咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました。予定よりも凄い長くなったのでかなり時間が掛かってしまって本当に申し訳ないです(´ω`)(13000越え

ゆゆゆい、今回は満開園子でしたね。勿論無事爆死、出てきたssrももれなく全被りとなりました。つれぇ←

スカディ狙うもこちらも爆死。代わりにキャットが宝具5になりました。ニンジンを与えねはならんナ。

きらファンもみーくん狙うも無事死亡。代わりに花守ゆみりさんがやってるキャラが来ました。天華百剣も北谷狙うもすり抜けて鳴狐。運が良いやら悪いやら。

さて、今回は終と題してある通り、花結いの章27話~のネタバレがあります。苦手な方は覚悟して見ていってください。かなり詰め込んだので長いですが、楽しんで頂けたら幸いです。


番外編 花結いのきらめき ー DEif終 ー

 神世紀組7名、小学生組4名、西暦組10名、防人組6名(別人各込み)。そして、先程戦いの末に捕らえた赤嶺 友奈。総勢28名が集まる勇者部部室は今、重い空気に包まれていた。その原因は……捕まっている赤嶺 友奈の発言。その空気の中、園子(小)にぎゅう……と抱き付かれている新士は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 時は数時間程前に遡る。防人組と合流し、高知の土地を取り戻すべく動いていた勇者達。取り戻された土地を逆に奪い返そうとする造反神からの総攻撃が行われるものの勇者達は戦力を分けることで対応。それぞれが数えるのも億劫な数のバーテックスとの激戦を制し、土地を奪い返されることを防ぐことに成功する。

 

 「おめでとーっ。総攻撃ではあったけど……いやぁ皆凄いポテンシャルだね。バーンとはね除けた」

 

 部室に戻って全員の無事と勝利を喜びあっている中でしれっと混ざっていた赤嶺。歌野に何をしても無駄だと悟ったか? と聞かれるも彼女は造反神側ではあるが己は勇者であり、勇者は最後まで諦めないと断言。

 

 更には彼女が“神花解放”と言うと嵐が起きたかと錯覚する程の力が彼女から溢れ出た。彼女曰く、これまでも全力ではあったが最後の戦いに備えて強さの上限を突破したとのこと。その後、勇者達に最後の対決に備えてしっかり準備と鍛練をしてくるようにと言い残し、吹き荒ぶ風と共にその姿を消した。

 

 その言葉を受け、可能な限りの準備と特訓をしてきた勇者達。決戦の地となった樹海にて対峙した赤嶺から“赤嶺家”の役割と同じ役割に付いていたという“弥勒家”についての説明があったが、詳しい内容は割愛させて頂こう。

 

 「――火色、舞うよ!」

 

 そして始まる赤嶺 友奈との最終決戦。バーテックスとの戦いを主にしている勇者達と違い、赤嶺は対人に特化している。そんな彼女が“神花解放”というパワーアップまで果たしたことで、今までのどの彼女よりも強かった。周囲にバーテックスも居たとは言え、彼女はほぼ1人で24名もの勇者相手に圧倒。その強さがどれ程のモノか伺えるだろう。

 

 が、勇者達もこれまでの戦いを経てより強くなっていた。死闘と言っても差し支えない激闘を制したのは……勇者達。

 

 「最後に良いの入りましたねぇ……流石若葉さん」

 

 「赤嶺ちゃん、大丈夫? お腹千切れそうになったりしてない?」

 

 「怖いこと言わないでほしいなぁ……でも……ふふっ、自分の怪我より先に心配されちゃうようじゃ……これまでだね。敗けを認めるよー」

 

 そう言って赤嶺は抵抗を止め、東郷と千景によって拘束されながら勇者達と共に部室へと向かうことになる。赤嶺との長くも短い戦いに決着を付け、残るは親玉である造反神のみとなった勇者達。その親玉との戦いの前に、勇者達はやろうと決めていたことがあった。

 

 それが、この世界でのお役目……造反神を倒した後のこと。お役目が終われば、皆元の時系列の元の場所に戻る。西暦なら西暦へ、神世紀なら神世紀へ。1人で戦っていたなら、また1人になり……そして、辛い現実が、未来が待っている。そうしたことを後腐れなく、すっきりとさせる為の話し合いをするのだ。

 

 「あれあれ? 部室の様子が何か変……?」

 

 「あー。土地の殆どを貴方達が奪回したからね、この世界のバランスが崩れたんだよ。貴方達にとってみれば、良い意味かな。終わりが近い……まぁその内安定するんじゃない?」

 

 「同じようなことを神託でも確認しています」

 

