魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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BGMは次回に持ち越しですわ・・・・。


第27話 集う戦士たち

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・。」

 

動きの止まったナハトヴァールに向けて、エクセリオンバスター、正真正銘、なのはの全力全開がこもった魔法を放った彼女は荒い息を吐きながら、肩で息をするが、その目はエクセリオンバスターに飲み込まれたナハトヴァールを注視していた。先ほどまで聞こえていたはずのーーよくよく考えてみればジュエルシード事件の時、魔力が掻き消される虚数空間に落ちていないはずのーープレシア・テスタロッサの声はもう聞こえなかった。

 

「フェ、フェイトちゃんとヒイロさんは・・・?」

 

ナハトヴァールに対する警戒を続けながらなのははヒイロとフェイトを見つけようと辺りを見回す。

幾ばくかのうち、分厚い雲が包んでいる空に特徴的な白い翼が羽ばたいているのが見えた。

そしてその翼の傍に対照的な黒いマントと金色に輝く艶やかな髪がはためいているのもなのはの視界は捉えた。

 

なのははそれを見つけると一目散に二人の元へ駆け寄りはじめた。

 

 

 

「ここは、海鳴市・・・?戻ってこれた・・・・?」

「そのようだが・・・なんだこの有様は?」

 

闇の書の夢の世界から脱出したヒイロとフェイト。少し辺りを見回してみるとそこが海鳴市からそれほど離れていない海上であるということはわかる。

だが、その風景は様変わりしており、すぐにはそこが海鳴市であるということはわからなかった。

 

海の中からはマグマの柱が天を貫き、地面が隆起したのかおそらく地面だったものが奇妙なオブジェをいくつも形成していた。とても現実とは思えない情景にヒイロは驚いた様子を隠せなかった。

 

「・・・・どうかしたのか?フェイト。」

 

ふとヒイロはフェイトに声をかけた。なにやら空を見上げたまま物思いに耽っていたようなフェイトはヒイロに声をかけられたことに気づくとハッとした表情を浮かべながらヒイロの方に顔を向ける。

 

「あ、いや・・・そっか、ヒイロさんはリンカーコアがないんでしたね・・・。」

「そうだな。だからと言って、お前やなのはに遅れを取るつもりはないが。それで、お前は先ほど何を見ていた?」

「・・・・あの空に広がっている雷雲・・・。母さんの魔力から作られたものです。」

 

ヒイロはフェイトからそう言われると空を見上げた。空には分厚い黒い雲が覆い、今にも雷が落ちてきそうなほどであった。ヒイロにはリンカーコアがない以上、魔力を感じられないためその雷雲が闇の書の暴走によって引き起こされたものなのか人為的なものなのかの判別はつかない。

だが、プレシア・テスタロッサの因子を色濃く継いでいるフェイトがそういうのであればそうなのだろう。

 

「母さんが手伝ってくれたんだって思うと、なんだか嬉しくなってきたんです。そういうこと、あの人がまだ生きている時には、ほとんどなかったから・・・。」

 

フェイトは空を見上げているヒイロとは対照的に顔を下に向け、表情に僅かに陰を落とす。

だが、その表情もすぐさま意志のこもった、力ある表情へと変わる。

 

「・・・・プレシア・テスタロッサの声はもう聞こえない。俺たちが夢の世界を脱出したことにより、姿形を保てなくなったか、もしくは引っ込んだか定かではない。だが・・・・行けるか?」

「はい。私はもう迷いません。母さんやアリシア、そしてあなたに背中を押されましたから。」

「・・・・そうか。」

 

 

 

「フェイトちゃん!!ヒイロさん!!」

 

そこになのはが嬉しそうな声をあげながらヒイロとフェイトの元へ駆け寄ってくる。

彼女が近づいてきたことに気づいた二人はなのはの方へ視界を向けるとフェイトも同じように嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「無事でよかった・・・!!!」

「なのは・・・ごめんね、迷惑かけちゃって・・。」

 

