「囮?」
『ああ、アセンブルを引き寄せるために囮を使う』
宙夢と伊織が事件についての相談をしていた時にあの刑事、伊織の兄である正道から連絡を受けていた。
「ああ、そう言うことか。大胆だな」
「まだ何も言ってません」
アイスの棒をくわえながら適当に答える宙夢に伊織が流れるように訂正をいれた。
『まあまあ、伊織。宙夢、囮でアセンブルを引っ張り出した後は………』
「分かってる、分かってる」
こんな言い方で大丈夫なのかと伊織は話を聞いていて複雑そうにするが、兄が言っているなら信じる他ない。
「でも、囮って何をするつもりで?」
だが、そんな心配を他所に明らかにマイペースを崩さない宙夢。囮の内容を理解したわけではなかった。
「やっぱり分かってないじゃないですか」
やっぱりかと伊織はほらっと言わんばかりに首を数回横に振り、ため息をついた。
『ま、こういう方がらしいからね』
なんと寛容なのかと言いたくなる正道の口調。兄妹でこうも違うとは面白いものだ。
『うん、宙夢の問いに答えるなら………ダミーの輸送車を使うと言う事だ』
「ダミーの輸送車ですか?」
「それはそれで食らいついてくる可能性が低くなるかもな。もしダミーと言う事を見抜かれたら、だが。その後の手は何かある?」
アイスの棒をさらに何度も噛みながら心配な点を指摘する宙夢。
『いやあ、それがね………。あるかどうか分からないような、分かるような、だね』
「ふうん、そんなとこ」
「兄さん、答えをたぶらかなさいで。宙夢先輩はアイスの棒をかじるのはそろそろやめた方が………」
「ん、はいはい」
伊織も宙夢と兄のペースに飲まれながらもなんとか着いていく。
『では、明日の昼時に。作戦場所はすぐに送るから』
「了解」
伊織の苦労も知らず、打ち合わせを終えた二人は連絡を切った。
「………宙夢先輩、本当に大丈夫なんですか?」
先程の連絡の内容に不安を募らせる伊織だが、宙夢はどこ知らぬ顔であくびをする。
「ふああ……。問題はない。英俊からも情報が入ってきたし、伊織がいるからね」
「………さらっと変なことを言わないでください」
宙夢に言われたことに満更そうでもない伊織。
兎に角、手は打った。スピード解決に繋がるのだろうか
。
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ビルの上で黒いダイスを手の中で転がす青年。
その姿はソンブレロと緑と黒のチェックがバラバラに散らばったコートを羽織り、メキシコ風の衣装だ。少しばかり、いや全く日本には似合わない。
ビルの上から何も言わずに眼下を見届ける様は何かを探しているようであり、何かを監視しようとしているようだった。
「何か用事があるですか?バンクスダイスの購入者さん?」
片側だけソンブレロを上げ、帽子の下に隠した目で冷たく睨み付ける。
それに対し、バンクスダイスの購入者の男はソンブレロの男のその態度にイラッとしたのは不快な声で応じた。
「何か用事………ってアンタから呼んだよね?」
「………そんな事ありますかねェ?」
だが、全く動じずにソンブレロを戻した男とバンクスダイス購入者の間に重い空気が流れる。
「まあ、いいや。この後もやることあるから」
バンクスダイス購入者は付き合ってられないとばかりにソンブレロを被った男に背を向けてダイスを手にする。
「そうですか、お仕事頑張ってください」
帽子の下の表情は分からない。だが、言葉の端端にトゲがある。
「ッ!」
カチンときたのか、ゲノムダイスを取り出すと今にも食って掛かろうとしてくる購入者。だが、ソンブレロを被った彼は徐々にプレッシャーを強めていく。
「ダイスの使い方は購入者にお任せしていますが、我が『グロリア』に痼を残すのであればバイヤー代表として始末させていただきますのでご理解のほどを」
ソンブレロの男の発した謎の組織の名前にバンクス購入者は苦虫を噛み潰したような顔になる。
