魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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第3話 始動する異質な歯車

(・・・・どうしよう、こっちから話しかけちゃったから何か話題を出すべきなんだろうけど・・・。)

 

フェイトは少々気まずそうに視線を目の前の男性(ヒイロ)に向ける。

しかし、当のヒイロはまだ話すことは叶わないためフェイトに視線を合わせ、首をキョトンと傾げるだけで、だんまりを貫いたままだ。

しばらくお互いの間で沈黙が走る。

 

(き・・・・気まずい・・・・。というより、お願いします。そのあどけない瞳をやめてください・・・。話しかけた私の身がもたないからぁ・・・・。)

 

あまりにも無言な間が多かったため、フェイトが精神的にその場にいられなくなりそうになったその時ーー

 

「んー?フェイトー?何やってんの?」

「あ、アルフっ!!」

 

救いの手が舞い降りた。声のした方向へ振り向くと彼女がとてもよく見知った人物、というより使い魔がいた。オレンジ色の髪におよそ人間にあるはずのない獣耳と尻尾を有しているその使い魔の名前は『アルフ』

彼女はフェイトとの付き合いはとても長く、主従を超えて、その繋がりはパートナーや姉妹と言える域まで達しており、ある意味、フェイトの家族であった。

アルフは嬉しそうなフェイトの表情を見て、満足感に満ち溢れるが、彼女が嬉しそうな表情をするのはあまりない。おそらくその前に何かあったはずだろう。そう思ったアルフは視線の先に見知らぬ男がいることに少なからず嫌悪感を抱いた。

 

「アンタ、フェイトに何かしでかそうとしてたんじゃないだろうね。」

 

睨みを効かせた視線でその男であるヒイロを見つめるが、ヒイロは特に意にもかさないと言った様子でその場を後にしようとする。思わずアルフは追いかけようとしたがーー

 

「ア、アルフ、あの人に最初に話しかけたのは私の方なんだから、そんなに睨んじゃダメだよ・・・。」

「え、そうなの?」

 

自分のご主人であるフェイトから静止の声がかかる。その言葉にアルフは踏みとどまって、伸ばそうとしていた手を引っ込めた。

踏みとどまったアルフに対して、フェイトは再度、何処かあてもなく彷徨うように歩いているヒイロの後ろに再び立った。

 

「フェイト、大丈夫なの?」

「うん。まずは、話してみないと分からないから。」

 

長年連れ添っているのもあってアルフは彼女が何をしようとしているのかを察して、心配そうな視線で見つめた。

フェイトはアルフのその視線に笑顔で答えると、ヒイロに向かって声をかける。

 

「あの!!」

 

ヒイロは今度は自分のことだと分かったのかフェイトの呼びかけに対して、一回で振り向いた。

 

「私は、フェイト。フェイト・テスタロッサです。あなたの名前を教えてくれませんか?」

 

かつて自分に対して、名を聞いてきた自分の友達のように彼の名前を聞く。

 

もっとも、今のヒイロは名前はおろか、自身の記憶が全て吹っ飛んでるので答えようがないのだが。

 

そんなことは露知らず、フェイトもヒイロの口が開くのを待ってしまっているため、お互いの間でどうしようもない沈黙が続く。

その沈黙を打ち破ったのはーー

 

「あら?貴方、もう医務室から出ているのね。」

「リ、リンディ提督っ!?」

 

様子を見にきたリンディであった。予想外の人物の登場にフェイトは少々上ずった声をあげる。

 

「フェイトもいるのね。ちょうど良かったわ。」

 

リンディはそういうとフェイトとアルフにヒイロのことの説明を始めた。

 

「記憶が、一切ないんですか・・・?」

「ええ、そうね。この前、たまたま見つけた冷凍睡眠カプセルの話があったでしょう?それの解凍を行った結果、この子が出てきたんだけど、記憶が一切ないのよ。事実上の赤ん坊状態ね。それにだいぶ冷凍されている期間が長かったのか、喉の機能もまだ十全なくて、話すことができないのよ。」

「しっかし、フェイトよりは年上のようだけど、まだ子供だろ?ソイツを冷凍睡眠させた奴の意図が知れないね。」

 

リンディからそのことを聞いたフェイトは少しばかり申し訳ない気持ちに苛まれた。

 

「わ、私、事情を何も知らないで名前を聞き出そうとしてました・・・・。」

「あー、うん。それはしょうがないと思うわ。事情を知らなければそうなっちゃうのも致し方ないわね。」

 

リンディからフォローの言葉を向けるとフェイトは視線をヒイロに向ける。

 

