咲き誇る花達に幸福を   作:d.c.2隊長

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お待たせしました(´ω`)

fgoは王様狙いで引きましたが案の定爆死しました。でもきらファンでがっこうぐらしピックアップ単発引いたら水着くるみと通常みーくんゲット。またナイトが……手持ち星5半分くらいナイトなのに←

ドカバト始めました。やってみるとこれが中々に面白い。ギニュー特戦隊大好きです。

こないだ何となくランキング覗いてみたら日刊100位以内に本作が載ってました。たまに載ってるの見ると本当に嬉しいですね。感想もいつの間にか1000件越えてますし、読んで下さっている皆様、本当にありがとうございます。

今回も説明やらなんやら回です。


花結いのきらめき ― 1 ―

 「えっと……さっき樹海で声を飛ばしてくれたのは」

 

 「それは私ですね」

 

 「上里さん、でしたっけ。ありがとうございます!」

 

 「戦ったけど、言われた通り力を使ったリスクは無かったし精霊バリアも発動した。早速で悪いけど、2人には色々説明して貰えると嬉しいわ」

 

 「はい、そのつもりなんですけど、今少し驚いていて……声も性格も一緒なので」

 

 「神奈さんと友奈のことですか?」

 

 「それもありますが……」

 

 そんな会話の後、上里さんの視線が友奈と神樹様……神奈さんの2人を行き来する。確かに、2人の姿は巫女服と制服、瞳の色を除けば瓜二つだ。でも、確か以前に神樹様の今の姿は“ある勇者から借りている”と言っていた。それはてっきり友奈のことだとばかり思っていたんだが……上里さんの反応を見る限り、違うように思える。

 

 「大丈夫ですか? 気分でも悪いんですか? 何か持ってきましょうか?」

 

 「気に掛けて頂き、ありがとうございます……貴女のお名前は?」

 

 「はい! 讃州中学勇者部、結城 友奈です!」

 

 「友奈……神谷さんも友奈……お2人共、とても素敵な名前ですね。友情の(ゆう)……友達の(とも)……ごほん、落ち着きました」

 

 「ふふ、彼女も落ち着いたらしいから、そろそろ事情の説明をしようかな。衝撃的な話だけど、楽にして聞いてね」

 

 「普通、身構えるように言うもんじゃないの……?」

 

 夏凜ちゃんのツッコミに反応することもなく、神奈さんと上里さんの2人はさっきから言っていた“事情”について説明してくれた。

 

 実は現在自分達が居る場所は本来の世界ではなく、神樹様の中に造られた特別な世界なのだと言う。突拍子も無い話だとは思うが、大赦に返した筈の端末が手元に現れたことと言い、何より人の姿をした神樹様が目の前に居ることと言い、事実なのだろう。皆も突拍子はないが有り得なくはない、と判断しているようだ。

 

 で、なんでそんな世界に自分達が居るのかと言えば……なんでも、人類の味方をしてくれている土地神の集合体である神樹様だが、その中の1体の神が神樹様の内部で嵐の如く暴れまわっているらしい。その神は元々は天の神に属していた強力な神であり、天を追放されて人類の味方となってくれていたのだが……。

 

 「今回神樹となっている他の神様と……端的に言うとケンカしたとか。神樹様から離れると主張されて……」

 

 「さっきあなた達が戦っていたのは本物のバーテックスじゃなくて、その神……造反神と呼ぼうかな。造反神が造った、偽物なんだ」

 

 「偽物……だから御霊が無かったんだねぇ。それに、小さなバーテックスの数も少なかったし」

 

 「元々は天の神側なのでこれくらいの模倣は出来るとか……本当に、位の高い神なのです。その神のお陰で勇者システムに一部、天の神の技術が流用されているくらいに」

 

 (後、彼の肉体を造り直す時にもその力が使われてたりするんだよね、“私達”の内の1柱だし……この子達の前では言えないけど)

 

 「また、造反神は独自の兵隊を作り出して、神樹様の内部を荒らしているのです」

 

