「やあ、始めまして」
白衣を羽織った青年は本を片手に椅子に座る。高級そうなその椅子に深々と座り、静かな口調で話し始める。
「ここに1つの物語がある。運命と言う賭けを楽しむ青年とその世界を彩る戦いの話………。なんと面白く、なんと読めないものだろうか」
本を閉じた青年は静かに微笑みながら、白衣のポケットからサイコロを取り出すと眺めながら再び口を開く。
「例えばこのダイス。どの数に止まるか、どの数を出すかは意図して転がさない限り予測はつかない」
何を言いたいのだろうか、ここで青年は焦らすように首を振る。
「………気になっているみたい、だな。俺はこの物語を観測している『キーパー』みたいなモノさ。云わば記録者。云わば傍観者。物語風で言えば語り部、か」
指を立てて青年は笑う。その笑みには全ての意味なぞない。そこにあるのは関心と義務。
「長々と話してしまったか………。さあてそろそろ始めるとしようか、運命のダイスが転がる先の『物語』を」
再び本を開いた青年はそれをこちらに向けている。すると周囲の世界は歪み物語の扉が開く。
『ああ、最後に………俺は文臣(フミオミ)。詳しくなんて言うつもりはないし、語るつもりもない。ただの黒子さ』
彼の言葉はここで途切れた。もう世界は、運命の先に辿り着いたーー。
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大都市・東京の中心地に大きなキャンパスを構える大学がある。
桜を始めとする四季の花の弁を型どり1つの花1輪と包む川の流れの校章が光る私立大学『東彩大学』。
数年前にこのキャンパスを開いて以降、入学希望者も増えた。
あちらこちらに学生が楽しげにキャンパス内の石畳の上を歩く。その響く足音は何重にも重なり合う。
そんな学生達とは異なる二人の男がベンチに座りやり取りを行っていた。
「ふうん、なんとかなったんだ」
白毛混じりのボサボサの髪を撫でるように触るスーツ姿の中性的な顔立ちの青年。興味は無さそうに話してはいるが、もう一人の話を引き出そうと深いニュアンスを込めた一言を置く。そして一息に終着点まで話を持っていく。
「ま、宙夢のおかげで噂の大本は断ち切れたし、様々だね」
軽い相槌と穏やかな笑みでもう一人の青年の労を労った。
それが効いたのかは分からないが渋い顔をしていた青年は表情を崩す。少しばかり複雑なのか、はたまた返答するのが億劫なのか。
「様々って………。俺しかやってねえから当たり前だ、全く人使いが荒いのなんの。俺は引き受けてやってんだ、少しぐらいはギブを増やせよ」
立ち上がり口を開く青年。それと同時に出るわ、出るわの文句の山。灰色のカーゴパンツの太股のポケットに手を突っ込んだままのその口振りはひねくれているとしか言いようがない。
「それぐらい喰いかかって来ないと宙夢らしくないや。それがいい」
その青年の態度にいたって満足したのか、スーツ姿の青年も首をうんと上下に1度振った。
「人をおちょくって。ああっ、楽しめねーぜ」
真上を向き、大きなリアクションを見せる青年。このリアクションの対比が二人の関係性を際立たせているのかも知れない。
白髪混じりのスーツを着た青年の名は楯山英俊(タテヤマエイシュン)。東彩大学の中で一番若い教鞭者、つまり准教授だ。
専門は犯罪心理学。その道では天才と呼ばれている。その一方でとある『犯罪』の解決役の窓口として警察を始め、多くの人脈を持っている。
その『犯罪』を解決するのは英俊ではなく、オーバーなアクションをしている赤いテーラードジャケットを着た派手目な彼だ。
「で、また俺を呼び出したのには理由があるんだろ?どうせ新しい『アセンブル』の話だろ。分かってんだよ、面倒なんだよ!んな事は簡易に済ませ!」
口悪く再び文句を吐き出す、この青年がだ。
「まあまあ。でもさ、呼んでも呼ばなくてもしっかり報告に来るのは知ってるんだよ?」
青年の本質を知る英俊は正直じゃないなあ、と言わんばかりの顔で的確に図星をつく。
さらりと指摘して来るのがシャクに触ったのか青年はぐっと歯を噛み合わせてやられた、と言いたげに顔を背けた。そして小さく息を吐いた。
「そんな訳ねえ!ここに来るのは気まぐれなんだよ!………たく」
明らかにトーンダウンし、再び英俊の隣にドスンと腰を下ろす青年。
改めて青年を紹介しよう。これまで英俊から宙夢と呼ばれてきた彼こそとある『犯罪』に対して対処するスペシャリスト。
英俊の中学からの付き合いの東賀 宙夢(トウガ ヒロム)だ。
目付きが鋭く美しい鳶色の瞳と黒がかった茶色の髪を左側にたらし、わざと眼を隠すようにしているのだが、どう見ても見なくても最初の印象は悪い。
まあ、先ほどの会話からも分かる通り扱いやすくて扱いにくいヤツなのだ。
