魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜 作:わんたんめん
前回までのフェイトそんの膝枕事案が終わり、時系列的に含まれていたドラマCDの海鳴市での任務の情景を書いていた。
だが、俺はドラマCDの情報を集めるのに集中しすぎて、視界の端にいたたぬきの尻尾に気づかなかった。
そのたぬきに頭を殴られ、気絶していたらーーー
はやてメインの小説が出来上がってしまっていた!!!
おふざけです。ですが、マジで何やってんだ自分。まーた懲りずになんかやってるよ。
追記
UA100000突破しました!!前作に続いてここまで読んでいただけるとは思いもしませんでした!!ありがとうございます!!
ヒイロにとってはアリサと会うのは一昨日振り、アリサにとってはヒイロと会うのは10年振りの再会をしたのち、コテージで先にヘリから降りたはやて達を待った。
程なくしてアリサが車でコテージの敷地から出て行ってすれ違いのような形ではやて達がコテージに現れた。
「久しぶりにアリサちゃんと会ってみてどやった?」
コテージで荷物の整理や部屋割りなどをやっているとはやてが唐突にそんなことを聞いてくる。ちなみに一部屋三人までということだったのと極端な男性陣の少なさにより自動的にエリオと同室になった。
「・・・・変わらない奴だった。」
「まだすずかちゃんとかおるからな。一応、ヒイロさんが生きていることを教えてはいるけど、みんな揃って驚いた顔を浮かべていたで?」
「そうか。」
「・・・・・反応薄くない?」
「俺にとっては一昨日振りだ。たとえ身体的に成長していても顔を合わせるのが憚られる理由にはならん。」
訝しげな表情を浮かべるはやてにヒイロが顔を合わせることになんら引け目がないことを伝えると、その表情はどこか安心したようなものへと変える。
「そういったブレへんところ、私は結構好きやで。」
「そうか。」
「・・・・前言撤回や。やっぱヒイロさんも少しくらいブレてほしいわ。」
好意をしれっと伝えたのだが、眉ひとつ動かさずブレる様子が一ミリもないヒイロの対応に軽く肩を落とすはやてだった。
しばらく荷物の整理を行い、ある程度区切りがつくとはやては全員を一度コテージのリビングに集めさせた。
「まずは任務の概要のおさらいや。今回、第97管理外世界もとい地球でロストロギアの反応が見つかった。私たちの今回の任務はそのロストロギアの確保なんやけど。この世界には魔法技術がないのは話したな?」
はやての説明に元々地球出身であったり事情を知っている守護騎士達はもちろんのこと、スバル達新人四人も頷いた。
「魔法技術がないということはイコールみんながいつも使っているような空間パネルを公衆の前では使えないってことや。そこでーー」
はやては手にしていた袋を弄ると食いかけのりんごのようなマークが施された四角い物体を取り出した。
「これ、この世界の通信端末や。任務中は基本、この機器を用いて連絡を取り合うからそれぞれ使い方を覚えてな。特にスバル達は慣れないかも知れへんからもし分からんことあったらなのはちゃんやフェイトちゃんといった人に聞いてな。」
そういいながらはやては全員に通信機器を配っていく。あまり見慣れないものなのか、スバル達は貰った通信機器をマジマジと見つめていた。
無論、ヒイロも例外ではなく、はやてからその通信機器を渡されそうになったがーー
「はやて、少し時間をくれるか?」
「ん?どしたん?」
そういいながらヒイロはリンディから押し付けられた携帯をとりだす。疑問気だったはやての表情は旧式ながらヒイロが携帯を持っていたことに驚いている表情に変わる。
ヒイロは今となっては既に古い折りたたみ式の携帯の画面を開き、状態を確認する。
しかし、画面に光が灯ることはなく、携帯は一切の反応を示さない。
どうやら次元跳躍した時にこの携帯も壊れてしまったようだ。
「・・・・破損したか。部品を調達し、分解して直すのも手段のひとつだが、お前からの支給品を貰った方が手っ取り早いか。」
ヒイロは壊れた携帯をしまうとはやてから通信機器を貰った。
画面を付けるとヒイロはその通信機器の機能をざっくりとみていく。
しばらく画面を見ていたが、一通りの機能を理解、把握したヒイロは画面の電源を切った。
「おおよそ理解した。かなりの機能がこの通信機器ひとつに導入されているな。」
「えっ!?もう理解したんですかっ!?」
「いや・・・メールと電話の機能を把握するだけでしょ・・・。」
ヒイロが速攻で携帯の機能を把握したことにスバルが驚愕の表情を浮かべながら視線をヒイロに向けた。
ティアナはそんなスバルに呆れたような表情を向けながら同じように機能の把握をしていた。
一通り携帯についての使い方を覚えたことを確かめ合ったら、はやての説明は次の段階に進む。
「それじゃああとはメンバー分けやな。スターズとライトニング。それぞれ二人一組で市内を移動しているであろうロストロギアの探索や。」
「あれ、それだとヒイロさんは・・・?」
ヒイロはなのはが隊長を務めるスターズ小隊とフェイトが隊長を務めるライトニング小隊のどちらにも配属されているわけではない。であればヒイロは一体どうするのだろうか?
