咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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1週間を越えてしまって申し訳ありません……難産でしたが、ようやく更新です(´ω`)

fgoはボックスガチャ来ましたね。今度こそ50は開けたい所。スカディ狙いで爆死したので石はありません←

ゆゆゆいでは満開園子登場ですね。こちらは無事爆死です。新規ssrすら来ませんでした。偏りが本当に酷い。

ポケモン剣盾がSwitch無くて買えないので代わりに萌えもん鬼畜3やり始めました。トキワの森前の虫取少年にぼこぼこにされて泣きそうです。

前回のDEif最終回は概ね好評だったようで何よりです。最終回とは言ってますが、リクエストがあれば同じ時間軸で番外編とかやるつもりです。

さて……今回、難産だけあってかなり強引な展開、ご都合展開が含まれます。許せる方はそのままお進みください。許せないという方はお覚悟を←


咲き誇る花達に幸福を ー 20 ー

 少し時は遡る。何も出来ず、むしろ天の神の力を強めてしまうので仲間達を、世界を危機に陥れる一端を担うことになっていると知って無力感に苛まれる楓。ギリッと下唇を強く噛み、辛そうにする彼を見て……天の神の内心は穏やかではなかった。

 

 (そんな顔を……させたい訳じゃないんだけどな)

 

 天の神が楓に語った思いは全て本心だ。他の“私達”はともかく、“私”にとって人間は最早どうでもいい。ただ、彼と共に居たい。彼に側に居て欲しい。それさえ叶うのならば、他はどうでもいい。

 

 友奈を通して見ていた時のように、彼の朗らかな笑みを見ていたい。彼女がしてもらっていたことの全てを自身にもして欲しい。そうしてもらえたら、どれだけ幸福な事だろうか。しかし、そうしてもらえることは現状無いことも理解している。彼にとって大切な存在を、住んでいる世界を壊そうとしているのだから。

 

 だが……残念ながら、“私”にすら最早止められない。“私”は人間への怒りよりも楓という存在を求めた。だが……他の力ある神、“私達”は楓という存在に惹かれてはいるが、それよりも人間への怒りの方が大きかった。そして、それは神婚をしようとしていることで更に強まっている。300年以上続く怒りが、更に燃え上がっている。

 

 だから、止まらない。地の神のように思いが1つならともかく、人間への怒りと滅ぼそうとする意思の集合体であった天の神。“私”という自我を得た神はその筆頭であったが、今や少数派。“私”の意思も声も届かないだろう。尤も、“私”にとっても元々は人間嫌いなので止めようという気にもならないのだが。例えそのせいで彼の心が曇っているとしても。そう思っていると、戦況が少し動いたことを悟った。

 

 ― ……へぇ。思ったよりやるんだ ―

 

 「……なに?」

 

 ― そっか、楓くんは外の状況がわからないんだっけ。見せてあげようか? 外の世界が、地の神の結界の中が今、どうなっているのか ―

 

 数秒の間を置き、小動物の姿をした下級の神々に群がられている楓は“私”の問いかけに頷いた。“私”は楓の隣に座り、目の前に右手を翳して大きな鏡を出現させる。そういえば神樹も鏡を通して色々と見せてくれたなと思い返しながら、楓は鏡に映る映像を見た。

 

 そこに映っていたのは、巨大な天の神らしき存在に戦いを挑む勇者部の姿だった。友奈の姿が無く美森が途中で離脱したことは不思議だったが、天の神の猛攻に晒される彼女達の姿を見て楓は顔を青ざめさせる。

 

 「止めろ……止めてくれ!」

 

 ― ごめんね、“私”には止められないんだ。今、私はこの攻撃に……こうやって攻めていることに参加してない。私の意思は含まれていないんだ ―

 

 「そんな……」

 

 ― それに、もう止まらない。人間への怒りとかどうでもよくなった“私”と違って、他の“私達”は今尚その怒りを燃やし続けてる。神々の中で最も力が強かったからその意思と力を束ねていたけれど、今の私はその意思から外れてる。他の神々との力関係が逆転してるんだよ ―

 

 “人間はどうでもいい”という少数派の意見を持ったことで力の総量が多数派、人間への怒りを持つ神々の方が上回ってしまった。とは言うものの、“私”自体の力は大きい。追い出されたり迫害されたりすることはない。ただ、直接動く“私達”と傍観する“私”に別れてしまっただけ。

