かちゃかちゃ、と食事の時間に電話を教えるコールが鳴り響いた。
誰から?と聞かれ、知らない番号……とナナミに答えた。ピピピピピ長い着信音にすみません、と断ってからポケナビを取る。
「はい……」
〔リクさんですか!?〕
「はあ…どちらさまですか…?」
〔あぁ、私ホウエンの――……〕
カタン、席を立ち目を配らせたリクは「ちょと向こう行くね」うっすら笑いポケナビ片手に扉の外に出る。
取り残されたグリーンたちは顔を見合わせた。どうかしたのか、と首を傾げたグリーンがオーキドに尋ねる。
「何かあるのかじいちゃん」
「詳しいことは分からんが」
あの子にもいろいろあるんじゃよ。後ろを向いて扉の向こう側にいるリクを一度目の端に入れてからグリーンに言う。
「いろいろ、ねぇ…ってああ!?レッドお前俺の分食ってんじゃねーよ!ちゃんと用意しただろ!」
「…………」
「だあああ!食うなって!」
「ふふ、まだあるわよゆっくり食べてね」
レッドとグリーンにお茶を差し出し席に着いたナナミにレッドは頭を下げ、グリーンはさんきゅ、と受け取った。
「それにしても長いな」
「様子見てきましょうか?」
「いや、俺が行ってくるよ」
ズズッと音を立て飲み干した湯呑み置き、席を立ったグリーンに茶々いれたら駄目だからね?と注意を促した
今日帰ってから話題となった報告書の他に手紙を読んだ。ホントにあるんだ…、と思いながら二枚目を読み進めたときリクが生まれたことが書いてあった。
その時どうしてこの手紙を今まで読まなかったのかぐっと堪えるように唇を噛み締めて。3、4枚目には喋れるようになった。立てるようになった。リクの事で手紙が埋まっていた。
リクが言ったように半年に一度のペースで送られてきてたようで読み進めていくうちにリクの字と思われる、少し歪な字が1枚を大きく埋めていた。もう1枚にはリクが初めて書いた字、なんて前置きがあった。
おにいちゃん、おねえちゃん
リク、おっきくなったんだよ
はやくあいたいなあ
短く、大きな字で書いてあったそれに思わずリクを抱きよせた。5年前のその字で精一杯自分の思いを伝えようと両親から聞いたであろう俺や姉さんの存在に夢を膨らまして、思い描いていたんだろう。楽しい家族の光景を。
読み進めれば気になった内容が目に止まった。
まいなんがうまれたよ!
リクのいちばんのともだち!
マイナンとたびに出るね
しばらくお手紙かけなくなります
本当に8歳で旅に出たリクに驚きが隠せなかった。もし、自分がその場にいたら否応なしにリクを止めていたはずだ。いや、自身も旅に出ていたのだから結果としては無理なわけだったのだが
「わかってます、はい…しばらくはやりたいことがあるので…」
〔……―す―が!〕
「問題ないです、彼らは放って置いてもらって構いません」
なんの話をしているのだろうか。先ほどの考えを吹き飛ばすほどリクは冷静に言葉を紡いだ。俺がここまで来たことに気がついていないようだ
「大丈夫ですから」
ピ、と最後に一言だけの台詞を言い残してポケナビの終話ボタンを押し踵を返したリクと目があった。伏せ気味だった大きな目はこれでもかってほど見開いていて。瞠目しているのが一目瞭然だった。
「迎えに来たぜ」
「…………ん。」
手を出せばしっかりと手を取り掴んでくれるこの小さな子に今は愛しさを噛み締めて、もう暫くはこの静かな一時を願い望む。
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「なあリク、これからどうするんだ?」
あのごたごた騒動があった日から3日…研究所で手伝っていたとき、本当に何気なく、グリーンに言われた台詞に、決めてあった言葉を紡ぐ。
「私、やりたいことあるから明日には出ていくよ」
「ふーん…っては!?明日!?」
「明日ー」
「ずいぶん急じゃね?」
特に急だったわけではないので首を横に振る。私のわがままで手持ちたちに負担をかけてしまったわけなので今度は手持ちたちに楽しんでもらいたい。
「ポケスロン行ってみようかと思うの」
「ポケスロン?ってあのコガネにある…」
「そうなの!ウインディが出たいっていってたから!」
嬉しそうに年相応にはしゃぐリクにグリーンはそっか、と一度カラリと笑って頭を撫でた。
「すぐ頭撫でる…」
むすぅーと眉をしかめて払うように手を避け、髪を手櫛で整えるリクに声を出して笑う。そんなグリーンにフイと顔を背け不機嫌そうに書類の整理を再開させた。なんどか声をかけるが無反応。
「レッドに言ってかないのか?」
「……レッドさん?」
「ここまで連れてきてもらったんだろ?」
「後で言っとく。」
ふにゃり、と表情が柔らかくなり頷くリクにまた一波乱起こりそうな予感を感じたグリーンだが何も言わず、ただ、この今決めた久々の有給を妹とどのように過ごすか考えることだけに思考を巡らせた。
(…兄さん、ジムは?)
(休み。どっか出掛けよーぜ)
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