咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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後れ馳せながら、新年明けましておめでとうございます。お待たせしました(´ω`)

殆んどのアプリでガチャは爆死しました。でもデレステで限定飛鳥出たので大満足。fgoでは弓兵福袋にて水着ジャンヌが出ました。アーツ層が厚くなったな……。

新年ガチャ目当てに色々とアプリを開拓中。メダロットと東方ロスワが楽しみで仕方ありません。それはさておき、誰か雀亭のどの辺りがライトなのか教えて←

またリクエストが増えてました。沢山リクエストが来るのは嬉しいのですが、私の手に終えない可能性もあるということはどうかご理解ください。特に暗い系とか……“ああ”なりますよ(どれかは言わない

さて、新年最初の投稿は皆様お待ちかね……かどうかは分かりませんが、本編ゆゆゆいになります。これが私から皆様へのお年玉だ(遅い

ちょいとおかしい部分があったので修正しました。


花結いのきらめき ― 序章 ―

 美森が壁を破壊してしまい、世界が滅び欠けた戦いを勇者部が勝利してから数ヶ月。神樹から散華した部分を返してもらい、友奈の意識も戻り、楓も戻ってきた。普通に学校に通えるようになってからは園子、銀も転入してきて勇者部に入り、8人となった勇者部は今日も部室へと集まっていた。

 

 「今日も勇者部8人勢揃いだね! 新しい物語の始まり始まり!」

 

 「毎日が新しい物語……いいねゆーゆ、作家の素質があるかもだね~。毎日新しいカエっちが見られて楽しそ~」

 

 「それは楽しいのかねぇ……」

 

 「そのっちは相変わらずね。はい、楓君。いつものぼたもち」

 

 「いつもありがとねぇ、美森ちゃん」

 

 「東郷さん、私の分は?」

 

 「勿論あるわ。はい、友奈ちゃん」

 

 「わーい!」

 

 全員揃ったところで友奈がはしゃぎ、その言葉に物書き志望としての感性に引っ掛かったのか友奈を誉める園子。直ぐに楓の方に思考がシフトしたのを本人が苦笑いし、そんな彼女を美森は相変わらずだと微笑ましく見た後に楓へと一口サイズのぼたもちが乗った皿を渡す。

 

 受け取った楓は礼を言い、竹製のフォークを使って美味しそうに食べている所を見た友奈が自分の分はと聞けば、美森は既に用意していると同じように渡し、受け取った友奈が嬉しそうに笑った。

 

 「ほら樹、これ、取れる? ふふふ、完成型勇者ともなればあやとりも得意よ」

 

 「とか言ってるけど、実は前の児童館の依頼の時に懐かれてる子に一緒にやろうって言われてから練習したんだよなー? 夏凜」

 

 「ちょっと銀、余計なことを言わないで」

 

 「ふふ、夏凜さんは優しいですもんね。で、あやとりはこれをこうして……うぅ、難しい……」

 

 「よし、ここはあたしが先代勇者として手本を……うぅ、難しい……」

 

 「こらこら完成型と先代。樹と遊んでないで楓以外のあのボケトリオにつっこんで」

 

 「楓さんは除くのね……はいはい。ほらアンタら、部長が何か言おうとしてるわよ」

 

 「園子も戻ってこーい」

 

 他の4人はと言えば、夏凜はあやとりで簡単そうに形を作り、それを樹に取らせようとしていた。簡単そうにとは言うが、その裏には児童館の子供に良いところを見せたいという可愛らしい理由から来る努力があることを知っていた銀に笑いながら暴露され、赤くなりつつ俯いて否定はしない夏凜。

 

 そんな彼女を分かっていると笑いつつ樹はあやとりの糸を自分の手に移そうとするが、これが中々に難しい。手間取っている樹に変わって銀が挑戦するも、同じように出来ずに終わった。そうやって遊んでいた夏凜と銀に風が前の3人(楓除く)を何とかしろと言われ、2人は4人に向かって手招きし、4人はお互いに“しーっ”と人差し指に口元に当てる仕草にした後に視線を風へと向ける。

 

 「じゃ、落ち着いたところで今日の勇者部活動内容をセクシーに読むわね」

 

 「姉さんには10年は早いかな」

 

 「どういう意味よ!?」

 