 

 だから止まらない。止める力よりも動く力の方が大きいから。楓に懇願されても、その願いを叶えようとしても、力が足りない。楓の存在で“私”の力が増しても、同じ天の神だからその力は埋まらない。むしろ少数派と多数派の数の差で開いてしまう。

 

 楓が再び無力感を感じている間にも戦いは続く。仲間達が傷付いていく。仲間達だけじゃない。樹海も傷付いていた。張り巡らされた根は裂け、焼け焦げる。現実にどれ程の被害が出るのか想像もつかない程に。

 

 (本当に……自分には何も出来ないのか。皆があれほど頑張って居るのに……自分は)

 

 考える。ただ、ひたすらに楓は考えた。魂でしかない自分に、出来ることは本当に何一つ無いのかと。

 

 (守ると、側にいると、一緒に戦うと誓ったんだ。小学生だった頃から中学生の今まで、ずっと。だから皆にだけ戦わせたくない。自分にも……意地があるんだ)

 

 鏡を見る。周囲の動植物の姿を(かたど)っている下級の神々を見る。怒りによって赤く染まっている空間を見る。隣に座る天の神を見て……そして、目が合った。

 

 ― さっきまで絶望したような顔だったのに、今は目に力がある。まだ、諦めてないんだね ―

 

 「当たり前だよ。自分はあの子達が大切だからねぇ……どれだけお前が自分に好意を抱いているとしても、自分はあの子達の為に……あの子達と共に戦いたいんだ。あの子達と共に頑張りたいんだ」

 

 ― ……羨ましいなぁ。あの人間の子供達も……地の神も。君にそんなにも思われているのが本当に……羨ましい。でもどうするの? 今の君に、何が出来るの? ―

 

 天の神は羨ましいとは言うが、そこに勇者達を害そうとする意思はない。本当に単純に羨ましかっただけだった。もし、己が天の神ではなく、地の神側……或いは人間として彼に出逢っていたら……そんなあり得ない想像をする程に。

 

 僅かに、只のアバターでしかない筈の体の胸が痛んだ気がした。その痛みを気にしないフリをして、天の神は友奈と同じ顔に笑みを浮かべて優しく問い掛ける。楓はその笑みにどこか悲しみが混じっていることに気付いて言葉に詰まるが、それよりもと考え、下を向く。すると、肌色に色付いてきた左手と未だ白いままの右手が見え……。

 

 「……賭けになるけれど……ギリギリまで、頑張ってみようか」

 

 その言葉と、後の行動に……天の神は驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 時は戻る。魂の姿にて3度目となる神の世界へと入り込んだ友奈。だが、そこは彼女が知る場所とは大きく違っている。灰色だった空間は赤く、雲のようなモノで埋め尽くされていた場所には植物に多い尽くされ、さながら森の中に居るかのよう。それに加え、光が形を作っている様ではあるが様々な動物の姿も見える。

 

 「前に来た時と全然違う……それよりも楓くんはどこだろう」

 

 ふわりと浮き、木々を避けながら進んでいく友奈。楓が何処に居るかはわからないが、動かなければ始まらないのだ。しかし、この空間が、森がどこまで広がっているかもわからない以上、目印や宛もなく探すのは少し無理があるのも事実。

 

 「あ、夜刀神ちゃん! 待って!」

 

 探し始めてから友奈の体感で数分。不意に、友奈の近くに夜刀神……の姿をした神樹が現れる。夜刀神が神樹であるとは理解しつつもついつい今まで通りの名を呼ぶ友奈の顔を1度見た後、夜刀神……神樹は友奈から見て右側へと進み、友奈も追い掛ける。

 

 神樹に置いていかれないようになるべく速度を落とさず、木々や動物にも当たらないように動く友奈。しばらくすると、森の中の開けた場所に出た。更にそこには友奈も見たことがある大きな鏡があり……その前に、見覚えのある白い髪の誰かと黒髪の誰かが居て……黒髪の誰かが友奈達の方に振り返った時、その顔を見た友奈は驚愕した。

 

 

 

 「私と……同じ顔?」

 

 ― 直接会うのは2度目かな……人間の子 ―

 

 

 

 黒い長髪の、自分と同じ顔を持つ誰か。思わず思った事を呟いた友奈の耳に届いたのは、これまた自分と同じ声で……その言葉を聞いて、目の前の存在が何なのかを理解した。

 

