魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
5/9 ウイングガンダムの変形プロセスに改定を加えました。
「こ、これが・・・ヒイロさんがアフターコロニーで乗っていたガンダム・・・!?お、大きい・・・!!」
「グズグズしている暇はないぞ。兵士達がいつ来るかわからないからな。」
初めて見るモビルスーツにフェイトは驚きの表情を隠さないでいた。その間にヒイロはバード形態の状態となっているウイングガンダムの麓まで行くと開いていたコックピットに駆け込んだ。
「フェイト。お前もガンダムのコックピットに乗れ。」
「え、あ、はいっ!?」
ガンダムのコックピットに入る直前にフェイトの方を見るとヒイロはコックピットに乗るように促した。
突然のヒイロの言葉にフェイトは驚きながらも同じようにウイングガンダムのコックピットに入り込んだ。
「そこで待っていろ。」
フェイトがシートの後ろに入ったことを確認したヒイロは一度コックピットを閉鎖するとコックピット内部のコンソールを操作する。
(推進システム、異常なし。各部マニュピレーターの異常も確認されず、武装もシステム異常は確認されず。システム・・・オールグリーン。いつでも行けるか。)
凄まじいタイピング速度でヒイロはウイングガンダムのシステムチェックを済ませていく。一通り確認していき、稼働に問題が見られなかったことを確認したヒイロはウイングガンダムを起動させる。
電源が入った時のパソコンのような駆動音がしばらく響くと今まで暗かった画面に光がともり、外の映像が映し出される。
その外の映像が映し出されると同時に、ディスプレイにとある座標が周辺宙域のデータと共に表示される。
それは X18999からさほど離れていない宇宙空間に赤いポイントとして表されていた。
「・・・目標地点はここか。」
「あの・・・これは一体、何を表しているんですか?」
「・・・おそらく、はやてがいる場所だ。」
「はやてって・・・闇の書の主の・・・。」
「ああ。お前と会う前に接触した人物がいる。この脱出手段やはやての居場所のことはその人物から聞いた。」
「そうだったんですか・・・続けざまで申し訳ないんですけど、この座標、明らかにこのコロニーの外にあるんですけど・・・。」
「・・・闇の書、ナハトヴァールにとって俺が夢の世界に自ら入りこんだのは想定外だった。咄嗟に俺の記憶から再現したのがこのX18999コロニーを含めた宙域なのだろうが、いかんせんコロニーは何億という人間が住むことを前提として建造される。必然的に規模も相当なものとなる。おそらく容量的な問題でフェイト、お前のいた空間やはやてのいる空間まで巻き込まざるを得なくなってしまったのだろう。」
「なるほど・・・・。なんだか、魔道書なのに機械みたいですね・・・・。」
(機械、か・・・・・。)
ヒイロの説明にフェイトが納得する声をあげたのを最後にコンソールを操作する音を響かせるヒイロの後ろでフェイトは大人しく作業が終わるまで様子を眺めていた。
しばらく二人の間で無言の時間が続く。
「各部チェック終了。後はハッチを開くだけか。」
ヒイロはウイングガンダムのメインカメラが映し出す映像の正面にある重厚なハッチを見据える。
普通であれば管制室へ侵入し、ハッチを開かせた上で発進するのがセオリーだがーー
(ここでの時間の経過が現実世界でどれほどのズレがあるか計り知れない。手荒だが、強行突破するしかないか。)
そう結論づけたヒイロは自身の後ろでずっと様子を見ていたフェイトに視線を向ける。
「フェイト、前に来い。」
「?・・・・分かりました。」
ヒイロの言葉にフェイトは疑問気な表情を浮かべながらシートに座っているヒイロの前に躍り出る。
すると、対面するような形となったフェイトをヒイロは彼女を自身の太ももの上に乗せ、さながら向かい合って抱き合うような態勢を取らせた。
