魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
聴取会が一通り終わった後、はやてがこの世界に関してのことを話してくれた。
まず、現在ヒイロがいる機動六課が置かれている場所は第1管理世界 ミッドチルダと呼ばれる場所であること。
この世界にははやて達が所属している時空管理局の本部が地上と次元の海の二つに分けられて置かれている。
そして二つめはヒイロがリニアレールで接触したあの機械は『ガジェット』と呼ばれる機械兵器であること。このガジェットは『AMF』、略さずに言えば、アンチマギリングフィールドと呼称される、魔力を阻害する効果を持つフィールドを発生させることが可能とのことである。魔法攻撃の威力の減衰、無効化はもちろんの事、タイプによってはガジェットを覆うように展開されるAMFを広範囲に広げるなどと、フィールドの効果範囲内では魔法の使用に多大な影響を及ぼすらしい。
もっともウイングゼロにとっては根本的なエネルギーが違うため関係のないことであったが。
そのことをはやてから聞いたヒイロはあてられた部屋、というよりなのはとフェイトの自室にその部屋の主である二人と共に向かっていた。
「えっと、一応、ここがヒイロさんのというより私となのはの部屋なんだけど・・・。」
フェイトがそう説明しながらも僅かに申し訳なさ気な視線をヒイロに向ける。半ば無理やり自分の部屋にヒイロを招き入れたことが彼女の心の中で引っかかっているのだろう。
「・・・・もう過ぎたことだ。俺が何か不平不満を言うつもりはない。」
「・・・・・ありがとう。」
フェイトがそうヒイロにお礼を言うと部屋のドアの鍵穴に鍵を挿し込む。そのまま捻ると鍵が開いた音が周囲に響き渡り、部屋のドアが開かれる。
部屋の内装はさながらそこら辺の高級ホテルのようなものであった。
窓は広く、快適でなおかつ日光が入り込みやすい形状となっている。置いてある家具の類も見るからに質のいい原材料を使っていることは明白だ。
そして何より、デカデカとおかれたベッドはおよそなのは達ほどの身長であれば優に三人は寝られるほどの大きさはあった。ただし、その大きさ上、ベッドの数自体は一つしかないが。
「・・・・お前達、まさかとは思うがいつも同じベッドで寝ているのか?」
「え・・・・?うん、そうだけど?」
思わずヒイロはなのはに尋ねてみると、さも当然のような様子で頷いた。
この部屋を使わせてもらう以上、寝る場所といえば、あの大きなベッドしかないだろう。
つまり、ヒイロがそこで寝る=なのはとフェイトと同じベッドで寝るという方程式が成立してしまう。
「・・・・・安全に睡眠が取れるスペースがあるだけ、問題はないか。」
ヒイロとて人間の三大欲求である睡眠は必要だ。だが、ヒイロは今まで戦士として戦場で戦ってきた以上、睡眠時間は疎らになってしまうことは否めなかった。それこそ安全性を求めてしまうと自然と睡眠時間は短くなり、寝られるうちに寝ておくという思考へとなっていく。
そんなヒイロの年相応でない思考から導き出されたそんな判断であった。
「それじゃあ、私はシャーリーと一緒にレリックの解析に立ち会ってくるから。」
「私もスバル達の訓練に行ってくるね。一応、隊舎の中なら自由にしててもいいってはやてちゃんが言っていたから、部屋から出るときは鍵とかお願いね。」
「・・・・・まだリニアレールにおける事件が終わってから半日と経っていないが?」
「あのレリックは私やはやてが四年くらい前から追っている危険なものなの。時間の許す限り、少しでも早く、レリック関係の事件を終わらせたいの。」
「わたしはスバルやティアナ達が早く一人前になれるように休んでいる暇はないから、ね。」
「・・・・そうか。」
ヒイロがフェイトとなのはから部屋に関してのことを一通り聞いた後、二人はそれぞれ部屋から出て行った。なのはは新人達に訓練を施す戦技教導官として、フェイトは執務官として今回確保した高エネルギー体、レリックの解析へと向かった。
ちなみに執務官の単語を聞いて、ついでにクロノのことを尋ねてみれば、彼は現在艦隊の提督を務めているらしい。
そのうち彼とも顔を合わせる機会があるかもしれない。ヒイロはそんなことを思っていた。
ただ、そんなことを思いながらもヒイロは少し別のことが気がかりになっていた。
(・・・・なのはの歩き方、何か不自然だ。)
僅かにだが、なのはの歩き方に違和感を覚えた。常人であればあまり気づく可能性は高くないだろうが、人体の理解に関してもそれなりの心得があったヒイロには彼女の歩き方はどこか庇っているようにも思えた。
(・・・・何か、下半身に影響が出るほどのダメージを負ったか?)
