魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
「ラケーテン、ハンマァァァっ!!」
ヴィータのデバイスであるグラーフアイゼン。そのハンマー部分が変形し、片側が噴出口のように形を変える。その部分がロケットの如く火を噴くとその加速を伴ったヴィータの攻撃がヒイロに迫り来る。
対するヒイロはビームサーベルなどで受け止めることはなく、天使を彷彿とさせるウイングスラスターを体を回転させながら羽ばたかせ、上昇することで回避する。
その結果獲物を見失ったヴィータの攻撃は空を切る。ヒイロはその隙を逃すことはなくウイングゼロの両肩に備え付けられてあるマシンキャノンをヴィータに向けて掃射する。
ヴィータは咄嗟に掌を掲げ、そこから防御用の魔法陣を展開することで、マシンキャノンが炸裂した際に生じる粉塵に包まれながらもこれを防ぐ。
ヒイロはヴィータの様子を少しばかり伺っていたが、すぐさまその場を退避する。
次の瞬間、ヒイロがいた場所を濃い緑色の風で編まれた竜巻が吹き荒れる。
色合いからシャマルの魔法だと判断したヒイロは風の勢いを利用して、まずは守護騎士の中で比較的支援型、なおかつその手に闇の書を抱えているシャマルを戦闘不能にしようと彼女が立っている病院の屋上へ向かって一気に降下する。
「シュワルベフリーゲンっ!!」
ヴィータの声が背後から響き、軽く視線をヴィータに向けて見やると、ヴィータの身の丈程ある光弾がヒイロに向けて打ち出される。
ヒイロは軽くヴィータの方を見やった一瞬でウイングゼロのスピードとその光弾のスピードを算出。自身の間合いがシャマルに到達する方が早いと結論づけたヒイロはそのまま光弾を無視してシャマルへの接近を続ける。
(・・・・しかし、あの誘導弾。俺の対応の仕方によってはシャマルも巻き込まれるな・・・・。)
ヒイロは少しばかりの不信感を抱きながらも病院の屋上を舐めるように加速を調整しながらビームサーベルを構える。
迫るヒイロに対し、シャマルはクラールヴィントを振り子形態にすると自身の前に大きく円形に展開する。続けざまにシャマルが何かを唱えるとその円形の中が薄緑色の光で埋め尽くされる。
(あれは、確かなのはに仕掛けていた転移魔法か・・・・?展開しているサイズもかなりあるようだが、一体何をーー!?)
ヒイロは直感的に危険を感じ取った。その瞬間、シャマルが展開した転移魔法『旅の鏡』からオレンジ色の光弾が飛び出す。それはヒイロの背後にあったはずのヴィータの『シュワルベフリーゲン』であった。
「っ!!」
ヒイロは苦い顔を浮かべながらシャマルへの接近を無理やり止める。慣性の力が働き、一度出してしまったスピードは大して落ちなかったが、ヒイロは病院の屋上に足をつけると力任せにジャンプする。先ほどまでのスピードとヒイロのおよそ人間とは思えない程の筋力が合わさったジャンプは光弾を飛び越えるところが、シャマルの頭上を取った。
そのままシャマルに向けてビームサーベルを振り下ろす。もちろんミッドチルダ式のデバイスに搭載されている非殺傷設定などないウイングゼロではシャマル達を殺しかねないため、ビームサーベルの出力は抑えめにしてある。
しかし、ビームサーベルがシャマルに届く前に地面から飛び出た白い魔力光で形成された防壁が弱められていたとはいえ並みいるモビルスーツを溶断してきたウイングゼロのビームサーベルを受け止める。
「鋼の軛よっ!!」
「ちっ!!」
声の質からザフィーラの援護だと断定したヒイロはシャマルへの攻撃を中断し、再度上空へと飛び上がる。ビームサーベルを防いだ防壁が今度は敵であるヒイロを貫かんと針となって迫り来るが、ヒイロは針と針の間を縫うように避けていく。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
「でぇぁぁぁぁぁっ!!」
ザフィーラの繰り出した攻防が一体化した魔法を切り抜けた後にヒイロの目に飛び込んできたのはシグナムとヴィータの同時攻撃。
予想以上にシグナム達の攻撃が早いと感じたヒイロは自身が誘い込まれていることを察する。
「ゼロ、奴らの反応速度を超えろっ!!」
ヒイロはすぐさまゼロシステムを起動する。これまでの戦闘データを集約したゼロの予測でシグナムとヴィータの繰り出してくるであろう太刀筋を視る。
さらにゼロシステムはヒイロにその攻撃を避けた上でツインバスターライフルで2人を消しとばすビジョンを見せつけるが、ヒイロは持ち前の強靭な精神力でゼロシステムの指示を撥ねとばす。
代わりにヒイロが取った行動はウイングスラスターの大きな翼を自身の前面に持ってくることであった。
普通であれば自身の推進力を捨てるような行為だが、ウイングゼロの翼はそう易々とは手折れることはない。
ガキィンッ!!!
