UA3000突破、お気に入り100件突破、バーに色がついた。皆様誠にありがとうございます! 今後とも本作を宜しくお願いいたします。
ゆゆゆいでぐんちゃんとしずくの誕生日イベが来ましたね。七人御崎SR欲しいので走らねば。
合宿初日の終わりに、自分は夢を見た。そこはバーテックスと戦った樹海で、自分の目の前にはあまりに巨大な樹がある。何故か勇者服姿の自分は、神々しく輝くその樹……神樹様に目を奪われていた。
「……綺麗だねぇ」
陳腐だが、心からの感想だった。これが自分達を300年近く守り続けてくれている神様。自分達が今この世界を生きていられる理由そのもの。自然と、両手を合わせて拝む……一瞬強く発光したような……気のせいかな?
それはさておき、なぜ自分がこの場にいるのかは……正直、あまり気にならない。それは夢だからと考えているということもあるし……例え夢でも、こうして間近に自分達を御守りくださっている存在を見られたのだ、光栄なことである。
ふと目を開けると、神樹様から細い細い、輝く根のようなモノが自分に向かって伸びてきていた。自分にはそれがどうにも悪いモノには思えず、そーっと手を伸ばしてみる。するとそれは自分の腕に巻き付き、自分の体が浮き上がる程の強さで引っ張ってきた。
「え゛っ!?」
予想外の不意打ちに、自分は反撃する術を持たない。このまま神樹様にぶつかる!? と思わず目を閉じる。が、思っていたような衝撃や痛みはなく、さながら水に沈むような感覚を覚えた。恐る恐る目を開けてみれば、そこにあったのは夜の街。それを上空から見下ろしていた。つまり今、自分は空を飛んでいる。
「……これは、いったい……」
自分の意思では動くことが出来ず、されど体は勝手に動く。スイーッとまるで魚が泳ぐかのように空を飛び、街が流れていく様を見ていると、段々と見覚えのある家に近付いてきた。
もしや……と思ったのも束の間、その家にぶつかりそうになり、何度目かの目を閉じて開けるの動作をすると、紛れもなくそこは……最後に見た時から変わらない、犬吠埼の家のリビング。時計は11時過ぎを指している。そして、リビングにあるソファの上に……何やらカードを広げている妹の樹と、その様子を見守る姉の風の姿があった。
「姉さん……樹……」
約1年ぶりに見る姉と妹の姿は、変わっていないようにも見えるし成長しているようにも見える。思ったよりも自分は前の家族に会えないことを寂しく思っていたのだろう、自然と涙が溢れてきた。だが、これは一目でも見れたことに対する嬉し涙だろう。そうでなければ、自分でも分かる程の笑みなど浮かべられまい。
『むー……?』
『終わった? 結果はどうなったの?』
『うん、いつもなら方角が出るんだけど……』
『だけど?』
『この場所……つまり家に居るって出ちゃって』
『あら、珍しく外れちゃった?』
『朝はちゃんと方角が出たんだけどなぁ……お兄ちゃんの居場所』
2人を上から見下ろしているとそんな会話が聞こえてきた。樹の広げているカード……確か、タロットカードと言っただろうか? 会話から想像するに、樹は自分の居場所をタロットを使って占っていたようだ。自分の記憶では樹にそんな特技はなかったハズだから、自分が居なくなってから覚えたんだろう。
というか、占いと侮れないな……2人には見えていないようだが、正に自分はこの家に居るのだから。いや、自分の夢なのだから、この光景もあくまで夢でしかないのだろうか? いや、夢でも構わない。こうして2人の顔を見られたのだから。
『ま、そろそろ寝ちゃいなさい。楓が居たらとっくに怒られてる時間よ』
『あはは……そうだね。お姉ちゃんもよく“早く寝るんだよ”って言われてたもんね』