なのはのバリアジャケットはナハトヴァールとの戦闘の苛烈さを否が応でも感じさせられた。随所で土埃や煤で汚れていたり、裾の方は裂けていたりした。なのはに任せっきりになってしまったことを申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にするフェイトになのははそんなことないというように首を横に振った。

 

「ううん、そんなことないよ。私はフェイトちゃんが無事に戻って来てくれれば、それで良かったから。」

 

なのははフェイトに向けてそういうと今度はヒイロに視線を向ける。ウイングゼロのガンダムフェイス越しだったが、ヒイロはその視線をなのはの視線と合わせる。

 

「ヒイロさん、闇の書の主・・・はやてちゃんのことはどうなったんですか?」

「・・・・あそこだろうな。」

 

ヒイロはそういいながら顔を自身の後ろの方へ向けた。それにつられるようになのはが彼の後ろを見つめると、そこには雪のように白く輝く光の玉が浮かんでいた。

 

 

 

 

『自動防衛プログラム、ナハトヴァールの分離を確認。ですが、やはりというべきでしょうか。暴走は止まらないようです。』

 

ナハトヴァールから解放された管制人格、名を改め、リィンフォースははやての体を大事そうに抱えながらナハトヴァールの暴走が止まらないことを伝える。

 

『う〜ん・・・まぁ、なんとかなるやろ。』

 

まるで根拠がないような言葉を述べながらはやては虚空の空間に手をかざす。

すると次の瞬間、はやての元に闇の書、否、ナハトヴァールが分離し、それまで溜め込まれた『闇』が解放された今、闇の書は夜天の空へと還った。

 

はやては夜天の書のページを開くと記された文字の羅列の中に不自然に抜けた箇所を見つける。

 

『理由を聞いてもよろしいですか?』

 

リィンフォースはまるで答えがわかっているかのような表情を浮かべながらも敢えてはやてにその理由を尋ねる。

はやてもリィンフォースが敢えて聞いてきたことを察したのか苦い笑みを浮かべながらそのページの中の空欄に指を充てる。

 

『守護騎士システム、修復開始。リンカーコアを夜天の書へと回帰。』

 

はやてが夜天の書に命じるとその空いた空欄に文字の羅列が刻まれる。

それははやてがもっとも大事にしていた、家族達の存在証明ーー

 

『さっきの質問に答えるとな。私にはシグナムやヴィータ、シャマルとザフィーラの守護騎士のみんな、ヒイロさんやフェイトちゃんといった私を助けてくれる人達、そして何よりーー』

 

はやてはそこで言葉を切ると自身を抱えているリィンフォースに笑顔を向ける。

 

『リィンフォース。アンタがおる。みんながいれば倒せないものなんかない。私は胸を張って、そう言えるよ。』

 

そういいながらはやてはリィンフォースに向けて手を伸ばした。

 

『行こ、リィンフォース。』

『・・・・はい。主はやて。』

 

リィンフォースは微笑みながら、その伸ばされたはやての手を優しく包み込むように握った。

 

 

 

「あれは・・・・。」

 

ヒイロが光の玉の周囲に変化が現れたことを視認する。それは古代ベルカ式に見られる正三角形の魔法陣が4つ。

 

その色は赤、薄い紫、緑、そして薄い青。夜天の書のプログラムの一種であり、はやての家族である守護騎士達の色であった。

 

「フェイト!!無事かい!?」

「アルフ・・・?すずか達の方は大丈夫なの?」

「一応、結界の外には置いてきたから大丈夫さ!」

 

そのタイミングでヒイロ達の側にアルフがやってきた。すずか達二人の警護が済んだからこちらに援助をするためにやってきたのだろう。

戦力が増えることに越したことはないため、ヒイロは視線をはやて達に集中させ、アルフに対して特に言うことはなかった。

 

その魔法陣がしばらく輝きを続けるとその魔法陣から人影が現れる。

それは紛れもなくヴィータ達、守護騎士の面々であった。

 

「ヴィータちゃん・・・!!よかった・・・!!」

「シグナムも大事ないみたい・・・・よかった。」

「シャマルやザフィーラも問題なく戻ったか。あとははやてだが・・・・。」

 

