魔法少女リリカルなのは 〜オーロラ姫の凍りついた涙は誰のために〜   作:わんたんめん

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第44話 ホテルアグスタでの戦闘

煌びやかなシャンデリアといった照明がフロアを照らし、その場の雰囲気を高貴なものへと変貌させる。

ヒイロはそんな色とりどりのスーツやドレスを身にまとった、いかにもその懐に札束を忍ばせていそうな連中が闊歩する空間の中を管理局員の制服である濃い茶色のスーツを着て練り歩いていた。

 

その建物の名は『ホテル・アグスタ』

 

今回の任務である安全性が証明されたロストロギアをオークションという形で売りに出される会場であるホテルだ。

ヒイロは周囲を見回るように歩いていたがふとしたタイミングでホテルの間取り図が描かれた看板を見つけるとその前に陣取り、ホテルの全体図の確認をする。

 

(・・・・一番手薄になりそうなのは裏手の荷物搬入口か。建物の立ち位置と周囲の環境を照らし合わすと、そこが隠れやすい森に一番近く、侵入口になりやすいな。)

 

間取り図をみたヒイロが侵入口になりやすい場所を見抜くと、そこの警備を行うために荷物搬入口に向かおうとする。

 

「ヒイロ、高町から念話が来ているのだが・・・・。」

「何か問題でも生じたか?」

 

その最中アインスがなのはからヒイロ当てに念話で連絡が来ていることを伝えられる。ヒイロはその報告を歩きながら確認しようとする。

 

「いや、そういうわけではないのだが・・・。なにやら来て欲しいとのことだ。」

「確か・・・・なのは達はシャマルと共に更衣室に向かっていたな。」

 

ヒイロ達がここに来る途中、シャマルがなにやらケースを持ち歩いていた。その中身を聞いてみたところ、シャマルは隊長達の仕事着だというだけでケースの中身を伺うことはできなかった。

服といった以上、おそらくこのパーティーで変に目立たないようにするためのドレスかそのあたりだとは目星はつけていた。

 

「・・・・理由は分からんが、ひとまず向かうとする。オークションが始まるまでの時刻はまだ余裕はあるはずだな?」

「ああ、まだ30分はある。一度主達のところへ向かってもさして問題はないだろう。」

 

大したことではないなら速攻で警備に戻ることを決めるとヒイロはなのは達の元へ向かう。

 

「あれは、ティアナ達か。」

 

更衣室の近くまで来たところでヒイロはティアナ達FW陣の四人の姿を目にする。

ヒイロの呟きが耳に入ったのか、不意にスバルが振り向き、ヒイロを視界に入れるとどこか驚いたような表情を浮かべる。

 

「あれ、ヒイロさん?どこにいっていたんですか?」

「ホテルの内部構造を把握したところになのはから連絡が届いた。何用だかは全く知らないがな。」

 

「あ、ヒイロさん!」

 

スバルに自身がここに来た理由を述べたところに更衣室から出てきたなのはがヒイロを呼ぶ。

パーティーの雰囲気に合わせるためなのか、なのははいつもの管理局の濃い茶色の制服ではなく、赤とピンクの二色を基調としたドレスに首からレイジングハートと思われる赤い宝石をぶら下げていた。

そしてそれなりに見慣れたサイドポニーテールを解いて、その綺麗な茶髪をストレートに下ろしていた。

 

「・・・・・何か問題でもあったか?」

「え゛っ?いや、そういう訳じゃないんだけど・・・・。」

「・・・・何か用がないのに呼ぶな。俺は警備に戻る。」

 

ヒイロの発言になのはが僅かに顔をひくつかせていた様子を見て、何も問題が発生したわけではないことを察すると踵を返して警備任務に戻ろうとする。

 

「ちょちょ、待って、待ってってば!!フェイトちゃぁーん!!はやてちゃぁーん!!早く来てーー!!!」

 

立ち去ろうとするヒイロの手をなのはが咄嗟に掴んでその場から立ち去らない様に引き止める。

ヒイロは突然なのはに腕を引かれたことに訝しげな視線を送りながら無言で睨みつける。

 

「なのは・・・?突然大声出してどうしたの………?って、ヒイロさんっ!?なんでここにいるんですか!?」

「私が呼びました!!」

 

なのはの大声に気づいたのか、フェイトとはやてが顔を覗かせる。ヒイロがなぜここにいるのかをフェイトが顔を赤くしながら聞くとなのはがキリッとした表情を浮かべながら親指を立ててサムズアップする。

 