 味方だった神が離れて身内の中で暴れまわっているから()()神、か。割とそのままな名前だが分かりやすくていい。それに、先程の戦いで御霊が無かったことも納得出来た。というか勇者システムに天の神の技術が使われているって初めて知ったんだけどねぇ……レーダーに敵が映るのはそれが理由だったりするんだろうか。

 

 独自の兵隊、というのは2人も言ったバーテックスの偽物達と考えていいだろう。皆もその考えに至っているのか、さっきの敵はまさか、と呟くのが聞こえる……というか友奈はハッキリと口にしてた……そして、ここで土地神がバラバラになった時、神樹様はその力を大きく失うのだと言う。

 

 「つまり自分達は……」

 

 「そう、あなた達は勇者として造反神を鎮める為に、この世界に呼……ば、れたんだ。特殊な召喚方法を使ってね」

 

 「神樹様の中で対立が起きた結果、今度の敵は神樹様の中の1体……土地神と土地神の戦い、か」

 

 「外にも天の神が居るのに中でも神様同士でケンカって……勘弁してくれ」

 

 神奈さんが自分の言おうとしたことを言ってくれる。美森ちゃんと銀ちゃんが難しい表情でボソッと呟いた言葉が、嫌に部室の中に響いた。いつの間にかのこちゃんは自分の左手を握っており、そちらを見てみれば同じように少し難しい顔をしている。

 

 天の神……外の世界を火の海に変え、四国以外を滅ぼしたバーテックスの大元であり元凶。その驚異がまだ完全に去っていない所に今回の件だ、難しい顔になるのも分かる。それに、皆も不思議そうな顔をして……不思議そうな顔?

 

 「どうしたんだい? 姉さん。そんな不思議そうな顔をして」

 

 「いや、何でか先代組は伝わってるみたいなんだけどさ……」

 

 そう言って姉さんは同じように不思議そうにしている友奈、樹、夏凜ちゃんにへと目配せし、3人も同じように頷き……こう口にした。

 

 

 

 「天の神ってなんのことよ?」

 

 「「「「……あっ」」」」

 

 

 

 そう言えば、4人には説明したことなかったっけ。自分を含め先代組が同時に思わずそう声にした後、自分達は顔を思い出すのも憎らしいあの男から聞かされた天の神について4人に説明するのだった。

 

 その後は天の神の説明で疲れた体と頭を回復させる為にと美森ちゃんがぼた餅を皆にも振る舞った。自分と友奈は戦いの前にも食べていたんだけど、やはり彼女のぼた餅は美味しいので幾らでも食べられる。神奈さんと上里さんにも好評のようだ。

 

 (これが食べ物の味……これが甘味……これが美味しいってことなのかな。ついつい笑顔になっちゃうね)

 

 「神奈さん、どうですか? 美森ちゃんのぼた餅は格別でしょう?」

 

 「うん、美味しい、ね。こんなに美味しいのなら毎日でも食べたいな」

 

 「だよね! 東郷さんのぼた餅は本当に美味しいよね~♪」

 

 「ふふ、友奈ちゃんと同じ事を言ってくれるのね。嬉しいわ」

 

 そんな和やかな空気になりつつ、説明は続く。夏凜ちゃんが疑問に思ったのは、この世界が神樹様の内部だと言うのなら、今居るこの学校にそっくりな場所はどういうことかということ。

 

 確かに、自分もかつて散華を治す為に神樹様の中に居たことがあったがこんな学校みたいな場所では無かったので疑問に思っていた。2人曰く、自分達が過ごしやすいようにと神樹様が実際の四国を見立てているらしい。

 

 「もしかして私達は、しばらくここに居る流れ……なんですか?」

 

 「はい、そういう流れです。現実とは時の進みが違いますから、戻っても時間は経過してませんよ」

 

 「な、なんだか私、話に着いていけるか少し不安になってきたような……」

 

 「大丈夫、大事なことだから丁寧に説明するから。まずはこれを見てほしいな」

 

 (同じ顔なのに神奈って人の方が知的ね……)

 