「!?!???!?!?」
抱き合うような姿勢、ということはヒイロの身体がフェイトを包みこむことに他ならない。ヒイロのまさかの行動にフェイトは目を白黒させ、顔を真っ赤に赤面させた上で口をパクパクと空気を求める魚のような反応を見せる。
「ヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒイロさんっ!?こ、これは一体・・・!?」
「ガンダムに限らず、元々モビルスーツは一人乗りだ。二人以上乗るのであればシートの後ろにいるのが手っ取り早いが、それではお前の身に危険が及ぶ。」
アワアワと狼狽するフェイトをよそにヒイロはシートの安全ベルトをフェイトごと締めた。
それにより余計に身体が密着する形となり、フェイトは羞恥心のあまり顔を下に俯かせる。
「フェイト、バリアジャケットのマントを消せ。邪魔になる。」
(落ち着くのよフェイトこれは安全上仕方のないことなんだから そうこれは安全上仕方のないことなのよだから落ち着きなさいでもどうしよう今すごく変な顔浮かべてるよ・・・///)
フェイトからの反応がないことが気になったヒイロは自身の胸元に顔を埋めているフェイトを軽く揺らした。
数瞬しないうちに正気に戻ったフェイトは驚いた表情を浮かべながらヒイロの顔を見上げる。
「バリアジャケットのマントを消せるか?視界に入り込んで支障になりかねん。」
「・・・・あ、はい。ワカリマシタ。」
「・・・・・。」
若干口調が覚束ないフェイトにヒイロはわずかながらに心配になったが、声には出さないようにした。
フェイトはバルディッシュにバリアジャケットのマントを消させるように指示をし、先ほどからヒイロの視界を遮っていたマントが消失する。
「まずはハッチを破壊する。」
ヒイロは左右の操縦桿を握りしめるとそのレバーについてあるボタンを指で押す。
するとバード形態のウイングガンダムの先端部分を形成しているバスターライフルから山吹色の閃光が撃ちだされ、眼前のハッチを消滅させる。
「フェイト。」
「・・・・はい?」
「しっかり掴まっていろ。」
ヒイロの真剣な表情で言われた言葉にフェイトはヒイロの首周りに腕を回し、絶対に離れないように力を込める。
「・・・・発進する。」
そう言いながらヒイロはコックピットの操縦桿を勢いよく前に押し出す。その瞬間、ウイングガンダムのブースターから強烈な青い光が灯り、爆発的な加速を生み出しながら前へと急発進する。
「うっ・・・・あぁ・・・・!!」
(な、なんて加速力・・・・!!!か、身体が、押し潰されそう・・・意識が・・・保たない・・・!!)
ウイングガンダムの爆発的な加速度から生まれるGにフェイトは座席、というよりヒイロの身体に押し付けられてしまう。
歯と目を食い縛りながら意識だけはなんとか保たせようとフェイトはヒイロにしがみつく。
途中、ヒイロが姿勢安定のためにウイングガンダムの軌道を多少動かしたりしていたが、フェイトにはそれどころではなかった。
程なくして先ほどまでフェイトを押しつぶしていたGはなくなり、身体が浮くような感覚を覚える。
おそらくコロニーの外の宇宙空間に出たために自分の身体が無重力状態になっているのだろうと感じた。
フェイトは外の様子を確認するために目を開いたーー
「あ……あれ………?」
だが、目を開けたはずのフェイトの視界は一寸先の光さえ受け付けない真っ暗な闇であった。
フェイトは突然のことに真っ暗な闇の中で周囲を見渡した。
しかし、いくら視界を動かしても闇が晴れることはなく、広がっているのは無限の闇であった。
急に視界が真っ暗に染め上げられたという状況にフェイトは不安な感情を抱く。
自分だけ何か良からぬものに囚われてしまったのではないのかーー?
先ほどまでそばにいたはずのヒイロはどこへいったーー?
目の前に広がる闇にこのまま自分だけ残されてしまうのかーー?
