とある鎮守府の最強の駆逐艦隊〜出撃制限――駆逐艦のみ〜   作:神崎てる

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#6 提督の決意

「…………せっかく、明石さんが僕のことを思って、言ってくださっていることではあると思います。でも、その意見を却下させてください」

 

「えっ……」

 

「僕がこの鎮守府を去っても、この謎の現象が終わるわけではない。そして、また新たな提督が着任する」

 

 僕は、これまでに集めた情報を駆使して、どれだけ些細な情報であろうと縋って、一つの仮説を叩き出そうと努力する。

 

「大本営は、この鎮守府を手放すわけにはいかない。いや、正しく言えばこの地を深海棲艦に奪われるわけにはいかない」

 

 それは、この島や近隣諸島に住民がいるからと言うわけではない。もちろん、それも理由にはあるだろうが、それ以上にこの島が陥落してしまうことにより起こりうる事態がある。

 

「この島、その周辺諸島にある、異常なまでの資源。一体どこからこれほどのものが湧いて出ているのか疑ってしまうほどの埋蔵資源。地図を見ました。この鎮守府に異常な量の資源がある理由、これですよね」

 

「よく気づきましたね。大正解ですよ。……でもいったいどれだけの本を漁ったらそれに気づけるんですか」

 

 明石さんが、小さく低い声でそう言った。今までの人は、誰一人として見抜いていなかったのに、と。

 

「そしてさきほども言ったように、これだけの資源が湧き出るこの地を、深海棲艦に奪われるわけにはいかない。僕の着任があまりにも急だったのもそれが関連している」

 

「そのあたりについては私も本当に正しいとは言えませんが、おそらくはそのとおりでしょう」

 

 カチリ、ちぐはぐだった歯車が噛み合った、そんな気がした。

 

「明石さん。僕は、逃げません」

 

「……後悔しても、知りませんよ?」

 

 明石さんが、初めて笑った気がする。苦笑いな気もするが。

 

「そして――お願いがあります」

 

 僕は明石さんにまっすぐに向き合い、頭を下げる。

 

「僕に、僕に協力してください。僕はまだまだ未熟です。こんなやつの言うことを聞くのは気分のいいことではないと思います。でも、僕がまだ未熟だからこそ、あなたの力を貸してほしいのです」

 

「提督……」

 

 まだだ。まだ、探せることがあるはずだ。

 仮に僕がこの鎮守府に残ったとして、そうであっても謎の轟沈が残ったままではどうにもこうにもならない。

 バラバラに散らばった情報をもとに、なにか、なにかを導き出さないと、

 

 ……今までの出撃では、今回のようなことは起こっていなかった。今回と今までとで、どんな差があった?

 

 今回は南西方向への出撃だった。いつもより長距離を想定とした任務だった。

 ……しかし、これは関連性が薄いと見たほうがいいだろう。出撃から知らせが来るまで、そんなに長い時間は経っていなかった。その距離ならいつもの哨戒のほうが遠出することもあった。

 

 今回は水雷戦隊での出撃だった。水雷戦隊での出撃、…………初めて軽巡洋艦が。駆逐艦以外が出撃した。

 そして、今回狙われたのは阿武隈。彼女は軽巡洋艦。はたしてこの一致はたまたまだったのだろうか。

 

「明石さん。聞きたいことがあります」

 

「……はい、なんでしょうか」

 

「今までに駆逐艦が轟沈、今回のような原因不明での轟沈に見舞われたことはありますか?」

 

「駆逐艦が? ええっと……、いえ、ありません」

 

 ここまでくれば偶然にしては出来すぎているだろう。この謎の原因での轟沈は駆逐艦以外を目標としたものだろう。

 いや、待て。仮にそうだとして、そうだとすると駆逐艦が狙われない?

 

 ……この鎮守府には他の鎮守府ではありえないほどの資源がある。それにより大型艦がその真価を余すことなくふるうことができる。そうなってくると、深海棲艦としてはなんとしてでもこの鎮守府の艦娘を倒さないといけない。

 だが、これが理由であるとして、一緒に駆逐艦を狙わない理由が無い。どうせ沈めるのであれば一緒に沈めてしまおうとは思わないのか? それとも、駆逐艦を沈めることができない理由がある?

 

 駆逐艦が他の艦と比べて違う点、駆逐艦が担う役割。駆逐艦は戦艦や空母、他の艦とは違って敵艦への決定打となるような攻撃ができるわけではない。もちろん夜戦では高い攻撃力を持つが、戦闘全体を通してで見ればどちらかというと対空や対潜などのサポート的役割が強い。

 対空や対潜などのサポート的役割、対空や、対潜……、

 

「明石さん、これは、あくまで僕の憶測でしかありません。聞いていただけますか?」

 

「はい。なんでしょう」

 

「実は、謎の轟沈について、吹雪が敵の特徴を少しだけ確認することができたんです」

 

『突然、阿武隈さんの足元からなにかが出てきて。多分、手……なのかな? みたいなのが、そのまま阿武隈さんの足を掴んで、海の中に引きずり込もうと』

 