 部室に戻り、どうにも室内の様子がおかしいことに気付き、口にしたのは樹。その疑問に赤嶺が答え、亜耶が肯定する。終わりが近い……その言葉を聞いて、何人かが顔をしかめた。

 

 そのまま赤嶺は現状の説明を始める。と言っても、確認の意味合いが強いが。最後の土地である高知、その殆どを勇者達は奪回した。後は高知の残りを取り返し、最後に造反神と戦い、鎮めることが出来れば晴れてお役目終了となると。残りを取り返すのは、赤嶺が知る限りでは難所と呼べる場所はないとのこと。

 

 「ここまでやってきた貴方達なら、簡単に出来るだろうね」

 

 「やっぱり、神そのものと戦うことになるのね」

 

 「うん。で、倒せば鎮めたってことでお役目終了。全員が元の世界に戻るんだよ……全ての記憶を失ってね。現実世界には、記憶を持って帰る事は出来ない」

 

 記憶を持って帰る事は出来ない。それ自体は、これまでの戦い、そして自分達でも色々と調べたり試したりしていた為、勇者達も予想はしていた。お役目が終わり、召喚された時に戻れば全ては元のまま。

 

 記憶は持ち帰れない。強くなった体や経験もその時間分無かったことになり、元に戻る。この世界で得た何もかもがリセットされるのだ。仲間達との特訓や戦いで得た強さも、喜怒哀楽の溢れる思い出も。プラスに考えれば年を取ってないということだと茶化すように赤嶺が言うが、それで笑える余裕は勇者達には無かった。

 

 「もし記憶を持ち帰れたら、それは凄く凄く力になるんだけど……」

 

 「やっぱり無理なのね」

 

 「ノートに書いておくとか? それか、肌に直接書いておくとか」

 

 「気が付いたら記憶にない文字が体に浮かんでるとか、軽くホラーだねぇ」

 

 「それ、軽くじゃなくて普通にホラーだよね。でも、勝手に消えてると思うよ。今はあくまで神樹の中だから何でもありなのであって、その理を現実に反映することは出来ないんだよ」

 

 それは決して神が意地悪をしているという訳ではない。例え神と呼ばれる存在であっても全知全能という訳ではない以上、どれだけ頑張ろうとも、どれだけ願われようとも不可能なことはあるのだ。

 

 故に……造反神を倒せば、全員が召喚された直後に戻る。そして、各々の戦いが始まり……。

 

 「この内の半分くらいは、過酷な運命を辿ることになる……火色、舞うよ」

 

 「っ……過酷な……運命……」

 

 勇者達の顔を見ながら、赤嶺はそう語ってボソッと戦いの時にも口にした、お役目をこなす際に言うルーティーンの言葉を呟く。その言葉に気付くことなく、東郷と園子(中)、銀(中)、風と樹の視線が自然と新士の方へと向いた。

 

 「またいつもの冗談って訳?」

 

 「今度は本気で言ってる。というか貴女は死ぬよ、白鳥 歌野」

 

 赤嶺は言う。歌野と水都の2人の拠点であった諏訪と若葉達6人の拠点である四国。その2つは連絡を取り合っていたが、やがてその連絡が取れなくなると。

 

 それを聞き、水都は驚くが雪花は理解を示す。水都は巫女であり、勇者は歌野1人。同じように北海道の勇者である雪花、沖縄の勇者である棗もまた1人で戦っている。無限に等しいバーテックス相手では、いずれその物量に押し潰されるのは自明の理である。

 

 「だから、また1人であんな所に戻るなんて嫌だよ。何か方法は無いの?」

 

 「簡単だよ。造反神を倒さなければ良いんだよ」

 

 「そう来るんですね……!」

 

 雪花が聞けば、赤嶺は笑いながら言い切った。そして、杏が睨むように赤嶺を見る。だが赤嶺は竦むこともなく、笑みを浮かべたまま続ける。

 

 この世界ではどれだけ時間が過ぎようとも年は取らない。肉体が老いることはないのだ。だから、皆がいつまでもこの世界に居ればいいのだと。

 

 「流石にそういう訳にいくか。赤嶺、お前! 私達を撹乱させようと」

 

 「ちょい待ちノギー!! 赤嶺の話を遮らないでくれない?」

 

 「雪花、お前……」

 

 「聞いてなかったの? 戻れば歌野は死んじゃうんだよ」

 

 「赤嶺の嘘じゃないの?」

 

 そんな赤嶺の言葉に、若葉はきっぱりとそういう訳にはいかないと言う。勇者という存在が公に知られていない神世紀とは違い、彼女達の時代において勇者とは人類の希望であり、若葉もまた自分達がそうであると認識している。だからこそ、一刻も早く元の時代に戻らねばならない。

 