 全員の視線が集まったことを確認し、黒板の前に立った風が少し体をくねらせながら言うと直ぐに楓から朗らかな笑みと共に辛辣な言葉が投げ掛けられる。思わず周りがくすっと笑ってしまい、風が相変わらずな弟の言葉に少しだけ傷付きつつ、思わず黒板をバンッと勢いよく叩く……その瞬間だった。

 

 【っ!?】

 

 「な、何よ今の光!? 皆、警戒しなさい!」

 

 「今の感じは、まさか」

 

 「樹海化!?」

 

 「あ、アラームが、アラームが鳴ってます!」

 

 「な、なんでよ! 勇者に変身するアプリ、もうアタシ達持ってないのよ!?」

 

 一瞬だがハッキリと分かる程に強い発光。その光に全員が驚愕し、夏凜が警戒するように告げる。そして発光と同時に覚えのある感覚を感じていた先代組4人の内、楓がまさかと呟き、続けるように美森が叫んだ。

 

 その直後、園子と銀以外の6人のスマホから聞き覚えのあるアラームが鳴り響く。驚く樹と風が言うように、以前の戦いで8人のスマホから勇者アプリは消えている。そもそもバーテックスとの戦いはその時に終わっているのだ、樹海化のアラームが鳴る時点でおかしい。そもそも手にあるスマホは勇者アプリがあった端末とは別物なのだ。が、そうして混乱している間にも極彩色の光が迫り、やがて世界を呑み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 光が収まった時に目にしたのは、もう見ることはないと思っていたあの樹海であった。夢ではないかと夏凜が疑うも直ぐに首を横に振り、この光景が現実であると彼女だけでなく全員が理解する。更には大赦に返していたハズの端末もいつの間にかその手に戻ってきており、突然の出来事の連続にその場に居た全員が混乱していた。

 

 「端末がどうしてここに……皆の手元にもあるみたい……うん? のこちゃんと銀ちゃんはどこだい?」

 

 「あれ? 本当だ、園ちゃんと銀ちゃんが居ない!?」

 

 「そんな! そのっち! 銀!」

 

 「落ち着きなさいよ東郷。アプリが戻ってるなら、レーダーで確認してみましょ」

 

 「っ! アプリに反応が……敵、です」

 

 「またアタシ達が戦うって訳……? やっとアタシ達も……楓達も戦わなくてもいいようになったのに……そんなのって……」

 

 いち早く混乱から復帰した楓が自身の手の端末を見た後、全員の手元にも視線を走らせ……その際、この場に園子と銀の2人の姿が無いことに気付く。同じように気付いた友奈、美森が慌てるが夏凜が直ぐに落ち着かせ、勇者アプリがあるかどうかの確認とレーダーを見る為に端末を操作し、他の5人も同じように操作する。

 

 そしてレーダーに写ったのは2人の反応……ではなく、敵の反応を示す赤い点。それを見た樹が声に出して知らせ、風が力無く呟く。つい数ヶ月前に世界が滅ぶ瀬戸際を脱し、先代勇者も自分達も勇者のお役目から解かれ、戦わなくてよくなったハズなのに……と。

 

 「……いや、この反応……どうやら小さい敵ばかりで大型のバーテックスは居ないみたいだねぇ」

 

 「そうみたいだね……あれなら」

 

 「……確かに、あの小さいのならそこまで激しい戦いにはならないか。それに樹海化してる以上は、やるしかないわね」

 

 「友奈は大丈夫かい? 本当にあの時の小さい敵なら、君は……」

 

 「大丈夫だよ楓くん。もう、あの敵は怖くない。それに皆も居るんだもん」

 

 「そっか、それなら安心かな。後は2人の居場所だけど……」

 

 「確かに2人のことは心配だけど、それは戦ってから考えましょう。それに、2人も同じような状況に居るかもしれないし」

 

 レーダーには赤い点ばかりで星座の名前は書かれていない為、小さなバーテックスばかりが居ることが分かる。数もあの戦い程ではない為、6人でも充分に殲滅は可能だろう。楓は友奈のトラウマを知るために彼女の心配をするが、友奈はあの戦いにてそのトラウマを克服している。心配はないと笑ってみせる彼女に、楓も笑みを返した。

 

 この場に居ない2人のことも気になるが、まずは目の前の敵に集中することにした美森。彼女達の後方には大きな木……神樹の影があり、レーダーを見る限りは自分達しかいない。その為、この6人こそが最終防衛ライン。つまりはいつも通りということだ。

 

 「折角守った世界を滅ぼさせたりしないわよ」

 