『くっ、あやつには姉への敬いが足らんわ! たまに寝坊したら樹を連れて先に行っちゃうし!』
『それはお姉ちゃんが悪いよ……』
そうそう、姉はよく夜更かししようとしていたから自分が寝る前に注意しに行っていたんだったか。自分は遅くても10時には寝るようにしていたから……注意した翌日に寝坊したら放って行くのが罰代わりだった。樹は自分よりも幼いからか、自然と早い時間に寝ていた。だからこの時間に起きているのが不思議だったんだけど……これも成長かねぇ。
『はぁ……じゃ、おやすみ樹』
『うん、おやすみお姉ちゃん』
「……おやすみ、姉さん、樹」
『……?』
『どしたの樹、いきなり天井なんか見上げて』
『うん……今、お兄ちゃんの声が聞こえたような……?』
気が付けば、自分はまた神樹様の前に居た。街や犬吠埼の家のリビング、2人の姿なぞどこにもない樹海。さっきのは自分が見た夢? 夢の中で夢を見るとはまた妙な……いや、違う。
「ありがとうございます、神樹様」
きっと、神樹様が自分に見せてくれたのだ。それが寂しいと感じていた自分を哀れんでのものなのか、それとも自分への褒美か何かなのか。どちらでもいい、少なくとも、自分にとっては何よりも嬉しい出来事であるのは確かなのだから。
「御守り致します。この恩に報いる為にも……あなたをバーテックスなぞに殺させはしない。ですが、自分だけではあまりに非力……」
決意を口にしつつ、その巨大な幹に触れる。風も吹いていないのに、さわさわと自分の髪が揺れる。手甲の上から触っているのに温かさを感じるのは、何とも不思議なモノだ。目を閉じれば、その神々しさをより強烈に感じられた。
「自分に……勇者として戦う少女達に、あなたと大切なモノを守れるだけの力をお貸しください」
瞬間、幹に当てていたハズの手のひらに、誰かの手のひらが重なる。驚いて目を開けた時、そこに居たのは……。
そこで、目が覚めた。体を起こして部屋の中を見渡してみると、なぜか須美ちゃんに正座しながら怒られているのこちゃんの姿と、その様子を自分の斜め向かいの布団の上で座りながら見ている銀ちゃんの姿。
「ん? よっ! おはよう新士……?」
「おはよう銀ちゃん。どうかした?」
「いや……その、さ。大丈夫? 新士」
「……? どうしてだい?」
「だって、泣いてるから」
銀ちゃんに言われて目に手を当てると指先が濡れる。自分では気付かなかったが、彼女の言うとおり自分は涙を流していたようだ。だが、嫌な感じではない。むしろ温かな……そこまで考えると、不意に部屋にある神棚に目が行き、夢の内容を思い出した。
「……いや、何でもないよ。強いて言うなら……」
「言うなら?」
「とても……とても暖くて……優しい夢を見たんだ」
春風のような、優しく暖かな夢を。
強化合宿を無事に終え、数日が経った後の日曜日。新士を除く勇者3人は彼の家である雨野家へとやってきていた。
「基本的に新士は付き合いが悪い」
「アマっち曰く、朝からみっちりと鍛練をしているからとか~」
「それが嘘か本当か、調査しにきました!」
「「いえーい♪」」
家を囲う生垣の外で、銀と園子が小声で交互に言った後にハイタッチする様を見て、須美は呆れから溜め息を吐く。今は朝の7時半。なぜこんな時間に新士の家の外に隠れるように居るのかと言えば、こんなことを銀が言い出したからだ。
『あたしだけ朝から見られたのはズルい! 新士の行動も見ようよ!』
そこでなぜ新士なのかと疑問に思う須美だが、思い返してみると新士の日常は謎に包まれている。彼の言を疑う訳ではないが、朝からみっちり鍛練をしているということ以外あまり聞いた覚えがない。