 「あなたが……天の神。じゃあその隣に居るのはやっぱり!」

 

 ― その通り。私が、お前達が言う天の神。そして隣に居るのは想像の通り……楓くんだよ ―

 

 「楓くん! 楓くん!! 返事をして!」

 

 ― 無理だよ。お前の声は聞こえてはいるけれど、楓くんに返事をする余裕はない。端末の動きを止めるのに必死だからね……というか、普通に私の声が聞こえてるんだ ―

 

 白い髪の誰かは、友奈の想像通り魂の状態の楓であった。そうだと言われ、友奈は必死にその名を呼ぶ。だが……返事は無い。どうして返事をしてくれないのかと焦りを覚える友奈に、天の神は真顔で淡々と説明する。

 

 「端……末?」

 

 ― お前達と戦ってた“黒い楓くん”のことだよ。元々はお前達人間がバーテックスと呼ぶ存在なんだけど、楓くんの魂の影響かガワがそっくりになっちゃってね ―

 

 「じゃあ……楓くんが戦ってる訳じゃないんだね!?」

 

 ― その通りだよ。逆に、動きを止めてる……こんな状態になってまでね ―

 

 「こんな……状態? っ!」

 

 楓と戦っていた訳ではないと説明を受けて安心したのも束の間、続く言葉に嫌な予感を感じて神樹と友奈は楓の側に寄り、前に回り込み……その姿を見て絶句した。

 

 「楓くん……何、これ……」

 

 ― そんな……これは、神に近くなってる!? ―

 

 「神樹様? どういうこと、ですか?」

 

 友奈は知り得ないものの、元々魂の状態の楓の姿は全身が真っ白、上半身は裸、下半身はダボッとしたズボンの腰を紐で結んでいるだけで、靴も履いていない裸足というモノだった。だが、今の彼は首から下の肌が見える部分は全て肌色に色付いている。

 

 首から上は真っ白で魂の状態の友奈と色が違う程度の違いしかないのに、それ以外はまるで肉体があるかのよう。その異常な姿に友奈は不安を覚え、光と共に夜刀神の姿から少女の姿へと変わった神樹の焦りの声を聞いてその不安が大きくなった。

 

 ― そのままの意味だよ。今の楓くんは人間よりも神に近くなってるんだ ―

 

 ― このままだと人間から外れる……本当に魂が肉体に戻れなくなってしまう! ―

 

 「そんな!?」

 

 ― だけど、空間の影響を受けているとしても早すぎる! どうしてこんなに近付いているの!? ―

 

 ― お前達を守る為だよ、地の神と人間の子 ―

 

 天の神の言葉に、友奈と神樹はそれ以上声を出せずに絶句する。そんな2人を無視して天の神は説明し始める。

 

 それは、楓が頑張ってみようかと告げた後のこと。彼は鏡の前に座り込み、目を閉じる。すると次の瞬間にはゆっくりと変わっていっていた魂……名を着けるなら、神化(しんか)が早まったのだ。短くとも2日は掛かると見ていた天の神にとってもそれは予想外のことだった。

 

 ― 神化が早まった? 楓くん、何を…… ―

 

 『お前が言ったんだよ? “自分には何も出来ない。神に成れば話は別だけど”ってね』

 

 ― 確かに言ったけど…… ―

 

 『なら話は早い。皆を助ける為には神に成ればいい。ギリギリまで、だけどねぇ』

 

 幸いにも楓達勇者は神樹様から力を借りて変身し、戦う存在。そして彼の武器は勇者の力の光……謂わば、神の力そのものに近い。誰よりも神の力を操作、扱うことに長けている。また、楓が神に成る理由はこの神の空間に存在する神の力が主な原因である。

 

 故に、彼は人間である為に無意識の内に拒絶していたこの空間内の神の力を()()()()()。その力は急激に彼に神化を促し、その体を肌色に染め上げていく。そして仲間達と戦っている自身の偽物を、自身の光を操作するように内側から操れるようになれるか試してみた。

 

 試す内に少しではあるが操作出来ることに気付き、完全に神に成りきるギリギリで再び拒絶したのだ。その結果として、首から上は白い魂のままで下は肉体のような異様な姿になってしまったが。1歩……いや、一瞬すら間違えばそのまま神に成っていた。そもそも本当に操作出来るかもわからない為に一か八かの1発勝負。それに、楓は勝ったのだ。