「ねぇ、ヒイロさん。何か言うことはあるじゃないんですか?特にフェイトちゃんとはやてちゃんに。」

「・・・・お前は一体俺に何を求めているんだ・・・?」

 

なのはの言葉にヒイロはまるで意味がわからないと言った様子でフェイトとはやて、そしてなのはの姿を見つめる。

なのはは自身の求めていることをヒイロが全く理解していないことを察するとわざとらしく頰を膨らませて、ヒイロに抗議していることを露わにする。

 

「いやいやいや、なのはちゃん、流石にあかんって・・・。ヒイロさんを困らせたらダメやって・・・・。なぁ?フェイトちゃん、アンタもそう思うやろ?」

 

はやてが乾いた笑みを浮かべながらヒイロにひっついているなのはをやんわりと引き剥がしにかかると同時にフェイトに視線を向けながら彼女に同意を求めたのだが………。

 

「ヒイロさん・・・・その……どう、かな?このドレス。似合って……ますか?」

 

フェイトははやての予想に反してヒイロに自身が来ているドレスを見せつけるように裾を指で摘まみ上げ、広げるとそのままその場でひらひらとはためかせる。

彼女の真っ直ぐに下された金糸のような髪とは正反対ともいっても過言ではないような妖艶さを備えた紫色のドレス。

かといってフェイトの表情にそのドレスのような妖艶な表情はなく、どこか恥ずかしそうに頰を赤らめ、初々しさを前面に押し出していた。

 

その妖艶さと初々しさのギャップの破壊力はそのような女性に対しての耐性がないエリオが真っ赤になるのは仕方ないとして同性であるスバルやティアナ、そしてキャロまでが思わず頰を赤らめるレベルであった。

 

異性はおろか同性ですら魅了されているフェイトのドレス姿にヒイロは変わらずの無表情でその姿を見ていた。

ヒイロに見られているという気恥ずかしさか、はたまた何も感想を述べてくれない不安からかモジモジと落ち着かない様子でヒイロの言葉を待った。

 

「・・・・似合ってはいる。」

「ほ、ホントですかっ!?嬉しい……!!」

 

ヒイロからそう言われたフェイトは嬉しそうな表情を浮かべるとヒイロの言葉を心の中で反芻しているのか、ピョンピョンとその場で跳ねながら喜びを露わにする。

 

そのフェイトの様子をどこか羨ましげな視線で見つめている人物がいた。

 

(・・・・・いいなぁ。)

 

先ほどヒイロに感想の催促をしていたなのはを止めようとしていたはやてだった。

最初はヒイロにドレスを着た自分の感想など、求めるつもりはなかった。あまりそういう感想とかを言うイメージの湧かないヒイロに無理やり言わせるのは気が引けていたからだ。

だが、いざフェイトが勇気を出して聞いてみれば、彼はたった一言だけ、それでいてしっかりと感想を言ってくれたのだ。

 

自分もドレスに対するヒイロからの感想がほしい。だが、はやての部隊長としてのプライドと一度止めにかかった事実が手のひらを返してヒイロに感想を求めるなど、なんと都合のいい考え方なんだと、はやての心中を苛む。

 

「・・・・・・白に薄い青がコンセプトのドレスか。薄い白のレースは透明感を如実に感じさせる。」

「え・・・・?」

 

ヒイロが不意に言葉を零すと思わず自分の着ているドレスに視線を移す。自分が着ているのは確かに白と青が混じった薄い水色のドレスだ。

ヒイロの口からそれの言及があったということは、話題を自分のドレスにしてくれているのだ。他ならぬヒイロ自身から。

 

「・・・・お前らしい色合いだ。似合っている。」

「っ………あ……あり………がとう………。」

 

不意打ちにも等しいヒイロの感想にはやては顔を俯かせ、その表情を伺えないようにする。

だが、耳まで真っ赤になっているのを鑑みるに彼女の顔は湯気が出そうなほど真っ赤になっているだろう。

なのはもヒイロの感想に満足したのか引き止めていた手を離していた。

ヒイロはそれを確認すると再び踵を返し、自身の任務へと戻っていった。

 

「ず……ずるい………!!!ずるい人やでヒイロさん……!!反則や、反則以外のなにものでもあらへん………!!完全な不意打ちや………!!」

 

ヒイロが立ち去った後、はやては真っ赤になっている顔の熱りをなんとか冷まそうとする。

しかし、いつまで経っても顔の熱りは収まらないどころか、心臓の鼓動は爆発的に加速し、さらに口角まで釣り上がりを始め、とても他人には見せられないような緩みきった表情になっていく始末であった。

