『アイマスSSに偽装された好きな曲を紹介する転生者の話』 作:黒崎セシル
第四話 『BLUE WATER BLUE SKY』
――765プロ PM1:25――
事務所にて書類整理を手伝いながら、俺こと伊達直人はここ数日ずっと悩みを抱えていた。
ひとえに次のCDのことである。
次の構想はマキシ。
3曲を収録することにして、歌うアイドルも決めてある。
だが、ここにきてヘタレ精神のようなものが作用し、苦悩にさいなまれているのだ。
「ドウスレBinder……」
発音をネイティブにしつつため息が漏れた。
でも、ずっと考えていた構想だ。
ゲームが好きでアニメが好きでアイマスが好きで、765プロが好きな俺はどうしても彼女にこの3曲を歌ってほしいのだ。
言い方を変えると彼女だからこそ歌えるし、曲に想いが乗る。
この3曲は彼女が歌わなければ『甦らない』という言い方もできるが、結局のところ俯瞰的に見て、ファン心理で彼女に歌ってもらいたい一心なのだ。
「あの子はアイドルで歌手だ……じゃあ俺は何だ……?」
まあ少なくとも『ただのカカシ』や『的』ではない。
俺はサウンドクリエイターだ。
ただ、曲を作って渡すだけじゃない。
それは、彼女のことが好きだからだし(もちろんみんなすき)、765プロが好きだからだし、だからこの力を使って再現した曲を彼女に歌ってほしいのだ。
歌がすきなあの子に……
――――――――――――――――――
「……さん……伊達さ~ん」
はっとして声の聞こえた方に顔を向けると笑顔の音無小鳥お姉ちゃんが呼びかけていた。
いかんいかん、もう少しで真理にたどり着きそうなくらい集中していた。
「集中しすぎてました……どうしました?」
若干恥ずかしくなったため後ろ頭を掻く俺。
「プロデューサーがちょっと間に合わなさそうなので、局に千早ちゃんを迎えに行ってほしいそうなんです」
すまなそうにそう告げる音無さんは、なんていうか、素直にかわいいです。
765のここすきポイントの一つ、「事務員と女性プロデューサー可愛すぎ問題」である。
他にもあげると、「社長の声強すぎ問題」や「雪歩大天使問題」「やよい大天使問題」等がある。
最後の二つは別に問題でもなんでもねえな、単なる事実だ。
話を戻そう。
「オッケーです、今日はBBSでしたよね?」
即答し、車のカギを確認しながら予定が間違っていないかを問う。
「ハイ!お願いします」
キラキラの笑顔でお願いされてしまった。
「お姉ちゃんキャラなのにかわいいとか反則ですよ」
思わず言葉が奔る。
「ふえっ!?かわっ!?」
即座に真っ赤になって停止する音無さんをよそに、俺は事務所を後にした。
「さーて、これもめぐりあわせか、ドライブデートとしゃれこみますか」
――――――――――――――――――
――スタジオ PM2:33――
「そういうわけで俺は迎えに行けそうにないんだ」
電話の向こうでプロデューサーが申し訳なさそうに語る。
「大丈夫です、伊達さんを待ってればいいんですよね?」
もう一度確認。
事務所には自力でも、交通機関でも戻ることができるけれど、迎えに来てもらえるのはありがたいことだし。
「ああ、もう向かってくれてると思うから心配ないはずだ」
そういった後「それでは」と通話を終えた。
私こと「如月千早」はそこで一息つく。
来週からお昼の番組内に私のミニコーナーをもらえることになって、今日はその顔合わせだ。
内容はワイドショー内のショート枠でその名もズバリ「如月千早の青い鳥探し」である。
いろいろなことに本当の意味で興味が持てるようになった最近では自分でもびっくりするくらい貪欲に多様な仕事に取り組んでいる。
今回のこともその一つ。
各地の名店・老舗、或いはそれにこだわらず隠れている「小さな幸せ」が発見できるようなおすすめスポットなどを紹介するコーナー。
私としては物事に対して思ったことを素直に言っているだけのつもりだけど、どうも「情緒ある誌的な感想」らしい私のレビューが、たまたまディレクターのツボだったらしい。
ありがたいことだ。
ここ数年はいろいろあった。
本当にいろいろだ。
歌を失った時もあった。
自分が保てず、声が出なくて歌えない。
そんな出来事だ。
でも、今は違う。
みんなのおかげで取り戻すことができた「歌」は、自分でも驚くほどよくなっていた。
今では恐れ多くも「歌姫」なんてたいそうな二つ名もささやかれる。
こんなに嬉しいことはない。
自分の歌が認められているという充足感とまだ足りないという確かな「熱」が今の私に満ちている。
「……足りないといえば」
ふと、言葉が漏れた。
最近社長がスカウトしてきたサウンドクリエイターの伊達直人さん。
