とある鎮守府の最強の駆逐艦隊〜出撃制限――駆逐艦のみ〜 作:神崎てる
しばらくの間、同じような日々を繰り返していた。
最低限で建造したり、開発したり、近海の哨戒をしたり。
とにかく、無理はしないように、警備を続けていた。
そんなある日。
「建造の配分を?」
「はい! 今、この艦隊には駆逐艦ばかりがいます、でも、私たち艦娘には軽巡洋艦や重巡洋艦、もっと強い戦艦や空母の方たちもいます。ここはひとつ、建造に使う資材の量を変えて、この人たちのちからを借りてみるのはどうでしょうか!」
建造前に吹雪から言われた言葉だった。
最低限の建造をしていたのは、資源を節約するため。
倉庫にしまわれていた大量の資源たち、大本営に問い合わせたところ、間違いでもなんでもなく、また、僕が使っていいものだった。
とはいえ、この異様な資源を使うのは、少し気が引けた。
「……まあ、アリか」
節約してきたおかげで、僕が着任してから溜まった資源にも余裕はある。
ここはひとつ、やってみてもいいかもしれない。
そんな考えをしながら、僕は明石さんに建造を依頼した。今までよりもずっと多い配分で。
「…………わかりました」
明石さんの顔は、晴れないままだった。
どうやらまだ、僕は彼女に認められていないようだった。
執務室に帰って、書類に手を付ける。秘書艦としてついてきた吹雪も、勝手にそれを手伝う。
(別にやれって言ってないんだけどな……)
まあ、やるなとも言ってないのだが。以前、やらなくてもいいよと言ってみたことがあるが、それでも強引に手伝おうとされたので、それ以来諦めてる。
外からはドタドタという騒がしい足音や、甲高い少女たちの声が聞こえてくる。
「吹雪は、アレに混ざらなくていいのか?」
「へ? あ、いえ、私は大丈夫です! こうして司令官のお手伝いするの、私好きですし!」
「……そうか、まあ、無理はするなよ?」
ドタドタ……ドタドタ……。それにしても元気だな。
ドタドタ……ドタドタ、ドタドタドタドタドタドタドタドタ!
バンッ!
「提督さん提督さん! 夕立と一緒に遊ぶっぽい!」
「今は仕事してるから、後でにしてくれ」
金髪の少女が、弾丸のように部屋に転がり込んできた。めちゃくちゃ驚いたが、なんとか落ち着かせて、そう言う。
「えー! 今一緒に遊ぶっぽいー!」
「しかしだなあ、先にこれを片付けないと」
彼女は夕立。先日建造された艦娘で、例によって駆逐艦だ。かなり快活な性格ではあるのだが、いささか幼いというか、よく言えば無邪気ではあるのだが、
「提督さんは相変わらずケチっぽーい」
ぷくっと、頬を膨らませる。横では吹雪が「まあまあ夕立ちゃん……」とフォローしてくれていた。
十数分ほど夕立は粘っていたが、さすがに諦めて出ていってくれた。
「……後で、か」
夕立が部屋から退出するその直前のこと。「後で、後で絶対に一緒に遊ぶっぽーい!」と、そう言われて出ていかれてしまった。
別にそれに応えたわけではないけど、後でにしてくれと行ったのは僕だし。
「早く仕事を片付けるか。……手伝ってくれるか? 吹雪」
「はい、もちろんです」
吹雪はそう言って、しかし少し経って、クスりと笑った。
「……どうした?」
「いえ、なんでもありません」
ニコッと、とてもいい笑顔でそう言われてしまった。
なんでもないわけがないだろうとは思ったけど、これ以上追求するのはなあ、と。仕方なくここで引き下がることにした。
そういえば、建造時間が長いな。いつもならもう端末に連絡が入っているころなのに。
僕と吹雪が工廠に向かうことになったのは、それからかなり経ってからだった。着任直後だからだろうか、回されてくる仕事の量も種類もそこまで多くなく、そろそろ仕事が終わるかな? と、吹雪が緑茶を淹れようとしたときだった。
