魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
わんたんめんです。
タグでもお分かりかと思いますが、ガンダムWとリリカルなのはとクロスです。さらにヒイロはフロティア前で『前奏曲』のインプットもないため、今回、これまでの記憶を全て失っています。
そのことを留意しつつあったかい目で読んで頂けると幸いです。
あと私による勘違いも多々あると思います。
そこら辺もよろしくお願いしますm(._.)m
A.C196年 クリスマス・イヴ
地球圏統一国家と武装組織『ホワイトファング』による地球の未来を掛けた戦争『EVE WAR』からちょうど一年、誰もが平和への道を進んでいた中、トレーズ・クシュリナーダの娘を語るマリーメイア・クシュリナーダが地球圏統一国家に対して、宣戦布告を行った。
歴史ではこれを『バートンの反乱』と呼んだ。
なぜ『バートン』の名が付けられたのかはマリーメイアはあくまで傀儡でしかなく、事件の首謀者はバートン財団の盟主であった『デキム・バートン』であったからだ。
しかし、反乱の勢いは凄まじく彼らによって統一国家の大統領府まで制圧されてしまう始末であった。
なぜここまで後手に回ってしまったのかを敢えて弁護するのであれば、人々が平和に慣れてしまっていたからであろう。
だが、いつの時代にも目の前の現実に対して、立ち上がる者たちがいた。
目的はただ一つ、『平和』を、これ以上自分たちのような兵士を生み出させないためーー
人は、そのために立ち上がった少年たちの乗るモビルスーツをこう呼称した。
『ガンダム』とーーー
『バートンの反乱』から年月は流れ、人々の注目はある惑星へと注がれていた。
地球からもっとも近い惑星、大気のほとんどが二酸化炭素で構成されている『火星』である。
だが、その火星も増えすぎた人口の捌け口とされ、テラフォーミング化された結果、限定的ながらも人が住める土地と化していた。
そして、時は
物語はイレギュラーをもって開幕を告げる。
人口冬眠装置である『星の王子様』と『オーロラ姫』のうち、突如として、『オーロラ姫』が行方不明となった。当然、捜索が行われたが、『オーロラ姫』の行方どころか持ち出した方法さえも不明という有様であった。
そして、誰もが口にする。魔法だ、魔法でしかこの異常現象の説明がつかない、と。
「・・・・・これ、本当になんなのかしら?」
「エイミィの調査だと、人工的に人を休眠、いや冬眠させるものと言っていましたけど・・・。」
艶やかな濃い緑色の髪をたなびかせているのは時空管理局所属戦艦『アースラ』艦長、『リンディ・ハラオウン』である。そして、その隣にいる黒髪の少年の名は『クロノ・ハラオウン』、弱冠14才という顔つきにまだ幼さが残っている年齢でありながらも時空管理局の執務官という高い役職に就いている秀才である。ちなみに苗字から察すると思うが、先に紹介したリンディ・ハラオウンの息子である。
「それは分かっているわ。でも、これを作った意味がよくわからないのよ。」
その親子が目の前に相対しているのは一つの機械、いや芸術品といっても過言ではないような美術的な装飾がなされた一つのカプセルであった。全長3メートル以上の巨体を誇るそのカプセルは美しい顔を持ち、そして天使を思わせるような純白の翼に包まれている。さながら中にある人物が天使から寵愛を受けている、と錯覚してしまうような荘厳な様子であった。
その冬眠装置の形状は涙の雫のようであった。さらにあたりに感じる冷気も相まってその装置は
「仮にこれがエイミィの調査通り、人工的な冬眠装置だとすれば、こんなにも煌びやかな装飾はいるかしら?もっと機械的になるのが当然と思わない?」
リンディの問いかけにクロノは顎に手を乗せながら思案に入った。
確かにそれもそうだ。ただの冬眠装置であればこんなにも美しいと感じてしまうような装飾はいらないはずだ。
ではなぜこんなにも煌びやかな飾りが必要なのだ?
「・・・・もしかして、かなり力のあるものを封じ込めている、謂わばオリという可能性もあるんでしょうか?」
「・・・・それもあるわね。昔から権力や単純な力を持つものは死後もなんらかの形で自分の力を指し示すものを残しているのは歴史が証明している。自分を冷凍睡眠させて、延命をするというのはよくあることだわ。可能性として、ないわけではないわね。」
「・・・・では、どうします?エイミィから解凍プログラム自体の解読は済んでいる報告は上がっています。」
実の息子からの提案にリンディは瞳を閉じて、考える。
(・・・・今はまだプレシア・テスタロッサの件が済んだわけではないわ。コレも無関係って断じるのは早すぎるわ。このカプセルに入っているのが、話の通じる相手かどうかはわからない。だけど、変に放置して、厄介ごとになってくるのは避けたい。)
ここで開くリスクと放置したさいに起こるもしかしたらの可能性。
二つのリスクが彼女の天秤にかけられる。
彼女が選んだのはーー
「クロノ、アースラにいる魔導師に召集をかけて。それとエイミィにも伝えて、解凍すると。」
「・・・わかりました。」
クロノはリンディからの指令を伝えるために管制室へと向かった。
一人残されたリンディはポツリと呟いた。
「・・・・さて、この判断が吉と出るか凶と出るか・・・・。」
程なくして例のカプセルが保管されてある部屋にアースラにいる全職員が集結する。
彼ら、または彼女らはバリアジャケットと呼ばれる魔力から身を守る戦闘服を身につけ、目の前の代物に視線を集中させる。
「これから例のカプセルの解凍を行います。サイズから鑑みるに出てくるのは人間だとは思うけど、まだプレシア・テスタロッサの件が終わってから間もないし、状況が沈静化したわけではありません。各員は油断はしないように。」
リンディの言葉にアースラの乗組員は気の張った表情をしながら大きく頷くことで応える。
その様子に少しばかり笑みを浮かべた彼女はコンソールについている管制官である『エイミィ・リミエッタ』に指示を飛ばす。
「エイミィ、解凍を始めて。各職員はバインドの準備を。」
リンディからの指示にエイミィはコンソールに解凍プログラムを始動させるためのパスワードの打ち込みを始める。
(何かの年号と季節なんだろうけど・・・・。どこの世界のものだろう?)