初めて聞かせてもらった曲は衝撃だった。
とてもこの間まで一般人だったとは思えない音作り、厚み。
売れる事だけが目的ではない独自の世界観は、私の心を圧倒した。
ジャンルも広く、引き出しが多い彼の音は聞いていて飽きない。
そんな人が私たちのために専属で曲作りをしてくれるというのは非常に嬉しかった。
何かが足りないとすれば、まだ私に楽曲をもらえていないこと。
まあ、伊達さん本人も気難しい人ではなく、接しやすいし、変に壁のない人だ。
強いてあげれば亜美や真美と悪戯を画策したりするような部分が良くも悪くも「子供」みたいで、年上に見えないところもあるし、意外にかわいいものや甘いものも好きだったりする。
そのあたりを抜き取ってみると
「伊達さん……まるで手のかかる弟みたい」
ふいに冗談めいた言葉が出た。
思わず笑ってしまう。
「そりゃどーも、千早姉さん」
背後から笑い声。
私は驚愕した猫のような素早さでバッっと立ち上がり振り返る。
伊達さんが悪戯っぽく笑って立っていた。
「脅かさないでください!」
局の廊下で叫んでしまった私は悪くない、絶対に。
――――――――――――――――――
ひとまず如月を落ち着かせると、車へ誘導し、発車する。
「すみません、自分でもあんなに驚くとは思わなくて」
助手席に座る彼女はそう言った。
いや、こっちこそ悪かったからね。
でも姉属性マシマシ状態のちーちゃんが見れて、ボク、マンゾク!
クールそうに見えて感情の動きは大きい娘だからなぁ、この子は。
「まあ、さっきのはいろいろとお互いさまだよ。」
しかしながら
「弟ネタで軽口が飛んでくるとは思わなかったけどね」
茶化すように揶揄う。
「それは……もう振り切っていますし、それとこれとは別のことですから……」
幾ばくかの思案ののち、如月はそう答えて笑顔を見せる。
そうか、それならいいことだ。
「ところで、どちらに行かれるんです、事務所の方面ではないですよね?」
赤坂からの帰りでは使わないルートに彼女は即座に気が付いた。
これは変に勘繰られないようきちんと伝えておくべきだな。
「この後はフリーだろ?せっかくだから伊達さんとドライブデートしようぜ」
さあどう出るちーちゃん!?
「なっ……いきなりなにをいいだすんですか!?」
おお^~めっちゃ動揺してる。
かわいいですね、クォレハ。
反応が見たくてわざと言っている自覚はあるが、ちょっとまんざらでもなさそうな感じがすごく、こう、刺さるwww
「冗談だよ、半分」
あえて場をかき乱す俺。
「それは半分本気ってことじゃないですか!」
上気した様子で憤る如月。
反応を一通り楽しんだところで、本音を暴露しますか。
「建前タテマエ、プロジェクトの話もしたいし」
横目に如月を流し見しながら笑いかける。
「でしたら、エスコートされるのもやぶさかではありません」
ふわりひとひら笑顔が咲いた。
――――――――――――――――――
――海浜公園 PM3:16――
「さて、ここでいいか」
駐車場に車を停め、エンジンを切る。
楽曲を聞かせるためにも、喧騒は遠い方がいいこともありこの海浜公園をチョイスした。
「それで、プロジェクトのお話というのは?」
待ちきれない様子で如月が促す。
ふむ、どうなるか試してみるか、ハッハッハ。
「聞いてもらいたくて、歌ってほしい曲が三つある」
そう即座に受け答えしながら後部座席のバッグにしまってあるノートPCを取り出す。
「3曲もですか!?」
心底驚いた様子で声を上げる如月だったが、すぐに表情は真剣そのものになる。
「断言するけど、この3つの曲は『今の』如月千早にしか歌えない」
それだけ言って俺は、あとは無言のまま再生ボタンをクリックする。
彼女にとっては大きな意味を持つこととなるだろう一曲目は、タイトルがすでにダブルミーニング。
如月千早を前世から知っている生粋のオタクならばこれほど彼女にマッチする曲はそうはないはずだ、おそらく。
ファイル名は『YOU』
前世に置いて一世を風靡したあの「ひぐらし」のテーマの一つだ。
この曲を嫌がった彼女にひっぱたかれることも想定していたが、そこへさっきのやり取りがあった。
きっと彼女はこの曲を想い、そして「甦らせて」くれるはずだ。
少なくともそう信じている。
だってそうだろう。
彼女はおのれの傷を誇りへ変えて羽化したのだから。
まずは一曲が終わる。
少しの不安を抱えながら顔色を窺う俺。
「あ……」
そう、声を漏らしたのは俺だったのか彼女だったのか。
ともかく、彼女のその頬にはひとすじ、涙が流れていた。
ぐおおおおおおおおっ!!!!なんかよくわからない罪悪感とかが俺の体を駆け巡ってスパーキン!