 

「え、えへへー………はっ!?」

 

表情が緩みきったからこそ出てしまう声にはやては思わずやってしまったような顔をしながら先ほどまで俯かせていた顔をバッとあげる。

願わくば周りが聞いていないことを願っていたが、なのはとシャマルは暖かい笑みを浮かべ、FWの四人は顔を揃いも揃って真っ赤にしながら呆然とはやてを見つめ、フェイトはどこかムッとしたような顔を浮かべていた。

 

「…………わ、忘れてぇぇぇぇぇーーー!!!!」

 

恥ずかしさのゲージがカンストしたはやてはその羞恥のあまり大声で叫んだ。

その後、はやての知り合いである管理局の本局査察部所属のヴェロッサ・アコーズ査察官がはやて達を訪ねてきたのだが、はやての先ほどの絶叫を聞いていたのか、そのことに関して滅茶苦茶いじられたのはまた別の話。

 

 

「・・・・・・?」

 

ヒイロははやての絶叫自体を耳にはしていたが、声の感じ的に危険な目にあっているわけではなさそうだったため、振り向くだけでそのままスルーした。

ホテルの二階と一階を繋ぐきらびやかな螺旋階段を降り、荷物搬入口に向かう。

その荷物搬入口に向かっている途中、ヒイロが曲がり角を曲がろうとした時ーー

 

「あれ………君、もしかしてヒイロさん?」

 

名前を呼ばれたヒイロが声のした方向に視線を向けるとそこには濃い緑色のスーツを着た青年が立っていた。胸元に花の衣装が施されたブローチがあることからおそらくオークションの参加者なのだろうと思っていたのだが、ヒイロの名前を知る人間は10年経ったミッドチルダではかなり限られる。

そして、視線を上に向けると映り込むとが、まだ幼気な印象が抜けていないあどけない顔立ちに腰まで伸ばしたブロンドの髪を緑色のリボンで纏め、頭部から二本の癖っ毛のようなものが跳ねていた。

 

「・・・・・ユーノか。」

「ほ、本当にヒイロさんなんだね!?」

「ああ、そうだが。なのは辺りから何も聞いていないのか?」

「き、聞いてはいたけど、やっぱり現実味がなかったというか、なんというか………!!」

 

声をかけた人物が本当にヒイロであったことを確認した青年ーーユーノ・スクライアは嬉しそうな笑みを浮かべながら彼に近づく。

 

「で、お前が何故ここにいる?六課に所属しているわけではないだろう。」

「うん。僕は魔導師ではあるけど同時に考古学者でもあるんだけど。君がいなくなってから・・・だいたい6年くらい後かな?その時に無限書庫の司書長に就任してね。それからはずっと書庫ごもりなんだけど、今回売りに出されるロストロギアの説明にお呼ばれしてここにいるんだ。」

「無限書庫の司書長・・・・。要はお前に聞けば管理局についてのだいたいのことを知ることができるわけか。」

「・・・・・何か探し物?」

 

ヒイロの言葉に何か感じるものがあったのか、ユーノは先ほどまでの和やかな表情から一転してキッとした表情に変わる。

 

「・・・・・この会場の護衛任務が済んでからでいい。そろそろオークションが始まる筈だ。説明役を請け負っている奴が遅れては面目が立たないだろう。」

「そ、そうだね。ごめんね、引き止めちゃって。」

「気にするな。」

「それじゃあ、また後で!!」

 

ヒイロからの指摘を受けて、ユーノは時間がないことに気づいたのか慌てた様子でホテルのホールへと向かっていった。

ユーノがホールへと向かっていく後ろすがたを見送ったヒイロは再度、その足をもっとも敵が侵入しやすいと思われる荷物搬入口へと向かわせる。

 

 

「管理局、機動六課所属の者だ。ここの警備を請け負っている。通っても問題はないな?」

「ご苦労様です。」

 

搬入口には警備員がいたが、ヒイロが管理局の者だと伝えると警備員は特にヒイロの素性を尋ねるわけでもなく普通に搬入口に通してくれた。

 

「・・・アインス、ウイングゼロのレーダーに反応があればすぐに知らせろ。」

「了解。そちらは任せてくれ。お前は肉眼でよろしく。」

「ああ。」

 

ヒイロはアインスにレーダーの監視を頼むと搬入口の入り口に立ち、周囲を警戒する。

今のところは肉眼では異常は見られない。

 