疑問気な表情を浮かべるフェイトに対して、はやては少しばかり申し訳なさげな顔をしながらヒイロに視線を向ける。
「ヒイロさんはちょっと私の私情に付き合ってもらおうかなって。世話になった人に会える時に会っておきたいんや。」
「・・・・了解した。」
はやてのいう『世話になった人』に心当たりがあるのか納得している表情のフェイトを尻目にその視線を向けられたヒイロは特に何か言う訳でもなく、はやての私情への同行を承諾する。
「まぁ・・・部隊長の私だけ私情で動くのはあかんから、みんなも探索の合間に普通に海鳴市を見て回ってきてもええで。ちょっとした休暇やと思ってな。」
「え、休暇、ですか?」
スバルの言葉ににこやかな笑顔を浮かべるはやて。
「それじゃあ、あとはなのはちゃん達に任せるわ。シャマル、悪いけど留守番よろしくな。」
「ええ、任せて。でも、石田先生と会うのっていつぶりだったかしら・・・?」
「確か、かなり間が空いているのは確かだったな・・・。」
シャマルの疑問にシグナムが顎に手を乗せながらそんなことを口にする。
「まぁ、最近まで六課を建てるためにずーっとミッドチルダのあちこち走り回っていたからなぁー・・・。カリムと同じくらい会っていないかも・・・。」
そう言って微妙な表情を浮かばせながら頰を掻くはやて。どうやらその石田先生とは前回の再会からかなり時間が経っているようだ。
ヒイロは石田先生という人物に思案を巡らせるが、そのような人物には記憶がなかった。名前を聞いてないか、そもそもとして会ったことがない人物か。
そこでヒイロは一度思考を打ち切り、前々から気になっていたことをはやてに尋ねることにした。
「はやて、一つ確認したいことがある。」
「ん?どうかしたん?」
はやてがその声に反応し、ヒイロの方に視線を向ける。その視界にはヒイロがどこかに指を指している様子が映った。
「キャロ・ル・ルシエのフリードリヒはどうする。迂闊に外へ出せば騒ぎが起こるのは確実だ。」
「あ・・・・そうだった。」
はやては思い出したかのような表情をしながらヒイロが指を指している先にいるフリードリヒに視線を向ける。
白い翼膜を羽ばたかせているフリードリヒはキュクッと喉を鳴らしながら首を横に傾ける。どうやらこの状況を疑問気に思っているようだ。
「そっか・・・地球だと龍なんて普段いないから、外には出せないね・・。」
「え、そうなんですか?でしたら・・・留守番、ですか?」
フェイトが悩まし気な視線をフリードリヒに向け、キャロが確認するような口ぶりではやてに視線を向ける。
はやては一瞬だけ考え込むと、シャマルに視線を向ける。
「まぁ、シャマルに預かってもらうのが妥当なところやな。お願いしてもええか?」
「はいはーい♪それじゃあフリードはこっちでお留守番ね〜。」
シャマルがそういうとフリードリヒは何か抵抗するわけでもなくシャマルの元へと飛んで行った。
「シャマルさん、よろしいんですか?」
「ええ、もちろんよ。」
「じゃあ・・・よろしくお願いします。フリードもちゃんと大人しくしているんだよ。」
キャロが申し訳なさそうにシャマルに尋ねるが彼女はそれを顔を綻ばせながら快諾する。
「それじゃあ、各隊で二人一組組んだら捜索を開始や!!」
『了解っ!!』
なのはとフェイトを主導にして、各小隊で二人一組を組んだなのは達は順々にコテージから外へ出て行ったのだがーーーー
「・・・・・。」
ヒイロはなのは達が調査に行ったあともコテージの中でしばらく待機していた。彼の視線の先には閉じられた扉。
壁に寄りかかり、腕を組んでその扉の前で待っていると扉が突然勢いよく開かれ、部屋の中にいたはやてが飛び出してくる。その服装はプライベートで着るような私服姿ではなく、白のキャミソールの上に濃紺のジャケットを羽織り、黒いタイツの上にミニスカートを着こなし、肩からは手提げのバックを提げるという完全に外向けの服装をしていた。
「ご、ごめん!!待ったっ!?」
「・・・・問題ない。これはお前の事情だ。いくら時間がかかろうと俺はお前に着いて行くだけだ。」
