とある鎮守府の最強の駆逐艦隊〜出撃制限――駆逐艦のみ〜   作:神崎てる

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#2 忍び寄る不安の影

「頭おかしくなった? それとも目が? そもそも夢なのか? これは」

 

 そうだ、夢なんだ。きっと僕が提督に着任したというのも、夢の世界だから。

 

「しっかりしてください。夢じゃありませんし、司令官の頭も目も、たぶん正常です」

 

 隣りにいる吹雪にそう言われる。でも、こればっかりはいろいろと信じられないんだけど。

 

 あんまり夢説を推していると、一発砲撃打ち込みましょうか? なんていう冗談を貰った。すっかり目が覚めた。

 ……冗談だよな?

 

「というか、この状況を見て驚いてもなんでもないってことは、この量が正常なの?」

 

「いえ、実を言うと私も心のなかではさっきから夢じゃないのかとか何度も思ってます」

 

 思ってるのかよ。

 

「ですが、二人して同じくこれを見ているということは、きっと見間違いでもなんでもないんでしょうし……」

 

 倉庫の壁の前に、僕らは再び絶句する。

 

 目の前にあるのは壁。壁だ。

 倉庫のシャッターを開けた先には、壁があったのだ。

 積み上げられた燃料、弾薬。もちろんその他の資材も。

 それらが山積みにされ、壁になっていた。比喩ではない。壁だ。

 

 と、すると。

 

「端末の、表示バクとかじゃないってことだよな? これ、たぶん」

 

「はい」

 

「ちなみにこれだけの量が最初に配られるなんてことは」

 

「絶対にありえません。ちょっと多いくらいならまだしも、これだけの量、ずっと資材を集め続けている鎮守府とかに匹敵する量ですよ」

 

「だよなあ……」

 

 うーん、仕方ない。とりあえずは大本営に連絡をとってみよう。

 とにもかくにも、端末の方には不備はなさそうだな。

 端末の、方には。

 

 それにしても、まさか、半分冗談で言ったことが現実になるとは。

 想像であったときはあれだけいいものだと思っていたのに、いざ実現してしまうと、こうも感じが悪いものなのだな、と。ひどく実感した。

 

『沈めないでくださいね。お願いですから』

 

 異様に多い資材、急に辞めてしまった前提督、どこか核心の掴みきれない明石さんの発言。

 何かあるのではないだろうか。そんな、漠然とした不安感にかられた。

 

 端末に不備はなかった。

 でも、この鎮守府には、何かあるんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 執務室のイスに座る。革張りの高級感あふれる椅子は想像以上に座り心地がいい。夢のようだ。

 とはいえただ座ってるだけというわけにもいかず、目の前に積まれた書類を片付けなければいけない。

 

 着任用の書類などが主であるが、それでもまあまあな量がある。まだ山のような量とは言えないが。

 

 そうだ。資材の量について、大本営に問い合わせるんだった。それについての書類も作らないと。

 

 近くでは吹雪が手伝ってくれている。「大丈夫だ」と断ったのだが、強引に手伝ってきた。

 正直なところ、書類を片すスピードは速いので助かってはいるのだが。

 

(吹雪は少し頑固なところもあるのかもしれないな)

 

 思い返してみればつい数十分前、ここの案内だって「地図があるから大丈夫だ」と言ったにもかかわらず吹雪は案内してくれた。

 きっとそういう性分なのだろう。

 

「なあ、ふぶ――」

 

 ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ。

 

 机の上に置いていた端末が鳴った。小刻みに震えながら机のへりに向かおうとするそれを持ち上げ、画面をつける。

 明石さんからだ。

 

「……どうやら、建造が終了したらしい」

 

 端末の電源を落とし、吹雪に目を向けると。

 それはそれは、戦意高揚かと見間違えるほどにキラキラとした眼差し。笑顔。

 

「行きましょう、初めての仲間ですよ! 楽しみですね!」

 

 少しでも遅れると、置いていかれそうな雰囲気だった。もちろん、吹雪が走っているわけでもないし、きっとここで僕が立ち止まったとしても、彼女は先に進まずに立ち止まってくれるだろう。

 忍びないからしないけど。

 

 しかし、僕からすると、君が最初の仲間なんだけどね。

 逆の言い方をすれば、吹雪にとっては僕がそうなるんだろうけれど。うん、こういう考え方はよくない。自分本意すぎる。

 