 しかし、普段よりも強い口調で雪花が待ったをかける。彼女自身、元の場所に戻りたくないという思いがある。この世界で仲間の存在を知り、その温かさと心強さを知ってしまったからこそ、その思いは人一倍だ。それに加え、先の赤嶺の歌野が死ぬという言葉もあり、より難色を示していた。芽吹はそれは赤嶺の嘘ではないかと呟くが……。

 

 「じゃあ嘘だと思ってそのまま聞いてよ……雨野 新士くん!」

 

 「……なんですか?」

 

 「中学生になった君が、なぜここに居ないのか」

 

 「中学生のアマっちが……」

 

 「居ない理由……?」

 

 「前に風さん達は大橋に居るって……」

 

 「……めて」

 

 「それはね? 君が白鳥 歌野と同じように……元の世界に戻った後に」

 

 

 

 「やめて!!」

 

 

 

 「……それ、答え言っちゃってるのと変わらないよ」

 

 赤嶺は新士を呼び、彼は彼女が言うであろう言葉を予想しつつも聞き返す。その予想通りに、彼女は理由を口にし始める。中学生の彼がなぜ居ないのか……何故今更それを言うのかと疑問に思ったのは小学生組の3人。彼女達も召喚当時は疑問に思ったが、後から勇者部と新士自身から勇者の役目を終え、大橋に居て会えないのだと聞かされていたし、納得もしていた。

 

 だが、このタイミングで赤嶺が言ったことで同時に嫌な予感を覚えた。何故、歌野が死ぬという話の後にこの話をし出したのか。その嫌な予感を裏付けるように彼女は話を進める。そして、決定的なその単語を言う前に……耐えきれなかったように東郷が叫ぶ。それが、ある意味で1番の肯定であるのに。

 

 「もう1度言うよ。造反神を倒さず、皆でずっと此処に居ればいいんだよ」

 

 訪れる沈黙。東郷は思わず反応してしまったことに後悔を覚え、信じられない……信じたくないと新士の方を見る小学生組と3人を、誰もが痛ましげに見ていた。その視線の先に居る新士は特に何か言うこともなく、ただ赤嶺の方を見て……苦笑いを浮かべた。

 

 その苦笑いが、余計に痛々しさを感じさせる。何せ、小学生組以外の皆は知っているのだから。風から、樹から、東郷から、園子(中)から、銀(中)から。防人達もまた、彼女達と彼の告別式に参加したという雫から。

 

 「……何だか気まずい空気になってるけど、事実確認が先じゃないかな? 私が皆に色々としゃべった情報がデマかどうか、それぞれ裏を取れる人は居るでしょう?」

 

 諏訪がどうなったのか、新士がどうなったのか。赤嶺がそう言った後に、小学生組の3人の目が自然と中学生の自分達へと向かう。彼女達は正しく自分達の未来は姿だ。その未来の自分達が新士が本当はどうなったのかを知らない筈が無いと。

 

 だが、誰もが本当のことを口にするのを躊躇った。頭では理解している。この場において、隠すことよりも事実を伝えるべきであると。だが、そうすれば彼女達は間違いなく造反神を倒すというお役目を放棄する。自分達のことだからこそ、それが嫌でも理解出来る。今の自分達でさえ、そうなりそうなのだから。

 

 「事実だよ、3人とも。恐らくだけど、自分は戦いの最中に命を落としてる。だから、そもそも中学生の自分なんて居ないだろうねぇ」

 

 「「新士(君)!?」」

 

 「アマっち……そんな……」

 

 「……思ったより動揺してないんだね、君は。もしかして気付いてたのかな?」

 

 「ええ、まあ。色々ヒントはありましたから、割と早い内に」

 

 「そっか。いつくらいに気付いたのかな?」

 

 そんな皆の顔を見たからか、新士は自分から打ち明けた。未来の自分達から聞くよりも、本人がそれを既に認識し、事実として受け入れている……その事を直接言われた事は、3人にとってかなりの衝撃だった。そして他の皆もまた、本人の口から言わせてしまったことに胸の痛みを覚えた。

 

 だが、その新士が慌てるでも悲壮感を漂わせるでもなくさらりと言ってのけた事が、赤嶺には不思議に思えたらしい。彼女に……いや、赤嶺以外の者にとって、彼はどれだけ老熟した雰囲気や言動をしていたとしても小学生の男の子。そんな彼が自分の死を苦笑い気味に口にするというのは不思議でしかない。そして彼は、赤嶺の質問に対してこう返した。

 

 

 

 「この世界に呼ばれたその日にですけど?」

 

 「割と早い内にっていうか、幾らなんでも早すぎるんじゃないかな。察しが良いってレベルじゃないよね、ソレ」

 

 

 