「ヒイロ、シグナムから念話だ。」

「わかった。」

 

アインスからシグナムから連絡が来ていることを伝えられるとヒイロはウイングゼロを展開する。ヒイロにはリンカーコアがないため、念話を受け取ることはできないが、ウイングゼロの通信機能を利用して受け取れる形にはなっている。

 

『ん・・・ヒイロか?私の声が聞こえるか?』

「問題ない。どうかしたのか?」

『いや、お前に裏手の搬入口の警備を頼みたいのだが・・・』

「それであれば、既にそこの警備についている。この搬入口が一番侵入しやすいのは間取り図を見れば目に見えているからな。」

『そうか・・・。流石だな。それと有事の際には私やヴィータ、そしてザフィーラは前に打って出る。FW四人にホテル近辺を任せてはいるが、いかんせん彼女らは防衛戦は初めてだ。お前の方で援護が必要だと感じたら向かってくれ。』

「了解した。」

 

ヒイロはシグナムとの念話を切ると再び周囲の警戒を強める。時間的にオークションが始まっているだろう。

しばらく搬入口付近で警備に当たっていたヒイロ。このまま何事もないまま時間が過ぎていくと思った矢先だったがーーー

 

「ヒイロ!!周囲に金属反応が出た!!リニアレールで破壊したものと同タイプの集団だ!!」

『ヒイロ君、搬入口の方にガジェットが現れたわ。数は少ないけど、迎撃をお願い。』

「・・・・表の防衛はどうなっている?」

 

アインスと屋上から全体の指揮を取っているシャマルから同タイミングでガジェットの襲来を告げられる。

ヒイロは両方とも聞き届けながら、シャマルにシグナム達やティアナの状況を尋ねる。

 

『表の方にもガジェットは出たけど、シグナムやヴィータ達が頑張っているから、今のところは大丈夫。』

「了解した。これより迎撃行動に移る。」

 

シャマルからそう言われたヒイロは主翼の根元の連結部分からビームサーベルを引き抜き、ガジェットと思しき金属反応が接近してくる方角にその切っ先を向ける。

 

「接敵まで3………2………1………来るぞっ!!」

 

アインスのカウントダウンがゼロを告げると同時に森の中から楕円形の1メートルほどの大きさのガジェットーーいわゆるⅠ型が姿をあらわす。数はおよそ10機ほどだろうか。

 

「アインス、俺の視界にいる奴以外にガジェットの反応は?」

「ヒイロの視界にいる奴らで全部だ。」

「・・・・手早く制圧する。」

 

ヒイロはウイングゼロの主翼を羽ばたかせ、上空からガジェットに肉薄する。ガジェットは空へ羽ばたいたヒイロに向けて中心と思われる黄色い部分からレーザーを発射する。

それをヒイロは的になりやすいウイングゼロの翼を自分を覆うように閉じると回転しながらガジェットの放つ弾幕を突破する。

 

「その程度であれば、まだモビルドールの方がよく動くだろうな。」

 

弾幕を突破したヒイロがガジェットとの距離を詰めると手近な場所にいたⅠ型にビームサーベルを振り下ろす。避けられないと判断したのか、Ⅰ型は何か膜のようなものを自身の周囲に展開したが、ビームサーベルはそれをⅠ型もろとも叩き斬った。

 

「・・・・今のが噂のAMFか。使い方によってはかなり強固な対魔力バリアになっただろうが、相手が悪かったな。」

「ウイングゼロならばAMFの干渉を受けることはない。そのままやってくれ!!」

「・・・了解。このまま殲滅する。」

 

 

アインスの言葉にそう答えるとヒイロは再度別のガジェットⅠ型に接近する。

集団ならまだしも、ヒイロに接近戦に持ち込まれ、ろくな近距離武装を持たないガジェットⅠ型は次々とビームサーベルにより溶断されていき、最終的には全てのガジェットが縦や横に真っ二つにされ、自身の爆発により、構成されている部品一つすら残さずに爆散する。

 

「残存している反応はなし・・・制圧完了だな。」

「あくまで搬入口に来た敵を倒しただけだ。まだこのホテル敷地内全域の戦闘が終わったわけではない。シャマル。裏手搬入口に来たガジェットの殲滅を確認した。シグナム達やスバル達はどうだ?」

『早いわね・・・・。うん、わかったわ。シグナム達も攻めてきたガジェットを押しとどめてはいるからそのまま搬入口の警戒をお願い。必要だと感じたら、私から指示を出すわ。』

「了解。そのまま搬入口の警備を続ける。」

 