 

 ― なんて無茶を……! ―

 

 「楓くん……やっぱり楓くんも戦ってたんだね……」

 

 天の神の説明を聞き、神樹は泣きそうな顔でそう呟いた。友奈もまた泣きそうな表情を浮かべ……操作に集中している為に身動きも声を出すことも出来ない楓の前に片膝を着き、抱き締めた。

 

 「ありがとう、楓くん。楓くんのお陰で皆無事だよ。後は……楓くんだけ。楓くんが戻ってきてくれるだけ。あの時はあなたが助けてくれた……だから今度は、私が助ける。私が、皆が居る場所に連れていく」

 

 ― させると思ってるの? 後1時間もせずに彼は神に成る。私と同じ神に……そうなれば私はずっと楓くんと一緒に居られる。そうだと分かっていて、そのまま行かせると思ってるの? ―

 

 囁くように、友奈は楓に語りかける。彼は聴こえてはいるが、やはり返事をする余裕はない。ただ、僅かに身動ぎをしたことで聞いていると友奈は理解した。

 

 友奈の脳裏に浮かぶ、ほんの数日前の悪夢のような出来事。連れ去られた彼の魂、彼の血に濡れた自分の手。目を閉じれば、ハッキリと思い出せる。胸が苦しくなり、涙だって出そうになる。

 

 それでも、友奈は立ち上がれた。美森が立ち上がらせてくれた。神樹と楓に戦う力を貰って、仲間達に楓の魂を取り戻すことを託された。その全てを持って、友奈は助けると言った。いや、例えそれらが無くても助けた。友奈にとって彼は大事で、大切なのだから。

 

 だが、楓を抱き締める友奈の前に天の神が立ち、見下ろす。確かに彼は神に成る寸前まで行くことで魂の状態で天の神の端末に何とか干渉できている。だが、それだけ神化が進んだということであり、予定よりも早く彼は神に成る……天の神が求めた通りに。だからこそ、それを見逃すことはしない。

 

 「……どうして、天の神は楓くんと一緒に居たいの?」

 

 ― 彼が“特別”だからだよ。私達神を魅了して止まない魂もそうだけど……私は、お前を通して楓くんのことをずっと見ていたからね ―

 

 そうして語られるのは、楓も聞いた天の神の行動と動機。ずっと一緒に居たい。存在を感じるだけでは満足出来ない。見ているだけでも満足出来ない。友奈を通して見ているだけでは……満足出来ない。知れば知るほど、見れば見るほど焦がれた。しかし、神と人間じゃいずれ死に別れる。楓と共に居たいのに、それでは意味がない。

 

 だからこそ、楓を神にする。永遠に等しい時間を共に在るために。そう強く思うほどに、天の神に……“私”にとって楓とは“特別”なのだ。友奈と同じように。

 

 ― だからこそ、楓くんを返さない。もう少しでずっと一緒に居られるようになるんだから ―

 

 「勝手な……勝手なこと言わないで! 楓くんのことを皆が待ってるんだ! 風先輩も、樹ちゃんも、東郷さんも、夏凜ちゃんも、園ちゃんも、銀ちゃんも! 勿論、私も!!」

 

 ― そんなの、私の知ったことじゃない。楓くん以外の人間なんてどうでもいい! 私は、彼と一緒に居られればそれでいい! ―

 

 天の神の言い様に流石の友奈も怒りを覚えた。あまりに自分勝手。あまりに自己中心的。自分さえ良ければ周りはどうでもいいと言いきる天の神に、友奈は声を荒げる。だが、それでも天の神はどうでもいいと切って捨てた。

 

 元々人間嫌いの天の神にとって、楓のことを抜きにしても人間など本当にどうでもいい。むしろ滅べばいいと思っている。どこまでも、彼と一緒に居られれば良いのだと友奈を睨みながら断言し……。

 

 

 

 ― この人の心に、あなたが居なくてもいいの? ―

 

 

 

 神樹のその言葉で、天の神の勢いが止まった。友奈も思わず動きを止め、2人は友奈の隣に居る神樹へと視線を向ける。

 

 ― 仮に、この人と一緒に居られるとしても……あなたはきっと、この人に何もしてもらえない。優しい言葉も、朗らかな笑顔も、優しげな眼差しも、手を差し伸べられることも……何1つ ―