微かに声が聞こえた気もするが、それは恐怖心に苛まれた彼女には届かない。
「や、やだ・・・!!ヒイロさん・・・!!なのはぁ・・・!!誰か、助けて……!!」
「フェイト。一旦落ち着け。」
暗闇の中を彷徨うように覚束ない手つきで辺りを探し、今にも消え入りそうな声を出しているフェイトにヒイロが声をかける。
フェイトの視界は変わらず真っ暗だが、ヒイロの声がとりあえず目の前からするという事実は彼女に一抹の安心感を覚えさせる。
「今のお前はブラックアウト状態に陥っている。」
「ブラック・・・アウト・・・?」
「急激なGによる重力負荷で下半身に血液が集中し、一時的な貧血状態になることだ。少し慣れれば視界は元に戻る。」
そう言ってパニック状態になっていたフェイトを安心させるためにヒイロはほんの少しだけ彼女の頭に掌を乗せる。
「ん・・・・。」
ヒイロの手つきを感じ取ったフェイトはヒイロに回していた腕の力をさらに強める。さながら孤独さから来る寂しさを紛らわすために居場所を求めているかのようにーー
ヒイロはウイングガンダムのスピードを落とし、宇宙を漂うかのように動かしながら、フェイトの視界が戻ってくるまで待つことにした。
「あの・・・・すみませんでした。情けないところを見せてしまって・・・・。」
「・・・・・気にするな。」
結論から言うとフェイトの視界は程なくして戻ってきた。ヒイロにとっては大したことはなかったのだが、フェイトにとっては何か思うものがあったらしく、恥ずかしそうにヒイロの胸元に埋りながら顔を合わせようとはしなかった。
(・・・・そもそも落ち着いて考えてみれば、私とヒイロさんは今は密着状態なわけだから普通気付くはずなのに・・・・。その事実が余計に恥ずかしい・・・・。)
フェイトが羞恥心に悶え、二人の間で気まずい雰囲気が広がっていく。
そんな最中、ウイングガンダムのレーダーがけたたましく何かがヒイロ達に接近していることを知らせる。
「これは・・・警報・・・?」
フェイトがまだ暗闇から解放されたばかりで僅かに怯えている様子を見せているうちにヒイロはウイングガンダムが捉えた熱源を確認する。
「背後から熱源接近・・・コロニーからの追っ手か。熱紋照合を開始する。」
ヒイロが後方からの映像を映し出すと黒い宇宙の背景に同化してわかりづらかったが、黒い飛行機のような風貌をしたモビルスーツが映し出されていた。
「あれは・・・・トーラスか。」
ヒイロがトーラスと呼んだモビルスーツは然程スピードを出していなかったウイングガンダムを追い抜くと前方で人型へと変形を始め、手にしていた身の丈近くもある巨大なビーム砲、トーラスカノンを構えながらヒイロ達の前に立ちはだかる。
その数、およそ7機。
「へ、変形した・・・!?」
フェイトがトーラスが人型に変形したことに驚いていると、ウイングガンダムのレーダーがさらなる敵機が迫っていることを告げる。
「敵の増援か・・・・・。」
ヒイロはそれを確認するともう一度後方からの画像を表示させる。そこには濃い紫色の装甲に丸いシールドを携え、手持ちのマシンガンを持ちながらウイングガンダムへと迫っている様子が映し出されていた。数はざっと見積もっても前で立ちはだかっているトーラスより多かった。
「宇宙戦用のリーオーか。ビルゴがいないだけまだマシだと考えるべきか。」
「そ、それよりもヒイロさん!!このままじゃ挟み打ちですよっ!?私のせいでこうなってしまったのは分かりますけど・・・!!」
フェイトが焦る声をあげている中、ヒイロは前方のトーラスと後方から迫り来るリーオーを同時に見据える。
「・・・問題ない。直ちに敵機を撃墜する。」