 何やら夏凜ちゃんが珍妙な表情で神奈さんを見ているのが気になるが、今は彼女が取り出した自分達の物とは別の端末の画面を見ることにする。その画面には四国地方そのものが映し出されており、自分達が住む香川県、その一部が青く光っている。が、それ以外は全て赤く染まっていた。

 

 上里さんが言うには、この赤い部分が造反神に占領されている土地であるらしい。造反神の反乱は、それほど迄に進んでいるのだと。この青い部分は自分達が居る所、という認識で良いだろう。青い部分を失えば手遅れ、神樹様の中の神々が分裂し、その力を大きく失うことになる。

 

 「大ピンチじゃないの! 造反神を鎮めるにはどうすればいいのかしら」

 

 「土地を防衛、奪還しつつ相手の勢いを削ぐ……まずはそこからですね」

 

 「確かに長丁場になりそうだわ。補給は大丈夫なのかしら?」

 

 「でも、神樹様の中でケンカが起こってるなら止めないといけないね!」

 

 「そうだねぇ……というか、何も自分達の戦いが一段落してからケンカしなくてもいいのにねぇ」

 

 姉さんと美森ちゃん、友奈に続いて呟く。折角散華も治って8人全員揃って平和に過ごしていたのに……内心溜め息を吐くが、神樹様が困っているとなれば助けない訳にはいかないだろう。それに、もうこの世界には召喚されている訳だしねぇ。

 

 造反神が鎮まれば、神樹様は従来通りに活動出来るようになるらしい。現状説明に着いてこれていない人は居ないようで、友奈と何故か銀ちゃんが小さくガッツポーズしているのが見えた。そんな彼女達に苦笑いを浮かべつつ、まだ続く説明に耳を傾ける。

 

 美森ちゃんが先程口にした“補給”についてだが……なんでもこの世界は学校だけでなく実在と同じ町が広がり、実在と同じ人達が生活しているのだと言う。原理はよくわからないが、その人達の魂を召喚し、その人達はこの世界が現実であると思って普通に生活しているらしい。つまり、自分達は実在と同じ世界のような神樹様の内部で普通に暮らしつつ、今回の造反神……お役目を果たしていって欲しいのだと。

 

 「勇者システムは精神の安定が大事です。皆さんのメンタルは常に健全でなければ」

 

 「だからこそ、この世界で普段の生活も出来るようにしてるんだよ」

 

 「じゃあ、私の家とかも普通にあるんだ。店ではサプリやにぼしも売ってる、と」

 

 「なるほど……家? そう言えば、お2人の家は……」

 

 「私達はこの中学近くの空き物件を使わせて頂きますね。この時代出身ではないので、家が無いんです」

 

 「私も同じ物件にしばらく彼女と2人で住むことになるかな……人間としての生活の仕方とかわからないし」

 

 神奈さんの最後の部分は良く聞こえなかったが、その前の話にはふむと頷く。世界が違うというだけで、現実の世界とそう変わらない。変に気を張る必要もないし、野宿やら全員同じ場所で寝泊まりする、なんてこともしなくて済みそうだ……ん?

 

 「か、楓くん。今、凄いことをさらりと言われたような気がするんだけど……」

 

 「自分もそんな気がするよ……上里さん、もう1度言ってもらっても?」

 

 「ぷりーず、わんす、あげいん、です」

 

 「私はこの時代ではなく、約300年前からやってきたんですよ。神世紀ではなく、西暦の世界から。神世紀ではなく、西暦の世界から!」

 

 「重要なことだから繰り返したわね……もう何が起きても早々驚かないわ。ということは、そっちの……神奈って人も?」

 

 「私は一応、神世紀からかな。あなた達と直接会ったことはないけどね」

 

 (そりゃあ、そうでしょうねぇ)

 

 友奈と、そして皆とも顔を見合わせた後にもう1度聞くと同じ言葉が2回返ってくる。300年前の西暦……つまり彼女、上里さんは初代勇者の仲間ということだろうか。この世界、想像を越えて何でもアリなようだ。まさか過去の人物と遭遇することになるとは……いやまあ、神様が目の前に居るから分かってはいたのだけど。

 