そういいながらヒイロは組んでいた腕を解くとはやての側に立った。はやては自身の真横にいるヒイロの横顔を僅かに見上げる形で見つめる。
「・・・・・どうした?早く行くぞ。」
「えっ!?あ……う、うん!!ほな、早く行かなっ!!」
はやての視線に気づいたヒイロが視線を合わせるとはやてはなぜか顔を俯かせ、パタパタとヒイロの先を駆け抜けていく。どこか心ここにあらずといったはやての様子にヒイロは訝しげな視線を送りながらもそれを追いかけた。
(・・・・・何気なーくヒイロさんを同行させたんやけど・・・。これってどう見たってデートってやつに入るんちゃう・・・?)
火照った顔を頑張って鎮めようとするも一向に収まる気配が見えない。はやてが先を行き、ヒイロがそれを追いかけるという謎のシチュエーションが続くとシャマルがフリードリヒと戯れている玄関まで差し掛かってしまう。
はやての存在に気づいたシャマルが彼女の顔を見ると、その心情を察したのかーー
「あらあら〜♪はやてちゃん、頑張ってね♪」
「ちょ、シャマル!?そんなんやないからな!!いってきます!?」
心の底から嬉しそうな笑みを浮かばせながらはやてに向けてそういうと、はやては顔を真っ赤にしながら肩にかけていた手提げバッグの位置を直しながら玄関から出て行った。
「ちっ・・・・。先ほどから一体なんなんだ・・・!!俺に同行を指示したのははやて自身のはずだが・・・!!」
ちょうどはやてが出て行ったタイミングで遅れながらヒイロが玄関に来た。さながら逃げるように先を進んでいくはやての様子に不可解だと思いながらも彼女のあとを追う。
「ヒイロ君、はやてちゃんのこと、よろしくね。」
「・・・・・任務了解・・・!!」
シャマルの頼みにヒイロが語気を僅かに荒げながらそう返すと先に出たはやてを追いかける形で玄関から出て行った。
「・・・・うーん、ヒイロ君、思ったよりガードが硬そう・・・。これははやてちゃんはもちろんのこと、フェイトちゃんの方も大変そうね〜。まぁ、私としてはもちろんはやてちゃんを応援させてもらうけど、あなたはどう思う?フリードリヒ。」
そういいながらフリードリヒを抱えるシャマル。状況が理解できていないフリードリヒはキュクッ、と鳴きながら首を傾けるだけだった。
はやてを追って外へ出たヒイロ。シャマルからはやてのことを護衛任務として頼まれた以上彼女から目を離すわけにはいかない。そう思いながらコテージから出た瞬間に周囲を見回すが、すぐそこにはやてが突っ立っているのを視認する。
しかし、ヒイロからははやての背中しか見えず、その表情を伺うことはできない。
ヒイロは若干呆れた目をしながらはやてに近づいた。
「・・・・先ほどから様子がおかしいが、何か問題でも生じたか?」
そう声をかけるヒイロにはやてはすぐには返答はせず、一度大きく深呼吸をした。
その深呼吸に怪訝な顔をするヒイロだったがーー
「ううん。大丈夫や。さっきはごめんな。逃げるみたいに先に進んでしまって。」
先ほどとは打って変わって満面の笑みを浮かべているはやてにヒイロはその訝しげな視線を彼女にぶつける。しばらく見つめているうちにはやての顔からなにやら冷や汗のようなものが流れる。
それを見たヒイロはそれ以上の無言の追及をやめることにした。
「・・・・いくらお前が優秀な魔導師で豊富な魔力を保有していたとしてもその体自体はそこらの人間となんら変わりはない。だからそれほど離れるな。お前の護衛が極めて面倒になる。」
「う、うん。それは重々わかっとるから謝ったやろ?」
はやての言い草にヒイロが軽くため息を吐くと彼女の隣に立ち、僅かにヒイロより身長が低いはやてに向けて視線を下げる
「・・・・行くぞ。」
「・・・・うん。」
一悶着もありながらようやくヒイロとはやての足並みが揃った状態で歩き始める。
しばらくお互いに喋らない空間が広がるがーーー
「・・・・・・ほいっと。」
唐突にはやてのそんな声が響くとヒイロの腕に何かがまとわりついたような感覚が現れる。
