魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
なのは達の午前中の教導の様子をヴァイスとシグナムと一緒にディスプレイ越しに見ていたヒイロ。
やがて時間も過ぎていき、一通りの区切りが良くなったのかスバル達がヘトヘトになったところで午前中の訓練は終了した。
あとは午後から海鳴市に赴くことになっているため、所定の時刻まで時間を潰すだけだったのだが・・・・。
「なぁなぁ、ヒイロさん。ちょっと時間ええか?」
「はやてか。部隊長であるお前がわざわざ食堂にまで来て何の用だ?」
食堂で適当にミッドチルダについてのことを調べていたヒイロにはやてが声をかける。ちなみにアインスはテーブルの上で大人しくしていた。
ヒイロが調べ作業を中断し、はやてに視線を向けると、彼女はヒイロと向かい合うように席に着いた。
「いやな・・・ちょーっと寝耳に水をぶっかけられたような噂が六課の隊舎で広まっとってな。そのことについてヒイロさんに聞きに来たんや。」
「噂・・・?まだここに来て1日と経っていない俺がそれに関して知っていると思うか?」
「まぁ普通ならそうやねんけど。その噂の出所がヒイロさんなんよ。」
はやての言葉にヒイロは疑問気な表情を浮かべる。はっきり言ってヒイロには自覚が一切なかったし、何か身に覚えのあるようなこともなかったがーーー
「・・・・周りの奴らから妙に視線を感じるようにはなったな。もっともそれは突然現れた俺という存在そのものに対してのものだと思っているが。」
「・・・・・ふ〜ん。アインスは何か知ってそうな顔をしとるけど、なんか分かる?」
突然自分に向けられたはやての言葉にびっくりしたのか肩を一瞬震わせたアインスは凄く心当たりのありそうな表情をしながらはやての方にゆっくりとその視線を合わせる。
「・・・・・・すみません。あれは私がヒイロに変にはぐらかさせたからだと思います。」
「ほほ〜ん。はぐらかさせたとは、どんな風になんや?ヒイロさん、私に一言一句違えずに教えてくれへんか?」
「あまり意図が読めんが・・・・。《半ばフェイトに強請られる形だった上にろくに睡眠が取れなかった。》スバル・ナカジマ達に話したのはこれだ。」
『はぐらかした言葉』というのでヒイロが頭に浮かんだエリオとキャロに配慮した形で言ったことをはやてにそのまま伝える。
それを聞いたはやてはわずかに頰を赤らめ、引きつったような笑みを浮かべた。
その表情には僅かにだが、不安気なものも入り混じっているようにも思えた。
「それで、その噂とは一体なんだ?」
「うえっ!?え、っと・・・・その、な・・・?」
そのはやての反応を当たりだとつけたヒイロはそんな彼女の狼狽えてる様子にも一切触れることなく、一気に本題に踏み込んだ。
それにはやては赤くなった頰をさらに真紅の色に染めながら歯切れの悪い返事をする。ヒイロがはやての様子に訝し気に眉を顰めているとーー
「えっと・・・・聞くん?ホントに?」
「聞いておいた方が後腐れもないだろう。」
はやての頰を染めながらの通告にヒイロは普段通りの無表情で頷いた。
それを見たはやては顔を赤面させながら落ち着きがなさそうにしていた。
「・・・・・ヒイロさんとフェイトちゃんが、昨夜はしっぽりやっとったんやないかーって噂が・・・広まってまして、ね・・・?」
そして、視線を右往左往させながら顔を俯かせ、口に出すのも恥ずかしそうな様子で人差し指同士をその顔の前でツンツンとつつきあわせながら言ったはやての言葉にヒイロはあまり理解できていない表情を浮かべる。
「・・・・・しっぽりの意味は知らないが、要は俺がフェイトに対して昨日の夜何をしていたかで噂が立っているということか?」
「う、うん!!そ、そういうことや!!あ、別に無理して言わんでええからな!!?ヒイロさんにもプライバシーってもんがあるし!!」
「問題も何も、フェイトが俺の膝に頭を乗せてきただけだ。」
「・・・・へ?膝に、頭を・・・・?」
「ああ。」
「それって、つまり、膝枕っちゅうわけやな?そうやな!?」
「・・・・お前が何故声を荒げたのかは詮索はしないが、あの行為自体に膝枕という名称があるのならば、そうなのだろう。」
ヒイロの言葉に惚けたような表情をあげるはやてにヒイロはその無表情の顔で頷く。少しばかりはやてが固まってはいたが、辛うじて意識を取り戻すと、ヒイロに微妙な表情を向ける。