 神奈さんが言ったことには思わず苦笑いが溢れる。直接会えるような存在ではないし、人の姿を見たことがあるのも自分くらいじゃないだろうか。嘘を言ってないのが何とも言えない。

 

 「でも皆さんと私達は何も変わりません。私は通常がこんな言葉遣いですが、皆さんさえ良ければ、私には敬語抜きでお願いします。フレンドリーな関係で」

 

 「私も敬語抜きのふれんどりぃ? な関係でお願いするね。神奈と呼び捨てで」

 

 「うん、分かったよ。改めて宜しくね、ヒナちゃん、神奈ちゃん」

 

 「はい! 結城さん!」

 

 「自分は流石に呼び捨ても名前呼びもする訳には……」

 

 「そんな事ありませんよ。園子さんがそこまで心を許している方ですし、年齢も同じくらいのようですから。それに、男性の方に名前で呼ばれるなんて新鮮で……少しわくわくしてます♪」

 

 「私も……その、神奈でお願いしたい、かな」

 

 「……まあ、お2人が良いならいいんですがねぇ。それじゃあ、ひなたちゃん、神奈ちゃん。自分のことも楓で良いからねぇ」

 

 「はい! 楓さん!」

 

 「はぅ……う、うん」

 

 (むむ、ヒナたんはともかく“かーゆ”からカエっちに熱烈な視線を感じるよ~……一目惚れ? でもなんだか違うような……ん~?)

 

 そんな風に名前を呼び合うことになり、自分の左隣に居るのこちゃんが何故か首を傾げたり神奈さん……神奈ちゃんのことを注視しているのを疑問に思いつつ、話は続く。

 

 神樹様の内部であるこの世界には、この世界ならではの利点が幾つかあると言う。その1つが、樹海でも言っていた力のリスクが無いこと。これは自分達にとって本当に有難い。満開はまだ試していないが、それにすら作用するのなら今後の戦いで大きな力になるだろう。

 

 もう1つはひなたちゃんのように時代を飛び越えて勇者や巫女をこの世界に呼び寄せる事が出来ること。造反神が強力な存在である為、歴代勇者の力を結集して事に当たるようにと神託が来ているらしい。時代を飛び越えて、か……それは過去に勇者として戦ってきた人物なら誰でも呼び出せるのだろうか。だとすればもしかしたら……この予想が当たったら、姉さんとのこちゃんが暴走しないか心配だねぇ。

 

 「歴代の勇者が集結……そんな事が出来るなんて、神樹様はやっぱり凄いです」

 

 「あくまでもこの世界だからこそ出来ること、なんだけどね。それに……結局戦うのは勇者の皆だから」

 

 「それでも、やはり神樹様の力があってこそですよ神奈さん。園子さんのご先祖、乃木 若葉ちゃんとかもこの時代にやってきてオールスターバトルです」

 

 「とっても素敵! 他の勇者さん達はどこなんだろ?」

 

 「まだ呼べていません。土地を奪還していけば神樹様に力が戻って呼ぶことが可能になるかと」

 

 「で、ではいざとなれば昭和の日本軍の戦艦などを呼ぶことも出来たり……? そうすればバーテックスなにするものぞ! 雄々しい砲撃の数々で蜂の巣に……」

 

 「目を輝かせているところ悪いけど、バーテックスに人間の兵器は通じないよ。だから戦力として呼ぶのは勇者と巫女だけになるんだ」

 

 のこちゃんはご先祖様の乃木 若葉さん……か。彼女の先祖と言うくらいだから、きっと彼女に似てぽやぽやとした女の子なんだろうねぇ。美森ちゃんは相変わらず日本やら海軍やらが大好きみたいだねぇ。いつだったか、空母だが戦艦だかを黒板にリアルに描いていたことを思い出す。

 

 神奈ちゃんが苦笑いしながらそう言えば、美森ちゃんは残念そうに肩を落とした。この子は本当にもう……そう思って自分も苦笑いした直後、あのアラームが再び鳴り響いた。先程は驚いたが、2度目であることと説明を受けた後だと言うこともあって自分達に驚きはない。疲れてきた頭をすっきりとさせたかった所だし、丁度良いと言えば丁度良いかな。

