魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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フェイトそんは可愛い(確信)


第31話 10年越しのクリスマスプレゼント

「・・・・・お前は何者だ?俺達のことを知っているようだが・・・。」

 

現れた妖精のような少女にヒイロは声をかけるが、視線を右往左往させて、極めて慌てている様子を見せているだけで、ヒイロの声に応えられるようには見えなかった。

若干、呆れたように目を窄めるヒイロだったが、その少女が手にしていた本の意匠がどことなく夜天の書に似ていると思ったヒイロは再度、その少女に視線を集中させる。

 

「・・・・リィンフォース。お前はアレが何者か知っているか?」

「いや、私にも何がなんだか……「リィンフォース!?今、リィンフォースって言いましたよねっ!?」な、なんだぁっ!?」

 

ヒイロは側にいるリィンフォースに向けて確認を取ろうとしたが、彼女の名前を呼んだ瞬間、魚の餌に誘われたかのようにその妖精のような少女がリィンフォースに駆け寄り、彼女の半透明に透けている手を掴み取った。

突然の少女の行動にリィンフォースは驚いた表情を浮かべる。

 

「え、え!?いや、その……な、なんだぁっ!?」

「私はリィンフォースさん、貴方がいなくなった後に、はやてちゃんが夜天の書の管制人格として創り出した、『リィンフォースⅡ』なのです!!」

 

リィンフォース。自分と同じ祝福の風の名を持つと言った目の前の少女に消滅する直前、はやてに自分の名前をこれから先に産まれてくるであろう命に渡してほしいと願ったことを思い出した。

 

「・・・・そうか。お前が産まれてくる新しい命だったか・・・・。」

「・・・・・結論から聞くが、そこの小さいのもリィンフォースという認識でいいんだな?」

 

先ほどの驚愕をしていた表情から一転して、優しげなものへと変えた彼女にヒイロはそう尋ねた。

 

「ああ。その認識で相違はない。さらに、主はやても確実にこの世界にいる。」

「はやてちゃんなら今は聖王教会の方に向かっていますけど、そろそろ戻ってくる頃合いだと思うのです!!」

「・・・・・リィンフォースⅡだったな。お前にいくつか確認したいことがある。お前を含めた車輌に乗り込んでいる奴らは中央車輌に存在するの高エネルギー体の確保を目標にしているようだが、この列車の停止もお前達の目的に含まれているのか?」

「はいです!少しばかりハードなものではあるんですけど、機動六課として初任務ですぅ!!」

「・・・・・お前はどうする。リィンフォース、いや、その名前はこの小さいのにあげたとか言っていたな。別の呼び名でもいるか?」

 

機動六課という聞きなれない単語があったがひとまずヒイロはそう言いながらリィンフォース、否、半透明の体を持つ彼女に視線を向ける。

その彼女はヒイロに視線を返すとその表情を朗らかなものに変えた。

 

「一応、私はお前のウイングゼロの中に居候している身だ。判断はお前に任せる。だが、名前が混在するのは事実だ。主からもらった名前はこの子に渡してしまった以上、別の名を名乗るしかあるまいさ。何か妙案はないか?」

 

彼女のその言葉を聞いたヒイロは一度リィンフォースⅡに視線を移す。視線を向けられたリィンフォースⅡはキョトンとその小さな首をかしげるが、ヒイロは何か言葉を発するわけでもなく、すぐさま視線を彼女に戻した。

 

「・・・・アインス。安直に数字の1を表す単語だが、あの小さいのが2を指し示すツヴァイを名乗るのであれば、なんら問題はないだろう。」

「アインス、か。中々いいセンスをしていると思うが?」

「俺は安直だと言った。お前はそれでいいのか?」

「ああ。もちろんだとも。」

「・・・・そうか。」

 

初代リィンフォース改め、アインスはヒイロに笑顔を向ける。それを見たヒイロは顔をツヴァイの方へと向ける。

 

「・・・・ある程度、こちらでプログラムの復旧は進ませている。お前も手伝え。」

「はいです!!」

 