「何っ!?」
「硬ーー!?」
響き渡るは鋼鉄と鋼鉄がぶつかり合うような金属音。レヴァンティンの刃、グラーフアイゼンの棘のついた槌。それぞれ、防御する体勢が取れていなかったとはいえ、フェイトのバルディッシュ、なのはのレイジングハートを大破させるほどの業物だ。
その一騎当千のヴォルケンリッター2人の武器をウイングゼロの翼は火花を散らしながらその攻撃をヒイロに届かせまいとして押しとどめる。
予想外のウイングゼロの翼の硬度に数瞬、されど常人では反応できないほどのまさに一瞬の硬直。
「はぁぁっ!!」
ヒイロはその一瞬の硬直を見逃さず翼を勢いよく前に押し出し、シグナムとヴィータの攻撃を弾き飛ばす。
そのまま流れるようにビームサーベルで横薙ぎに一閃ーーー
「っ・・・・。」
しようとしたヒイロだったが、ビームサーベルを振るおうした腕を途中で止めた。
ヴィータとシグナムはその間に体勢を整え、ヒイロから一度距離を取った。
「ちっ・・・。なんなんだよ、あの翼は。普通に硬えじゃねぇか。」
「ただの翼ではないとは薄々感じてはいたが、まさかあそこまでの強度を誇るとはな。だが、少し解せんな。」
ウイングゼロの翼の強度に驚いた表情を浮かべるヴィータとシグナムだったが、シグナムは表情を険しいものに変えると鋭い視線をヒイロに向ける。
「なぜ、その手に持つ光の剣を振るうのをやめた。お前であれば今ほどの一瞬でも十分だったろうに。」
「・・・・・お前達を殺せば、はやてが悲しむ。それだけだ。」
シグナムの問いにヒイロは端的に答える。静かに、それでいてはっきりとした声色で言ったヒイロの言葉にシグナムは軽く視線を落とした。
「・・・お前も主はやてのために戦っている、そういうのだな?」
「・・・・勘違いするな。俺は夜天の書の暴走を回避したいだけだ。」
「・・・・待てよ。今、夜天の書つったのか?」
ヒイロが言い訳がわりに言った言葉にヴィータが疑問気に反応する。戦闘の雰囲気が僅かに薄れたのを見計らい、ヒイロはヴィータとシグナムにナハトヴァールのことを尋ねようとする。
しかし、次の瞬間、出かけた言葉を飲み込まざるを得ない出来事が起こる。
「何っ・・・・!?」
ヒイロは思わず目を見開く。シグナム達と割って入るように現れたのは闇の書だったからだ。しかし、様子がいつもと豹変していた。禍々しいほどの、それこそ魔力が全くないヒイロでも視認できるほどの紫色のオーラを闇の書が纏っていた。
「ヒイロっ!!逃げろっ!!」
そう言ってきたのはヴィータだった。先ほどの疑問気な表情は一変し、かなり焦っている様子が見て取れる。
「くそっ!!なんで忘れていたんだよ・・・・!!なんで!!」
「ヒイロ今すぐに後退しろ!!私の記憶にはないが、身体が覚えている!!コレは不味いっ!!」
「まさか・・・・夜天の書が暴走を始めたのか!?」
ヒイロが真偽を確かめるためにシグナム達に確認しようとする。その瞬間、先ほどまで閉じられていたはずの闇の書のページが独りでに開かれる。
次の瞬間、闇の書から数えるのも億劫になるほど夥しい量の木の蔓が吐き出される。しかも蔓といってもその太さは人間の腕ほどの太さはあり、比較的闇の書の近くにいたシグナムとヴィータはあっという間に木の蔓の渦に飲み込まれる。
「くっ!?」
辛うじてヒイロは襲いかかる木の蔓を避けながら距離を取るが、結界の際で思うように蔓を避けることができない。ゼロシステムのおかげで木の蔦を掠めることはなかったが、四方八方から伸びる木の蔦を避けていくうちにヒイロは結界の端に追い込まれる。