一番は本人に聞くのが手っ取り早いが、確証も何もない状態で尋ねても、なのはの性格では確実にはぐらかすだろう。
ヒイロはひとまずなのはのことは後回しにすると首から下げてあるウイングゼロを手にする。
「・・・アインス。」
そう呼びかけるとネックレスからアインスが出てくる。半透明の体をフヨフヨと浮かばせている彼女は椅子に座っているヒイロを見下ろすような形を取る。
「どうかしたか?」
「聴取会の時に言ったお前に聞きたいことなのだが、現状、その姿ではどんなことができる?」
ヒイロがアインスにそう尋ねると彼女は指を顎にあて、考え込む仕草を取った。
しばらく二人の間で沈黙が走るが、ふとしたタイミングでアインスが考える仕草をやめ、ヒイロと向き直った。
「できることはかなり限られている。私自身にリンカーコアは残ってはいるがそれも一般的な魔導師に劣るレベルまで落ち込んでいる。精々ちょっとした魔法が使える程度だろう。」
「・・・・・なら、俺が今から言うことはできるか?使用する魔力の量は少量のはずだが、俺に魔力がない以上、どうやっても程度が知れん。」
ヒイロはアインスに自分が考えていることを伝える。それを聞いたアインスは納得した表情を浮かべると少しばかり考えたのちにこう答える。
「・・・・その程度であればできないわけではない。基礎中の基礎な上、それほど必要な魔力を要求されることはない使い方だ。が、それでも精々十分から十五分が限界だ。」
「問題ない。必要だと思った時にしか俺はお前に頼むつもりはない。」
「わかった。だが、お前が少しでもそう思った時は遠慮なく使って欲しい。私とてそこまで柔な存在で終わるつもりはない。」
「了解した。」
アインスの意志にヒイロは頷くことでそれを肯定する。やろうとしていたことを済ませたヒイロは表向きの情報収集のために部屋に備え付けられてあったテレビを点けた。そこにはバリアジャケットを着込んだ管理局の魔導師達が犯罪を犯したのであろうデバイスを持った人間を取り押さえている映像が映し出されていた。
「・・・・・・やはり、何処の世界、時代でもこのように魔法を悪用するような輩が現れるのだな。」
「・・・・・何処の時代、世界であろうとこうした人間が悪事を働くのは世の中に対する不満、不平などによるものがほとんどだ。それがなくなることはないだろう。だが、中にはこうした不満を持つ者たちを煽動し、何ら罪のない人間を巻き込む戦争へと発展させる奴らがいる。俺はそのような人間を許さない。」
悲しげな表情を浮かべるアインスにヒイロは淡々と自身の戦争への嫌悪感を露わにする。
珍しくヒイロが感情を表へ出したことにアインスは少しばかり面を喰らった表情を浮かべる。
「・・・・・。」
ヒイロは急に立ち上がると待機状態のウイングゼロを手にとって部屋から出ようとする。
「・・・・どこかへ行くのか?」
「少し外を回ってくる。お前はどうする?」
「あまりこの状態でいるのも疲れるからな。私もついていくよ。」
頷いたアインスがウイングゼロの中に入ったことを確認するとヒイロはなのはに言われた通りに鍵を閉めてから部屋の外へと出た。
隊舎の外へ出てみるとすぐ近くにポツンと離れた小島に孤立したビル群が存在しているのが確認できる。
「・・・・ここに来るときにあのようなものはあったか?」
「いや・・・あれは幻だな・・・。僅かにだがあの空間一帯に魔力反応がある。」
「・・・・魔法によるホログラムか?」
「その認識で問題ないな。ちなみにあそこになのは達やスバル・ナカジマやティアナ・ランスターといった新人組もいるようだな。」
つまりなのはが部屋から出て行く時に言っていた訓練というのはあそこでやっているのだろう。
そう判断したヒイロはその訓練施設の元へと歩を進める。
しばらく訓練施設の方へ足を進めているとその小島に繋がる橋が架けられてある場所に燃えるように赤い特徴的な髪色を持った小柄な少女の姿が見える。
「ん・・・?おお、ヒイロ、それにアインスもか。訓練の様子でも見に来たのか?」
「外へ出てみれば、見慣れないビル群が聳え立っていたからな。」
ヒイロの気配に気がついたのか後ろを振り向いた赤毛の少女、ヴィータにヒイロがそういうと納得のいった表情を浮かべる。
「これは六課の技術陣が制作してくれたシミュレーターシステムだ。結構作りは精巧だぜ。」