ヒイロの声に嬉しそうな表情を浮かべながらリィンフォースⅡもリニアレールのプログラムの復旧作業に入った。ヒイロは先頭車輌の端末から、リィンフォースⅡは自身の前面にディスプレイを展開しながら作業を行う。

アインスはウイングゼロのレーダーを利用しながら周囲の警戒にあたる。

 

「そういえば、今更で申し訳ないのですけど、貴方はヒイロ・ユイさんで合っていますよね?」

「・・・・・はやてから聞いているのであれば、そうだが。俺とアインスのことを知っているのではなかったのか?」

「いえ・・・その、はやてちゃんから聞いていた年齢と変わらなすぎるって思ってまして・・・。」

「・・・・どういうことだ?」

 

ヒイロはリィンフォースⅡに視線を向けはしなかったが表情に明らかに疑念のものを浮かべる。

変わっていないならまだ判断の余地はあるが、変わらなすぎるとは一体どういうことだろうか。

アインスもヒイロと同じような考えに至ったのか疑問気な表情を浮かべていた。

 

「ヒイロさんが行方不明になった闇の書事件からもう10年の時が流れているのです。それなのに、ヒイロさんは皆さんから聞いたお話と全然変わらないというか・・・身体的成長が見られないというか、なんというか・・・。」

「10年・・・・!?待て、それは一体どういうことだ・・・?」

 

ツヴァイの言葉にアインスは目を見開き、驚愕といった表情を浮かべる。

ヒイロとアインスにとって闇の書の出来事はまだ一時間くらい前のことだ。それにもかかわらず、はやて達の間ではすでに10年前の過去の出来事と化している。

 

「・・・・俺は次元震に巻き込まれて、アインスは俺を追いかけるようにこの列車の中にいた。体感的な時間は然程経っていないはずだ。ならばつまり俺にとっては闇の書の事案はつい先程の出来事だが、はやて達にとっては10年も前のことになっているのか?」

「・・・・ヒイロさんのその言葉が事実だとすれば、お二人は時間跳躍をしてしまったのかもしれません。ヒイロさんの目線から10年後の世界へと。」

「魔法や転生を繰り返す書物に、挙げ句の果てに時間跳躍か。」

「・・・・あれ?それほど狼狽えたりはしないのですね。」

 

呆れた口調ながらも狼狽するような様子を見せないヒイロにツヴァイは首を傾げながらそう尋ねる。

 

「慌てている時間があるのであれば、目の前の熟さねばならないことを片付けることをやっていた方が時間の無駄がない。」

「それもそうですね・・・。」

 

暗に列車の停止を優先しろとヒイロから言われたツヴァイは苦笑いを浮かべながら列車のプログラム復旧に意識を向ける。

アインスも視線をレーダーに戻し、列車の状況を確認する。列車内には目の前にいるツヴァイの他に四つの魔力反応が存在する。

前半車輌に降り立った二つはヒイロが金属反応を一掃していたため阻むものがなにもなく、7輌目へ無事到達する。

一方、後方車輌に降り立った二人は8輌目にいた一際大きい金属反応と戦闘中のようだ。

レーダー上ではどのような状況なのかを把握することはできないが、ちょうど列車から離れた反応にもう一つの反応が追うように離れていったところだ。

 

(・・・・・これは落下しているとかそういうのではないよな?)

 

一抹の不安が頭の中をよぎりながらもアインスはそのままレーダーの監視を続ける。

列車から離れていく反応の距離が徐々に近づき、その二つの反応が重なった瞬間ーー

 

「っ……!?膨大な魔力反応!!これは・・・召喚魔法の類かっ!?」

「あ、それでしたら多分、キャロさんの龍魂召喚なのです!!すっごい召喚魔法を持っているんですよ、キャロさんは。」

「・・・そ、そうか・・・。お前の仲間であるのなら別に構わないのだが・・・。」

 

アインスとツヴァイのそのような会話が行われた後、先程まで真っ赤に染まっていた画面やコンソールが緑色、つまるところ正常を示す色へと変わる。

 

「列車のプログラムの復旧任務完了。これよりオートからマニュアル操作へと切り替え、直ちに停止させる。」

 

