目の腐った青年はシンデレラ城に迷い込む   作:なめ!

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3週間、長らくお待たせしてしまい、すいませんでした。今回は番外編、というか短編です。物語とは多分繋がらないと思います。


番外編
シンデレラ・ストーリー –––薄荷–––


ひゅうひゅうと、風を切る音が聞こえる。少しぬるめの5月の空気が肌に触れるのを感じながら跨るのは、彼が前に免許を取った2人乗りカブの座席。抱きついている彼の背中は、服越しでも優しい温かさを感じた。カブはエンジンの音を鳴らしながら、夜の東京を進んでいく。

 

今日はシンデレラガール総選挙––––346のアイドル総選挙だった。アタシは誰よりも期待しながら、そして、それと同じくらい、不安を抱えながら、この日に臨んだ。誰よりも努力した。あの舞台に立てるくらいの気概を持てる様に。自信もつけた。勝つのはアタシだ。(シンデレラ)になるのは、アタシだと、決意を秘めて、臨んだ。

 

結果は––––––2位だった。

 

喜ぶべきなんだろう。190人の中の2位だ。勉強やスポーツみたいに努力だけである程度までできるわけじゃ無い。自身のスペックやキャラ、取り巻く環境やコネ。果ては運や才能まで。いろんな要素が複雑に絡み合う。そんな過酷な戦いだ。その中での、2位。もっと嬉しがるべきなんだろう。誇るべきなんだろう。そう簡単に取れる順位じゃないのはわかっている。だから、みんなにはお祝いされた。おめでとう、と。凄い、と。でも、でも、アタシは、この順位を素直に喜ぶ事が、出来なかった。

 

この湧き出た感情を、アタシはうまく隠せただろうか?みんなには、嬉しそうな、それでいて少し悔しそうな、そんな顔を作って応えた。未央には、不敵な笑みなんてものを貼っつけて、次は負けない、なんてのたまった。気づかれて無いか、心配だけど……大丈夫。レッスンの中で演技の練習もしていたし、バレてない、筈。

 

「あ……」

 

そんなことを考えていたからだろうか。少し、ほんの少しだけ、彼の背中を強く抱きしめていたことに気づく。はっとして、気づかれない様に祈りながら、アタシは急いで、けれどゆっくりと、腕の力を抜いた。目の前に、赤信号が見えてきて、彼はカブの速度を落とす。ここで何も動作が無ければ、きっと気づかれてないだろう。

 

10秒。20秒。彼からの動作は無い。

 

–––30秒。赤信号が青に変わった。カブにまたエンジンがかけられる。加速しながら流れていく景色。街灯の光が線を引きながらアタシの目に届く。よかった。気づかれ、なかった。

 

アタシは今、どんな顔をしてるんだろう。わからない。から、顔を。今のアタシの顔を、彼にだけは、見られないように、しなきゃ。

 

そんなアタシを、アタシは酷く惨めに思えて、堪らずアタシは、彼の背中に顔を埋めた。

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

しばらくして、周りから聞こえてくる走行音があまり聞こえなくなってきた。彼の背に顔を埋めていて見えないが、きっと大通りから外れ、アタシの家のある住宅街に入っていったんだろう。

 

–––––少しして、ふと違和感。長すぎる。いつもならそろそろ家に着いている時間だ。しかし、カブのエンジンは未だ運動を止める気配が無い。多少の疑念を抱きながら数分が経過したところで、ようやくカブが減速し始めた。エンジンの鳴るテンポがだんだんと遅くなっていく。やがて、カブのエンジン音が消え、少しだけ前につんのめる。漸く家に着いたようだ。彼に出来る限り悟られないように、顔を作ってから、彼の背中から体を離す。

 

「–––––え……。」

 

顔を上げると、そこにアタシの家は見えなかった。薄暗くも、辺りを白く照らす街灯。数種類のカラフルな遊具に、3〜5メートルくらいの高さのある木々。遊びやすい様に平に慣らされ、軽く砂を敷かれた広場。手前端っこの砂場には、今日どこかの子供が作ったのか、砂の山が立ち、麓にはトンネルが掘られていた。ここには小さい、本当に小さい頃に何度か来た記憶がある。小さな敷地の中にいくつもの遊具が詰められたこの場所は、あの頃の私にとって、とても不思議で、楽しい場所だった。とても懐かしい、小さい頃は少なかった、外でできた、楽しい想い出の場所。