ヒイロはコックピットの上部のレバーを引き、足元のフットペダルを押し込んだ。すると、先ほどまでバード形態だったウイングガンダムも変形を始め、先端部分を形成していたバスターライフルは右手に、左腕に真っ赤なシールドを装着するとシールドで覆われていた胸元の緑色の水晶体が淡い輝きを放ちながらガンダムフェイスが露わになる。
「フェイト、戦闘はなるべく手短に済ます。少し我慢していろ。」
「は、はい!!」
ヒイロはウイングガンダムのバスターライフルを前方に向けると迷いなくトリガーを引いた。
バスターライフルの閃光は一直線にトーラスの集団へ向かっていくが、その手前でトーラス部隊が散開してしまい、バスターライフルの閃光は獲物を捉えることなく宇宙へと消えていった。
「は、早いっ!!避けられたっ!?」
「・・・・・・。」
バスターライフルが避けられたことに驚くフェイトだったが、ヒイロはこれといった反応は見せずにバスターライフルを左手に持ち替え、シールドに内蔵されているビームサーベルを右手で引き抜き、トーラス達に接近戦を仕掛ける。
トーラス達は接近戦を仕掛けてくるウイングガンダムを近づけさせまいとしてトーラスカノンを弾幕として発射する。
直撃すればウイングガンダムのガンダニュウム合金とはいえ無傷では済まないほど威力を持つトーラスカノン。
その弾幕をヒイロは全て見切ったのかただの一度もかすりもしないで突破する。
「後方のリーオーに構っている暇はない・・・・!!そこをどけっ!!」
ヒイロはウイングガンダムをトーラスに肉薄させると右手のビームサーベルを振るった。
振るわれたビームサーベルはトーラスの装甲を溶断し、左肩から右脇腹を通り抜け、トーラスの胴体を泣き別れにさせる。
「相手の反応が鈍い・・・。この程度であれば、なんら問題はない。」
だがいくら相手が実力的に問題がなかろうとヒイロに手加減するという考えは毛頭ない。立ちはだかるのであれば全力を持って排除する。
ヒイロは叩き切ったトーラスの爆発を脇目で見据えながら次のターゲットを選定する。
ターゲットを見定めたヒイロはトーラスの張った弾幕へ最大戦速で突撃させる。
先ほどのフルパフォーマンスによるトーラスの弾幕を潜り抜けたヒイロにとって、もはや造作もない様子で弾幕を切り抜ける。
一機のトーラスに目星をつけたヒイロはその機体に向かってウイングガンダムを操縦する。
トーラスはトーラスカノンをしまうと比較的取り回しのいいビームライフルを取り出す。
そのビームライフルの銃口をウイングガンダムに向け、発射する。
トーラスカノンより速度のあるそのビームをヒイロはウイングガンダムの上体を軽く逸らし、紙一重で躱し、懐に入り込む。
「破壊する。」
その肉薄したトーラスとすれ違いざまにヒイロはウイングガンダムのビームサーベルを横薙ぎに振るった。
上半身と下半身を真っ二つにされたトーラスは爆発四散する。
ヒイロは続けざまに切り抜けた先にいたトーラスにウイングガンダムのビームサーベルを投擲する。
ビームサーベルを突然投擲するというヒイロの行動にトーラスは何も反応が出来ずに腹部に深々と突き刺さった。
その突き刺さったビームサーベルの柄をウイングガンダムの右手で動かなくなったトーラスから引き抜くと倒したトーラスの陰から別のトーラスが現れる。そしてそのトーラスはウイングガンダムに既に発射態勢が整えられ、銃口にエネルギーが集まっていたトーラスカノンを向けていた。
普通のパイロットであれば、万事窮すのシチュエーションだが、ヒイロの幾度となく戦場を潜り抜けてきた戦闘スキルが光った。
ヒイロはウイングガンダムの攻撃が届く前にビームを撃たれることを直感的に察すると先ほど倒したトーラスをウイングガンダムの右脚で思い切り蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたトーラスは寸分の狂いなくトーラスカノンを構えていたトーラスにぶつかり、ぶつけられたトーラスはバランスを崩す。
