Sword Art Online〜仮面の裏の〜   作:黒っぽい猫

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あれ?おかしいな。別の作品を更新するつもりだったのに。まあいっか。

というわけで三話です。やっと第一層が終わって話が進展しますので乞うご期待です!!


第三話〜第一層、攻略

この世界は便利なもので、アラームを掛けさえすれば強制的に目を覚ましてくれる。微睡みも二度寝もできるが、ちゃんと目が覚めるので僕は二度寝に成功したことが無い。

 

「……」

 

とはいえ今日はそんな悠長な事も言ってられないのだが。軽く伸びをしてから装備の確認を行っていく。腰に巻いてあるポーチの中には十分な回復用ポーションが入っていることを確認して仮面をつける。視界が著しく制限されはするものの、こうしてしまえばもう僕が誰なのかわかる人間はいないだろう。それに戦闘時にはそんなもの関係なくなる。

 

この仮面は、そういうものなのだから。

 

剣も一新しているのでキリトに気づかれる気遣いもない。プレイスタイルを見られてしまえばバレる可能性もあるだろうが、それはそれ。

 

「よし。行こう」

 

 

そう呟いた僕は、迷宮区へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特に交戦することも無く、僕は最上階まで入り込んだ。攻略組が粗方討伐しながら進んでくれたお陰だろう。時間的にはもう既にボスの攻略戦が始まっている筈だ。渡された地図の通りにボス部屋まで近づいていくと、微かに金属同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。段々とそれは大きくなっていき、ついにハッキリと聞き取れるようになった時に、目の前に大きな開かれた扉が現れた。中では多くの人間が駆け回り、剣を振るっている。

 

その中の一人、黒が印象的な少年の姿を認めて少し安心する。僕と行動を共にしなかったからか、パーティーをちゃんと組めているようだ。

 

「よかった……キリト」

 

そのパーティーが2人だけなのはとりあえず置いといて、僕は改めて入口から戦況全体を見渡す。ディアベルはやはり陣の中央付近で指揮を執り、その近くにはキバオウがいる。接近するのは容易では無さそうだ。

 

「どうにか隙を作ってくれよ、ディアベル」

 

と、ボスのHPゲージが最後の1本に突入する。ここまで被害者を誰一人として出ていない辺り、元テスターらしく彼の技能は抜きん出ている。

 

 

 

 

 

その様子を見ながら、もう一度ここからの手順を反芻していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一回攻略会議が行われた日の22:30にそいつは現れた。

 

「やあ、デイアベル。時間丁度だ。随分と几帳面と見た」

 

こちらの言葉に彼は顔を引き攣らせる。どうやらお気に召さなかったらしい。そんな彼が口にしたのは疑問だった。

 

「……君は、一体俺のどこまで知ってるんだ?」

 

「ん?ああ、その事か。確かに気になるよね──何も知らないよ」

 

「は?」

 

「僕の目的は貴方に話を聞いてもらうことだ。ここに貴方が来た時点で僕の目的は達成出来ているのさ。別に僕にとっては貴方がベータテスト時代に複数人を率いていた『先導者』だろうがなんだろうがどうだっていいし、別にそうだからといってビギナー達にわざわざ話すメリットもない」

 

「……成程、君は『情報屋』なのかな?」

 

「いいや、情報屋に雇われていた元『傭兵』だよ」

 

同じ世界を経験した者(元ベータテスター)同士にしか分からない会話をして互いに苦笑いする。どうやら緊張を解くことには成功したらしい。

 

「早速で悪いけど本題に入らせてもらうよディアベル。貴方も気がついてる事だとは思うがキバオウを筆頭にして反ベータテスターの動きが最近益々活発化している。そしてそれは、今後の攻略を行う上で一つの大きな障害になる。

 

ベータテスターは勿論知識も豊富だがそれ以上に戦闘経験に圧倒的なアドバンテージを持っている。それはベータテスト、という二ヶ月間にどのくらいこのゲームに熱中したのかにより差はあるにせよ、ビギナーとテスターの間に差異があるのは仕方がないことだ」

 