ヒイロがそういいながら座っている席から別の席に座ると、ハンドルを握り、ブレーキを踏む。

列車の底部とレールが触れ合い、火花を散らし、甲高い音を辺りに撒き散らしながら列車は徐々にそのスピードを落としていく。

そして、慣性の法則により、体が前にもっていかれるような感覚を最後に列車は完全に停止した。

 

「列車の完全停止を確認。終わりか・・・。」

「お疲れだったな、ヒイロ。」

「問題ない。列車内部の状況はどうなっている?」

 

労いの言葉を言うアインスにヒイロがそう言うと彼女の視線はウイングゼロのレーダーに移る。

列車内には一際大きな金属反応が一つあったが、ちょうどアインスが視界に入れたタイミングでフッと消失した。

おそらく後半車輌に降りた二人組が討ち果たしたのだろう。

 

「・・・・列車内に金属反応はなくなった。」

「そうか。・・・・・リィンフォースⅡ。」

「えっと、ツヴァイで構わないのです。それで、どうかしましたか?」

「・・・・俺達はどうすればいい。お前の指示に従った方がいいのか?」

 

ヒイロのその質問にツヴァイは考えるような仕草を浮かべる。少し間の沈黙の後ーー

 

「でしたら、ひとまず付いてきてほしいのです。会わせたい人達がいるのです。」

「・・・・・なのはとフェイトか?」

「はいです!!」

 

ヒイロは運転席から立ち上がるとツヴァイの先導で先頭車輌を後にする。

破壊した金属反応の正体が散らばる車輌の廊下を歩いていくとヒイロは不意にツヴァイに質問をする。

 

「そういえば、俺が破壊したあの機械はいったいなんだ?」

「・・・・・その質問に答えるのはもうすこし後でも構いませんか?アレに関しては色々と機密なのです・・・。」

「・・・・・わかった。」

 

しばらく車輌内を進み、中央の7輌目に差し掛かったところでヒイロとアインスは二人の人影を目にする。

片方は快活な印象を受ける顔立ちに紫色のショートカットにした髪、そして白い鉢巻を巻き、右手に巨大な車のホイールがついたようなナックルを展開していた。

もう一方はオレンジ髪をツインテールに、どこだかきつい性格を思わせるように表情にはあまり余裕が感じられないように思える。

ハンドガンのような形をした銃を持っていることから中・遠距離を自身の間合いとする人物なのだろう。

その二人が羽織っているバリアジャケットはどことなくなのはのバリアジャケットに似ていると思ったが口に出すことでなかったため心の中に留めることにした。

 

「ヒイロ、私は少しウイングゼロの中に戻っている。」

「・・・唐突だな。何か理由でもあるのか?」

「・・・・もっともらしい理由はないのだが、強いて言うのであれば、フェイト・テスタロッサのため、だな。」

 

アインスはそれだけ言うとその半透明な体をウイングゼロの中に入り込んでいった。

ヒイロはその言葉を疑問気に思いながらも深く追及することなく、ただ間違えてもゼロシステムを起動しないように思いながらプカプカと空中を浮遊するツヴァイの後を追う。

 

「あ、リィン曹長!!お疲れ様です!!って、アレ?そこの人は一体・・・?」

「・・・・成り行きでこの列車の停止作業を手伝ってくれていた人、ですね・・・。」

 

こちらに気づいたショートカットの少女がツヴァイにヒイロのことを尋ねる。

しかし、ツヴァイは少々歯切れの悪い返事をした。いきなり時間跳躍で10年前から来た人と言ったところでとてもじゃないが、信じてもらえるとは思えない。

 

「なるほど、乗り合わせた人ですか!それでしたら無事でよかったです!!」

 

どうやら、このショートカットの少女は物事をそんなに深く考えないタイプのようだ。どう取り繕ってもツヴァイのあの対応が良いとは言えないのにこの反応の仕方である。

 

「・・・・・。」

 

対照的にオレンジ髪の少女は先程の少女とは違って、ヒイロに訝しげな視線を向けている。

 

「・・・・色々と聞きたいことがあるのはわかるが、俺がこの列車に乗り合わせたのは事実だ。」

「・・・・そうですか、でしたらひとまずそういうことにしておきます。」

 