 口元をヒクつかせる赤嶺を無視して、東郷達は3人に言う。自分達もどうにか出来ないか話し合っていた。須美達に記憶を持ち帰らせることが出来れば、彼の死という歴史を変えられるハズだからと。

 

 自分達だけではない。西暦組の勇者達も防人達も、この世界での経験や記憶を持ち帰ることが出来たらどれだけ歴史を良い方へと変えられるだろうか。だが……そんな方法は結局見つかってはいない。

 

 「だから、おっきいあたし……銀さんが最初の辺りで新士から距離を取ってたり……」

 

 「東郷さんが、新士君がぼた餅を食べる時に普段以上に嬉しそうにしてたり……」

 

 「園子先輩がアマっちによく抱き付いたりしてたんだね~……」

 

 「「……いや、それは昔から変わってないと思うけど」」

 

 「うわ、あたしそんなあからさまだったのか……」

 

 少しだけ、園子(小)の言葉で場が和み……彼女が新士の存在を確かめるように抱き付き、それを彼が受け止めてようやく冒頭に戻る。今まで自分達だけが知らずに居た事実を聞かされた3人。そのショックの大きさは計り知れない。

 

 「……でも、新士は今生きてる。現時点で生きてるなら……」

 

 「ええ。絶対に、そんな歴史なんて変えてみせる。そうならないように、今度は私達で守ってみせる!」

 

 「うん! これからは常時張り付いてるよ! だからわたしとおんなじ部屋でお泊まりしよう!」

 

 「「それはダメ」」

 

 「あはは……3人とも、ありがとうねぇ」

 

 歴史を変える。新士をそんな運命から守る。そう意気込む3人を、新士は嬉しそうに笑って礼を言う。そんな暖かなやり取りをする彼等を見ていた全員に、思わず笑みが浮かぶ。

 

 同じように話に挙げられた諏訪の2人だが、こちらも察しはしていた。巫女1人に勇者1人。増援も見込めない場所で戦い続けることは無理があった。

 

 そんな2人に若葉は言う。確かに諏訪とのやり取りは出来なくなったが、実際に諏訪がどうなったのかの記録は存在しない。彼女達の安否は不明であると。1つ言えるのは、四国が敵と戦う準備がて出来たのは歌野達のお陰であると。それを聞いて歌野は、それなら粘った甲斐はあったと爽やかに笑った。

 

 「南西の諸島も、北方の大地からも……壁の外が火の海になり、生命反応が途絶える」

 

 「……赤嶺。お前、無理して喋っていないか?」

 

 「け、敬愛している、お姉様の話をしている、から……」

 

 「いや……その前から、そんな感じがしている」

 

 「……冗談じゃないって。私はこの世界で楽しくやっていきたいよ。そう、戻らなければ良い。それで全てが解決する……簡単な話だよ」

 

 赤嶺から話を聞き、新士と歌野達がどうなったのか。また、自分達が居た場所がどうなったのかを聞かされ、雪花が強い口調で呟く。それは部室に良く響き、皆の耳に残る。そして雪花は全員に本音はどうなのかと問いかけた。

 

 

 

 ― 元の世界に戻るべきか。戻らざるべきか ―

 

 

 

 しばしの沈黙。俯いたり目を閉じたり、或いは誰かを見ていたり。行動に差異はあれど、誰もが真剣に考えた。そうして数分ほどした後、雪花が再び口火を切る。1人1人の意見を聞き、戻らないと言った人間が多ければこのままこの世界に居ようと。

 

 「1つだけいいですか? その意見の判断材料となるべき情報があります」

 

 その前にと、ひなたが待ったをかけた。この不思議空間は神樹の空間である。故に、その維持には神樹のエネルギーが使われている。それは現実世界の結界を維持するよりは低燃費なのだが、それでもエネルギーを消費している以上、この世界に永遠に居ることは不可能であると。それを踏まえた上で意思を伝え合おうと。

 

 「……いずれきちんと話し合いをしたいと思っていたけど、なんだか急になっちゃったね」

 

 「こっちとしても結城っち達と揉めたい訳じゃないから、そこは申し訳ない。結城っちや新士君、歌野達は本当に優しくしてくれたからね。お陰で、こういう状況でも心は幾分穏やかだよ」

 

 そして、全員が自分達の意思を言い合う。雪花は勿論反対。造反神は倒さず、居られるだけこの世界に居ることを望んだ。ぎりぎりで倒し、それで幕引き……そのような最後が良いと。

 

 それでもいいのではないか。だが造反神を野放しにしてどういう逆転劇が起きるかもわからない。鎮める時に鎮めておかねば危険な可能性がある。むしろ、それこそが赤嶺の狙いではないか。自分達が長く居すぎるとエネルギーの問題で神樹に悪影響が出るのではないか。そうしてリスクの話も一段落付いたところで、今度は話題に挙げられた歌野が意見を言う。