ここで一息つく。ディアベルは目を瞑り腕を組んでこちらの話を聞いているようだ。彼なりに僕の話を聞くに値すると考えてくれたらしい。

 

「そこで、だ。僕がこの世界における一つのタブーを破ってみたいと思う。そうすれば漏れなく攻略組全プレイヤーの意識は一人の敵を生み出すことができる」

 

「…………そのタブーとは?」

 

「人殺し」

 

「?!しかし!それはっ」

 

「わかっているさ、多大なリスクを背負うことになる。もちろん本当に殺すわけじゃない。ここに、とあるアイテムがある」

 

そう言って僕はポーチから無色透明なクリスタルを取り出す。それを興味深そうにディアベルは眺める。

 

「これはとあるイベントクエストの報酬で手に入るクリスタルアイテムの『記憶転移結晶』だ。多分相当なレアアイテムだろう。これは結晶の所持者が致死量のダメージを受けた時にHPを1だけ残してこの結晶に記憶させた位置に転送させる、という代物でね。これを使おうと思う」

 

その結晶を差し出しながらニヤリ、と笑う。背筋は冷たいし顔も引き攣っているのだろうが、それでも無理矢理笑う。笑わねば、正気を保っていられないほどの話だ。

 

「これを?どうやってだ?」

 

「ディアベル。プレイヤー同士(テスターVSビギナー)でのヘイトの稼ぎ合いなんて面倒な真似をさせたくないのは僕と貴方で共通している思想のはずだ。

 

だからその為に──貴方には一度死んでもらいたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし!!!あと少しだ!全員下がれっ!!俺が前に出る!』

 

その言葉にハッと我に返る。顔を上げればいつの間にかボスのHPゲージは既に赤くなっていた。そしてディアベルが一人、ボスに突っ込んで行く。そして僕とディアベル、そしてボスは一直線上に並ぶ。

 

ここしかない。そう決意して地面を思い切り蹴る。瞬く間にディアベルと僕の距離は迫る。

 

「LUXをAGIに加算」

 

普通であれば絶対に届かない距離だ。ボス部屋の入口からディアベルが居る場所まではどう頑張っても200m以上はある。

 

だが、僕の付けているこの面──アイテム名は『狩人の面』という──には特殊な効果が付いているためこの距離も容易に完走することができる。

 

その効果、それはステータスを一時的に別ステータスに加算できる、というものだ。今の僕はLUX(幸運値)AGI(敏捷性)へと割り振っているので、通常よりもAGIが高い。更にこの面には『パーティーを組まずにフロアボスの部屋に入っている場合、全ステータスを1.3倍する』という一層目で手に入るにはあまりに破格な、かつ限定的な効果も持っている。

 

あのクエストを見つけたのはベータテストの時だったが、あの時もそこまでチートじみた装備では無かったので、何らかのバグなのかもしれないが今は使えるものはなんでも使うべきだろう。

 

そうして接近しつつ僕は片手直剣を構えスキルを発動する。キリト程では無いものの、僕自身もスキル使用時にブーストをかけることは出来るので通常より長くリーチを取りディアベルへとスキルを放つ。

 

狙うのは首、部位欠損の中でも最も致死率の高い、と言うよりほぼ間違いなく死に至る部分だ。後ろから接近する僕に気がついたディアベルが臨戦態勢をとるフリをする。

 

(行くよ)

 

口の動きだけで告げると彼は首肯した。準備はできているのだろう。

 

「はぁっ!!」

 

一息に彼の首筋へと片手剣の単発ソードスキル、『ホリゾンタル』を叩き込む。そして間もなくディアベルの身体と首は分かたれ、赤い欠片となってディアベルが消滅する直前、転送の光が彼を包み込み姿が消える。トールバーナの広場に転送されるハズなので、ここへ戻って来るまでにあと二時間はかかるだろう。

 

そして同時に、僕の心には人を本当に切ったのだという感覚が生まれ、恐怖のあまり卒倒しそうになるのを必死に堪える。

 

「さて、と。()の目的は今の男じゃあないんだったな」

 

『グギャァァアア!!!』

 