 

 「皆さん、頑張ってきて下さい。私も早く若葉ちゃん達をここに呼びたいので……出来ればこう、ちゃっちゃとお願いします。まだ先は長いですから」

 

 「あはは……なんだか貴女、ちょっと怖いけど面白いわね。任せなさい! 勇者部、GO!!」

 

 姉さんの掛け声と同時に、自分達の目の前が再び極彩色の光に包まれた。この後の戦いは精神的にも余裕が出来ていた為か、苦戦することもなければ怪我をすることもなく完勝出来たのだった。

 

 

 

 

 「わたしとミノさんの端末は相変わらず現れないね?」

 

 「ってことは留守番になるのか……なんであたしらだけ?」

 

 「君達は緊急事態の為の切り札、というところかな。大丈夫、君達の力は必ず必要になる。その時こそ、あの人達と一緒に戦ってほしいな」

 

 「勿論だよかーゆ。でも、この戦いは重要なモノになりそうだから早い内に経験しておきたいな。敵は“元”天の神で、わたし達勇者がやることは領土の防衛と奪回……現実と似てるからね」

 

 「あ、ホントだ。ってことは、この戦いをどうにか出来れば現実世界とどうにか出来るかも!?」

 

 「はい。この世界での戦いは、決して無駄にならないと思います」

 

 (そう、決して無駄にはならない……でも、最後には……それにしても“かーゆ”、か。あだ名で呼んでもらえると、なんだかより仲良くなれた気がするね。神奈もあだ名だけど)

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく。時折造反神によるバーテックスの襲撃が来るものの難なく撃退し、別の世界であるものの現実と変わらない普通の日常を過ごしていく勇者部とひなた、神奈。とある日、いつものように部室に集まった10人は勇者部に届いた依頼を確認しつつ、いつもの日常を過ごしていた。

 

 ひなたと神奈の姿はこの世界にやってきた日に着ていた巫女服ではなく、讃州中学とは別の中学の制服になっていた。とは言っても、彼女達は現在学校に通っている訳ではない。神世紀の大赦への事情の説明や生活する場所の確保、生活出来るだけの充分な金銭、その他諸々の必要なことが多くある。

 

 その多くはこの数日で片付いている。何せこの場には大赦の上層部に繋がりを持つ人間が2人居るし、大赦に所属する巫女への神樹からの神託もあり、事情説明と生活する場所の確保も済んでいる。その他必要なことや細かな事も大赦が動いてくれるのだとか。勇者が召喚されその数を増やせば、いずれ学校にも通うことになるらしい。

 

 それはさておき、2人は放課後の時間帯になれば勇者部にやってきて部活動の手伝いをしつつ過ごしている。ひなたは1人先に自身の時代の仲間達よりも早くこの世界に来たことで寂しくはないかと友奈に聞かれ、その内会えると信じていると笑いながら返す。その言葉を聞いた園子がひなたとその想い人との恋物語を書くかもしれないと言ったり、ひなたがそれをハイテンションで推奨したりしていた。

 

 「ひなたさんにも、大切な人が居るんですね。神奈さんも、やっぱりそんな人が居るんですか?」

 

 「大切な人……うん、居るよ。だけど私は大丈夫。ちゃんとこの世界に居るし、会えるから」

 

 「そっか、神奈ちゃんは神世紀の人だもんね」

 

 「そういうこと。その中には君達も含まれているんだけどね」

 

 「私ももう、神奈ちゃんは大切な人の1人だよ!」

 

 「ふふ、ありがとう、結城ちゃん」

 

 そうして和やかに過ぎていく時間。時折ひなたがその大切な人への思いを熱く語り、その勢いと口調の強さに風が若干の恐怖を覚えたりしていた時、友奈が閃いたように声を上げる。

 

 「そうだ! 風先輩、神奈ちゃんとヒナちゃんの歓迎会をしませんか?」

 

 「歓迎会……そう言えば、色々あってやってなかったねぇ」

 

 「ホントね、忘れてたわ。勇者部に入ったからには歓迎しなきゃねぇ」

 

