魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
「ねぇ、二人共、クロノ君知らない?」
レイジングハートとバルディッシュのそれぞれ破損したパーツが明日か明後日に揃えられることをユーノとアルフに伝えにきたエイミィはそんなことを尋ねる。
「ああ、それだったらなのはとフェイトとそれにヒイロを連れてどっか行ったね。」
「確か、管理局の偉い人に会いにいくとか言ってたような・・・・?」
アルフとユーノの言葉にエイミィは合点のついた表情をする。
おそらく前々から言っていた人物のところへ向かったのだろう。
「あ、グレアム提督のとこかな。」
「グレアム・・・?確かその名前はフェイトの保護観察官の名前じゃなかったかい?」
アルフの確認にエイミィは頷きながらこう続ける。
「うん。ギル・グレアム提督。フェイトちゃんの保護観察官でクロノ君の執務官研修の担当官だったんだよ。」
(・・・・・ゼロがこの男に対して警告を告げている・・・?)
ヒイロが視線を上げるとそこには一人の初老の男性がいた。青味がかった髪と髭を有し、温厚な見た目を醸し出している人物は、ヒイロと話しをしてみたいと前々から話しが上がっていたギル・グレアムその人であった。
なのはとフェイト、そしてヒイロは用意されているソファに腰掛け、クロノは少し離れたところに立っていた。
しかし、リンディの報告書からフェイトの人柄を優しいといった彼の笑みからあまり警戒する必要性は感じられない。
「ふむ、確かにヒイロ君。君は普通の人間とはわけが違うようだ。」
グレアムはヒイロを見やるとそんなことを口にする。長年、管理局に就いているのもあって、人を見る目がついたグレアムにとって造作もないことであった。
「君のその目は戦士、いや君の言葉でいうのであれば兵士の目だ。なるほど、リンディ君からの報告はほぼ間違えていないようだ。」
「・・・・俺個人としては話すことは何もない。」
「いいんだ。ただ君のことが心配になった老人のお節介という奴だ。君が話したくないことを話させるつもりは毛頭ない。もちろん、君のそのデバイスのこともだ。」
「・・・・・そうか。」
ヒイロはグレアムに対してゼロシステムが警戒を続ける理由はひとます置いておいた。探りを入れるのもいいかもしれないが、それでこちらの立場が悪くなるのは回避しておきたい。
無表情を貫くヒイロにグレアムは軽くほほえむような表情を浮かべるとなのは達に視線を移す。
「ふむ、なのは君は日本人なのか。懐かしいな、日本の風景は。」
そう言って懐かしむ表情を浮かべるグレアム。どうやら彼のルーツは地球にあるらしい。顔つきを鑑みるに西洋人なのは間違いないが。
なのはが驚きの表情をしながら尋ねると、彼は自身をイギリス人だと言った。
彼はそこから自分が管理局の一員となった経歴を話し始める。
今からおよそ50年前、ひょんなことから傷だらけの管理局員を助けたグレアムはその後の管理局の検査により自身に高いレベルでの魔力資質があることが発覚。
その出来事を機に彼は管理局の一員となったらしい。
「フェイト君。君はなのは君の友達かい?」
「・・・・はい。」
グレアムの質問にフェイトは少々疑問気ながらも頷く。
「友人や信頼してくれる仲間を裏切るような真似は絶対にしないでほしい。それを誓ってくれるのであれば、私は君の行動に一切口を挟むことはしない。できるかな?」
「・・・・・はい。誓います。」
グレアムの言葉にフェイトは噛み締めながらも力強い口調で頷いた。
程なくして、フェイトとなのははグレアムの私室から退席する。ヒイロもそれに続くつもりだったが、クロノがグレアムに自分達、アースラクルーが闇の書の捜査・捜索の担当になったことを告げる。
それを聞いたグレアムは険しい表情をしながらクロノに言葉を送る。
「そうか、君たちがか・・・・。言えた義理ではないかもしれないが、無理はするなよ。」
(・・・・この男、闇の書と何か浅はからぬ因縁があるようだな。こちらで調べてみるか・・・。)