「見ればわかる。再現性がかなり高いのはもちろんだが、実体性も持ち合わせているのか?」
「見ただけでそこまでわかっちまうお前もお前だな・・・。その通りだよ。このコンソールから色々できるんだよ。」
そういいながらヴィータは自身の目の前に映し出されているディスプレイに視線を向ける。
その映像にはシミュレーターの中の様子が映し出されていた。
映像を見る限り、今はどうやらなのはの操るアクセルシューターを避けるなり迎撃する訓練を行なっているようだ。
「・・・・基本に忠実だな。基礎的な動きを徹底させているのか。」
「・・・・・お前はどう思う?このなのはの訓練。」
ふとヴィータがそんなことを聞いてきた。ヒイロは何気なく答えようとしたが、ヴィータの真剣味を増した表情に気づく。
その表情はさながらヴィータにとってこの質問はかなりの重要性を持っているようにも感じられた。
「・・・・戦場において、基礎がしっかりしているのとしてないのでは動きにかなりの違いが出てくる。その分、無駄な怪我を負う可能性も低いだろう。なのはの基礎に忠実な訓練の方向性は間違ってはいない。」
「そうか・・・ならいいんだ。お前がそう言ってくれるとこっちも自信がつくってもんよ。」
そう安堵の表情を浮かべるヴィータにヒイロは少しばかり疑念の表情をする。
訓練でも真剣にやらなければならないのはヒイロにとってわかりきっていることだ。しかし、ヴィータのそれは何かなのはに対して不安気なものを抱いているようにも感じられる。
「・・・・・ヴィータ、お前に一つ聞きたいことがある。」
「ん?なんだ?」
「・・・・・・俺がいない間、なのはの身に何かあったのか?空を飛んでいるところからはわからないが、歩き方に何か庇っているような不自然さが見受けられる。さながら、腹部、ないしは骨盤に重大な怪我でも負ったか?」
「っ・・・・!?」
ヒイロのその言葉にヴィータは目を見開き、驚きの表情を露わにする。
その反応だけでヴィータが何か知っているのは明白であった。
「・・・・知っているようだな。」
「・・・・・そこまでわかってんなら、アタシじゃなくてなのは本人に直接聞いたらどうなんだよ。」
「なのはの性格を鑑みるに話すとは思えん。」
ヴィータはその様子が易々と思い浮かんだのか苦い表情を浮かべ、視線を暗く落とした。
「そのことに関して、アタシはお前に謝んなきゃなんねぇ・・・。」
ヴィータの沈みきった声にヒイロはもとより肩に乗っていたアインスも怪訝な表情を浮かべる、
「・・・・お前がいなくなったあの時からちょうど2年くれぇ経ったころ、まぁ今からだと大体8年前ってところだったな。」
ヴィータはポツポツと語り始める。闇の書事件から2年ほど経ったある雪の降り積もる日、管理局所属の魔導師となったなのはとヴィータはとある任務に赴いていた。
二人の実力を鑑みれば大したことも起こらずに任務を終えるーーそう思っていた。
「お前がいなくなった後、なのはは必死に魔法の練習をしてたんだよ・・・。多分、お前ん時みたいに手を伸ばすことができなかった奴を作らないためなんだと思う。」
しかし、その儚い願いは無情にもなのはの体を無機質な棘が刺し貫くという最悪の形をもって打ち砕かれる。
「止めるべきだったとは今になっても思っている。だけど、お前がいなくなった悲しみはわからない訳じゃなかったからやりすぎだと思いながらも誰も止めなかった。そのツケが、出たんだろうな。」
「・・・・・それで、なのははどうなったんだ?」
「なんとか死ぬ心配はなかったんだけどよ、あとちょっと反応が遅れていれば、瀕死で、最悪二度と飛べなくなっていたほどだった。そこら辺はお前の肉体強化の賜物だったんだろうよ。ギリギリ反応していたみたいだったからな。」
「・・・・あれほどオーバーワークは止せと言ったはずだったのだがな。」
「それに関して、側にいてやりながら止められなかったアタシの責任だ。悪かった。」
呆れた口調で教導を行なっているなのはに向けて言葉を放つヒイロにヴィータは頭を下げた。
「・・・・お前に落ち度はない。全てはなのは自身のミスが招いたことだ。」
「で、でもよ・・・。」
「アイツは自分の体がまだ出来上がっていなかったにも関わらず、自らの力量を見誤り、過信し、自滅したに過ぎん。それだけだ。」
ヒイロはそれだけ言うとヴィータから視線を外し、機動六課の隊舎へと戻っていった。