「いえ、あの……違うんです、これは、その……」
やや落ち着かない様子で、軽くしゃくりあげながら如月は矢継ぎ早に語った。
泣かせてしまった……
「違うんです……いろいろあった自分が、『今』この楽曲を素直に喜べることがうれしくて」
涙をぬぐいながら笑顔を見せる如月。
ソウダッタノカ……よかった。
マタマモレナカッタかと思ってひやひやしたぜ。
「すみません、急に……」
そう目を伏せる彼女に俺から語り掛ける。
「構いやしないよ、合成ボイスで君ほどの人が心動くんだ、じゃあ如月の生歌が入ったらどれほどの破壊力になるのか、そこが問題だ」
いい曲になるに決まってるよ。
「ありがとうございます……次の曲もいいですか?」
一息ついた如月はさらに促してきたので、早速再生ボタンをクリック!
それは大いなる「母」に対する礼賛の歌。
直接的に「おかあさん」に感謝するという曲ではなく、その「母性」への深い感謝と畏怖、或いは憧憬のような、あの有名声優に書き下ろしたことでも知られるもので『馬の骨』と呼ばれるフレンズたちならだれもが知る一曲。
『MOTHER』
前世において俺的テクノ全一の自称用務員こと、平沢進の楽曲だ。
これに関しては俺が生歌で師匠版を入れて収録してある。
もちろんみやむーバージョンも用意はある。
深く、静かに呼吸しながら如月は聞き入っていた。
その所作の一つ一つがなんだか美しい彫像を見ているように錯覚する。
生千早は改めていいなぁ……いいぞ、深いぞ……
これがアイドルか……未成年の少女に言うのは何だが
「きれいだ」
曲の終わりの余韻が小さくなる最中、無意識に口をついて出たのはそんな言葉だった。
嘘偽りない本心でもあったと思う。
いちキャラクターとしての如月千早、一人の女の子としてみる如月千早。
そしてこの世界に置いて、俺にとって現実となった目の前の彼女。
それは、まぎれもなく美しかった。
とっくに終わっている再生に、静まり返る車内。
見れば如月は茹蛸よろしく赤面していた。
「っ……」
俺自身何かいたたまれなくなって、思わず顔を背けてしまう。
ほんの軽い気持ちでデートなんて言葉を最初に言ったせいか、余計変に意識してしまっていた。
これ語るに落ちてる感じのやつやwww
ナニコレ?めっちゃ恥ずかしいわ!!!
アイエエ!?羞恥?羞恥ナンデ!?
さすがにしめやかに失禁ほどではないものの焦ってしまう。
「のっ、みもの買ってくるから聞いて待っててくれ!」
半端ない羞恥に耐えかねた俺はファイルを開いて車を出た。
ちょっとこの空気はまずい!