ヒイロはグレアムを軽く見やったのち、なのは達と同じように部屋を後にした。
ヒイロはグレアムとの面談を済ませたあと、クロノ、フェイト、そしてリンディ達と共に今回の事件の資料を見ていた。その部屋の窓からはアースラなど他の次元空間航空艦がメンテナンスを受けている様子が見える。
ヒイロはその中でリンディの持ってきた捜査資料を見る。その資料には比較的『第97管理外世界』通称地球から個人転送で行ける距離で守護騎士達の出現が確認されていた。
「・・・・その守護騎士とやらは地球から然程離れていない距離で魔力の蒐集を行なっているようだな。」
「そうね。おそらくあの子の近くにこの守護騎士達の主人がいるのだろうとは思うのだけど・・・。」
「この結果から見て軽くプロファイリングを行なったがおおよそそれで間違いはないだろう。」
ヒイロの言葉にリンディは難しい表情を浮かべる。リンディ曰く、地球に赴こうとするのであれば管理局の転送ポーターでは中継を挟まないと行くことが難しいとのことだった。つまり有事の際には後手に回らざるを得ない状況になる可能性が高いということだ。
「・・・・アースラが使えないのは痛いですね・・・。」
「・・・・・使用できる次元航空艦の空きは少なくとも2ヶ月はないそうだ。」
フェイトが窓からアースラの様子を見ながら言った言葉にリンディも首を縦に振らざるを得なかった。クロノの言う通り、アースラなどの船が使えないのであれば、拠点を現地に用意するぐらいしか迅速に対応できる手段はなくなる。
「というか、フェイト、君はいいのか?それにヒイロも。」
「何が・・・?」
突然のクロノの問いかけにフェイトとヒイロは疑問の表情を浮かべる。
「フェイトは嘱託とはいえ外部協力者だ。ヒイロに至っては形上、なのはと同じ民間協力者。君たちが無理に付き合う必要はない。」
「クロノやリンディ提督が頑張っているのに、私だけ呑気に遊んでいる訳にはいかないよ。アルフも協力するって言っているから、手伝わせて。」
フェイトの答えを聞いたクロノは無表情で腕を組んでいるヒイロに視線を移す。
「・・・ヒイロ。君もフェイトと同じかい?」
「・・・・俺は借りを返すだけだ。だが、少しばかり懸念材料があるのが事実だ。それについて、リンディ。お前に聞いておきたいことがある。」
「懸念・・・材料・・・?」
そう言われ、リンディは首を傾げながらヒイロの言葉を待った。
「・・・・ギル・グレアムと闇の書の因縁関係を教えろ。ゼロがあの男に対して警告を告げていた。」
「っ・・・・!?」
リンディはとても驚いた表情をしたのち、その表情を曇らせた。それはまるであまり思い出したくないものを思い出したかのようなものであった。
リンディのその表情にフェイトは心配そうな表情を浮かべ、クロノはヒイロに厳しい視線を向ける。
「・・・・貴方のデバイスは、本当に賢い子なのね。」
「賢い、か。それで済めばいいがな。」
ヒイロがこぼした言葉に全員の視線に疑問のものが含まれる。
「それは、どういうことなんだ?」
「・・・俺がゼロと呼んでいるのは、
ヒイロは軽く自身の天使の翼に抱かれた剣の意匠を持つペンダントを触ると説明を続ける。
「これは俺がウイングゼロについての情報の開示を拒否する理由の一つだ。だがお前達の信用を得るためならば、致し方ない。これを教えるかわりにギル・グレアムの因縁関係を教えろ。」
「・・・・・わかったわ。約束する。」
リンディの頷きをみたヒイロはウイングゼロの搭載するインターフェース、『ゼロシステム』についての説明を始める。
「ゼロシステム。ゼロ、というのはあくまで略語であり正式名称はZoning and Emotional Range Omitted System。直訳するなら『領域化及び情動域欠落化装置』だ。」
「・・・あまり字面だけではよくわからないわね。」
「このシステムはパイロットの脳をスキャンし、神経伝達の分泌量を制御する。」
ヒイロの説明にリンディ達は疑問気な表情を浮かべる。ヒイロも無理もないだろうと思った。あの技術者達の考えることはいつもよくわからないからだ。