「司令官! ついに、ついにですよ! 今までよりもずっと長い建造時間! 間違いありません!」
横でキラキラとした眼差しを送ってくる吹雪。まるで暁が建造されたときのような眼光に、少し懐かしさを覚える。
まだ十数日しか経っていないというのに。……しかし、ここでの生活は今までとは全く違い、そして、今までの何倍も濃密なものだった。
「とは言ってもあんまり資源は投入できていないからな。戦艦や空母ではないだろう。……おそらく巡洋艦か?」
「でも、巡洋艦の皆さんでも私たち駆逐艦とは比べ物にならない火力を持ってますよ! これで戦い方もグッと変わって、今まで行けなかったようなところにも……楽しみですね!」
……そうか。もしかすると吹雪は待ちわびていたのか。巡洋艦の、彼女らの着任を。
たしかに吹雪の言うとおり、巡洋艦がいれば――もちろん駆逐艦が弱いというわけではないが――できることが大きく変わる。むしろ、今までは巡洋艦がいなかった分、彼女らに少し無理をさせていたのかもしれない。
「すまなかったな」
「…………? どうして司令官が謝ってるのですか?」
「いや、なんでもない」
僕の思いすぎだったのだろうか。
もうすぐ工廠にたどり着く。吹雪は屈託のない笑顔で僕の腕を引いていた。
そして、到着するや否や、吹雪は勢いよく工廠の扉を開けた。
「明石さん! 来ましたよ!」
工廠の中で、吹雪がそう言う。声量的には叫ぶと言っても良かったかもしれない。
返事が聞こえてしばらくすると、奥の方から人影が現れる。ピンクの髪の毛、明石さんだ。
「提督、吹雪ちゃん。こっちです」
明石さんの態度は、まあ、いつものとおりで。強いて言うなら、今朝よりか、少し落ち込んでいるような、そんな感じがする。
まるで吹雪とは対照的に。
明石さんに案内されて工廠の奥に行くと、そこには一人の女性が腰掛けていた。
夕立よりも黄色が強い金髪に、だいたい高校生くらいだろうか? と思うような体格の女性、どこか自信なさげな顔つきで、というか現在進行形でオロオロしているようだった。
「あなたは、たしか阿武隈かな?」
「ふえっ? え、あ、はい、阿武隈です。えーっと、ご、ご期待ください!」
期待できそうでできなさそうで、少し笑ってしまいそうになる。
阿武隈、記憶が正しければ長良型軽巡洋艦の、末っ子。
軽巡洋艦、軽巡洋艦……。
「司令官! 軽巡洋艦ですよ! 初めてですよ!」
「そうだな、これで水雷戦隊を組むことができる」
吹雪の腕が中途半端な高さまで上がり、ピクッ、ピクッと震えていた。体もかなりこわばっていた。そんな中、顔は百点満点の笑顔。
大はしゃぎ寸前といったところだろうか。彼女としては今すぐ喜びを体で表現したいのだろうが、今は秘書艦という立場にあるから、と。
(そこまで気にしないでもいいんだけどな)
まあ、吹雪らしい気もするが。
「さて、と。阿武隈、体の調子はどう?」
「えっと、……大丈夫です! 出撃も遠征もおまかせください!」
「そうか。それなら吹雪。暁と綾波、……それから皐月と叢雲を呼んできてくれ。水雷戦隊を編成して、出撃しようと思う」
「はい! わかりました!」
「……あ、場所は執務室で頼む。それから吹雪も出撃の準備をお願いね」
僕がそう伝えると、彼女は元気の良い返事とともに駆け足で工廠の外へと向かった。
少し遠くまで出撃してみようか。とりあえずは阿武隈を連れて執務室に戻って、海図を確認しよう。
と、外に出ようとしたときだった。
「提督。私が以前お願いしたこと、覚えていますか?」
明石さんが、そう尋ねてきた。
「彼女たちを沈めないで、のことですか?」
「はい。…………どうか、どうかよろしくおねがいします」
どうして急に、それもかなり深刻な様子で、
ざわり、胸の奥でなにかつっかえが生まれた気がした。
なにかが起こる。そんな気がしてならなかった。