目の腐った青年はシンデレラ城に迷い込む   作:なめ!

18 / 25
どうも。最近見たい映画がありすぎて金欠気味の筆者です。バンドリ フィルムライブ楽しかった!


15話

「なーごめんて奏ちゃん。許したってやー。」

 

「……いいわよ。別に恥ずかしいだけだからそんなに怒って無いもの。でも今はちょっと放っておいてくれるかしら。……ねぇ志希、私ちょっと真面目に言ってるの。こういうの煽りたい気持ちは分からなくもないけど今は目の前をうろちょろするのやめてちょうだい。」

 

「……んにゃ。わかった。ごめんねー?」

 

現在、不貞腐れた速水さんは部屋の隅に体育座りで顔を隠してじっと固まっている。いや、今の感じだと不貞腐れた、というよりは恥ずかしくて顔を上げられないのだろう。なにそれ可愛い。

 

え、俺?いや、ほら、俺はこういうのは慣れてるし……ね?

 

「比企谷君もごめんね?」

 

「あ、いえ。」

 

城ヶ崎さんに謝られたが、

『大丈夫だよ全然気にして無いから!これも何かの縁だ!もしよかったらLINE交換しない?』

なんていうイケメンムーブなぞする義理は無いし、そもそもそんなことできはしないので適当に返事を返す。

 

「あの3人が比企谷君を誘拐したって聞いて、ホントに気が気じゃなかったよ!それ犯罪じゃん!って思ってさ。あの時はほんっとうに怖かった。」

 

「本当にお疲れ様です……。」

 

「ホントだよー。あの3人の相手スッッッゴーく大変なんだよね。大体誰かしらなんかやらかしてるし。奏は3人がやりすぎた時しかなーんも言わないんだもん。まぁ、偶に奏が注意してくれるから何だかんだ大事な時に何とかなってるんだけどさ。でも少しくらい助けてくれたってよくない?この前だって……」

 

言い出して愚痴が止まらなくなった城ヶ崎さん。俺みたいないつでもどこでもカースト底辺の俺に自分から話しかけてくる様な優しいというか、いい人なだけに、その奥にいる人達のヤバさを改めて思い知らされる。

 

「……あ。ごめんっ!愚痴っちゃった!比企谷君には関係ないのに、嫌だったよね。ごめんなさいっ!」

 

「あ、いや、大丈夫です。おかげで奥の人たちのヤバさはよくわかったんで……。」

 

というか城ヶ崎さんは謝らなくていいと俺は思います。いつも色々とお疲れ様ですとしか思えない。

 

小さな思考の後、俺は奥の誘拐犯グループ3人にまた目を向ける。今のところは速水さんがうずくまってしまったからかまだ大人しい

 

……と思ったら速水さんを慰めるのに飽きたのかまた3人でふざけ出した。取り敢えずこれ以上ふざけるなという意味を込めてこの世の中の理不尽全部諦めて世間って言う菌に侵されて死んでるみたいな腐った目(他称)で訴えておく。ちょっと困った顔で手でばつを作った後まるで仕方ないとでも言うような笑顔で手を振って返された。違うよ?俺お前らのファンじゃないよ?高垣さんのファンよそこんとこわかってる?ねぇこれ俺の念届いてる?特にあの失踪系ヤク中超フリーダム猫(作る方)。いい加減反省をしろ。一応俺より年上なのにもうそういうのどうでもよくなってきたぞ。

 

「あ、あはは……ウチのバカ共がゴメンね…………あとでキツーく言っとくから。」

 

俺が強く睨みすぎていたからか、城ヶ崎さんが俺にまた謝ってくる。今あんた本当にイマドキのJKキャピキャピギャルなのかと思ってしまった俺は悪くないと思う。だってオカン属性が強すぎるんだもん。代わりに謝るって何?お母さんじゃん。流石ミカママ。てか、ちょっと疲れてきたなぁ……。この後まだ仕事あるのに、体力持つかなぁ……。

 

「あ、お願いします。その時は俺も混ぜてください。俺も言いたいことがいくつかあるので。」

 

「あ、まだあったんだ。」

 

「ええ。あといくつかですけど。それにあの3人のツッコミ全部任せちゃうとか流石に悪いですしね。」

 

「あ!それは助かるから是非!今慢性的なツッコミ不足なんだよ!ほんっとにありがたいや!よろしくお願いします!」

 

「え?まさかあの疲れるのを1人で……?」

 

「ううん。私とLippsのプロデューサーと2人で。それでも結構ギリギリでさ。や、それでもみんなといるだけで結構楽しいんだけど。」

 

楽しい、か。

 

確かに、あの人達といるのは刺激的すぎて退屈にはなれないんだろうな……。振り回されて、怒られて、また振り回されて。それはきっと、退屈になる暇なんて無いんだろう。

 

「……まぁ確かに、悪くは無い……のかもしれませんね。」

 

「うん……。」

 

そう言って城ヶ崎さんは視線を奥へと見やる。その彼女の眼は優しくて、まるでやんちゃな妹たちを見守る姉の様だったってちょっと待ってこれなんてデジャヴ?てかそんな時間経ってないのになんで連続でこんな事になってんだよ!屍出来ちゃいます?また屍出来ちゃいます?ヤベェなんとかしないと!