そちらの方に視線を動かしてみれば、はやてがヒイロの腕に自身の腕を組ませている様子が目に入った。
「こうしとけば、あんまり離れへんやろ?」
「はっきりいうと腕が動かしづらいのだが。あとお前が忘れているとは思えないがーーー」
「・・・・主よ。一応、私もいますので・・・・。」
首に下げたデバイス状態のウイングゼロからアインスが申し訳なさげに顔を覗かせる。
アインスの存在をすっかり忘れていたのか、顔を真っ赤に染めて固まってしまうはやてだった。
「アインス。わかっているとは思うが、あまりウイングゼロから出てこない方がいい。」
「ああ。今の私のような半透明で小さい人間など、騒ぎの的でしかないからな。」
ヒイロの言うことはわかっていたのかアインスは納得している顔をしながらはやてを軽く見やるとそのままウイングゼロの中に戻っていった。
「・・・・行き先は?」
「・・・・えっ?」
「行き先はどこだと聞いている。」
惚けているようなはやての反応にヒイロが再度行き先の確認をする。はやては僅かに赤くなった顔をなんとか横に振り回すことで元の調子に戻すと、ヒイロに最初の行き先を告げる。
「まずは、花屋やな。何か、感謝の花言葉が入った花を買いたいんや。そんでもって最終的には海鳴大学病院。」
「・・・・花か。それであれば、薔薇やダリアが王道な部分か。色によってそれぞれ意味は違うが、少なくともどれかには入っていたはずだ。詳しい部分はそこの店員に聞いておけ。」
「薔薇かダリアか・・・・。」
ヒイロの説明にはやては考え込む仕草を浮かべ、歩きながらどの花にするかを決めようとしていた。
「判断はお前自身ですることだ。どういうルートで行くかもお前に任せる。病院などの主要な施設は10年程度で変わることはないと踏んではいるから問題はないが、一般的な店などはお前の方が知っているだろう。」
「そう、やな。うん、任せて。きっちりナビゲートしてみせるで。」
「・・・・そうか。」
ヒイロとはやては目的地を定めるとまだ日の高い海鳴市の街中を練り歩いていく。
なお、流石にアインスがいることを意識しているのか、はやてはヒイロの腕を離して、隣を歩くような形で付かず離れずの距離を保っていた。
海鳴大学病院への道を進んでいる途中、花屋が二人の視界に入り込む。
はやてが先に花屋に入店し、ヒイロも彼女を追うように店の中に入っていく。
店の中では色とりどりの花が売られており、それらの生み出す色のコントラストにはやては見入るように目を奪われていた。
「・・・・改めてこうしてみるといろんな花があるんやな〜。」
「何かお探しですか?」
視線を忙しなく動かしていたはやてに花屋の店員が声をかける。
「あ、えっと、花言葉で感謝って言う意味合いの花が欲しいんですけど・・・。」
はやての要望に店員は少々お待ちくださいというと店の中に飾られている花から二種類の花をはやての前に見せる。
一つはピンク色の薔薇。もう一つは白いダリアであった。
「おそらくウチで取り扱っているものと言えばこの辺りですが・・・。」
「どっちも綺麗やけど・・・薔薇はやっぱりありきたりかなー・・・。」
店員が見せている二つの花を吟味するはやて。少しすると納得したような表情を浮かべる。彼女の中でどちらにするかを決断したのだろう。
「白いダリアの方でお願いします。一応、花束として送りたいので、10本くらいをまとめて。」
「かしこまりました。」
店員が10本ほどのダリアを持っていくとカウンターでその花の包装作業を始める。
その店員の手慣れた作業で数分ほどで出来上がり、はやては自身の財布から取り出した代金を渡し花束を受け取る。
ちょうどそのタイミングで花束を受け取ったはやてのところにヒイロがやってくる。
二人揃って花屋から出たタイミングでヒイロが口を開く。
「白いダリアにしたのか。ダリアの花言葉には不確かだが裏切りというのも入っていたはずだ。渡す時には気をつけておけ。」
「え゛っ!?それは初耳やで!!」
「基本的には感謝で通じるはずだ。そこまで狼狽する必要はない。」