 「歓迎歓迎、大歓迎~♪」

 

 「え? あ、いえ、私はそんな立場では……」

 

 (歓迎会……そっか、私、この子達に歓迎されてるんだ……良かった)

 

 「ひなた、残念ながら拒否権は無い。何故ならあたし達もやってもらったからだ!」

 

 「そうだよ~。それにこれは勇者部加入の儀式なんだよ~?」

 

 「そうなんですか……ああ、園子さんの顔で言われたら断れません」

 

 「余程、のこちゃんとご先祖様の……若葉さん、だったっけ。似ているんだろうねぇ」

 

 「えへへ~♪」

 

 「はい! 中身はまるで違いますが、この声、この顔が若葉ちゃんを思い出させるのです……ああ、その蕩けた顔を若葉ちゃんがしてくれたらと思うと……はぁ」

 

 この世界のこと、そして違う世界に来たと言っても変わらず続く日常。普段の8人に新たに加わった2人で10人となった部室にも慣れ始めていたが、すっかり2人の歓迎会をすることを忘れていたと気付く8人。歓迎会をする流れになったことにひなたは慌て、神奈が安心したように胸を撫で下ろす。

 

 銀と園子にも言いくるめられ、まだ少し慌てつつも受け入れるひなたと嬉しそうにしている神奈。楓が園子の頭を撫でながらそう言うとひなたは肯定し、幸福そうに撫でられている園子を見て熱い息を吐いた。それを見た風と夏凜は少し怖かったのか、1歩彼女から距離を取った。

 

 「……分かるわ」

 

 「はい?」

 

 「大切な人と離れ離れで会うことが出来ないというその切ない気持ちが、私には痛いほど分かる。もしもまたそんなことになったら……私なら耐えきれないかもしれない」

 

 「……ありがとうございます、東郷さん。そのお言葉が、私の心の支えです」

 

 ひなたの状況を深く理解し、我が事のように切なそうにしたのは、東郷。彼女もまた、大切な人と離れ離れになり、再会するのにそれなりの時間を要した。故に、ひなたの気持ちが良く分かる。もしもまた楓と友奈と離れ離れになって1人になってしまったら、今度こそ自分は耐えきれないと思う程。

 

 その言葉に込められた想いは、確かにひなたに届いた。自身の心境を、恐らくこの場で最も理解してくれているであろう勇者の存在にひなたは深く感謝し……いつの間にか両隣に居る楓と友奈に手を握られて嬉しそうに笑う彼女を、少し羨ましく思った。

 

 (本当に、嬉しそうに笑うのですね。東郷さんも、結城さんも、園子さんも。やはり男性の勇者という存在は大きなモノなのでしょう……もし私達の時代に楓さんのような異性が居てくれたなら……はっ、その時は乙女な若葉ちゃんを見ることが出来たかもしれません! ああ、何故私達の時代に楓さんのような男性の勇者が居なかったのでしょうか!)

 

 (今度は楓を見る目が妙に輝いて……やっぱりこの人、ちょっと怖いわ)

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで突発的に始まった歓迎会。近くのコンビニやスーパーで買ってきたお菓子とジュースに美森のぼた餅を簡易テーブルの上に広げ、ひなたと神奈の入部を祝して……と言う風の音頭で紙コップで乾杯。

 

 パーティーをしていることに無邪気に喜ぶ園子、巫女なのに勇者部とはこれいかに? と疑問を溢す夏凜。細かいことは気にしないと笑う風と楓。そうして雑談を交わしている時だった。

 

 「そう言えば、巫女って何をするんですか?」

 

 「うんうん、私も聞きたい」

 

 「特にこれと言ってお話しするようなことは……強いて言えば、神樹様の声を聞くことですね」

 

 「神樹様ってどんな声なんですか!?」

 

 「樹が食い付いた!? まあアタシも気になるけど」

 

 (友奈と君みたいな声だよねぇ、神樹様?)

 

 (正確には声じゃなくてイメージを……な、ナンノコトカナー?)