あまりに突然の出来事に誰もが動きを止める中、仮面越しにボスを睨みつけ改めて剣を構える。持っていた武器を捨てここでボスは武器を変更する。ベータテスト時代なら確かタルワールだったはずだが、どうやらそこは変更点だったらしい。

 

「ハッ、野太刀とは随分と文明的になったじゃねぇの?いいぜ、殺してやるよコボルドロード!!」

 

野太刀が光を帯びるのを見てポーチから三本の短剣を取出し指の間に構える。投剣スキルの中級ソードスキル、ランダムシュート。任意の本数の短剣を投げ当てる技だ。

 

この世界のソードスキルには、発動前に一定数の攻撃を受けるとその技の発動がキャンセルされるという仕様がある。その場合、技後の硬直は律儀に発動するので暫くの間ボスは動けない。

 

それに引き替えて投剣スキルには技後硬直が殆どない、というメリットがある。従って、先手を取れるのはボスではなく僕だ。

 

「ラァっ!!!」

 

アキレス腱に一撃、その後素早く離脱。ほんの僅かだがボスのHPが減少をするのを確認する。これを繰り返しさえすれば僕一人であってもボスに勝てる。

 

チラリとプレイヤーたちの方を見やれば、大半のものが目の前の光景を処理しきれていないのか呆然としている。その中にキリトや彼の隣でフードを被るキリトとパーティーを組んでいた人も居る。

 

まあ無理もないだろう。いきなりレイドリーダーが切り捨てられたかと思えばその犯人の仮面をつけた男がボスと単騎で戦闘を始めたのだから。

 

(今は余計な事を考えるな。早くボスを倒すことだけを考えろ)

 

頭の端から彼らを締め出し、僕はもう一度ボスへと攻撃を仕掛けるべく突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい時間が経ったのか体感では全く感じられなかった。一時間か、それとも二時間か、下手をすれば一日経っていたのではないか、と思われるかのように感じられたのだが、実際に時間を確かめてみれぞ三十分程の戦闘だった。

 

肩で息をしながら目の前で消えていくボスを眺めていた。と、悲鳴のような声と殺意が僕に向けられた。

 

「あぁぁぁああ!!!」

 

振り向きざまに麻痺の効能がある毒ナイフでその男の腕にかすり傷をつける。どうやらソードスキルは使わなかったらしいその男の剣筋を躱すと間もなくそいつは地に伏せた。

 

そいつの頭を踏み嘲るように呟く。

 

「フン、雑魚が……そんな程度で俺と戦うつもりだったのか?」

 

「人殺しやろうが……なんでディアベルさんを!」

 

「あ?うるせぇなあピーチクパーチクよォ!」

 

踏まれた男が悲鳴のように声を上げる。それを遮るかのように腹に一度剣を突き立てる。今度は本当に悲鳴をあげ始めるのですぐさま引き抜く。どうやら相当HPゲージが減っていたようだ。

 

「クハハっ、死にかけたカエルみたいな声出してら。殺さねぇよ安心しなよ。お前達なんて誰一人殺す価値もない。さっきのディアベルだって大したもん持ってなかったからなぁ」

 

そう呟いてディアベルの手持ちだった盾、にそっくりだったものを適当に投げ捨てれば彼のパーティーに所属している人間達は殺気立つ。

 

あの結晶は一度HPが0になった瞬間に転移を行う仕様のため、パーティーの所属も一度切れる。これがギルドだとそうもいかなかったが幸いにもギルドはまだ結成できない。

 

「お?なんだやるか?せいぜい五分は持って欲しいけどなぁ……お前ら、そもそも人を殺す覚悟があるのか?」

 

「上等だ!!ぶっ殺してや──」「ジョー、落ち着けや」

 

抜刀して叫んだ男の後ろからそれを止める手が伸びた。驚くべき事にそれは他の誰でもないキバオウだった。

 

「ほう……止めるのか?」

 

「当たり前や。アンタは強い。ここの全員で戦っても勝てる可能性は薄いやろうなぁ。だからここであんた相手に喧嘩売ってもしゃーない。だからや。デュエルで決着をつけようやないか」