 

本日2回目の死亡フラグにひどく戦々恐々としながら奥の方を盗み見る。最悪の想定をしてどうやって死のうかとか考えながら見たが、それはどうやら杞憂だったようだ。奥の3人は未だにはしゃいでいた。見る限りではこちらの会話も聞いてはいないだろう。ほっと息をつく。ふと隣を見ると、城ヶ崎さんも気づいて同じ様に確認したのか、ほっと溜息をついていた。

 

「あ!そうだ!比企谷君番号交換しようよ!交換した方が便利だし、ツッコミ任せたい時にいつでも呼べるし!」

 

「えっ……と、あ、え?番号、ですか?」

 

「うん!ダメかな?アタシ的にはツッコミ任せられる人が増えればいいなって思ってるんだけど。」

 

「番号……番号⁉︎ばん……ヘァ⁉︎」

 

「うえっ⁉︎」

 

番号⁉︎ばばば番号交換⁉︎ど、どうしようどうしよう相手から交換申し込まれちゃったよ⁉︎しかも一切の躊躇なく‼︎……落ち着け。落ち着け八幡。まだ嬉しがっちゃダメだ。喜ぶのは今じゃない。顔に出すな。大丈夫。俺はやればできる子。YDK。普段はやらないだけ。断じてできないんじゃない。落ち着いて、冷静に。かまないで『じゃあ、よろしくお願いします。』だ。大丈夫。普通に会話をこなせるハイスペック・プロぼっちの俺ならいける。

 

「……はい。じゃあ、よろすくお願いしみゃっ…………あ。」

 

「ん?どうしたの?」

 

「……………………スマホ、壊れて持ってないです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………へ?」

 

目を丸くする城ヶ崎さん。ポケットに手を入れて気づいた。持ってない!スマホ持ってないよ俺!よろしくお願いします⁉︎ぶっ壊れて使えねぇから捨てたんだったよ!何そのアホの子丸出し回答⁉︎バカじゃねぇのバッカじゃねぇの⁉︎スマホの有無くらい覚えとけよバカヤロウ‼︎あぁ城ヶ崎さんの目が点だよ!気まずくなっちゃったよどうしよう⁉︎今そう言う空気は望んで無いよ!と、とにかく考えろ!考えるんだッ!何か、何かこの気まずい場をどうにかする方法を…………だめだァ!無理だよ俺空気を壊すとかそっち方面はよくやるけど場を取り持つなんてやったこと無いもん!あっ城ヶ崎さんが下向いた!終わったー!はい終わったー!やっぱぼっちには無理でしたぁ!はい残念でした!ああああぁぁぁぁ!

 

「あ、えっとその、これはー、その、」

 

「……っぷ!ふくくっ……あはははははっ!」

 

頭の中が半ばパニックになりながら必死にこの場をごまかす方法を考えていたら、城ヶ崎さんが堪え切れないと言った風に声を上げて笑い出した。

 

「えっ…………っと……?」

 

「だってさ!連絡先交換しようとしてスマホ持ってないよってっ……!しかも持ってないのを忘れる……っ!ふ、ふくく、フッ!すぅ……初めてだよそんなことっ!っくくっ面白すぎっ……!」

 

「へあ?」

 

てっきりドン引きされた冷たい目で結構ガチ目に罵倒された後、《電話を持ってないくせに電話番号を聞こうとする人のプライベートに意地でも入り込もうとする目の腐った不審者》って言う感じの不名誉な称号と一緒に後ろ指を指され続けることになるんだろうな、と思っていた俺は、心底面白おかしいと言うように大笑いされる予想外の展開に驚き呆然とする。

 

呆然としながら未だヒーヒー笑い続ける城ヶ崎さんに思わず気の抜けた声を上げてしまうが、すぐに取り直す。いや取り直して無いな。取り直すどころか、もっと取り乱して顔が熱くなる。

 

だって恥ずかしいんだもん!自分が結構思いっきり笑われて恥ずかしく無いわけないじゃん自覚したら誰でもこうなるでしょ⁉︎確かに想定した最悪の事態は免れたからいいんだけ……いや待てよ?これはまさか、中学生の黒歴史(言いふらされる)パターンじゃね?