「つ、つまり、寝られなかったって言うのは、夜中ずっとフェイトちゃんに膝枕していて寝ようにも寝られなかったっちゅうわけやな?」
「俺が昨日のことに関して話そうとした時、側にはエリオとキャロがいた。アインスから二人にその話をするのはどうかという意見を聞いて、ある程度ははぐらかすことにした。その結果がさっきのだ。」
しばらくはやては呆然としていたが、ふと椅子の背もたれにもたれかかると重荷が降りたかのように脱力し、息を大きく吐いた。
「よ、よかったぁ〜……。てっきり先越されたかと思ったわ〜……。」
「・・・・どういうことだ?」
「ん〜?こっちの話やからヒイロさんは気にせんでええよ〜。これは私自身の気持ちの問題なわけやからな。」
そういいながらおどけた表情をしながら手をひらひらとさせるはやてにヒイロは訝し気な視線を送りながらも追及はしないことにした。
「とりあえず、話してくれてありがとな。じゃ、私はまだ少しやることがあるから、また後でなー。」
そういいながらはやてはヒイロに笑顔を振りまきながら食堂から去っていった。その足取りはどこか軽いように感じられたのは見間違いなのだろうか?
「・・・・・やはり、エリオとキャロに配慮しすぎたか・・・。」
その言葉は一応アインスに向けられたものであったが、アインスから何の返答もなかった。そのことに気づいたヒイロはテーブルの上の彼女に視線を向けると、なにやら考え込むような仕草をしている彼女が目に留まった。
「・・・・やはり、私は主を応援したい・・・・。するべきなのだ・・・・!!」
「・・・・お前は一体なにを言っているんだ・・・?」
発言の内容が理解できなかったヒイロはアインスに冷ややかな視線を向けることしかできなかった。
「・・・・そっかー。フェイトちゃん、膝枕してもらったんかー・・・。羨ましいから、私も今度頼んでみよっかな♪」
そういいながらはやては気分が向上したような雰囲気を出しながら部隊長室へと戻っていった。
はやての取り調べを済ませたヒイロは一度中断したミッドチルダについての情報を食堂に備え付けられてあるテレビから暫定的にまとめていた。
(ミッドチルダ・・・管理局の地上本部が置かれている国でいう首都のような次元世界。管理局の地上本部はミッドチルダにおける事件の解決を主だった任務にしているようだが・・・・。)
テレビからは本当に世間一般的なことしか知ることができない。
ヒイロはそのことに関して悩まし気に腕を組み、背もたれに軽くもたれかかった。
(・・・・しかし、やはりというべきか情報端末からのデータがほしいな。公共機関からでは情報に限りがある。はやてに六課の端末を使わせてもらえるように頼んでみるか。魔法技術に頼っているのであれば、ハッキングもある程度は容易いかもしれん。)
「あの〜・・・・ヒイロさん?」
呼ばれた声に反応し、聞こえた方角に視線を向けてみるとそこには管理局の制服に身を包んだなのはがいた。何事かと思ったが、なのはの表情はなぜか微妙な笑顔を浮かべ、若干申し訳なさそうにしていた。
「・・・何か用か?」
「・・・・えっと、私が何か用があるって訳じゃないんだけど・・・。食堂の入り口に・・・・。」
なのははその微妙な視線を別の方向に向けて、ヒイロもその視線を追うように食堂の入り口に向ける。そこには食堂の入り口から僅かに顔を壁の淵から覗かせながらヒイロを睨んでいるフェイトがいた。
「・・・・・行った方がいいのか?」
「えっと・・・そうしてくれると、フェイトちゃんの気も収まるんじゃないかな……よく分からないけど、うん。」
自分に言い聞かせるように頷いたなのはにヒイロは軽く息を吐くと席から立ち上がり、フェイトの元へと向かった。
「・・・・・・どうかしたか?」
「・・・・・エリオとキャロに何か昨日の夜のことで言いました?絶対言いましたよね。二人から色々聞き出されそうになった挙句になんだかみんなからいい笑顔で見られてすっごい恥ずかしかったんだよっ!?」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしながらもムスっとした表情をヒイロに向ける。ヒイロは特に動じることはなかったが、ひとまずこちらの言い分も聞いてもらうために口を開く。
「・・・エリオとキャロに配慮しただけだ。もっともそのまま伝えても良かったが、アインスからぼかした方がいいと言われてな。」
(・・・・・た、たしかに二人にはまだ早いとは思うけど・・・!!思うけどぉ・・・!!)