そもそもお役目を抜きにすれば、彼と共に外出したり遊んだりということをした覚えが殆どなかった。友達としてこれはいけないのでは? と銀と同調した園子に言いくるめられ、結果としてここにいる須美。別に気になる男子の日常を覗きたい訳ではない。
わくわくとしている2人に急かされ、須美が鞄から取り出したのは潜望鏡。これで自分達は遮蔽物に隠れつつ、その上から家の様子を見られるのだ。因みに、これは鷲尾の家の蔵にあったらしい。それも3本。須美は2人にも手渡し、3人仲良く中を覗き込む。
「新士は……あっ、居た」
「お~、ホントにこんな時間からやってるんだね~」
そこには、勇者服を着た状態で広い庭で演舞のように拳や蹴りを虚空に繰り出す新士の姿があった。近くには5分割された巻き藁もあり、爪を使った訓練もしていたことが見てとれる。また、流れる汗の量からも長い時間行っているのだと感じられた。
普段から笑顔を浮かべていることが多い新士だが、今は真剣な表情で拳を、蹴りを出す。その姿に、3人は言葉を忘れて見入っていた。しばらくすると、新士は大きく息を吐いて勇者服を消し、合宿でも見た浴衣姿になって縁側に置いてあったタオルを手に取り、汗を拭くとそのまま家の中へと入っていった。
「……本当だったわね」
「うん……なんかその……ごめんなさい」
新士は真面目に朝から訓練してるのに自分達はこんなところで何を……と罪悪感と情けなさが襲いかかる。特に発案者の銀は心に多大なダメージを負っていた。須美も似たようなモノだったが、ふと園子が何も言わないことを疑問に思い、彼女が居る方を見てみる。そこには、どこか難しい表情を浮かべている園子の姿があった。
「そのっち? どうしたの?」
「んぇ? うーんと……なんでもないんよ~」
「何が何でもないんだい?」
「「「わあっ!?」」」
いつの間にか、新士が3人の背後に居た。予想外の人間の声がしたことで3人は飛び上がる程に驚き、恐る恐る振り返る。そこには、妙に凄味のある笑顔を浮かべながら仁王立ちする新士の姿があった。
「あのねぇ……自分だから良いものの、一歩間違えば立派な犯罪行為なんだからね? もうしないようにね?」
「「「ごめんなさい……」」」
場所は変わって新士の自室。あの後、新士は3人を家に入れて自室に待たせた後に風呂で汗を流し、そこで私服(白い無地のTシャツと黒い無地の短パンというシンプルなモノ)に着替えてから部屋に戻り、3人を軽く叱っていた。普段新士に怒られることがなく、そういった場面も見たことがない彼女達にはなかなか堪えるらしくしょんぼりと肩を落としている。
「……まぁ、反省しているようだからこれ以上は言わないよ。それに、形はどうあれ折角家に来たんだ、今日はこのまま何かしようか? とは言っても、生憎と何も無い部屋なんだがね」
苦笑いする新士の言うとおり、3人も部屋を見渡すが新士の部屋はあまり物がない。あると言えば本棚に大きめのちゃぶ台、押入、薄型テレビくらいのもので、ゲーム機やPCといった娯楽に使えそうな物は存在しなかった。家で弟とゲームをしたりする銀、プラモデルを作ることもある須美、小説を書いてサイトにアップしたりしている園子からすれば信じられないような環境であった。少なくとも、想像していた男子の部屋からは程遠い。
因みに、今は新士以外に家の者はいない。彼曰く、養父は昨日から大赦の方で仕事で帰ってこれず、お手伝いさんは夕方から来るようにと新士の方から言っているらしい。
「普段は何をして過ごしているの? その……鍛練以外で」
「そうだねぇ……そこの本棚に入ってる本を読み返すか、ボーッとしてるか……ああ、最近はオウムと遊んだりしてるかねぇ」
「オウム?」
「そう、オウム。誰かのペットか野生かはわからないけど、合宿が終わった辺りからよく自分の部屋に来るようになってねぇ……頭が赤くて、下に行くほど桜色になる不思議な毛色をしてるんだ」