シャマルから搬入口の警備を続けることを頼まれたヒイロはそのまま周囲の警戒を続ける。

 

 

 

 

ホテルからかなり離れた森の中に二人の人間が立っていた。片方はかなり大柄で長身の男。その男の頰はやや痩せこけており、とても健康的だとは見えないが、彼が着ている服の上からでもわかるほどの筋肉質な体つきに左手に付けられた金属の腕甲から彼が戦う戦士であることを感じさせる。

そんな腕甲を付けている男の左手と手を繋いでいる人物がいた。

 

「『ルーテシア』、いいのか?スカリエッティとはレリック以外のことではお互いに不干渉のはずだが。」

 

大柄な男からルーテシアと呼ばれたまだ幼い薄い紫色の髪を持ち、額になんらかの刻印が刻まれた少女が首を縦に振り、頷いた。

僅かに肩をすくめる大柄な男を尻目にそのルーテシアは男の元から離れると、彼女がつけていた手袋の宝石が怪しく紫色に発光すると、彼女の足元から魔法陣が現れる。

 

「インセクト・ズーク」

 

ルーテシアがそう言葉を紡ぐと魔法陣から毒々しい触手が伸び、その触手を突き破るように虫のような羽音を響かせながら小さな召喚獣が姿をあらわす。

 

「遠隔転送………。」

 

インセクト・ズークがホテルに向かって羽ばたいていくのを見届けたルーテシアは続けざまに魔法陣を展開し、転送魔法を発動させる。

 

 

 

 

『ヒイロ君!!今からホテル入り口に向かってくれる!?』

「了解した。搬入口にもあれ以降、敵の接近はない。が、何かあったのか?」

『ホテルの入り口にガジェットが直接転送されてきたの!さらに言えば、動きが今までのとは違うわ!!おそらく、本命!!』

「わかった。すぐさまそちらに向かう。」

『お願い!!スバル達が苦戦しているの!!ヴィータちゃんも向かっているけど、距離的にあなたの方が早いわ!!』

 

シャマルからの指示を聞いたヒイロはウイングゼロの主翼を羽ばたかせ、ホテルの正面に転送されたガジェットの撃破に向かう。

裏手とホテル入り口はさほど離れていないため、すぐにホテル正面のエントランスが視界に入ってくる。

そこではスバル達FW四人がガジェットと戦闘を行っていた。全員から行った怪我は負っていないようだったが、どことなく表情には疲れのようなものが見える。

ちょうどヒイロが視界に捉えたのは、ガジェット群に向かって単騎でクロスレンジを仕掛けるスバルと離れたところでティアナがクロスミラージュを構え、狙いをガジェットの集団につけている様子だった。

おそらく、スバルがガジェットを引っ掻き回しているところをティアナの誘導弾で仕留めるつもりなのだろう。

 

そう思っていたのだがーーーー

 

「っ………!?無茶だ!!そんなこと!!」

 

唐突に声を荒げたのはアインスだった。その瞬間、ティアナのクロスミラージュの魔力の光が爆発的に上がったように見えた上にティアナの周囲に無数の魔力スフィアが現れる。

 

「どういうことだ?」

「ティアナが、カートリッジを四発も使った………!!普通ではありえない使用量だ、最悪、魔法の制御が利かなくなる!!」

 

アインスの言葉を聞いて、ヒイロはティアナの制止にかかろうとするがーーー

 

「ああああああっ!!!!」

 

ヒイロがティアナに駆け寄るより早く、はちきれんばかりの雄叫びをあげながらティアナがクロスミラージュの引き金を連続で引いた。

弾丸として放たれた魔力スフィアは回避行動をとるガジェットを悉く撃ち貫いていく。そのまま行けば何事もないように思えたが、ヒイロには見えていた。

 

囮を務めていたスバルの後ろからティアナの放った弾丸が迫ってきていることに。

後ろから飛んでくる狂弾にスバルは気づいている様子は微塵も見えなかった。

 

「アインスっ!!!」

「っ………わかった!!」

 

ヒイロが声を荒げながらアインスの名前を呼ぶと、ウイングスラスターを蒸し、通常のウイングゼロのスピードでスバルに接近する。普通であれば、ウイングゼロの加速力により、空気はかまいたちのような鋭利な刃となってヒイロを切り刻むはずなのだがーーー

 

その時のヒイロの身は、漆黒の魔力光をその身に纏わせていた。

 




始まりましたアグスタ編。といっても多分そんなに話自体は続かないと思いますが………(白目)

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