それでもそれはあくまで技術開発の面だけであり、自分達の技術力を誇示しようとしないだけマシだったが。
「簡単に言えば、人間が本来なら耐えられない動きを神経伝達を抑制することで欺瞞するということだ。」
「・・・・それだけ聞くと何も隠すようなことはないようにも見えるけど・・・。いや、十分にすごい代物だっていうのはわかるが・・・。」
「コイツの本領は超高度な情報分析と状況予測にある。ゼロは敵の動きを徹底的に解析し、敵が次にどう動くのか。いわばその人物の『未来』をパイロットの脳に直接フィードバックする。」
「それって・・・・凄くないですか?だから守護騎士の未来も分かったんですね。」
フェイトは純粋に凄いというがクロノとリンディは表情を厳しいものにしたままだった。フェイトはそのことに少しばかりオロオロする。
「あ、あれ・・・・?」
「・・・・フェイト。未来っていくつあると思う?」
クロノがそういうとフェイトは少し考え、そしてこう返した。
「え・・・?それは・・・
フェイトが何かに気づいた反応を見せるとクロノは頷きながらも険しい口調で続ける。
「そういっぱいだ。それこそ計り知れないほどの未来がある。そのゼロシステムはその未来を頭の中に直接叩き込むんだ。並の情報処理能力では一瞬で潰されてしまうだろう。」
「さらに言うが、ゼロは『敵を倒す』ことに特化している。その未来の中には味方もろともや操縦者を省みないものもいくつもある。その光景を直接脳にフィードバックされ、ほとんど現実と遜色ないビジョンで映し出される。仮にだがお前はなのはを自身の手で殺す未来を見て、耐えられるか?」
ヒイロからそう言われ、フェイトは思わず頭の中でイメージしてしまう。自身の手でなのはを殺してしまう情景を。その瞬間、フェイトはその恐怖から顔を青くし、悲痛な表情を浮かべながら首を横に振る。
「や、やだ・・・!!耐えられる訳ないっ!!」
フェイトのその様子を見て、ヒイロは少し時間を置く。彼女が落ち着く必要があったからだ。フェイトが落ち着きを見せ始めた時、リンディがヒイロに尋ねた。
「・・・・ねぇ、ヒイロ君。そのシステムの見せるビジョンに耐えられなかったら、どうなるの?」
「・・・・そうなったが最後、操縦者はシステムの傀儡に成り果て、システムの見せる未来に振り回され、暴走を始める。仮に暴走を止められたとしても、乗っていたやつは脳が焼き切れ、死ぬ。よくても精神が使い物にならなくなっているだろうから廃人がいいところだ。」
「・・・・貴方は本当に強い人間なのね。それに乗って今まで戦ってきたんでしょ?」
「俺にはできた。ただそれだけだ。俺はどうしようもないほど弱者だ。ついでに言えば、強者などどこにもいないと考えている。それこそ、奴ら守護騎士も例外ではない。」
「・・・しかし、貴方が隠すのも頷けるわね。未来を見るなんて、ミッドチルダ式の魔法ですらできないことを機械、というより科学がやってのけている。そんなのが明るみに出れば、ブレイクスルーが起きるのは避けられないわね。」
リンディは神妙な面持ちをしながらヒイロの目を見つめ、意を決する表情を浮かべる。
「さて、それじゃあ今度はこっちの番ね。貴方がそのゼロシステムについて包み隠さず教えてくれたからこちらも包み隠さず言うわ。」
「・・・母さん。大丈夫なのかい?」
クロノが心配そうにリンディに声をかけるがリンディはクロノに対して首を振った。
「大丈夫よ。もう自分の中で折り合いは付いているから。」
そう言うとリンディはヒイロに向けて話し始めた。
かつて闇の書の捕獲作戦において、自身の夫である『クライド・ハラオウン』が関わっていたこと。そしてその夫は突如として発生した闇の書の暴走に巻き込まれて殉職したこと。
最後にギル・グレアムがその艦隊の総司令官として現場にいたことを。ヒイロに赤裸々に語った。
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