 

 ― ……それは…… ―

 

 天の神の脳裏に、これまでの楓との会話、その時の対応や態度が浮かび……友奈を通して見てきた彼と比較する。彼の笑顔を1度でもこの空間の中で見ただろうか。友奈の名を呼ぶように、優しく己のことを呼んだだろうか。何か1つでも……友奈や、仲間達にしてきたことをしてもらえただろうか。

 

 ……思い返すまでもない。天の神を呼ぶ時は敵意の籠った“お前”。苦笑いすら浮かべてはくれず、暴力という形でさえ触れることはなかった。どれだけ想いを込めて一緒に居たいと言っても、楓は必ず戻ると、皆の元に帰ると言って選択肢にすら入らない様子。友奈を通して見てきた彼とはまるで正反対。

 

 ― きっと……このままこの人が神に成って、あなたが隣に居たとしても……あなたが傷付くだけ ―

 

 何故なら、その心に天の神の居場所は無いから。楓にとっての大事で大切な存在に天の神は絶対になれないから。それだけのことを天の神は楓にしてしまっているのだから。

 

 ― ……そんなこと、分かってる ―

 

 俯き、震えた声で呟く天の神。友奈を通して見ている間に、楓のことはある程度理解している。その人柄も、どれだけ勇者部や彼と出会ってきた人間達のことを大事に、大切に思っているのかも。その全てを奪い去ろうとしている天の神を、どれだけ敵視しているのかも。

 

 天の神はアバターの胸の奥が痛み、思わずそこに両手を置く。勘違いではなく、本当に痛んだ。いや、もっとずっと前から痛んでいて、気付かないフリをしていた。楓に敵意を向けられるだけで、お前と呼ばれるだけで、無力感に苛まれる苦渋の表情を見るだけで……ずっと痛んでいた。

 

 ― それでも……他に方法なんて思い付かないんだ。こうする以外に、“私”が楓くんと一緒に居る方法が! 恨まれるのが辛くても、敵意を向けられるのが辛くても、笑顔を向けてもらえないのが辛くても、触れあうことが出来なくて辛くても……何1つ人間の子達と同じように出来ないのが、辛くても……私には、これしか……っ! ―

 

 (……なんだろう。この天の神って、まるで……)

 

 遂には涙まで流し出した天の神の悲痛な声を聞き、友奈は思う……まるで、()()()()()だと。友奈には天の神が好きな人に見向きもされず、それどころか嫌われていることに心を痛めて悲しんでいる普通の少女のように思えた。いや……事実、今の天の神は人間の少女とそう変わらない。

 

 そもそも、幾ら楓の魂が神を魅了するとは言え、人間嫌いである天の神が彼の意思や気持ちなど気にする必要はない。実際、他の神々は楓よりも人間を滅ぼさんとしている。以前の天の神ならば、その一員……筆頭として動いていただろう。

 

 だが、友奈を通して見ていたことや美森の記憶を覗いていたことで少しずつ変化が起きた。やがてその変化は人間よりも楓を優先するようになり、彼の意思や気持ちにすら意識を向けるようになった……人間と同じように。

 

 ― どうしたら笑ってくれるの? どうしたら触れ合ってくれるの? お前達はあんなにも簡単に、あんなにも気軽に出来るのに、してくれるのに! ―

 

 「……私を通して見てたなら、分かるハズだよ」

 

 ― っ…… ―

 

 「私は何も難しいことなんてしてない。きちんと挨拶して、よく食べて、よく寝て、そうやって普通に過ごすだけで充分。悩んだら相談して、なるべく諦めなければ……後は大抵、なんとかなる」

 

 友奈は思い返す。部室で出会った、車椅子に乗った楓。おはようと挨拶をして、一緒にお昼や部活帰りにうどんを食べたりして、よく眠れば次の日にはまた挨拶をして。小さなことから大きなことまで悩んだら相談して……沢山辛いことや悲しいことが起きても、それでも諦めずに立ち向かえば何とかなった。

 

 友奈達にあって天の神に無いもの……それは、そういった触れ合ってきた“時間”なのだ。そうした時間の中で育んできた絆があるからこそ、勇者部の皆の仲の良さがある。それは決して、今の天の神には手に入れられないモノで……理解していて、目を反らしていたことで。