 

 歌野は戻ることを選択。無論、彼女としてもこの世界には長く居たい。が、神樹に悪影響が出たり造反神に逆転の目を与えそうになる前に決着はつけるべきだと。

 

 「諏訪の皆が待ってるし、現世の運命は変えてみせますので!」

 

 そして、危険と分かっていても水都にも共に居て欲しいと。水都はそれを聞いて本当に嬉しそうに涙混じりの笑顔を浮かべ、どこまでもついていくと告げた。そんな2人のやり取りを聞かされ、ますます2人が好きになったと雪花も笑い……だからこそ、ずっと此処に居たいのだと改めて告げた。

 

 「流れ的に、同じように話題に挙がった自分ですかねぇ。自分も戻りますよ。この世界は居心地が良いし、本音を言えばずっと居たい。ああ、居たいとも。それでも……元の世界にも、自分にとって大切な人達が、守りたい人達が居るんだからねぇ」

 

 「新士君……」

 

 「新士……」

 

 「アマっち……」

 

 「……ホント、小学生とは思えないよ。だけど、私はそんな君を尊敬するし、本当に勇者なんだなって思える。凄いよ……君は」

 

 いつものように朗らかな笑みを浮かべる新士。普段なら安心感を与えてくれるその笑顔も、今はどこか不安になる。そんな感想を覚えた中学生組だったが、彼がどう言うかは予想が出来ていた。そして、予想通りに彼は戻ると言った。

 

 同じお役目の仲間である3人が辛い思いをするのなら、己が彼女達を守り、その為に幾らでも頑張る。元の世界で離れてしまった元の家族の為にも、今世話になっている養父や知り合いの為にも。その誓いと決意は、今も彼の胸の内にある。だからこそ、戻るのだと。

 

 「ここに長く残り続けた分、何かアクシデントが起きてしまうのなら……私も戻る」

 

 同じように話題に挙がったいて棗もまた、戻ることを選択した。彼女にも待っている人が、沖縄の人々が居るのだと。それを聞いて、雪花はまた言うのだ。棗も勇者だと……自分は、そんなに強くなれないと。

 

 戻るという意見が続く中で、須美は雪花と同じ意見……此処に残ることを選択し、園子(小)もまた同じ意見だと言う。彼が死ぬ、そう聞かされて素直に戻ることなどしたくはなかった。例え彼が戻るつもりで居ても、せめて対策が見つかるまでは戻らない……戻させないと。

 

 「あなたもそう思うでしょう? 銀」

 

 「……いや、須美と園子には悪いけどさ、あたしは新士と同じだよ」

 

 「ミノさん!? なんで……だって戻ったらアマっちが……!」

 

 「だってさ、新士は本当はこの世界に居たいって思ってて……それでもって言ったんだ。あたしだって新士が死ぬって聞かされて、本当ならずっとここに居たいけどさ……」

 

 「だったら!」

 

 「だから、あたしは新士の気持ちを尊重してあげたいんだ。だーい丈夫! 新士が死ぬ歴史なんて、あたし達なら変えられるって! 絶対……死なせたりしないって」

 

 「銀ちゃん……ありがとうねぇ」

 

 「でも、本当はあたしも須美と園子寄りなんだゾ? 対策とか、記憶を残す方法を考えたりとか、やれることは全部やるつもりなんだから……大事な仲間なんだからさ」

 

 意見が割れる小学生組を見て、中学生組の心が痛む。自分達の心情は須美と園子(小)に寄っている。銀(中)でさえ、そうだ。だが、過去の銀はそうではなかった。新士の事を考えた末に、その意思を尊重すると言ったのだから。彼の死に様を直視した未来の自分には出せない答えに、銀(中)は眩しそうに目を細めた。

 

 そうして話していると聞き慣れたアラームが鳴り響き、敵の襲来を知らせる。勇者達は一旦頭の中を切り替え、全員で倒しに向かった。だが、話し合いの途中だったからか心の整理がつかないままだったからか、普段よりも連携が上手くいかずに苦戦してしまった。

 

 部室に戻り、話し合いの続きをする勇者達。順番に意見を言っていくが、やはり意見は割れる。記憶をどうにかする為の最大限の努力をしてからと告げた上で、若葉とひなたは戻ることを選択。千景と高嶋は皆が居るこの世界に残ることを選択した。少なくとも、全員が帰る選択肢に納得するまでは帰らないと。

 

 球子、杏は帰ると言った。神樹の作ったこの世界は良い場所だが、自分達は勇者であり、だからこそ神樹の思った上を行かなければならないのだと。防人達は雀を除いた4人……シズクを含めた5人は戻るとのこと。そして、讃州中学勇者部の7人は……。