 

『へー比企谷って香織に告白したんだー。香織可愛そー!』

 

『ハッ。比企谷なんかが折本さんと?釣りあわねぇに決まってんだろ?バッカじゃねぇの?』

 

『はーい俺比企谷の真似しまーす。え?好きな人イニシャルは……H.H.?え?……それってもしかしてさ、俺のこと?』

 

『『『『『ギャハハハハハ!!!!!』』』』』

 

走馬灯の様に思い出される過去のトラウマ。そんなとんでもないモノを見せつけられた俺は–––––

 

「あぁっ⁉︎もうこんな時間だ!俺そろそろ仕事なんで、じゃっ‼︎」

 

–––––とりあえず怖いので逃げる事にした。

 

「えっちょっ」

 

いきなりの事に城ヶ崎さんの反応が遅れる。その隙を突くように目の前のドアに向けてずんずんと歩く。目標3メートル。目の前のドアへと真っ直ぐに。一刻も早くここから出るんだ。この恥ずかしさから少しでも逃げる為に……!

 

しかし、人というのはここまで不幸が重なることがあるんだろうか。昨日で運を使い果たしたのかと、あの後結構本気で思った。いやまあね?昨日の時点でもう一生分の運使い果たしたなって思ってたけどさ。

 

足に何かが引っかかるのを感じて足元を見た途端、身体が勢いよく前に倒れるのを感じる。急いでまたすぐに前を向き直るが、時すでに遅し。既に目の前にはドアのドアップが映し出される。未だ加速している身体に俺は受け身すら取れず

 

「い"ッッッッッ⁉︎」

 

衝撃的な頭の痛み。チカチカと明滅する視界。衝撃に硬直する身体。

 

俺の頭は、止まらぬ勢いのまま、ドアに思いっきり衝突した。

 

…………オーケー。今の状況をもう一度確認しよう。ここは彼女らと同室。しきりなんてないからあちらの会話はこちらに聞こえるし、勿論、こちらの会話もあちらに聞こえてしまう。あちらのしていることはこちらも見えるし、こちらがしていることも見えてしまう。今この部屋はさっきとはまるで違ってしん。と静まり返っていて、更にドアの前に転がっている俺に5人の視線が突き刺さるのを肌で感じる。こんな致命的すぎる状態で今の失態を見られないなんて、そんな都合の良い話なんてあるはずもない。だから–––––

 

『ぷくっ』と空気が抜ける音が、奥から響く。

 

あかんこれ。そう思った時にはもう遅かった。自ら掘った墓穴から救ってくれる優しい神さまなんて、やっぱりどこにもいなかったんだ。

 

「「「「あっはははははははははははははははははははは!!!」」」」

 

ぶっ壊れたスピーカーの様に大音量で響く笑い声。きっと結構前の方から堪え切れないのを我慢していたんだろう。今までの溜めていたその胸の辺りのムズムズを、横隔膜の痙攣を、帳尻を合わせる様に思いっきり吐き出していた。あまりの恥ずかしさに絶望しながらもちらりと脇を見ると、さっきと変わらず膝に顔を埋めた速水さんが、耳を真っ赤にしながら肩を震わせていた。

 

あぁ。逃げたい。この場から一刻も早く抜け出したい。しかしきっと、これから俺は今の途轍もなく恥ずかしい失態の連続を目の前にいる彼女らに満足の行くまで散々に弄り飛ばされるのだろう。この状況の俺を助けてくれる優しい神さまなんてのは、いない。だから俺は目をゆっくりと閉じ、これから降り注ぐであろう大量の弄りに備えようと悟りを開く事にした–––––その時、突然目の前のドアが勢いよく開け放たれた。「比企谷君はここですか!」と、大きく俺を呼ぶ声と一緒に。

 

蛍光色のスーツを着た柔らかいシルエットに、快活な雰囲気。部屋の向こうから明かりが差して顔は見にくいが、寧ろそれがこの絶好のタイミングと共にその人の救世主感を引き立てていた。

 

きっと、きっとこの人ならこの状況から助けてくれる。やっと希望が見えた俺はこの時心底嬉しそうな顔をしていたと思う。やはり神はいたんだ!と、心の底から安堵し、感謝し、滅多にに無い幸運に無類の喜びを噛み締めながらその人の名を呼ぶ。その救世主(ヒーロー)の名を。

 

「ちひろさ……」

 

「やぁっと見つけましたよぉ!比企谷君♪」

 

……その人は救世主でもなんでもなく、額に青筋を立て、悪魔の笑顔をたたえた千川ちひろ。ただその人だった。

 

「就業初日に上司との約束と仕事をすっぽかすなんて、度胸ありますね比企谷君。いえ。そんな怯えた顔をしなくても大丈夫ですよ。あっちでゆっくりお話しましょうか♪モチロン、比企谷君も楽しめる楽しい楽しーいオハナシ。」

 

…………ほら。神なんて、いないじゃん。




ところで、結構今更なのですが今作プロローグの一部を8月31日に少しだけ修正させてもらいました。見返してみたら書き忘れてたところがあったので。些細なものですのであまり気にしないでください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。