闇の書から吐き出される木の蔓の量は凄まじく、結界の中を埋め尽くそうとしていた。徐々に逃げ場がなくなっていくヒイロだったが、突如として自分を閉じ込めていた結界が消失した。
「シャマル・・・・?」
ヒイロは結界を張っていた張本人であろうシャマルの方を見やるがシャマルがいたであろう病院の屋上は既に木の蔓が覆い尽くしていた。咄嗟にザフィーラの姿も探すが、蔓の渦に覆われた視界にザフィーラの獣耳や尻尾のようなものが映ることはなかった。
結局2人の無事も確認できずじまいだったが、結界という枷がなくなった木の蔓は膨大な質量を持ってヒイロに襲いかかる。
しかし、枷がなくなったのはヒイロも同じであり、ブースターを蒸すと迫り来る木の蔓を振り切り、一気に距離を取った。
「闇の書が、いやナハトヴァールが暴走を始めたか・・・・!!」
木の蔓から逃げおおせたヒイロは病院の屋上に生まれた木の蔓の塊を見るとそう言葉をこぼす。
塊が未だに流動を続けている様子は内部からナニカが生まれてくるようにも感じられる。
「ヒイロさん!!」
ヒイロがその木の蔦の塊に対する行動を考えていると遠くから声をかけられたのを耳にする。
視線をその方角に向けてみれば猛スピードで向かってくるフェイト、その後ろから彼女を追うようになのはが、それぞれバリアジャケットを着た戦闘体勢でヒイロの元へと駆けつける。
「来たか。」
「来たか、じゃありませんよ!!私たちにもちゃんとした経緯とかを説明してださい!!貴方に言われていた状況と違うんですけどっ!?」
「ヒイロさん。今どうなっているんですか?守護騎士の皆さんは?」
フェイト、なのはがヒイロに矢継ぎ早に状況の説明を求めてくる。ヒイロは未だ胎動を続ける闇の書を一目する。
「闇の書の暴走が始まりかけている。シグナム達もあの木の蔓の塊となった闇の書に呑み込まれ、無事は確認できていない。」
ヒイロの言葉にフェイトとなのはは病院の屋上上空にできた木の蔓の塊を目にする。
「あれが・・・・闇の書・・・・?」
「フェイト。お前の言う通り、状況は連絡した時とは既に一変している。」
「それは・・・・わかっています。」
ヒイロにそう返すフェイトだったが、その表情はどこか悲しげなものであった。
バルディッシュを抱えながら、手を自身の胸に当てたフェイトは視線を僅かにヒイロの方に向ける。
「ヒイロさん。」
「・・・・なんだ?」
フェイトの言葉にヒイロは闇の書の動向を探るために視線を木の蔓の塊に向けながら答える。
「ヒイロさんに電話越しにいろんな事を教えられた時、寂しさを感じたんです。その寂しさは母さんに貴方は私の娘じゃないって言われて拒絶された時の感覚と似ているんです。」
「フェイトちゃん・・・・。」
フェイトの言葉になのはも同じように悲しげな表情を浮かべる。彼女もフェイトの言う母親から拒絶された現場に居合わせていたのだろう。
ここで言う母親、というのはヒイロがエイミィからある程度聞いたP.T事件の首謀者、プレシア・テスタロッサのことを指しているのはわかっていた。
「ヒイロさんにも考えがあったのはわかっています。だから、これは私のわがままです。聞き流してもらっても、構いません。」
「たった1人で背追い込まないでください。いくら私たちが未熟の身だったとしてもできることは必ずあるはずですから。」
フェイトがヒイロに想いの内を込めた言葉を届けた瞬間、闇の書の動向を監視していたヒイロの目が異常を捉えた。