 

 「……姉さん達は、どうなんだい?」

 

 「答えは出ているわ……アタシは残る。だって、やっと楓と会えたのよ? それに、楓も歌野達、杏達も棗も……普通逆でしょ? 死ぬと言われてる人間達が戻ることを選ぶなんて」

 

 「本当にね。普通それ聞いたら絶対戻りたくない。なのに……勇者故にさぁ。良い奴らだからさぁ……新士君なんて小学生なのにさぁ」

 

 「納得行かないのよね、アタシは」

 

 「お姉ちゃんと同じ意見です。もっとお兄ちゃんと、もっと皆さんと居たいですし……皆さんを死なせたくなんかありません」

 

 「私は須美ちゃんと同じ。また会えた新士君と別れたくなんかない! 私は、もっと貴方と一緒にこの世界で過ごしたい!」

 

 「……そうだね。わたしも……まだまだアマっち達といっぱいやりたいことがあるんだよ。だから、ここに残りたいよ」

 

 「……あたしも、残りたい。ずっと後悔してきた分、この世界で一緒に居たいんだ」

 

 (やっぱり、姉さん達はそうなるか……嬉しいけれど、ねぇ)

 

 家族と、未来の同じお役目に着いた仲間達の意思を聞いた新士は苦笑いを浮かべた。それだけ想われていることは素直に嬉しい。故に、残ることを選択するのは予想出来ていた。しかし、彼としてはいつまでも己の死に囚われていて欲しくはない……それが、まだ幼いと言える年齢の彼女達にとって辛く悲しいことであっても、そう思わざるを得なかった。

 

 友奈と夏凜もまた、この世界に残ると言った。死ぬと言われた皆を元の世界に返したくはない。皆と共に生きたいのだと。帰る14、残る13。多数決で言えば、帰るべきだ。だが、ほぼ真っ二つに割れた意見と勇者達の気質もあり、その意見が通されることは無い。だからこそ、話し合うしかないのだ。全員が納得出来るまで、何度でも。

 

 だが……そんな時間など与えないとばかりに、造反神が自ら攻めてきた。

 

 

 

 

 

 

 そこからは、正しく怒濤の展開と言っていいだろう。攻めてきた造反神は神の名に相応しく、鏡のような姿をした巨大かつ強大な存在であった。残る組の“このまま造反神を倒したら、終わってしまうのではないか”という恐怖にも似た思いが連携を取れなくし、犠牲が出る前に一旦退くことを選択する程に。

 

 心がバラバラでは勝てない。だがどれだけ話し合っても纏まる気配はない。赤嶺が煽るように言うまでもなく、話し合うことになっていた時点でなるべくしてなった状況。そんな状況で言い合う中で、何やらボソボソと銀(小)が新士に耳打ちし、新士はそれに頷く。

 

 「はいはい! 皆さんにあたしと新士から提案がありまーす!」

 

 「銀……? 新士君……?」

 

 「いやね? 銀ちゃんがこのままなら話が纏まりそうにないし、自分達に運命をはね除ける力が無いと思われてるみたいで嫌だからってさ」

 

 「そう! だから、須美達にあたし達の力を見せつけてやるとこにした」

 

 「ミノさん、アマっち……それってつまり……」

 

 「思えば、自分達はケンカらしいケンカはしたことがなかったねぇ……という訳で、だ。青春ドラマよろしく、自分達の意思を拳に込めて殴り合いでもしようじゃないか。自分は真っ先に姉さんの顔を狙わせてもらうけど……爪が刺さったらごめんね?」

 

 「怖いわ!!」

 

 そんな2人の意見を聞き、全員が試合による物理的な対話もやむ無しと本当に古い青春ドラマよろしく河原にて残る組と戻る君で試合をすることに。巫女全員が含まれている戻る組は人数的に不利ではあるが、その強い意思と必ず運命を変えるという気迫を持って圧倒。いつの間にか拘束から抜け出した赤嶺が盛り上げる為だと言って出した疑似バーテックスすらものともしなかった。

 

 だが、残る組もやられてばかりではいられない。自分達だって気持ちも、気迫も負けてはいないのだと。仲間達が大切であるから、決して失いたくないから。だからこそその気持ちを拳に、武器にのせてまたぶつかっていった。因みに、新士が本当に風を狙って殴りかかってきたことに風は軽くないショックを受けていた。

 

 2度の全力同士のぶつかり合い。それはお互いの気持ちの強さを見せ付け合い、決着が着く前にお互いがマトモに戦えなくなるまで疲労して戦闘不能になる形で落ち着き……部室に戻ってから、まだ口は動くととことん話し合うことになった。

