とある鎮守府の最強の駆逐艦隊〜出撃制限――駆逐艦のみ〜   作:神崎てる

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#1 提督が鎮守府に着任しました これより艦隊の指揮に入ります

  海の上、ぽつんと浮かぶ島、その鎮守府。

 この鎮守府には、ちょっと特徴があった。

 

 ――物資が非常に。いや、異様に多い。

 

 燃料に弾薬、鋼材にボーキサイト。

 それだけにとどまらず、開発資材(ハグルマ)改修資材(ネジ)も。高速修復材(バケツ)高速建造剤(バーナー)に至るまで。

 なにもかもが、それはもう、溢れかえるほどに。

 

 しかし、この鎮守府に着任した提督は、皆が皆、口を揃えてこう言うのだ。

 

「あそこは呪われている。就いたら最後、戦艦や空母でさえ歯が立たず、何もできないままに沈められる」

 

 そう、ここはとある鎮守府。資材が多い以外には特に特徴もない、なんでもない鎮守府。

 なんでもない、はずだった鎮守府。

 

 そして……。

 

 別名を――死霊の海の鎮守府、と言う。

 

 

 

 

 

     〜 〜 〜

 

 

 

 

 

「ここが、これから僕たちの家になる場所なんだな」

 

 目の前にある大きな建物を見たからか、僕の中に色んな感情がこみ上げてきて、ふと口から飛び出した。

 呑気な口調。隣りにいた真面目そうな少女に、クスリと笑われてしまうほど、呑気に。

 

「はい、ここがこれこら私たちの鎮守府になる場所です。どうも少し前までいた司令官の方が急に辞めてしまったそうで」

 

 その話なら僕も説明のときに聞いた。あまりにも急すぎたために引き継ぎもままならなかったため、もしかしたら物が残っているかもしれない、とのことだった。

 ちなみに、残されているものについては、廃棄も使用も自由らしい。前任の提督からの了承も得ているとのことだった。

 

「前の人が残していった資源とかあるとラッキーだよなっ!」

 

 ふと気づき、慌ててバッと口を隠すが、すでに遅い。出ていった言葉は遮ることができず、またも少し笑われてしまう。

 

「ふふ、それでは入りましょうか、司令官」

 

「……ああ」

 

 熱い顔をごまかすようにして、僕は帽子を深くかぶり直す(けれども帽子が浅いので全然ごまかせてはいなかったのだが)。

 

 

 

 

 

 宿舎、倉庫、演習場。弓道場に食堂。甘味処、工廠、入渠施設……と巡り、現在位置は三階廊下。

 僕の前を先導する少女に連れられ、鎮守府の中を歩いていた。

 僕の自室の場所も紹介される。中を覗いてみたが、めちゃくちゃ広い。実家のリビングくらいある。すげえ。

 ちなみに風呂とトイレ完備。

 

 そして、最後に紹介される場所。自室からそう遠くはなかった場所。

 入口のドアは、ここまで見てきた中で類を見ないほどに重厚そうで、荘厳さまで感じる。

 

「最後に、ここが司令官が主に仕事をすることとなる、執務室です」

 

 ゴクリ、とつばを飲んだ。

 

「入って……いいんだな?」

 

「はい、問題ありません」

 

 実のところ、まだ少し信じられなかった。僕がこの鎮守府の提督だなんて。

 

 ドアノブに手をかける。ひんやりした感触が伝わってくる。

 意を決し、回してグッと押して見る。

 

「……おわっと」

 

 体が前へと倒れそうになる。この扉、見た目よりもずっと軽い。

 もっと重いと思って、かなり前に体重をかけていたから、体勢が保てず二、三歩よろめく。

 

 転びこそしなかったが、拍子抜けな声は出してしまう。

 ……今日はいったい何度恥ずかしい思いをすればいいんだ。

 

 気を取り直して、シャンと立ち、前を見る。

 

「これは、広いな」

 

 まず、それしか感じられなかった。

 

「学校の教室。……いや、もっと広い。音楽室みたいな特別教室より広いんじゃないか?」

 

 赤いカーペットが敷かれた床。真正面には大きな窓が構え、その下に横長の机。僕が使う予定であろう執務机が置かれている。

 向かって左方面にはそこまでスペースはなく、数歩ほどですぐに訪れる壁には一面にびっしりと本棚が敷き詰められ、溢れんばかりの本が収まっている。

 逆に右側。左とは比べ物にならないほどのスペースがあり、七、八人くらいがかけられそうなテーブルがドンと構えている。

 よく見ると隅には引き戸がある。開けて見ると、どうやら台所のようだった。

 

「まって、すごい。すごすぎる」

 

 少し、いや、かなり信じられない。つい昨日までは四人相部屋、それもここの何分の一くらいしかない部屋だったのに。ついさっき見た自室といい、この部屋といい。こんなにも広い部屋で過ごすことになるだなんて。

 ……信じられない。

 

「……いかん、司令官!」

 

「うお、す、すまない。どうかしたか?」

 

 いつの間にか目の前に立っていた彼女にそう言う。彼女は「いえ、ただ司令官が立ち呆けていらっしゃったので、どうかされたのかと」と。どうやら心配をかけてしまったらしい。

 

 少しの罪悪感を感じながら、僕は彼女に向き直る。

 すると、彼女もビシッと背を伸ばしてこちらを見てくる。

 

 僕は、そんな真面目な彼女の名前を呼んだ。

 

「吹雪」

 

「はい!」

 