ヒイロが言った言葉にツインテールの少女はひとまず引き下がってくれた。

とはいえ疑いの目が晴れたわけではないため、ヒイロのこの後の行動によっては彼女の視線はきつくなるだろう。

 

「そういえば、レリックの回収は無事に済みましたか?」

「はい!!ちゃんと確保に成功しましたよ!」

 

ツヴァイのその言葉に箱状のものを掲げながら嬉しそうに笑みを浮かべる少女。

どうやらその金属製の箱の中に入っているのが件の高エネルギー体のようだ。

 

「スバルさん、ヘリまでの道をお願いしますのです。」

「わっかりましたぁ!!」

 

『Wing Road』

 

スバルの足のローラースケートのデバイスからそのような音声が流れると自身の足元から青白い光で構成された足場を外で待機しているヘリに伸ばす。

 

 

「少しそこで待っていてくださいなのです。ってあれ、アインスさんは?」

「席を外している。構う必要はないとのことだ。」

「そうですか・・・・。」

 

先にスバルとオレンジ髪の少女を外で待つヘリに向かわせ、ツヴァイは何やら通信機に向かって言葉を送った。

 

「リィンフォース?どうしたの、私たちに会わせたい人がいるって・・・。」

「局内ならまだ分からない訳じゃないけど、こんな任務中に?」

 

ヒイロの視界から隠れて見えなかったが、声色的になのはとフェイトがすぐそばまで来ていることは察することができた。

 

「はいなのです!!なのはさんやフェイトさん、そしてはやてさんが絶対に喜ぶ人なのです!!」

 

ツヴァイのその言葉に疑問気な表情を浮かべるなのはとフェイト。さながら皆目見当もつかないと言った様子だ。無理もないだろう、彼女たちがこれから会うのは行方不明になって以来10年も会っていない人物なのだからーー

 

 

「それでは、出てきてくださいなのです!!」

 

ツヴァイのその声に促されるように車輌内から姿を現わす。その姿が徐々に明らかになるにつれ、疑問気だったなのはとフェイトの表情は驚嘆のものへと変貌していく。

そして、その全身がなのはとフェイトに見えるまで姿を現したヒイロは二人の驚く顔を見つめる。

 

「・・・・10年ぶりのようだな。やはり容姿もかなり変わっているか。」

「嘘………ヒイーーー」

 

なのはがヒイロの名前を言おうとした瞬間、ヒイロは片足を軽く後ろに引き、半身を逸らした。次の瞬間、そのすぐそばを風が吹き荒れ、ガンッというぶつけたような音が辺りに痛々しく響き渡る。

その音は先を歩いていたスバルとオレンジ髪の少女の二人組が思わず振り向くほどだ。

 

「・・・・フェイト。ブリッツアクションを使いながら突っ込んでくるな。」

 

呆れるような口調でそういいながら自身の後ろで列車の外壁にぶつけた額をさすっているフェイトに声をかける。金の糸のように煌めく髪はツインテールではなくロングに下ろし、その身長は既にヒイロを超えているくらいまでに成長していたが、その赤いルビーのような瞳は昔のままで、10年ぶりにヒイロと出会ったからなのか、はたまた額をぶつけたことによる痛みからなのかは定かではなかったが、既に潤んでおり、今にも涙が溢れ出そうだった。

 

「夢………じゃ、ないん、ですよねっ………!!!!」

「ああ。現実として、俺はここにいる。」

 

そうフェイトに背を向けて言った瞬間、今まで溜め込んでいた涙を堰き止めていたダムが壊れたのか溢れ出んばかりに涙を零しながら、ヒイロの背中に飛びついた。かなり強い衝撃がヒイロを襲うが彼の強靭な肉体はその衝撃にビクともせずにフェイトの体を受け止める。

 

「今の今まで、どこで何をしていたんですか………!!!貴方が居なくなってから、私は、わたしはぁ………!!!」

 

ヒイロを抱きしめたまま、フェイトは嗚咽を零しながら、涙が頰を伝い、ヒイロの服を濡らしていく。

それにもかかわらずヒイロは彼女を振り払うことはなく、なすがままを貫く。

 