ヒイロの言葉にはやては僅かにむすっとした表情を浮かべるも買ってしまった以上、返品するのも憚られるため、そのまま海鳴大学病院へ向かうことにした。
その道中、ヒイロはふと気になったことをはやてに尋ねることにした。
「そういえば、石田とはどのような人物だ?医療に携わっている人間であることは察せてはいるが・・。」
「ああ、そっか。ヒイロさんは知らんかったね。石田先生は10年前、私が闇の書事件に関わっていたころの主治医の先生なんや。」
「・・・・・つまりはお前の下半身不随担当の医師か。中々運のない奴だ。魔法が関わっていたとは露にもおもってはいなかっただろうな。」
「まぁ、ね。表向きには私を不安にさせないためにずっと笑顔を作っておったんやろな・・・。ホントは原因不明の私の麻痺をどうにかしようと躍起になっとったんやろうけど。」
そういいながらはやてはどこか懐かしむような笑みを浮かべる。その笑顔はさながらこれから会うであろう石田という医師に感謝をしているようにも思えた。
しばらく10年経っていてもさほど変わらない海鳴市の街中を歩いていくとふとしたタイミングでヒイロは見たことのあるエントランスが視界に入る。
患者が雨に晒されないように大理石の天井で覆われた入り口から視線を外すとすぐそばにあった大理石の石碑に海鳴大学病院の名前が刻まれてあった。
「・・・・ここに来るのもだいぶ久しぶりやなー。」
先を行くはやてを追うようにヒイロは病院の中に入っていく。受付の人間が患者の名前を呼ぶ声と同時に病院特有の薬品の匂いがヒイロの鼻を突く。
「すみません、石田先生はいらっしゃいますか?少しお話しがしたくて来たのですが・・・。」
はやてが受付に声をかけると「失礼ですが、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」と尋ねてくる。
「八神。八神はやてといいます。」
はやての名前を聞いた受付は手元にあった受話器を取るとどこかに電話を繋げる。
院内回線を使って石田という医師を呼び出しているのだろう。
少しすると受話器を置いた受付が再度はやてに視線を移す。
「今いらっしゃいますのでそこで少しお待ちください。」
そういいながら受付の誘導に従い、ヒイロとはやては揃って待合室のソファに腰掛ける。
しばらくすると、病院の待合室に六課隊舎でシャマルが着ていたような医療用の白衣を身につけた青紫色の髪をショートカットにした四十代ほどの妙齢の女性が現れる。
ヒイロが視界の端に映った彼女に視線を向けようとした瞬間ーー
「あっ!!石田先生!!」
待合室のソファから立ち上がったはやては嬉々とした表情を浮かばせながら、先ほど待合室に現れた女性の元へと駆け寄っていく。
そのはやてが駆け寄っていった女性こそ、闇の書事件中、彼女の主治医をやっていた石田先生なのだろう。はやての声に気づいた石田先生は驚きに満ちた表情をしながら彼女を出迎える。
「はやてちゃん!!突然連絡来た時びっくりしちゃったわよ!!」
「すみません、急に訪ねて来てしまって。仕事の途中、たまたま海鳴市の近くまで来たものでしたから、せっかくと思って来たんですけど・・・。」
「ううん、そんなことないわ。それにしても見違えるみたいに綺麗になったわねー。今何歳だったかしら?」
「え、えっと、19歳です。」
「そっかー。まだ9歳で小さかったあなたがもう二十歳になっちゃうのねー・・・。時間ってやっぱり流れるのが早いわねー。」
うんうん、と唸るように頷く彼女にはやては苦笑いを浮かべる。
ヒイロはその二人の仲睦まじい会話に混ざるつもりは毛頭なく、離れたところで様子を見ていた。
「あ、石田先生、これ。いつもの感謝の気持ちを込めてダリアを買ってみたんです。花言葉はそのまま感謝なんですけど・・・・。」
そういいながらはやては石田先生に白いダリアの花束を渡した。それを受け取った彼女は嬉しそうな顔をしながらダリアの花束をまじまじと見つめる。
「すっごい綺麗ね・・・!!ありがとう、大切にするわね。」