「・・・・・闇の書の様子がおかしい。警戒を強めておけ。」
フェイトの言葉にヒイロは闇の書の様子が変わったことを伝えることで聞き流すことにした。
フェイトとなのはがヒイロの言う通りに闇の書を覆っている木の蔓の塊を見やる。
塊が流動を続けるとその形を変えていく。木の蔓は巨大な木のように病院の側にそそり立つ。
そして、木の蔓に覆われて見えなかった病院の屋上が見えてくるとその屋上に白い魔法陣が展開される。
「あれは、魔法陣?でも、魔力が集まっているようには見えないから・・・。」
「転移魔法の類?でも、一体何を・・・?」
フェイトとなのはが白い魔法陣を見ながら怪訝な表情を浮かべる。その魔法陣から病院の病衣に身を包んだなのはやフェイトと同い年に見える茶髪の少女が現れた。
その人物は突然の状況に頭が追いついていないのか、困惑した様子で周りを見渡す。
「な、なんや急に、なんで私いつのまに外におるん!?」
「っ・・・・はやてだと・・・!?」
「えっ!?あの子がはやてちゃん!?」
その少女は闇の書の主であるはやてであった。ヒイロが驚きの声を上げるとなのはとフェイトも病院の屋上にへたり込んでいるはやてに視線を向ける。
さらに困惑しているはやてを尻目に闇の書から吐き出された木の蔓で形成された大木が蠢くと呑み込まれたシグナム達の姿が露わになる。
「シグナム・・・・!!」
「やはり囚われていたか・・・。しかもあの囚われ方・・・・。」
フェイトが険しい表情を浮かべ、ヒイロはシグナム達の囚われ方が引っかかった。
木の蔓に腕を張り付けられ、ぐったりとした様子で中に浮いている姿。それはさながらシグナム達が囚人、そして彼女らを吊るし上げている木の蔓の大木はまるで処刑台のようであった。その思考に至ったヒイロははっとした表情を浮かべ、苦い顔へと変える。
「まさか、奴らをはやての目の前で処刑するつもりかっ!!」
「そ、そんな!!早く止めさせないと!!」
「やらせない・・・!!」
なのはがレイジングハートをバスターモードに移行させ、砲撃体勢をとった。フェイトとヒイロはそれぞれバルディッシュから鎌状の魔力刃とビームサーベルを構えながら突撃する。
ある程度まで接近すると大木から木の蔓がヒイロ達という外敵を追い払うために襲いかかる。
「こ、これは・・・!?」
フェイトはあまりの木の蔓の多さに一度足を止め、迫り来る木の蔓をバルディッシュで薙ぎ払う。しかし、ヒイロはスピードを緩めることなくそのまま木の蔓の嵐を突き進んでいく。
「ひ、ヒイロさん!!無茶です!!」
「・・・・俺にはできる。だが、お前にはまだ早い。」
フェイトの制止する声が響くがヒイロは構うことなく進んでいく。無数の迫り来る蔓をヒイロはゼロシステムを組み合わせながら一つ一つの蔓を把握し、驚異的な頭の回転スピードでそれらを処理していく。
そして、蔓の嵐に揉まれること数秒、ヒイロはなんとか大木の元へとたどり着く。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
大木へ向けてビームサーベルを振り下ろす。ビームサーベルは大木を紙切れのように切り裂いた。しかしその巨体さ故に全体的なダメージは少なく、シグナム達の拘束を解くまでには至らなかった。
(ツインバスターライフルは最悪はやてにも被害が及ぶ可能性があるため使用しなかったが・・・。ビームサーベルでは無理が過ぎるか・・・!!)
