人が動く様子はない。このままではその鋭い針に貫かれる……しかし、そうはならなかった。

 

 「させませんっ!」

 

 「っ、サンキュー樹!」

 

 「おっとと……ありがとね、イッつん」

 

 樹がワイヤーを伸ばして2人の体に巻き付け、自分の方へと引き寄せた。それにより、尻尾による刺突は空振り、引き寄せられた2人は少しフラつきながらも何とか着地する。だが、やはり無理に動いたせいかその場で両膝と手を着いてしまう。更には尻尾が樹を狙って伸びてきていた。

 

 「っ!? ぁ……」

 

 「樹!」

 

 「イッつん!」

 

 瞬間、樹は動けそうにない2人を守るべく雲外鏡の力で緑色の光の壁を作り出す。それは尻尾の刺突を受け止め……数秒の間を置いて砕け散り、衝撃で2人の元まで吹き飛ばされる。痛みに顔を歪め、はらはらと舞う壁だった緑色の光を見てか細い声を漏らす樹に、容赦なく尻尾の針が伸びる。

 

 「させるかああああああああっ!!」

 

 妹のピンチに、風は左足だけで跳躍して間に入り、刺突を地面に刺して固定した大剣の腹で受け止める。着地と刺突を受け止めた衝撃で右足に激痛が走るが根性で押さえ込み、耐える。

 

 「お姉ちゃん! ダメ!」

 

 「ぐ……風さん!」

 

 「フーミン先輩! それ以上は剣が保たないよ!」

 

 「それでも、退くわけにはいかないのよ!!」

 

 動けない妹と後輩2人を背に、風はひたすら耐える。彼女達が動かない、動けない以上は守るしかない。友奈と美森は黒い楓と相殺し合っていて動けない。むしろ2人が相殺し合っているからこそ尻尾だけで済んでいる。夏凜もさっきまで動くに動けなかったようだが、今は風を助けるべく4人に向かおうとしていた。

 

 だが、その間にも刺突を受ける度に大剣のヒビが大きくなっていく。勇者の武器の中でも特に風の頑丈な大剣。自分と仲間の身をいつだって守ってきた風の自慢の矛にして盾。

 

 「アタシが……あんた達を守ってみせる!!」

 

 姉として、先輩として、年長者として。これ以上家族を失ってなるモノか。仲間を死なせてなるものか。天の神に、よりによって愛する弟の姿をした奴なんかに。風はその思いで、耐えて、耐えて、耐えて。

 

 

 

 しかし、遂に大剣に限界が訪れ……刀身が粉々に砕けた。

 

 

 

 (あ……死ぬ)

 

 風には刀身を貫き、砕き、迫り来る針がはっきりと見えていた。このままでは針は自身の腹部を大剣よりもあっさりと貫くだろう。そしてそれはきっと、後ろに居る3人の体も。明確な死の予感。守りきれなかった絶望。その2つが同時に彼女の心に襲い掛かり……そんな状態の彼女だからこそ、ソレはよく見えた。

 

 (……えっ?)

 

 真っ直ぐに進んでいたハズの針。それが、風を避けるように右へ動いていくのを。一瞬浮かぶ疑問。しかし、このままではど真ん中とはいかずとも脇腹に刺さってしまう。針自体の大きさもあるので致命傷に変わりはないだろう。

 

 「っっ!!」

 

 そうはさせないと、声を出す間も惜しんで針の側面に突っ込んだ夏凜が力の限り手の2刀で切りつける。それは針を大きく動かし、風から逸れて地面に突き刺さった。大剣が砕け、針が剃れたところを見て半泣きになった樹が動けるようになった瞬間、許さないとばかりにワイヤーで尻尾を締め上げ、そのまま力を入れて断ち切った。

 

 (今、針が……)

 

 「お姉ちゃん! 大丈夫!?」

 

 「風! 生きてるわね!?」

 

 「え、ええ。大丈夫、生きてるわよ」

 

 「フーミン先輩、守ってくれてありがとう」

 

 「助かりました風さん……須美と友奈は?」

 