 

 前から疑問に思っていたのだろう、樹がひなたと神奈に聞き、友奈も同調する。他のメンバーも直接口にはしていないが聞きたいことではあったのだろう、耳を傾けていた。ひなたは少し思案しつつ、ポツリと呟くと樹が両手を合わせて興味津々だと態度に示す。そんな妹と同意する姉の姿を見て、楓は自身の隣で同じように一口サイズのぼた餅を食べる神奈と樹の隣に居る友奈を見ながら神奈に囁き、あらぬ方向を見ながら答える彼女を見て彼はくすくすと笑った。

 

 ひなた曰く、神樹の声とは音声として聞こえるのではなく意識が伝達される感じ……テレパシーのようなモノだと言う。本当にテレパシーのようなモノで何かを伝えてくるのなら散華やらバーテックスの襲来やらを自分達に直接伝えればいいものを……と少し風は不満に思うものの、口にはせずにふーんと頷いた。

 

 それはそうとして、楽しいパーティーは続く。美森のぼた餅を食べながら大好物になりそうだと笑うひなたと既に大好物になっているのだろう美味しそうに食べている神奈。買ってきたお菓子よりもそっちの消費が激しいのは気のせいではないだろう。何せ、この場に居る全員の手にぼた餅を乗せた紙皿があるのだから。

 

 「ひなたさんの大切な人も、気に入ってくれるかしら」

 

 「ええ、きっと気に入りますよ東郷さん。ああ……その日が待ち遠しい」

 

 「随分仲良くなったんだな、須美の奴」

 

 「ホントだね~。おんなじ長い黒髪だし、波長が合うのかもね~」

 

 「波長が合うっていうか……似た者同士なのかもね」

 

 「ああ、東郷もたまに友奈と楓に対しての想いとか爆発するときあるから」

 

 (想いが爆発……どういう状態なんだろう?)

 

 美森の言葉を聞き、ひなたの脳裏に若葉と共に彼女のぼた餅を食べている風景が浮かぶ。これ程美味しいのだ、きっと彼女も気に入るだろうといずれ来るであろうその日を夢想する。いつの間にか距離が近くなっている2人の姿にそれぞれが疑問と納得をしつつ、むぐむぐとぼた餅を口にしながら神奈だけが風の言葉を理解出来ず不思議そうにしていた。

 

 それから少しして粗方食べ終え、ゴミを片付けつつ簡易テーブルも直す10人。お菓子とぼた餅とは言え流石に一部を除いて満腹感を覚え、小休止を挟んだところで園子が再び口を開いた。

 

 「ね~ね~、隠し芸はないの~?」

 

 「隠し芸……私達ですか!?」

 

 「勇者部に新人さんが入る時には、必ずしなきゃいけないんだよ~?」

 

 「そ、そうなんだ……どうしよう、私隠し芸なんて……というか隠し芸ってなんだろう……飲み物を8口同時に飲んだり……は、今は無理か」

 

 「私も写真を撮るくらいしか芸が無いものですから……困りましたね」

 

 「サラッと嘘言ってるし!?」

 

 「しかも信じてる!? 待て待て神奈、園子の嘘だからそんなことしなくていいんだゾ!?」

 

 「のこちゃん……全くもう、嘘ついたらダメじゃないか」

 

 「えへへ、ごめんなさ~い」

 

 邪気の無い顔でさらりと嘘をつく園子。彼女と銀も入部の際には歓迎会をして貰っているが、勿論そんな事をした覚えはない。嘘をつく園子とあっさり騙された神奈とひなたにそれぞれ驚く風と銀。銀は紙コップの元へ向かおうとする神奈の手を握って止め、楓は園子の頭を軽く小突き、彼女は短く舌を出して笑いながら謝った。

 

 写真、と聞いて友奈がなら皆で写真を撮ろうかと言った所、わざとなのか天然なのかひなたは他の9人に並ぶように言い、どこからかカメラを取り出す……が、それを横から楓に取り上げられた。

 

 「ああっ、楓さん何を……」

 

 「ひなたちゃん達の歓迎会なのにひなたちゃんが写らないと意味無いでしょうに。自分が撮ったげるから、ひなたちゃんも並んでおいで」

 