守護騎士達が生き返ったことに安堵の声を上げるなのはとフェイト。ヒイロも守護騎士達を視認するが、その視線は光の玉の中にいるであろうはやてに注がれていた。

 

その光の玉が突如として轟音と共に真下に光を伸ばすと海の水が衝撃で巻き上げられる。さながらその様子ははやてが闇の書の暴走でナハトヴァールへと変貌した時のようであった。しかし、その柱は身の毛がよだつような代物ではなく、どこか優しげな雰囲気が感じられるものであった。

 

驚いた様子でその根が下された光の柱を見つめるヒイロ達。

しばらく辺りに轟音を撒き散らしながら輝き続ける光の玉は徐々にその姿を縮小させていく。

 

『なのはさん、フェイトさん、ヒイロ君!!リンディよ、聞こえるっ!?聞こえるなら返事をしてちょうだい!!』

 

そのタイミングで、なのはとフェイトには念話、ヒイロにはウイングゼロの通信機能を介して、リンディから連絡が入る。

アルフからリンディが試験運行中だったアースラを引っ張って来ていると聞いていた三人は彼女がアースラを引き連れて地球にやってきたことを察する。

 

「リンディか。お前が来たということは、ユーノやクロノも来ているんだな?」

『ええ、もちろんよ。二人とも既に転送装置で向かっているわ。』

 

リンディとそのやりとりを行った瞬間、ヒイロ達の元に二人の人影が現れる。

黒を基調としたコートのようなバリアジャケットを展開し、銀色に水色のクリスタルのようなものが施された手のひらサイズのカードを手にしているクロノとさながら冒険者が羽織るようなマントをはためかせたユーノが舞い降りた。

二人は険しい表情を浮かべながら、ヒイロ達を見据える。

 

「まずは、ここまで後手に回ってしまったこと、管理局の執務官として謝らせてほしい。すまなかった。」

「僕もだ。もう少し、闇の書に関しての情報を見つけ出すのが早ければここまでひどくなることはなかったのかもしれない。」

「そんなことないよ、クロノ君やユーノ君は私やフェイトちゃんじゃできないことをやっていたんだし・・・。」

「そうだよ・・。クロノは執務官としての目線から、ユーノは無限書庫にある古文書の調査。どっちも私やなのはじゃできなかった。ヒイロさんもそう思いますよね?」

「・・・・・・ギル・グレアムの方は最終的には俺よりクロノ、お前に任せた方が後腐れは少なかっただろうな。特にユーノはお前が仕入れてきた情報がなければ守護騎士達を止めることができなかった。自分を卑下するのもそこら辺にしておけ。どのみち、闇の書は暴走させた方が手っ取り早かったのは事実だったからな。」

 

そういって申し訳なさげな雰囲気を出す二人になのはとフェイトは首を横に振った。特にフェイトは目線をヒイロに向けながら援護射撃を求めた。

それをみたヒイロは少々面倒な空気を醸し出しながら二人にそう言い放った。

 

「待ってほしい。闇の書は暴走させた方が手っ取り早い?それは一体どういうことなんだ?」

 

クロノの言葉にヒイロは視線を守護騎士達のいる方向に移した。

 

「守護騎士達が囲んでいる光の玉だが、あそこには今回の闇の書の主である八神はやてがいる。ギル・グレアムからある程度は聞いてはいるか?」

「ああ。グレアム提督から聞いている。両親を早くに亡くした彼女に提督は経済的な支援をやっていたらしい。」

「・・・・あの男は、そんなことをやっていたのか・・・。よくよく考えてみれば両脚が不自由なはやてに資金を稼げるはずはなかったな。」

 

だが、今は関係のないことだ。ヒイロはそう考えを打ち切った。今は目の前で過去からの呪縛に苛まれ、その忌々しい鎖を断ち切るために立ち上がる少女のために、ヒイロは闘う決心をする。

 