アインスはヒイロの肩から飛ぶと悲痛な表情を浮かべながら視線を落とすヴィータに接近する。
「・・・・ヴィータ、あまりヒイロに悪い気を起こさないでやってくれ。」
「わかってる。ヒイロはアタシに落ち度はないって言ってくれてるけど、あの事件に至ってはアタシが気をつけていれば防げたことだったんだ・・・。」
ヴィータはそう言って訓練施設のエリア内が映し出されているディスプレイに視線を移す。
その映像にはスバル達に懸命に指導をしているなのはの姿があった。
「だから、アタシがなのはを守るんだ。もう二度と、あんなことにならないように。」
ヴィータの決意とも取れる言葉だったが、その様子にアインスはどこか難しめな顔を浮かべていた。
「・・・・ヴィータ、お前が自責の念に苛まれるのはわかるが、それは
「え・・・・?」
「・・・・・いや、忘れてくれ。独り言だ。」
呆けた表情を浮かべるヴィータを尻目にアインスは先に隊舎へ戻ったヒイロのあとを追い、その場を後にした。
「そこまで変わらなければならない、か・・・・・よく、わかんねえよ。」
アインスの言葉にヴィータは悩ましげに頭を掻き分けるだけであった。
再びヒイロの元へ戻ってきたアインスはその小柄な体をヒイロの肩に預ける。
それに気づいたヒイロは一度視線をアインスに向け、確認するように彼女を見やるとすぐさま視線を正面に戻した。
「ヴィータの方はいいのか?」
「ああ。・・・・・というより、これはヴィータ達の問題だから私がずけずけと入り込んでいい問題かどうか判断しかねている、というのが正直なところだがな。あくまで私やヒイロはその場に立ち会っていない、いわば全貌を何も知らないような立ち位置なのだからな。」
「中途半端に知った顔をすると事態が悪化しかねない。そういうことか。」
「まぁ、私からお前に頼むとすればいつもと変わらない様子で接してやってくれ、というところだな。元工作員ならそれくらいのポーカーフェイスくらいはできるだろう?」
「・・・・・わかった。」
そのまま六課の隊舎のエントランスを潜ると何人もの濃い茶色の制服に身を包んだ管理局の職員達が書類などを片手に歩きまわっている様子が見える。
「そういえば、はやてのところへはまだ行っていないのか?」
「ああ・・・・そうだな。主に時間が空いているかどうかは定かではないが、一応、顔は見せに行きたい。」
「了解した。」
ヒイロは管理局の職員が忙しなく動き回っている中を進んでいく。隊舎の間取りについてはなのはとフェイトに部屋へ案内されている時に覚えたため、特に迷うことなくはやてのいる部隊長室へと到着する。
スライド式のドアの横に設置されてあるボタンを押すと中から来客を告げるブザーが鳴り響く。
「はーい。入ってどうぞー。」
程なくして中からはやての入室を許可する声が聞こえてくるとヒイロはドアの前に立った。空気が抜けるような音が響くと同時に目の前のドアが横へスライドし、ヒイロは部隊長室の中へと入室する。
そこでははやてが映し出されるディスプレイとにらめっこしながら仕事をしている光景があった。
「どちらさまー・・・ってヒイロさんやないか。アインスも一緒か?」
「わぁー!!ヒイロさんなのですー!!」
僅かにディスプレイから視線を外し、来客がヒイロだと視認したはやては嬉しそうに表情を綻ばせながら席から立ち上がった。
隣ではツヴァイが小さな机から身を乗り出しているのが見えた。おそらく彼女専用の仕事用デスクなのだろう。
「主はやて、どうやら仕事があまり済まされていないようですが、また時間を改めた方がよろしいでしょうか?」
アインスのこの言葉にはやては彼女が部隊長室にやってきた理由を察した。はやてはディスプレイを確認して、急がなければならない書類などがないことを確認すると再度ヒイロ達に向き直った。
「そんなに急がなあかんものはないから大丈夫やで。それはそれとして、アインス、今は夜天の書の管制人格なわけやないから別に主呼びはせぇへんでええんやで?私的には普通にはやてって呼んでほしいんやけど、ダメ?」
「う、ん・・・・。ぜ、善処は、します・・・。」
中々歯切れの悪いアインスの返事だったが、はやては彼女のそのような反応にも笑顔を示した。
「アインスにとってはまだ闇の書事件から1日も経っておらへんからな。そんなすぐに改めてなんて言わへんでー。」
そう柔らかな笑顔を浮かべるはやてにつられるようにアインスも表情を柔らかなものへと変える。