足早に自販機に向かいながら、ほてった顔を手で仰いで覚まそうとする男が一人そこにはいた、っていうか俺だった。
――――――――――――――――――
車内で恥ずかしさから茹だっているアイドルがいた。
というか私だった。
いろんな感情をない交ぜにしていたあの瞬間、音楽の再生が終わる間際に唐突に伊達さんから出た言葉が原因だった。
「きれいだ」と。
自惚れでなければあの時彼は、間違いようもなく私を見てそう言った、
と思う。たぶん。
お世辞なんかじゃなく、アイドルとしての如月千早ではなくて、『如月千早である私』に対してまっすぐにそう告げられた気がして、私は一瞬で顔が熱くなった訳だ。
飲み物を買ってくるといった彼に対し言葉も発せないほどに、私は動揺し思考がフリーズしたのだ。
仕方がないとも思う。
だってこれまでアイドルではないただの「私」に対してあんなにストレートに『ああいうこと』を言ってくる人はいなかった。
しかも彼自身変に照れていた。
無意識だったから彼も焦ったのだと思う。
誰だってそうなる。
現に言われた本人の私は盛大に焦っていた。
耐性がない。
低く見積もっても同じ職場の年上の、憎からず思っているであろう異性の相手から、それを言われるのは「そういう感情」を抜きにしてもうれしいけれど。
出がけに彼が言った「デート」という言葉がまた、私を狼狽させる。
これまで培ってきた心の中ではなかった動きに自分で対応できないもどかしさに、少し呼吸が乱れる。
「…………ふぅ」
彼が車を出て数分ののち、私はようやく深呼吸してある程度の落ち着きを取り戻した。
美希がいつも言う「ヤバい」っていうのはこういうのもそうなのかしら?
と仕様もないことが頭によぎるくらいには冷静になったはずだ。
まだ少しだけ動揺から震える手で、彼が開いていたパソコンの音楽ファイルを確認した。
ファイル名は「きれいな感情」
意を決し、それを再生する。
穏やかなアコースティックの前奏から淡い質のドラムスが交わり、歌が始まった。
先ほどの曲と違ってひどく穏やかなBPMで、囁くような歌詞が紡がれる。
ああ、この詩は効く。
私には。
「今の如月千早」と彼が言った意味も分かる。
これは、何気ない日常に、誰かとともにあることに対する喜びや想い。
ほかでもない自分を見つけてくれた人に愛や、感謝を伝えようとするような、そんな曲だ。
透明のようで冷たかった世界に色を付けてくれた誰かに、この曲の場合は劇中の人物に当たるであろう「あなた」に愛を告げる歌。
先ほどの伊達さんとのやり取りを、ふと思い出した。
まるで恋人のようなやり取りだった。
嗚呼、わたしは。
まだそんなことも知らないのに恋の歌に心乗せられると思い込んでいたのか。
大きな収穫だ。
彼と出会ってそう多く時間を共にしたわけではないものの、彼はそう
それこそたくさん「きれいな感情」を私にもたらしてくれたのだ。
「なおと……さん」
青い海と青い空が、いつもより少しきらめいて見える。
窓にもたれ音にふけりながらつぶやいた彼の名前が不思議と心にはまった気がした。
――――――――――――――――――
無事に飲み物をゲットした俺は冷静さを取り戻して車へと戻ってきた。
いやぁ、生動揺照れちーちゃんは強敵でしたね。
「おかえりなさい、なおとさん」
そこにはまぶしい笑顔のアイドル歌手がいた。
ていうか如月千早だった。
さっきの今でこんな破壊天使砲並のキラキラ笑顔で名前呼びされたら仕方ない。
膝から崩れ落ちるのはまれに良くあることだよな?
「大丈夫ですか、なおとさん?それより、あの3曲、やります、歌わせてください」
すごく生き生きしてらっしゃる!!
まじちーちゃんの笑顔リスペクトっす!かわいい!ヤッター!
「あと、これから私のことは苗字じゃなくて名前で呼んでくださいね、なおとさん」
あ、ハイ(震え声)
よくわからんが嬉しすぎて現界保てず砂になりそうなんだけどこれw
答えは得た、大丈夫だよ遠坂、俺たちが積み上げてきたもんは全部無駄じゃなかった……高木(社長)もがんばってるし、俺も頑張らないと。
海より空より美しい蒼がそこにいた。
ていうかやっぱり如月千早だった。
千早は皆勤賞だな!
感想などもお待ちしています^p^
今回起用した楽曲
you(ユー)
ゲーム(およびアニメ)『ひぐらしのなく頃に』より
作詞 癒月
作曲 dai
歌 癒月
MOTHER(マザー)
アルバム『救済の技法』より
作詞・作曲・歌 平沢進
きれいな感情
アニメ『NOIR』エンディングより
作詞・作曲・歌 新居昭乃
編曲 保刈久明