 「あっ! で、ですが私は巫女として……」

 

 「巫女である前に、ひなたちゃんはもう勇者部の部員だからねぇ。のこちゃん、友奈、ひなたちゃん確保。神奈ちゃんも並んでおいで」

 

 「「了解!」」

 

 「うん、分かった。でも、後で……その……か、か、か……」

 

 「うん?」

 

 「か……か、え、で……くんも一緒に、ね」

 

 「……初めて、名前を呼んでくれたねぇ。うん、勿論」

 

 (優しい人ですが、こんな風に少し強引な所もあるのですね。ですが、それはどこか親しみがあって……決して、嫌な気持ちにはなりませんね)

 

 「それじゃあ……はい、チーズ」

 

 ひなたの両隣を園子と友奈が囲い、ずるずると引きずっていく。そして友奈が間を開けてそこに神奈が入り、それぞれ集まっていく。並び順で言えば、楓から見て右から園子、ひなた、神奈、友奈、美森。彼女達が少し屈んでその後ろに銀、風、樹、夏凜。指でピースを作り、神奈が戸惑いつつもぎこちなく同じように作ったのを見てから、楓はカメラのシャッターを切った。

 

 後にタイマーをセットしたカメラを使って楓も入った全員での集合写真を撮る。その際、彼は神奈の要望で先の並びで神奈とひなたの間に入ることになるのだった。この後ひなたから勇者達にも特技や隠し芸を持っているのかとカウンターを喰らい、樹がタロット占いをして案の定死神を引いたり。

 

 「もしもし亀よ亀さんよ世界の内でお前程~♪」

 

 「速い!? あまりの速さで玉が複数個あるように見えます!?」

 

 「楓って結構歌上手いよな。流石樹の兄」

 

 「これがアタシの弟の実力よ!」

 

 「だからなんでアンタが威張ってんのよ」

 

 楓が巧みにけん玉を操り、技を披露したり高速で玉を皿の上に行き来させたりして驚かせたり、それを風が我が事のように胸を張ったり夏凜にツッコまれたりしつつ、楽しい時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 そして歓迎会から更にしばらく経ったとある日、ひなたと神奈から勇者達は部室へと呼び出されることになる。そしてその日……勇者達は、とても不思議な体験をするのだった。 




原作との相違点

・説明に神奈が参加

・ひなたの天然ボケ(写真に写らない)をインターセプト

・神奈、夢を叶える(勇者達の日常にin、楓名前呼び)

・その他色々。原作は何度だって甦るさ



という訳で、原作花結いの章1話の続き、1話ハードのお話でした。キャラが増えるとどうしてもセリフ、地の文が多くなって話のボリュームが増えてしまいますね。もっと圧縮した方が皆様的にも読みやすいのかもしれませんが……申し訳ありません。この調子だと60話越えるかもしれませんが……年内に完結出来るだろうか。

戦闘は描写すらなくさっくり。なるべくほのぼのでいきたいので、出来るだけ戦闘は削っていきたいものです。でもオールスターならではの連携とか合体攻撃とかはやりたい。楓、友奈、たかしーのトリプル勇者パンチとかやりたい←

けん玉やら歌ってたりする描写は本編でもあります。是非探して見て下さい。

さて、前から言ってたように本当にのわゆin楓を望む声が増えました。一応案はありますが……DEifの新士が死後に何故だか球子と杏のピンチに颯爽登場したり、千景の叔父か祖父として引き取ったり、たかしーの近所のお爺ちゃんだったり、武具の影響で若返って初の大人(爺)勇者になったりと、考えるのは楽しいですね。皆様はどんな物語が好みでしょうか?

いずれは犬吠埼 楓、雨野 新士、神谷 友奈の自己紹介なんかも書きたいですね。撮られてる感じの台詞で。その際にはお好みの声優で脳内保管して下さい。

ここまで見てくださって皆様にはもれなく“咲き誇る花達に幸福を 犬吠埼 楓(黄属性、近接型)”をプレゼント←

それでは、あなたからの感想、評価、批評、pt、質問等をお待ちしておりますv(*^^*)

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