さて、話は変わりますが、漸く出ましたね!公式しきあすのMV!バベル!かっこよ尊い‼︎Bメロの感受性のところちょっとタメが入るのホントすこ。かっこよすぎだよホント。
「まじ、か……。」
朝8時40分。今朝の長い、永い悶絶の後、俺は玄関に立ち尽くして、暗い、昏い絶望の真っ只中にいた。生まれるのは焦りと不安。それは送風機に括り付けられた風船の様に、どんどんと膨らんでゆく。
「どうしよ。これほんとどうしよ……ドア、開かないんだけど。」
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これほんとどうしようか。さっきからそう思わずにはいられない。だってドアが開かないんだもん。仕方ないじゃん。
ドアの建て付けが悪い……訳じゃ無いと思う。何せこの大企業の新築寮だ。扉が開かなくなるなんて事はないだろう。それに、動かない、というよりは、何かがドアの前で突っかかってる感じ。とでも言えばいいのか、ドアを押すと、ドアが何かに押さえられている感じがするのだ。それに、その感覚はなんだか柔らかい。例えるなら、シリコンのブロック……みたいな感じ。多分。とにかく押す感触が柔らかいので、前にいるのが動物だったりすると、とか思うとあまり強く押せないのだ。怖くて。電話で助けを呼ぼうにもそもそもスマホが無いので連絡手段が無く、お隣に助けを呼ぼうにもそもそもドアが開かないから困ってるのであって、しかもここの寮無駄に防音なのでいくら壁を叩いても向こうには聞こえない。いや別にアイドルにもプライバシーはあるんだからむしろ防音でいいんだけどね?……まぁとにかく。長々と考えたがやっぱ詰みだ。どうしょこれ。
念の為早めに支度をしていた為、まだ時間に余裕があることだけが不幸中の幸いだろう。しかし残された時間は少ない。どうにかしないと俺は初日から遅刻である。そうして遅刻魔のレッテルが貼られた俺は、間違いなく
俺はベットの上から昨夜五十嵐に貸して貰った目覚ましを手にする。それを1分後ににセットし、玄関ドアの前に持ってきてじっと待つ。これが鳴って何か反応があれば多分生き物だってことになるだろう。
そして数十秒後、その可愛らしい目覚まし時計から、ヂリヂリとけたたましい音が鳴り始める。
これで生き物かどうかわかるだろうが……どうか?
待つこと数十秒、未だ煩く鳴り響く音の中、未だ反応は無い。ダメ押しで鍵を閉めてドアをガチャガチャしてみる。けたたましい音と身体を揺らされる衝撃の二重攻撃。こんな寝づらい環境だ。もしここで動物かなんかが寝ていたとしても、流石に起きるだろう。
……いくら経っても反応が無い。まぁここまでやって反応が無いんだったら多分俺の勘違いだったんだろう。大分こじつけっぽいが多分誰かがここに重い荷物を置いたまま帰ってしまったんだろう。傍迷惑過ぎる話だが、多分もうちょい強く押せば退けられるか。もうそろそろ時間も押してきてるし、とっとと済まs『ドンッ』
「うおぅっ⁉︎」
いきなりの衝撃音に驚いて変な声を上げると同時、慌ててドアノブから手を離した。そのあとドアの向こうから微かに音がしたので、おっかなびっくりドアに耳をつけてみると、ドスの聴いた低いうなり声が聞こえた。
「あっぶねぇ……。」
ほらやっぱりだよッッ!やっぱりいたぁ‼︎あっぶない!あっぶないよマジでぇ‼︎あと少しで動物虐待になるとこだったよ!ほんっと怖いなぁ⁉︎
と、とりあえずドア開ける前に気づけてよかった。そうなると向こうから起きて退いてもらうしかないか……。
という事でまた目覚ましドアガチャコンボを決めていく。そろそろ時間がやばいから早く起きてくれ。ほんとに。
またしばらくガチャガチャとやっていると、ドアの向こうから声が聞こえてきた。動きを止めて耳をすますと、向こうの会話が聞こえてきた。
「なんだろ。隣から音が……ってシキちゃん⁉︎なんでこんな所で寝てるの⁉︎起きて!ほら起きてっ!」
「●☆¥%〒*……」
「駄々っ子言わないの!ほら起きてってば!」
今の声は五十嵐だろうか。俺が出したサイン(?)にようやく気付いて貰えたらしい。ついでに内容は聞き取れないが、知らない女の子の声も聞こえた。どうやらドアを塞いでいたのは“シキちゃん”なんていう女の子?らしい。いやどこで寝てんだよ。怖えよ。開けてたらマジでドアで引くところだったじゃねぇか。