 ヘタりこんだ風の後ろから樹が抱きつき、焦った様子の夏凜が前に立て膝を着いて肩に手を置いて揺さぶる。針の軌道を思い返していた風は少し反応が遅れたものの頷き、歩いてきた園子と銀が礼を言う。その後に彼女が呟いた声に、5人が同時に2人の方へと顔を向けた。

 

 5人が危機を脱した頃、2人の方にも戦況に変化があった。水流、光の矢を放っていた鏡を割られて攻撃手段が減った黒い楓。それでも2人の18のレーザーと砲撃を光弾と火球で相殺していたが、目に見えてその弾数が減っているのだ。

 

 「東郷さん、攻撃が……」

 

 「ええ、減ってる。これくらいなら私だけでも……行って、友奈!」

 

 「うん! うおおおおっ!!」

 

 少なくなった攻撃は最早自分だけでも充分だと判断した美森はそう言い、友奈はその言葉を受けて水晶を戻して黒い楓に向かって突撃。減ったとはいってもまだまだ光弾と火球は飛んでくるが、宣言通り美森だけでも充分に相殺出来た。

 

 黒い楓に近付きながら引き絞られる右の巨腕。そしてその手が届く距離になった時、黒い楓目掛けて突きだされ……その直前、背後の1つの鏡が強く発光し、ピンク色の卵のようなモノ……乙女座の爆弾が射出される。その爆弾と友奈の巨腕が接触し、2人の間に大きな爆発が起きた。

 

 「くぅぅぅぅっ!」

 

 「友奈! っ、満開がもう……!」

 

 爆発によって風達のところにまで吹き飛ばされる友奈。爆発に巻き込まれたのを見て心配そうな美森の声が響くが、彼女の満開の戦艦も端から花びらとなっていっている。満開が終わってしまうと理解した美森も満開が続いている内に5人の元に向かい、辿り着いて飛び降りたところで丁度満開も消えた。

 

 「東郷……友奈」

 

 「風、先輩……皆……」

 

 ようやく近くに集まった7人。代表するように風が声をかけると、友奈も少し涙声になりながら顔だけ振り返り、呟くように返す。

 

 「言いたいことはあるけど……ま、それは全部終わってからよ」

 

 「風先輩……はい!」

 

 「終わったら覚悟しなさいよ友奈。終わったら勝手に決めた罰として腕立て500回、スクワット3000回、腹筋10000回、それから……楓さんのお叱りをうけさせるから」

 

 「私死んじゃうよ!?」

 

 3人のやり取りに思わず全員が笑みを浮かべ、和やかな時間が流れる。だが、それも数秒程。直ぐに真剣な表情を浮かべ、これまでの猛攻が嘘のように静かな黒い楓を見上げる。

 

 何故か動きを止めている黒い楓。爆風を間近で受けたからか、ようやくその体に汚れの1つをつけることが出来ている。小さな鏡も6枚割られており、大きな鏡を除けばようやく半分。対して7人は友奈と美森以外が満身創痍、風に至っては武器も失っていて右足も折れている。切り札である満開も友奈以外使いきってしまった。

 

 改めて確認せずとも状況は絶望的。だが、それでも諦めという言葉も感情も7人は無かった。そんな中で、唐突に友奈が口を開いた。

 

 「風先輩……楓くんが真っ黒です!」

 

 「今更!? それを今更言うの友奈!?」

 

 「黒髪の楓君……やはり日本男児足るもの、髪色は黒よね。私とお揃いで個人的にはとても良いわ!」

 

 「あんたもか東郷! 楓はアタシ達と同じ髪色しか認めないわよ!!」

 

 「さっきも似たようなことしたよね~」

 

 和やかを通り越してユルい空気が流れる。だが、7人の視線は黒い楓から動いていない。空気は緩んでも気が抜けている訳ではないのだ。

 

 

 

 「……っ」

 

 

 

 そうして居ると、黒い楓が急に項垂れるように体を曲げ、右手を顔へとやった。それはまるで苦しんでいるようにも見え、7人の顔に困惑の表情が浮かぶ。いったい何が起きているのか、より黒い楓を注視して一挙手一投足を見逃さないようにし……勇者に変身したことで上がった視力は、その変化をハッキリと捉えた。

 

 僅かに見えている黒い楓の左目。それが、赤黒く毒々しい色と普段の楓の緑色の瞳の交互に変化していることを。

 