エイミィはパスワードの感じから、どこかの年号と季節であることは察することはできた。しかし、見たことも、聞いたこともなかったものだったため、それ以上の詮索はできなかった。
コンソールにパスワードを打ち込むと冷凍カプセルの様子に変動が起こった。
カプセルを包んでいた天使を彷彿とさせていた大きな翼が広がっていく。
冷気が室温に溶けていくと同時にカプセルには結露により水滴が生まれ、室内の照明に反射して、光を放っていた。
水滴は自身の重みで流れ落ちていき、カプセルの中が望めるようになっていった。
冷凍カプセルの中に入っていたのは、まだ20にも満たない少年であった。
その事実にいち早く気づき、声をあげれたのはーー
「っ・・・・!?子供・・・!?」
リンディであった。自身の子供と然程変わらない少年が中に入っていることに気づいた瞬間飛び出た言葉に職員に動揺が走った。よもや、大の大人が出てくるならまだしも、子供が入っているとは彼らも露にも思わなかったからだ。
やがて、少年を覆っていたカプセルが開かられる。
「救護班!!急いでっ!!」
リンディは一応側につけていた救護班を呼び寄せる。理由は冷凍睡眠をされた人間は筋力が低下して、しばらく立つことができないからだ。そういった自身の経験も兼ねた指示であった。
しかし、少年はカプセルから出ると
その事実はリンディはおろか、クロノでさえ驚愕の表情に染まった。
ありえないからだ。冷凍睡眠から解放された人間がすぐさま立てるほどの筋力があるというのは前代未聞に他ならなかったからだ。
(もしかしたら、開けてはいけない箱を開けちゃったのかしら・・・?)
リンディの頭の中にそんな考えさえよぎってしまうほど異様な雰囲気に包まれていた。
そして、その少年の閉じられていた瞳が開けられる。
「・・・・・・・?」
彼はリンディたちの様子を見るとあどけない瞳をしながら首を傾げた。
その目に敵意などはなかった。むしろあるのは、純粋、そして疑問。そんな感じだった。
さながらその目はまだ生まれて間もない赤ん坊のようなものであった。
「・・・・敵、ではないのか?」
クロノがそうポツリと呟いた。
見たところ少年は特にこれといった行動は起こしていない。
だが、まだ何が起こるかは分からなかったため、職員は警戒心を強めながら状況を見守っていた。
誰もが膠着した状況が続くかと思われたその時、徐に前と歩を進める人物がいた。
「えっ!?か、母さ・・艦長っ!?」
母さんと呼びかけたのはクロノだ。であれば必然的にその人物は絞られる。
アースラの艦長であるリンディその人だ。
彼女には一種の直感があった。それは母親としての勘であった。
(もしかすれば、彼はーーー)
一抹の不安を交えながらも彼女は少年の前まで歩みを進めた。
少年はリンディの顔をじっと見つめていた。
その様子に彼女は微笑んだ。その表情は母親のような慈愛を持ち合わせたものであった。
目線の高さを少年まで合わせると、彼女は手を差し伸べた。
「少し、来てくれないかしら?君のお話を聞かせてくれる?」
優しげな声色であった。さながら彼女自身の子供に語りかけるような声に少年はーー
「・・・・・・。」
無言であったが徐々に手が伸び始める。そして、少年の手がリンディの手に、乗せられた。
「うん。いい子いい子。」
少年の手を優しく包むように握ると、職員に視線を向ける。
職員たちの表情は皆驚きに包まれていた。
「だ、大丈夫なんですか?」
我が子の問いにリンディは無言で頷く。そして、職員に向けていた視線を救護班に向けた。
「医務室を空けてくれないかしら?多分、この子、記憶がないんだと思うわ。最悪、幼児退行も併発している。」
「わ、わかりました。」
リンディからの指示に救護班は室内から出ていった。
「職員のみんなは警戒を解いて構わないわ。この子は私が受け持つから。」
その言葉に職員に表情は心配するものに変わった。
職員の様子を見かねたリンディは指示を飛ばす。
「なら、クロノ。付いてきてくれるかしら?必要以上に集めちゃうとこの子が警戒しちゃうから。」
「・・・わかりました。」
リンディは少年と我が子を引き連れて、医務室へと向かった。
まだ少年の正体を知る者は一人もいない。少年の首に下げられてあった翼に包まれた剣のペンダントが光ったように見えたのも誰も気づくこともなかった。