 足元から、海中から、手が出てきて、海の中に引きずり込む。

 海の中から出てくる敵。考えられるのは――、

 

「僕は、この敵がなにか特殊な能力を持った潜水艦ではないかと推測します」

 

「潜水艦、ですか?」

 

「はい。おそらく、この鎮守府の豊富な資源量を後ろ盾にする戦艦や空母、その他の艦娘たちの猛攻を恐れた深海棲艦が生み出した秘密兵器といったところでしょうか」

 

「……まあ、たしかにこの鎮守府であれば、戦艦や空母の方々は惜しみなく進化を発揮できるでしょうが、……しかしなぜ、潜水艦だと思われたのですか?」

 

「突然の攻撃まで、周囲に敵が全くいなかったこと。そして、吹雪の証言から、敵は海中から腕を出し、阿武隈の足を掴んで沈めようとしたそうです」

 

「なっ……、砲撃でも魚雷でもなく、直に海底に引きずり込もうと……!?」

 

 明石さんが目を見開いて、声を少し荒らげる。そうなる気持ちも、とてもわかる。

 

「そして、どうしてか駆逐艦が狙われない。これについては駆逐艦の主な役割のうちの一つに対潜があるからだと思われます」

 

「な……るほど。これほどに強い潜水艦がいると仮定して、でもこういった潜水艦は他の鎮守府には報告例がない。量産できないほどに高コストの潜水艦なのか、あるいは偶然に生まれた突然変異種か。どちらにせよ、深海棲艦側としては失いたくない」

 

 仮に戦艦の艦娘を引きずり込むとなれば、戦艦の艤装ごと引きずり込むことになる。そうなると並大抵のパワーではどうすることもできない。

 

「とはいえ、軽巡洋艦だって対潜攻撃は可能です。けれども狙われています。なぜ駆逐艦が狙われず、軽巡洋艦が狙われるのかは、わかりそうにありません。……残念ながら、今手持ちにある情報から僕ができる憶測はここまでです」

 

「いいえ、凄いことです。まだ着任したばっかりで、全く情報もなく、経験も浅い中で、よくもここまで……。こちらこそ、本当にありがとうございます」

 

「……? どうして、明石さんが礼を言うんですか」

 

「提督が、約束を守ってくれているからです」

 

 約束……、約束。

 

「沈めないでくれ、というものですよね。でも僕は守れては――」

 

「さっきも言ったじゃないですか。まだ、沈んでいません。そして提督は――私がもう無理だろうと半ば諦めていた願いを――約束を守ろうと、彼女たちを絶対に沈めまいと、頑張ってくださっています」

 

 明石さんは、僕の方に向いて、まっすぐ姿勢よく立った。そして頭を下げた。

 

「ここまでの、無礼な態度、申し訳ありませんでした。どうせあなたも今までの人たちと変わらない、沈めてしまう、そう思っていました。そう思うと、もう適当でいいや、と。そう思っていました」

 

「いや、今までずっと苦しい思いをしてきて、そしてそこに経験もなにもない新人が来たら、そう思ってしまっても仕方ないですよ」

 

「……提督。これから、よろしくお願いします。どうか、どうか一緒に、彼女たちを守ってください。私と一緒に」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 僕も頭を下げた。明石さんとわかりあえた。そして、やらなければならない課題も見えた。まだまだ問題は山積みだけれども、

 やらないといけない。みんなを守るために。そう思うと、決意が固まった。

 

 僕が頭を上げると、明石さんも頭を上げた。少し目元が赤くなっていたが、明石さんは笑っていた。

 

「こうなったら使える手は全て使います。あの大量の資源も、使います。なんとしてでも、なんとかしないと」

 

「そうですね。……っと、そうなるとどうしましょうか提督。資源があるのであれば思い切ってたーっくさん開発します? しちゃいます?」

 

 二人してそんな話をしながら横を向くと、一人の少女が。

 もはや見慣れた。というか毎日日中はずーっと横にいる吹雪が、非常に戸惑った様子で、

 

「って、吹雪ぃ!?」

 

「吹雪ちゃん!? えっ、えっ、い、いつからいたの!?」

 

 よくよく考えたらさっきの二人して頭下げてるシーン、事情わかっていたらともかく、何が何だか分からない状況で見たらとんでもなくシュールじゃん、それを見られてたらと思うと、急に恥ずかしくなってきた。

 いや、待て待て待て待て、恥ずかしさよりもむしろ、さっきの話を聞かれていないかどうかのほうが大切だろう! いや、一部のことについては話すつもりだが、その前にどれを伝えてどれを伝えないべきかとか考えるつもりだったのに!

 

 吹雪、頼む、いつからいたんだ、どこから聞いていたんだっ!?

 

「ほええええ!? いや、その、ええっと」

 

 あたふたあたふた、あたふたあたふた、僕と明石さんの顔を交互に見ながら、吹雪は戸惑って、

 そして彼女の出した答えは、

 

「あ、えっと、その、なんで二人でお辞儀し合ってたんですか?」

 

 なんか、なんというか、

 よかったような、よくなかったような。

 

 とにもかくにも、めっちゃ恥ずかしい。

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