「「「へ~……」」」
「なかなか食いしん坊な子でねぇ。自分のおかずの唐揚げとか焼き鳥のモモとか食べちゃうんだよ」
「「「鳥なのに!?」」」
そんな話から始まり、4人はたっぷりと会話を楽しんだ。お互いの休日だったり、趣味の話だったり。勉強の話が出れば銀が話題を逸らそうとし、園子が猫の枕のサンチョについて熱く語ったり、須美が日本海軍の話を始めて暴走したり。気が付けば、7時半過ぎを示していた部屋の時計は11時半を越えていた。
「おっと、もうこんな時間か……皆、お昼はどうするんだい?」
「勿論、イネスさ!」
「勿論なのね……」
「ミノさんも好きだね~」
「相変わらずだねぇ……ふむ、自分は特に決めてなかったし、一緒に行こうかねぇ」
「決まり! それじゃあ早速イネスへ」
そこまで銀が言った瞬間、三度目となる感覚が4人を襲った。新士がチラリと庭を見てみれば、空中で止まっている木の葉の向こうから極彩色の光が世界を呑み込もうと迫って来ている。
「……イネスはお預けだねぇ」
「おのれバーテックスゥゥゥゥッ!!」
銀の怒りの声は、光の中へと消えていった。
何時ものように大橋の中央に降り立ち、壁の向こうからやってくる異形を待つ4人。もう間も無く姿を現したソレは、先の2体と変わらず何とも説明に困る姿をしていた。
特徴としてあげるなら、牙にも、爪にも、ともすればタコ足にも見える4本の足か腕のように存在するモノだろう。その4本のナニカの中央に位置する細長い、恐らくは胴体。後に山羊座、カプリコーン・バーテックスと呼ばれるモノである。
「おおう、なんともビジュアル系なルックスをしてますな」
「言ってる場合? 早く倒さないと……」
「お腹空いたね~」
4人のお腹からくるる~と音が鳴る。緊張感の欠片もない空気になるが、体はすっかりお昼ご飯の受け入れ体制だったところに襲撃が来たのだ、育ち盛りの子供に昼飯抜きの戦闘は地味に辛い。新士に至っては数時間前とは言え運動をした後なので余計に胃が食糧を求めている。
故に、4人の思考は命懸けの戦いの場としてはあまりに場違いだがさっさと倒してお昼を食べに行こうである。まずは牽制と須美が弓を構え、新士も右手をバーテックスへと向ける……というところで、バーテックスは急速に落下し、その牙のようなモノを大橋へと突き刺した。
「お、おおおおっ!?」
「なっ、これじゃ、姿勢が!」
「揺れ、揺れる~!?」
「地震!? 身動きが……っ」
その瞬間引き起こされる地震。それは合宿において体幹トレーニングを詰んだ4人ですらマトモに立ってはいられない程の大きな揺れ。そんなものを引き起こされては須美も新士もバーテックスを狙うことなど出来ず、姿勢を低くして倒れないようにするだけで精一杯。
時間にして十数秒、ようやく揺れが治まる。ふぅ……と安堵の息を吐く3人に対し、新士は今の行動に大きな危機感を覚えた。
「厄介な……アレはもう使わせる訳にはいかないねぇ」
「え、なんで? 確かに攻撃は出来ないけどさ、揺れるだけなんじゃ」
「自分達が全く立てなくなるくらいの大きな揺れだよ? あんなものを何度もされたら、大橋が崩れるかもしれない」
「そうは、させない!」
ただ揺らすだけだと思っていた銀は新士の予想に顔を青ざめさせ、須美は再度弓を構えて仕掛ける。真っ直ぐバーテックスへと向かう、勇者の武器として相応の破壊力を誇る矢。それをバーテックスは、その場から急上昇することで回避する。
「くっ、もう1度! って届かない!?」
「おいこらぁ!! 卑怯だぞ! 降りてこーい!」
