とある鎮守府の最強の駆逐艦隊〜出撃制限――駆逐艦のみ〜   作:神崎てる

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#7 夜の裏工廠

「さて、やりますか」

 

 女性の声で、そう訊かれた。

 

「ええ、お願いします」

 

 僕はそう返す。

 

 艦隊のみんなが寝静まった夜。とはいえ、何人かは起きていたりするんだけど、こんな時間にここ、工廠を訪れようとする艦娘はいない。

 

「何度も確認しますが、ここから先は違法行為です」

 

「はい」

 

「もし、アレでしたら私ひとりの独断でやったということにでも」

 

「却下です、もしものときは私も罪を被ります。そもそも私が言い始めたことですし」

 

 今からやるのは、明石さんも言うとおりれっきとした違法行為だ。

 それは、装備の違法改造。許可の範疇を超えた改造を執り行うことだった。

 

 吹雪たちは駆逐艦だ。彼女たちが持てる装備には限りがある。今はふたつの装備を持つのが限度といったところ。明石さんいわく、練度が上がって改装をすればみっつくらいなら持てるらしいが、攻撃用の兵装として主砲や魚雷、攻撃を補助する電探、対潜水艦用の装備である聴音機や探信儀といったソナー装備、そして保険としての応急修理要員。積載オーバーだ。

 

「まず、主砲にソナー装備をくっつけるというものですよね」

 

「はい。おそらく一番要求値が高いのは対潜水艦用の装備です。敵が潜水艦であると想定される以上、対潜装備は可能な限り優先させたい」

 

「まあ、その気持ちはすごいわかるんです。私もはじめはそう思ったんですよ。でも、ソナーってその都合上……いえ、言ってるだけじゃダメですね。やれるだけやってみましょう。幸い、トライアルアンドエラーをしていられるだけの資源には恵まれてますから」

 

「よろしくおねがいします。あの、僕に手伝えることがあれば何か」

 

 このまま明石さんに全部やってもらってばかりというのはさすがに忍びない。だからといって僕にやれることがあるかと聞かれれば、少し怪しいのだけれども。

 

「そうですね、提督には何か他の装備案でも出しておいてもらおうかな……、いえ、やっぱり妖精さんを集めてもらってもいいですか? 彼女たちは気まぐれで、いちおう私の言うことも聞いてくれるときもあるんですけど、提督から言ってもらえたほうが確実ですし」

 

「わかりました」

 

 そう言われ、僕は周囲を見回す。少し探すと、容姿こそ人間とさして変わらないが、手のひらに乗りそうな大きさの、小さなかわいい姿を見つけることができた。

 

「妖精さん妖精さん、今手の空いている妖精さんを集めてもらってもいいかな?」

 

 この小さな人間こそ、明石さんに頼まれた妖精さんである。

 

「〜〜〜〜!」

 

 なんて言っているのかはわからないが、きっと受領してくれたのだろう。ビシッと敬礼をしたのち、ものすごいスピードでどこかへ行ってしまった。

 妖精さんは鎮守府の至るところにいて、例えば艤装に、例えば工廠に、例えば入渠ドックに、各地に来て、そこで艦隊運用に関わり、手伝いをしてくれている。

 僕たち提督や艦娘には見えているが、普通は見えない存在らしい。そのせいか彼女たちがいったいどういう存在なのかはほとんど明らかになっていない。

 だけど、きっといい人なのには変わりない。あとかわいい。

 

 しばらくするとひとり、またひとりと工廠に妖精さんたちが集まってきてくれる。夜だから仕事のない妖精さんも多かったのだろう。瞬く間に超大量の妖精さんが集まってきた。

 

「提督……やりますねえ……」

 

「正直に言ってくれてもいいよ、こんなに呼ばなくても良かったって」

 

 あからさまに明石さんの表情が困っていることを物語っていた。笑ってこそいるものの、それは苦笑いと呼ばれるたぐいの笑いで。

 

「まあ、仕事なら山ほどあるからなんとかなりますよ。さて、妖精さんたち、準備はいい?」

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 

「よしよし、元気ね! それじゃあ……」

 