 「うん! やろう、夏凜ちゃん! 皆!」

 

 「勿論よ友奈ちゃん」

 

 「わ、私も頑張ります!」

 

 「という訳だ、いつでもいいよ姉さん」

 

 「樹、楓、皆……ありがとう。じゃあ行くわよ! 勇者部、変身!!」

 

 【了解!!】

 

 全員が同時に端末の勇者アプリをタップし、あの戦い以来となる勇者へと変身する。その姿は自分達の記憶と相違無い。違うのは、美森がリボンではなく自身の両足でしっかりと立っていることと……楓の右袖にしっかりと右腕が通っており、その右手には左手と同様の水晶が着いているくらいだろう。

 

 そして始まる久しぶりの戦闘……なのだが、それ自体はさほど時間を掛けずに終わることになる。何せ大型バーテックス相手に戦い続け、最後には小さなバーテックス達も数千か数万に届くであろうという数で戦う羽目になったのだ、それがたかだか3桁に届くかどうかと言った程度を相手に遅れを取るハズがなかった。

 

 友奈の拳と蹴りの1撃で弾け飛び、美森が両手の散弾銃で1度に複数を吹き飛ばす。夏凜の2刀が閃く度に両断され、樹のワイヤーに細切れにされ、風の巨大化した大剣に1度に凪ぎ払われる。

 

 更には水晶が2つ使えるようになったことで光の翼で飛行しながら他の攻撃が出来るようになった楓が左の水晶で翼を、右の水晶から剣を作りだして飛び、擦れ違い様に切り裂いていく。決着は、ものの数分で着いた。

 

 「よーし、全員無事ね。これが勇者部の実力よ!」

 

 「久々の戦いだったけど、特に問題はなさそうかな。皆、怪我はないかい?」

 

 「うん、私は大丈夫だよお兄ちゃん。お姉ちゃんも大丈夫そう」

 

 「完成型勇者を舐めないで下さい楓さん。この通り、ピンピンしてます」

 

 「皆無事で良かったー。それじゃあ、園ちゃんと銀ちゃんを探さなきゃ!」

 

 「そうね、早くあいつらを……待って! レーダーを見て」

 

 小さなバーテックス達を退け、1度集まる6人。全員の無事を確認し、問題なく戦いを終えられたことに安心しつつ、笑い合う。戦いを終えたことだし、ここに居ない2人を探そうと友奈が言ったその時、念のためにと端末を見ていた夏凜の表情が固くなる。その視線の先、端末のレーダーには敵の第2波の反応が合った。

 

 「しかもバーテックスが居る……乙女型」

 

 「冗談でしょ!? まだまだ戦えるけど、これ以上やってもしも、また……」

 

 美森の確認の為に口にした言葉に風が反応する。脳裏に浮かぶのは、以前のような数多の小さなバーテックス達。そして、満開した自分達の姿。今はまだ余裕があるが、このまま戦い続けたとしていつ終わるのかもわからない。第2波が来ているように第3、第4が来ない保証もないのだ。

 

 戦いが長引けば、もしかしたら乙女座以外の大型バーテックスが来るかもしれない。物量に押し潰されるかもしれない。再び戦うことになった為か精神的な余裕はあまり無く、風の不安を感じてか樹も不安げな表情を浮かべる。その時だった。

 

 

 

 『大丈夫です、皆さん心配しないで下さい。全力で戦い抜いても、影響は出ません』

 

 

 

 そんな、見知らぬ女性の声が聞こえてきたのは。全員がきょろきょろと辺りを見回すが、声の主らしき存在は見受けられない。耳に届くのではなく、まるで心に直接響いているようなその声に、全員が不思議そうな表情を浮かべていた。

 

 『乃木さんと三ノ輪さんも私達と居ます。今は、戦って下さい』

 

 「この人の声……暖かい」

 

 「うん……この声の主は信じてもいい気がするよ。姉さん、この声を信じてみないかい?」

 

 「……そうね。敵さんも、これ以上はお断りだってのに次から次へとしつこいし……そういうのは嫌われるわよ、全く」

 

 「またモテる人っぽいこと言ってる……」

 

 「誰かは知らないけど、連戦の緊張はほぐれたみたいだし、助かったわ」

 

 「……敵の中に見たことの無い個体が混じっている。バーテックスに似てるけど、違う……?」

 