 

 お互いにお互いを思い合っている。だからこそ、その答えに、この話し合いに正解というモノは存在しない。それでも答えを出すために、お互いの気持ちを何度でも確かめて、理解して、言葉を交わして……そして、1つの結論に到達する。

 

 出来るだけ長く居たい。だが、帰る時が来れば……その時は潔く帰ると。この世界は楽しい。だが、皆と争いあってまで居たくはないと。それでようやく……皆の顔に、本来の笑顔が浮かんだ。

 

 「で、のこちゃんはなんで抱きついているのかねぇ……須美ちゃんと銀ちゃんも両手を繋いだりして」

 

 「新士君と銀が私以上に頑固とは思わなかったもの。意見を変える、なんてことはしないでしょうから……」

 

 「付きっきり作戦だよ~。おはようからお休みまでこうしてるよ~♪」

 

 「あたしはこの手を絶対離さないってことを行動に現してみた。どうだ銀さん、これなら新士が1人になったりしないだろ? 新士のことは、この若い方の銀にお任せあれってね!」

 

 「……他にもっと言い方はなかったのかよ。この、生意気な奴め」

 

 「ちょ、苦しい、苦しいですって!」

 

 「……確かに、これなら1人で居る、なんてことにはなりそうにないねぇ」

 

 「新士君……そうね。そのっち、私達も」

 

 「……うん。ミノさんズルいよ~。わたしも園子ちゃんごとぎゅうってする!」

 

 ぎゅうぎゅうと新士を中心に集まる過去と未来の先代組6人。今みたいに彼の側に誰かが居れば、彼が死ぬようなことはない。もしかしたら、本当に自分達の時とは違って3人の内の誰かが側に居るかもしれない。そんなことは起き得ないと理解しているのに、もしかしたらと思えた。

 

 和やかな空気が部室の中に流れる。試合前のようなギスギスとした、不穏な空気は最早存在しない。ぶつかり合い、気持ちを伝え合えたから。それぞれが笑い合い、7人の姿を微笑ましげに見ていた。それは赤嶺も例外ではなく、彼女も本当に嬉しそうに勇者達の姿を見ていた。

 

 「おねショタもロリショタもいいけれど、ショタ中心のハーレムも園子先生のお陰で好きになれそう……というかなりました。この風景、絶対に記憶に刻み込んでみせます」

 

 「遂にぼかすことなく口にしたなあんず。元の世界に戻ったら、あの女の子らしいあんずが帰ってくるのかタマは心配なんだが」

 

 幸いにも、それは小声だったので聞こえた者は居なかった。

 

 造反神が再び現れる前に意見が纏まり、心を1つにした勇者達。その姿を見た赤嶺はようやく心から降伏し、皆に協力すると告げた上で自身に課せられていたお役目について話し始めるのだが……詳しい事情は省かせて頂こう。簡単に言えば、今回の出来事は全て造反神……神樹からの試練であるということだ。

 

 赤嶺を迎え入れ、しばしの休息に歓談にと楽しい時間を過ごす。だが、ここで造反神が再度攻めてきた。味方となった赤嶺の案内を受け、迎え撃つ勇者達。今まで以上に団結し、巨大な造反神に怯えることもなく、むしろ皆と共に不敵に笑う。お互いに声を掛け合い、信頼し、絶対に造反神に、神様達に自分達人間の強さを信じてもらうのだと奮起して。

 

 

 

 「勇者達よ! 私に続け!!」

 

 【おーっ!!】

 

 

 

 若葉の号令に全員が息を合わせる。造反神との、この世界での最後の戦いに身を投じて。

 

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 それはきっと、試練をクリアした勇者達を認めてくれた神様達が用意した最後の触れ合いの為の時間。勇者部室の掃除をして、祝勝会をして、皆で手を繋いで円陣を組んで、この世界で起きた今までの出来事に感謝の言葉を告げて。

 

 そして、1人ずつ花びらとなってこの世界から消えていく。感謝と再会の言葉を残して、涙を我慢して、笑顔で。

 

 最初は歌野と水都。次に棗。若葉、ひなた、高嶋、千景、杏、球子。赤嶺。芽吹、雀、夕海子、雫とシズク、亜耶。雪花。そして……。

 

 「私達も転送が……」

 

 「もう1人のわたし……元気でね」

 

 「ようし! 戻ったら気合いを入れるぞー!」

 

 「そうだねぇ……頑張らないと、ねぇ」

 

 小学生組の転送が始まる。新士とまた、離れ離れになってしまう。東郷も、園子(中)も、銀(中)も、風も、樹も、手を繋ぐ4人の姿に、只でさえ弛んでいた涙腺が更に弛む。それでも、笑顔を浮かべた。2度と会えないとしても。永遠の別れになるとしても……必死に、笑顔で終わらせようとした。