 明石さんがテキパキと妖精さんたちに指示を出していく。全員に割り振ったところで、明石さんはこちらを向いて、

 

「それじゃ、提督は私の手伝いでもしてください」

 

「え? あっ、はい!」

 

 ニッコリと笑って、明石さんがそう言ってくれる。くるりと反対を向くと「こっちです、ついてきてください!」と、どこか楽しそうに歩き始めた。

 

 こんな楽しそうな明石さん、初めて見た。

 

 僕がびっくりして、そして、嬉しくって。思わずその場で立ち止まっていると「ほらー! こっちですよ! 早く来てください!」と明石さんに呼ばれ、慌ててついていく。

 

「提督、どの工具がどんな名前かとか、そういうのはわかりますか?」

 

「ええっと、……自信はないかな」

 

 ドライバーとか、スパナとか、有名なやつならわかるけど。

 ザザッと工具が置かれている場所を見てみれば、全くもって知りもしないようなものもたくさん置かれていた。

 

「そうですよね。まあ多分大丈夫です。そうですねえ、それじゃ」

 

 明石さんはそう言いながら、彼女の近くにいる妖精さんをひとり、その手に乗せた。

 

「この子に手伝ってもらいましょう。この妖精さんはいつも私の手伝いをしてくれている子なんで、もしわからないことがあっても、この子に聞けばだいたい解決すると思いますよ」

 

 僕は明石さんの手にいた妖精さんを受け取る。

 

「ありがとうございます。……よろしくね、妖精さん」

 

 妖精さんにそう言うと、手のひらの上で僕の顔を見ていた彼女は、胸を張って、フフンとドヤ顔をした。これは頼もしい。

 

「さて、それじゃあ改めまして、始めるとしますか」

 

「はい。あの子たちのためにも、よろしくお願います」

 

「何を言ってるんですか。みんなのことが大切なのは提督だけではなく、私もなんですからね」

 

 そうか、……そうだな。それも、そうだ。

 

「だから、もう少しくらい頼ることを当たり前に思っても、いいと思いますよ?」

 

「……努力はしようと思います」

 

 それ、結局はしない人のセリフですよー。明石さんにそう言われてしまった。

 頼る、か。……今でも十分頼り切っている気もするんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だああああああああああ! またダメだ!」

 

 さてはて現在時刻は四時すぎ。そろそろ遠くの空が白み始める。

 

「すみません、無茶なこと言っちゃって」

 

「いえ、提督は悪くないんですよ。どのみちこの改造は必要になるようなことですし。それよりも提督、そろそろ寝ないと身体が持ちませんよ?」

 

「その言葉、そのままそっくり返しますよ?」

 

 ここまで、休憩こそしていたものの寝ずで作業を続けてきた。明石さんの言葉にそう強気に返してはいるものの、結構キツいというのが本音だったりする。

 

「私は艦娘なので、これくらいならまだいけます。でも提督は……、それにあんまり体調が優れないようだとあの子たちに勘付かれますよ?」

 

「ぐっ……それもそうか」

 

「わかったら、早くお休みになられてください。とはいってももうあまり時間もありませんけど、全く休まないよりかはマシでしょう」

 

「わかりました。……明石さんもちゃんと休んでくださいね?」

 

 それならば、と。僕はそう彼女に言った。

 

「うーんと、まあ、努力はしようと思います!」

 

「それ、さっき自分で結局しない人の台詞って言ってましたよね?」

 

「あははは、……まあ、私ももう少しだけやったら休みますんで、心配せずに。それよりもご自身の心配をしてください」

 

 明石さんが、そう優しく微笑みかけてくれた。その笑顔の奥に、少し疲れが見えてはいるのだが、これ以上僕がここにいたら、彼女は余計に休もうとはしないだろう。

 明石さんの、もう少ししたら休むという言葉を信じて、僕は工廠を出ることにした。

 

「おやすみなさい、明石さん」

 

「はい、少しの間だけですが、おやすみなさい、提督」

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