 謎の声に悪意等の念は感じられず、むしろ温かいと思い口にする友奈。楓も同じように思ったのか風にそう聞き、風は頷いた後に怒った口調で呟く。そんな姉にボソッと樹が呟いたことを耳にしつつ、夏凜は先程までの悲壮感が風を中心に薄れていることに安堵して声の主に感謝し、美森が変身したことで強化された視力で捉えた敵を見ながらそう口にした。

 

 彼女の言葉を聞き、全員が迫り来る敵によーく目を凝らす。そこには乙女座と小さなバーテックス達が居るが、そこには確かに6人の知らない個体が存在していた。形状としてはホイッスル、或いは勾玉が近いだろうか。友奈はそんな新型を“魚? 魚じゃない? やっぱり魚?”と首を傾げながら称し、風は嫌な顔をしつつもどこかその形状が今まで見てきたバーテックスとは別物であると感じた。

 

 「あの新型……レーダーではくっきり敵の色になってるよ、お姉ちゃん」

 

 「うーむ、何を考えているかわからない表情が不気味だわ。敵ってこんなのばっかりね」

 

 「よーし、結城 友奈、燃えてきたのでここは1つ私が」

 

 「いや、ここは自分が行こうか。自分なら飛べる分、かなり自由に動けるしねぇ」

 

 「ダメよ楓君。皆で行きましょう? お願いだから、1人で動こうとしないで……友奈ちゃんも」

 

 「……そう、だねぇ。ごめんね、美森ちゃん」

 

 「ご、ごめんなさい……つい焦っちゃって……」

 

 「はいはい……友奈はともかく、楓さんまで珍しい……」

 

 先んじて動こうとした友奈を制して楓が飛び立とうとするが、美森の懇願にも似た声を聞いて思い止まり、謝る。楓が1人で行動する、というのは美森に取って辛い記憶を呼び覚ましてしまうことに気付いたからだ。唯一の男として、という意識で単独行動を取ろうとした自分自身に苦笑いを浮かべ、夏凜にそう言われてその苦笑いが深くなった。

 

 2人が謝ったことで再び場が和み、6人の意識がバーテックス達へと向く。新型なぞ何するものぞ、目指すは殲滅による完全勝利。6人は笑みを浮かべ、全員で迫り来るバーテックス達にへと立ち向かっていった。

 

 新型の中には先程言った勾玉のようなモノ以外にも5本の鋭い針を持ったモノ、丸い体の四方に輪と栗のような形の針を伸ばしたモノ等も存在した。何とも文章や口頭での説明に困る未知の敵ではあったが、それなりに戦闘経験を積んだ6人全員が揃っている今ではモノともしない。

 

 「せい! っ、あうっ!?」

 

 「姉さん!? 大丈夫かい!?」

 

 「~っ、なんとかね。それよりあの敵、爆発して攻撃してくるわよ!?」

 

 「ならあの敵は私が撃ち落とします!」

 

 「私もやります!」

 

 体当たりや鋭い針を伸ばす、爆発を起こして周囲を攻撃する。前の2つは特に問題無かったが、流石に爆発は予想出来ずに最初に攻撃した風が食らう羽目になったが、寸前で大剣を盾にすることで防ぎ、後々その敵は美森と楓、樹がそれぞれ銃撃、光を飛ばす、ワイヤーで刻むといった方法で対処していく。

 

 次々とバーテックスを倒していく6人。未知の新型も既知の小さなバーテックスも苦もなく対処し、やがて残るのは乙女座ただ1体となる。

 

 「後は1体!」

 

 「友奈、前みたいにやってみるかい?」

 

 「前みたいに? あ! うん! 前みたいに、ダブルで!」

 

 「わかった。それじゃあ」

 

 「「せーのっ!」」

 

 他の4人に比べて前に出ていた楓と友奈。友奈が乙女座に目を向けた時に、隣に降り立った楓がそう問い掛ける。一瞬何のことだろうと疑問に思う友奈だったが、直ぐに思い至った。初めて戦ったあの日、乙女座のやたら頑丈な御霊を破壊する時に行った、2人での攻撃のことを。どんな硬い敵も、大きな敵も打ち砕いてきた2人の必殺技を。

 

 楓の水晶から伸びる白い光が友奈と楓の手を包み込む。友奈はその光の暖かさを感じて笑顔を浮かべ、楓と目を合わせて頷きあい……声を揃えて同時に乙女座に向かって跳躍し、友奈は右手を、楓は左手を引き絞った。