その結果、放たれたビームはあらぬ方向へと飛んで行った。
その隙にヒイロがウイングガンダムのマシンキャノンをぶつかり合ったトーラスに向けて掃射する。
マシンキャノンの弾丸はトーラスの装甲を蜂の巣にしていき、ボロボロになったトーラスは小規模の爆発を各所に起こしたのち、爆散した。
「あと3機・・・・!!」
ヒイロはその瞳を目まぐるしく動かし、ほかのトーラスの状況を把握する。
すぐさま別のトーラスに接近、狙われたトーラスは射撃は当たらないと思ったのか迫り来るウイングガンダムに向けて、トーラスカノンを振り回す。
その攻撃に軽く眉を顰めるヒイロだったが、その攻撃を上へ上昇することで回避しながらトーラスの頭上を取る。
そしてそのままビームサーベルを振り下ろし、トーラスを縦に真っ二つにする。
続けてヒイロはブースターを蒸し、ペアを組んで固まっている残った二機のトーラスのうちの片方に向かって速度をあげながらビームサーベルを投擲。
流石に同じ手は通用しないのかトーラスは腕で投擲されたビームサーベルを振り払った。
「・・・お前がその判断を下したのはミスだ。」
ただ振り払った。一見すると隙でもなんでもないように感じるが、トーラスの注意がビームサーベルに注がれたのは事実だ。
ヒイロはウイングガンダムのシールドを前面に構えると、そのままブースターを蒸し、トーラス二機に向かってシールドバッシュを仕掛ける。
ウイングガンダムの突進にトーラス二機は成す術もなくバランスを崩される。
「終わりだ。」
その崩した隙を見逃さず、ヒイロはバスターライフルをトーラスの目の前で構える。それに気づいたのかトーラスが逃げるような隙を見せたが、それよりも先にヒイロがバスターライフルのトリガーを引く。
至近距離で放たれたバスターライフルの光は二機のトーラスを容易く撃ち抜いた。
「トーラスの殲滅を確認。あとはリーオーの軍勢だが・・・。」
ヒイロはリーオーの部隊を確認する前にフェイトの様子を確認する。フェイトはなんとか意識を保ちながらも荒い息を吐き出している。汗も滲みでているのも相まって限界に等しく、色んな意味で長続きはしないだろう。
「・・・・目標ポイントへの移動が最優先か。」
ヒイロはリーオーの軍勢に背を向け、目標ポイントへの移動を開始する。ウイングガンダムの加速力でリーオーの追手を振り切る。
ヒイロはレーダーに表示されるポイントと映像を見比べる。そこにはかすかに星が瞬くほとんど真っ暗闇の宇宙が広がっているだけであった。
どうしたものかとヒイロが考えているとーーー
『二時の方角に隠蔽用と思われる魔力結界を確認。その情報に間違いはありません。』
突如としてウイングガンダムのコックピット内に機械的な音声が響き渡る。
その機械的な音声をヒイロは最初こそ疑問符をあげていたが聞いたことがない訳ではなかったため程なくしてその声の主に当たりをつけた。
「お前か・・・。バルディッシュ。」
『はい。サーがこの有様でしたので。』
フェイトのデバイスであるバルディッシュがそのコアとなる金色の宝玉を輝かせながらヒイロの声に応える。
「・・・・二時の方角だったな?」
『その先に僅かですが魔力反応が見られます。この結界をどうにか破壊できれば闇の書の主の元へと行けるでしょう。』
「・・・・了解した。直ちに破壊する。」
ヒイロはバスターライフルをバルディッシュが指し示した方角へと向ける。
ターゲットとしてロックできない以上、ヒイロ自身の射撃センスとバルディッシュの案内、その二つが噛み合わなければ結界に当てることはできないだろう。
「最大出力、攻撃開始。」