ヒイロは知らないが、自身の養子となっているエリオとキャロを案じて話したということにフェイトは少しばかり気まずそうな表情を浮かべる。
「うう・・・。で、でもそれで変な噂とか流れちゃったら・・・!!」
「どうやらその噂とやらは既に流れているらしい。先ほどはやてから事情を聞かれたついでにその概要を聞いた。」
「え、嘘・・・・。その噂とかって、一体どういうものだった?」
「・・・・あまり言葉の意味がわからなかったが、しっぽりやっている、などと言っていたな。」
その言葉を聞いた瞬間、ボンッという火山が噴火した音が鳴り響きそうな勢いでフェイトの顔が急激な速度で深紅に染まる。
「だが噂とはその内消えるものだ。過度に気にすることはーーーー顔が真っ赤になっているな。どうした?」
(しししししし、しっぽり・・・!?そ、それってつ、つまり・・・・!!)
フェイトの脳内で構築されていく妄想。ヒイロが声をかけても何も反応が返せないほど集中したそれはもはやリアルと遜色ないレベルで広がっていき、フェイトの思考回路はたったそれだけに占領される。
しかし、リアリティの度合いが高すぎたそれは時に、現実にも影響を及ぼす。
脳内で繰り広げられる行為はやがてフェイトの羞恥心のゲージを振り切りーー
「きゅう…………」
フェイトは顔を真っ赤にしたまま目をグルグルと回し、気絶する。しかし、そこはヒイロの超人的な反応速度で彼女の背中に手を差し込み、身体を支える形でフェイトが床に叩きつけられないようにする。
「・・・・・顔を真っ赤にしたと思えば、目を回し、挙句の果てに気絶か・・・。症状が急すぎることから鑑みるに風邪などを引いたわけでは無いと思うが・・・。」
「・・・・テスタロッサ。お前は一体なにを想像した・・・。」
ヒイロとアインスは腕の中で目を回しているフェイトを見て、そう述べるのであった。
「・・・・・えっと、フェイトちゃん。どうしちゃったの?」
様子を見にきたのか、なのはがヒイロに後ろから声をかけた。口ぶりからしてある程度の状況は分かってはいるようだ。ヒイロは倒れたフェイトを肩に担ぐと、徐に歩き出す。
「原因不明だ。急に顔を赤くしたと思えば何故か倒れた。とりあえず部屋に担ぎ込む。なのは、お前も来い。人手が多いことに越したことはない。」
「う、うん。わかったよ。」
ヒイロが担いでいるフェイトの肩とは逆の肩を担ぐなのは。二人がかりで倒れたフェイトを自室へと担ぎ込んだ。
ベッドで寝かせると、数分としない内にフェイトが目を覚ました。フェイトは少しばかり覚束ない視線を動かすとベッドのそばで自身を見下ろしているヒイロの顔が目に入る。
「む・・・・起きたか。」
「ヒ・・・イロ、さん?・・・ここは?」
「お前となのはの部屋だ。俺が話している途中にお前が急に倒れたから担ぎ込んだ。僅かでも起きるのが遅ければ、はやてに報告をしにいくつもりだったが、それは杞憂だったようだな。」
ヒイロが座っていたベッドの淵から立ち上がると部屋の出口へと歩を進める。
「そろそろ海鳴市に赴く時刻だ。着替えるのであればさっさと着替えるんだな。」
それだけフェイトに伝えて、ヒイロは部屋を出て行った。部屋の外ではなのはがドアのそばに立っていた。
「フェイトが起きた。後は頼む。」
「ありがとう。側に居てくれて。」
「・・・・・俺が側にいたところでフェイトに何らかの効果がある訳ではないと思うが・・・・。ひとまず、俺は先にヘリポートへ向かっている。」
「うん、わかったよ。それじゃあまた後でね。」
ヒイロは部屋に入っていくなのはと入れ違いになるような形で二人の部屋から離れ、隊舎の屋上のヘリポートへと向かう。