 なんだろう。すごく不思議な感覚だ。

 

「改めて。これから、よろしく頼む」

 

「はい、司令官。こちらこそよろしくお願いします!」

 

 屈託のない笑顔が向けられる。とてもかわいい。

 

 

 

 

 

「さて、まずなにをすればいいんだ?」

 

「一番はじめは、えっと、建造ですね。私一人でだと、出撃には少し難がありますので」

 

「建造……か。なら、工廠に行けばいいのか?」

 

 僕がそう尋ねると、吹雪は肯定の返事をくれる。

 

「なら、早速行くとするか」

 

「はい!」

 

 イスから立ち上がり、扉から外に出る。出てからは左手方向をにまっすぐ歩く。廊下はガランとしている。

 

「……これは、少し寂しいな」

 

「たしかにそうですね。でも大丈夫です。すぐに駆逐艦の皆や巡洋艦の人たち、戦艦や空母の人たちも来てくれて、きっと賑やかになりますよ!」

 

「そう、だな。そのためにも、どちらにせよ建造だな」

 

 廊下のつきあたりにたどり着く。階段を降りる。

 三階から一階まで。若干長い。

 

「ここを、右だよな?」

 

「はい」

 

 確認して、建物の外に出る。工廠は隣の建物にある。

 

 ギィ。重い音を鳴らしながら扉を開く。

 

「こんにちは、明石さん」

 

「えっ、ああ。提督ですか。先程ぶりですね。……それで、どうかされました?」

 

「はい、建造をお願いしようかと」

 

 明石さん。この工廠の主で、管理を一手に引き受けてくれている。彼女も艦娘なのだが、どうやらずっと前からこの鎮守府に所属してるらしい。

 彼女のように以前からこの鎮守府にいる艦娘は他に二人いる。

 

「あー、はいはい、了解です。適当にちゃちゃっとやっちゃうんで、材料下さい」

 

 ふむ、どうしてだろうか。最初に各施設見て回ったときにもここは訪れた。しかし、その時からどうも歓迎されていない気がする。

 

 以前。まだ提督になれていなかったころ、研修生としていくつかのの鎮守府に研修へ行ったこともあるが、そこにいた明石さんはみんな違っていた。

 しかしただ一点だけ。建造や開発、改修と聞けば、目を光らせて喜んでいるイメージだけ全くもって一緒だった。

 

 しかしどういうことか、明石さんは嬉しそうじゃなかった。むしろ建造と聞いて悲しそうな目をしている。

 

 ここの明石さんが特殊なのだろうか。あるいは……。

 

 いや、これはどう考えても僕のせいか。新米の提督なんて、信用に足るものじゃないだろう。そして、そんなやつに頼み事をされたとしても、たとえそれが自分の好きなことであっても素直には喜べないだろう。

 

 僕はとりあえず信用を勝ち取るまでは、迂闊に関係を踏み込まないようにしよう。

 そう決意して――とにもかくにも、まずは建造をしてみよう。僕は資材の残量を確認した。

 

 そして、絶句した。

 

「どうされました? 司令官」

 

 僕が口をあんぐり開けて動かないでいるから、不思議に思ったのか秘書艦としてついてきてくれた吹雪が僕の手元を覗き込んだ。

 

 僕が手に持っていたのは、鎮守府の管理のために使われる端末だった。資材の残量、ドックの空き情報、その他連絡事項の通達などに使われるものだった。普通に携帯電話やスマートフォンのような使い方もできる。

 そして、先に言ったとおり、資材の確認のために見たのだ……が。

 

 横目に見てみると、僕と同じように唖然とした吹雪がいた。というか、大丈夫? 顎外れてない? ちゃんと戻る?

 

 燃料も、弾薬も。鋼材も、ボーキサイトも。

 いや、それだけじゃない。通常の艦隊運営に必要なアイテムが、もはやこれ以上は入らないと言わんばかりの量が、そこにはあった。

 

「え、何これどうなってんの」

 

 機械のバグだろうか。いや、まあとりあえずそれは後で大本営に報告してみるとして(あるいは倉庫の中を実際に見てみるとして)、とりあえずは僕が着任するにあたって配給された分が少なくともあるはずだ。

 あるかどうかわからない資材は当てにしないことにして。

 

「えっと、最小量は……」

 

「通常の建造なら各30ずつが最小量です」

 

「じゃ、あ。とりあえず全部30ずつでお願いします」

 

「……はい、わかりました」

 

 いろいろテンパりながらではあったが、頼むことはできた。

 明石さんはそのまま近くにいた妖精さんに話しかけたりしていた。どうやら準備やらをしているようだ。

 

 しかし。やはり明石さんの声からは元気が感じられなかった。

 あんまりの長居は無用だろうと(ついさっき自分で踏み込まないと決めたし)、僕は放心気味の吹雪を起こして工厰から出る。

 

 しかしあと一歩で出る、というその時。

 

「あの、提督」

 

「え、どうかしましたか?」

 

 まさか明石さんの方から話しかけてくるとは思っていなかったので、少し驚いてしまった。

 僕は後ろを振り向いた。

 

「沈めないでくださいね、お願いですから」

 

「あ……えっと、はい。もちろんです」

 

 突然すぎるその頼みに、当然の義務にも思えそうな、その頼みに。少し戸惑いながら僕は肯定した。

 

「それでは、建造完了次第端末でお呼びいたしますので」

 

 彼女はそう言って機械へと向いてしまった。

 しかし、最後の最後まで彼女の表情はどこか曇っていた。

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