「話を戻す。暴走させるのが手っ取り早いと言った理由だが、闇の書を完全に破壊するにあたって、自動防衛プログラム、ナハトヴァールの存在は邪魔以外の何物でもない。システムを機能停止にさせるために奴を一度、表に引きずり出す必要があった。その結果がアレだ。」

 

ヒイロはそういうと守護騎士達がいる方角とは別の方向に指を向ける。全員がその方角を向くと、そこには驚愕の光景が広がっていた。

 

海の上にぽっかりと穴が開いていた。その穴はそこが漆黒の闇に彩られ、その様子はさながらブラックホール。全てを呑み込んでしまうような不気味さを醸し出していた。

さらにそこからなんらかの生物と見られる触手が見え隠れしていた。そのあんまりな光景になのはとフェイトは表情を引きつらせ、ユーノとクロノはその険しい表情を一層深めた。

 

「アレが分離したナハトヴァールそのものと言っても過言ではないだろう。だが、詳しいことははやてに聞け。」

「そう、だね。どうやら、向こうも準備が整い始めているみたいだからね。」

 

クロノがそういうと徐々に光の縮小が進んでいた光の球が消え失せるとそこには黒いスーツに金色の線の意匠が施されたバリアジャケットのようなものに身を包んだはやてが現れる。その手には先端に剣十字がついた杖と夜天の書が握られていた。

はやてはその閉じられた瞳をゆっくりと開くと手にしている剣十字の杖を空へ掲げる。

 

「リィンフォース、ユニゾンインッ!!!」

 

その声と共にはやての胸元にどこからか飛来した濃い紫色に輝く球体が溶けるように吸い込まれていった。

その瞬間、はやてのバリアジャケットや姿に異変が起こった。

胴体を覆うくらいだった黒いスーツの上に白い丈の短い服を羽織り、腰の部分からは金色に輝く煌びやかな装飾が施された藍色のスカートが現れる。

整った茶色の髪が白がかったクリーム色へと変貌し、開かれたその瞳は黒から碧へと変貌を遂げ、ベレー帽のような白い帽子がかぶせられる。

 

何より目を惹いたのはナハトヴァールにも生えていた左右に3枚ずつ、計6枚の漆黒の翼。

 

「はやての姿が変わった・・・・?」

「もしかして・・・融合型デバイス・・・?ミッドチルダでも滅多に見ないタイプのデバイスだ・・・!!」

 

はやての変身に怪訝な顔を浮かべるヒイロだったが、ユーノが驚きの表情を浮かべながらそう述べた。

融合型デバイス、その字面の通り、今のはやては何か別のものと融合した姿であることは想像に容易い。

 

(問題は一体何と融合したかだが・・・・消去法でしかないが、リィンフォースと融合したのだろうな。ナハトヴァールと分離を果たした今の奴ならばなんら問題は起こらないだろうな。)

 

 

リィンフォースのはやてを思う気持ちは他の守護騎士達となんら変わりはなかったからな。

 

ヒイロはそう心の中で思いながらはやての様子を見守っていた。

そのはやては今、管理者権限で復活を果たした守護騎士達と対面し、言葉を交わしていた。

シグナム達は心底から驚いた様子を見せていたが、ヴィータが目から大粒の涙を零しながらはやてに飛びついたところからはやてを含めた四人の表情が柔らかなものへと変わった。

その光景はまさに家族と言っても過言ではないほど仲睦まじかった。

 

だが、今は状況がそうは言ってはいられない。ヒイロは意識を切り替えるとはやて達の元へと飛翔する。

それにつられるようになのはやクロノ達もヒイロの動きに追従する。

 

「はやて。確認しなければならないことがある。」

「んぉっ!?・・・・もしかしてヒイロさん?」

「・・・・そうだが。」

 

驚いた様子のはやてに対して、ヒイロは少しばかり呆れたような口調で答える。なにせウイングゼロの姿を見て、それがヒイロかどうかのやりとりを既に何回も行ってしまっている。

はやてが目の前のウイングゼロと自身の背中の黒い翼を見比べるように視線を行ったり来たりさせる。

 