 

 「ダブル!」

 

 「勇者!」

 

 「「パアアアアンチっ!!」」

 

 同時に突き出される左右の白い光を纏った拳。それは乙女座が迎撃に出してきた爆弾も防御の為に広げたマント状のモノも難なくぶち破り、それらごと本体に突き刺さり、そのまま突き破った。大きな風穴を開けた乙女座は御霊を排出することもなく、光となって天に昇るように消えていく。

 

 敵の出現が無いことを確認し、勝利を喜ぶ6人。そんな6人を、この場所に来たときと同じように極彩色の光が呑み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 「あれあれ? カエっち達が居なくなっちゃった……これはわたしの想像じゃなくて現実だよね?」

 

 「まあ、あたしの目にも楓達が居なくなってるように見えるしな……マジでどこに行ったんだ?」

 

 少し時間は遡り、場所は勇者部部室。そこには樹海に飛ばされた6人とは違い、そのまま部室に取り残された園子と銀が居た。樹海化する感覚こそ感じたものの自分達はこの場に存在し、他の6人が居ないことに驚きつつ辺りを見回すが、見えるのは見慣れた部室の内装だけ。

 

 試しに2人で楓達の名前を呼んでみたものの返事は当然の如く返ってこない。改めてこの場には6人が居ないことを確認しつつ……2人の視線が、自分達以外にいつの間にか部室の中に居た“2人”の人物にへと向けられる。

 

 「……え、誰? というか……えっ!?」

 

 「ゆーゆと同じ顔……それに、樹海化してるんだよね、これ。教室だけが別の空間になってる……?」

 

 「ピンポンピンポーン、正解です。流石若葉ちゃんの子孫ですね」

 

 銀の顔が驚愕に染まり、園子も銀程ではないにしろ驚いていた。2人の目の前には、大赦の巫女が着ている巫女服を着用している長い黒髪に赤いリボンの少女と……同じように巫女服を着ている、友奈そっくりの少女が居た。

 

 友奈似の少女は朗らかに笑うだけで特に喋ることはなく、黒髪の少女が園子の言葉に正解だと明るい声で告げる。子孫……そう言われた園子はその少女を見ながらふむと内心頷き、銀は状況をよく理解出来ていないようで何度も2人の少女の顔を見ていた。

 

 「貴女達はだぁれ~? 大赦の巫女、かな? だけど、わたしは見たことないかも~」

 

 「正解です。やっぱり若葉ちゃんの子孫。私の名前は上里 ひなたです。こちらは」

 

 「私の名前は、他の人達が揃ってから言うね」

 

 「……わかった~。あ、さっきから全問正解だよ~。私はね、乃木さん家の園子っていうんだ~」

 

 「声まで一緒だ……あーっと、あたしは三ノ輪 銀って名前なんだ」

 

 「乃木……それに三ノ輪……素敵な名字ですね。特に乃木という名字はキュンキュンします♪」

 

 「キュンキュン~♪」

 

 (なんかこの2人、ちょっと似てるな……こっちの人は、見た目は友奈なんだけど……なんというか、そうだ、楓に似てるんだ)

 

 園子は大赦に奉られている時や勇者として活動している時に何人かの巫女と会ったことがあるが、目の前の2人に会ったことはなかった。ひなたと名乗った黒髪の少女と顔を横に振って名乗りは後でと告げた友奈似の少女。友奈似の少女の声すらも自分達が知る友奈とそっくりであることに驚きつつ2人も名乗り返す。

 

 何故か乃木という名字と園子に対して妙に好印象を持っているひなた。喜びを体の動きで表現している彼女とそれと同じ動きをする園子の2人を見て友奈似の少女がくすくすと笑い、銀が雰囲気や行動が似てるなと2人をほえーっと感心するように声にしながら見て、友奈似の少女の方は顔はともかく、笑い方や雰囲気が楓に似ていると感じていた。

 

 「……ん? 園子、さっき樹海化してるって言ったよな。なんでか部室だけ無事みたいだけど」

 

 「うんうん、それで正解だったね~」

 

 「じゃあさ、なんでこの2人は動けるんだ? あたしらは元勇者だからで納得できるけど」

 

 「私達は()()()()では巫女であり、特別な存在だからね」

 

 「そして、神樹様から大きなお役目を仰せつかってます」

 