それほどソンブレロの男はその組織で強い力を持っているのだ。
「ぐぐっ………いつか、覚えておけよ」
「そのときが来ると良いのですが、ね」
これ以上釘を打たれ続ける事は自分のプライドを傷つけると悟った購入者は自らのダイスを目の前に掲げる。
「仕事をこなしてくるのを見ているといいよ!」
冷静さを欠いてはいるが、それでも自らのやり方を貫かんとする意気を軽く笑うソンブレロの男。
「……………ゲノムダイスに運命を転がされないように注意してくださいね」
嫌味を捩じ込みながらじっくりと変身するのを見守るようにソンブレロを軽く上げる。
それを知ってか知らずか、ダイスの購入者は赤いコインの並んだデザインのダイスの『1』の目を押し込む。それがスイッチになっていたのだ。
《クラフトアップ!バンクス!》
低い不気味な声と共に押されたダイスが六面全て弾け飛び、購入者の周りを廻り出す。
それと同時に購入者の身体にさらに展開した六面体のパーツが組み上がっていく。
まるで身体に機械を埋め込むように。
ハズルを組み上げていくように。
人が鎧を纏うように。
身体を怪人の姿へと変貌させた。
『やっぱりゲノムダイスの力はスゴい!ハハハハハッ!』
人が変身したバンクス・アセンブルは長い舌を隣のビルの配管に巻き付け、飛び去っていった。
「…………やはり適合数の低い者は心まで進水するのが関の山、ですね」
ソンブレロの男は自らのダイスをコートの中に仕舞い、退屈そうに背を伸ばした。
「…………アセンブル。ダイスの中に封じられた『遺伝子』『構造』を解き放ち、人が装甲として纏った怪物。『組み上がる』と言う英語からAssemble(アセンブル)………。やはり、面白いですねェ」
アセンブルの秘密を握っている男は意味深な言葉を呟きつつも、バンクス・アセンブルの査定を開始するように飛び立った先を目を凝らしながら眺めていたーー。
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一台の輸送車が銀行の裏手に停まっていた。
後ろの排気口から煙が上がる。出発の合図だ。
そして、緩やかに輸送車が発進する。まるで何かを引き付けるようにスピードを上げずに走る。
するとどうだろうか。影に溶けて見えないが、真上に何かが着地し、真ん中に穴がバリバリと開いていく。
見えない何かが狩りをしているようだ。
ーブウンーその僅かな揺れに反応したのか、急に輸送車がスピードを上げた。
『ッ!?』
荷台の上でバタバタと物音がする。もがきバランスを取る感覚だ。
そのまま輸送車は一気に加速し、あり得ないルートで走っていく。
『な、急にどうしたんだ?』
荷台の上で何かが叫んでいるが全く姿はない。だが、影の部分から光の当たるビルとビルの隙間を通るごとに荷台の光の反射が歪んでいるのが分かる。
何かがいるのは間違いない。そして、輸送車は一気に湾岸沿いのルートに突入し、車体を揺らし始めた。
右へ、左へ。急バンドルが荷台の何者かに強く響いていく。
『ぐうううっ!』
最早荷台の何者かは、無茶無茶な輸送車のハンドルテクに振り落とされないようにすることに集中し、本来の武器である姿を隠す事に集中できなくなっていた。
光が荷台の何者かを鈍く照らす。必死に銀の舌を輸送車の中に引っ掻けているメタリックグリーンとブラックの怪人、バンクス・アセンブル。
必死に風圧に耐えるバンクスの真下、輸送車の隣にいつの間にか赤いバイクが追走していた。
「尻尾を捕まえたぜ!アセンブル!」
『な、何?』
赤い不死鳥をモチーフにしたバイクに乗っていた青年/宙夢はバンクスの姿を確認したと同時に叫んだ。
それに反応してしまったバンクス・アセンブルが顔をそちらに振ったと同時に、車体が激しくスピンした。
いや、わざとスピンさせたのだ。