「あの・・事情を何も知らずにお名前を聞こうとしてしまってごめんなさい。」

 

そう言って、軽く頭を下げるフェイトに対して、ヒイロの反応は、彼女の頭に手を乗せることであった。

軽く彼女の金髪を触るように撫でるとほんの少しだけ表情を緩めた。

 

「気にしていないそうよ。」

 

リンディがヒイロの気持ちを代弁するように伝えるとヒイロはフェイトの頭から手を離した。

フェイトも顔をあげるが、表情には若干恥ずかしいものがあったのか軽く赤らめていた。

 

「何というか、感情まで吹っ飛んだ訳じゃあないみたいだね。」

「そうらしいわね。」

 

その様子を微笑ましそうに見つめる保護者枠の二人なのであった。

 

 

「それじゃあ、行ってきます。」

「ええ、行ってらっしゃい。」

 

手を振るフェイトにリンディが振り返す。

今、アースラはフェイトの裁判のために一度次元世界の第1世界であるミッドチルダの周辺次元まで来た。

実際にミッドチルダまで行くのはフェイト、アルフ、そして、弁護として付いていくクロノとユーノ・スクライアという少年であった。

リンディとヒイロは見送りとして、彼女たちが使う転送ゲートの側にいた。

ヒイロは見送りとしてはその場に立っているだけだったがーー

 

「フェイトは貴方にも手を振っているのよ。振り返してあげたら?」

 

リンディにそう言われ、彼女の真似をするような形でフェイトに向けて軽く手を振った。

やがて、転送ゲートから光が溢れるとそこにフェイト達の姿はなかった。

 

「あとは待つだけ、かしらね。」

「あ、提督、ちょうどいいので報告もしていいですか?」

 

軽く息を吐いたリンディにエイミィが声をかけた。

 

「どうかしたの?」

「えっとですね。この子のデバイスの件なんですけど・・・。」

 

リンディが内容を尋ねるがエイミィの声は少々言いずらそうにしていた。

少しゴマゴマした様子を見せたエイミィに疑問気な表情を浮かべる彼女だったが、程なくしてその報告を口にする。

 

「こちらでかなり調査はしたのですが、プロテクトが硬すぎて、大した成果が得られなかったんです。まるで調べられるのをデバイス自身が拒否しているみたいだったんです。」

「・・・それで、わかったことはあったの?」

 

リンディがそう促すとエイミィは説明を続けながらコンソールパネルを操作する。

 

「はい。ですが、本当に微々たるものです。わかったのがこのデバイスの名前くらいで・・・。」

 

エイミィの操作でモニターにある名前が映し出される。

その名前はーー

 

 

『XXXG-00W0 Wing Gundam ZERO』

 

 

「ウイング・・・・ガンダム・・・・ゼロ?」

「おそらく、そう呼ぶのだと思います。それとこの形式番号ですが、該当しそうなものはミッドチルダではヒットしませんでした。」

「少なくともミッドチルダ式ではないデバイス、そういうことなのね。」

 

 

リンディの確認とも取れる言葉にエイミィは静かに、それでいて確かに頷いた。

その報告にリンディは頭を抱えるような仕草を見せる。

 

「こういう時は所有者である君に聞くのがいいのだろうけど・・・・。」

 

リンディはそういいながら側にいるヒイロに視線を向けるが、記憶を失っているヒイロは何も知らない、というより覚えていないと言った様子で首をかしげるだけであった。

 

「記憶がない以上、無理に問い質すことはできないものね・・・・。エイミィ、時間がかかってもいいから解読に全力をかけてって言えばできる?」

「・・・・それは、難しいかと思います。私も含めて全力で事に当たりましたけど、これが精一杯で・・・いや、というよりこれだけ、ですね。この名前を知ることができたのも調べている最中に突然出てきたものだったので。まるで、デバイスに温情をかけられた気分です。」

 

エイミィの意気消沈といった様子にリンディはそれ以上は言えなかった。

 

「わかりました。ひとまずご苦労様、一度解読班には休息を設けます。英気を養うといいわ。」

「すみません。力が及ばなくて・・・・。」

「いいのよ。気にしなくて。今はしっかりと休みなさい。」

 

 

 

 

そして、日付をしばらく進めた12月2日。この日、裁判に赴いていたフェイトに裁判所より保護観察処分が下った。これは事実上の無罪判決であった。

その報告を聞いたリンディは肩の荷が下りたように表情を綻ばせた。

 

「ふぅ、いくら無罪が決まっているとはいえ、実際に判決が下されるのは緊張するわ。」

「・・・・そういうものなのか?」

「そういうものなのよ。」

 

