干支の巫女   作:炎の剣製

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005話 リューグの兄、リューガ

 

 

 

この世界に来る前に襲ってきた謎の怪異についてはまだ現状ではなにも分からないけど、とにかく私が【干支の巫女】というものになってしまったというのはなんとなくだけど理解できた。

リューグの力を吸収してしまって、なんか私とリューグの間にパスみたいなものが繋がったというのもわずかながらも私も感じ取れるんだから嘘ではないんだろうし。

それでって訳じゃないけど、魔気が使用できるとかはまだ勉強しないとどうにもならないけど、この世界でしばらくは生きていく事になるんだからいずれは習得しないといけないよね。

まぁ追々こなしていけばいいと思う。

とりあえず、今はしておかないといけない事がある。

それはというと……。

 

「リューグ。決して覗かないでね?」

「ああ。分かっているから入ってきていいぞ」

「うん」

 

それで私は少し汚れてしまっていた服を脱いで畳んで一か所にまとめて湖に体を沈めていく。

そう、体を洗う事です。

うう~…冷たい。

まぁ、夏ほどではないけどそこまで寒くはないので体を洗うのにはちょうどいい。

この世界に来て四日目だけど、色々あって今は落ち着いたので体を洗っていない事にようやく気付いたのでこうして体を清めているところだ。

 

「あー…でも慣れてくるとそこまで冷たくもないかな? あ、滝がある。ちょっと浴びてこようかな」

 

そんな感じで少しの間、私は裸で泳いでいたんだけど……リューグ、本当に覗いていないよね?

リューグがいる方へと目を向ければ岩陰に寄りかかっているのか少し肩が見えるので見ていない事は確かであった。

もし覗いたら承知しないんだからね。

 

「……そろそろ上がろうかな」

 

何度も体を擦っておいたので今日はもう大丈夫だろう。

そう思って上がろうとした瞬間だった。

ぞわっとしたような、誰かに見られているような感覚に襲われてすぐにリューグの方に顔を向けるが、相変わらず肩が少し見える感じだった。

それで少し不思議に思っていた時だった。

 

「リューグの様子を見に来たんだが、こりゃ可愛い人間がいたもんだな」

「えっ!?」

 

いつの間にか私の目の前に赤と黒が入り混じった髪色をしている以外はリューグと似た顔つきをしている人が腕を組んで立っていた。

顔がにやけているけど…そうだよね。冷静に考えて今の私は裸で生まれたままの姿だ。

それに気づいた時にはもう私の頭は盛大に羞恥心で混乱していたために、

 

「きゃ…」

「きゃ?」

「きゃあああああーーーー!!!!」

 

私は悲鳴を上げながらも大事な部分を必死に隠すようにしゃがみこんだ。

私の悲鳴が聞こえていたのか、

 

「ルカ! どうしたんだ!?」

「りゅ、リューグぅー…この変態は誰ぇ?」

「変態とはまたひどい言い草だな」

 

その人は軽そうな笑みを浮かべながら笑っていた。

それに対してリューグはどこか驚きの表情をしながらも、

 

「に、兄さん!? なんで、ここに…」

「なんでってなぁ。お前がなかなか里に帰ってこないからわざわざこのオレが見に来てやったんだぜ? だってのに、来てみたらこんな人間の娘といちゃついているなんてな。『ベル』が知ったら怒り出すぞ?」

「うぐっ…痛いところをついてくるな、兄さんは」

 

なんかそれで二人はお互いに苦笑いを浮かべている。

私はその間に木陰に隠れて顔だけを出して、

 

「その…リューグ。そのひとはリューグのお兄さんなの…?」

「ああ、ルカ…。兄さんがふしだらな事をしてしまってすまない。後で叱っておくから今は許してやってくれ。ほら、兄さんもルカに謝るんだ」

「あいあい。すまなかったな嬢ちゃん。だが、良い体をしていたぜ?」

「ッッッ!!」

 

やっぱりしっかりと見てたんじゃないの!

うう…恥ずかしい。

 

「兄さん! 余計な火種を作らないでくれ!」

「ハハハハハ! ま、こんな形ですまんが俺はリューグの兄の『リューガ』だ。ま、よろしくしてくれ」

「……辰宮 龍火(るか)です」

 

また軽快に笑い声をリューガはあげながらも、そんな感じで私達は軽く自己紹介を済ませた。

その後に制服に腕を通して着終わって二人の前に出る。

 

「ほう…。珍しい服装だな」

「ああ、そう思うだろう。兄さん、ここだけの話なんだがルカは異世界から来たみたいなんだ」

「…なんだと?」

 

それで私とリューグとでリューガに干支の巫女の事に関しても説明をした。

するとリューガはなにやら真剣な顔をして考えこんでいるようだけど、どうしたのかな…。

それに、少し思った事なんだけど、なんで兄のリューガじゃなくって弟のリューグが十二支の力を引き継いだんだろうって…。

でも、他人である私が振っていい話じゃないよね。

きっとなにかそういう方針だったんだろうね。

見た感じはリューグとリューガは仲はそんなに悪いわけじゃないみたいだし。

今も軽口を交えながらも真剣に話し合っているし。

しばらくして、

 

「なるほど…大体把握した」

「そうか。それならよかったよ、兄さん」

「そんじゃ、ルカといったな? 里の者として干支の巫女を歓迎するぜ」

「あ、はい! まだまだ分からない事ばかりだけどよろしくお願いします!」

「ああ、堅苦しいのはいいぜ。俺は軽い感じが好きなんだ。だが、族長がこれを聞いたらどんな顔をするか楽しみになってきたな」

「そうだな。族長は先代の辰の十二支でもあったからな。さぞ驚かれるだろう」

 

そんな感じでリューグとリューガはお互いによく分からない表情を浮かべている。リューガの方は全面的に面白そうという感じが滲み出ているけど。

それにしても、え? 族長が先代の十二支なんだ。

やっぱり十二支の中では竜は特別で威厳がありそうだからリーダーに選ばれやすいのかな?