ギュルルルッとタイヤと道路の摩擦が激しくぶつかり音を奏でていき、衝撃はバンクスの抵抗を跳ね返した。
『うあああああああああああっ!』
舌のロックが緩まると、豪快に振り落とされてしまったのだ。
叩きつけられたバンクスの前にバイクが停まる。
「神妙に諦めた方がいいぜ?連続強奪犯さん?」
バイクからゆっくりと降りた宙夢は胸の前に構えた右の手首に左手を添えてバンクス・アセンブルに立ち塞がった。
『ッ!警察の罠か!でも、ここでお前らを伏せればどうにでもなる!』
漸く罠と気づいたバンクス・アセンブルだがここで宙夢達を始末すれば逃れられると考え、舌を巻き付けようとした。
『お前の首をへし折ってやる!』
シュルリと光速で舌が宙夢に迫る。
だが、ふと笑いを浮かべた宙夢はバックステップで軽くその場から離れた。
「手を出すのが早いな………めんどくさい」
余裕綽々と言ったばかりに被ったままのヘルメットを投げ捨てた宙夢。
『ッ!僕の舌をかわした?お前、何者?』
宙夢の運動神経に驚きを隠せないバンクスに対し、彼は右手に持った大きめの何かを見せつける。
「俺はこう言うものさ、アセンブル君?」
『そ、それはダイス!?』
宙夢が手にしていたのはゲノムダイスよりも鮮やかな『ファントムダイス』であった。
そして、宙夢はダイスのスイッチである一の目を押し込んだ。
《Switch UP!》
ガチャリ!ダイスはあっという間に展開し、サイコロから不死鳥の形に変形したのだ。
「お楽しみはこれからだ!」
さらに宙夢は左手に持ったバックルを腰に当てる。するとあっという間にベルトにバックルが変形したのだ。
形状は黒いスマートな形だが、中央にルーレットのような回転式の7色にカラーリングされた歯車があり、左端にダイス装填ユニット、右側にツマミがある。下の土台には不死鳥と龍が絡み合う絵柄がある。
《マッチドライバー!トランキーロ!》
不思議な音声を鳴らすそんなベルト『マッチドライバー』を見せつけるように構える宙夢。
『そ、そのベルト!?お前は、仮面ライダー!?』
バンクスはベルトを見て宙夢の正体を理解した。
東京には噂がある。鉄の怪人を倒す仮面の騎士の噂。
その名は仮面ライダー。
「大正解。じゃ、お見せしようか。俺の戦いを!俺のレボルシオンを!」
宙夢はダイススロットにフェニックスダイスをセットした。
《Dais set!フェニックス!》
ベルトの中の歯車が赤く発光すると同時にテンポの速い待機曲が流れ、宙夢の周りを不死鳥のエフェクトが渦を描く。
宙夢は左手を顔の前まで持ってきて、バンクスに甲を見せる形にした。それに合わせて指を銃を作るようにポーズを取りながらゆっくりと息を吐く。
「変身!」
変身の掛け声と同時にツマミを回した右手の甲を左手の甲に合わせて、振るように左の顔の位置まで持ってきた。
《Getup!灼熱のルチャドール!ブレイズ・オブ・スタイル!》
宙夢の身体にベルトから呼び出された灰色のアーマーが装填させた後、身体をフェニックスのような赤い焔が包む。
そして、それと同時に何処からともなく現れた不死鳥のエフェクトが重なり、焔が集まっていく。
『ぐっ、この炎は………』
後ずさりしたバンクス・アセンブルが見たのは赤い仮面ライダーの姿。
マスクは赤い不死鳥が羽根を広げたような形の物になり、羽根の中心部が複眼と重なっている。頭の中心には炎型のエンブレムがある。
また灰色のボディに纏うのは赤い装甲。胸から腹部にかけて燃え上がる火柱が上下鏡のように描かれ、胸の炎は不死鳥の羽根のようになり、火と火の間に銀のラインが入っている。脚も炎型のレッグアーマーを膝下両足に纏っている。
また肩当ては左に展開したフェニックスダイスが肩当てとして装着されている。
「仮面ライダークラーロ、リングイン!さあ、楽しもうぜぇ!」
手首を返しながら仮面ライダークラーロ/宙夢は叫ぶ。
さあ、今こそ運命のゴングが鳴り響く!