「フェイトちゃん………。」

 

親友であるフェイトの様子になのはも思わず瞳を潤ませていた。突然居なくなってもう二度と会うことができないと思っていた人が今、こうして目の前にいるのだ。

 

「あ、あのー・・・なのはさん?フェイト隊長、どうしちゃったんですか?」

「あ・・・・。」

 

フェイトの様子が変わったことが気になりだしたのか、彼女の隊の一員であるスバルがそう聞いてくる。

隊長としての体面を保つため、なのはは潤んだ瞳を擦りながら、彼女らに向き直る。

 

「えっと、ごめんね。あんなところ見せちゃって・・・。」

「い、いえ、そんなことはないんですけど・・・。」

「ですけど、フェイト隊長、本当にどうしたんですか?いつも穏やかな印象を受けるあの人があんなに・・・。」

 

オレンジ髪のツインテールをもった少女、ティアナの言うこともわからない訳ではない。

いつも穏やかな口調で人と応対する彼女が感情を前面に押し出し、ましてやあのように人目も憚らずに泣き出すなど、イメージとはかけ離れていたからだ。

 

「あの人、何者なんです?乗り合わせたって言ってましたけど・・・・。」

「え、乗り合わせたのならそうなんじゃないの?」

「このバカスバル。このリニアレールは元々貨物列車なのよ?そんなのに乗り合わせたとか考えなくても嘘だってわかるでしょ!?普通だったら犯罪よ犯罪!」

「ご、ごめんてばティア・・・。」

「・・・・ヒイロ・ユイ。それがあの人の名前なんだけど、私やフェイトちゃんが出会ったのは10年前の闇の書事件まで遡るの。」

 

スバルとティアナのそんなやりとりを微笑ましく思いながらなのはは自身とヒイロの出会いを語り始める。

 

ある夜の街で突然始まった、今は頼れる仲間であるが当時は敵同士だった者達との戦い。

 

そのまま訳がわからないまま戦い、傷つき、もう駄目だと思った。

 

そんな状況から救い出してくれたのは親友ではなく、はたまた自分の魔法の師匠でもなく、他ならぬヒイロであった。

 

「ヒイロさんは私やフェイトちゃんの師匠でもあるんだよ。」

「え、そうなんですかっ!?」

「あの人が・・・・!?」

 

なのはの言葉にスバルとティアナは驚きの視線を向ける。高町なのはと言えば、管理局の航空戦技隊において『エース・オブ・エース』の称号を持っていると言われるほどの有名人であり、管理局内では知らない人はいないと言わしめるほどだ。フェイトも管理局内ではかなりの知名度のある人物に数えられている。

その有名人達の師匠であると言う言葉にスバルはもちろんのこと、特にティアナは意外性を持った視線をヒイロに向けていた。

 

「でも、闇の書を巡る最後の戦いで結果的には大元の破壊までにはこぎつけたんだよ。だけどヒイロさんはその大元を破壊した時の次元震に巻き込まれて、今まで行方不明になっていたの。」

「そのなのはさん達の師匠が、今こうして目の前にいると・・・。そういうことなんですね?」

「うん、そういうことになるのかな。」

「・・・・・あれ?」

 

スバルの言葉に頷いているなのはの耳にティアナが疑問気に唸る声が聞こえた。

 

「ティアナ?どうかした?」

「・・・・闇の書事件って確か10年くらい前って言いましたよね。」

「うん。そうだけど・・・?」

 

なのはの疑問気ながらに言った言葉にティアナはヒイロに疑いの視線を向ける。どう見たってヒイロの年は自分とスバルと同じくらいのものだろう。

仮に自分と同じ16だと仮定して、闇の書事件が10年前だから、年齢はおよそ5才から6才ということになる。

 

(正直なところ、ありえなくない?)