もしその族長と会うとしたらなるべく自然体で、でも目上に対しての対応をしないと。

間違っても異世界なんだから対応を間違って牢屋とかに入れられたらシャレにならないしね。

私がうんうんと一人で考えている横では、

 

「それよりリューグ。力の制御に成功したようだし、一回組み手でもしてみるか?」

「それは構わないが…お手柔らかに頼む。今までの演習結果で三分の二以上は兄さんに負け越しているからな」

「ハハハ! ま、オレも伊達にてめぇの兄貴をしていないからな。そう簡単に負けてやれないしな」

「そうか。ふふ、腕が鳴るな。習得した力の成果を見せるよ」

 

なにやら話的に組み手をするみたい。

でも、当然ただの組み手じゃないんだろうなー…。

異世界で魔気なんて技術がある以上は生半可な気持ちで見学なんてしていたら飛び火で燃やされちゃいそうだし…。

 

「そ、それじゃ私は離れたところで見ているね?」

「ああ。その方がいい」

「うむ。火達磨になってしまったら後が大変だからな」

 

何気に怖い事を平然と言うリューグ。

やっぱり炎の撃ち合いでもするのかな…?

とにかく私は少し遠くに離れて二人の演習を見学することにした。

私が離れたことを確認したリューグとリューガは少し距離を置いて構えを取る。

最初はただ構えているだけなのかなとも思ったけど、次第にまだ魔気というものに理解が及んでいない私でも分かるくらいにリューグの体を緋色の漫画でよく見るオーラみたいなものが纏いだして、リューガは黒いオーラが纏いだした。

うーん……なんていうか、見ていてリューガには悪いと思うんだけど黒いオーラってなんか悪役みたいだよねと私は思った。

そしてそのオーラがついには実体化して炎が舞い始める。

 

「……いきますよ」

「……かかってこい」

 

二人のその言葉が合図だったみたい。

瞬間、二人の立っていた地面は一瞬にして陥没して二人は真ん中あたりで炎の拳を打ち合っていた。

バチィンッ!という衝突音とともに大気が振動するような衝撃が私の肌を撫でる。

遠くに離れているのに感じられるなんて相当だと思う。

 

「次行くぞ!」

「おおおおお!!」

 

それから二人は何度も拳の応酬を繰り返していて、そのたびにその場の地面は圧に耐えられなくなって沈んでいく。

しかし見たところ力は五分五分な感じなのかな?

お互いに決め手に欠けているという感じが伺える。演習なんだからそれはそうなんだけどね。

だけどそれで先に次の先手を打ったのはリューガだった。

千日手だったみたいで一回リューグから距離を取って腕に力を込めている。

 

「受けてみろ! 飛翔黒鱗炎舞!!」

 

そう言い放った瞬間にリューガの周りに黒い鱗のような炎がいくつも出現してリューグに襲い掛かる。

リューグも何度もその炎の鱗を交わしながらも、

 

「出遅れたが負けてやれないぞ! 飛翔鱗炎舞!!」

 

リューガと同じ部類の炎を展開して迎撃した。

鱗の炎同士が激突し合い激しく破裂し合う。

その爆風の中、リューガがニヤリと笑みを浮かべたのを私は見た。

まだ爆発した時の余波で煙が舞っている中でリューガの姿が一瞬にして掻き消えたのだ。

それをリューグも気づいたのだけど、私が次にリューガの姿を発見したのはリューグの背後で首筋に手刀を添えているリューガの姿であった。

 

「ぐっ……また、負けか」

「ふふん。ま、当然だな」

 

演習は終わったみたい。

それで私も手に汗握る戦いに我慢していたのか、

 

「す…すごいすごい! 二人ともすごかったよ! 私、何度か目で追えなかったし、なんて言っていいのか分からないけど、とってもすごかったよ!!」

「おおう…一気にスイッチが入るタイプかい、ルカの嬢ちゃんは」

「ありがとうな、ルカ。まぁ負けてしまったのだがな…」

「それでもだよ! リューグもすごかったよ!」

「ありがとう」

 

こんな感じで演習は終わって、

 

「そんじゃさっさと精霊の里に帰るとするか」

「そうだな、兄さん。ルカも案内しないといけないしな。ルカ、ついてきてくれ。里まで案内するよ」

「うん。お願いします」

 

私とリューグはそれで笑いあいながらも道を進んでいった。

……ただ、気づかなかったことがあった。

歩く私達の背後でリューガが目つきを鋭くして拳を強く握りしめていたことを…。

その心の内に秘めた感情はなんだったのか……。

 

 




リューガの思いとは何だったのでしょうか…。

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