「比企谷さーんっ!もう開けて大丈夫ですよーっ!」
あと少しで人の子に怪我させるとこだった恐怖にまた固まっていると、五十嵐から開けて大丈夫とのこと。今度こそ安心してがちゃりとドアを開ける。
「おはようございます比企谷さん!」
ドアの前にいたのは、やっぱり五十嵐と、五十嵐に抱えられたまま眠っている癖っ毛ロングの女性だった。因みにやっぱり美女さんです。知ってたけどレベルたっけぇなこの事務所。
なるほど。この人が“シキちゃん”か。なんかどっかで見たことあるな。
「おう。マジでさんきゅな。助かった。あと少しで傷害罪になるとこだった。あとこれ。目覚ましありがとな。こっちも助かった。」
「あはは…………確かにちょーっと危なかったですね……あっ、ありがとうございます。ちゃんと起きれたみたいですね。えっと、ともかく比企谷さんがあらぬ罪を着ることにならないでホントに良かったです。あの、ところで、比企谷さんは今からお仕事ですか?」
「おう。今日で初出勤だな。そいつのおかげで中々焦ったが。」
当の本人が眠ってる側で2人で苦笑し合う。するとどこからかコール音が鳴り響いた。多分誰かのスマホだろうか。
「あっ!すいません私です!出ちゃってもいいですか?」
「ん?お、おう。」
どうやら音の発信源は五十嵐だったらしい。俺の返答にありがとうございますっ!と言ってからスマホを取り出す。この歳でこういう事が出来るって……やっぱええ娘やわぁ……。
「はいもしもし!……はい。響子です。フレデリカさんどうかしました?……はい。……えっ?シキちゃん?ここにいますけど…………えぇっ⁉︎失踪した⁉︎もうすぐレッスン⁉︎……え?連れてきて?わ、わかりましたっ!って言ってもどうしよう……私これから外せない用事があって事務所に行けなくて……。うーん……あっ!」
そう言って“思いついた!”って風な閃いた表情でこちらを見た五十嵐は、その期待で輝いた目をこちらに向ける。
「すいません比企谷さんっ!シキちゃんもうすぐレッスンなんですけど、失踪してたらしくて……。このままだとシキちゃんレッスンに遅れちゃうんです。できるなら私が送って行きたいんですけど……私、これから外せない用事があって手が離せないんです……。なのでシキちゃんも一緒に連れて行ってもらえませんか?」
そう言って五十嵐が頭を下げる。もちろん断る理由は無いし、二つ返事で引き受けた。にしても、レッスン前に失踪て。この業界って時間にシビアなんじゃないの?
「ありがとうございますっ!お願いします比企谷さん!」
「とりあえずこいつ起こすか。」
「はいっ!」
しかしいくら声をかけて揺さぶってもピクリともせず、スヤスヤと眠っている。……というかさっき起きてたよね?なんで?まさか今の十数秒で寝たの?その体制で?の●太君かよ。
「……起きないな。」
「……はい。」
「というかもっかい寝たな。」
「……そうですね。」
「これどうしようか。」
「…………おんぶする?」
「いやそれ大丈夫なのか?叩かれない?」
「大丈夫ですよ!だってここから会社の裏口まで凄い近いじゃないですか!しかもほら。人通りも少ないし大丈夫ですよ!…………多分。」
「多分ついちゃうのかぁ……。」
「でももう時間ギリギリなんですよ。今から人を探して頼んでもレッスン始まっちゃうし……。」
時間を確認すると8時50分。俺もそろそろ行かないとまずい時間だ。あそこ建物でかいから迷いそうだし、できるだけ余裕を持って行きたかったんだが。
「背に腹は変えられない、か。」
「比企谷さん?」
「五十嵐。ち、ちょっとおぶるの手伝ってくれ。」
「あ、は、はいっ!」
五十嵐に助けてもらって、シキちゃんをおぶる。まあまあな高身長の割に思ったより軽くて少しだけ驚くが、運動なんてしてきていない自分には十分重く、ちゃんと事務所まで運べるか不安になってくる。いや、それもあるけど、正直いうとですね。この娘おぶると、その、当たられるんですよ。お山様が。はい。柔らかいですねありがとうございます。心臓バックバクですよ。えぇ。まぁ、一度受けてしまったとこだし、一応頑張れば色々と我慢できる程の距離だとは思うし、ちゃんと運ぶのだが。
「じゃあ、とりあえず行ってくる。ありがとな。」
そう行ってから、五十嵐に背を向けて歩き出す。おぶってしまった以上、一刻も早くこの娘を運んでこの幸せな地獄から解放されたい。持ってくれよ。俺の理性と心臓……!