ヒイロは躊躇わずバスターライフルのトリガーを引いた。先ほどトーラスに向けて放ったものとは比べものにならないほどの爆光が宇宙を駆ける。
いずれ消えていくと思われる光線は突然、見えない壁にぶつかったかのように辺りにスパークを撒き散らし始めた。程なくしてバスターライフルの光線は結界に弾かれてしまう。
しかし、先ほどまで何もなかったはずの空間に僅かだがヒビが入っていることに気付く。
『直撃を確認。ですが破壊には至っていないようです。』
「お前に言われずとも分かりきっていたことだ。」
バルディッシュに言われるまでもなくヒイロはすぐさまバスターライフルを調整し、ターゲットを空間に入った結界のヒビに合わせる。
「ターゲット・ロックオン・・・!!」
ヒイロはそのヒビに照準を合わせるとバスターライフルのトリガーを弾き、第二射を放つ。
放たれた光線は作られたヒビに寸分の狂いなく直撃し、ヒビが入ったことにより強度が脆くなったのか、先ほどの第1射よりヒビの拡散度は火を見るより明らかであった。
『第二射、効果覿面を確認。あと少しで破壊できます。』
バルディッシュの報告を聴きながらヒイロは結界に穴を開けるためにバスターライフルを構え、トリガーを引く。しかし、バスターライフルからビームが出ることはなく、カチッと虚しい音を響かせるだけであった。
「ちっ・・・弾切れか・・・!!」
あと少しのところでバスターライフルの弾が切れてしまったことに悪態をつくヒイロ。
その瞬間、ウイングガンダムのコックピットでけたたましい警報音が鳴り響く。
ヒイロは瞬時にその場からウイングガンダムを動かすと先ほどまでいた場所をビームの嵐が過ぎ去った。
ヒイロがビームが飛んできた方角を見やると振り切ったはずのリーオー達がウイングガンダムにその銃口を突きつけていた。
(厄介だな・・・。あの結界を破壊するのに然程時間はいらん。奴らが展開する弾幕を回避するのに問題もない。だがーーー)
ヒイロは軽く自身の側に張り付いているフェイトに視線を向けた。
(・・・耐えられるか?)
これ以上フェイトの身体に負担をかけると夢の世界を脱出したあとに支障になってくる可能性も出てくる。
それはできれば避けたい状況であった。
ヒイロが手をこまねいていると、ウイングガンダムが新たな反応を告げる警戒音を流した。
それはリーオー達とは別方向からトーラスとは比べものにならないスピードで現宙域に侵入してきていた。
「新手かっ!?」
ウイングガンダムが新たな反応が接近している方向に頭部のメインカメラを向けるとコックピットの映像にもその新手の姿が映し出される。
『そこのガンダム01、聞こえるなら応答を願おうか。』
装甲に彩られた黒みがかった赤はさながら乾いた返り血のように怪しく光り輝く。さらに背部に広がる二枚の翼。その翼はウイングゼロの天使を彷彿とさせる純白の翼とは違い、装甲と同じように黒がかった赤に染まっている。さながらその翼は悪魔のような風貌を醸し出す。
左腕に備え付けられたシールドから伸びているむき出しの刺々しい鞭は相対する相手を刈り取るように垂れ下がっている。
何よりヒイロにとってその声の主は聞くことのないであろう人物であった。
「ゼクス・・・・!?」
『ふっ、やはり貴様だったか、ヒイロ。本来であれば闇の書によってこの夢の世界に生まれ落ちた以上、脱出を計る貴様の妨害に動かねばならん。』
「ならば貴様も敵か?」
『普通であればそういうことになるだろう。だが!!』
ゼクスの駆るモビルスーツ『ガンダムエピオン』は左腕に装着されているヒートロッドを構えるとウイングガンダムに向けて突撃を開始する。
それに対し、ヒイロは咄嗟に身構えるがーー
(この軌道・・・俺を狙っていない・・・・!?)