石田先生からのお礼の言葉にはやても彼女が浮かべている表情と同じような笑顔を浮かべる。
「・・・・・ところで、そこの彼は貴方の彼氏?もしそうだとすれば、貴方も中々隅に置けないわね〜。」
「ぶはっ!?」
「・・・・?」
これまで一言も話していなかったヒイロだったが、石田先生からヒイロの関係性を聞かれ、会話に参加せざるを得なくなってしまう。また質問というか爆弾を投下されたはやては思わず吹き出しながらあわあわと忙しない様子でうろたえる。
「い、いや、彼はあくまで付き添いというか同行を頼んだというか、なんというか・・・!!」
「あらあら〜♪なら、そういうことにしておくわね。」
完全に手玉に取られ、顔を赤くしているはやてを尻目に石田先生は病院の柱に寄りかかっているヒイロに視線を向ける。
「この子のこと、よろしく頼むわね。」
「・・・・元々、周りからもそう頼まれているので。」
「・・・・・え?」
石田先生に声をかけられたヒイロは普通に返した。返したのだが、その言葉が敬語だったのだ。
ヒイロの口からついぞ出ることのないと思っていた敬語に思わずはやては素っ頓狂な表情を浮かべる。
「それじゃあ、私はそろそろ時間だから。また来てね。いつでも応じるから。」
「あ、は、はい!!お忙しい中ありがとうございました。」
それを最後ににこやかな笑顔をしながら病院の奥の自身の職場へと戻っていった。
彼女を笑顔で送ったはやてはヒイロの方に視線を移した。
「・・・・・なんだ?」
視線を向けるだけ向けて、何も話しかけてこないはやてにヒイロは訝しげな視線を送る。
「え、いや、ヒイロさん、敬語使うんやなって・・・・。」
「・・・・俺とて必要であれば敬語で話す。今回はその必要性を感じたから使っただけだ。それで、当面のことは済んだが、ほかに寄らねばならない場所はあるのか?」
「・・・・あ、一箇所思い出したわ。本屋に寄れるか?」
「了解した。」
海鳴大学病院を後にした二人はその道すがら本屋へと足を運んだ。
その中で商品棚を見て回る。その本が売られている商品棚には表紙がメルヘンチックな絵が描かれている本ーーいわゆる童話が置かれている棚であった。
「・・・・こんな本を眺めてどうするつもりだ?」
「えぇっと、確かここら辺に・・・。あ、あったあった。」
ヒイロが尋ねるもはやてはそのタイミングで目当てのものを見つけたのか商品棚からその目当ての本を手にした。
ヒイロがそのはやてが手に取った本を目にさせてもらうとそこには『白雪姫』の文字があった。
「・・・・なぜそれを手にした?」
「まぁ、ちょっと訳ありでな。そのうちヒイロさんにもちゃんと話す。」
そういったはやての目は真剣そのものであった。どうやらかなり込み入ったことであるのは確かなようだ。ヒイロはそのはやての目を見ると、すぐに視線をほかのところへ向ける。
「・・・了解した。深く詮索はしない。」
「・・・ありがとな。」
そういって、はやては手にした白雪姫の本をレジへと持っていった。会計の様子を見ているとはやてから支給されたヒイロの携帯がバイブ音を鳴らした。
何事かと思い、携帯の画面をつけるとフェイトからのメールが1通届いていた。
『こっちはあらかた捜索は終わったからコテージに戻るんだけど、なのは達と合流するために翠屋を集合場所にしたんだけど、ヒイロさん達も用が済んだら来ない?』
という文章がメールの中に書かれてあった。はやてにそのことを伝えようと視線を向けるとちょうど会計を済ませたのか、はやてがヒイロに向かって歩いてきていた。
「はやて、フェイト達の捜索があらかた済んだ。翠屋を集合場所にしているとのことだ。」
「ん、わかった。私たちも行こか。あとはなんもなかったはずやし。」
「了解した。」
携帯をポケットにしまうとヒイロははやてと共に市街を再び歩き始める。行き先はなのはの実家である翠屋だ。
しばらくウイングゼロは出番がねぇなこれぇ・・・・。
ウイングゼロ「え、自爆?自爆しちゃう?」
アインス「ひっついている私が瞳孔をかっぴらいた状態で地面に叩きつけられるからやめて。」