 

 「だから……こっちにおいでよ」

 

 ― ……は? ―

 

 「神樹様みたいに、私達と一緒に居よう! 人間を滅ぼすよりも楓くんの方が大事だって言ったあなたなら、時間は掛かるかもしれないけど……きっと仲良くなれる! 楓くんとも、私とも、皆とも! なんかほら、背後霊みたいな感じでいいから!」

 

 ― な、何を言ってるの!? というか、正気!? 頭大丈夫!? 私は人間を滅ぼそうとした天の神の1柱だよ!? それに、私はお前を殺そうとして……というか背後霊ってどういうこと!? ―

 

 「だって……楓くんと一緒に居たいって気持ち、すごく分かるから。泣いちゃうくらい辛いのも、それでも居たいって思うのも……分かるから」

 

 ― ……人間の子…… ―

 

 「違うよ。私の名前は友奈。讃州中学勇者部所属、結城 友奈! 勇者部の活動が大好きで、勇者部の皆が大好きで……勿論、楓くんのことも大好きで! だから、きっと……」

 

 己に向かって手を伸ばしてきた友奈に面食らう天の神。敵対しているどころか、人類にとって不倶戴天の敵である天の神、その集合体の内の1柱。罷り間違っても人類に対して友好的な存在ではないと誰もが理解できる。そんな存在に、友奈は微笑みを浮かべて手を伸ばしたのだ。

 

 先程までの辛さや敵意も忘れ、思わず友奈の正気を疑う天の神。その最中に神樹にチラリと視線を向けるが、彼女は友奈を見て微笑んでいるだけで口を挟むつもりはないらしい。そうしてツッこんだ後の友奈の言葉に、天の神は勢いを無くす。

 

 友奈の気持ちを知り、心に変化が起きた天の神。その逆に、天の神の気持ちもまた友奈は知った。我が事のように理解出来た。だから友奈は、目の前の天の神が人類の敵であると理解しながらも、まるでもう1人の自分であるかのような親近感を覚えていた。そしてこの言葉はきっと……そんな友奈にしか、言えないのだろう。

 

 

 

 「好きな人が一緒なら……私達は仲良くなれる! 皆とも、楓くんとも! 絶対、なんとかなるから!」

 

 

 

 ― ……なるほど、ね……今ハッキリと理解した ―

 

 何の根拠も無い、真っ直ぐな言葉。天の神……“私”ですら、思わず笑ってしまう程の。だが、それは決して嘲笑うようなものでも、ましてや怒りを含んだものでもなくて。

 

 ― ()はバカなんだね ―

 

 「なんで!?」

 

 飽きれ混じりの穏やかな笑顔で、“私”は毒を吐いた。それは本心からではあったが……だが、どこか親しみの籠った言葉だった。友奈の驚いている顔を見ながら、天の神は可笑しそうにくすくすと笑った。そうして笑いながら、友奈の言葉を思い返し……痛んだ胸の奥に、じんわりとした暖かいモノが広がっていく。

 

 人間を滅ぼそうとしている神に、自身に苦痛を味わわせ、殺そうとした相手に向かって“仲良くなれる”と、そう言える人間がどれだけ居るか。お人好し? いいや、最早狂人の行動だろう。だというのに、目の前の人間は間違いなく本気で言っているのだ。本気で……神と仲良くなれると思っているのだ。

 

 天の神はくすくすと笑い続ける。可笑しくて可笑しくて仕方ないと、バカな人間がバカなことを言っていると……そんな人間のそんな言葉に、確かに心を動かされた己が可笑しくて仕方ないと。

 

 ― 君みたいなバカな人間とは……あんまり仲良くなりたくないなぁ ―

 

 「酷い!?」

 

 ― 人間を滅ぼさんとする天の神だからね。それに言ったでしょ? 私は、楓くん以外の人間なんてどうでもいいんだよ。ああ、でも…… ―

 

 ガーンッ! とショックを受けた友奈をまた可笑しそうに笑い……天の神は思い返す。友奈を通して見ていた、楓と勇者達の日常を。見ているだけでは満足出来なくなる前までは、その日常を見るだけで満足だったことを。

 