屋上への扉をあけ放ち、ヘリポートに足を踏み入れると既にそこにははやてを筆頭にザフィーラを除いた守護騎士達とツヴァイ。そして、スバル達新人四人組が勢ぞろいしていた。
「・・・・ザフィーラがいないが・・・奴は残るのか?」
「ザフィーラはお留守番やな。最低限の人員はやっぱり残しておかなあかんからな。」
一瞬、ザフィーラに同情が湧いたが、ザフィーラなら己に課されたことを理解しているだろうと判断してそれ以上、彼に関しては考えないことにした。
「そういえば、高町とテスタロッサはどうした?」
「直ぐに来るはずだ。」
シグナムの問いにヒイロがそれだけ返したタイミングで屋上になのはとフェイトの姿が現れる。
海鳴市に向かうメンバーが揃ったのかはやての号令でヘリに乗り込んだ。
「ヴァイス君、出発進行や!!」
『了解!!行くぜ、ストームレイダー!』
『OK. Take off』
操縦席に座ったヴァイスが自身の相棒に呼びかけると、ストームレイダーは一瞬その身を輝かせるとヘリのローターを作動させ、ヘリの鋼鉄の身を空へと飛翔させる。
しばらくローターから響く振動に身を任せていた瞳を閉じていたヒイロだったがーー
「・・・・ねぇねぇティア。ヒイロさん、寝てる?」
「わ、わかんないわよ、そんなの。」
ローターの音でかき消され気味だが、ヒイロの耳に二人分の声が届く。口調や音が聞こえた位置関係的に誰が話しているのかを逆算する。
「・・・・何か俺に用か?スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター。」
「っ!?」
「お、起きてたんですか!?」
「ローターである程度は掻き消されるとはいえ、ヘリの中は閉鎖空間だ。嫌でも声は響く。」
閉じていた瞳を開き、その声の主であろうスバルとティアナの二人に視線を向ける。スバルとティアナはどこか申し訳なさげな視線をヒイロに向けていた。
「その、あたし達の勘違いで変な思いをさせて、ごめんなさい・・・。」
ティアナの謝罪の言葉が述べられたと同時にスバルが焦ったような素振りを見せながら頭を軽く下げる。
勘違い、というので朝の食堂でのやり取りのことを言っているのは明白であった。
「・・・・アレは勘違いさせるような説明をしたこちらに非がある。それに伴った噂話は自身で蒔いた種のようなものだ。お前達が気にやむことはない。」
「その、フェイト隊長にも嫌な思いをさせたとは思うんですけど・・・。」
「え?あぁ・・・うん。別に私も気にしてはいないからそんなに畏まることはないよ。」
続けざまにフェイトに向けられたスバルの言葉に一瞬惚けた表情を浮かばせながらも気にしていないことを露わにするためにフェイトは首を横に振った。
「でも………」
「ティアナ、二人が気にしてないって言っているから、そのくらいでいいんじゃないかな?」
「なのは隊長・・・・?」
それでもなにやら表情を沈ませているティアナになのはが声をかける。俯かせていた顔を上げるとなのはの緩んだような笑顔が視界に入る。
「まぁ、勘違いがきっかけにはなっちゃったんだろうけど、そもそもの原因は変にはぐらかしたヒイロさんにある。それはヒイロさん自身がわかっている。だったらティアナに責任みたいなのはないんだよ。」
「・・・・そう、なんでしょうか?」
「・・・・いちいち抱え込んでいると疲れるだけだ。時にはそこで物事を流す心構えを持っておくことも重要だ。心的負担を抱えたくなければな。」
なのはの言葉にヒイロが援護射撃をする。ティアナは僅かに表情を緩ませると少しだけ笑顔を浮かべた。
「・・・・・もっとも差し金は別にいるがな。」
(・・・・すまない、本当にすまない・・・・。)
そう言葉を零したヒイロの脳内にはウイングゼロにいるアインスの言葉が響いていた。