 そうこう考えているうちに工厰へと着く。工厰の扉は執務室にも張り合えるほどに頑丈そうな作りに見え、というか実際に頑丈な作りで、かなり重い(それもあって執務室のときは余計に拍子抜けした)。

 

「ああ、提督。おまたせしました。こちらです」

 

 やはり、どこか暗い様子の明石さんに誘導されながら工廠の奥へ。

 ちょうどイスに座っている少女がいた。

 

 黒くて長い髪に、特徴的な帽子。ああ、いつか資料で見たことある。

 

「えっとたしか、暁型駆逐艦のあかつ――」

 

「ちょ、ちょっと! 自己紹介くらい自分でできるもん!」

 

「む、それは失礼した」

 

「ったくもう! ……それで、暁型あらため特Ⅲ型駆逐艦一番艦の暁よ。一人前のレディーとして扱ってよね!」

 

「ああ、了解した。これからよろしく頼む」

 

「も、もちよんよっ!」

 

「暁ちゃん! 一緒に頑張ろうね!」

 

「ふぇっ? え、ああ、もちろんよ、吹雪!」

 

 

 

 

 

 そして執務室。最低限必要な書類は片付けた。

 まだ、やらないといけないものはあるが。

 

「これで、出撃ができるな」

 

「はい! それではどうしましょうか」

 

「そうだな、正面海域の簡易的な哨戒を頼んでもいいか? しばらくこの付近の調査はできていないはずだから、どうなっているかが心配だし」

 

「はい! わかりました」

 

 それじゃあ、装備をどうしようか、と。

 

 コンコンコン、ドアがノックされる。

 

「開いてます、どうぞ」

 

 ギィ。と、少し軋みながらドアが開くと、桃色の髪の女性が肩で息をしながら立っていた。

 

「はあ……はあ……。よかった、間に合って」

 

 明石さんだ。工廠から走ってきてくれたのだろう。しかしこんなに急いでどうしたのだろうか。

 

「すみません、さっきこれを渡すのを忘れてしまって……。出撃される前に、お二方にこれを」

 

「……これって、応急修理要員ですか?」

 

 吹雪が明石さんから妖精を受け取っていた。木材を持って、ヘルメットをかぶっている。僕も実物を見るのは初めてだけど、これが応急修理要員らしい。

 ……思ってたより小さい。

 

「スロットを一つ消費してしまいますが、万が一のときの轟沈を一度だけ回避できます。本当なら応急修理女神の方がいいのですが、さすがにコストが高くて」

 

「いえ、それは分かってるんですが、一体どうして?」

 

 僕がそう尋ねると、明石さんは俯き気味で小さく答えてくれた。

 

「ただ、ただ私は。沈んでほしくない、それだけです」

 

 ダッと走り出して部屋から出ていってしまった。理由を聞こうと引き留めかけたが、ダメだダメだと自制する。

 

「吹雪、暁」

 

「はい!」

 

「どうしたの?」

 

 僕はすうっと大きく息を吸った。教えてもらったんだ。随分と前に先輩に。

 

『わからないことがあったり、困ったことがあったら、とりあえず一回息を吸え。大きく大きく息を吸え。話はそれからだ』

 

 この言葉に、この行為に、僕は何度も助けられた。今日もきっと助けてくれる。

 

「出撃してくれ。応急修理要員を忘れないように」

 

「ちょっと待ってよ司令官。私、そう簡単には沈まないわよ!」

 

 暁が少しイラついた様子で声を上げた。子供扱いされるのは好まない、と。そう聞いていたのでこの反応は予想していた。

 

「まあ、そう言うな。俺だって沈むとは思っていない。けどな、海に出たら一体何があるかわからない。それに、初めての出撃だしな。明石さんもきっとそういうことを気にしてくれたんだろう」

 

(ただ、それにしても明石さんは異様なまでに轟沈を危惧しているようにも感じられた。どうしてだろうか?)

 

 多すぎる資材といい、この鎮守府、少し調べた方がいいかも知れない。

 

「そ、そういうことなら。仕方ないわね」

 

「じゃあ、行ってくれ」

 

 帽子のつばを持って、深く被る。

 

「出撃だ」

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