ヒイロは苦しい表情を浮かべながら未だ拘束されているシグナム達の方を見やる。
しかし、その時にはヒイロ達の頑張りも虚しく、蔓がシグナム達の胸部を貫いていた。
「っ・・・・!!シグナム!!」
ヒイロがそう呼びかけるもシグナム達が目覚めることはなく、魔力で編まれたその体を塵へと変えながら消滅していく。
最終的に残ったのはおそらくはやてが守護騎士達に買ったのであろう私服が風に煽られてパタパタとはためくだけであった。
「ゼロの予測する未来の通りになったか・・・・!!!」
「間に・・・・・合わなかった・・・・の?」
「そ・・・そんな・・・・ヴィータちゃん・・・シグナムさん・・・!!」
フェイトとなのはが憔悴した表情を浮かべる。砲撃体勢に入っていたはずのなのはがその魔法を解いているということは彼女にも蔓が襲いかかってきたのだろう。
ヒイロは太い蔓に引っかかっているシグナムの服を掴むとそれを握りしめ、悔しさを露わにする。
「あ・・・・ああ・・・・・!!」
今まさに消えそうなほど掠れた声が響く。ヒイロが咄嗟に振り向くとはやてがかなり狼狽した様子で消えてしまった
目は見開き、表情はさながら目の前の現実を認めていないかのように絶望しきっていた。
そんな彼女を中心に白い三角形の魔法陣が形成されるとはやての頭上に闇の書が瞬間移動してくる。
その瞬間、絶望し、虚ろな表情となった彼女の足元から濃い紫色に染まったナニカが溢れ出る。
まさしく闇と言っても過言ではないソレになのはとフェイトはどうすればいいのかわからないと言った表情を浮かべる。
ただ1人、ヒイロを除いてーー
はやての足元から闇のようなものが溢れ出るとヒイロは病院の屋上に降り立ち、ウイングゼロを解除する。
そして、そのまま徐に、さらに無防備にはやてに近づいていく。
「はやて。俺だ。」
はやての目の前まで来たヒイロは座り込んでいるはやてと同じ視線となるようにその場でしゃがみこむ。
ヒイロの声を聞いたはやては先ほどまで光を失っていた目に再び光を取り戻し、はっとした表情を浮かべる。
彼女の足元からは闇が未だにその量を増やし続けている。
「ヒイロ・・・・さん?い、生きとる・・・・?」
「俺を勝手に殺すな。だが、まだ会話ができる余裕はあるようだな。」
はやての発言に一言申したいヒイロだったが、状況が状況なため、ため息ひとつつくことで流すことにした。
「確認する。お前は足元から出ているそれを自分自身で止められるか?」
ヒイロがはやての足元から出ている闇を指差しながら尋ねる。はやては自身の足元を見やるも首を横に降る。
「もう・・・無理なんや・・・!!もう引き金は引かれてしもうてる!!もう止めようがないんや!!」
はやては涙をポロポロとこぼしながらヒイロに訴えるように顔を上げる。
もはや闇の書の暴走を止める術はないようだ。ならば残された手段は世界の破滅を迎える前に闇の書を無理やり停止させるしか手段は残されていない。
ヒイロは嗚咽をこぼしながら涙を流すはやてをただ静かに見つめる。
「お願いや、ヒイロさん・・・!!私を今ここで殺してっ・・・・・!!そうすれば闇の書の暴走も止まるかも知れへんから!!」
はやてはヒイロに向かってそういうと顔を再度沈めてしまう。ヒイロははやての様子をただ見つめていた。
「はやて。」
ヒイロがはやてに言葉を投げかける。その声色はどこか優しげであった。
はやてがヒイロのらしくない声に疑問気になりながらも顔を上げる。
「最後まで希望を捨てるな。人は希望がなければ生きられない。俺が言えるのはそれだけだ。」
そう言ってヒイロははやての頰をつたっていた涙を指で軽くぬぐう。払われた涙が光に当てられてキラキラと反射し、光ったように見える。
そんなヒイロの行動にはやては意味がわからないといった表情を浮かべる。