 

「言っただろう、キバオウ?変に俺を苛立たせるなよ。俺はお前達とは戦わないと言ったはずだ。お前達は戦うに値しないと」

 

「怖いんか、おどれは?ワシに負けるのが怖いんか?」

 

蔑むように、嘲るようにキバオウは笑った。大胆不敵に、まるで秘策があるかのように。

 

「ワシもなぁ……怒ってるんやで。はじまりの街でディアベルはんにひろてもろたんや。でも、ここで憎んでも、怒っても勝てへん。だからなぁ……搦手、使わせてもろたわ」

 

気がつけば囲まれている。なるほど、最初の一人に突っ込ませて陽動、僕の視界の外でジリジリと動き囲むと。

 

「安心せい、殺したりはせえへんから。黒鉄宮で洗いざらい吐いてもらうけどな!!行くで!」

 

四人が一斉に掛かってくる。だが誰一人としてソードスキルを発動させる音は聞こえない。どうやらまだ僕を生け捕りにするつもりのようだ。

 

「AGIをSTRに」

 

呟いて再びステータス移動を行い今度は素早さを筋力に全振り、そして片腕で麻痺状態の男を引き上げ前の二人にぶつける。

 

「リセット」

 

その瞬間にはステータスを元に振り直し後ろの突きを回避する。それに虚をつかれた二人の足に毒ナイフを掠らせればこれで半分は無力化できたことになる。

 

体勢を立て直したキバオウとジョーと呼ばれた男が立ち上がる時にはもう倒れた二人とその中心に既に僕は立っている。

 

顔を引き攣らせたキバオウに剣を向ける。そして宣言する。

 

「なんで見破られたのか、って顔をしてるなキバオウ。アンタ後ろを見すぎだよ。何を狙っているのかは大体目線でわかる。俺とアンタじゃこの世界でのキャリアが違う」

 

「お前はまさか──」

 

「あぁ、元ベータテスターだよ。でもただのテスターとは混ぜんじゃねえぞ?俺ァ他のゴミ野郎共……そうだな、例えば情報屋なんかとは違うンだわ。俺は自分の為に、その為だけに上まで昇った。ベータの時に殺した人数だけなら10や20じゃ下らねぇぜ?なんて言っても殺しても殺しても向こうじゃリスポンし放題だからな?

 

だからよォ、俺は人を殺す事になんの躊躇いも罪悪感も感じない。ディアべルを殺したのだって同じさ。殺した中の一人でしかない。だからま、せいぜい俺の不況を買わねぇように気をつけるこったな」

 

「そんなの滅茶苦茶だ……元テスターって問題じゃないだろ……!」

 

投げられた方の男がヒステリックに叫ぶ。

 

「バケモノだ!!人間の皮を被った悪魔め!!!!!」

 

悪魔、その言葉がフロア中に響き渡る。その言葉に、大なり小なりそこにいる全ての人間達の視線が恐怖の対象を見るものへと変わった。これで当初の目標は達成された。ならば僕はもうお役御免だ。後は最後に一仕事してから消えるだけ。

 

「悪魔、悪魔ね……いいじゃないかその響き。これはからはテスター如きと混ぜるんじゃねえぞ、ビギナー共?

 

あぁそうだ。それと、さっき俺はここに居るお前らを誰一人として殺さねぇって言ったよな?でも気が変わった。だからよ──」

 

キバオウの首筋目掛けてソードスキルを展開する。キバオウは我に返ったのか剣を構えようとするがもう遅い。

 

「お前は死ね」

 

僕がそう言って剣を振り切ろうとした刹那、黒い一陣の風が僕とキバオウの間に割って入り僕のソードスキルを真正面から受け止めた。




主語をもう少し控えめにしようと思うのですがどうですかね?今のままの方が読みやすいですか?

自分だと書いて読み直しを繰り返すので段々麻痺してくるのですよ……というわけで、出来ればご意見くださると助かります。

ちなみにチート過ぎるオリジナル装備ですが、近々出番終了しますのでご安心?下さい。一応この世界で主人公に無双はさせない予定です

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