その後、空気を読んでいたのか、はやてによる今回のロストロギアの捜索任務についての説明がなされる。
今回の任務の概要を知らないままヘリに乗っていたことにヒイロは僅かに眉をひそめたが、訓練に追われている日々が続いているのであれば、伝えられないのも仕方ないと割り切って傍観者に徹していた。
しばらく和やかな雰囲気がヘリを包んでいると、今回の件とは別に何か用があったのかはやて、シグナム、ヴィータ、シャマルの四人は海鳴市に向かう転送ポートにたどり着く前に先に降りた。後で現地で合流する算段らしい。
その時にシャマルがツヴァイに服を手渡していたが、明らかにそのサイズはツヴァイの小さな体では大きすぎて着られないサイズのものであった。
ヒイロがそれに怪訝な顔を浮かべていると、突然ツヴァイの身体が光に包まれる。
何事かと思っているとツヴァイの妖精のように小さかった身体がエリオとキャロの身長と同じくらいまで成長していた。
その現象にキャロやエリオ達新人はもちろん最初こそ面食らうヒイロだったが、すぐさま脳裏にアルフやユーノといった変身魔法が使える人物達がいることを思い出して、そういうものかと結論づけた。
「なん・・・・・だと・・・・・!?」
一番驚いていたのはアインスだろう。妹のようなものができたと思っていたら、身長を自在に変えられ、なおかつそれが優に自身を越していたとなれば、ショックは軽いものではないだろう。
はやて達を降ろしたヘリが再度上空へ飛び上がると程なくしないうちにまたその身を地上へと降ろす。おそらく地球への転送ポートがある場所へ着いたのだろう。
その証拠に通信機を取ったヴァイスの顔がヒイロ達の方へ向けられた。
「到着っと。そんじゃ隊長格の皆さんは頑張ってきてくだせぇ。新人どもも頑張ってこいよ。」
見送るためにヘリのエンジンを切り、降りてきたヴァイスにスバル達は手を振り返すことでそれに答える。
なのはとフェイト、それにヒイロもヴァイスの見送りに手を振り返すなり視線を返すだけだったりとそれぞれの反応を見せながら七人+一匹(フリードリヒ。キャロの使役している龍。)は地球への転送ポートを潜る。
転送ポートを潜ったヒイロ達は飛ばされるような浮遊感に包まれながら地球へと転送される。
やがて光が収まって、目が開けるようになると、そこには一面が緑に覆われた森が広がっていた。
野鳥のさえずりが響き、新鮮な風が辺りを吹き抜ける。ヒイロ達は床が丸や四角の模様が入ったコテージへと転送されていた。
「・・・・そういえばここはどこだ?」
「ここは管理局に協力してくれている現地の人の別荘。ちゃんと許可は取ってあるよ。」
ヒイロの疑問になのはが答える。別荘ということはかなりの資産家であることは明白。しかし、そのような人物は海鳴市にいたかと言われれば長い時間を海鳴市で過ごした訳ではないヒイロには思い浮かばなかった。
少し待っていると、コテージに一台の車が停止する。おそらく現地の協力者だと思いながらも警戒を緩めないヒイロの視界に入ってきたのは、ブロンドの髪を腰まで棚引かせた女性が車から降り、こちらへ走ってくる様子であった。
どこかで見覚えのあるような気がするが、それはすぐに確信に変わる。
理由としてそもそもヒイロは海鳴市で出会った人間は両手で僅かに数えきれないくらい少ない。その中でブロンドの髪を持った女性と言えば一人しか該当者はいなかった。
「・・・・アリサ・バニングスか。」
「あら、私の名前を知っているなんて、向こうでも結構名が知られて、い、る・・・・?」
ヒイロから名前を呼ばれたことで名がミッドチルダでも知られてると思ったのかアリサがヒイロの方に視線を向けた。そして徐々に声が搔き消えると同時にアリサの表情が驚愕のそれへと変貌する。