 人間嫌いな天の神でさえ、その光景は幸福(しあわせ)そうであると思った。朗らかに笑う楓と、同じように笑う仲間達。勇者部の活動中に、一緒にご飯を食べる時に、一緒にお出かけしたり、登下校を一緒にしたり、お喋りしたり……何の変哲もないありふれた時間の中で咲く笑顔は、本当に楽しそうで、嬉しそうで……幸福そうで。

 

 人間嫌いの天の神は、そんな光景に……笑い合う8人の人間に……“私”は自分もその中に居られたならと、確かに憧れたのだ。

 

 ― この顔を借りようと思えるくらいには……君の事を気に入っていたかな ―

 

 天の神がそう言った瞬間、赤く染まっていた空間が澄み渡る青空のような空間へと変わる。赤黒く毒々しい色をしていた“私”の瞳も、同じように綺麗な青へと変わっていた。

 

 「綺麗……わ、わわっ!?」

 

 空間を見た友奈がそう呟く。直後、急に強く体を後ろへと引っ張られる感覚を覚えた。思わず友奈は楓の体を強く抱き締め、耐えようとする……が、抱き締めた彼の体諸とも体が後ろへと引っ張られていく。

 

 ― 絶対に離しちゃダメだよ。離したら、今度こそ楓くんの魂を返さないから ―

 

 友奈は天の神の言葉に返すことも出来ずどんどん離れていく。だが、言われた通り楓を抱き締める力を弱めることはなかった。絶対に離さない。今度は絶対に……そう強く意識して。いつかのように目の前が大量の光で覆われていき……。

 

 ― バイバイ、楓くん……友奈。今更になって返すのは……私に人間と同じような心と幸福を教えてくれた君達への御礼、かな ―

 

 

 

 

 

 

 そして気が付くと友奈は現実の世界へと戻ってきていて、目の前に居たハズの黒い楓は黒い双子座のバーテックスに姿を変えており……双子座と、そして大きな鏡と小さな鏡はこれまで破壊してきた御霊のように砂になって樹海へと落ちて根に染み込んでいった。

 

 「あ……」

 

 ふと、その手に暖かさを感じて視線を向けるとそこには真っ白な暖かい光を放つ水晶で形作られた花菖蒲があった。友奈は両手でその花菖蒲を壊れ物を扱うように優しく抱き締め……そのまま、神樹の元にある楓の体へと向かって飛んだ。

 

 「ちょ、友奈!?」

 

 「友奈!?」

 

 「どうしたんでしょう……わわっ、木の根が!?」

 

 「黒いカエっちがバーテックスに変わったり、上の天の神が動きを見せなかったり……ゆーゆが殴ったあの一瞬で何が起きたんだろうね~」

 

 「木の根が急に動き出したことは気にならないのか園子」

 

 「これ……友奈が飛んでった方と同じ所に向かってるわね」

 

 風と美森の声を聞いても止まらず進む友奈。遅れて、6人が居る木の根が急に動きだし、友奈が向かった場所……神樹の元へと向かっていく。そのことに驚きつつも、美森以外ろくに動けない為になすがままになる。

 

 6人は分からない事ではあるが、友奈にとって随分長く居た神の世界での出来事は現実では一瞬に過ぎなかった。故に仲間達にとっては、友奈が黒い楓に手を当てた瞬間に黒い双子座へとその姿を変え、砂になった後に友奈が神樹へと向かっていったように映る。そうして不思議そうにしていた6人を乗せた木の根が神樹の元へと辿り着いた時……。

 

 ベッドの上で泣きながら抱き付く友奈と……上体を起こし、そんな友奈の頭を撫でながら朗らかに笑う楓の姿があった。




原作との相違点

・原作では友奈が動く木の根に乗っていたが、本作では他の勇者部が乗ることに

↑原作が居たぞ! デュエルで拘束せよ!



という訳で、友奈本人と友奈顔2柱による友奈会議及び言葉の殴り合い、楓復活というお話でした。楓復活の詳細は次回です……次回で終われるかこれ←

正直、我ながらかなり強引かつ無茶な展開ではあると思いますが……友奈だから良いかなと思ってます。敵対している組織の中で正義側の人間に絆されたキャラが出てくるのと同じですよ多分きっとメイビー……賛否両論あるとは思いますが、どうか寛大な心でご容赦下さい。

さて、次回で、もしくはそのまた次回で本作は最終回を迎えます。何とか年内に終われそうです。と言っても、皆様のお声と応援、感想がある限りまだまだ続くんですがね。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)
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