 「……目の色が……変わってる?」

 

 「……楓、くん?」

 

 「楓? 楓! “そこ”に居るの!?」

 

 黒い楓は天の神が作り出した偽物……それが勇者達の考えだった。元の体は今は神樹の元にあるし、連れ去れたのは魂なのだからその考えは間違いではない。ただ……考慮していなかった。いや、そんなハズはないと無意識に思いたかったのかもしれない。

 

 風が言った“そこ”に……黒い楓の中に連れ去れた楓の魂があり、ある意味で本当に楓と戦っていた等と言うことは。だが、あの黒い楓に楓の魂があるとすれば。

 

 (針がアタシを避けるように動いたのは……楓が何とかしようとしてくれたから?)

 

 (途中から攻撃の頻度が減ったのは、楓君が何とかしてくれたから?)

 

 (今苦しんでるのは……楓くんが、中で戦ってるから?)

 

 風と美森、友奈の頭の中で先の攻防と現状の理由が付けられていく。そして、同じ答えに辿り着く。あの黒い楓……もしくは、大きな鏡の中に楓の魂があるのだと。魂となっても……楓は今、共に戦ってくれているのだと。そう思うと、美森は自分の体が動き出すのを止められなかった。目の前に楓の魂を宿すモノが在ると思ってしまったから。

 

 「楓君っ!!」

 

 満開が消え、空を飛べないことを忘れたかのように美森は黒い楓に向かって跳び、手を伸ばす。その手で魂に触れられないとしても……伸ばさずには居られなかった。

 

 大切な人なのだ。ずっと隣に居たいと思うほど、大切な。傷だらけで横たわる彼を見るのはもう嫌だった。世界と彼を天秤に掛けたなら、間違いなく彼へと傾く。それほどに大事で、大切な。その彼がそこに居る。直ぐ近くに居る。届かないと頭で理解していても……動かずには居られないのだ。

 

 「楓くんっ!!」

 

 その美森を、泣きそうな声で名前を呼びながら友奈が追い越していく。美森よりも速く、美森よりも高く。彼と同じ白い勇者服に身に纏い、真っ直ぐに向かっていく。

 

 やがて、美森の体は失速し、落下を始める。満身創痍故に黒い楓に向かっていく2人を見上げることしか出来ない5人と同じように、彼女もまた友奈の背を見上げることになる。

 

 「友奈……楓君を……っ」

 

 「友奈……!」

 

 「友奈! 頼んだわよ!」

 

 「友奈さん! お兄ちゃんをお願いします!」

 

 「ゆーゆ……」

 

 「頼んだぞ、友奈!」

 

 美森が着地する。仲間達から声援が上がる。友奈の近くに夜刀神が現れ、彼女の手が苦しんだまま動かない黒い楓に触れる。それらが同時に起こった時。

 

 

 

 

 

 

 ― ……また来たんだ。後ちょっとだったのになぁ…… ―

 

 

 

 

 

 

 気がつけば友奈は、3度目となるあの空間に来ていた。

 

 「……あれ? なにこれ!?」

 

 但し過去2回とは全く違って植物が生い茂り、大小様々な動物が大量に居て……それを見た友奈から、驚愕の声が上がるのだった。




原作との相違点

・バカな、ここにあった原作の遺体が……まさか、生きていたのか……?



という訳で、風先輩達大ピンチ、ローアイアスからの満開勇者パンチ、ハイマットフルバースト(2回目)、3度目の正直というお話でした。ちょこちょこネタ挟んでますので、わかる人はニヤリとしてくれたら嬉しいです。

さて、いよいよ最後まで後2つ3つといったところです。なので、次回は本編ではなく番外編……そう、DEifの最後の予定です。本編完結を焦らすつもりではありませんが、先にこちらを終わらせた方が個人的にすっきりしますので。

本編完結後も蛇足という感じで書くのが決まっているゆゆゆい編ですが、DEifのように戦闘控えめにするかがっつりストーリー沿いで戦闘もするかでちと悩み中。キャラが倍以上多くなりますしね。楓とも色々絡ませたいですし……悩みどころです。戦闘書くのは楽しいんですがね。過去作も本作もめっちゃ楽しんでますし。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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