「それで、来てくれた理由はアインスがどうして消滅から逃れられたのか、それを教えに来てくれたんやな?」
「そうですね。先ほども言いましたが、お仕事がまだ済んでおられないようでしたら、また改めて来ますが。」
「大丈夫ー大丈夫ー。多分、長くなるんやから席に座って話しよか。」
はやてが部隊長室にある来客との対談用の椅子に腰掛ける。ヒイロもはやてが座った後に彼女から促されるように席に腰掛ける。
体が小さい二人の妖精は机の上に直接座るような形となってしまうが、それを咎めるようなことはしない。
「お茶とかいる?」
「・・・・・飲めるのか?」
「・・・・そういえば、どうなんだ?」
はやての問いにヒイロは半透明な体と化しているアインスに視線を向ける。自分が食事などの摂取が可能かどうかがわからなかったアインスは軽く首をかしげる。
「アインスもそうやけど、ヒイロさんはいるんか?」
「・・・・もらおう。」
「ツヴァイもいるー?」
「ありがとうです!」
先ほどの問いが本来は自分に向けられていたことを察したヒイロは一応もらうことをはやてに伝える。
程なくしてヒイロの前にお茶が差し出される。
「はい。味は地球のものと同じかわからんけど。」
「問題ない。味に関して俺がとやかく言うつもりはない。」
ヒイロはそう言うとはやてが入れてくれたお茶を口にする。アインスはおそるおそる小さなカップ、推察するにツヴァイ用の容器なのだろう、そのカップからお茶を少しだけ飲んでみた。一応、お茶が体を貫通するなどと言うことはなく、お茶は問題なくアインスの体に吸い込まれていった。
軽く喉を潤したヒイロとアインスは再びはやてに視線を移した。
そして、アインスが闇の書からの分離を果たすまでの経緯、夢の世界で生まれた存在ながら、本体に反抗し、祝福の風を未来へと送り届けた者達の物語を話した。
「・・・・なるほどなー、闇の書の内部に広げた夢の世界の人達、か。聞いているだけやとかなりメルヘンチックやけど、その夢の世界はヒイロさんとフェイトちゃんの記憶を基に作り上げたんやっけな。え、でも一応本来であればその夢の世界の人達はアインスの管理下にあるんやったっけ?」
「基本、夢の世界の産み落とされた人間達は対象を夢の世界から抜け出さないように引き止めるなりなんなりの反応をするのですが・・・。今回は、特にヒイロの記憶から生み出した者達はその夢の世界が偽りであり、なおかつヒイロがそれを望んでいないことすらもわかっていたらしく、かなり好き勝手やられましたね。」
アインスの苦笑いを浮かべながらの言葉にヒイロは夢の世界で再会したあの少女と子犬、そしてかつて敵対したエピオンを駆りながらも自分を援護してくれたゼクスのことを思い返していた。
「もっとも、彼らのその好き勝手のおかげで私はこうしてはやてと会話できているので、今となっては彼らには感謝の思いしかありませんが。」
「なるほどなぁ〜。ありがとな、教えてくれて。」
「いえ、謎を謎のまま残していくわけにははやての仕事柄、厳しいと思いますので。」
「い、一応ある程度までは寛容でいようとは思ってるんやけどな・・・・。そういう子、結構ウチにはおるし・・・,」
乾いた笑いを浮かべるはやてに表情を緩めたアインスの顔が映り込む。ヒイロはその二人の邪魔をしないように静かに黙っていたのだがーー
「あ、せや。ヒイロさん、今度ちょっと付き添ってくれへんか?」
「唐突だな。どうかしたのか?」
「今度、任務で海鳴市に行かなきゃならへんのだけど、リンディさんやエイミィさんが海鳴市におるんよ。ヒイロさんにとってはそんなに月日が経っていないけど、久しぶりに顔を出しに行かへんか?絶対喜ぶと思うんやけど。」
「・・・・・・いいだろう。断る理由もないからな。」
ヒイロのその返答にはやてはうれしそうな表情を浮かべるのであった。
(・・・・海鳴市、か。あまり実感は湧かないが、10年という長い年月が経っている今、どうなっているのだろうな。)
ちょっと本文中であまりうまく描写できてないような気がするので補足を少しだけ書きます。
ぶっちゃけるとStsにおけるなのはの撃墜事件ですが、それほどなのは自身に深い損傷はありません。
せいぜい横の脇腹が臓器に影響が出ない程度に貫通されて、半年近く入院していました。
余談ですけど、フェイトちゃんは一回しか執務官試験を落ちていない感じになっています。