 

「公園……?」

 

そう。ここはアタシの家の近くの公園だった。

 

「ん?すまん。言ったんだが、聞こえてなかったか?ちょっと休憩したくてな。少しだけ、付き合ってくれ。」

 

なんて言いながら、彼は先に公園に入っていく。そんな彼を、アタシは慌てて返事をして追いかけた。

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

「ほれ。」

 

「ん。ありがと。」

 

彼からジュースを受け取り、近くのベンチに座り、アタシは、かしゅっと小気味いい音を鳴らして缶のプルタブを開ける。

 

「隣、失礼するぞ。」

 

そう言って、彼はアタシの隣にどっかりと座る。仕事の疲れからか、ベンチの背もたれにだらんと体を預けて缶コーヒーを開ける。「ここにもマッ缶がねぇ。やっぱどこにも無いなぁ。今度本格的に探そうかなぁ。」なんて少しだけ不貞腐れた様に呟く彼を見て、思わず苦笑してしまう。

 

「またマッ缶探しするの?」

 

「ん、あぁ。めんどいが、俺には死活問題だからな。何が何でも見つけてやる。」

 

「ふふっ。なにそれ。」

 

そういえば、彼だいたい休憩時間に見つけた時はマッ缶飲んでるけど、身体大丈夫なのかな?……まぁ、毎日糖質たっぷりポテトジュースを飲んでるアタシが言えることじゃないね。

 

「おいやめろ。笑うんじゃない。俺がバカやってるみたいじゃねぇか。」

 

「いややってるじゃん。買い置きしてるんだからそれ持って行って飲めばいいんじゃないの?」

 

「……お前、天才か?」

 

「いやいやいや。」

 

自然と会話が弾んでいく。やっぱり彼は話しやすい。アタシ達アイドル相手にここまで会話を弾ませられるんだったら、もうぼっちじゃないんじゃないだろうか。

 

しばらく話をすると、ふいに聞き慣れたメロディが流れてくる。アタシのスマホの着信音だ。彼に断ってから電源をつけてアプリを開くと、お母さんからメッセージがあった。どうやら帰ってくるのが遅くて心配していたらしい。そういえば、帰り際に今から帰るとメッセージを送ってから送っていなかった。連絡不足に少し反省しながら、今彼と近くの公園にいることを伝えると、すぐに既読がついた。数秒後、“お楽しみに……d(^ ^)”と返信が来た。多分今日はそういうことではないんだけど、まぁいいか。

 

「誰からだったんだ?」

 

「お母さんから。連絡するの忘れてて、心配されちゃった。」

 

「そりゃ悪いことしちゃったな……。なら、そろそろ戻らないとか。」

 

「あ、いや、お母さんはお楽しみにって言ってたよ。」

 

「なにを言ってんだお前の母ちゃんは。」

 

「あはは……。」

 

思わず2人で苦笑する。うちのお母さん、基本的に優しくていい人なんだけどな……。

 

「なぁ加蓮。ちょっと話し変わるけど、いいか?」

 

「え?うん。」

 

彼はあっちで言えなかったからな、と少しだけ、バツが悪そうに前置きをして、言った。

 

「総選挙2位、おめでとう。加蓮。今回も惜しかったが、次はお前が一番有利だ。この調子で行けば、シンデレラガールになることは可能だ。だから、これからも、その、一緒に頑張っていくぞ。」

 

「っ……。」

 

彼からの祝福の言葉。嬉しくなる筈の優しい言葉。でも、それはアタシの胸に鋭く突き刺さる。胸のあたりがじんわりと、しかし強く痛む。今日だけは聞きたくなかった。彼の優しさに、触れたくなかった。

 

「……うん!悔しいけど、まだ次があるよね!これからも、よろしくね!」

 