「希望・・・?闇の書が暴走してしまったら、少なくとも地球は滅んでしまうんやろっ!?」
「ああ。だから闇の書が地球を滅ぼす前に停止させる。それこそ、どんな手段を用いてもな。」
「そんなこと・・・・できるんか・・・?」
はやては未だに信じられないといった表情を続けたままだった。ヒイロはそんな様子のはやてにただ一言だけを送る。
「・・・・・俺を信じろ。」
「・・・・・そんな大それたこと。普通はできひんよ。でも、ヒイロさんならできてしまうんやろな。」
ヒイロの言葉にはやては顔をあげながら言葉を紡ぐ。そして、その顔を上げた表情は笑っていた。作り笑いだったのは目に見えたものだった。しかし、それでもはやてはしっかりと笑っていた。
「信じてる。私、信じているから。」
次の瞬間、はやては紫色の光の柱に包まれる。その麓にヒイロは衝撃をモロに受け、吹っ飛ばされる。
その衝撃の強さは凄まじく、ヒイロは屋上に設置されてあった転落防止用の鉄網を貫通し、屋上から投げ出されてしまう。
しかし、ヒイロは驚異的な反応速度で投げ出された瞬間に手を伸ばし、屋上の淵を片手で掴むことで耐えきる。
「ヒイロさんっ!!大丈夫ですかっ!?」
「俺に構うな。来るぞ。諸悪の根源が。」
ヒイロの身を案ずるフェイトに声をかけながらヒイロは片手で屋上へと転がり込む。
はやてを包んだ光の柱は天を貫かんばかりに高く伸びていた。その光が徐々に収まりその全貌が明らかになっていく。
そこにいたのははやての見る影が微塵も感じられない人物であった。
はやてのショートヘアーだった茶髪は銀髪を腰まで下ろしたものへと変わり、四肢はさながら自身を拘束していたように感じられる赤い紐の先に黒を基調としたガントレットとブーツが現れる。なお左手には蛇のようなものが蠢き、集合体となったようなまさに異物といっても差し支えしない禍々しいものが備え付けられていた。
そして何より目を引くのはその女の背中から生えている黒い6枚の翼。
ウイングゼロの翼を天使と表現するのであれば、その女から生えた黒い翼はまさに堕天使といっても過言ではなかった。
「あれが・・・・ナハトヴァール・・・・・?」
「奴はあくまで夜天の書の管制人格だ。ナハトヴァールはユーノの調査が正しければ奴の左手についてある蛇のような籠手だ。」
なのはの呟きを否定しながらヒイロは現れた管制人格の左手に視線を送る。彼女の左手についた蛇の集合体のようなナハトヴァールはモゾモゾと蠢き、不快感を抱かせる。
「つまり、あの人からナハトヴァールを切り離せば、暴走は止まる・・・?」
「そう都合良くはいかないだろう。奴はナハトヴァールと共に既に幾星霜の時を歩んでいる。もはや通常では切除が不可能な領域まで来ている可能性が高い。」
「そ、それじゃあ・・・・!!」
「奴に攻撃を加えて、機能不全に陥らせる。ひとまずそれしか対応策はない。」
「またすべてが終わってしまった・・・・。」
闇の書の管制人格と思われる人物が言葉を紡ぐ。隠しきれない敵意を感じ取ったなのはとフェイトは自身の得物を構え、戦闘体勢をとった。
ヒイロもウイングゼロを展開し、ビームサーベルを闇の書の管制人格へとその切っ先を向ける。
「一体幾たびのこんな悲しみを繰り返せばいいのだ・・・・?」
「貴様の慟哭に興味はない。手早くはやてを過去からの馬鹿馬鹿しい呪縛から解放させてもらう。」
「最終ターゲット確認。目標、闇の書管制人格、及びナハトヴァール。お前を殺す。」
最終決戦の火蓋が切って落とされる。過去に振り回されて、家族のいないずっとひとりぼっちだった少女を救うためにヒイロ達は闇の書との決戦へと望む。
ヒイロがはやての涙を拭ったシーンで『お前を殺す』って言うかと思った人、挙手。
怒ったりしないから。むしろみんながそう思う方に持っていったから。