「私のは堕天使で、ヒイロさんのはまるで天使・・・。結構私とヒイロさん、相性ええんちゃう?」

「・・・・まだお前がどういう戦い方をするのかわかっていないにも関わらず相性もなにもないだろう。」

「そういうこと言ってるんとちゃうんやけどな・・・・・。」

 

ヒイロの言葉にはやてはどこか不貞腐れたような表情をしながら口をすぼめた。

あまりよくわからないはやての反応にヒイロは怪訝な表情を浮かべながら、話を進めることにした。

 

「はやて、あの海上に開いた渦のようなもの、あれはナハトヴァールという認識で問題ないな?」

「・・・・うん。自動防衛プログラム、ナハトヴァール。その侵食暴走体や。言うなれば、『闇の書の闇』 これまでの夜天の書に悪い改造を施されてきた悪意の塊や。」

『今はまだ活動を本格化してはいないが、仮に野ざらしにしてしまえば、この星1つは容易く呑み込んでしまうだろう。』

 

そうはやてと共にナハトヴァールの概要を話したのはリィンフォースであった。

しかし、その体は手のひらサイズまで縮小し、身体も半透明となっており、さながら妖精のようでもあった。

 

「ならタイムリミットもそれほどないと認識すべきか。迅速に対処する必要があるが、奴にも無限回復機能は備わっているのか?」

『元々、無限回復機能もその改悪の一種です。当然の如く、向こうにも備え付けられてあります。生半可な攻撃はすぐに回復されるでしょう。』

 

リィンフォースの言葉にヒイロは特に表情を変えることなく別の人物に向ける。

ヒイロは魔法に関しては素人同然だ。ならば、その道に通ずるエキスパートに判断を仰ぐしかない。

 

「クロノ、お前の執務官としての知識を貸せ。何かプランはないのか?」

 

ヒイロに問われたクロノは手にしていた銀色のカードを構えた。そのカードはクロノが構えると同時に光に包まれながらその身を銀色に輝く杖へと変える。

デバイスと思われるソレは周囲に目に見えるほどの冷気を吐き出した。その強さはしばらくクロノの周りに氷の結晶がキラキラと光に反射するダイアモンドダストが起きるほどであった。

 

「プランはある。だけど、そのためにはここにいるみんなの力が不可欠だ。なのは達はこの世界を救うため、守護騎士達のみんなははるか昔からの呪いの鎖を断ち切るために。」

 

クロノの言葉に総員の表情が気の引き締まったものに変わる。ヒイロも言わずもがな、ウイングゼロのガンダムフェイスの下で気を引き締め直す。

 

「みんなの力を、貸して欲しい。」

 

クロノが静かに、それでいて意志のこもった言葉に総員の答えは1つ、ただ無言で頷くことであった。

 

「なら、プランを伝えるよ。とは言っても、内容自体はすごく簡単なんだけどね。」

 

そういいながら、クロノはヒイロ達にプランを伝える。途中、はやてからのナハトヴァールについての情報を交えながらプランはより濃密なものになっていった。

 

 

 

「・・・・・了解した。確認だが、最終的には軌道上に展開しているアースラまでナハトヴァールのコアを転送させればいいんだな?」

「まぁ、そうなるね。一応、そこに至るまでの作戦も伝えた通りだけど、不測の事態が起こらないとは限らない。その時はよろしく頼むよ。」

 

クロノの言葉にヒイロは頷く様子は見せずに海上に空いた穴に潜んでいるナハトヴァールに視線を集中させる。

 

大型魔導砲『アルカンシェル』

 

今回のアースラのメンテナンスで取り付けられた大型艦艇につけられる管理局の誇る最終兵器だ。

その砲弾は一定空域に空間歪曲と反応消滅を引き起こし、着弾空域の物体を悉く消滅させる。

 

クロノが建てた作戦を掻い摘むとそのアルカンシェルでナハトヴァールのコアを消滅させるというものであった。

 

ヒイロやなのは達、それにはやてやシグナム達といった総勢、12人の戦士達の目が未だ胎動を続けるナハトヴァールが作り出した空間の穴を見つめる。

 