「比企谷さん!行ってらっしゃーい!」
その言葉に思わず振り返ると、五十嵐が手を振っていた。何日かぶりに見られた光景に、感じていた緊張も忘れて思わず頰が緩む。
「……おう。」
そう返事をしてから、今度こそ踵を返して歩き出す。
もうされることは無いと思っていたから、嬉しくて少し泣きそうになったのは、恥ずかしいから墓まで持って行こう。
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「んぅ……。」
寮のエレベーターを降り、エントランスに差し掛かったところでシキちゃん……あれ、呼び方これでいいのか?まあいいや。だってこれしか知らないもんね。仕方ないね。ということでシキちゃんが声を漏らした。
「お、起きたか?」
「んにゃぁぁ……。シキちゃん、おきてませーん。ねたまーす。」
思わずポロリと出た言葉に、やっぱり起きてたのか、シキちゃんが反応する。しかし反応されるのは予想外だったので、軽くどころか凄く驚いてしまう。
「うぇ⁉︎あ、えっと。えー……いや、寝ないでください。」
「くふぁぁぁ……。じゃあおやすみー……。」
「ちょっ⁉︎また寝ないでください!歩いて⁉︎自分で歩いて⁉︎」
「もー。うるさいぞー。シキちゃん怒っちゃうぞー。……なーんてにゃ。あははっ!ウソウソ。だからそんな怖い顔しないでよー?もう降りるからー。」
やっと俺から降りてくれることになった。やっと解放されるとわかってか、なんだかどっと疲れてはぁ、と嘆息する。
「あららー?もしかしてお疲れかな?どうするどうする?サボっちゃう?失踪しちゃう?」
「いやサボんないでくださいよ。あと失踪もしないですよ。とっとと俺から降りて歩いてください。俺が仕事に遅れる。」
なんかもう、この人フランク過ぎて緊張とかどうでもよくなってきた。外だけ見りゃなんかもう凄いくらいの美人なのに。なんかもう色々と台無しだよ。
「もー仕方ないなー。キミの匂いもうちょい嗅いでたかったのになー。降りてあげるよまったくもー。プンプン♪」
「俺今まで生きてきて理不尽なこといっぱいあったけどここまで理不尽で楽しそうなプンプン生まれて初めてだわ。」
「お?じゃあシキちゃんはキミの初めてを貰っちゃったのかな?
……とうっ!」
なんか物凄く誤解を生みそうなことを言いながらシキちゃんが俺の背から飛び降りる。
「おわっ⁉︎っと。なんで跳ねるんですか。危ないじゃないですか。普通に降りてください普通に。あと変なこと言わないでください。」
「にゃははー♪あり?んー……あーなるほどなるほど。キミは昨日の実験の子かー。道理でちょっと薬の残り香が。」
じっと俺を見つめて数秒、妙に納得した顔をしてさらっととんでもないことを口にするシキちゃん。
「あの?実験ってなんですか……ってあちょっとっ!」
「にゃははははは!シキちゃんしゅっぱーつ!」
「ねえちょっと⁉︎実験ってなんなんですかぁ⁉︎」
こうして、俺たちたった2人での謎鬼ごっこは開始された。