「で、今度のアセンブルはどんなヤツなんだ?」
英俊の切り出しを待つことなく宙夢から口火を切る。気になっているのにこうでもしないと友人に手玉にとられるのが目に見えているからだ。
ところが英俊は知っていると目で訴えかけながら、人差し指をピンと立てて一呼吸を置かせた。
「はい、主導権は取らせないよ。今回の『アセンブル』犯罪はちょっと面倒かもね。申し訳ないけどあまり情報がないんだ」
「…………面倒?」
すっかり立場を元に戻されペースを握られる宙夢。
しかしながら、アセンブル犯罪とは何か。
「うん、警察も手をあげていてね。それ由来で僕のほうに来たんだ。最近話題でしょ?」
英俊は話しながら尻に引いていた新聞を見せる。
ー消えた現金ー
ー現金輸送車から2000万消失、同一犯かー
まるでマジックなのか、と問いたくなるような見出し。次々と現金が消える強奪事件のことを指しているようだ。
「なるほどな………」
宙夢は英俊の新聞をむしり取り頭を回転させる。
「分かった。色々始めてみる……。お前も頼むぞ」
力がなかった瞳に火が灯ったように宙夢は英俊の肩をトンと叩いて去っていこうとした。
「分かってるよ、宙夢。あ、あんまり伊織を巻き込むんじゃないよ?」
その背中に頼もしさが見える中、英俊は宙夢に釘を刺す。よく彼に引っ張り出される後輩の名前を。
「…………考えておく。さ、楽しもうか」
間をあけて返答した宙夢はそそくさと踵を返して去っていった。
「あれは………無理だな」
そう断定できるあたり分かりやすい。英俊はらしい彼の背中を見送りながらベンチから腰をあげた。
そして、スマートフォンを取り出すとある映像を開いた。
それは投稿された映像。
ある夜に撮影されたモノだ。
漆黒の闇の中、赤い光が浮かび上がる。それはくるりくるりと反時計回りに同じ速度で回っている。
赤い光を追うように闇から微かにメッキのような煌めきが見える。
まるで赤い光を追いかけるように、そのメッキの煌めきは一気に距離をつめていく。
『仮面ライダーッ!俺の邪魔をするなあああああああっ!」
野太い声が響き渡る。それは赤い光ではなく、鈍色のメッキから発せられていた。
徐々に闇が消え、薄暗い光がそのメッキを照らす。
カマキリのような鋭い鎌を持ち合わせたスラリとした機械のような輝きと、人間の動き。
これはまるで『人間』が『機械の装甲』を装着したような、変身ヒーローのような存在だ。
その装甲人間は赤い光を切り裂こうとしていた。狩りを楽しむのか、はたまた狩られるのか。先ほどの野太い声を思い返せば焦りを隠せないのではないか。
つまり、狩られるのは装甲人間。
「よっ!はっ!」
そして、淡い光は赤い光の主を眼下に現した。
反時計回りのハンドスプリング式の側転を鮮やかに繰り返す姿はまるで体操選手。
だが、それは違う。その動きとは裏腹に『マスク』をつけた姿はまさにプロレスラー。
この動きからしてメキシコ仕込みのルチャドール。
マスクのみがうまく照らされると、そのマスクは赤い不死鳥が羽根を広げたような形の物になり、羽根の中心部が複眼と重なっている。頭の中心には炎型のエンブレムがある。
マスク=仮面。人は彼をこう噂する、仮面ライダーと。
「ハッ!」
すると、仮面ライダーはガードレールをまるでロープのように使い、側転の勢いそのままに前に返る。
『な、何ッ!?』
予想外の動きに一瞬の隙が出来る装甲人間。
「おらよっ!」
そこで仮面ライダーは軽くジャンプし、磨きあげた左の蹴りを装甲人間の脛椎に叩き込んだ。
『ぐあっ!?』
脛椎への衝撃は装甲を突き破り中まで響く。この一撃で意識とバランスが飛ぶ。
グラリとバランスを崩した装甲人間は前のめりに膝をつく。
「フッ!突き抜けろォ!」
まるでそれを待ち構えていたように先に地面に足をつけた仮面ライダーの左膝が顎の位置を捉えた。
そして、炎をまとった右膝が顎を蹴り上げた。
鮮やかな二段膝蹴り。仮面ライダーの得意技『フレイムアウト』だ。
『グハアアアアッ!?』顎を蹴りあげられた衝撃で真後ろに吹っ飛び、装甲人間は何度も地面に叩き付けられる。
「楽しませて貰ったぜ?あとはムショで夢を見な」
仮面ライダーはさらばとそのまま踵を返す。
ーパキイイイイイン!ー
踵を返したのと同時に小さな破裂音と何かが砕ける音がし、装甲人間が倒れた場所には粉々になったダイスと意識を失った男だけが倒れていた。
ここで映像は途切れた。
英俊は仮面ライダーの背中と、宙夢の背中を頭の中で1つに重ねていた。
「仮面ライダー………クラーロ。宙夢、また世話をかけるね」
仮面ライダー/東賀宙夢の物語はーー幕を開けたーー。
仮面ライダークラーローKAMENRIDERCLAROー