 

弱冠6才の子供がいくら子供の頃だったとは言え、なのはとフェイト、二大巨塔の二人の師匠をできていたとはとてもではないが信じることができなかった。

 

 

「ティアナさん。」

「あ、リィン曹長・・・。」

「疑問に思うのも分かりますけど、今はレリックの運搬を・・・・。」

「え?」

 

ツヴァイの言葉に思わず自分の相方であるスバルの方を見やる。その彼女の脇にはレリックの入った金属製の箱ががっちりと挟まっていた。それを認識した瞬間、ティアナの体がワナワナと震え始め、爆発した。

 

「こんの、バカスバルーー!!!!さっさとそのレリックを置きに行きなさいっ!!!」

「うわわわぁーっ!?ご、ごめんってばーー!!!」

 

突然のティアナの怒声にスバルは驚いた表情をしながらヘリに向かって走り去っていった。

少々、いやどう取り繕ってもかなり抜けている自分の相方にティアナは思わず疲れからため息を吐いてしまう。

 

「その、すみません・・・。スバルはどうも抜けているところが・・・。」

「アハハ・・・・大丈夫だよ。」

 

頭を悩ます種に苦い顔をするティアナになのはも苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

「グスン・・・・。ごめんなさい、ヒイロさん。服を汚しちゃって・・・・。」

「気にするな。俺は気にしない。」

「貴方が気にしなくても私が気にするんですぅ……!!!」

 

ヒイロ自身、服を濡らされたことには本気で気にしていないため、憮然としているが、その濡れた肩の部分をフェイトが申し訳なそうな表情を浮かべながらグイグイと引っ張る。

フェイトが引っ張るとヒイロはそれを気にしていないという意志表示の現れで服を引っ張る手を引き止める。

そんなやりとりが帰還中のヘリの中で繰り広げられていた。

 

「おいおい。あれ、ホントにフェイトさん?やけに感情的になってるな・・・。なんか知ってるか、チビ共。」

「そ、そう言われても・・・・。」

「あの人が現れてからのフェイトさん、すっごく活き活きしているとしか・・・。」

 

ヒイロ達が乗っているヘリのパイロットである『ヴァイス・グランセニック』が驚いた表情を浮かべながらヘリの操縦席に比較的近くにいた赤毛の少年エリオと桃色の髪をしたキャロに聞いてみた。

ヴァイスの質問に二人は大した返答はできなかったが、それなりの年齢を重ねているヴァイスにはなんとなくだがその正体を知ることができた。

 

「なるほどなるほど・・・・フェイトさんもれっきとした女性だったという訳、か。しかもあそこまでのぞっこんぶりとはねぇ・・・。浮ついた話も聞かないのも頷けるねぇ。」

 

ヴァイスの言葉にまだ色を知らない子供勢二人はキョトンとした表情を浮かべるしかなかった。

 

 

 

ヘリのローターから響く揺れに身を任せていたヒイロだったがしばらくすると徐々に近代的な都市に見られる高層ビル群が見えてくる。

ヘリは構造的に宿舎と見られる海辺の建物に近づくと屋上のヘリポートにその身を下ろした。

 

「ここは、どこだ?」

「ここは私達が所属していて、はやてが部隊長を務めている機動六課、その隊舎。」

「はやてが部隊長、か。管理局に入局したのか?」

「うん。ヒイロさんがいなくなったあと、はやてや守護騎士達も管理局に入る形で保護観察処分が下されたの。」

「・・・そういうことか。」

 

ヒイロは近くの窓から様子を伺うと外には見たとこのある顔が揃い踏みになっていた。

守護騎士であるシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。

シグナムとヴィータは濃い茶色を基調とした制服のような服を着こなし、シャマルは医師でもやっているのか、白い服に袖を通していた。ザフィーラは狼の状態。それ以外の言い方は思い浮かばなかった。

 

そして、シグナム達と同じように濃い茶色の制服を着こなし、なにやら半信半疑のような様子でヘリを見つめる夜天の書の主、八神 はやての姿があった。

 

「ほい、到着っと。それでは長旅、お疲れさんした。フォワードの皆さん。」

 

パイロットであるヴァイスの声がヘリの中に響くと同時に徐に皆立ち上がり、ヘリから降りていく。

 

「ヒイロさん、行きましょう。はやてが待っていますから。」

「了解した。」

(・・・・外にはやてがいる。やはり10年経っているのはあながち嘘ではないようだ。車椅子がなければ動けなかったのがしっかりと両足で立てている。)

 

そばにいたフェイトに促されるように立ち上がると翼に抱かれた剣のネックレスーーウイングゼロのデバイスにそう小声で伝える。

 

(そうか・・・浸食は綺麗になくなったみたいで、本当に良かった・・・!!)