上昇したバーテックス目掛けて再び矢を放つ須美。しかし、それは巨体のバーテックスが小さく見える程の上空まで上昇したバーテックスには届かず、失速して途中で落下した。ふわふわと左右に揺れる敵の姿はなんだか煽っているようにも見える。
ならば自分はどうか、と新士は腕をバーテックスへと向け、爪を放つ。ほぼ真上へと向けることになった腕が反動で跳ね上がり、思わず倒れそうになるも踏ん張ることで耐える。飛んでいった爪はバーテックスに届く……ことはなく、須美の矢よりも飛ばずにどこかへと落下していった。
どうしたものか……と4人が悩み始めた時、不意にバーテックスの頭部らしき部分が光り始める。そして次の瞬間、そこから小さな、それでも子供1人くらいなら呑み込みそうな大きさの光弾が幾つも飛んできた……新士と銀に向かって。
「っ、自分達狙いか!?」
「アマっち、ミノさん! 避けちゃダメ!」
「!? そういうことか……っ!」
「避けちゃダメなら、全部弾き返す!!」
思わず避けようとする新士だったが、園子に言われて何故かと後ろを確認する。そこにあるのは敷き詰められたように存在する樹。いつの間にか、バーテックスを見上げながら後ろへ後ろへと下がっていたらしい。今まで運良く大橋の上、あまり樹がない場所で戦えていたのであまり気にならなかったが、樹海が傷付けば現実世界に悪影響を及ぼす。2人が避けた場合、光弾はモロに樹海へと襲いかかるだろう。故に回避することが出来ず、迫り来る光弾を新士は拳と蹴りで、銀は双斧を振るい上へ打ち上げるように弾くしかなかった。
2人が光弾を凌いでいる間に、須美と園子は状況を打開する手段を考える。だがその時間等与えないとばかりに、バーテックスは光弾を飛ばすことを止め、再び体を発光させたかと思えば、今度は4本の牙の中央にある胴体、その下の部分からビームのようなモノを飛ばしてきた。
「これは、あたしじゃなきゃ無理かっ!! 新士、手伝って!」
「了、解!!」
新士の手甲では防御し切れないと悟った銀が彼より前に出て双斧を×字に重ね、真っ向から受け止める。真上からではなく斜め上からの照射により銀の体が大きく下がるが、その後ろから新士が抱き締めるようにして支え、具足の爪を地に突き刺して吹き飛ばないように踏ん張る。
「2人共! 無事!?」
「な、なんとか……っ」
「アマっち~後どれくらい保ちそう?」
「長く見積もって20秒、かねぇ!!」
それを聞いた園子の思考が高速で回転する。新士と銀は動けない。何とか出来るのは須美と園子。使える手段は、その手段を使って何とかするにはと須美に目をやり、周りに目をやり、敵に目をやり、自分に目をやり……園子はぴっかーんと閃いた。
「わっしー! あれ!」
「あれ? ……なるほど、わかったわ!」
「そ~れ!」
名前を呼び、敵を指差す。園子がやったことはそれだけだが、須美はそれだけで彼女が何を言いたいのかを悟る。園子は自分が持つ槍の穂先、その周りに浮く幾つもの穂先を操り、階段のように間隔を開けて空中に設置する。普段は傘状にすることで盾として使っているが、本来この穂先は園子の意思で飛び道具としても使用出来る。その真価が、今発揮された。
須美はその穂先の階段を跳ぶようにして登っていき、最後の穂先から勇者の身体能力をフルに使用して飛び上がる。空中という弓を使うには不向きな場所だが、地上の時よりも半分近く縮まった敵との距離に加え、今の須美の射撃の技量ならば何の問題もない。
「南無八幡……大菩薩!!」
弓の前に菊の紋章が現れ、そこを通すように矢を射る。須美の気合いを込めた一撃は紋章を通った瞬間に巨大化し、今尚ビームを放ち続ける敵の発射口に直撃、破壊する。ビームは止まり、バーテックスは破壊された部分から黒煙を噴き出してふらふらと落下し始めた。よし、と内心でガッツポーズを取る須美だったが、体が落下し始めたことで青ざめる。着地のことなど何も考えていなかったからだ。しかし、その恐怖は直ぐに別の感情に塗り替えられた。