「う、ウソ・・・・!?ヒイロ・・・?アンタ、ヒイロ・ユイなの・・・!?」
「ああ。お前と会うのは10年振りのようだが、俺にとっては一昨日振りだ。」
「ちょちょちょ!!なのはっ!?アタシが見てるの、幽霊なんかじゃないよね!?全然変わってないんだけど、ヒイロの身長!!」
「ちゃ、ちゃんと生きてるから・・・ね?ヒイロさんに失礼じゃないかな、それ。」
苦い笑みを浮かばせながらヒイロが生きていたことに心底から驚いているアリサに静止の声をなのはがかける。
「・・・・そ、そうね。ヒイロのことはひとまず置いておくわ・・・。えっと、アリサ・バニングスよ。よろしく。」
『よ、よろしくお願いします・・・・。』
アリサの先ほどの狼狽え振りを見てしまった新人達も苦い笑顔でアリサに挨拶を返す。
「で!!アンタはこの10年一体全体、どこで何をしていたのよ!!」
スバル達に挨拶をするやいなや険しい視線をヒイロに送るアリサ。対するヒイロはいつもと変わらない様子でアリサの視線を見つめ返す。
「さっき言ったはずだ。お前に会うのは俺にとっては一昨日振りのことだと。」
ヒイロの言葉にイマイチピンと来ないアリサ。その様子を見かねたフェイトがヒイロの事情を説明する。
「・・・・10年の時間をタイムスリップっ!?つまり、ヒイロの身長が全然変わってないのは・・・10年前の過去からそっくりそのままやってきたってことっ!?」
「そういうことになる。」
驚きに満ち溢れたアリサの確認にヒイロは淡々と頷く。それを見たアリサは僅かに頭を抱えたような仕草をする。
「なるほど・・・だいたいの事情はわかったわ。だけど言いたいことはいっぱいある。でもなのは達も仕事で来ているから手短にこれだけは言っておくわ。」
「後ですずかやリンディさん達にも会うこと!!いいわね!!」
「・・・・元からそのつもりだ。」
「ならアタシからなんも言わないわ。それじゃあアタシは用事とかあるからこれで帰るわね。そっちの仕事が終わるまで、このコテージは拠点みたいな感じで好きにしてちょうだい。」
「アリサ・・・・ありがとう。」
「何言ってんのよ。友達でしょ。」
そう言ってフェイトのお礼に笑顔で応じるとアリサは乗ってきた車に乗り込もうとする。しかしーーー
「あっ!!言い忘れてた!!ヒイロ!!」
突然閉じかけたドアから身を乗り出してヒイロの名前を叫ぶ。何事かと思いながらその様子を眺めていると、アリサはニヒルな笑みを浮かばせながらヒイロを指差す。
「もう絶対になのはやフェイトを悲しませないこと!!もし悲しませたらアタシの全力全開でアンタをぶっ飛ばすから!!」
「・・・・・了解した。」
ヒイロの言葉に満足したのかアリサは最後に表情を綻ばせると車に乗り込み、走り去っていった。
「・・・・変わらない奴だ。」
「それがアリサちゃんのいいところでもあるからね。」
「ヒイロさんがいなくなった後にアリサは私やはやてにも世話を焼いてくれたからね。」
ほとんど10年前と変わらないアリサの様子にヒイロは僅かに肩をすくめ、なのはは笑顔を浮かべる。
フェイトはさながら昔を懐かしんでいるような笑みを浮かべていた。
ヒイロの海鳴市での任務はまだ始まったばかりだ。彼には会わなければならない人物がたくさんいる。ヒイロはその人物達を思い浮かべながらコテージではやて達を待つことにした。
今回の海鳴市への任務はドラマCDからです。ですが、どこを探しても動画等で見ることが叶わなかったので、展開自体は他の小説を参考にしている節があります。そこら辺はどうか了承してくれるとありがたいですm(._.)m
それと実はキャロにフリードリヒの紹介をヒイロに対してさせていないということに最近気づいた。