リンディの言葉にぶっきらぼうにも反応したのはヒイロだった。日々をしばらく過ごしたからか、まだ口調が覚束ない時もあるが簡単な会話は難なくこなせるほどには回復した。

あとは、フェイトたちの帰りを待つだけ、そう思われたその時、アースラの管制室でけたたましいほどの音が鳴り響いた。

同時に画面にAlertの文字が表示される。そして警告音、つまり、異常事態だ。

何かが起こり始めた。

 

「艦長!!海鳴市に突如として封鎖結界が展開されましたっ!!」

「っ!?まさか、なのはちゃんが狙われたっ!?術式の解析を急いで!!」

 

不測の事態だったが、焦るような表情を見せず、リンディは迅速に指示を飛ばす。

ただちにエイミィとアレックスと呼ばれた管制官が結界の解析作業にかかった。

しかしーー

 

「これ、術式がミッドチルダ式じゃありません!!解析には時間がかかります!!」

 

エイミィの悲鳴のような声が管制室に響く。それと同時にモニターの一部によくわからない文字の羅列が現れる。おそらくあれが結界の術式、という代物なのだろう。

 

「術式が、違う・・・?転送装置はっ!?」

「問題なく座標の設定はできています!!ですが、それはあくまで行きだけで、帰ってくるには結界の破壊が必要です!!」

 

アレックスが解析を行いながらもそう答える。

 

「っ・・・・。不味いわね、クロノは少し出払っているし、フェイトちゃんたちが帰ってくるのもまだ少し時間がかかる・・・。」

 

リンディが状況を整理するが、現状、そのウミナリシという場所に行ける人物はいないらしい。

移動手段はあるが、行く人間がいない。ならばーーー

 

「リンディ。」

「・・・・なにかしら?」

 

込み入っている状況にも関わらず、リンディはヒイロに視線を向けてくれる。

 

「・・・・俺が出る。偵察ぐらいにはなるはずだ。」

 

ヒイロがその言葉を発した瞬間、管制室に沈黙が走った。

 

「ちょっと待って・・・・。貴方、正気?」

 

リンディが眉間に手を当てながらヒイロに確認するような視線を向ける。

 

「ああ。そうだが?」

「あのねぇ・・・。向こうの状況はなにがあるのかわかったものじゃないのよ!

場合によってはとんでもないやつがいるかもしれないのよっ!?」

「関係ない。俺は借りを返すだけだ。ただし、俺なりのやり方だがな。」

 

リンディの張り詰めた声にヒイロは特に表情を変えることはない様子でまっすぐに彼女の目を見つめる。

アラートの警告音が響く中、しばらくリンディとヒイロの間で均衡状態が続く。

 

「・・・・はぁ、目覚めた時はまだ愛嬌があったと思うのだけど・・・。おそらく、それが本来の貴方なのでしょうね。」

「・・・悪いが、俺がまだ記憶を失っているのは事実だ。」

 

ヒイロは軽く沈んだ表情をする。リンディはそれを見ると表情を柔らかいものにしながらヒイロに忠告をする。

 

「・・・・わかったわ。でも、無茶だけはしないこと。危険な状況になったらすぐになのはちゃんに頼ること!!多分、現場にいるはずだから。」

「・・・了解した。」

 

その様子はさながら手のかかる息子に注意をしている親のようにも見えた。

ヒイロはそのまま転送ゲートまで向かう途中、リンディが何かを思い出したような表情をした。

 

「あ、そうだ。貴方、忘れ物よ!!」

 

若干ヤケになってきているのか、リンディはヒイロに向けて、何かを投げ渡した。

ヒイロは片手でそれを受け取ると疑問気な表情を浮かべながら、それを確認する。

ヒイロの手には彼が目覚めた時にあった翼に抱かれた剣のネックレスがあった。ヒイロは少しばかり困惑した表情でリンディに視線を向ける。

 

「これは・・・。いいのか?」

「貴方がそれに関しての記憶がなかったとはいえ、見つけた時に貴方のそばにあったのであれば、それは貴方のものよ。お守りがわりみたいな感じで持って行きなさい。」

 

そう言って、リンディが軽い笑みを浮かべている様子を見るとヒイロは転送ゲートへと入り込んだ。

 

「エイミィ。転送ゲート、起動させて!!」

「了解!!」

 

エイミィがコンソールパネルを操作すると転送ゲートが虹色の光に包まれる。

 

「フェイトちゃんが戻り次第、すぐにそっちに向かわせるわ。だから、それまでは絶対に生きているのよ。」

「・・・・任務了解。」

 




原作1話、始まりますっ!!
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