「よっと……流石須美ちゃんだねぇ」
「し、新士君? ……っ!?」
ビームが途絶えた瞬間、銀から離れて園子の槍の階段を登って須美を受け止めた新士。その際横抱き……所謂お姫様抱っこをすることになり、それに気付いた須美の顔が恐怖の青から羞恥の赤へと変わった。
須美を抱えて着地した新士の姿を見ていた園子はムッとしつつ、自身も穂先の階段を登って飛び上がり、落ちてきているバーテックスの上を取る。そして階段にしていた分を手に持つ槍に付いている穂先の先に一列に並べ立てると、並んだ穂先が紫電が走る長大な1つの光の穂先に成り……それを思いっきり振り下ろした。
「落ちちゃえ~っ!!」
嫉妬混じりの振り下ろしはバーテックスの頭部らしき部分に叩き付けられ、ガゴォンッ!! という妙に重い音を響かせ、バーテックスは頭部から地面に落とされた。その頭部はべこっと凹んでおり、どこか哀愁を誘う。
「アマっち~受け止めて~」
「はいよ……っとぉ」
槍をバーテックスへと投げつけ、串刺しにしつつ手を広げて新士にそう頼む園子。新士は何事もなかったかのように何時もの朗らかな笑みを浮かべて抱っこする形で体を回転させて衝撃を逃がしながら受け止める。そんな彼女の一連の行動を見ていた銀と須美は口元をヒクつかせ、自分達は何も見なかったとバーテックスに止めを刺す為に矢を放ち、斧で滅多切りにする。
自分は何もしなかったなぁと苦笑する新士とニコニコと嬉しそうに笑う園子。抱き合う2人を見て疲れたように溜め息を吐く銀と須美の上を、勝利の証である桜の花弁が舞うのであった。
バーテックスとの戦いを終え、予定通りイネスで昼食をし、ふらふらとイネス内を夕方まで回った帰り道、園子は迎えのリムジンの中でサンチョの枕を抱き締めながら物思いに耽っていた。
(アマっちの家の雨野家……大赦の中だと名家の中でも格は最底辺に近いってお父様は言ってたけど……)
雨野家。その家は大赦の中では格は最底辺。理由として、今代の勇者である新士を除いて勇者も巫女も輩出
園子は知らないことだが、本来なら新士は雨野家ではなく別の家の養子になる予定であった。それを横から強引にかっさらうように、地位と金をフルに活用して今の養父が養子としたのだ。
(気になるな~……
彼女が気になったのは、朝に新士の鍛練を見ていた際に彼の奥の部屋の中に見えた1枚の掛け軸に描かれた絵。その絵はその部屋だけでなく、新士の部屋以外の場所にも存在したのを園子は見ている。
それは、太陽の下で樹木らしき影に頭を向けて平伏す人々が描かれていた。一見すれば普通の絵であるし、その樹木を神樹様であると考えれば別におかしくはない。実際、新士も銀も須美も気にしていなかった。が、園子はその絵に不信感を覚えていた。
(まるで、
それの何がおかしいのか、と聞かれれば園子にもわからない。ただ、彼女の独特の感性が叫んでいた。
(……お父様に一応言っておこっかな~)
いつの間にか着いていた乃木の大きな家を見て、園子はそう思った。
原作との相違点
・須美が戦闘終了後泣かない
・雨野家とか色々
・犬吠埼家の夢という神樹様の露骨な点数稼ぎ←
という訳で、新士が覗きの対象となる、山羊座との戦いでした。主人公がしたことは彼女達を抱き締めてお姫様抱っこして抱っこしただけです←
今回はオリ要素、オリ展開多めの回でした。雨野家関係はわすゆで終わらせる予定です。あくまでもチョイ役ですしね。
それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)