無理矢理に作り笑顔を貼り付ける。でも、きっとアタシは彼を騙せてないんだろう。だってほら、やっぱり彼は少し困った様に目をそらした。もしかしたら、最初から気づいていたのかもしれない。きっと今も、アタシなんかを励ます方法を探してくれているんだろう。彼はそういう人だ。ぼっちで、人をよく見てて、そして何より、誰よりも、優しい人。彼のその優しさに性懲りもなく頼ろうとしてしまう。そんな自分が、どうしようもなく嫌になる。

 

「じ、じゃあそろそろ時間だし、アタシかえ……」

 

「加蓮。」

 

話を切り上げようとしたアタシの声は、アタシを呼ぶ彼の声に、かき消された。

 

「……何?」

 

彼は少しだけ躊躇った後、意を決した様にこちらを向く。

 

「その、すまん……。」

 

そう言うと、彼はアタシの方に手を出す。それに思わず身構えて、ギュッと目を瞑る。

 

ぽん。

 

「…………え?」

 

何かの温かさと少し柔い感触を頭上に感じる。あ、あれ?あ、アタシ今何されてる?な、なな、なにこれぇ⁉︎

 

「え?あ、えうぅ……。」

 

自分が今一体何をされているかわかってしまって、一瞬でキャパオーバーを起こしてしまう。頭上に感じる感触は、彼の大きな手の平だ。優しく動かされるそれは、とても心地よい。

 

まぁ、要は頭を撫でられてるのだ。アタシの好きな人に。

 

こんなことは初めてで、そんな状況で冷静さを保っていられる筈も無く、アタシは顔を赤色爆発させる。これで顔を赤くしない人がいたら教えて欲しい。

恥ずかしい。恥ずかしすぎる。撫でられた心地よさとか一瞬で忘れてしまうくらい。

でも、どうしてだろう。僅かに、僅かにだけど、心の奥に温かさを感じる。それがなぜか、とても安心する。

 

2人揃って暫く沈黙する。その間にも、アタシの顔はどんどん熱くなっていく。

 

「……その、だな。」

 

流石に小っ恥ずかしい気まずい沈黙に耐えかねたのか、珍しく彼から口を開く。

 

「今日のお前を見てたらなんか妹を思い出してな。どうしても抑えられなかった。すまん。」

 

「う、ううん!大丈夫!ちょっとだけ恥ずかしいけど、全然気にしてないから!」

 

「じゃあ、もう少し、いいか?」

 

「う、うん……。」

 

意外にも、彼は撫でる手を止めなかった。それは、人との過度な接触を忌避する彼にしてはとても珍しくて、アタシは驚いてしまう。でもなんでか、もう少しだけ、この感覚を感じていたい。と、思ってしまう。

 

でも、これ以上は、いけない。ここで我慢をしなかったら、アタシは、また彼に寄りかかってしまう。彼の期待に応えられなかったアタシには、そんな権利は無いんだ。

 

しかし、そんな思考とは裏腹に、アタシの身体は、彼から離れられなかった。彼の手の温かさを、優しさを、もっと感じていたいと思ってしまう。

 

そうして何も言えないまま、10秒。すると彼は、おもむろに口を開いた。

 

「……俺はお前の家族でもプロデューサーでも無い。ただのバイトだ。正直お前が今回の総選挙にどんだけ想いを掛けていたのかは俺にはわからないし、わかるなんて言うのは傲慢だと思う。」

 

「え……。」

 

「けど、俺はお前がレッスンルームで遅くまで練習してたことを知ってる。靴底がすり減るまで踊ってたことも、喉が枯れそうになるまで歌ってたことも。普段の生活にも気を使って自分を磨いてたことも、辛い時にも無理して仕事してたことも。全部見てきた。こんなことやってんだ。お前が誰よりも無理して努力してきたことは誰でもわかる。」

 

「なん……で……。」

 

「俺は努力が嫌いだ。今迄どんなに努力をしても、ほとんどそれが成功したことが無かった。友達を作ろうとしても、帰ってきたのは忌避と嘲笑だけ。家族とも上手くやろうとして、結局家から追い出された。努力なんてしても、無駄だと思ってた。」

