きりたんはずん子と一緒に帰り道を歩いていると思い出したように口を開ける。
「あの、ずん姉さま、音街はアイドルの話をされるのはあんまり好きじゃないみたいなので、気を付けてもらってもいいですか?」
「え、そうだったの?だったら次から、気をつけるね」
ずん子は悪かったな、という思いをそっと心の底に置き、それにしても、と言ってすぐに切り替えた。
「音街ちゃんに優しいんだね。きりたん」
ときりたんの顔を横からのぞきながら、ずん子は微笑んで褒めるように言った。
「なっ!?別に、音街は、その・・・、私の・・・」
友達ですから、と息でも吹きかけるようにきりたんは言い、ずん子とは逆の方に視線を反らしたり、ランドセルの肩ひもを強く握ったり、髪飾りがずれていないかとわざと手を頭に伸ばしたりしていた。その様子を見ながら、ずん子はきりたんらしい反応だと思い、微笑んでいた。
「そういえばさ、きりたん、音街ちゃんにちゃんとお礼は言った?」
自宅に着き、ずん子が玄関の鍵を開け、扉をカラカラカラ、と開けた時にずん子はきりたんにそう問いかけた。
「何のお礼ですか?」
きりたんは開いた扉から中へと入りながら、聞き返した。
「せっかく、友達になってくれたんだからね。お礼を言わないと」
ずん子ときりたんは脱いだ靴を靴箱の中に入れた。
「今まで、そういう子いなかったでしょ?友達になってくれてありがとうって」
ずん子はきりたんと横並びになって廊下を進みながら、礼儀を重んじるというよりも、きりたんの気持ちを後押しするように言った。
きりたんは背筋が軽く伸びたように感じた。後ろめたい気持ちはないはずなのだが、痛いところを突かれたような、それに近い心情の動揺があった。そのため濁すように、分かりましたと形式的に了解をした。
いつものようにきりたんはその後、宿題をやり、ゲームをやり、夜になるときりたんは布団の中に入った。布団の中でお礼か、と呟き、お礼を言える状況を考えていた。
一番無難なのは下校の時だけど、どうやって切り出そう。じゃあ、昼休みとか?隣のクラスに行くのはちょっとなぁ。家に遊びに来た時は?もう少し早く言いたい。あぁ、明日は体育の授業だ。嫌だなぁ。うーん、水奈瀬先生は優しいし、いつもみたいに見学すれば・・・。
頭の中が翌日にやる体育の授業のことに変わり、その内ゲームのことに思考が変わり、きりたんは寝てしまった。そして翌日の朝、ずん子のきりたーん、朝ご飯出来たよーという呼びかけで、布団をどかして起きた。だが、すぐに、あれ?と昨夜の思考の切れ端を追い、思わず沈黙した。