「・・・・来るぞ。」

 

不意にヒイロが呟いたその瞬間、海の中から無数の蛇のような生命体が空間に開いた穴を取り囲むように現れる。

そして、その生命体が守っている穴から超巨大な生命体が浮かび上がる。

 

無数の脚、人どころかビルを丸呑みできるほどはありそうな巨大な口、胴体から生えている醜い翼。

一般的に化け物と呼ばれる特徴をふんだんに盛り込んだような醜悪な獣がその声にならない産声をあげる。

 

その獣に対し、戦士達は杖や鎌、魔法陣に剣、槌や己の拳と自分達のもっとも得意とする獲物を構える。

 

ヒイロもその例外ではなく、両翼にそれぞれ一丁ずつ収納しているバスターライフルを連結させ、『ツインバスターライフル』として構えた。

 

「・・・・最終ターゲット確認。目標、闇の書の闇。」

 

最終決戦の火蓋が切って落とされる。戦士達は大事な者たちとの明日を守るために飛翔する。

 

 




「・・・・なぁなぁ。守護騎士の奴ら、普通に管理者権限で闇の書から分離されちまったよな?」
「ええ、そうですね。僕たちが手を出す必要性がなくなってこちらとしては嬉しい限りですが・・・。」
「俺たちって残ってる意味あんのかね?ゼクスから連絡があったとはいえ、その必要性もなくなっちまったじゃねぇか。」
「貴様は馬鹿なのか?まだ残っている奴がいるのは明白だろう。」
「はぁっ!?テメェ、好き勝手言いやがって・・・・!!」
「そこら辺にしておけ。俺たちの仕事が終わっていないのは事実だ。そのためにもプレシア・テスタロッサの元へきたのだろう。」
「・・・なぁ、マジでやんのか?アイツを切り離すのは文字通り骨が折れるぜ?」
「君の言う通り、難しいのは確かです。ですが、僕たちみたく兵士としてならともかく、年端のいかない少女にこれ以上、家族を喪う悲しさを味わってほしくはありませんからね。」
「・・・・・ヘイヘイ。おっしゃる通りですね・・・・。とはいえ、お前さんが乗り気になるとは思わなかったな。」
「ふん・・・。貴様には関係のないことだ。」

四人の少年たちは木々をかき分けながらテスタロッサ邸、もとい時の庭園を進んでいく。
やがてひらけた場所に辿り着くとそこではさながら待っていたかのようにプレシア・テスタロッサが立っていた。その表情はどこか面倒に思っているような感じであった。

「お得意の魔術で俺たちが来るのがわかっていたみたいだな。なら、こっちの要件も言わなくても分かってるんじゃないのか?」

腰まで下ろした髪を三つ編みにした牧師服を着た少年はプレシアに向けてそう言い放つ。

「はぁ・・・・。私にはメリットがないのだけれど?」
「それは僕たちも一緒ですよ。言うなれば、ただのお節介です。それに、あなただってもう家族を喪った子供を見たくはないはずです。」

立ち振る舞いから明らかに高貴な生まれの少年がプレシアにそう持ちかける。
その少年の言葉にもう一度ため息を吐いた。

「・・・それで?私は何をすればいいのかしら?」
「闇の書のシステム面での把握だ。魔法技術から作られたデバイスとはいえ、中身は機械とそれほど変わりはない。俺たちの持つ技術でも代用は可能ではないが、やはり専門家としての視線が欲しい。そこで貴方の力を借りたい。」
「間に合うかどうかははっきりしてないのでしょう?それでもやるの?」

特徴的に前に前進した髪型が目立つ少年の言葉にプレシアは疑問気な言葉を返した。

しかし、少年たちは表情を何一つ変えることなくプレシアの視線にじっと見つめ返した。
しばらくの間、少年たちとプレシアの間で長い沈黙が続く。

「・・・・・・分かったわよ。」

その沈黙合戦は、プレシアが折れる形で終幕を迎えた。

「ありがとうございます。」

そのプレシアの言葉に高貴な少年は頭を下げ、感謝の言葉を述べた。



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