ゼクスの駆るエピオンの軌道が明らかに自分を狙っていないことにヒイロは疑問の表情を見せる。
そして、ヒイロの見立て通りエピオンはウイングガンダムを通りすぎると、後方にいたリーオーの部隊に向かってヒートロッドを振るう。
『闇の書が少女の身体を今尚蝕んでいるのをむざむざと見過ごす訳にはいかんのだっ!!故に私は、ミリアルド・ピースクラフトとしてではなく、ゼクス・マーキスとして抵抗しようっ!!同じ平和を望む者達と共にっ!!』
炎熱し、橙色の光を発しながら振るわれたヒートロッドはリーオーの装甲を容易く焼き切り、いくつもの花火で宇宙を彩った。
「ゼクス・・・・。」
『ヒイロ、これは私が闇の書に作り出された時に仕入れた情報とエピオンが見せてくれる未来からだが、この闇の書、いやナハトヴァールはただ機能を停止させただけでは意味がない。』
「何・・・・・!?」
『ナハトヴァールを強制的に機能不全に陥らせても無限回復機能がいずれナハトヴァールを修復してしまうのだ。故に闇の書の暴走を繰り返させないためにはナハトヴァールを機能不全にしている間に闇の書を完全に破壊する必要がある。』
ゼクスからの情報にヒイロは眉を顰めてしまう。闇の書の完全破壊、それが意味するものはーー
「シグナム達、ヴォルケンリッターも闇の書と運命を共にするのか?」
『・・・すまない。私とてそこまで闇の書に関して詳しくなった訳ではない。』
「・・・・そうか。なら、お前に頼みがある。お前の発言を鑑みるにアイツらもいるはずだ。」
ヒイロはゼクスに向けて要件を伝える。それを聞いたゼクスは頷くことで承諾する。
『お前の頼み、しかと受け取った。だが、間に合うかどうかははっきり言っておくが、彼らでも分からん。機械とは訳が違うのだからな。』
「・・・・やり方はアイツらに任せる。」
『・・・委細承知した。ではここは私が引き受ける!!お前はあの少女の元へ急げっ!!』
ヒイロはエピオンに背を向けるとヒビの広がった空間へと一直線に向かっていく。
その加速の中、ヒイロはウイングガンダムの左腕を後ろへ引きしぼり、シールドの先端をヒビの入った空間へと向ける。
ウイングガンダムがヒビの目の前に差し掛かるとヒイロはウイングガンダムのシールドをそのヒビに思い切り突き出した。
ウイングガンダムの尖ったシールドの先端はガラスが割れた音と共にヒビに食い込んだ。
その瞬間、ヒビは空間にポッカリと空いた穴へと姿を変え、その先にあった別の空間への通路をつくる。
勢いそのままにその穴の中に突入したウイングガンダムは片膝をつき、そこから火花を生み出しながら空間を滑り抜けていく。しかし、夢の世界から抜け出した所為なのか、その鋼鉄の身体を徐々に光へと消えていく。
「・・・限界か・・・。」
ヒイロはウイングガンダムのコックピットを開くとフェイトを抱えながらウイングガンダムから飛び降りる。
搭乗者を失ったウイングガンダムは脱力するように崩れ落ちていった。
「まさか、この空間にまで入り込んでくるとはな・・・・。」
うまく両膝を使うことで着地の衝撃を流しながらヒイロは目の前にいる人物と相対する。
「お前が闇の書の管制人格か。」
ヒイロの目の前にはぐったりとした様子の車椅子に腰掛けているはやて、そしてその彼女の目の前にはヒイロが夢の世界に入る直前まで対峙していたナハトヴァールとよく似た人物が立っていた。
彼女こそが闇の書の管制人格であった。ヒイロの視認した管制人格ははやてとヒイロの間に立ちふさがった。
さてと、多分これが平成最後の投稿かなぁ・・・・。