 「特別な存在……ふむふむ、ふ~むふむ。うん、大体分かったよ~」

 

 「あたしには全然分からんぞ……」

 

 ふと、銀がそんな疑問を覚えた。どういう訳か部室の窓の外は白く染まっていて様子がわからないが、現在樹海化が起きているという。ならば、その間は時間が止まり、勇者以外の者は動けないハズなのだ。

 

 だと言うのに、目の前の2人は勇者でないにも関わらずこうして活動出来ている。感じた疑問をそのまま口にする銀に、少女とひなたはあっさりと答えた。その答えに園子は理解したと頷き、銀は逆にわからないと項垂れる。そんな銀に2人はくすくすと笑い、園子の理解したという言葉も冗談と捉えたのか“それは凄いですね”とひなたが溢す。

 

 「もしかして、ひなタン達はこの時代の人じゃない?」

 

 「っ!? 本当に、大体分かってる……? 凄いですね。それに、ひなタン……ひなタンは気に入りました! 今度若葉ちゃんに呼んで貰いましょう」

 

 「この時代の人じゃないって……余計にわからなくなったゾ」

 

 (僅かな問答や反応でそこに辿り着くんだ……実際にこの目で見てこの耳で聞くと、やっぱり凄いなぁ)

 

 「何だかとっても大変なことが起きたんだね? しかもバーテックスとは別の問題で」

 

 「うん、そうなんだ。今、樹海ではあの人達が戦っているよ」

 

 「あの人達……カエっち達のことだね。そっか、戦って……」

 

 「そうだよ。でも、あの人達なら大丈夫、直ぐに戻ってくるよ。その時に私の自己紹介と一緒に、事情の説明をするね」

 

 園子の突拍子も無いように聞こえる言葉にひなたと少女は驚きの表情を浮かべ、1人理解出来ず取り残されたような気分になった銀がガックリと肩を落とす。何か、バーテックスとは別の問題が起こっている。そう察した園子が問い掛けると、少女が楓達6人が今戦闘中であることを教え、2人が心配そうな表情を浮かべる。そんな2人を安心させるように、少女は朗らかな笑みを浮かべてそう言うのだった。

 

 後で説明して貰えると分かった2人は心配しつつも6人が戻って来ることを待つことにした。その間、ひなたが園子に“どことなく面影がある”とか“耳掃除は好きか”と聞き、園子は“好きだしカエっちにされたい”と答えた。その隣では銀が少女に“君も彼に耳掃除されたい?”と聞かれ、なぜ彼女が楓の事を知っているのかと疑問に思いつつも“されるよりしたい”と思わず溢してしまって赤くなった銀を3人で微笑ましげに見詰めたりして。

 

 そして、園子が何かに気付いたようにその場で振り返り、何もない場所に向かって飛び付くようにジャンプし、銀がその動きを見てそろそろかとそちらを見て2人が突然の行動に驚くのと……6人がこの場に現れるのは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 「うおっと……のこちゃん、いきなり飛び付くのは危ないよ」

 

 「えへへ、ごめんごめん。お帰りカエっち、皆。無事で良かったよ~」

 

 「あっ、戻ってきた……ただいま園ちゃんっていつの間に楓くんに抱き着いたの!?」

 

 「祠も無い教室に戻ってくるなんて……それはともかく、2人が平気そうで本当に良かったわ。それで、この方達は……? 1人はその、友奈ちゃんによく似てるけれど……」

 

 「須美達も無事で良かった。こっちもこっちで訳分からんくて大変だったんだゾ……? で、こっちの人達は……」

 

 (まさか、樹海からあの人が戻ってくるのを察してあんな行動を……? あの子、どんな鋭敏な感覚をしているんだろう……)

 

 (あれが、私達の時代には居なかった男性の勇者。神樹様からの神託で聞いては居ましたが……実際に見ると雰囲気通り、優しそうな人ですね。それにあの園子さんの躊躇いの無い動き……若葉ちゃん、貴女の子孫は大物に育っているようですよ)

 

 本来なら祠が存在する屋上へと戻ってくる筈がどういう訳か部室に直接戻ってきた6人。楓は戻ってきて周囲の確認をする間も無く園子にいきなり抱き付かれる形になったが、慣れたように衝撃を逃がす為にその場でくるりと回転し、園子を抱き止める。彼女は幸福(しあわせ)そうにしつつも笑いながら謝った。

 