 

 (ああ……もう、終わりなんだねぇ……)

 

 それは新士も同じだった。終わりなのだ、何もかも。姉の料理を口にすることもない。妹の歌を聞くこともない。己の為に作られた焼きそばも、餅が苦手だと知ってから一口サイズにしてくれたぼた餅も、吹っ切れてから一緒に外で遊んだことも、何もかもがその記憶から消える。

 

 手を繋ぐ彼女達の未来の姿を見ることも出来ない。それを知りつつ、新士は目の前の未来の彼女達の姿を焼き付ける。その中に己が居れば、どれだけ良かったか。決して叶わぬ未来を夢想する。再び出会えた奇跡を覚えていられないことを残念に思う。だが、悲観はしない。彼女達が生きていることが嬉しいから。だから……笑って、再会の言葉を。

 

 「またね」

 

 声が震えた。確かに浮かべた彼の笑顔に、堪えきれなかった一筋の(ほんね)が零れた。花びらとなって消えていった……言葉にならない彼の心の声を、残された7人は確かに聞いた気がして。

 

 誰かが泣いた。誰かが彼の名を呼んだ。誰かがそれを支えて、皆と同じように笑顔でこの世界から消えて。そして……元の世界に戻ったら、何一つ覚えていなくて。残酷な未来は訪れるのだ。

 

 

 

 

 

 

 それは、少し未来の話。生贄となった東郷を助けたことで天の神に呪われた友奈が、その命を掛けて神樹と神婚することで世界を救おうとして……そんなことは認めないと、仲間達が頑張る話。

 

 けれども仲間達は力尽きてしまった。今まで助けてくれていた神樹にすら少女を助けることを妨害され、その身を守ってくれていた精霊達のバリアに行く手を阻まれ……身も心も凍る寒さの中で倒れた東郷は、確かに見た。

 

 「……新士君……?」

 

 オレンジ色の、彼の形をした魂が真っ先に彼女の隣に現れ、彼に続くように沢山の、これまでの勇者と巫女の魂がバリアに触れ、それを砕いた。東郷を阻むものは無くなり、彼女は友奈を神樹から取り返す。

 

 「私は……私達は、人として戦う! 生きたいんだ!!」

 

 人間を信じた神樹が、その力を友奈へと集め、彼女がその力を纏う。そしてそれは大輪の花を咲かせ、友奈は力と想いを全て拳に載せ、上空の天の神にへと突き出した。

 

 仲間達の光が、彼女の右手に宿る。彼女の通った軌跡に、勇者部の大きな満開の花が咲く。桜が、サツキが、鳴子百合が、オキザリスが、バラが、アサガオが、牡丹が。

 

 そして……オレンジ色のガーベラの花が咲いて。友奈はまるで、誰かに優しく背中を押されているような気持ちになって。ガーベラの花が全ての花を押し上げるように友奈に向かい、8つの花が1つになって。その拳は、確かに天の神を打ち抜いた。

 

 樹海が、神樹が消え、空には澄み渡る青空が広がる。結界も消え、外は火の海ではなく本来の土地が姿を現す。いつの間にかいつもの屋上に戻ってきた7人は世界が無事なことに安心し、友奈の呪いが消えて全員が無事であることを泣いて喜び……。

 

 そんな7人を少し離れた場所で見ていたオレンジ色の少年の姿をしたナニカは、嬉しそうに朗らかな笑みを浮かべて……神樹と同じように、安心した表情で花びらとなって消えていった。




今回の補足

・地味に出た養父。この時点では真実を知らないからね、仕方ないね。

・相対した銀(小)と銀(中)。違いは凄惨な光景を見たか否か。きっとどちらの気持ちも正しい。

・オレンジ色の影。勿論新士です。原作銀ちゃんのポジションですので。花も花菖蒲ではなくガーベラのまま。未来という名の希望に向かって前進する彼女達の力になりました。



という訳で、これにてDEifは終了となります。終わり方は賛否両論ありそうですが、原作締めと決めていましたので。今後DEifは、番外編の番外編という形で書くかもしれません。少なくとも、誕生日の話は書きます。

思った以上に長くなったのは反省点。どっちつかずの頃から学習しねぇ……それはともかく、皆様に楽しんで頂けたら幸いです。原作ゆゆゆいの感動が少しでも伝われば良いのですが、がっつり書くのは本編完結後のお楽しみ。

さて、次回から本当に本編完結まで番外編無しです。それまで、そしてその後もどうか私と本作にお付き合いください。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
本編ゆゆゆい。その時、“私”は……

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