 

「けど、俺は夢に向かって後先構わず突っ走るお前らを、眩しいと思った。お前の無理した努力が、その、なんつーか、その、綺麗に思えた。」

 

「あた……し……。」

 

「トラプリはさ、全員、自分の感情を溜め込みすぎだと思うんだよ。それは俺もだし、今時そういうやつらの方が一般的だが。」

 

「別に誰彼構わず感情をぶつけろって訳じゃない。そんなことできないのはぼっちの俺が一番わかってる。俺は仕事の中にアイドルのメンタルケアが入ってんだ。だから、その……」

 

「難しい、とは思う。けど、嫌なことがあったら、辛いことがあったら、俺を頼ってくれ。迷惑だなんて思わねぇし、お前の沈んだ顔は…………あんま見たくねぇ。」

 

彼のその優しすぎる言葉は、アタシの胸を打ち、感情を抑えきれなくするには、十分なものだった。

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

「いやぁ。まさかハチ君があんなこと言ってくれるなんてね!」

 

家までの帰り道。彼の嫌いなトマトよろしく、顔を真っ赤にしながら無言を貫く彼をからかう。

 

「お前の無理した努力が、綺麗に思えた。」

 

「うぐっ⁉︎」

 

「お前の沈んだ顔は、見たくねぇ。」

 

「……殺してくださぃ……。」

 

「あはは!殺してあーげない!」

 

「はぁ……。鬱だ。死のう。」

 

「ホントに死なないでよ?一緒に頑張るんでしょ?」

 

「……わーってるよ。」

 

彼と投げ合う会話は軽い。それもこれも、全部彼のおかげだ。本当に、彼に出会えて、よかった。彼を好きになって、よかった。

 

そうして歩いていく内に、アタシの家が見えてくる。

 

「……着いたな。」

 

「……うん。」

 

家のインターホンを鳴らし、家の前の門をくぐる。

 

「……ねぇ。ハチ君。」

 

「なんだ?」

 

「今日はありがとう。本当に。また助けられちゃった。」

 

「……なんのことだか。」

 

「だからさ、ハチ君。いや、比企谷八幡君。」

 

しっかりと、彼を見据える。今度は、ちゃんと、不敵な笑みを浮かべながら。

 

「アタシ、絶対シンデレラになる。なってみせる!だからこれからも、一緒に頑張ってね‼︎」

 

「……おう。」

 

彼も、程なく返事を返してくれる。それが堪らなく嬉しくて、思わず顔が綻ぶ。

 

「じゃあ、バイバイ!」

 

「あぁ。じゃーな。」

 

玄関のドアを開けて、家に入る。目の前にはお母さんが立っていた。

 

「加蓮、嬉しそうね?八幡君といい事あった?」

 

「……うん!とっても!」

 

第8回シンデレラガール総選挙。結果は2位。惜しくも、シンデレラガールにはなれなかった。悔しくないなんて言ったら嘘になる。でも。

 

絶対に、シンデレラガールにアタシはなるんだ。どんなに辛くても、何年かかっても。彼との約束は守らないといけないから。

 

アタシのシンデレラストーリーは、まだ続く。彼が一緒に居てくれる時までは。ずっと。続いていく。

 

「絶対に、シンデレラガールになるからね!ハチ君!」

 

 




すいませんでしたあぁぁぁぁああああ‼︎本当にお待たせしました!ごめんなさい!ごめんなさい!

……えっと、言い訳をさせて貰うとですね?まず最初はシンデレラガール総選挙のの日に短編を出そうと思って、加蓮の総選挙1位を信じて書いて、前日になんとか書き終えたんです。でも結果は2位で……もちろん加蓮を責める気持ちは無いですよ?でも意気消沈しちゃって、その週は筆が進まず。

そして次の週。テストでして。午後の空いた時間に書こうと思ってたんですけど夏風邪弾きました。熱出てるのに無理して行って2週間長引いて、書けませんでした。え?テストの結果?察しろ。

というわけで投稿するの遅れました。すいません。違和感さんには目をつぶって下さい。お願いします。
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