 いつの間にか楓に抱き着いている園子に驚く友奈と2人の無事な姿を見て安心する美森。他の3人も同じように安心し……部室に見知らぬ人物が2人居て、その内1人が友奈に良く似ていることに驚きの表情を浮かべる。少女の方は園子の躊躇いの無さと彼らが戻って来ることを感じ取ったことに驚き、ひなたは男性の勇者と園子が仲が良さそうであることに驚きと共に微笑ましさを感じていた。

 

 「……さて、皆さん、お役目お疲れ様でした。私、上里 ひなたと言います」

 

 「上里!? 大赦の巫女の中でも最高の発言力を持つって言う……あの上里家?」

 

 「あ! 本当だ、上里ってそういう名字だ。基本的な所を見落としていたよ」

 

 「上里……巫女だけでなく、友華さんの高嶋家と同じく大赦の名家の1つだったっけ。というかのこちゃん、上里は確か乃木家と並んでツートップ……っ!?」

 

 「どうしたの楓くん……っ!? 私と、同じ顔……?」

 

 「はい、その上里です。それで、こちらの方は……」

 

 ひなたの自己紹介を聞き、驚きの声を上げたのは夏凜。彼女の言うとおり、上里は楓が言った高嶋家、そして園子の家でもある乃木家と同じく大赦の名家に名を連ねる名字の1つであり、乃木家と共に大赦のツートップの家でもある。

 

 それを見落としていたと言う園子に楓が苦笑いし、もう1人の方はとここで初めて少女の方に視線を向け……少女と目が合い、ハッとする。そんな彼の様子を見た友奈が同じように少女の方を見ると、同じようにハッとする。その顔は紛れもなく、自身と同じモノだったからだ。

 

 ひなたが少女の方に手を向けると、改めて8人の視線が少女へと向かう。年の頃は友奈と同じくらいだろうか。彼女と同じように赤い髪を後ろで束ね、髪にはこれまた似たような桜を模した髪飾り。服装はひなたと同じ大赦の巫女服を着ていて……そして、その目は友奈と違い、楓達3姉弟と同じ緑色。

 

 

 

 「改めてはじめまして。私の名前は……えーっと……神谷(かんだに) 友奈」

 

 

 

 (いや、えーっとって……その名前、ひょっとして今考えたんじゃないでしょうね)

 

 少女の自己紹介に一瞬誰もが疑問符を浮かべる中で、唯一思わず苦笑いを浮かべて生暖かい視線を送る楓。疑問符を浮かべた皆に“ちょっと緊張して”と赤くなりながら口にした少女は、そのまま自己紹介を続ける。

 

 

 

 「名前が同じ人が居るみたいだから……私のことは神奈(かんな)と、そう呼んで欲しいな」

 

 

 

 (いや、貴女……()()()でしょう)

 

 そう確信している楓だったが、その言葉はそっと心の奥に閉じ込めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 それは、8人となった勇者部が天の神を打ち倒す未来に続く道程から少しだけずれた、数多存在する世界の内の1つ。当事者達の誰の記憶にも残らない……それでも、1柱の神が不思議な世界で叶わぬ夢を叶え、それぞれの時代から終結する勇者達と共に青春を謳歌したり、ほのぼのしたり、重いシリアスになったり……勇者達と共に問題に当たりつつも“人と同じように過ごす”。

 

 まあ……そんな、夢のようなお話。




原作との相違点

・本編より楓、神樹(人)、銀(中)が参加

・命名、神谷(かんだに) 友奈。あだ名は神奈(かんな)

・神奈は巫女枠



と言う訳で、新年最初の投稿でした。本編ルートのゆゆゆいですが、厳密には本編の最後まで神として存在した神樹……神奈が、例え全員が忘れるとしても夢を叶えていた場合の世界線での話となります。なので、一応はifルートと言えなくもないですね。ややこしいですけれど。

神奈の夢が何なのかは本編“咲き誇る花達に幸福を― 21 ―”にて。神奈が、そして楓がゆゆゆい世界でどう活躍するのか。それは私にもわからない。というかゆゆゆいのバーテックス擬き達のビジュアルの説明が難しすぎる。どう書けっつーんだ(スマホぶん投げ

ゆゆゆいは個人的にお祭りゲーですので、本編のようなシリアスや戦闘寄りではなくコメディ方面にすると思います。皆でわいわいしてもらい、その中で楓と神奈もほのぼのと楽しく過ごして貰いましょう。

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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