 

ウイングゼロから念話の形でアインスの声が響く。はやてがしっかりと浸食が治っていることに感極まっているようだ。

 

「ヒイロさん?」

「・・・・どうかしたか?」

 

なのはに声をかけられながらもヒイロはアインスの存在を悟られないように無表情を貫く。

 

「ううん、なんでもない。」

「そうか。」

 

なのはとフェイトに連れられるようにヒイロはヘリから降り、機動六課の隊舎にその足をつけた。

 

「・・・・本当に、生きていたのだな・・・・。」

「マジで生きてやがった・・・!!どういう身体してんだよ、アイツは・・・!!」

「・・・・あれ?ヒイロ君、10年前と然程成長していないような・・・?」

 

シグナム、ヴィータ、シャマルはヘリから降りてきたヒイロに思い思いの反応をする。ザフィーラもその鋭い目をどことなく緩めながらヒイロに向けていた。

 

「本当に、生きとったんやな・・・。よかった。」

「・・・・・ああ。」

はやてと言葉を交わすヒイロだったが、どこかよそよそしい彼女の声からヒイロは何かはやてが感情を押さえ込んでいるように見えた。機動六課の部隊長としての体面上、そう迂闊に泣き出すことができないのだろう。

 

「・・・・おい、いつまでウイングゼロの中で燻っている。出るなら出てこい。出てこないのであれば、俺にも用意がある。」

「・・・・ヒイロさん?」

(す、少し待ってくれ、心の準備がーー)

 

アインスの制止の声が響いている中、ヒイロはウイングゼロを展開する。それによりウイングゼロの中に入っていたアインスは無理矢理、外へ追い出されるようにその半透明で小さい体をはやての目の前に晒した。

 

「えっ・・・・リィン、フォー、ス?」

「えっと・・・・その・・・。」

 

震えるような口調で彼女の名を呟くはやてにバツの悪い表情を浮かべるアインス。

 

「嘘や・・・こんなん、夢じゃあらへんよな・・・?」

「消滅すると言った手前、非常に、言いにくいのですが、その・・・生かされてしまいました・・・・。ですがーー」

 

「また、会えましたね。我が主よ。私にはたったそれだけでも悔いはない気持ちです。」

 

笑顔を浮かべながらのアインスのその言葉が限界であった。ヒイロもそうだが、何より彼女にとって大事な家族ともう会うことはできないと理解していたところに、姿形が変われど、目の前に戻ってきたのだ。

 

「なんや……生きてるんなら、生きてるって連絡の一つくらいよこしいや……!!」

 

涙を零しながらはやては目の前の家族に笑顔を浮かべる。アインスもそのはやての涙に釣られるように目尻に涙を浮かべる。

 

「これにはかなり深い事情があるのです。ひとまず、ヒイロや私、そして主や守護騎士達を含めた主要な人間の全員で一度、情報の整理をさせてほしいのです。」

「・・・・わかった・・・!!みんな集めればええんやな!?直ぐに準備するから!!」

 

アインスの言葉にはやては目を擦りながら答える。その場にいた守護騎士達やなのは達も納得したような表情を浮かべる。

 

(・・・・確かに、一度情報の整理をする必要がある。俺とアインスは10年前からやってきた人間だからな。ここがどこで、世界情勢がどうなっているかさえわかっていない。)

 

ヒイロもアインスの言葉に同意の意志を示しながら、そのように結論づけた。

そこでヒイロは知ることになる。平和を脅かそうとする、新たな危機が既に目前まで迫ってきていることをーーー




sts時点でのなのは達の身長
はやて・・・150cm
なのは・・・およそ158cm
フェイト・・・およそ163cm

おまけ ヒイロ・・・156cm

つまり、はやて<ヒイロ<なのは<フェイトということになる。

ちなみに身長差が5cmから10cmくらいだとお似合いカップルに見られやすいらしい

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